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lexicology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-08-06 09:15

2019-10-19 Sat

#3827. lexical set (2) [terminology][lexicology][vowel][sound_change][phonetics][dialectology][lexical_set]

 昨日の記事 ([2019-10-18-1]) に引き続き,lexical set という用語について.Swann et al. の用語辞典によると,次の通り.

lexical set A means of enabling comparisons of the vowels of different dialects without having to use any particular dialect as a norm. A lexical set is a group of words whose vowels are uniformly pronounced within a given dialect. Thus bath, brass, ask, dance, sample, calf form a lexical set whose vowel is uniformly [ɑː] in the south of England and uniformly [æː] in most US dialects of English. The phonetician J. C. Wells specified standard lexical sets, each having a keyword intended to be unmistakable, irrespective of the dialect in which it occurs (see Wells, 1982). The above set is thus referred to as 'the BATH vowel'. Wells specified twenty-four such keywords, since modified slightly by Foulkes and Docherty (1999) on the basis of their study of urban British dialects.


 第1文にあるように,lexical set という概念の強みは,ある方言を恣意的に取り上げて「基準方言」として据える必要がない点にある.問題の単語群をあくまで相対的にとらえ,客観的に方言間の比較を可能ならしめている点ですぐれた概念である.この用語のおかげで,「'BATH' を典型とする,あの母音を含む単語群」を容易に語れるようになった.

 ・ Swann, Joan, Ana Deumert, Theresa Lillis, and Rajend Mesthrie, eds. A Dictionary of Sociolinguistics. Tuscaloosa: U of Alabama P, 2004.

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2019-10-18 Fri

#3826. lexical set (1) [terminology][lexicology][vowel][sound_change][phonetics][dialectology][lexical_set]

 音声学,方言学,語彙論の分野における重要な概念・用語として,lexical set というものがある.「#3505. THOUGHT-NORTH-FORCE Merger」 ([2018-12-01-1]) などで触れてきたが,きちんと扱ってきたことはなかったので,ここで導入しよう.Trudgill の用語辞典より引用する.

lexical set A set of lexical items --- words --- which have something in common. In discussions of English accents, this 'something' will most usually be a vowel, or a vowel in a certain phonological context. We may therefore talk abut the English 'lexical set of bath', meaning words such as bath, path, pass, last, laugh, daft where an original short a occurs before a front voiceless fricative /f/, /θ/ or /s/. The point of talking about this lexical set, rather than a particular vowel, is that in different accents of English these words have different vowels: /æ/ in the north of England and most of North America, /aː/ in the south of England, Australia, New Zealand and South Africa.


 通時的には,ある音変化が,しばしばあるように,限定された音声環境においてのみ生じた場合や,あるいはその他の理由で特定の単語群のみに生じた場合に,それが生じた単語群を,その他のものと区別しつつまとめて呼びたい場合に便利である.共時的には,そのような音変化が生じた変種と生じていない変種を比較・対照する際に,注目すべき語群として取り上げるときに便利である.
 要するに,音変化の起こり方には語彙を通じて斑があるものだという事実を認めた上で,同じように振る舞った(あるいは振る舞っている)単語群を束ねたとき,その単語群の単位を "lexical set" と呼ぶわけだ.たいしたことを言っているわけではないのだが,そのような単位名がついただけで,何か実質的なものをとらえられたような気がするから不思議だ.用語というのはすこぶる便利である(たたし,ときに危ういものともなり得る).

 ・ Trudgill, Peter. A Glossary of Sociolinguistics. Oxford: Oxford University Press, 2003.

Referrer (Inside): [2019-10-19-1]

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2019-10-13 Sun

#3821. Old Saxon からの借用語 [loan_word][borrowing][lexicology][old_saxon][germanic][dutch][flemish][german]

 英語史において,英語と同じ西ゲルマン語群の姉妹言語である Old Saxon の存在感は薄い.しかし,ゼロではない.昨日の記事「#3819. アルフレッド大王によるイングランドの学問衰退の嘆き」 ([2019-10-11-1]) で触れた,アルフレッド大王の教育改革に際して,John という名の古サクソン人が補佐を務めていたという記録がある.また,Genesis B として知られる古英詩には,9世紀の Old Saxon から翻訳された1節が含まれていることも知られている.
 Genesis B には,hearra (lord), sima (chain), landscipe (region), heodæg (today) を含む少数の Old Saxon に由来するとおぼしき語が確認される.いずれも後代に受け継がれなかったという点では,英語史上の意義は小さいといわざるを得ない.しかし,必要とあらばありとあらゆる単語を多言語から借りるという,後に発達する英語の雑食的な特徴が,古英語期にすでに現われていたということは銘記しておいてよい (Crystal 27) .
 一般に,英語史において「遺伝的」関係が近い西ゲルマン語群からの借用語は多くはない.遺伝的関係が近いのであれば,現実の言語接触も多かったはずではないかと想像されるが,そうでもない.たとえば,(高地)ドイツ語からの借用語は「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1]),「#2621. ドイツ語の英語への本格的貢献は19世紀から」 ([2016-06-30-1]) でみたように,全体としては目立たない.それなりの規模で英語に影響を与えたといえるのは,オランダ語やフラマン語くらいだろう.これらの低地諸語からの語彙的影響については,「#149. フラマン語と英語史」 ([2009-09-23-1]),「#2645. オランダ語から借用された馴染みのある英単語」 ([2016-07-24-1]),「#2646. オランダ借用語に関する統計」 ([2016-07-25-1]),「#3435. 英語史において低地諸語からの影響は過小評価されてきた」 ([2018-09-22-1]),「#3436. イングランドと低地帯との接触の歴史」 ([2018-09-23-1]) を参照されたい.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

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2019-10-10 Thu

#3818. 古英語における「自明の複合語」 [lexicology][word_formation][oe][kenning][compound][disguised_compound]

 「#3801. gan にみる古英語語彙の結合的性格」 ([2019-09-23-1]) では,主として古英語の派生語 (derivative) の広がりをみたが,古英語語彙の結合的性格は,複合語 (compound) によって一層よく示される.複合語とは,自立した2つ以上の単語をつなぎ合わせて新たに1つの単語を作ったもので,現代英語でも girlfriendconvenience store などでお馴染みのタイプの単語である.
 したがって,現代英語でも複合 (compounding) という語形成はおおいに活躍しているのだが,古英語ではその活躍の幅が広く,また天真爛漫,天衣無縫ですらある.複合語の各要素の意味を知っていれば,それらをつなぎ合わせた複合語自体の意味もおよそ容易に理解できることから,"self-explaining compounds" と呼ばれることもある.Crystal (22) より,古英語からの「自明の複合語」の例をいくつか挙げてみよう.

 ・ gōdspel < gōd 'good' + spel 'tidings': gospel
 ・ sunnandæg < sunnan 'sun's' + dæg 'day': Sunday
 ・ stæfcræft < stæf 'letters' + cræft 'crat': grammar
 ・ mynstermann < mynster 'monastery' + mann 'man': monk
 ・ frumweorc < frum 'beginning' + weorc 'work': creation
 ・ eorþcræft < eorþ 'earth' + cræft 'craft': geometry
 ・ rōdfæstnian < rōd 'cross' + fæstnian 'fasten': crucify
 ・ dægred < dæg 'day' + red 'red': dawn
 ・ lēohtfæt < lēoht 'light' + fæt 'vessel': lamp
 ・ tīdymbwlātend < tīd 'time' + ymb 'about' + wlātend 'gaze': astronomer


 もちろん「自明の」といっても程度の差はあり,最後の tīdymbwlātend などは本当に自明かどうかは疑わしい.また,形式的な変形により本来の自明度が失われた偽装複合語 (disguised_compound) なるものもあれば,あえて自明さを封じ込めることで文学的効果やナゾナゾ効果を醸し出す隠喩的複合語 (kenning) なるものもある(各々「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1]),「#472. kenning」 ([2010-08-12-1]) を参照).ただし,いずれも「自明の複合語」という基礎があった上での応用編ともいうべきものではあろう.「自明の複合語」は,古英語の語形成における際立った特徴の1つといってよい.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

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2019-10-09 Wed

#3817. hale の語根ネットワーク [etymology][oe][word_family][lexicology][old_norse][word_formation][affixation][derivation][cognate]

「#1783. whole の <w>」 ([2014-03-15-1]),「#3275. 乾杯! wassail」 ([2018-04-15-1]) の記事で触れたように,hail, hale, heal, holy, whole, wassail などは同一語根に遡る,互いに語源的に関連する語群である.古英語 hāl (完全な,健全な,健康な)からの派生関係をざっと見てみよう.
 まず,古英語 hāl の直接の子孫が,halewhole である.後者は,それ自体が基体となって wholesome, wholesale, wholly などが派生している.
 次に名詞接尾辞を付した古英語 hǣlþ からは,お馴染みの単語 health, healthy, healthful が現われている.
 動詞形 hǣlan からは heal, healer が派生した.また,行為者接尾辞を付した Hælend は「救済者(癒やす人)」を意味する重要な古英語単語だった.
 形容詞接尾辞を付加した hālig からは holy, holiness, holiday が派生している.hālig を元にして作られた動詞 hālgian からは,hallow, Halloween が現われている.
 一方,古英語 hāl に対応する古ノルド語の同根語 heill の影響化で,hail, hail from, hail fellow, wassail なども英語で用いられるようになった.
 古英語の語形成の豊かさと意味変化・変異の幅広さを味わうには,うってつけの単語群といえるだろう.以上,Crystal (22) より.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

Referrer (Inside): [2020-07-14-1] [2020-03-22-1]

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2019-10-01 Tue

#3809. "Rise up, rebel, revolt --- how the English language betrays class and power" [lexical_stratification][lexicology][register][sociolinguistics][diglossia]

