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pidgin - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-10-21 08:10

2013-12-12 Thu

#1690. pidgin とその関連語を巡る定義の問題 [pidgin][creole][lingua_franca][dialect][koine][terminology]

 「#444. ピジン語とクレオール語の境目」 ([2010-07-15-1]) の記事で,pidgin の creole の区別が程度の問題であることをみた.一方で,pidgin も creole も,「#1671. dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koineization」 ([2013-11-23-1]) で話題にした koiné とともに,lingua_franca として機能しうることを,「#1391. lingua franca (4)」 ([2013-02-16-1]) の記事で確認した.そこでは,lingua franca は,trade language, contact language, international language, auxiliary language, mixed language など複数の種類に区別されるという議論だったが,Gramley はこれらの用語の指示対象の間に異なる関係を想定しているようだ.Gramley (219) はピジン語とその関連用語との区別を,contact, marginal, mixed, non-native, reduced という5つのパラメータを用いて以下のように示している.


contactmarginalmixednon-nativereduced
trade jargonyesyesyesyesyes
pidginyesyesyesyesyes/no
lingua francayesyesnoyes/noyes
koinéyesnoyesnoyes/no
dialectnoyes/nononono
creolenonononono


 それぞれのパラメータを解説すると,contact は接触変種として発達してきたかどうか,marginal は使用される状況が制限されているかどうか,mixed は複数の変種の要素が混じり合っているか,non-native は主として非母語話者によって話されているか,reduced は言語的に簡略化しているか,ということである.
 当然ながらそれぞれの値が yes なのか no なのかが重要となってくるが,ここに定義の問題が関わってくる.例えば,pidgin の行を横に見ると,yes, yes, yes, yes, yes/no という値の並びとなっているが,これは pidgin を定義していることになるのだろうか,それとも pidgin を記述していることになるのだろうか.yes だけからなる trade jargon を一方の端に設定し,no だけからなる creole をもう一方の端に設定して,その間に様々なタイプを位置づけたということなのかもしれない.
 上記の疑問があるのだが,とりあえずこの問題は横に置いておくとして,「#1681. 中英語は "creole" ではなく "creoloid"」 ([2013-12-03-1]) で取り上げた "creoloid" というタイプの変種をこの表の中に位置づけるとすると,どこに収まるだろうかと考えてみた.だが,考えれば考えるほど,それぞれのパラメータの指す内容が分からなくなってきた.そもそも,creole が contact や mixed で no の値を取るということはどういうことなのか.それぞれのタイプの定義の問題以前に,パラメータの定義の問題となってしまうようである.
 それぞれの用語とその指示対象が弁別素性によってうまく切り分けられるのであればよいが,そううまくいかないように思われる.pidgin とその関連語を巡る定義の問題は難しい.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

Referrer (Inside): [2014-10-05-1] [2014-10-03-1]

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2013-12-11 Wed

#1689. 南西太平洋地域のピジン語とクレオール語の語彙 [pidgin][creole][map][reduplication][lexicology][etymology][tok_pisin]

 昨日の記事「#1688. Tok Pisin」 ([2013-12-10-1]) を受けて,南西太平洋地域のピジン語とクレオール語の話題.関連諸言語の分布図を,Gramley (220) の地図を参考に示してみた.

Map of Southwestern Pacific Pidgins and Creoles

 ここに挙げられているピジン語やクレオール語は歴史的に関連が深く,言語的にも近い.いずれも英語を上層言語 (superstrate language) 及び語彙供給言語 (lexifier) とする混成語で,実際にいずれも語彙の8割前後は英語ベースである.Mühlhäusler を参照した Gramley (220) の表によると,ヴァヌアツの Bislama (「#1536. 国語でありながら学校での使用が禁止されている Bislama」 ([2013-07-11-1]) を参照), パプアニューギニアの Tok Pisin, ソロモン諸島の Solomon Pijin の3ピジン語でみると,語種分布は以下の通りである.


EnglishIndigenousOthers
Bislama90%53 (French)
Tok Pisin77167 (German etc.)
Solomon Pijin8965


 一般にピジン語やクレオール語の語彙は,上層言語を基準とすると,迂言,翻訳借用 (loan_translation),意味変化,加重 (reduplication),異分析などの例に満ちている.以下に,Gramley (220--22) に拠って Tok Pisin からの例を示そう.hair という代わりに gras bilong hed (grass that belongs to the head),beard という代わりに gras bilong fes (grass that belongs to the face) といった風である.現在形と過去形の区別はなく,例えば stei (stay) は文脈次第で現在・過去いずれの意味にもなりうる.tudir (too dear) は,「高価な」を表わす1語として分析され,同様に lego (let go) は「行かせる」, sekan (shake hands) は「和解する」として語彙化している.英語 arse (尻)に起源をもつ, as は文体的に中立な「後部;尻」であり,さらに意味変化を起こして「起源;原因」の意でも用いられる.that's all に起源をもつ tasol は,一般的に but の意味の接続詞として発達した.加重の例については,「#65. 英語における reduplication」 ([2009-07-02-1]) を参照されたい.
 現地の文化が語彙に反映されることもある.とりわけ親族名称 (kinship terms) では,mama (mother), papa (father) までは標準英語と同じだが,父系のおじとおばはそれぞれ smalpapa, smalmama だが,母系のおじとおばはともに kandare という1語で表わす.祖父母と孫は性別の区別もなく,一緒くたに tumbuna と表現する.兄弟姉妹も,同性であれば brata,異性であれば susa を用いるという点で,標準英語と異なる.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-10 Tue

#1688. Tok Pisin [pidgin][creole][lingua_franca][tok_pisin][link]

