Language trends run in mysterious 14-year cycles と題する記事をみつけた.非常におもしろい. *
Marcelo Montemurro と Damián Zanette による調査結果である.2人は「#607. Google Books Ngram Viewer」 ([2010-12-25-1]) とコンピュータ・プログラムを用いて,1700年から2008年の間の常用される名詞の "popularity" の推移を探った.すると,14年周期で英単語の "popularity" が上がっては下がるということが繰り返されていることが分かったという.意味的に関連する語群は盛衰をともにするというパターンも見つかっているし,英語に限らずフランス語,ドイツ語,イタリア語,ロシア語,スペイン語などの言語でも似たような周期が確認されるというから驚きだ.
では,なぜこのような周期があり,そしてなぜ14年前後という間隔なのか.いくつかの語については,政治を含めた社会的な変化との連動の可能性が指摘されうるが,一般論として,なぜこのような周期があるのかは不明である.もちろん,この周期が無作為変動の誤差の範囲にとどまっているのではないかという疑念は残っており,さらなる調査が必要ではあろう.しかし,もし何らかの要因があるとすれば,それはいったい何なのか.研究者の1人は "an obvious cultural connection" は見られないとしている.
人間行動の反復性,流行の周期,言語行動の慣れや飽き,などの問題と関わるのだろうか.いずれにせよ,非常に不思議で,興味をそそる現象である.
Oxford Dictionaries が毎年公表している Word of the Year によると,2016年の「今年の単語」は形容詞 post-truth である.定義は,"relating to or denoting circumstances in which objective facts are less influential in shaping public opinion than appeals to emotion and personal belief" とある.詳しい解説は Word of the Year 2016 is... を参照されたい.
この語は1992年に初出しているが,当時は文字通りの「真実が知られた後の」の語義で使われていた.今回の「真実が無関係となった時代の」という語義での使用が現われてきたのは,もっと最近,おそらく10年くらいのものではないか.いずれにせよ,この語が急激な広がりを示し始めたのは,つい最近,今年の5月以降であるという.典型的な用例は post-truth politics である.背景には,明らかにイギリスのEU離脱やアメリカの大統領選挙がある.この語が広く受け入れられた理由として,主にメディアやブログで多用されていることから,情報源としてのソーシャルメディアの台頭が挙げられるだろう.また,政治的には,既得権層が提示する事実に対する人々の不信があるとも評される.すぐれて時事的な語である.
英語史的には,post- というラテン語に由来する接頭辞による語形成が英語にすっかり定着したことを物語る例として興味深い.post- という接頭辞自体は近代英語期からあるが,純粋に「?の(時間的に)後の」という語義から,政治的な意味合いをもつ「?が無関係となった後の(時代)」という語義で用いられ,様々な語形成がなされるようになったのは,20世紀半ばからのことである.関連して,「#560. 接頭辞 post-」 ([2010-11-08-1]),「#561. 接頭辞 post- (2)」 ([2010-11-09-1]) を参照.
さて,post-truth のほかにノミネートされた語については Word of the Year 2016: other words on the shortlist に説明があるが,一通り挙げてみると,hygge, n., Brexiteer, Latinx, n. and adj., coulrophobia, n., adulting, chatbot, glass cliff, n., alt-right, n., woke, adj. である.
Oxford Dictionaries の "Word of the Year" はどのように選択され,決定されるのだろうか.Word of the Year: FAQ によると,その手順としては,Oxford Dictionaries のチームが,毎月,様々な媒体から編纂された1億5千万語ほどの Oxford English Corpus をもとにして頻度調査などを行ない,候補語をいくつか挙げた上で,ソーシャルメディアやブログなどにより一般から寄せられる提案を加味しながら議論するのだという.候補語の出所は典型的にはイギリスかアメリカが中心となるが,なるべくいずれかの国に使用の偏っている語ではなく,より広くアピールする語を選択するよう配慮しているということだ.