 The Guardian にて,英語語彙の3層構造に関する標題の記事が挙げられていた(記事はこちら).  *
 英語語彙の3層構造については本ブログでも「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) やそこから張ったリンク先の記事でいろいろと解説し議論してきたので,ここで詳しく繰り返すことはしない.概要のみ述べておくと,英語語彙は3段のピラミッドを構成しており,一般には最下層に英語本来語が,中間層にフランス借用語が,最上層にラテン借用語が収まっている.これは歴史的な言語接触の遺産であるとともに,中世から初期近代のイングランド社会において英語話者,フランス語話者,ラテン語話者の各々がいかなる社会階層に属していたかを映し出す鏡でもある.非常に単純化していえば,下層から上層に向かって,"those who work" or "workers", "those who fight" or "clerks", "those who pray" or "the powerful"という集団が所属していたということになる.
 標題の記事の内容は,この伝統的な階層区分について,EU離脱などを巡って分断している現代イギリス社会にも対応物があるという趣旨であり,それによると最下層が "workers" というのは変わらないが,中間層は "the middle class" に,最上層は "the clerkly class" に対応するという."the clerkly class" に含まれるのは,"academics, thinktankers, lawyers, writers, many artists, scientists, journalists and students, some comedians and politicians, even some entrepreneurs, as well as actual clerics --- anyone whose sense of self depends on an abstract frame of reference" ということらしい.
 記事の書き手は,中世の社会階層,現代の社会階層,英語の語彙階層の平行性(および,ときに非平行性)を指摘しながら現代イギリス社会を批評しており,議論の内容は言語学的というよりは,明らかに政治的である.しかし,語彙の3層構造について1つ重要なことを述べている."[French and Latin] seeped into what we call English and made themselves at home, giving the language its fantastical redundancy, creating something half-Germanic, half-Romance. Trilinguality was internalised." というくだりだ.もともとは社会的な現象である diglossia における上下関係が,いかにして意味論・語用論的な register の上下関係へと「言語内化」するのか,というのが私の長らくの問題意識なのだが,ここでさらっと "internalised" と述べられている現象の具体的なプロセスこそが知りたいのである.
 未解決の問題ではあるが,関連する話題を以下のような記事で扱ってきたので,ご参照を.

 ・ 「#1583. swine vs pork の社会言語学的意義」 ([2013-08-27-1])
 ・ 「#1491. diglossia と borrowing の関係」 ([2013-05-27-1])
 ・ 「#1489. Ferguson の diglossia 論文と中世イングランドの triglossia」 ([2013-05-25-1])
 ・ 「#1380. micro-sociolinguistics と macro-sociolinguistics」 ([2013-02-05-1])

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2019-09-23 Mon

#3801. gan にみる古英語語彙の結合的性格 [lexicology][word_formation][oe][lexical_stratification]

 現代英語の語彙に3層構造が認められることは,本ブログで「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) を始め,そこに張ったリンク先の記事や,lexical_stratification の各記事で注目してきた.端的にいえば,歴史を通じて様々な言語と接触してきたなかで,語形的に関連しない類義語が借用され蓄積されてきたことに起因する.おかげで,ask -- question -- interrogate のように,語形としては結びつかない「分離的な」 (dissociated) 語彙の性格をもつことになった.
 一方,語彙の借用が僅かしかなかった古英語は,1つの基本的な語彙素をもとにして関連語を累々と作り出していく語形成が得意であり,結果として生じた語彙は「結合的な」 (associative) 性格を示した (Kastovsky 294) .この古英語語彙の結合的性格を例証するために,Kastovsky (294--96) に拠って,「行く」を意味する単純な語彙素 gan を取り上げ,そのおびただしい関連語を挙げてみよう.

(1) gan/gangan 'go, come, move, proceed, depart; happen'
(2) derivatives:
   (a) gang 'going, journey; track, footprint; passage, way; privy; steps, platform'; compounds: ciricgang 'churchgoing', earsgang 'excrement', faldgang 'going into the sheep-fold', feþegang 'foot journey', forlig-gang 'adultery', hingang 'a going hence, death', hlafgang 'a going to eat bread', huselgang 'partaking in the sacrament', mynstergang 'the entering on a monastic life', oxangang 'hide, eighth of a plough-land', sulhgang 'plough-gang = as much land as can properly be tilled by one plough in one day'; gangern, gangpytt, gangsetl, gangstol, gangtun, all 'privy'
   (b) genge n., sb. 'troops, company'
   (c) -genge f., sb. in nightgenge 'hyena, i.e. an animal that prowls at night'
   (d) -genga m., sb. in angenga 'a solitary, lone goer', æftergenga 'one who follows', hindergenga 'one that goes backwards, a crab', huselgenga 'one who goes to the Lord's supper', mangenga 'one practising evil', nihtgenga 'one who goes by night, goblin', rapgenga 'rope-dancer', sægenga 'sea-goer, mariner; ship'
   (e) genge adj. 'prevailing, going, effectual, agreeable'
   (f) -gengel sb. in æftergengel 'successor' (perhaps from æftergengan, wk. vb. 'to go')
(3) compounds with verbal first constituent, i.e. V + N (some of them might, however, also be treated as N + N, i.e. with gang as in (2a): gangdæg 'Rogation day, one of the three processional days before Ascension day', gangewifre 'spider, i.e. a weaver that goes', ganggeteld 'portable tent', ganghere 'army of foot-soldiers', gangwucu 'the week of Holy Thursday, Rogation week'
(4) gengan wk. vb. 'to go' < *gang-j-an; æftergengness 'succession, posterity'
(5) prefixations of gan/gangan;
   (a) agan 'go, go by, pass, pass into possession, occur, befall, come forth'
   (b) began/begangan 'go over, go to, visit; cultivate; surround; honour, worship' with derivatives begánga/bígang 'practice, exercise, worship, cultivation'; begánga/bígenga 'inhabitant, cultivator' and numerous compounds of both; begenge n. 'practice, worship', bigengere 'worker, worshipper'; bigengestre 'hand maiden, attendant, worshipper'; begangness 'calendae, celebration'
   (c) foregan 'go before, precede' with derivatives foregenga 'forerunner, predecessor', foregengel 'predecessor'
   (d) forgan 'pass over, abstain from'
   (e) forþgan 'to go forth' with forþgang 'progress, purging, privy'
   (f) ingan 'go in' with ingang 'entrance(-fee), ingression', ingenga 'visitor, intruder'
   (g) niþergan 'to descend' with niþergang 'descent'
   (h) ofgan 'to demand, extort; obtain; begin, start' with ofgangende 'derivative'
   (i) ofergan 'pass over, go across, overcome, overreach' with ofergenga 'traveller'
   (j) ongan 'to approach, enter into' with ongang 'entrance, assault'
   (k) oþgan 'go away, escape'
   (l) togan 'go to, go into; happen; separate, depart' with togang 'approach, attack'
   (m) þurhgan 'go through'
   (n) undergan 'undermine, undergo'
   (o) upgan 'go up; raise' with upgang 'rising, sunrise, ascent', upgange 'landing'
   (p) utgan 'go out' with utgang 'exit, departure; privy; excrement; anus'; ?utgenge 'exit'
   (q) wiþgan 'go against, oppose; pass away, disappear'
   (r) ymbgan 'go round, surround' with ymbgang 'circumference, circuit, going about'.


 これらの語彙素には,すべて語幹 gan (多少の変形が加えられているとしても)が含まれている.古英語語彙の結合的な性格の一端を垣間見ることができただろう.
 古英語の語形成の類型論的な位置づけについては,同じく Kastovsky に拠った「#3358. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (1)」 ([2018-07-07-1]),「#3359. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (2)」 ([2018-07-08-1]),「#3360. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (3)」 ([2018-07-09-1]) を参照.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Semantics and Vocabulary." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 290--408.

Referrer (Inside): [2019-10-10-1]

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2019-09-22 Sun

#3800. 語彙はその言語共同体の世界観を反映する [semantics][lexeme][lexicology][sapir-whorf_hypothesis][linguistic_relativism]

 語彙がその言語を用いる共同体の関心事を反映しているということは,サピア=ウォーフの仮説 (sapir-whorf_hypothesis) や Humboldt の「世界観」理論 (Weltanschauung) でも唱えられてきた通りであり,言語について広く関心をもたれる話題の1つである(「#1484. Sapir-Whorf hypothesis」 ([2013-05-20-1]) を参照) .
 言語学には語彙論 (lexicology) という分野があるが,この研究(とりわけ歴史的研究)が有意義なのは,1つには上記の前提があるからだ.Kastovsky (291) が,この辺りのことを上手に言い表わしている.

It is the basic function of lexemes to serve as labels for segments of extralinguistic reality that for some reason or another a speech community finds noteworthy. Therefore it is no surprise that even closely related languages will differ considerably as to the overall structure of their vocabulary, and the same holds for different historical stages of one and the same language. Looked at from this point of view, the vocabulary of a language is as much a reflection of deep-seated cultural, intellectual and emotional interests, perhaps even of the whole Weltbild of a speech community as the texts that have been produced by its members. The systematic study of the overall vocabulary of a language is thus an important contribution to the understanding of the culture and civilization of a speech community over and above the analysis of the texts in which this vocabulary is put to communicative use. This aspect is to a certain extent even more important in the case of dead languages such as Latin or the historical stages of a living language, where the textual basis is more or less limited.


 したがって,たとえば英語歴史語彙論は,過去1500年余にわたる英語話者共同体の関心事(いな,世界観)の変遷をたどろうとする壮大な試みということになる.そのような試みの1つの結実が,OED のような歴史的原則に基づいた大辞典ということになる.
 語彙が世界観を反映するという視点は言語相対論 (linguistic_relativism) の視点でもあるし,対照言語学的な関心を呼び覚ましてもくれる.そちらに関心のある向きは,「#1894. 英語の様々な「群れ」,日本語の様々な「雨」」 ([2014-07-04-1]),「#1868. 英語の様々な「群れ」」 ([2014-06-08-1]),「#2711. 文化と言語の関係に関するおもしろい例をいくつか」 ([2016-09-28-1]),「#3779. brother と兄・弟 --- 1対1とならない語の関係」 ([2019-09-01-1]) などを参照されたい.一方,単純な語彙比較とそれに基づいた文化論に対しては注意すべき点もある.「#364. The Great Eskimo Vocabulary Hoax」 ([2010-04-26-1]),「#1337. 「一単語文化論に要注意」」 ([2012-12-24-1]) にも目を通してもらいたい.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Semantics and Vocabulary." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 290--408.

