先日大学の授業で,言語における借用 borrowing とは何かという問題について,特に借用語 (loan_word) を念頭に置きつつディスカッションしてみた.以前にも同じようなディスカッションをしたことがあり,本ブログでも「#44. 「借用」にみる言語の性質」 ([2009-06-11-1]),「#2010. 借用は言語項の複製か模倣か」 ([2014-10-28-1]) などで論じてきた.今回あらためて受講生の知恵を借りて考えたところ,新しい洞察が得られたので報告したい.
語の借用を考えるとき,そこで起こっていることは厳密にいえば「借りる」過程ではなく,したがって「借用」という表現はふさわしくない,ということはよく知られていた.そこで,以前の記事では「複製」 (copying),「模倣」 (imitation),「再創造」 (re-creation) 等の別の概念を持ち出して,現実と用語のギャップを埋めようとした.今回のディスカッションで学生から飛び出した洞察は,これらを上手く組み合わせた「参考にした上での造語」という見解である.単純に借りるわけでも,コピーするわけでも,模倣するわけでもない.相手言語におけるモデルを参考にした上で,自言語において新たに造語する,という見方だ.これは言語使用者の主体的で積極的な言語活動を重んじる,新言語学派 (neolinguistics) の路線に沿った言語観を表わしている.
主体性や積極性というのは,もちろん程度の問題である.それがゼロに近ければ事実上の「複製」や「模倣」とみなせるだろうし,最大限に発揮されれば「造語」や「創造」と表現すべきだろう.用語や概念は包括的なほうが便利なので「参考にした上での造語」という「借用」の定義は適切だと思うが,説明的で長いのが,若干玉に瑕である.
いずれにせよ非常に有益なディスカッションだった.
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