 英語ベースのピジン語 (pidgin) としておそらく最も知られているのは Tok Pisin だろう.多言語国家 Papua New Guinea の事実上の国家語として用いられており,lingua_franca として機能している.新聞,ラジオ,テレビ,辞書,文法,聖書などの言語として採用されており,話者により積極的な社会言語学的評価を付されている.第2言語として400万人により話されており,第1言語としても5万人の話者がいる.後者の母語話者の存在は,Tok Pisin がクレオール語化 (creolisation) を始めていることの現れでもある.
 New Guinea は,Greenland に次いで世界で2番目に大きな島である.政治的には西半分のインドネシア領 Irian Jaya と東半分の Papua New Guinea (PNG) に分かれる.島全体としてみれば使用されている言語は1,000に及び,PNG だけに限っても,「#401. 言語多様性の最も高い地域」 ([2010-06-02-1]) で見たとおり,830言語を数える.言語多様性指数としては,世界最高値を示す国である.この超多言語地域が lingua franca を持ち始める契機となったのは,19世紀にヨーロッパの植民地主義列が介入したときである.Samoa, Vanuatu, Queensland など,オセアニア地域のプランテーション契約労働者が各地を往来したこと,孤立していた言語共同体が孤立を維持できなくなったことが,lingua franca の発生を促した.結果として,PNG の土着語から発生したピジン語 Hiri Motu や,英語ベースのピジン語 Tok Pisin が広がっていった.
 オセアニア地域のピジン語の発達については不明の点も多いが,Australia 経由で広がった系列 (ex. Australian Pidgin English, Roper river Creole, Cape York Creole) と,Vanuatu (the New Hebrides), the Solomon Islands, Queensland, Fiji を経て Papua や New Guinea へ広がった系列が区別される.19世紀,この地域では,New England の捕鯨,メラネシアのビャクダン交易,中国の食材としてのナマコ採取,Queensland や Fiji での綿花やサトウキビのプランテーション,Samoa でのコプラのプランテーション,トレス海峡 (the Torres Strait) での真珠採取などが,経済と労働の推進力となっていた.初期の Tok Pisin は,これらの経済活動を通じて Bislama (「#1536. 国語でありながら学校での使用が禁止されている Bislama」 ([2013-07-11-1]) を参照), Solomon Islands Pidgin, Torres Straits Creole などと接した帰国労働者によって PNG に広まっていったとされる.
 上述のように,Tok Pisin は英語ベースの(すわなち英語を lexifier とする)ピジン語である.標準英語と比べれば,音韻,文法,語彙などあらゆる部門において確かに簡略化されているが,一方で独特な規則をもつ.言語体系としては,英語とは異なる言語といって差し支えないだろう.Gramley (239--40) に掲載されている Tok Pisin で書かれた文章のサンプルについて,標準英語の対訳つきで見やすく作り直したものをこちらのPDFで用意した.その他,Tok Pisin については以下のサイトも参照.

 ・ 「#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧」 ([2010-08-03-1])
 ・ Ethnologue: Tok Pisin
 ・ Tok Pisin -- Pidgin / English Dictionary
 ・ Tok Pisin Translation, Resources, and Discussion

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

Referrer (Inside): [2014-10-05-1] [2013-12-11-1]

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2013-12-03 Tue

#1681. 中英語は "creole" ではなく "creoloid" [creole][pidgin][me][old_norse][contact][terminology][creoloid]

 「#1223. 中英語はクレオール語か?」 ([2012-09-01-1]),「#1249. 中英語はクレオール語か? (2)」 ([2012-09-27-1]),「#1250. 中英語はクレオール語か? (3)」 ([2012-09-28-1]),「#1251. 中英語=クレオール語説の背景」 ([2012-09-29-1]) を受けて,もう少し議論の材料を提示したい.直接この問題に迫るというよりは,2言語の混合という過程とピジン化 (pidginisation) という過程とをどのように区別するかという問題を考察したい.
 混合の前後に連続性が見られず,"the drastic break" (Görlach 341) があると判断される場合にはピジン化といってよいと考えるが,Trudgill (181--82) も Afrikaans を取り上げて同趣旨の議論を展開している.

Interestingly, there are some languages in the world which look like post-creoles, but which are not. These are varieties which, compared to some source, show a certain degree of simplification and admixture. We do not, however, call these languages creoles, because the extent of the simplification and admixture is not very great. And we do not call them post-creoles because they have never been creoles --- which is in turn because they have never been pidgins! Afrikaans, the other major language of the white community in South Africa alongside English, used to be considered a dialect of Dutch . . . . During the course of the twentieth century, however, it achieved autonomy . . . and now has its own literature, dictionaries, grammar books, and so on. Compared to Dutch, Afrikaans shows significant amounts of regularization in the grammar, and a significant amount of admixture from Malay, Portuguese and other languages. It still remains mutually intelligible with Dutch, however. The crucial feature of Afrikaans is that, although it is now spoken by some South Africans who are the descendants of people who spoke it as a non-native language --- hence the influence from Portuguese, Malay and so on --- and who undoubtedly therefore spoke a pidginized form of Dutch/Afrikaans, the language was at no time a pidgin. In the transition from Dutch to Afrikaans, the native-speaker tradition was maintained throughout. The language was passed down from one generation of native speakers to another; it was used for all social functions and was therefore never subjected to reduction. Such a language, which demonstrates a certain amount of simplification and admixture, relative to some source language, but which has never been a pidgin or a creole in the sense that it has always had speakers who spoke a variety which was not subject to reduction, we can call a creoloid.


 標準オランダ語に比べれば,Afrikaans には確かに単純化や規則化がみられる.また,マレー語,ポルトガル語などから言語項目の著しい借用がみられる.しかし,だからといって pidgin だとか creole だとか呼ぶわけにはいかない.というのは,Afrikaans には間違いなく歴史的な連続性があるからだ.各世代の話者は,単純化や接触を経験しながらも,途切れることなくこの言語変種を用いてきたし,接触言語と合わせて即席の便宜的な言語を作り出したという痕跡もない."the drastic change" はなかったのである.では,この言語を何と呼ぶのか.Trudgill は,新しい用語として "creoloid" が適切ではないかと主張する.
 この "creoloid" という用語は,中英語にもそのまま当てはめられるだろう.古英語と古ノルド語との接触は,creole を生み出したわけではなく,あくまで creoloid を生み出したにすぎなかったといえる.なぜならば,古ノルド語との接触は古英語以来の言語変化の速度を速めたが,あくまで自然な路線の延長であり,連続性があったからだ.同趣旨の議論として,「#1224. 英語,デンマーク語,アフリカーンス語に共通してみられる言語接触の効果」 ([2012-09-02-1]) も参照.

 ・ Görlach, Manfred. "Middle English --- a Creole?" Linguistics across Historical and Geographical Boundaries. Ed. D. Kastovsky and A. Szwedek. Berlin: Gruyter, 1986. 329--44.
 ・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.

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2013-11-15 Fri

#1663. 手話は言語である (2) [sign_language][linguistics][pidgin][medium]

