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greek - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-07-02 08:49

2010-09-25 Sat

#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から [greek][emode][loan_word][history][lexicology]

 英語にギリシア語からの借用が多いことは,「現代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-11-14-1]) やその他のギリシア語に関連する記事 (greek) で触れてきた.ギリシア借用語の多くはラテン語やフランス語を経由して入ってきており,中世以前はこの経路がほぼ唯一の経路だった.
 しかし,15世紀になるとギリシア文化が直接西ヨーロッパ諸国に影響を及ぼすようになった.というのは,この時期に大量のギリシア語写本がイタリア人によって Constantinople から西側へもたらされたからである.さらに1453年にオスマントルコにより Constantinople が陥落すると,ギリシア文化の知識も西へ逃れてくることになった.

The possibility of direct Greek influence on English did not arise, however, until Western Europeans began to learn about Greek culture for themselves in the fifteenth century. (This revival of interest was stimulated partly by a westward migration of Greek scholars from Constantinople, later called Istanbul, after it was captured by the Ottoman Turks in 1453.) (Carstairs-McCarthy 101)


 続く16世紀にはギリシア語で書かれた新訳聖書の原典への関心から,イギリスでもギリシア語が盛んに研究されるようになった.16世紀前半には Cambridge でギリシャ語を講義した Erasmus (1469--1536) が原典を正確に読むという目的でギリシア語の発音を詳細に研究したが,聖書の言語にあまりに忠実であったその研究態度が,口頭の伝統に支えられてきた保守派の学者の反発を招き,ギリシア語正音論争を巻き起こした.ギリシア語への関心が宗教や政治の世界にまで影響を及ぼしたことになる (Knowles 67--68) .
 [2009-08-19-1]で示したように初期近代英語期にギリシア語の借用語が着実に増加していった背景には,上記のような歴史的な事情があったのである.

 ・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002. 134.
 ・ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.

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2010-09-20 Mon

#511. Myrmecophaga tridactyla [scientific_name][latin][greek][morphology][combining_form][lexical_stratification]

 我が家の近所の江戸川区自然動物園は,入園無料にもかかわらず驚くような動物を飼育している.ペンギン,オタリア,レッサーパンダ,そして今年6月にはオオアリクイのアニモ君が沖縄の動物園から引っ越してきた(ようこそ アニモ!!).オオアリクイは日本では全国の動物園をあわせても15頭といない稀少動物で,世界的にも絶滅のおそれがあるという.

Giant Anteater Giant Anteater Info

 上の説明にあるとおりオオアリクイは英語では giant anteater,学名は Myrmecophaga tridactyla である.学名 ( scientific name ) は動植物につけられた世界共通の名前で,ラテン語の形態規則にならって名付けられることになっている.一方,「オオアリクイ」や giant eater は言語ごとの通俗名 ( common name ) であり,日本の場合には和名とも呼ばれる.学名に用いられる語幹は当然ラテン語のものが多いが,ラテン語はギリシア語から大量に語彙を借用しているので,結果として学名にはギリシア語の語幹が含まれていることが多い.Myrmecophaga tridactyla もすべてギリシア語の語幹からなる学名である.
 [2010-05-19-1]の記事で英語語彙の三層構造を話題にした.英語語彙はおおまかにいって (1) 英語本来語,(2) フランス語・ラテン語,(3) ギリシャ語の3階層 ( trisociation ) をなしている.類似した意味であっても由来によって複数の語が英語に存在するのはこのためである.(1) から (3) に向かってレベルが高くなり,堅苦しい響きになってくる.[2010-05-19-1]で3層語 ( triset ) の例として「蟻」を挙げた.英語本来語は ant,ラテン借用語は formic-,ギリシア借用語は myrmec- である.
 属名 Myrmecophaga 「オオアリクイ属」は myrmec(o) 「蟻」と phag(a) 「食べる」の連結により成り,いずれもギリシア語起源である.同様に,種名 tridactyla もギリシア語起源で「3本指」の意である( tri- 「3」 + dactyl(a) 「指」).通俗名 anteater に比べて学名 Myrmecophaga tridactyla の堅苦しさが伝わってくるだろう.
 myrmec, phag(a), tri, dactyl など,単独では語をなさないが語の1部として生産的に用いられる形態素(主として借用形態素)は連結形 ( combining form ) と呼ばれ,英語の形態論では扱いの難しい要素である.