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2019-09-15 Sun

#3793. 注意すべきカタカナ語・和製英語の一覧 [waseieigo][japanese][katakana][borrowing][semantic_change][word_formation][lexicology][false_friend]

 和製英語の話題については「#1624. 和製英語の一覧」 ([2013-10-07-1]) を始めとして (waseieigo) の各記事で取り上げてきた.英語史上も「英製羅語」「英製仏語」「英製希語」などが確認されており,「和製英語」は決して日本語のみのローカルな話しではない.ひとかたならぬ語彙借用の歴史をたどってきた言語には,しばしば見られる現象である.
 すでに先の記事で和製英語の一覧を示したが,小学館の『英語便利辞典』に別途「注意すべきカタカナ語・和製英語」 (pp. 450--53) と題する該当語一覧があったので,それを再現しておこう.日本語としてもやや古いもの(というよりも死語?)が少なくないような・・・.

アース(米)ground; (英)earth
アットマークat sign
アドバルインadvertising balloon
アニメanimation
アパート(米)apartment house; (英)block of flats
アフターサービスafter-sales service
アルミホイルtinfoil; aluminum foil
アンカーanchor(man/woman)
アンプamplifier
イージーオーダーsemi-tailored
イエスマンyes-man
イメチェン(イメージチェンジ)makeover
イラストillustration
インクエットプリンターink-jet printer
インターホンintercom
インフォマーシャル(情報コマーシャル)info(r)mercial
インフラinfrastructure
ウィンカー(米)turn signal; (英)indicator
ウーマンリブwomen's liberation
エアコンair conditioner
エキスextract
エネルギッシュなenergetic
エンゲージリングengagement ring
エンジンキーignition key
エンストengine stall; engine failure
エンタメentertainment
オーダーメードcustom-made; tailor-made; made to order
オートバイmotorcycle
オープンカーconvertible
オールラウンドの(網羅的)(米)all-around; (英)all-round
オキシフルhydrogen peroxide
送りバントsacrifice bunt
ガーター(米)suspender; (英)garter
ガードマン(security) guard
カーナビcar navigation system
(カー)レーサーracing driver
ガソリンスタンド(米)gas station; (英)petrol station
カタログ(米)catalog; (英)catalogue
ガッツボーズvictory pose
カメラマン(写真家)photographer
カメラマン(映画などの)cameraman
カンニングcheating
缶ビールcanned beer
キータッチkeyboarding
キーホルダーkey chain; key ring
キスマークhickey; kiss mark
ギフトカード(ギフト券)gift certificate
キャスター(総合司会者)newscaster
キャッチボールをするplay catch
キャッチホンtelephone with call waiting
クーラー(冷房装置)air conditioner
クラクション(car) horn
クリスマス (X'mas)Xmas; Christmas
ゲームセンター(米)(penny) arcade; amusement arcade
コインロッカーcoin-operated locker
ゴーカートgo-kart
コークハイcoke highball
ゴーグルgoggle
ゴーサインall-clear; green light
ゴーストップtraffic signal
コーヒーsたんどcoffee bar
コーポラスcondominium
ゴールデンアワーprime time
コールドマーマcold wave
ゴムバンドrubber band; (英)elastic band
ゴロ(野球)grounder
コンセント(米)(electrical) outlet; (英)(wall) socket
コンパparty; get-together
コンパニオン(案内係)escort; guide
コンビcombination
コンビニconvenience store
サイダーsoda
サイドビジネス(アルバイト)sideline
サイドミラー(米)side(view) mirror; (英)wing mirror, door mirror
サイン(署名)signature
サイン(有名人などの)autograph
サントラsound track
シーズンオフoff season
ジーバンjeans
ジェットコースターroller coaster
シスアドsystem administrator
システムキッチンbuilt-in kitchen unit
シャー(プ)ペン(米)mechanical pencil; (英)propelling pencil
ジャージjersey
シュークリームcream puff
シルバー(お年寄り)senior citizen
シルバーシートpriority seat
シンパ(支持者)sympathizer
スカッシュsquash
スキンシップphysical contact
スタンドプレーgrandstand play
ステッキ(walking) stick
ステン(レス)stainless steel
ストーブheater
スパイクタイヤ(米)studded tire; (英)studded tyre
スピードダウンslowdown
スピードメーターspeedometer
スペルミスspelling error; misspelling
スマートなstylish; dashing
スリッパmules; scuffs
セーフティーバントdrag bunt
セクハラsexual harassment
セレブceleb(rity)
セロテープadhesive tape; Scotch tape
ソフト(コンピュータ)software
タイプミスtypo; typographical error
タイムリミットdeadline
タイムレコーダーtime clock
タキシード(米)dinner suit; (英)tuxedo
タレントpersonality; star
ダンプカー(米)dump truck; (英)dumper truck
チャックfastener; (米)zipper; (英)zip (fastener)
チョーク(車の)choke
テーブルスピーチafter-dinner speech
テールランプ(米)tail light; (英)tail lamp
デジカメdigital camera
デモ(示威運動)demonstration
テレホンサービスtelephone information service
電子レンジmicrowave oven
ドアボーイdoorman
ドクターヘリmedi-copter
ドットプリンターdot matrix printer
トップバッターlead-off batter; lead-off man
トランク(車の)(米)trunk; (英)boot
トランプ(playing) card
トレパン(米)sweat pants; (英)track-suit trousers
ナイターnight game
ナンバープレート(米)license plate; (英)number plate
ニュースキャスターanchor(man/woman)
ニューフェースnewcomer
ネームBリューrecognition value
ネガnegative
ノースリーブ(の)sleeveless
ノート(帳面)notebook
ノルマquota
ノンステップバスkneeling bus
バイキングbuffet; buffet-style dinner; smorgasbord
バイクmotorcycle; motorbike
ハイティーンlate teens
ハイテクhigh tech(nology)
ハイビジョンhigh-definition TV system
ハウスマヌカンsales clerk
バスローブ(米)bathrobe; (英)dressing gown
パソコンpersonal computer
バックアップ(支援)backing; support
バックネットbackstop
バックマージンkickback
バックミュージックbackground music
バックミラーrear-view mirror
バックライト(米)backup light; (英)reversing light
バッターボックスbatter's box
ハッピーエンドhappy ending
パネラーpanelist
バリカンhair clippers
ハローワーク(米)employment agency; employment bureau
パンク(米)flat tire; (英)puncture
ハンストhunger strike
パンスト(米)pantyhose; (英)tights
ハンドマイク(米)bullhorn; (英)loudhailer
ハンドル(車の)steering wheel
ピーマンgreen pepper
ピッチ(速度)pace
ビニール袋plastic bag
ビラflyer; flier
ビル(建物)building
フォアボールbase on balls
プッシュホンpush-button phone; touch-tone phone
ブラインドタッチtouch typing
プラモデルplastic model
ブランド物brand-name goods
フリーサイズone size fits all
フリーターjob-hopping part-timer worker
フリーダイヤル(米)toll-free; (英)freephone; freefone
プリンpudding
プレイガイドticket agency
ブレーキランプbrake light
ブレスレットbracelet
プレゼンpresentation
フレックスタイムflexible working hours; flextime; flexible time
プレハブprefabricated house
ブロックサイン(野球)block signal
プロレスprofessional wrestling
フロント(米)front desk; (英)reception
フロントガラス(米)windsheeld; (英)windscreen
ペイオフdeposit insurance cap; deposit payoff
ベースアップ(米)(pay) raise; (英)(pay) rise
ペーパーテストwritten test
ペーパードライバーdriver in name only; driver on paper only
ベッドシーンbedroom scene
ベッドタウンbedroom suburb
ペットボトルplastic bottle; PET(ピーイーティー)bottle
ヘッドライト(米)headlight; (英)headlamp
ベテランexpert
ベビーカー(米)stroller; (英)pushchair
ベビーベッドbaby crib
ヘルスメーターbathroom scales
ペンションresort inn
ホイールキャップhub cap
ボーイ(ホテルなどの)page; bellboy; bellhop
ホーム(駅の)platform
ホームドクターfamily doctor
ホームヘルパー(米)caregiver; (英)carer
ボールペン(米)ball-point pen; (英)biro
ポジpositive
ホッチキスstapler
ボディーチェックbody search
ホテルマンhotel employee
ボンネット(米)hood; (英)bonnet
マークシートcomputerized answer sheet
マイカーowned car; private car
マグカップmug
マザコンmother complex
マジックインキmarker, marking pen, felt-tip (pen)
マスコミmass communication(s), (mass) media,
マルチ商法(ねずみ講式)pyramid selling
マンションcondominium
ミシンsewing machine
ミスタイプtype; typographical error
ミルクティーtea with milk
メーター(機器)(米)(英)とも meter
メートル(距離)(米)meter; (英)metre
メロドラマsoap opera
モーニングコールwake-up call
モーニングサービスbreakfast special
ユビキタスubiquitous
ラケット(ピンポンの)(米)paddle; (英)bat
ラフな(スタイル)casual; informal
リハビリrehabilitation
リビングキッチンliving room with a kitchenette
リフォームする(家など)remodel
リムジンバスlimousine
リモコンremote control
レトルトretort
レモンティーtea with lemon
ローティーンearly teens
ワープロword processor
ワイシャツ(dress) shirt
ワイドショーvariety program
ワンボックスカーvan
ワンマンautocrat
ワンルームマンションstudio apartment; one-room apartment


 ・ 小学館外国語辞典編集部(編) 『英語便利辞典』 小学館,2006年.