 昨日の記事「#1662. 手話は言語である (1)」 ([2013-11-14-1]) に引き続き,Crystal (164--70) を参照しながら,言語としての手話の話題を取り上げる.古今東西,多くの異なる音声言語が存在してきたように,手話言語にも多くの異なる種類が認められる.初期の歴史はほとんど知られていないが,古代ギリシアや古代ローマの文献に手話への言及がある.近代における手話の研究は,1775年にフランスの教育者 Abbé Charles Michel de l'Epée (1712--89) が,パリの聾学校のために手話体系を開発したことに端を発する.彼の手話が何に基づいているのかはよく分かっていないが,世界各地からの教育者が彼の学校でそれを学び,世界に広めることになった.例えば,アメリカの教育者 Thomas Gallaudet (1787--1851) と Laurent Clerc (1785--1869) はその手話をアメリカに導入し,これが後に American Sign Language へと発展する.
 しかし,これは手話の発生と発展の1つの特殊な例にすぎない.世界各地では多くの手話が自然発生してきた.手話には音声言語と同様に,共時的な変異もあれば通時的な変化もある.手話共同体ごとに方言が発達するし,世代間の変異も認められる.この点でも,手話言語と音声言語とは異なるところがない.
 一方で,手話に特有の発展の仕方があることもまた事実である.音声言語や文字言語からの影響という側面である.手話には,音声言語や文字言語とはほぼ無関係に自然に発生したものも多いが,それらの影響を受けて発展したもの,あるいは意図的に発展させたものも多い.後者では,とりわけ語順における関与が見られる.音声言語・文字言語という異なる媒体から影響を被った手話という意味で,これは手話のピジン語ということができるだろう.
 音声言語に近づける形で既存の手話に変更を加えるという試みが教育者によってなされてきたが,とりわけ英語共同体における事例が豊富である.1960年代後半からの数年間で,音声言語としての英語への歩み寄りを示す計画的な (contrived) 手話言語が続々と現れた.Seeing Essential English (1966) (及びそこから派生した Linguistics of Visual English (1971) と Signing Exact English (1972)),Signed English (1969), Manual English (1972) のごとくである.
 Paget-Gorman Sign System (PGSS) も広く採用された初期の試みである.これは,1951年に Richard Paget が提案し,Pierre Gorman が発展させたもので,片方の手で意味領域を表わし,別の手で識別詞を表わすことで1つの記号を表現するという体系である.漢字の偏と旁をそれぞれの手に対応させるとでも言えば,比喩的に理解しやすいだろうか.
 他の種類の手話としては,北米インディアンの間で共有されてきた Amer-Ind なる比較的簡易な体系がある.また,文字を手話記号に対応させる Finger-spelling という体系は,少なくとも補助的には手話使用者の間で広く採用されている.読唇術・視話法において発音の「読み」を助ける目的での Cued speech という体系も利用されている.
 上記のように計画的に音声言語や文字言語に接近させた手話があるのは事実だとしても,手話がそれ自身で独立した言語の媒体であることは明らかだろう.

 ・ Crystal, David. How Language Works. London: Penguin, 2005.

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2013-09-04 Wed

#1591. Crystal による英語話者の人口 [statistics][demography][enl][esl][efl][elf][new_englishes][pidgin][creole]

 昨日の記事で扱った「#1590. アジア英語の諸変種」 ([2013-09-03-1]) から世界の英語変種へ目を広げると,それこそおびただしい English varieties が,今現在,発展していることがわかる.英語変種の数ばかりでなく英語変種の話者の数もおびただしく,「#397. 母語話者数による世界トップ25言語」 ([2010-05-29-1]) の記事の終わりで触れたように,母語話者数と非母語話者を足し合わせると,英語は世界1の大言語となる.英語話者人口の過去,現在,未来については,以下の記事で扱ってきた.

 ・ 「#319. 英語話者人口の銀杏の葉モデル」 ([2010-03-12-1])
 ・ 「#427. 英語話者の泡ぶくモデル」 ([2010-06-28-1])
 ・ 「#933. 近代英語期の英語話者人口の増加」 ([2011-11-16-1])
 ・ 「#173. ENL, ESL, EFL の話者人口」 ([2009-10-17-1])
 ・ 「#375. 主要 ENL,ESL 国の人口増加率」 ([2010-05-07-1])
 ・ 「#759. 21世紀の世界人口の国連予測」 ([2011-05-26-1])
 ・ 「#414. language shift を考慮に入れた英語話者モデル」 ([2010-06-15-1])

 現在の世界における英語話者人口を正確に把握することは難しい.Crystal (61, 65--67) で述べられているように,この種の人口統計には様々な現実的・理論的な制約が課されるからだ.Crystal (62--65) は,その制約のなかで2001年現在の英語人口を推計した.近年,最もよく引き合いに出される英語話者の人口統計である.

TerritoryL1L2Population (2001)
American Samoa2,00065,00067,000
Antigua & Barbuda*66,0002,00068,000
Aruba9,00035,00070,000
Australia14,987,0003,500,00018,972,000
Bahamas*260,00028,000298,000
Bangladesh 3,500,000131,270,000
Barbados*262,00013,000275,000
Belize*190,00056,000256,000
Bermuda63,000 63,000
Botswana 630,0001,586,000
British Virgin Islands*20,000 20,800
Brunei10,000134,000344,000
Cameroon* 7,700,00015,900,000
Canada20,000,0007,000,00031,600,000
Cayman Islands*36,000 36,000
Cook Islands1,0003,00021,000
Dominica*3,00060,00070,000
Fiji6,000170,000850,000
Gambia* 40,0001,411,000
Ghana* 1,400,00019,894,000
Gibraltar28,0002,00031,000
Grenada*100,000 100,000
Guam58,000100,000160,000
Guyana*650,00030,000700,000
Hong Kong150,0002,200,0007,210,000
India350,000200,000,0001,029,991,000
Ireland3,750,000100,0003,850,000
Jamaica*2,600,00050,0002,665,000
Kenya 2,700,00030,766,000
Kiribati 23,00094,000
Lesotho 500,0002,177,000
Liberia*600,0002,500,0003,226,000
Malawi 540,00010,548,000
Malaysia380,0007,000,00022,230,000
Malta13,00095,000395,000
Marshall Islands 60,00070,000
Mauritius2,000200,0001,190,000
Micronesia4,00060,000135,000
Montserrat*4,000 4,000
Namibia14,000300,0001,800,000
Nauru90010,70012,000
Nepal 7,000,00025,300,000
New Zealand3,700,000150,0003,864,000
Nigeria* 60,000,000126,636,000
Northern Marianas*5,00065,00075,000
Pakistan 17,000,000145,000,000
Palau50018,00019,000
Papua New Guinea*150,0003,000,0005,000,000
Philippine$20,00040,000,00083,000,000
Puerto Rico100,0001,840,0003,937,000
Rwanda 20,0007,313,000
St Kitts & Nevis*43,000 43,000
St Lucia*31,00040,000158,000
St Vincent & Grenadines*114,000 116,000
Samoa1,00093,000180,000
Seychelles3,00030,00080,000
Sierra Leone*500,0004,400,0005,427,000
Singapore350,0002,000,0004,300,000
Solomon Islands*10,000165,000480,000
South Africa3,700,00011,000,00043,586,000
Sri Lanka10,0001,900,00019,400,000
Suriname*260,000150,000434,000
Swaziland 50,0001,104,000
Tanzania 4,000,00036,232,000
Tonga 30,000104,000
Trinidad & Tobago*1,145,000 1,170,000
Tuvalu 80011,000
Uganda 2,500,00023,986,000
United Kingdom58,190,0001,500,00059,648,000
UK Islands (Channel, Man)227,000 228,000
United States215,424,00025,600,000278,059,000
US Virgin Islands*98,00015,000122,000
Vanuatu*60,000120,000193,000
Zambia110,0001,800,0009,770,000
Zimbabwe250,0005,300,00011,365,000
Other dependencies20,00015,00035,000
Total329,140,800430,614,5002,236,730,800


 * の付いている国・地域は,標準英語ではなく pidgin/creole 英語が主として話されている国・地域である.pidgin/creole 変種を英語の一種とみなすか否かは論争の的となっているので,立場に応じて数値を足し引きされたい(具体的には,L1 で主として西インド諸島の約700万人が,L2 で主として西アフリカの約8,000万人が関与する).また,L1 および L2 の人口は原則として少なめの推計とみてよい.さらにこの表には,「#217. 英語話者の同心円モデル」 ([2009-11-30-1]) の図でいうところの Expanding Circle の国・地域は含まれていないことにも注意されたい.
 上で挙げた国・地域については,「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]) および「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.