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2010-05-24 Mon

#392. antidisestablishmentarianism にみる英語のロマンス語化 [word_formation][loan_word][french][latin][greek][neo-latin][lexicology][romancisation]

 昨日の記事[2010-05-23-1]で取りあげた antidisestablishmentarianism という語を英語史の視点からみると,英語のロマンス語化が,語や形態素という表面的なレベルだけではなく,語形成や形態論の規則という抽象的なレベルにまで染みこんでいるという点が意義深い.
 一般に英語がロマンス語化したというときには,中英語期のフランス単語の大量借用が出発点として念頭におかれるのではないか.確かに古英語期やそれ以前の大陸時代にも英語はラテン語と接してきたので,ロマンス語への慣れは多少はあったといえるが,本格的なロマンス語化の引き金を引いたのは中英語期のフランス語との接触に他ならない.フランス語が開始したこのロマンス語化の波に乗るかのように,次の初期近代英語期にラテン語単語が大量に英語に流れ込んだ.さらに,このフランス語とラテン語の流れには,実はギリシャ語要素も隠れて多く含まれており,近代英語期から現在までに多くのギリシャ語形態素が英語へ供給された.中英語以来の英語語彙のロマンス語化,より正確には Greco-Latin 化は,[2010-05-16-1]の記事でも述べた通り,The Great Vocabulary Shift とでも名付けたくなるくらいに英語の概観を一変させた.
 しかし,仏・羅・希は単に語や形態素を英語に供給しただけではない.英語は長期の接触と影響により,ラテン語やギリシャ語の語形成規則や形態論規則を半ばネイティブであるかのように獲得してしまったのである.現在,日々新しく作られている科学用語や専門用語に主として用いられている言語的リソースは Neo-Latin と呼ばれるが,これはラテン語やギリシャ語の形態素をラテン語やギリシャ語の形態規則にのっとって派生・合成させる仕組みといってよい.標題の antidisestablishmentarianism は Greco-Latin 要素とその組み合わせ規則にのっとった典型的な Neo-Latin の語であるが,フランス単語やラテン単語としてではなく,あくまで英単語として造語された点がポイントである.英語のロマンス語化は,語彙のみの表面的な現象だと見なされることがあるが,現代英語の生きた語形成にも非常に大きく貢献している点で,もっと積極的に評価してもいいのではないか.
 フランス語が窓口となり英語がロマンス語化してきた経緯と意義については,Gachelin の評が言い得て妙である.

French acted as the Trojan horse of Latinity in English, the sluice gate through which Latin was able to pour into English on a scale without any equivalent in any Germanic language. The process of 'classicization' which had originated in Greece was to spread from Latin to Romance languages, and via French to English. (9--10)



 ・ Gachelin, Jean-Marc. "Is English a Romance Language?" English Today 23 (July 1990): 8--14.

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2010-05-19 Wed

#387. trisociationtriset [lexicology][latin][greek][lexical_stratification]

 [2010-03-27-1]の記事で英語語彙の三層構造を紹介した.その記事では,foe, enemy, adversary などの三語一組の例を挙げ,それぞれ (1) 英語本来語,(2) フランス借用語,(3) ラテン・ギリシャ借用語の層をなしていることを示した.英語語彙に見られるこの特異な三層構造を言い表す術語がないかなと思っていたが,McArthur が trisociation と呼んでいるのをみつけた.この三語一組のことは triset と呼んでいる.
 ただ,McArthur の trisociation は,(1) 英語本来語,(2) フランス語・ラテン語,(3) ギリシャ語というように層別しているようで,上述の foe の例の層別とは異なる.実際には四層あるものを三層に分けて考えているのだからこのようなヴァリエーションもありうるが,語という単位ではなく形態素という単位で考える場合には McArthur の層別のほうがうまくいく.McArthur が挙げている triset の例を再掲する(主に本来語が b-, n-, s- で始まる triset の例).