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2019-09-12 Thu

#3790. 650年以前のラテン借用語の一覧 [lexicology][latin][loan_word][oe][borrowing]

 過去3日間の記事(「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1]),「#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性」 ([2019-09-10-1]),「#3789. 古英語語彙におけるラテン借用語比率は1.75%」 ([2019-09-11-1]))でも触れたように,650年辺りより前にラテン語から英語へ流入した単語には,意外と日常的なものが多く含まれている.
 これを確認するには,具体的な単語一覧を眺めてみるのが一番だ.Durkin (107--16) を参照して,以下に,意味の分野ごとに,各々の単語について古英語の借用形,現代の対応語(あるいは語義),ラテン語形を示す.先頭に "?" を付している語は,早期の借用語であると強い根拠をもっては認められない語である.

[ Religion and the Church ]

 ・ abbod, abbot 'abbot' [L abbat-, abbas]
 ・ abbodesse 'abbess' [L abbatissa]
 ・ antefn, also (later) antifon, antyfon 'antiphon (type of liturgical chant)' [L antifona, antefona]
 ・ ælmesse, ælmes 'alms, charity' [L *alimosina, variant of elemosina]
 ・ bisċeop 'bishop' [probably L episcopus]
 ・ cristen 'Christian' [L christianus]
 ・ dēofol, dīofol 'devil' [perhaps Latin diabulus]
 ・ draca 'dragon, monstrous beast; the devil' [L draco]
 ・ engel, angel 'angel' [probably L angelus]
 ・ mæsse, messe 'mass' (the religious ceremony) [L missa]
 ・ munuc 'monk' [L monachus]
 ・ mynster 'monastery; importan church' [L monasterium]
 ・ nunne 'nun' [L nonna]
 ・ prēost 'priest' [probably L *prebester, presbyter]
 ・ senoð, seonoð, sinoð, sionoð 'council, synod, assembly' [L synodus]
 ・ ? ancra, ancor 'anchorite' [L anachoreta, perhaps via Old Irish anchara]
 ・ ? ærċe-, erċe-, arce- 'arch-' (in titles) [L archi-]
 ・ ? relic- (in relicgang (probably) 'bearing of relics in a procession') [clipping of L reliquiae or OE reliquias]
 ・ ? reliquias 'relics' [L reliquiae]

[ Learning and scholarship ]

 ・ Læden 'Latin; any foreign language', also (later) lātin [L Latina]
 ・ sċolu, also (later) scōl 'troop, band; school' [L schola]
 ・ ? græf 'stylus' [L graphium]
 ・ ? stǣr (or stær) 'history' [probably ultimately L historia, perhaps via Celtic]
 ・ ? traht 'text, passage, commentary' [L tractus]
 ・ ? trahtað 'commentary' [L tractatus]

[ Plants, fruit, and products of plants ]

 ・ bēte 'beet, beetroot' [L beta]
 ・ billere denoting several water plants [L berula]
 ・ box 'box tree', later also 'box, receptable' [L buxus]
 ・ celendre, cellendre 'coriander' [L coliandrum]
 ・ ċerfille, ċerfelle 'chervil' [L caerefolium]
 ・ *ċiċeling 'chickpea' [L cicer]
 ・ ċīpe 'onion' [L cepe]
 ・ ċiris-(bēam) 'cherry tree' [L *ceresia, cerasium]
 ・ ċisten-, ċistel-, ċist-(b&#275;am) 'chestnut tree' [L castinea or castanea]
 ・ coccel 'corn cockle, or other grain-field weed' [L *cocculus < coccum]
 ・ codd-(æppel) 'quince' [L cydonium, cotoneum, or cotonium]
 ・ consolde '(perhaps) daisy or comfrey' [L consolida]
 ・ corn-(trēo) 'cornel tree' [L cornus]
 ・ cost 'costmary' [L constum]
 ・ cymen 'cumin' [L cuminum]
 ・ cyrfet 'gourd' [L cucurbita]
 ・ earfe plant name, probably vetch [L ervum]
 ・ elehtre '(probably) lupin' [L electrum]
 ・ eofole 'dwarf elder, danewor' [L ebulus]
 ・ eolone, elene 'elecampane' (a plant) [L inula, helenium]
 ・ finol, finule, finugle 'fennel' [L fenuculum]
 ・ glædene a plant name (usually for a type of iris) [L gladiola]
 ・ humele 'hop plant' [L humulus]
 ・ lāser 'weed, tare' [L laser]
 ・ leahtric, leahtroc, also (later) lactuce 'lettuce' [L lactuca]
 ・ *lent 'lentil' [L lent-, lens]
 ・ lufestiċe 'lovage' [L luvesticum]
 ・ mealwe 'mallow' [L malva]
 ・ *mīl 'millet' [L milium]
 ・ minte, minta 'mint' [L mentha]
 ・ næp 'turnip' [L napus]
 ・ nefte 'catmint' [L nepeta]
 ・ oser or ōser 'osier' [L osaria]
 ・ persic 'peach' [L persicum]
 ・ peru 'pear' [L pirum, pera]
 ・ piċ 'pitch' (the resinous substance) [L pic-, pix]
 ・ pīn 'pine' [L pinus]
 ・ pipeneale 'pimpernel' [L pipinella]
 ・ pipor 'pepper' [L piper]
 ・ pieir 'pear tree' [L *pirea]
 ・ pise, *peose 'pea' [L pisum]
 ・ plūme 'plum; plum tree' and plȳme 'plum; plum tree' [both perhaps L pruna]
 ・ pollegie 'penny-royal' [L pulegium]
 ・ popiġ, papiġ 'poppy' [L papaver]
 ・ porr 'leek' [L porrum]
 ・ rǣdiċ 'radish' [L radic-, radix]
 ・ rūde 'rue' [L ruta]
 ・ syrfe 'service tree' [L *sorbea, sorbus]
 ・ ynne- (in ynnelēac) 'onion' [L unio]
 ・ ? æbs 'fir tree' [L abies]
 ・ ? croh, crog 'saffron; type of dye; saffron colour' [L crocus]
 ・ ? fīċ 'fig tree, fig' [L ficus]
 ・ ? plante 'young plant' [L planta]
 ・ ? sæðerie, satureġe 'savory (plant name)' [L satureia]
 ・ ? sæppe 'spruce fir' [L sappinus]
 ・ ? sōlsēċe 'heliotrope' [L solsequium, with substitution of a derivative of OE sēċan 'to seek' for the second element]

[ Animals ]

 ・ assa 'ass' [L asinum perhaps via Celtic]
 ・ capun 'capon' [probably L capon-, capo]
 ・ cat, catte 'cat' [L cattus]
 ・ cocc 'cock, rooster' [L coccus]
 ・ *cocc (in sǣcocc) 'cockle' [perhaps L *coccum]
 ・ culfre 'dove' [perhals L columbra, columbula]
 ・ cypera 'salmon at the time of spawning' [L cyprinus]
 ・ elpend, ylpend 'elephant', also shortend to ylp [L elephant-, elephans]
 ・ eosol, esol 'ass' [L asellus]
 ・ lempedu, also (later) lamprede 'lamprey' [L lampreda]
 ・ mūl 'mule' [L mulus]
 ・ muscelle 'mussel' [L musculus]
 ・ olfend 'camel' [probably L elephant-, elephans, with the change in meaning arising from semantic confusion]
 ・ ostre 'oyster' [L ostrea]
 ・ pēa 'peafowl' [L pavon-, pavo]
 ・ *pine- (in *pinewincle, as suggested emendation of winewincle) 'wincle' [perhals L pina]
 ・ rēnġe 'spider' [L aranea]
 ・ strȳta 'ostrich' [L struthio]
 ・ trūht 'trout' [L tructa]
 ・ turtle, turtur 'turtle dove' [L turtur]

[ Food and drink (see also plants and animals) ]

 ・ ċȳse, ċēse 'cheese' [L caseus]
 ・ foca 'cake baked on the ashes of the hearth' (only attested with reference to Biblical contexts or antiquity) [L focus]
 ・ must 'wine must, new wine' [L mustum]
 ・ seim 'lard, fat' (only attested in figurative use) [L *sagimen, sagina]
 ・ senap, senep 'mustard' [L sinapis]
 ・ wīn 'wine' [L vinum]

[ Medicine ]

 ・ butere 'butter' [L butyrum, buturum]
 ・ ċeren 'wine reduced by boiling for extra sweetness' [L carenum]
 ・ eċed 'vinegar' [L acetum]
 ・ ele 'oil' [L oleum]
 ・ fēfer or fefer 'fever' [L febris]
 ・ flȳtme 'lancet' [L fletoma]

[ Transport; riding and horse gear ]

 ・ ancor, ancra 'anchor (also in figurative use)' [L ancora]
 ・ cæfester 'muzzle, halter, bit' [L capistrum, perhaps via Celtic]
 ・ ċæfl 'muzzle, halter, bit' [L capulus]
 ・ ċearricge (meaning very uncertain, perhaps 'carriage') [perhaps L carruca]
 ・ punt 'punt' [L ponton-, ponto]
 ・ sēam 'burden; harness; service which consisted in supplying beasts of burden' [L sauma, sagma]
 ・ stǣt 'road; paved road, street' [L strata]

[ Tools and implements ]