 ・ Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2013-07-11 Thu

#1536. 国語でありながら学校での使用が禁止されている Bislama [pidgin][map]

 Vanuatu 共和国は南西太平洋,メラネシアに浮かぶ島国である.国内には100以上のメラネシア系言語が話されているが,英語ベースで幾分のフランス語彙を含むピジン語 Bislama (or Beach-la-Mar) が国語として広く用いられている.また,公用語として英語とフランス語が行なわれている.

Map of Vanuatu

 Vanuatu は1774年にイギリスの Captain Cook が探査して,the New Hebrides と命名された.19世紀後半の英仏植民競争の激化を経て,1906年には世界でも珍しい英仏共同統治下に置かれ,英仏両言語が公用語とされた.1980年に共和国として独立し,現在に至っている.
 かつて南西太平洋を旅したときに Vanuatu にも訪れたことがあるが,海と島と太陽が忘れられない.現地で Bislama のポケット会話集のようなものを買ったようにも思うが,旅人としては英語で用を足すことができたので,Bislama を聴く機会はほとんどなかった.言語としては近隣のパプアニューギニアの Tok Pisin やソロモン諸島の Pijin と近く,部分的に相互に通じ合う.
 さて,Bislama が国語であることは,1980年の独立時に起案された憲法の 3. (1) でも以下のように明記されている.

3. (1) The national language of the Republic of Vanuatu is Bislama. The official languages are Bislama, English and French. The principal languages of education are English and French.


 この国の言語状況について奇妙なことがある.憲法にも明記されている正当な国語たる Bislama が,教育の媒介言語として公には許容されていないのである.教育の言語はあくまで英語とフランス語である.Romain (194) は,この状況を指して,Vanuatu は国語の使用を禁止している世界で唯一の国かもしれないと述べている.

Although Bislama is recognized by the constitution of Vanuatu as the national language of the country, paradoxically it is forbidden in the schools. Thus, Vanuatu may be the only country in the world which forbids the use of its national language! English and French, the languages of the former colonial powers, are still the official languages of education.


 実際には,学校における Bislama の使用が完全に禁止されているということではなく,小中学校ではくだけた文脈で補助言語として用いられることはあるようだ.また,2011年には "Proposed vernacular education" も提案されているというから,英仏語に対する土着の言語の社会言語学的な立場も徐々に上昇してきているのだろう.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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2013-07-06 Sat

#1531. pidgin と creole の地理分布 [pidgin][creole][map][geography][world_languages][tok_pisin][caribbean]

 数え方にもよるが,世界中で100以上のピジン語やクレオール語が日常的に用いられているといわれる.なかには200万人を超える話者を擁する Tok Pisin のような活発な言語もある.実際,Tok Pisin は南太平洋における最大の言語である.英語を lexifier とする「#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧」 ([2010-08-03-1]) についてはすでに本ブログで言及したが,かつての大英帝国の影響力から予想される通り,英語ベースのものが最も多い.
 Romain (170--73) の地図を参照して lexifier 言語別にピジン語とクレオール語の個数を数え上げると,英語が35,フランス語が14,ポルトガル語が9,スペイン語が3,オランダ語が3,その他の言語が26となる. * *
 世界に散在する種々のピジン語とクレオール語を分類するのに,上記のように語彙を提供している言語,すなわち superstratum の言語を基準とする方法があるが,ほかに地域を基準とする分類もある.地理的な分布の観点からピジン語やクレオール語を大きく2分すると,大西洋系列と太平洋系列とに分かれる.Romain (174--75) を引用しよう.

Creolists recognize two major groups of languages, the Atlantic and the Pacific, according to historical, geographic, and linguistic factors. The Atlantic group was established primarily during the seventeenth and eighteenth centuries in the Caribbean and West Africa, while the Pacific group originated primarily in the nineteenth. The Atlantic creoles were largely products of the slave trade in West Africa which dispersed large numbers of West Africans to the Caribbean. Varieties of Caribbean creoles have also been transplanted to the United Kingdom by West Indian immigrants, as well as to the USA and Canada. The languages of the Atlantic share a West African common substrate and display many common features . . . . / In the Pacific different languages formed the substratum and socio-cultural conditions were somewhat different from those in the Atlantic. Although the plantation setting was crucial for the emergence of pidgins in both areas, in the Pacific laborers were recruited and indentured rather than slaves. Apart from Hawai'i, a history of more gradual creolization has distinguished the Pacific from the Atlantic (particularly Caribbean) creoles, whose transition has been more abrupt.


 このように地理的な分布による2分法は明快だが,両系列のあいだに複雑な関係があることを見えにくくしているきらいがあることには注意しておきたい.例えば,両系列に共有されている語彙 (savvy "to know" や picanniny "child, baby") の存在は,2つの海をまたいで活躍した船乗りの役割を考慮せずにうまく説明することはできないだろう.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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2013-02-16 Sat

#1391. lingua franca (4) [elf][global_language][pidgin][creole][esperanto][artificial_language][basic_english][contact][sociolinguistics][koine]

 英語とエスペラント語の共通点は何か.言語的には,分析的であるとか,ロマンス系言語の語根をもつ語彙が多いとか,個々の言語項目について指摘することができるだろうが,大づかみに共通点を1つ挙げるというのは難しい.社会言語学的にいえば,単純である.いずれの言語も lingua franca である,ということだ.英語とピジン語の共通点,スワヒリ語と俗ラテン語の共通点にしても同じ答えである.
 [2012-04-17-1], [2012-04-18-1], [2012-04-19-1]の記事で lingua franca という用語について調べたが,社会言語学的な見地からこの用語と概念にもう一度迫りたい.Wardhaugh (55) によれば,UNESCO が lingua franca を "a language which is used habitually by people whose mother tongues are different in order to facilitate communication between them" と定義している.この定義では,その言語が通用する範囲の広さについては言及していないので,小さな共同体でのみ用いられているような言語も上の条件を満たせば lingua franca ということになる."used habitually" も程度問題だが,緩く解釈すれば,上の段落で挙げた言語は確かにいずれも lingua franca の名に値するだろう.
 lingua franca はいくつかの種類に分けることができる (Wardhaugh 56) .

 (1) 西アフリカのハウサ語や東アフリカのスワヒリ語のように交易目的で用いられる "trade language"
 (2) 古代ギリシア世界における koiné (コイネー)や中世ヨーロッパにおける俗ラテン語のように諸方言が接触した結果としての "contact language"
 (3) 英語のように国際的に用いられる "international language"
 (4) Esperanto ([2011-12-15-1]) や Basic English ([2011-12-13-1]) のような補助言語(人工言語)たる "auxiliary language"
 (5) カナダの小共同体で話されている,クリー語の文法とフランス語の語彙を融合させた,民族的アイデンティティを担った Michif のような "mixed language"

 ほかにも上記の定義に当てはまる言語を挙げれば,地中海世界の交易共通語となった Sabir,世界の各地域で影響を誇る Arabic, Mandarin, Hindi の各言語,19世紀後半に北米 British Columbia から Alaska にかけて広く通用した Chinook Jargon などがある.