triset of morphemestriset of words
ant, formic-, myrmec-ant-eater, formicarium, myrmecology
bad, mal-, caco-badly, malign, cacophony
be, ess-, ont-being, essence, ontology
belly, ventr-, gastr-potbellied, ventral, gastritis
best, optim-, aristo-bestseller, optimal, aristocrat
big, magn-, mega(lo)-bigheaded, magnitude, megalomania
bird, avi-, ornith-bird-watcher, aviary, ornithology
birth, nasc-/nat-, gen-/gon-birthday, nascent/native, genesis/cosmogony
black, nigr-, melan-blacken, denigrate, melanin/melancholy
blood, sanguin-, (h)aem(at)-/(h)em(at)-bloody, sanguinary, an(a)emic
body, corp(or)-, som(at)-bodily, corporeal/incorporate, psychosomatic
bone, oss(e)-, osteo-rawboned, osseous, osteopath
book, libr-, biblio-bookish, library, bibliography
breast, mamm-, mast-doublebreasted, mammography, mastitis
earth, terr-, ge-earthquake, terrestrial, geography
fire, ign-, pyr-fire-fighter, igneous, pyromania
naked, nud(e)-, gymn-nakedness, nudity, gymnosophist
name, nomin-, onom-/onym-namely, nominate, onomastic/synonym
new, nov-, neo-newness, innovate, neologism
night, noct-, nyct-nightly, nocturnal, nyctalopia
nose, nas-, rhin-nosiness, nasal, rhinitis
salt, sal-, (h)al-salty, salinity, halophyte
say, dict-, phas-/phat-saying, dictum, emphasis
sea, mar-, thalass-seascape, marine, thalassocracy
see, vid-/vis-, scop-all-seeing, evident/vision, telescope
self, ips-, aut(o)-unselfish, solipsism, autistic
shape, form-, morph-shapely, formal, metamorphosis
sharp, ac(u)-, oxy-sharpen, acute, oxygen
skin, cut(i)-, derm(at)-skinny, subcutaneous, dermatitis
sound, son-, phon-soundless, sonic, telephone
speak, loqu-/loc(ut)-, log-unspeakable, eloquent, dialog(ue)
stand, sta(t)-, stas-/stat-outstanding, stable, stasis/statis
star, stell-, aster-starry, stellar, asteroid
stone, lapid-, lith-stony, lapidary, megalithic
sun, sol, heli(o)-sunny, solar, heliograph


 ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応については,[2010-04-14-1]で扱ったのでそちらを参照.

 ・ McArthur, Tom. "English in Tiers." English Today 23 (July 1990): 15--20.

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2010-04-14 Wed

#352. ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応 [etymology][indo-european][latin][greek][loan_word][phonetics]

 本ブログの読者から,L semi- と G hemi- の対応について質問を受けた(質問,ありがとうございます!)./h/ が /s/ に変わるのはなぜか,グリムの法則と関係しているのか,という問いである.
 一昨日の記事[2010-04-12-1]では,この問を念頭に super- と hyper- ,sub- と hypo- の例を挙げて,ラテン語 /s/ がギリシャ語 /h/ に対応しうることを示した.ラテン語もギリシャ語も英語の語彙に多大な貢献をしてきており,結果として両言語の遺産が現代英語のなかに共存・混在しているという状況がある.今回は,印欧祖語からの音声変化に触れつつ,ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応について,英語に入った語彙を中心に挙げつつもう少し詳しく述べる.
 Szemerényi (51) によると,印欧祖語で確信をもって再建される摩擦音音素は */s/ のみである.ギリシャ語では,印欧祖語の */s/ は閉鎖音の前後と語末においては保たれたが,語頭を含めたそれ以外の環境では気音化して /h/ となった.一方,ラテン語を含めた他の語派では広く /s/ が保たれた.結果として,ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応例が存在することになる.以下に,現代英語の語彙にみられるラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応例をいくつか示す(赤字部分が対応箇所).

from Latinfrom Greek
semiconductor 「半導体」hemisphere 「半球」
September 「9月」heptarchy 「七王国」
sextet 「六重奏」hexagon 「六角形」
similar 「同様の」homosexual 「同性愛の」
solar 「太陽の」heliotrope 「(走日性の草本)ヘリオトロープ」
somnolent 「眠気を誘う」hypnosis 「催眠」
supermarket 「スーパーマーケット」hypermarket 「ハイパーマーケット」
supposition 「仮定」hypothesis 「仮説」


 September は,もともと「7番目の月」の意.のちに暦が二つずれた.cf. November, October, December.
 supposition については,接頭辞 sup- は sub- の異形態.基体の L -position と G -thesis はそれぞれの言語で「置く」の意.
 ところで,英語自体も印欧語族の一員であり,印欧祖語 */s/ が保たれたタイプなので,上記のラテン語やギリシャ語の音素に対応する英語本来の音素が /s/ として確認される例がある.seven, six, same, sun など.
 さて,最初の問に戻ろう.L semi- と G hemi- の関係について,「/h/ が /s/ に変わった」と表現するのは正しくない.印欧祖語の */s/ が一方では /h/ へ変化し,一方では /s/ として保たれたという対応関係として理解すべきである.
 また,IE */s/ > G /h/ の気音化はグリムの法則とは無関係である.グリムの法則 ( see grimms_law ) は,ゲルマン語派を他語派と区別する音変化であり,ラテン語とギリシャ語の対応関係を問題にしている今回のようなケースには無関係である.また,グリムの法則は,閉鎖音系列に起こった体系変化であり,今回のような /s/, /h/ の摩擦音系列の変化とはやはり無関係である.