 ・ cucler 'spoon' [L coclear]
 ・ culter 'coulter; (once) dagger' [L culter]
 ・ fæċele 'torch' [L facula]
 ・ fann 'winnowing fan' [L vannus]
 ・ forc, forca 'fork' [L furca]
 ・ *fossere or fostere 'spade' [L fossorium]
 ・ inseġel, insiġle 'seal; signet' [L sigillum]
 ・ līne 'cable, rope, line, cord; series, row, rule, direction' [probably L linea]
 ・ mattuc, meottuc, mettoc 'mattock' [perhaps L *matteuca]
 ・ mortere 'mortar' [L mortarium]
 ・ panne 'pan' [perhaps L panna]
 ・ pæġel 'wine vessel; liquid measure' [L pagella]
 ・ pihten part of a loom [L pecten]
 ・ pīl 'pointed object; dart, shaft, arrow; spike, nail; stake' [L pilum]
 ・ pīle 'mortar' [L pila]
 ・ pinn 'pin, peg, pointer; pen' [probably L penna]
 ・ pīpe 'tube, pipe; pipe (= wind instrument); small stream' [L pipa]
 ・ pundur 'counterpoise; plumb line' [L ponder-, pondus]
 ・ seġne 'fishing net' [L sagena]
 ・ sicol 'sickle' [L *sicula, secul < secare 'to cut']
 ・ spynġe, also (later) sponge 'sponge' [L spongia, spongea]
 ・ timple instrument used in weaving [L templa]
 ・ turl 'ladele' [L trulla]
 ・ ? stropp 'strap' [L stroppus or struppus]
 ・ ? trefet 'trivet, tripod' [L tripes]

[ Warware and weapons ]

 ・ camp 'battle; war; field' [L campus]
 ・ cocer 'quiver' [perhaps L cucurum]

[ Buildings and parts of buildings; construction; towns and settlements ]

 ・ ċeafor-(tūn), cafer-(tūn) 'hall, court' [L capreus]
 ・ ċealc, calc 'chalk, plaster' [L calc-, calx]
 ・ ċeaster, ċæster 'fortification; city, town (especially one with a wall)' [L castra]
 ・ ċipp 'rod, stick, beam (especially in various specific contexts)' [probably L cippus]
 ・ clifa, cleofa, cliofa 'chamber, cell, den, lair' [perhaps L clibanus 'oven']
 ・ clūse, clause 'lock; confine, enclosure; fortified pass' [L clausa]
 ・ clūstor 'lock, bolt, bar, prison' [L claustrum]
 ・ cruft 'crypt, cave' [L crupta]
 ・ cyċene 'kitchen' [L coquina]
 ・ cylen 'kiln, oven' [L culina]
 ・ *cylene 'town' (only as place-name element) [L colonia]
 ・ mūr 'wall' [L murus]
 ・ mylen 'mill' [L molina]
 ・ pearroc 'enclosure; fence that forms an enclosure' [perhaps L parricus]
 ・ pīsle or pisle 'warm room' [L pensilis]
 ・ plætse, plæce, plæse 'open place in a town, square, street' [L platea]
 ・ port 'town with a harbour; harbour, port; town (especially one with a wall or a market)' [L portus]
 ・ post 'post; doorpost' [L postis]
 ・ pytt 'hole in the ground; excavated hole; pit; grave; hell' [pherlaps L puteus]
 ・ sċindel 'roof shingle' [L scindula]
 ・ solor 'upper room; hall, dwelling; raised platform' [L solarium]
 ・ tīġle, tīgele, tigele 'earthen vessel; potshert; tile, brick' [L tegula]
 ・ torr 'tower' [L turris]
 ・ weall 'wall, rampart, earthwork' [L vallum]
 ・ wīċ 'dwelling; village; camp, fortress' [L visum]
 ・ ? port 'gate, gateway' [L porta]
 ・ ? prtiċ 'porch, portico, vestibule, chapel' [L poorticus]

[ Containers, vessels, and receptacles ]

 ・ amber 'vessel, dry or liquid measure' [L amphora, ampora]
 ・ binn, binne 'basket, bin; manger' [L benna]
 ・ buteruc 'bottle' [perhaps from a derivative of L buttis]
 ・ byden 'vessel, container; cask, tub; tub-shaped geographical feature' [probably L *butina]
 ・ bytt 'bottle, flask, cask, wine skin' [L *buttia]
 ・ ċelċ, cælc, calic 'drinking vessel, cup' [L calic-, calix]
 ・ ċist, ċest 'chest, box, coffer; reliquary; coffin' [L cista]
 ・ cuppe 'cup', also copp 'cup, beaker; gloss for Latin spongia sponge' [L cuppa]
 ・ cȳf 'large jar, vessel, or tub' [L cupia < cupa]
 ・ cȳfl 'tub, bucket' [L cupellus]
 ・ cyll, cylle 'leather bottle, leather bag; ladele; oil lamp' [L culleus]
 ・ disċ 'dish, bowl, plate' [L discus]
 ・ earc, earce, earca, also arc, arce, arca 'ark (especially Noah's ark or the ark of the covenent), chest, coffer' [L arca]
 ・ gabote, gafote kind of dish or platter [L gabata]
 ・ ġellet 'jug, bowl, or basin' [L galleta]
 ・ læfel, lebil 'spoon, cup, bowl, vessel' [L labellum]
 ・ orc 'pitcher, crock, cup' [L orca]
 ・ pott 'pot' [perhaps L pottus]
 ・ sacc, also sæcc 'sack, bag' [L saccus]
 ・ sester 'jar, vessel; a measure' [L sextarius]
 ・ spyrte 'basket' [probably L sporta, *sportea]
 ・ ? cæpse 'box' [L copsa]
 ・ ? sċrīn 'chest; shrine' [L scrinium]
 ・ ? sċutel 'dish, platter' [L scutella]
 ・ ? tunne 'cask, tun, barrel' [L tunna]

[ Coins, money; wights and measures, units of measurement ]

 ・ dīner, dīnor type of coin, denarius [L denarius]
 ・ mīl 'mile' [L milia]
 ・ mydd 'a measure' [L modius]
 ・ mynet 'a coin; coinage, money' [L moneta]
 ・ oma 'a liquid measure' [L ama]
 ・ pund 'pound (in weight or money); pint' [L pondo]
 ・ trimes 'unit of weight, a dracm; name of a coin' [L tremissis]
 ・ ynċe 'inch' [L uncia]
 ・ yntse 'ounce' [L uncia]

[ Transactions and payments ]

 ・ ċēap 'perchase, sale, transaction, market, possessions, price' [L cauō or caupōnārī]
 ・ toll, also toln, tolne 'toll, tribute, rent, duty' [L toloneum]
 ・ trifet 'tribute' [L tributum]

[ Clothing; fabric ]

 ・ belt 'belt, girdle' [L balteus]
 ・ bīsæċċ 'pocket' [L bisaccium]
 ・ cælis 'foot-covering', also (later) calc 'sandal' [L calceus]
 ・ ċemes 'shirt, undergarment' [L camisia]
 ・ ġecorded 'having cords, corded (or perhaps fringed)' [L corda]
 ・ cugele '(monk's) cowl' [L cuculla]
 ・ fifele 'broach, clasp' [L fibula]
 ・ mentel 'cloak' [L mantellum]
 ・ pæll, pell 'fine or rich cloth; purple cloth; altar cloth rich robe' [L pallium]
 ・ pyleċe 'fur robe' [L pellicia]
 ・ seolc 'silk' [perhaps L sericum]
 ・ sīde 'silk' [L seta]
 ・ *sīric 'silk' [perhals L sericum]
 ・ socc 'light shoe' [L soccus]
 ・ swiftlēre 'slipper' [L subtalaris]
 ・ ? orel, orl 'robe, garment, veil, mantle' [L orale, orarium]
 ・ ? purpure, purpur 'deep crimson garment; deep crimson colour (imperial purple)' [L purpura]
 ・ ? sabon 'sheet' [L sabanum]
 ・ ? tæpped, teped 'cloth wall or floor covering' [L tapetum, tappetum]

[ Furniture and furnishing ]

 ・ meatte, matte 'mat; underlay for a bed' [L matta]
 ・ mēse, mīse 'table' [L mensa]
 ・ pyle, pylu 'pillow, cushion' [L pulvinus]
 ・ sċamol, sċemol, sċeomol, sċeamol 'stool, footstool, bench' [L *scamellum]
 ・ strǣl, strēaġl 'curtain; quilt, matting, bed' [L stragula]
 ・ strǣt 'bed' [L stratum]

[ Precious stones ]

 ・ ġimm 'gem, precious stone, jewel; also in figurative use' [L gemma]
 ・ meregrot 'pearl' [L margarita, but showing folk-etymological alteration after an English word for 'sea' and (probably) an English word for 'fragment, particple']
 ・ pærl '(very doubtfully) pearl' [perhals L *perla]

[ Roles, ranks, and occupations (non-religious or not specifically religious) ]

 ・ cāsere 'emperor; ruler' [L caesar]
 ・ fullere 'fuller' [L fullo]
 ・ mangere 'merchant, trader' [L mango]
 ・ mæġester, also (later) māgister or magister 'leader, master, teacher' [L magister]
 ・ myltestre 'prostitute' [L meretrix, with remodelling of the ending after the Old English feminine agent noun suffix -estre]
 ・ prafost, also profost 'head, chief, officer' [L praepositus, propositus]
 ・ sūtere 'shoumaker' [L sutor]

[ Punishment, judgement, codes of behaviour ]

 ・ pīn 'pain, fortune, anguish, punishment' [L poena]
 ・ regol, reogol 'rule; principle; code of rules; wooden ruler' [L regula]
 ・ sċrift 'something decreed as a penalty; penance; absolution; confessor; judge' [L scriptum]

[ Verbs ]