 ・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.

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2012-09-01 Sat

#1223. 中英語はクレオール語か? [creole][pidgin][me][french][old_norse][contact]

 昨日の記事「#1222. フランス語が英語の音素に与えた小さな影響」 ([2012-08-31-1]) で参照した Görlach の論文は,Bailey and Maroldt による「中英語はクレオール語である」とする大胆な仮説に対する反論として書かれたものである.中英語は古英語と古ノルド語あるいはフランス語との混合によって生まれたとするこの仮説を巡る最大の論点は,クレオール語の定義や基準である.これが研究者間で一致しない限り,議論は不毛である.議論の余地なく明らかにクレオール語として認められてきた言語から顕著な特徴を浮き彫りにし,それに基づいてクレオール語の定義や基準を設けるというのが常識的な手順のように思われるが,Bailey and Maroldt の前提では,この手順を念頭に置いていないように思われる.
 Görlach (341) は,古ノルド語との混合による中英語クレオール語説を,次の点で完全に否定する.典型的なクレオール語とは異なり,(1) 代名詞において性と格を失っておらず,(2) 名詞において数を失っておらず,(3) 動詞において人称語尾と時制標示を失っておらず,(4) 受動態を失っておらず,(5) 時制が相に置き換えられていない.
 さらに,おそらくピジン語の最も顕著な特徴ともいうべき "the drastic break" (341) も英語史には観察されないという.Sranan はわずか20年ほどで安定したし([2010-06-05-1]の記事「#404. Suriname の歴史と言語事情」を参照),インド洋クレオール諸語も突然といってよい発生の仕方を経験している.
 古ノルド語との混合による中英語クレオール語説がこのように根拠薄弱なのであるから,いわんやフランス語とのクレオール語説をや,である.昨日の記事でも少し触れたように,Görlach (338) は,フランス語の英語への文法的な影響は,クレオール語の可能性を議論する以前に,そもそも些細であることを示唆している.

Influence of French on inflections and, by and large, on syntactical structures cannot be proved, but appears unlikely from what we know about bilingualism in Middle English times. Middle English is a typical case of a language of low prestige, predominantly used in spoken form and split into a great number of dialects that had to assimilate the cultural (and in this case) mainly lexical impact of the 'high' language.


 このような考えをもつ Görlach にとって,中英語=クレオール語という仮説はあまりに受け入れがたいものだろう.この仮説は現在ではほとんど受け入れられていない.Brinton and Arnovick (297--98) や Thomason and Kaufman (309) も同説を批判している.しかし,英語史研究においてもクレオール語研究においても,一つの刺激となったことは確かである.

 ・ Bailey, Charles James N. and Karl Maroldt. "The French Lineage of English." Langues en contact --- Pidgins --- Creoles --- Languages in contact. Ed. Jürgen M. Meisel. Tübingen: Narr, 1977. 21--51.
 ・ Görlach, Manfred. "Middle English --- a Creole?" Linguistics across Historical and Geographical Boundaries. Ed. D. Kastovsky and A. Szwedek. Berlin: Gruyter, 1986. 329--44.
 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
 ・ Thomason, Sarah Grey and Terrence Kaufman. Language Contact, Creolization, and Genetic Linguistics. Berkeley: U of California P, 1988.

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2011-12-16 Fri

#963. 英語史と人工言語 [artificial_language][basic_english][pidgin][creole][basic_english]

 この5日間,人工言語についての記事を書いてきた (##958,959,960,961,962) .書きながら考えてきたことなのだが,人工言語の歴史を学ぶことは,自然言語の特徴や英語史の問題を考察する上で,新しい視点をもたらしてくれるようである.人工言語が必ずしも成功を収めていない事実と英語の実質的な世界的展開とのあいだに何らかの関係があるとすれば,それを探ることは有意義だろう.以下,この新しく得られそうな視点に関連して,5点ほど箇条書きでメモしておく.

(1) 自然言語の特徴が浮き彫りになる
 人工言語に対する賛否両論は,そのまま,英語のような自然言語が世界共通語として機能している状況への人々の様々な反応を反映している.人工言語の長所と短所は自然言語の短所と長所に対応していることが多い.例えば,[2011-12-14-1]の記事「#961. 人工言語の抱える問題」の (2) に示したアイデンティ標示機能は,自然言語には必然的に備わっているが人工言語には欠けている.民族主義の興隆と人工言語の普及運動とが歴史的に反比例の関係になりやすかったことも,この点と関係しているだろう.一方で,程度の差はあれ双方がともに抱えている問題もある.例えば,同記事の (3) 言語的偏狭と (5) 反感は,双方ともに免れているとはいいがたい.

(2) 世界共通語としての英語の抱える問題が浮き彫りになる
 英語に限らず自然言語の常ではあるが,言語的な不規則性が学習効率を妨げているという主張が,しばしば人工言語支持者からなされる.人工言語におけるその解決策案を参照すれば,多くの人が,英語の語学的な問題がどのような点にあると考えているかを推し量ることができる(綴字と発音の乖離,<th> 音,イディオム等々).また,人工言語支持者がしばしば示す英語への反感の根拠を探ることで,英語そのものが問題である側面と,英語が代表している自然言語一般の問題である側面とが区別できるかもしれない.

(3) 英語の抱える問題への解決策が議論できる
 上の (2) で示されるような英語の問題に対する解決策として,どのような策が実現可能であるか,議論できるようになる.[2011-12-13-1]の記事で取り上げた Basic English や,理念的にその延長線上にあると考えられる辞書の defining vocabulary など,英語そのものを改革するような策ではなく,英語学習・教育に応用して成果をあげられるような現実的な策を提案できるようになるのではないか.

(4) 人々の世界共通語への期待の大きさが認識される
 自然言語(英語)支持者と人工言語支持者は立場は違えど,共通して目指している方向がある.現代世界で日増しに高まる国際コミュニケーションの需要に応えることのできる世界共通語の希求と期待である.両者の立場は場合によっては180度異なるともいえるが,究極的に追い求めているものは同じ理想である.未来の世界共通語に寄せられている期待の大きさは,それほどまでに大きい.はたして,英語は,あるいはエスペラント語は,この重圧に耐えられるのか.

(5) ピジン語やクレオール語の再解釈を促す
 Basic English に象徴される英語の語彙の単純化や,計画的に人工言語に埋め込まれた簡便な文法などが指向しているのは,学習の容易さである.Basic English や人工言語はあくまで人為的な人造物だが,より自然な形で学習の容易さを実現していると解釈できるものに,ピジン語やクレオール語がある.ピジン英語やクレオール英語は一般には劣った言語として捉えられることが多いが,世界共通語への期待という文脈に位置づければ,簡単化した自然言語として再評価することができるかもしれない.ピジン語あるいはクレオール語を,即,世界共通語の議論に結びつけることはもちろん突飛だが,少なくとも Basic English や人工言語と並べて比較することには意味があるのではないか.