 ・ Szemerényi, Oswald J. L. Introduction to Indo-European Linguistics. Oxford: OUP, 1996. Trans. of Einführung in die vergleichende Sprachwissenschaft. 4th ed. 1990.

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2010-04-12 Mon

#350. hypermarketsupermarket [etymology][indo-european][latin][greek][french][loan_translation][lexical_stratification]

 以前に住んでいたところの近くにスーパーマーケット Olympic があった.食料品から生活品までが一カ所で揃うので,毎日といってもいいほどに常用していた.そのため,転居して Olympic を利用する機会がなくなったにもかかわらず,常に店内に流れていた Olympic のテーマ曲が今でも頭を回ることがある.おそらく今でも変わっていないだろう.

楽しく明るいお店です 品物豊富なお店です♪
嬉しい安さに微笑んで いつも賢いお買い物♪
あなたの欲しい物 何でも揃う
O L Y M P I C(オーエルワイエムピーアイシー)
ハイパーマーケット オリンピック♪


 そう,Olympicsupermarket ならぬ hypermarket なのである.hypermarket の定義はこの辺りの辞書に任せて,ここでは語源を考えてみたい.supermarket は読んで字の如く super- + market の合成語で,英語には1933年が初出である.一方,hypermarkethyper- + market の合成語で,1970年辺りにフランス語 hypermarché を翻訳借用 ( loan translation ) して英語に取り込んだものである.フランス語の hypermarché 自体は,supermarché "supermarket" にならった造語である.
 フランス語でも英語でも,そして日本語(カタカナ)でも,hypermarketsupermarket の巨大進化版であると考えられている.hyper- のほうが super- よりも上位であるという感覚だ.この接頭辞はともに「上の,上位の,過度の」を表す点で共通するが,それもそのはず,印欧祖語の一つの語根 *(s)uper にさかのぼる.この印欧語根がラテン語では super- として伝わり,ギリシャ語では最初の子音が気音化し hyper- となった.above, over, up なども究極的にはこの語根と関連する.
 さて,語源が共通であるとすると hyper- のほうが super- よりも上位であるという感覚には根拠がないことになるが,現実的にはそうした感覚が歴然としてある.言語において類義語どうしの意味の棲み分けは自然のことであり,この場合もたまたま hyper- と super- のあいだに程度の差が生まれたのだと論じることはできよう.しかし,hyper- が super- より上位であり,その逆ではないことには,偶然以上の根拠があるのではないか.[2010-03-27-1]の記事で見たように,英語語彙には,大雑把にいってラテン語,フランス語,英語本来語の三層構造が認められる.この最上位に位置するのがラテン語だが,実はその上に超最上位というべきギリシャ語が存在するのである.歴史的に,英語が文化的により上位のフランス語やラテン語から多くの語彙を借用してきたのと同じように,ラテン語は文化的により上位のギリシャ語から多くの語彙を借用してきた.ギリシャ語はラテン語にとって高みにある言語なのである.このような言語文化的な背景を背負ったままに,現在,英語でギリシャ語系 hypermarket とラテン語系 supermarket が区別されているのではないか.
 ちなみに,「下位の」を表す接頭辞はラテン語 sub-,ギリシャ語 hypo- である.ここでも /s/ ( Latin ) と /h/ ( Greek ) の対応があることに注意.