関連して,アメリカの American Dialect Society による Word of the Year も参照.こちらについては,本ブログ内の記事として ads woy をご覧ください.
Swadesh の言語年代学 (glottochronology) によれば,普遍的な概念を表わし,個別文化にほぼ依存しないと考えられる基礎語彙は,時間とともに一定の比率で置き換えられていくという.ここで念頭に置かれているのは,第一に話し言葉の現象であり,書き言葉は前提とされていない.ということは,読み書き能力 (literacy) はこの「一定の比率」に特別な影響を及ぼさない,ということが含意されていることになる.しかし,直観的には,読み書き能力と書き言葉の伝統は言語に対して保守的に作用し,長期にわたる語彙の保存などにも貢献するのではないかとも疑われる.
Zengel はこのような問題意識から,ヨーロッパ史で2千年以上にわたり継承されたローマ法の文献から法律語彙を拾い出し,それらの保持率を調査した.調査した法律文典のなかで最も古いものは,紀元前450年の The Twelve Tables である.次に,千年の間をおいて紀元533年の Justinian I による The Institutes.最後に,さらに千年以上の時間を経て1621年にフランスで出版された The Custom of Brittany である.この調査において,語彙同定の基準は語幹レベルでの一致であり,形態的な変形などは考慮されていない.最初の約千年を "First interval",次の約千年を "Second interval" としてラテン語法律語彙の保持率を計測したところ,次のような数値が得られた (Zengel 137) .
Number of items | Items retained | Rate of retention | |
---|---|---|---|
First interval | 68 | 58 | 85.1% |
Second interval | 58 | 46 | 80.5% |
Some new factor must be recognized to account for the astonishing stability disclosed in this study . . . . Since these materials have been selected within an area where total literacy is a primary and integral necessity in the communicative process, it seems reasonable to conclude that it is to be reckoned with in language change through time and may be expected to retard the rate of vocabulary change.
なるほど,Zengel はラテン語の法律語彙という事例により,語彙保持に対する読み書き能力の影響を実証しようと試みたわけではある.しかし,出された結論は,ある意味で直観的,常識的にとどまる既定の結論といえなくもない.Swadesh によれば個別文化に依存する語彙は保持率が比較的低いはずであり,法律用語はすぐれて文化的な語彙と考えられるから,ますます保持率は低いはずだ.ところが,今回の事例ではむしろ保持率は高かった.これは,語彙がたとえ高度に文化的であっても,それが長期にわたる制度と結びついたものであれば,それに応じて語彙も長く保たれる,という自明の現象を表わしているにすぎないのではないか.この場合,驚くべきは,語彙の保持率ではなく,2千年にわたって制度として機能してきたローマ法の継続力なのではないか.法律用語のほか,宗教用語や科学用語など,当面のあいだ不変と考えられる価値などを表現する語彙は,その価値が存続するあいだ,やはり存続するものではないだろうか.もちろん,このような種類の語彙は,読み書き能力や書き言葉と密接に結びついていることが多いので,それもおおいに関与しているだろうことは容易に想像される.まったく驚くべき結論ではない.
言語変化の速度 (speed_of_change) について,今回の話題と関連して「#430. 言語変化を阻害する要因」 ([2010-07-01-1]),「#753. なぜ宗教の言語は古めかしいか」 ([2011-05-20-1]),「#2417. 文字の保守性と秘匿性」 ([2015-12-09-1]),「#795. インターネット時代は言語変化の回転率の最も速い時代」 ([2011-07-01-1]),「#1874. 高頻度語の語義の保守性」 ([2014-06-14-1]),「#2641. 言語変化の速度について再考」 ([2016-07-20-1]),「#2670. 書き言葉の保守性について」 ([2016-08-18-1]) なども参照されたい.
・ Zengel, Marjorie S. "Literacy as a Factor in Language Change." American Anthropologist 64 (1962): 132--39.