Referrer (Inside): [2018-02-20-1] [2016-08-23-1]

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2010-12-09 Thu

#591. アメリカ英語が一様である理由 [ame][dialect][pidgin]

 [2010-07-28-1]の記事でアメリカ英語の方言区分を紹介したときに触れたが,AmE にも方言はあるものの BrE に比べて同質性がずっと高い.その理由は様々だが,いずれも社会的,社会言語学的な要因による.主な理由には以下のようなものがある.

(1) 人々の国内の移動・移住が頻繁であること.これにより,固定化した地域変種が現われにくくなる.社会階層間の mobility も同様に滑らかであり,固定化した社会変種も現われにくい.
(2) 種々の言語的,文化的,歴史的背景をもった人々により構成される国であること.これくらいの「るつぼ」ともなると,コミュニケーションを確保するために媒体たる言語は同質的にならざるをえない.
(3) 人々の間に共通の国家的同一性の意識が強いこと.[2010-01-07-1]の記事で触れたように,現代では Hispanic 系の成長などに関連して国内の言語的多様性の問題も浮上してきているが,歴史的にはおおむね national identity が強い.国内の秩序を保つ英語の役割は非常に大きい.
(4) 合理主義的な言語観.[2009-11-24-1]の記事を始めとして spelling_pronunciation の各記事で spelling pronunciation の話題を扱ったが,これはとりわけ AmE に顕著といわれる.言語の合理性はあくまで相対的な問題ではあるが,しばしば AmE の特徴といわれるのは事実である.

 上の4点は互いに関連しており,他にも関連する諸要因を挙げることができるかもしれない.諸要因に通底する理由を抽出すれば,国民が diverse and mobile であることが根源的な理由なのではないか.一見すると diversity and mobility と linguistic homogeneity は矛盾するが,言語がコミュニケーションの道具であるという1点により,矛盾が解消される.むしろ,diverse and mobile だからこそ,言語的統一性が確保されなければならない,という理屈になる.
 このことは,ピジン語の原初の形態が奴隷貿易船のなかで発生したという可能性を考えれば理解できる.各人の言語的背景が混合していれば,それだけ互いに歩み寄って平均的な言語を作り出そうと工夫せざるを得ない.多様性と同質性というのは一見矛盾しているようで,実は矛盾していない.

 ・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990. 162.

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2010-08-03 Tue

#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧 [pidgin][creole][link][tok_pisin][post-creole_continuum]

 世界には英語ベースのピジン語やクレオール語が30以上存在するといわれている.[2010-07-15-1], [2010-07-16-1]で見たように,ピジン語やクレオール語の定義や起源に曖昧な点があるので正確に数えることは難しいが,名前がついているものを挙げると30以上になるという.McArthur (177) よりその一覧を再現しよう.

(1) Africa

Gambian Creole or Aku; Krio and pidginized Krio in Sierra Leone; Liberian Creole; Ghanaian Pidgin; Togolese Pidgin; Nigerian Pidgin (creolized in urban areas); Kamtok in Cameroon (creolized in urban areas; see [2010-06-13-1], [2010-06-14-1]); Bioku Pidgin on Fernando Po.


(2) North America (All in the United States)

Afro-Seminole Creole; Amerindian Pidgin (most varieties now extinct); Black English Vernacular (status controversial); Sea Island Creole, or Gullah; Hawaii Pidgin and Creole.


(3) Central America, the Caribbean, and the neighbouring South America

Bahamian Creole; Barbadian Creole; Belizean Creole; Costa Rican Creole; Guyanese Creolese (sic) (see [2010-05-17-1]); Jamaican Creole or Nation Language or Patwa; Leeward Island Creole(s); Nicaraguan Creole; Surinamese Djuka or Aukan, Saramaccan, and Sranan (see [2010-06-05-1]); Trinidad and Tobago Creole(s) or Trinibagianese or Trinbagonian; Virgin Islands Creole; Windward Island Creole(s).


(4) Australasia-Pacific Ocean

Bislama (Vanuatu), Hawaii Pidgin and Creole, Pijin (the Solomon Islands), Kriol or Roper River Pidgin/Creole (northern Australia), Pitcairnese and Norfolkese (Pitcairn Island and Norfolk Island), Tok Pisin/Neo-Melanesian (Papua-New Guinea), Torres Straits Broken/Creole.


 世界中にむらなく分布しているというよりは,英米の植民地史を反映して局地的に分布していることがよくわかる.これらの遠心性をもつ「英語」が,求心性をもつ世界標準英語 (World Standard English)や標準英米変種などの主要な標準変種に対して今後どのように位置づけられてゆくかが注目される.というのは,これらの「英語話者」は今後続々と教育の普及などによって post-creole continuum の階段を上り,標準変種を獲得し,かっこ付きでない英語話者となることが見込まれるからだ.しかも,束になれば相当な人口である.
 これらのピジン語やクレオール語が話される地域のみを選んで旅したら,英語観が変わってくるかもしれないな・・・.
 ピジン語やクレオール語に関するリンクをいくつか張っておく.

 ・ Society for Pidgin and Creole Linguistics: 学会のサイト
 ・ Pidgin and Creole Languages: ピジン語・クレオール語入門
 ・ Tok Pisin Translation, Resources, and Discussion: Tok Pisin/English 辞書あり
 ・ Jamaican Creole Texts: クレオール語とピジン語関係のリンクもあり

 ・ McArthur, Tom. The English Languages. Cambridge: CUP, 1998.

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2010-07-16 Fri

#445. ピジン語とクレオール語の起源に関する諸説 [pidgin][creole]

 現代世界に広く展開する pidgin や creole がそもそもどのように生じたかについては,定説はない.世界各地のピジン語やクレオール語がなぜ言語的に共通点が多いのかという問題とあわせて諸説が提案されているが,Jenkins が Todd に基づいて主だった説をまとめているので,それをさらに端的にまとめてみたい.大きく分けて,単一起源説 ( monogenesis ) ,多起源説 ( polygenesis ) ,普遍・統合説 ( universal/synthetic theory ) の三種類がある.各説のカッコ内の名称は,私が勝手にわかりやすくつけたもの.

・ The independent parallel development theory (化学実験説)
  ピジン語やクレオール語のような混成言語はそれぞれ独立して発生した.ただ,混成する素材は,およそ共通してヨーロッパの諸言語と西アフリカの諸言語などであり,混成した社会条件や物理条件も似通っているので,できあがった混成言語どうしが似てくるのは自然の理である.つまり,化学実験において,混ぜ合わせる物質が似たようなものであり,実験環境も似ているのであれば,たとえ別々の場所で実験しても,できあがった化合物はおよそ似ているだろうという発想.多起源説.

