現在,世界には7千ほどの言語が行なわれているとされるが,そのうち最も "popular" な言語は何だろうか.ほとんどの人々は「英語」と答えるかもしれない.しかし,実際には "popular" の定義を明確にしておかない限り,この質問に正確に答えるのは難しい.おそらく大多数の日本人にとって,"popular" な言語とは「世界中で広く話されている言語」のことと想定されるが,では「広く」とは何のことだろうか.それを常用している国の数か.あるいは,そのような国の面積か.それで用を足している人々の数か.それを共通語として採用している国際機関の数か.それを第2言語として教育している国の数か.いずれの観点かを定めさえすれば,"popular" の定義も定まり,最も "popular" な言語が何かという問いに答えを出すことができるだろう.しかし,どの観点が "popular" の定義として妥当なのかについて,満場一致はないように思われる."popular" を "top" や "significant" に置き換えたところで,問題は解決しない.
例えば,母語話者の数ということでいえば,英語は中国語,スペイン語についで第3位となる.しかし,第2言語として話す人口を加えれば,英語は第1位に躍り出る.しかし,ここでは「英語」の範囲が問題になり,例えば,英語を基盤としたピジン語やクレオール語の母語話者は英語話者に含めるのか,といった疑問が生じる.あるいは,どのピジン語やクレオール語を含め,どれを含めないのか.
また,その言語を主要言語とする国の経済力や技術力なども,考慮に入れる必要があるのではないか.その国が国際的に活躍していればいるほど,その言語も国際的に用いられやすいだろうし,世界的に "popular" ともなりうるからだ.しかし,そのような「国際性」は何によって計ればよいのか.経済活動か,軍事力か,文化力か,移民の割合か.何らかの重みづけをするにしても,その観点は無限である.
考えられる "popular" の指標をすべて計算に含めて総合点を出すという方法はあるだろうが,元となる統計値が現実的に得られないような指標も多いだろう.結局のところ,母語話者や第2言語話者の人口など,ある程度入手可能な既存のデータを中心にながら,主観的な「印象点」も加味して,最も "popular" な言語を割り出すということになならざるを得ない.「印象点」には,採点者次第で,個人的な好き嫌いが含まれるかもしれないし,政治的・イデオロギー的な好悪も埋め込まれるかもしれない.
言語ランキングを作るという作業は,一見簡単そうで実は難しい課題である.この問題については,Gooden (8--9) を参照されたい.本ブログ内では,「#397. 母語話者数による世界トップ25言語」 ([2010-05-29-1]),「#2263. 世界の主要言語の母語話者数の比較」 ([2015-07-08-1]),「#1591. Crystal による英語話者の人口」 ([2013-09-04-1]),「#1592. 英語話者の人口を推計することが難しい理由」 ([2013-09-05-1]) なども関連する.
・ Gooden, Philip. The Story of English: How the English Language Conquered the World. London: Quercus, 2009.
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