昨日「英語史導入企画2021」に公表されたコンテンツは,大学院生による「意味深な SIR」でした.伝統的な英語学・英語史研究では,呼びかけ語 (vocative) は周辺的な話題にとどまり,主要な調査対象とはなり得ないとみなされてきました.しかし,(歴史)語用論の台頭により,今では重要な研究テーマととらえられています.今回のコンテンツは,男性に対する敬称 (honorific) の呼びかけ語 sir (と対応する女性版の madam)について,歴史語用論の観点から紹介するものです.呼びかけ語の歴史を追究する魅力に気づいてもらえればと思います.
コンテンツ内で,日本の学校での英語の授業で,英語で学生を呼ぶときにどのような敬称を使うのがふさわしいかという悩みが綴られています.確かに難しいですね.伝統的かつ典型的には Mr. や Miss (or Mz.?) でしたが,昨今様々な事情で使いにくくなっています.私個人としては日本語由来の san 「さん」の使用がふさわしいと思っており,一般の英語使用においても,もっと流行ってくれればよいと期待しています.敬称としての san は,OED でも san, n.3 として見出し語が立てられており,今やれっきとした英単語です.
A Japanese honorific title, equivalent to Mr., Mrs., etc., suffixed to personal or family names as a mark of politeness; also colloquial or in imitation of the Japanese form, suffixed to other names or titles (cf. mama-san n.).
When suffixed to a female personal name, and in more polite endearment, san is often coupled with the prefix O- (see quot. 1922).
1878 C. Dresser in Jrnl. Soc. Arts 26 175/1 Mr. Sakata, or, as they would say Sakata San, who was appointed..as one of my escort through Japan.
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1922 J. Joyce Ulysses ii. xii. [Cyclops] 313 The fashionable international world attended en masse this afternoon at the wedding... Miss Grace Poplar, Miss O Mimosa San.
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1972 J. Ball Five Pieces Jade xiv. 188 It would make me the greatest pleasure, Nakamura san.
san は,大学の同僚等,日本(語)事情に精通した英語母語話者と英語で話すときには,ごく普通に使えます.老若男女問わず一般的に利用できる敬称でもあり,その点でも都合がよいのです.これがもっと国際的に流行ってくれれば,単語としても語用としても,日本語からの大きな貢献になるだろうと思っています.
なお,日本語の「さん」自体は,敬意の高い「さま」の短縮した異形で,その点でも敬意が高すぎず低すぎずちょうどよい位置づけにあります.一方,もっと転訛した異形「ちゃん」は愛称形 (hypocorism) ですね.
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