・ The nautical jargon theory (混成の混成説)
  ヨーロッパの異なる国籍の船員たちが航海中にコミュニケーションを取るときに発達した混成語がもとになったという説.この説によれば,西アフリカなどの人々と接する以前に,言ってみれば船の中でヨーロッパ語を基盤とする混成語ができあがっていたことになる.当然ながら航海用語を中心とした語彙が豊富で,この語彙が核となって西アフリカなどへ持ち込まれ,さらに現地の言語と混成した.一度ヨーロッパの言語どうしが混成したものが,再びヨーロッパ以外の言語と混成してできたと考えるので,混成の混成説と呼びたい.共通する航海語彙が多くのピジン語,クレオール語に見られることが,この説を支持する根拠となっている.語彙以外は独立的に発展したと考えるので,多起源説といってよい.

・ The theory of monogenesis and relexification (原ピジン語説)
  ちょうど印欧諸語が一つの仮説的な原印欧語 ( Proto-Indo-European ) に遡ると仮定しているように,世界各地のピジン語,クレオール語は Proto-Pidgin とでも呼ぶべき原初のピジン語に遡るという説.原ピジン語の最有力候補は,中世の地中海世界で十字軍兵士や交易者の共通語となった Sabir と呼ばれる言語ではないかといわれる.これが15世紀くらいにポルトガル語から語彙を提供されて,ポルトガル語版の Sabir となり,西アフリカに運ばれた.後にポルトガルの勢力が衰えるにしたがって,ポルトガル語版 Sabir は他の言語によって語彙を置き換えられ,英語版 Sabir,スペイン語版 Sabir,フランス語版 Sabir,オランダ語版 Sabir などの変種が生まれた.ポルトガル版 Sabir が基底にあっただろうということは,非ポルトガル語版の変種にも,saber "know" や pequeno "little; offspring" などポルトガル語に由来する語が見られることから推測される.すべてのピジン語,クレオール語は,語彙こそ置換されてきたが,原ピジン語の方言と考えられるという単一起源説である.

・ The baby-talk theory (赤ちゃん言葉説)
  共通語をもたない話者どうしがコミュニケーションを図るとき,互いにあえて単純な発音,文法,語彙を用いる傾向がある.これは言葉を理解しない幼児に話しかけるときの戦略に似ている.元の言語が同一であるとき,赤ん坊に話しかけるかのように極度に単純化した言語が互いに似てくるのは当然である.普遍説.

・ A synthesis (単純化普遍説)
  言語接触の現場では,普遍的な言語戦略,特に単純化の機能が作動し,元の言語が何であれ似たような単純化の過程と結果が見られるという.言語には,そして言語能力をもつヒトには,普遍的な言語行動の設計図が内在している ( innate behavioral blueprint ) という考え方が前提にある.世界各地のピジン語とクレオール語について input となった言語は異なっているかもしれないが(=多起源説),それを process する機構は bioprogram としてヒトに普遍的(すなわち共通)なので(=単一起源説),結果として output がおよそ似てくると考える.多起源説と単一起源説を統合 ( synthesis ) した普遍・統合説である.

 ・ Todd, L. Pidgins and Creoles. 2nd ed. London: Routledge, 1990.
 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.

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2010-07-15 Thu

#444. ピジン語とクレオール語の境目 [pidgin][creole][tok_pisin]

 英語の世界化について語るときに忘れてはならない話題に,pidgincreole がある.本ブログでも何度か取りあげてきたが,この二つは一緒に扱われることが多い.それもそのはず,一般的には pidgin の発展形が creole であると理解されており,両者は系統図の比喩でいうと親子関係にあるからだ.pidgin と creole の定義については,大雑把にいって研究者のあいだで合意がある.例として,Wardhaugh の解説を引用しよう.

A pidgin is a language with no native speakers: it is no one's first language but is a contact language. That is, it is the product of a multilingual situation in which those who wish to communicate must find or improvise a simple language system that will enable them to do so. . . In contrast to a pidgin, a creole, is often defined as a pidgin that has become the first language of a new generation of speakers. . . A creole, therefore, is a 'normal' language in almost every sense. (Wardhaugh 2006: 61-3 quoted in Jenkins 11)


 混成言語として出発したピジン語が,子供によって母語として獲得されるとクレオール語と呼ばれることになる.母語として獲得された当初は両者の間に言語的な違いはほとんどないが,母語話者どうしの使用に付されてゆくとクレオール語は次第に言語的にも成熟してくる.やがては,混成言語でない他の通常の言語と比較されるほどに複雑な言語体系をもつ言語へと発展する.したがって,クレオール語とピジン語は,第一に母語話者の有無によって,第二に後に現れる言語体系の複雑化の有無によって区別されると考えてよい.
 概論としては上記のような理解でよいが,現実的にはこの定義にうまく当てはまらない例がある.[2010-06-13-1], [2010-06-14-1] で触れた Cameroon Pidgin English や,その他 Tok Pisin のいくつかの変種では,母語話者たる子供の介在なしに,言語体系が複雑化してきているという事実がある.子供の母語話者が関与しないのだから定義上はクレオール語ではないことになるが,通常のクレオール語と同様に言語体系が複雑化してきているわけであり,理論上の扱いが難しい.もし事実上のクレオール語とみなすのであれば,名前に Pidgin や Pisin とあるのは混乱を招くだろう.
 現実には,ピジン語が生じてまもなくクレオール語化することもあれば,ある程度ピジン語として安定してからクレオール語化することもある.また,ピジン語として安定し,さらに発展してからようやくクレオール語化することもある.このように creolisation のタイミングはまちまちのようで,そもそも何をもって「安定」「発展」「クレオール語化」とみなすのかも難しい問題だ.[2010-05-17-1]で見たとおり,Guyanese Creole が上層語 ( acrolect ) の英語と明確な切れ目なく言語的連続体をなしているのと同様に,ピジン語とクレオール語の境目もまた,言語的には連続体をなしていると考えるのが妥当だろう.

 ・ Wardhaugh, R. An Introduction to Sociolinguistics. 5th ed. Oxford: Blackwell, 2006.
 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.

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2010-06-14 Mon

#413. カメルーンにおける英語への language shift [pidgin][sociolinguistics][language_shift]

 昨日の記事[2010-06-13-1]に続き,カメルーンの英語の話題.昨日も触れたが,現在のカメルーンでは標準的なイギリス英語 Educated English ( EdE ) はエリートと結びついており,対照的に Cameroon Pidgin English ( PE ) は社会的地位が相対的に低くなっている.PE は国内で広く長く使われてきた歴史があり,本来は社会言語学的にも無色透明に近いはずだが,公用語として採用された EdE との対比により「色」がついてきた.
 他言語社会カメルーンの人々は多くが multilingual だが,どの言語を母語とするか,どの順序で複数の言語を習得するかについては都市部と地方部でかなりの揺れがある.特に近年は,都市部で現地の言語や PE ではなく EdE を母語として(第二言語としてではなく)教える親が増えているという.日本でも,将来性を見込んで我が子に英語の早期教育を,という状況は普通に見られるようになってきているが,まさか日本語をさしおいて英語を母語として教えるというケースはないだろう.以下は,カメルーンの諸都市で EdE と PE を第一言語としている子供の比率の通時的変化を示した表である ( Jenkins 176-77 ).20年ほどの間に,EdE を母語とする子供の比率が伸び出してきたのが分かる.