 ・ *cōfrian 'to recover' (implied by acōfrian in the same meaning) [L recuperare]
 ・ *cyrtan 'to shorten' (implied by cyrtel 'garment, tunic, cloak, gown' and (probably) ġecyrted 'cut off, shortened') [L curtus, adjective]
 ・ dīligian 'to erase, rub out; to destroy, obliterate' [L delere]
 ・ impian 'to graft; to busy oneself with' [L imputare]
 ・ *mūtian (implied by bemūtian 'to exchange' and mūtung 'exchange') [L mutare]
 ・ *nēomian 'to sound sweetly' or *nēome 'sound' [L neuma, noun]
 ・ pinsian 'to weigh, consider, reflect' [L pensare]
 ・ pīpian 'to play on a pipe' [L pipare]
 ・ pluccian 'to pluck' [perhaps L *piluccare]
 ・ *pundrian (implied by apyndrian, apundrian 'to weigh, to adjudge') [L ponderare, if not a derivative of OE punduru]
 ・ pynġan 'to prick' [L pungere]
 ・ sċrīfan 'to allot, prescribe, impose; to hear confession; to receive absolution; to have regard to' [L scribere]
 ・ seġlian 'to seal' [L sigillare]
 ・ seġnian 'to make the sign of the cross; to consecrate, bless' [L signare, if not < OE seġn]
 ・ *-stoppian (implied by forstoppian) 'to obstruct, stop up' [perhaps L *stuppare]
 ・ trifulian 'to break, bruise, stamp' [L tribulare]
 ・ tyrnan, turnian 'to turn, revolve' [L turnare]
 ・ ? cystan 'to get the value of, exchange for the worth of' [L constare]
 ・ ? dihtan, dihtian 'to direct, command, arrange, set forth' [L dictare]
 ・ ? glēsan 'to gloss, explain' [L glossare (verb) or glossa (noun)]
 ・ ? lafian 'to pour water on, to bathe, wash' [L lavare]
 ・ ? *pilian 'to peel, strip, pluck' [L pilare]
 ・ ? plantian 'to plant' [L plantare, or < OE plante]
 ・ ? *pyltan 'to pelt' (implied by later pilt, pelt) [perhaps L *pultiare, alteration of pultare]
 ・ ? sealtian 'to dance' [L saltare]
 ・ ? trahtian 'to comment on, expound; to interpret' [L tractare, if not < OE traht]

[ Adjectives ]

 ・ cirps, crisp 'curly, curly haired' [L crispus]
 ・ cyrten 'beautiful' [perhals L *cortinus]
 ・ pīs 'heavy' [L pensus]
 ・ sicor 'sure, certain; secure' [L securus]
 ・ sȳfre 'clean, pure, sober' [L sobrius]
 ・ byxen 'of box wood' [probably L buxeus]
 ・ ? cūsc 'virtuous, chaste' [L conscius, perhaps via Old Saxon kusko]

[ Miscellaneous ]

 ・ candel, condel 'candle, taper', (in figurative contexts) 'source of light' [L candela]
 ・ ċēas, ċēast 'quarrel, strife; reproof' [L causa]
 ・ ċeosol, ċesol 'hut; gullet; belly' [L casula, casella]
 ・ copor 'copper' [L cuprum]
 ・ derodine 'scarlet' [probably L dirodinum]
 ・ munt 'mountain, hill' [L mont-, mons]
 ・ plūm-, in plmfeðer '(inplural) down, feathers' [L pluma]
 ・ sælmeriġe 'brine' [L *salmuria]
 ・ sætern- (in sæterndæġ 'Saturday') [L Saturnus]
 ・ seġn 'mark, sign, banner' [L signum]
 ・ tasul, teosol 'dice; small square of stone' [L tessella, *tassellus]
 ・ tæfl 'piece used in a board game, dice; type of game played on a board, game of dice; board on which this is played' [L tabula]
 ・ -ere, forming agent nouns [probably L -arius; if so, borrowed early]
 ・ -estre, forming feminine agent nouns [perhaps L -istria]
 ・ ? coron-(b&#275;ag) 'crown' [L corona]
 ・ ? diht 'act of directing or arranging; direction, arrangement, command' [L dictum]
 ・ ? *pill (perhaps shown by pillsāpe soap for removing hair, depilatory) [perhals L pilus 'hair']

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-09-11 Wed

#3789. 古英語語彙におけるラテン借用語比率は1.75% [latin][loan_word][borrowing][oe][lexicology][statistics]

 英語語源学の第一人者 Durkin によれば,古英語期までに英語に借用されたラテン単語の数は,少なくとも600語はあるという.650年辺りを境に,前期に300語ほど,後期に300語ほどという見立てである.この600という数字を古英語語彙全体から眺めてみると,1.75%という割合がはじき出される.しかし,これらのラテン借用語単体ではなく,それに基づいて作られた合成語や派生語までを考慮に入れると,古英語語彙における割合は4.5%に跳ね上がる.Durkin (100) の解説を引用しよう.

If we take an estimate of at least 600 words borrowed (immediately) from Latin, and a total of around 34,000 words in Old English, then, conservatively, around 1.75% of the total are borrowed from Latin. If we include all compounds and derivatives formed on Latin loanwords in Old English, then the total of Latin-derived vocabulary probably comes closer to 4.5% . . . , although this figure may be a little too high, since estimates of the total size of the Old English vocabulary (native and borrowed) probably rather underestimate the numbers of compounds and derivatives.


 この数値をどう評価するかは視点の取り方次第である.後の歴史における英語の語彙借用の規模とその影響を考えれば,この段階でのラテン借用語の割合など,取るに足りない数字にみえるだろう.一方,これこそが英語の語彙借用の歴史の第一歩であるとみるならば,いわば0%から出発した借用語の比率が,すでに古英語期中に1.75%(あるいは4.5%)に達しているというのは,ある程度著しい現象であるといえなくもない.さらにいえば,その多くが千数百年を隔てた現代英語にも残っており,日常語として用いられているものも目立つのである(昨日の記事「#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性」 ([2019-09-10-1]) を参照).
 古英語のラテン借用語については英語史研究においてもさほど注目されてきたわけではないが,見方を変えれば十分に魅力的なトピックになりそうだ.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2019-09-12-1]

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2019-09-10 Tue

#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性 [latin][loan_word][oe][lexicology][lexical_stratification][statistics][borrowing]

 昨日の記事「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1]) で触れたように,古英語期以前,とりわけ650年より前に入ってきた最初期のラテン借用語には,現在でも日常的に用いられているものが多い.「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) などで見てきたように,ラテン借用語にはレベルの高い単語が多いのは事実だが,古英語期以前の借用語に関していえば,そのステレオタイプは必ずしも事実を表わしていない.
 Durkin (138--39) による興味深い数値がある.Durkin は,「#3400. 英語の中核語彙に借用語がどれだけ入り込んでいるか?」 ([2018-08-18-1]) でも示したとおり,"Leipzig-Jakarta list of basic vocabulary" と呼ばれる通言語的に最も基本的な意味を担う100語を現代英語から取り出し,そのなかにどれほど借用語が含まれているかを調査してみた.結果としては,ラテン借用語についていえば,そこには1語も含まれていなかった.
 しかし,別途 "the WOLD survey" による1,460個の基本的な意味項目からなる日常語リストで調査してみると,137語ほど(およそ10%)が古英語期以前に借用されたラテン借用語と認定されるものだった.しかも,それらの単語は,24個設けられている意味のカテゴリーのうち,"Kinship", "Quantity", "Miscellaneous function words" を除く21個のカテゴリーにわたって見出されるという.つまり,英語史上,最初期に入ってきたラテン借用語は,広い分野にわたり日常的に用いられる英語の語彙の少なからぬ部分を構成しているというわけだ.古英語の形で具体例をいくつか挙げておこう.

 ・ butere "butter"
 ・ ele "oil"
 ・ cyċene "kitchen"
 ・ ċȳse, ċēse "cheese"
 ・ wīn "wine" (and its compounds)
 ・ sæterndæġ "Saturday"
 ・ mūl "mule"
 ・ ancor "anchor"
 ・ līn "line, continuous length"
 ・ mylen (and its compounds) "mill"
 ・ scōl, sċolu (and the compound leornungscōl) "school"
 ・ weall "wall"
 ・ pīpe "pipe, tube"
 ・ pīle "mortar"
 ・ disċ "plate/platter/bowel/dish"
 ・ candel "lamp, lantern, candle"
 ・ torr "tower"
 ・ prēost and sācerd "priest"
 ・ port "harbour"
 ・ munt "mountain or hill"

 このようにラテン借用語のなかには意外と多く「基本語彙」もあることを銘記しておきたい.関連して,基本語彙の各記事も参照.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-09-09 Mon

#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質 [latin][loan_word][oe][chronology][lexicology][borrowing][link]

 英語史におけるラテン借用語といえば,古英語期のキリスト教用語,初期近代英語期のルネサンス絡みの語彙(あるいは「インク壺用語」 (inkhorn_term)),近現代の専門用語を中心とする新古典主義複合語などのイメージが強い.要するに「堅い語彙」というステレオタイプだ.本ブログでも,それぞれ以下の記事で取り上げてきた.

 ・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
 ・ 「#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」 ([2010-02-17-1])
 ・ 「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1])
 ・ 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1])
 ・ 「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1])
 ・ 「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1])
 ・ 「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1])
 ・ 「#1615. インク壺語を統合する試み,2種」 ([2013-09-28-1])
 ・ 「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1])
 ・ 「#3438. なぜ初期近代英語のラテン借用語は増殖したのか?」 ([2018-09-25-1])
 ・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
 ・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])

 俯瞰的にいえば,このステレオタイプは決して間違いではないが,日常的で卑近ともいえるラテン借用語も存在するという事実を忘れてはならない.大雑把にいえば紀元650年辺りより前,つまり大陸時代から初期古英語期にかけて英語(あるいはゲルマン諸語)に入ってきたラテン単語の多くは,意外なことに,よそよそしい語彙ではなく,日々の生活になくてはならない語彙を構成しているのである.この事実は「ラテン語=威信と教養の言語」という等式の背後に隠されているので,よく確認しておくことが必要である.
 650年というのはおよその年代だが,この前後の時代に入ってきたラテン借用語のタイプは異なっている.単純化していえば,それ以前は「親しみのある」日常語,それ以降は「お高い」宗教と学問の用語が入ってきた.Durkin (103) の要約文を引用しよう.

