hellog〜英語史ブログ

#1536. 国語でありながら学校での使用が禁止されている Bislama[pidgin][map]

2013-07-11

 Vanuatu 共和国は南西太平洋,メラネシアに浮かぶ島国である.国内には100以上のメラネシア系言語が話されているが,英語ベースで幾分のフランス語彙を含むピジン語 Bislama (or Beach-la-Mar) が国語として広く用いられている.また,公用語として英語とフランス語が行なわれている.

Map of Vanuatu

 Vanuatu は1774年にイギリスの Captain Cook が探査して,the New Hebrides と命名された.19世紀後半の英仏植民競争の激化を経て,1906年には世界でも珍しい英仏共同統治下に置かれ,英仏両言語が公用語とされた.1980年に共和国として独立し,現在に至っている.
 かつて南西太平洋を旅したときに Vanuatu にも訪れたことがあるが,海と島と太陽が忘れられない.現地で Bislama のポケット会話集のようなものを買ったようにも思うが,旅人としては英語で用を足すことができたので,Bislama を聴く機会はほとんどなかった.言語としては近隣のパプアニューギニアの Tok Pisin やソロモン諸島の Pijin と近く,部分的に相互に通じ合う.
 さて,Bislama が国語であることは,1980年の独立時に起案された憲法の 3. (1) でも以下のように明記されている.

3. (1) The national language of the Republic of Vanuatu is Bislama. The official languages are Bislama, English and French. The principal languages of education are English and French.


 この国の言語状況について奇妙なことがある.憲法にも明記されている正当な国語たる Bislama が,教育の媒介言語として公には許容されていないのである.教育の言語はあくまで英語とフランス語である.Romain (194) は,この状況を指して,Vanuatu は国語の使用を禁止している世界で唯一の国かもしれないと述べている.

Although Bislama is recognized by the constitution of Vanuatu as the national language of the country, paradoxically it is forbidden in the schools. Thus, Vanuatu may be the only country in the world which forbids the use of its national language! English and French, the languages of the former colonial powers, are still the official languages of education.


 実際には,学校における Bislama の使用が完全に禁止されているということではなく,小中学校ではくだけた文脈で補助言語として用いられることはあるようだ.また,2011年には "Proposed vernacular education" も提案されているというから,英仏語に対する土着の言語の社会言語学的な立場も徐々に上昇してきているのだろう.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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