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2009-08-26 Wed

#121. octopus の複数形 [plural][greek][bnc][corpus]

 octopus の複数形は何か.手持ちの辞書を引き比べてもらうとわかるが,すべての辞書で規則的な octopuses が挙がっていることだろう.特に記述のない辞書では octopuses を当然とみなしての省略に違いない.
 だが,大きめの辞書や古めの辞書を引くと,octopodes なる複数形が併記されている.例えば OED では,octopodes /ɒkˈtəʊpədi:z/ が先に挙がっており,その後に octopuses が追記されている.
 Web3 ( Webster's Third New International Unabridged Dictionary ) にいたっては,第三の複数形として octopi /ˈɑktəˌpaɪ/ が挙げられている.
 複数形態に関するこの複雑な状況は,この単語がギリシャ語からネオ・ラテン語を経て,18世紀に英語へ借用されてきたという経緯による.ギリシャ語の屈折に従えば octopodes となり,ラテン語の屈折を適用すると octopi になる( see sg. alumnus -- pl. alumni ).ただし,ラテン語に準じた octopi は,COD11 ( The Concise Oxford English Dictionary 11th ed. ) によると誤用とされている.
 ただ,この二種類の古典語に基づく不規則複数形は,現在では衒学的・専門的な響きが強すぎて普通には用いられないと考えてよい.このことは,多くの学習者英英辞典で octopuses のみが挙げられていることからもわかる.
 BNC ( The British National Corpus )で調べてみるとヒット数は以下の通りだった.

octopuses29
octopi11
octopodes4


 ついでだが,日本語ではタコを数えるときにつける助数詞は「匹」でもよいし,イカと同じく「杯」でもよいという.知らなかった.

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2009-08-04 Tue

#99. 生産的な接頭辞 neo- [japanese_english][affix][etymology][compound][productivity][greek]

 先日,小学館の図鑑 NEOシリーズの第1期16巻を一式購入した.図鑑は見ているだけで飽きない.『魚』の巻ではウナギと穴子の見分け方を,『鳥』の巻ではフクロウの左右の耳の位置が異なることを知り,ウームとうならされた.子供の頃に眺めていた図鑑は小学館だったか学研だったか忘れたが,新しい世代に向けて改訂が進み,今「NEOシリーズ」が一式出そろった.昔に比べ,内容も格段に充実している.
 この「NEO(ネオ)」という接頭辞だが,日本語にも定着してきた観がある.『広辞苑』第六版でも「ネオ」の見出しがある.

(ギリシア語で「新しい」意の neos から) 「新しい」の意を表す接頭語.「―‐ロマンティシズム」


 「ネオ」を用いた複合語としては,広辞苑には次のような語がエントリーされている.「ネオ‐アンプレッショニスム」 néo-impressionnisme, 「ネオ‐クラシシズム」 neo-classicism, 「ネオ‐コロニアリズム」 neo-colonialism, 「ネオ‐コン」 neo-con(servatism), 「ネオ‐サルバルサン」 Neosalvarsan (ドイツ語), 「ネオジム」 Neodym (ドイツ語), 「ネオ‐ダーウィニズム」 neo-Darwinism, 「ネオ‐ダダ」 Neo-Dada, 「ネオテニー」 neoteny, 「ネオ‐トミズム」 neo-Thomism, 「ネオ‐ナチズム」 neo-Nazism, 「ネオピリナ」 Neopilina (ラテン語), 「ネオ‐ファシズム」 neo-fascism, 「ネオ‐ブッディズム」 Neo-Buddhism, 「ネオプレン」 Neoprene, 「ネオ‐マーカンティリズム」 neo-mercantilism, 「ネオマイシン」 neomycin, 「ネオ‐ラマルキズム」 neo-Lamarckism, 「ネオ‐レアリスモ」 neorealismo (イタリア語), 「ネオロジズム」 neologism, 「ネオン」 neon, 「ネオン‐サイン」 neon sign, 「ネオン‐テトラ」 neon tetra, 「ネオン‐ランプ」 neon lamp.よく知らない語が多い.
 借用元言語が英語だけではないことから,neo- という接頭辞はヨーロッパ諸語に広がっていることが推測される.そして,日本語でも「小学館の図鑑 NEOシリーズ」のように使われ出しており,接頭辞としての生産性はグローバル化しているのかもしれない.英語では OED の検索によれば neo で始まる英単語は326個ヒットした.
 neo- の起源は,ギリシャ語の néos "new" である.究極的には印欧祖語の *newo- "new, young" にさかのぼり,英語の new と同根である.neo- の英語での接頭辞としての歴史は浅く,19世紀後半から本格的に使われ出し,現代まで生産性を拡大させ続けている.
 対応するラテン語は novus "new" で,ここから派生して英語に借用された語も,以下の通りいくつかある.

innovate, innovation, nova, novel, novelty, novice, renovate, renovation

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