The context for most of the later borrowings is certain: they are nearly all words connected with the religious world or with learning, which were largely overlapping categories in the Anglo-Saxon world. Many of them are only very lightly assimilated into Old English, if at all. In fact it is debatable whether some of them should even be regarded as borrowed words, or instead as single-word switches to Latin in an Old English document, since it is not uncommon for words only ever to occur with their Latin case endings.
   The earlier borrowings include many more words that are of reasonably common occurrence in Old English and later, for instance names of some common plants and foodstuffs, as well as some very basic words to do with the religious life.


 では,具体的に前期・後期のラテン借用語とはどのような単語なのか.それについては今後の記事で紹介していく予定である.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-08-29 Thu

#3776. 機能語の強音と弱音 (2) [phonetics][lexicology][syntax]

 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1]) でみたように,機能語には単音節で強形と弱形をもっているものが多い.各々がどのような場合に用いられるかは,主としてその統語的な役割に応じて決定される.具体的にいえば,単体で用いられるときや文末に起こるときには強形が,それ以外の場合には弱形が用いられるのが原則である.ここから,弱形が頻度として圧倒的に勝っていることがわかるだろう.典型的な用例を菅原 (121) から挙げよう.

 単体文末文中
am[æm]Indeed I am [æm].I am [əm/m] leaving today.
is[ɪz]I think she is [ɪz].The grass is [əz/z] wet.
do[duː]You earn more than I do [duː].What do [də] they know?
will[wɪl]No more than you will [wɪl].That will [wəl/wl̩/əl/l̩] do.
can[kæn]But you can [kæn].George can [kən/kn̩] go.
at[æt]Who're you looking at [æt]?Look at [ət] that.
for[fɔr]What did you do it for [fɔr]?They did it for [fər/fr̩] fun.
to[tuː]The one we are talking to [tuː].They're going to [tə] Spain.
of[ɑːv]What are you thinking of [ɑːv]?a lot of [əv/ə] apples


 文末というのは統語的には厳密ではない.正確にいえば,直後に空範疇 (empty category) がある場合である.したがって,"Readyi I am ___i [æm] to help you." や "I left the meetingi she stayed at [æt] ___i till then." においては強形が現われることになる.

 ・ 菅原 真理子 「第3章 句レベルの音韻論」菅原 真理子(編)『音韻論』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.106--32頁.

Referrer (Inside): [2020-02-12-1]

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2019-08-09 Fri

#3756. アイルランド語からの借用語の年代別分布 [loan_word][irish][celtic][statistics][lexicology]

 連日ケルト関係の話題を続けているが,「#3740. ケルト諸語からの借用語」 ([2019-07-24-1]),「#3750. ケルト諸語からの借用語 (2)」 ([2019-08-03-1]),「#3749. ケルト諸語からの借用語に関連する語源学の難しさ」 ([2019-08-02-1]),「#3753. 英仏語におけるケルト借用語の比較・対照」 ([2019-08-06-1]) に引き続き借用語の話題.
 Durkin の OED3 を用いた調査によれば,英語に少なからぬ語彙的影響を与えた上位25位の言語のなかで,ケルト系諸語としてはアイルランド語のみがランクインするという.そこで,借用元言語としてアイルランド語にターゲットを絞って,借用語数を年代別にプロットしたのが次のグラフである (Durkin 94) .OED3 の A--ALZ, M--RZ の部分のみを対象とした調査である.

Loanwords from Irish, as Reflected by OED3 (A-ALZ and M-RZ)

 19世紀前半に借用語数のピークが来ているが,同時期の全借用語における割合でみれば0.2%を越える程度であり,著しいわけではない.多少のデコボコはあるにせよ,アイルランド借用語は常に目立たない存在であったことがわかる.考察範囲をケルト諸語全体に広げてみても,事情は変わらないだろう.関連して他の言語からの借用語の分布も比べてもらいたい.

 ・ 「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1])
 ・ 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])
 ・ 「#874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布」 ([2011-09-18-1])
 ・ 「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1])
 ・ 「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1])
 ・ 「#2165. 20世紀後半の借用語ソース」 ([2015-04-01-1])
 ・ 「#2369. 英語史におけるイタリア語,スペイン語,ポルトガル語からの語彙借用の歴史」 ([2015-10-22-1])
 ・ 「#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)」 ([2015-11-07-1])
 ・ 「#2646. オランダ借用語に関する統計」 ([2016-07-25-1])

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-08-06 Tue

#3753. 英仏語におけるケルト借用語の比較・対照 [french][celtic][loan_word][borrowing][lexicology][etymology][gaulish][language_shift][diglossia][sociolinguistics]

 昨日の記事「#3752. フランス語のケルト借用語」 ([2019-08-05-1]) で,フランス語におけるケルト借用語を概観した.今回はそれと英語のケルト借用語とを比較・対照しよう.
 英語のケルト借用語の数がほんの一握りであることは,「#3740. ケルト諸語からの借用語」 ([2019-07-24-1]),「#3750. ケルト諸語からの借用語 (2)」 ([2019-08-03-1]) で見てきた.一方,フランス語では昨日の記事で見たように,少なくとも100を越えるケルト単語が借用されてきた.量的には英仏語の間に差があるともいえそうだが,絶対的にみれば,さほど大きな数ではない.文字通り,五十歩百歩といってよいだろう.いずれの社会においても,ケルト語は社会的に威信の低い言語だったということである.
 しかし,ケルト借用語の質的な差異には注目すべきものがある.英語に入ってきた単語には日常語というべきものはほとんどないといってよいが,フランス語のケルト借用語には,Durkin (85) の指摘する通り,以下のように高頻度語も一定数含まれている(さらに,そのいくつかを英語はフランス語から借用している).

. . . changer is quite a high-frequency word, as are pièce and chemin (and its derivatives). If admitted to the list, petit belongs to a very basic level of the vocabulary. The meanings 'beaver', 'beer', 'boundary', 'change', 'fear' (albeit as noun), 'to flow', 'he-goat', 'oak', 'piece', 'plough' (albeit as verb), 'road', 'rock', 'sheep', 'small', and 'sow' all figure in the list of 1,460 basic meanings . . . . Ultimately, through borrowing from French, the impact is also visible in a number of high-frequency words in the vocabulary of modern English . . . beak, carpentry, change, cream, drape, piece, quay, vassal, and (ultimately reflecting the same borrowing as French char 'chariot') carry and car.


 この質的な差異は何によるものなのだろうか.伝統的な見解にしたがえば,ブリテン島のブリトン人はアングロサクソン人の侵入により比較的短い期間で駆逐され,英語への言語交代 (language_shift) も急速に進行したと考えられている.一方,ガリアのゴール人は,ラテン語・ロマンス祖語の話者たちに圧力をかけられたとはいえ,長期間にわたり共存する歴史を歩んできた.都市ではラテン語化が進んだとしても,地方ではゴール語が話し続けられ,diglossia の状況が長く続いた.言語交代はあくまでゆっくりと進行していたのである.その後,フランス語史にはゲルマン語も参入してくるが,そこでも劇的な言語交代はなかったとされる.どうやら,英仏語におけるケルト借用語の質の差異は言語接触 (contact) と言語交代の社会的条件の違いに帰せられるようだ.この点について,Durkin (86) が次のように述べている.

. . . whereas in Gaul the Germanic conquerors arrived with relatively little disruption to the existing linguistic situation, in Britain we find a complete disruption, with English becoming the language in general use in (it seems) all contexts. Thus Gaul shows a very gradual switch from Gaulish to Latin/Romance, with some subsequent Germanic input, while Britain seems to show a much more rapid switch to English from Celtic and (maybe) Latin (that is, if Latin retained any vitality in Britain at the time of the Anglo-Saxon settlement).


 この英仏語における差異からは,言語接触の類型論でいうところの,借用 (borrowing) と接触による干渉 (shift-induced interference) の区別が想起される (see 「#1985. 借用と接触による干渉の狭間」 ([2014-10-03-1]), 「#1780. 言語接触と借用の尺度」 ([2014-03-12-1])) .ブリテン島では borrowing の過程が,ガリアでは shift-induced interference の過程が,各々関与していたとみることはできないだろうか.
 フランス語史の光を当てると,英語史のケルト借用語の特徴も鮮やかに浮かび上がってくる.これこそ対照言語史の魅力である.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-08-05 Mon

#3752. フランス語のケルト借用語 [french][celtic][loan_word][borrowing][lexicology][etymology][gaulish][hybrid]

 連日英語におけるケルト諸語からの借用語を話題にしているが,観点をかえてフランス語におけるケルト借用語の状況を,Durkin (83--87) に依拠してみていこう.
 ローマ時代のフランス(ガリア)では,ラテン語と並んで土着のゴール語 (Gaulish) も長いあいだ用いられていた.都市部ではラテン語や(ロマンス祖語というべき)フランス語の前身が主として話されていたが,地方ではゴール語も粘り強く残っていたようだ.この長期にわたる接触の結果として,後のフランス語には,英語の場合よりも多くのケルト借用語が取り込まれてきた.とはいっても,100語を越える程度ではある(見方によって50--500語までの開きがある).ただし,「#3749. ケルト諸語からの借用語に関連する語源学の難しさ」 ([2019-08-02-1]) で英語の場合について議論を展開したように,借用の時期やルートの特定は容易ではないようだ.この数には,ラテン語時代に借用されたものや,いくつもの言語の仲介を経て間接的に借用されたものなども含まれており,フランス語話者とゴール語話者の直接の接触に帰せられるべきものばかりではない.
 上記の問題点に注意しつつ,以下に意味・分野別のケルト借用語リストの一部を挙げよう (Durkin 84) .