CityEdE (%)PE (%)
1977-781998?1977-781998?
Bamenda13.52224
Mamfe012525
Kumba131922
Buea7132628
Limbe493130


 (両)親の母語が EdE でないにもかかわらず子供が EdE を母語として習得するという状況はカメルーンでなくとも世界各地で起こり始めている.これは新しい ENL 変種が現れてくる可能性を示唆している.母語をある言語から他の言語へと乗り換えることを language shift と呼ぶが,英語はこうした language shift によっても母語話者数を少しずつ伸ばしているということになる.英語の language shift に関する統計はまだ少なく,世界中での進行状況はよく分かっていないが,英語の実力,あるいは「株価」のようなものがあるとすれば,そこに language shift の数値も織り込む必要があるのではないだろうか.もちろん英語の株価上昇の背後には,現地で用いられている他言語が犠牲になっているという陰の側面があることは認識しておかなければならない.

 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009. 176--83.

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2010-06-13 Sun

#412. カメルーンの英語事情 [pidgin][sociolinguistics][map]

 明日は FIFA World Cup の日本対カメルーン戦の試合日ということで,カメルーンの英語事情について.カメルーン共和国 ( Republic of Cameroon ) はアフリカ大陸の様々な特質を一つの国の中にもち,ミニ・アフリカと呼ばれる.[2010-06-02-1]の記事で掲載したが,民族や言語の多様性も著しく,言語の多様性指数 ( diversity index ) で世界第7位,実に279もの言語が国内に行われている.植民地の歴史により英語とフランス語が公用語だが,国民の70%以上が英語ベースのピジン語である Cameroon Pidgin English (PE) を話すとされ,潜在的には多民族を一つにまとめる役割を果たしうる.

Map of Cameroon

 カメルーンにおけるピジン英語 PE の歴史は,1400年にまで遡りうる.ポルトガルの商船がイングランドの使用人を引き連れてカメルーン海岸を訪れた際に,英語ベースのピジン語の種が蒔かれたという.ちなみに,国名のカメルーンは土地の川に産するエビを指すポルトガル語 Camarões にちなんだものという.15世紀以降にヨーロッパ人がやってくるようになると,交易やキリスト教の布教において初期にはポルトガルやオランダの影響が強かったが,後にイギリスやドイツが取って代わった.1844年にバプテスト宣教師が英語学校を設立してイギリス標準英語が入ってくることになるが,それまでは PE が支配的であった.PE はピジン英語とはいっても,長い年月の間に周辺のアフリカの言語の影響を大いに受けて独自の発展を遂げており,宣教師は PE を外国語として学ぶ必要があったほどである.
 1884年,イギリスの影響力が圧倒的だったにもかかわらず,ドイツがカメルーンの領土権を主張した.ドイツによる併合と搾取の時代を経て,カメルーンは第一次世界大戦後にイギリスとフランスの統治時代に移る.イギリスが西側 1/5 の地域を,フランスが東側 4/5 の地域を支配し,後の国内分裂の原因を作った.第二次世界大戦後,東西統合の大きな問題を部分的に残しつつ1960年にカメルーン共和国として独立を達成した.
 植民地の歴史は複雑だが,それ以前から数世紀ものあいだ非公式に用いられていた交易の言語たる PE が現在でも国民に広く通用するという事実が興味深い.しかし,Jenkins が論じているところによると,英語が公用語として採用されるようになるに及び,その反動として PE の社会的地位が相対的に低くなってきているという.広く通用するにもかかわらず社会的な stigmatisation が増してきているというのは,カメルーンのような多言語国での国内コミュニケーションの効率を考えれば損失以外の何ものでもない.しかし,そこには「エリートの英語,下層民の PE 」という社会言語学的な二分化があらがいがたく反映されているのだという.「あなたにとって英語とは?」という問いは,カメルーン国民と日本国民にとって,相当に異なる問いとして受け止められることだろう.[2010-01-19-1] の記事で触れた問題点を改めて考えさせられる.
 カメルーンの諸言語については,EthnologueLanguage of Cameroon も参照.

 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009. 176--83.

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2010-01-21 Thu

#269. pidgin English における reduplication [reduplication][pidgin][homophone]

 [2009-07-02-1]の記事で reduplication重複」について話題にした.現代英語では,reduplication はもっぱら造語や強調に用いられるとしていくつか例を挙げたが,pidgin English の語彙を考慮に入れるのであれば,例の数は一気に増加する.pidgin English では,意味の強調のほか,同音語の衝突を避ける手段としても reduplication が利用されているという (Jenkins 56).

 tok "talk" --- toktok "chatter"
 look "look" --- looklook "stare"
 sip "ship" --- sipsip "sheep" (in some Pacific pidgins)
 pis "peace" --- pispis "urinate" (in some Pacific pidgins)
 was "watch" --- waswas "wash" (in some Atlantic pidgins)

 pidgin はたいてい音素の種類が少なく,英語など語彙を提供する側の言語 ( lexifier language ) から語彙を受け取ると,とかく homophones同音異義語」が生じてしまう.したがって,このような therapeutic な装置が発動するということなのだろう.pidgin English では,reduplication は非常に生産的な造語機能を担っているようである.

 ・Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. Abingdon: Routledge, 2003.

Referrer (Inside): [2010-08-09-1]

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2010-01-04 Mon

#252. 生成文法と言語起源論の復活 [generative_grammar][origin_of_language][pidgin]

 [2009-12-14-1]で,近年,言語起源論が復活してきていることに触れた.その背景には (1) 宗教観の衰退,(2) ヒトの研究の進展,があると述べた.(2) はもちろん言語学そのものの発展も含むと考えてよい.認知言語学,心理言語学,言語獲得論のめざましい発展は,言語起源論の再興と無縁のはずはない.さらに見逃してはならないのは,生成文法の影響である.この点について,中島氏 (78) より引用する.

ことばの誕生や進化の問題は、言語学の分野では、一八六六年のパリ言語学会で封印されて以来、正面から学術的に取り上げられることがほとんどなかった。だが生成文法を始めとする新言語学の発展は、言語機能の個体発生(言語習得)の解明に挑んできたのであるから、その延長として言語機能の系統発生(言語起源や進化)に関心を向けたとしても不思議はない。


 他には,近年の pidgin 語研究の発展も,言語の生まれた最初期の形態を推定するのに大きく貢献している.
 20世紀最後の四半世紀は,新ダーウィン主義の名のもとに「進化」が諸分野でキーワードとされた.言語変化論に関心をもつ者として,大いに示唆を与えてくれるこの学問的潮流が今後も発展してゆくことを期待したい.

 ・中島 平三 「言語の時代を見つけた『言語』と言語研究のこれから」 『月刊言語』38巻12号,2009年,74--79頁.

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