 ・ 動物:bièvre "beaver", blaireau "badger", bouc "billy goat", mouton "sheep", vautre "type of hunting dog"; chamois "chamois", palefroi "palfrey", truie "sow" (最後の3つは混種語)
 ・ 鳥:alouette "lark", chat-huant "tawny owl"
 ・ 魚:alose "shad", loche "loach", lotte "burbot", tanche "tench", vandoise "dace", brochet "pike"; limande "dab" (ケルト接頭辞を示す)

 これらの「フランス単語」のうち,後に英語に借用されたものもある.mutton, palfrey, loach, tench, chamois などの英単語は,実はケルト語起源だったということだ.しかし,英単語 buck, beaver などは事情が異なり,フランス語の bièvre, bouc との類似は借用によるものではなく,ともに印欧祖語にさかのぼるからだろう.brasserie (ビール醸造)や cervoise (古代の大麦ビール)などは,ゴール人の得意分野を示しているようでおもしろい.
 フランス語におけるケルト借用語のその他の候補をアルファベット順に挙げてみよう (Durkin 84) .

arpent'measure of land'
bec'beak'
béret'beret'
borne'boundary (marker)'
boue'mud'
bouge'hovel, dive' (earlier 'bag')
bruyère'heather, briar-root'
changer'to change'
char'chariot' (reflecting a borrowing which had occurred already in classical Latin, whence also charrue 'plough')
charpente'framework' (originally the name of a type of chariot)
chemin'road, way'
chêne'oak'
craindre (partly)'to fear'
crème'cream'
drap'sheet, cloth'
javelot'javelin'
lieue'league (measure of distance)'
marne'marl' (earlier marle, hence English marl)
pièce'piece'
ruche'beehive'
sillon'furrow'
soc'ploughshare'
suie'soot'
vassal'vassal'
barre'bar'
jaillir'to gush, spring, shoot out'
quai'quay'


 英仏語におけるケルト借用語の傾向の差異という話題については,明日の記事で.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2019-08-06-1]

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2019-08-03 Sat

#3750. ケルト諸語からの借用語 (2) [celtic][loan_word][borrowing][lexicology][etymology][toponymy][onomastics][irish]

 昨日の記事「#3749. ケルト諸語からの借用語に関連する語源学の難しさ」 ([2019-08-02-1]) で論じたように,英語におけるケルト借用語の特定は様々な理由で難しいとされる.今回は,「#3740. ケルト諸語からの借用語」 ([2019-07-24-1]) のリストと部分的に重なるものの,改めて専門家による批評を経た上で,確かなケルト借用語とみなされるものを挙げていきたい.その専門家とは,英語語源学の第1人者 Durkin である.
 Durkin (77--81) は,古英語期のあいだ(具体的にその時期のいつかについては詳らかにしないが)に借用されたとされる Brythonic 系のケルト借用語をいくつかを挙げている.まず,brock "badger" (OE brocc) は手堅いケルト借用語といってよい.これは,「アナグマ」を表わす語として,初期近代英語期に badger にその主たる地位を奪われるまで,最も普通の語だった.
 「かいばおけ」をはじめめとする容器を指す bin (OE binn) も早い借用とされ,場合によっては大陸時代に借りられたものかもしれない.
 coomb "valley" (OE cumb) も確実なケルト借用語で,古英語からみられるが主として地名に現われた.地名要素としての古いケルト借用語は多く,古英語ではほかに luh "lake", torr "rock, hill", funta "fountain", pen "hill, promontory" なども挙げられる.
 The Downs に残る古英語の dūn "hill" も,しばしばケルト借用語と認められている.「#1395. up and down」 ([2013-02-20-1]) で見たとおり,私たちにもなじみ深い副詞・前置詞 down も同一語なのだが,もしケルト借用語だとすると,ずいぶん日常的な語が借りられてきたものである.他の西ゲルマン諸語にもみられることから,大陸時代の借用と推定される.
 「ごつごつした岩」を意味する crag は初例が中英語期だが,母音の発達について問題は残るものの,ケルト借用語とされている.coble 「平底小型漁船」も同様である.
 hog (OE hogg) はケルト語由来といわれることも多いが,形態的には怪しい語のようだ.
 次に,ケルト起源説が若干疑わしいとされる語をいくつか挙げよう.古英語の形態で bannuc "bit", becca "fork", bratt "cloak", carr "rock", dunn "dun, dull or dingy brown", gafeluc "spear", mattuc "mattock", toroc "bung", assen/assa "ass", stǣr/stær "history", stōr "incense", cæfester "halter" などが挙がる.専門的な見解によると,gafeluc は古アイルランド語起源ではないかとされている.
 古アイルランド語起源といえば,ほかにも drȳ "magician", bratt "cloak", ancra/ancor "anchorite", cursung "cursing", clugge "bell", æstel "bookmark", ċine/ċīne "sheet of parchment folded in four", mind "a type of head ornament" なども指摘されている.この類いとされるもう1つの重要な語 cross "cross" も挙げておこう.
 最近の研究でケルト借用語の可能性が高いと判明したものとしては,wan "pale" (OE wann), jilt, twig がある.古英語の trum "strong", dēor "fierce, bold", syrce/syrc/serce "coat of mail" もここに加えられるかもしれない.
 さらに雑多だが重要な候補語として,rich, baby, gull, trousers, clan も挙げておきたい (Durkin 91) .

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-08-02 Fri

#3749. ケルト諸語からの借用語に関連する語源学の難しさ [celtic][loan_word][borrowing][lexicology][contact][etymology]

 「#3740. ケルト諸語からの借用語」 ([2019-07-24-1]) を受け,より専門的な語源学の知見を参照しながら英語へのケルト借用語について考えておきたい.主として参照するのは,Durkin の第5章 "Old English in Contact with Celtic" (76--95) である.
 ケルト諸語から英語への借用語が少ないという事実は疑いようがないが,ケルト借用語とされている個々の単語については,語源や語史の詳細が必ずしも明らかになっていないものも多い.先の記事で挙げたような,一般の英語史書でしばしば取り上げられる一連の単語は比較的「手堅い」ものが多いが,その中にももしかすると怪しいものがあるかもしれない.本当にケルト語からの借用語なのかという本質的な問題から,どの時代に借用されたのか,あるいはいずれのケルト語から入ってきたのかといった問題まで,様々だ.
 背景には,英語の歴史とケルト諸語の語源の両方に詳しい専門家が少ないという現実的な事情もある.また,ケルト語源学やケルト語比較言語学そのものも,発展の余地をおおいに残しているという側面もある.たとえば,河川名などの地名に関して「#1188. イングランドの河川名 Thames, Humber, Stour」 ([2012-07-28-1]) でみたように,ケルト語源を疑う見解もあるのだ.
 さらに,時期の特定の問題も難しい.英語話者とケルト諸語の話者との接触は,前者が大陸にいた時代から現代に至るまで,ある意味では途切れることなく続いている.問題の語が,大陸時代にゲルマン語に借用されたケルト単語なのか,アングロサクソン人のブリテン島への渡来の折に入ってきたものなのか,その後の中世から近代にかけてのある時点において流入したものなのか,判然としないケースもある.
 いずれのケルト語から入ってきたかという問題については,その特定に際して,「#778. P-Celtic と Q-Celtic」 ([2011-06-14-1]) で触れた音韻的な特徴がおおいに参考になる.しかし,この音韻差の発達は紀元1千年紀中に比較的急速に起こったとされ,ちょうどアングロサクソン人の渡来と前後する時期なので,語源の特定にも微妙な問題を投げかける.
 今後ケルト言語学が発展していけば,上記の問題にも答えられる日が来るのだろう.今後の見通しについては,Durkin (80--81) の所見を参考にされたい.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2019-07-24 Wed

#3740. ケルト諸語からの借用語 [celtic][loan_word][borrowing][lexicology][welsh][scottish_gaelic][irish]

 歴史的に,アングロサクソン人とケルト人の関係は征服者と被征服者の関係である.通常,水が下から上に流れることがないように,原則としてケルト語から英語への語彙の流入もなかった.小規模な語彙の流入があったとしても,あくまで例外的とみるべきである.
 「#1216. 古英語期のケルト借用語」 ([2012-08-25-1]) で示したものと重なるが,大槻・大槻 (58) より,アングロサクソン時代に英語に借用され,かつ現在まで生き残っているものを挙げると,bin (basket), dun (gray), ass (ass < Latin asinus) 程度のものである.また,ケルトのキリスト教を経由して英語に入ってきたものとしては clugge (bell), drȳ (magician) などがある.
 中英語期以降にも散発的にケルト諸語からの借用がみられた.以下,世紀別にいくつか挙げてみよう(W = Welsh, G = Scottish Gaelic, Ir = Irish) .質も量も地味である.

 ・ 14世紀: crag 絶壁 (G/Ir), flannel フランネル (W), loch 湖 (G).
 ・ 15世紀: bard 吟遊詩人 (G), brog 小錐 (Ir), clan 氏族 (G), glen 峡谷 (G).
 ・ 16世紀: brogue 地方訛り (Ir/G), caber 丸太棒 (G), cairn ケルン (G), coracle かご船 (W), gillie 高地族長の従者 (G), plaid 格子縞の肩掛け (G), shamrock シロツメクサ (Ir), slogan スローガン (G), whisky ウィスキー (G), usquebaugh ウィスキー.
 ・ 17世紀: dun こげ茶の (G/Ir), tory トーリー党 (Ir), leprechaun レプレホーン (Ir).
 ・ 18世紀: claymore 諸刃の剣 (G).
 ・ 19世紀: colleen 少女 (Ir), ceilidh 集い (Ir/G), hooligan ちんぴら(Ir).
 ・ 20世紀: corgi コーギー犬 (W).
 (W).

 以上,大槻・大槻 (58--59) に拠った.関連して「#2443. イングランドにおけるケルト語地名の分布」 ([2016-01-04-1]),「#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語」 ([2016-05-18-1]) を参照.

 ・ 大槻 博,大槻 きょう子 『英語史概説』 燃焼社,2007年.

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