先日,東北大学大学院情報科学研究科「言語変化・変異研究ユニット」主催の第3回ワークショップ「内省判断では得られない言語変化・変異の事実と言語理論」に参加してきた(主催の先生方,大変お世話になりました!).形態論がご専門の東北大学の長野明子先生の発表「英語の接頭辞 a- の生産性の変化について」では,接辞の生産性 (productivity) の諸問題や測定法について非常に分かりやすく説明していただいた.今回の記事では,長野先生の許可を得て,そのときのハンドアウトから「生産性に関する仮説」を要約したい.
接辞の生産性には availability と profitability が区別される.前者は,その接辞を用いた語形成規則が存在することを指し,それにより形成される潜在的な語がある状態をいう.それに対して後者は,その語形成規則が実際に使用され,単語として具現化している状態をいう.つまり,接辞の生産性を考える際には,新語を作る潜在能力と実際に新語を作った顕在能力を区別しておく必要がある.
接辞の生産性の測定ということになると,潜在能力たる availability の測定は難しい.実際の単語として具現化されていないのだから,客観的に測りようがないのである.したがって,せめて顕在能力である profitability を測り,そこから availability を推し量ってみよう,ということになる.profitability の主要な測定法として3つほどが提案されている.いずれも,コーパスや辞書を用いることが前提となっている.
(1) その接辞をもつ派生語のタイプ数.端的には辞書に登録されていたり,コーパスで文証される単語の語彙素 (lexeme) レベルで数えた個数.
(2) 特定期間での,その接辞をもつ新語の数.
(3) その接辞の派生語が hapax_legomenon である確率.ある程度の規模のコーパスにある派生語が1度しか現われないということと,その語形成の生産性の高さとは相関関係にあるとされている(see 「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1])).
(1), (2), (3) の測定法には一長一短あり,どれが最も優れているかを決めることはたやすくない.また,これらで測定できる profitability と最終的に求めたい availability との間にいかなる関係があるのかもよく分かっていない.例えば,(1) の値が高くとも availability は高くないとみなせる例がある.例えば,接尾辞 -th, -ment をもつ単語のタイプ数は多いが,現在,生産性のある接辞とはみなすことができないだろう (cf. 「#1787. coolth」 ([2014-03-19-1])) .逆に,(2) の値が低かったとしても,それをもってすぐに availability も低いだろうと予測するのは早計と考えられるケースもある(名詞+動詞の複合など).また,(3) で高い値を示すとしても,母語話者の直観的な生産性とは矛盾するケースがあるようだ.
母語話者の直観として,生産性なるものがあるらしいことは確かだろう.しかし,それを客観的に測定するにはどうすればよいのか,理論的にも実践的にも問題は残されている.
生産性の問題については,本ブログでも以下の記事その他で扱ってきたので要参照.「#935. 語形成の生産性 (1)」 ([2011-11-18-1]),「#936. 語形成の生産性 (2)」 ([2011-11-19-1]),「#937. 語形成の生産性 (3)」 ([2011-11-20-1]),「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1]),「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1]),「#940. 語形成の生産性と創造性」 ([2011-11-23-1]),「#2363. hapax legomenon」 ([2015-10-16-1]) .
昨日の記事「#2692. 古ノルド語借用語に関する Gersum Project」 ([2016-09-09-1]) 紹介した Gersum Project の Norse Terms in English: A (basic!) Introduction に,フランス語からの借用語と対比しながら古ノルド語からの借用語に関する数値などが言及されていた.
When it comes to numbers, French influence, mainly as a result of the Norman Conquest, is much more significant: approximately 10,000 words were borrowed from French during the Middle English period (of which around 7,000 are still used), whereas there are about 2,000 Norse-derived terms recorded in medieval English texts. Of them, about 700 are still in use in Standard English, although many more can be found in dialects from areas such as the East Midlands, Yorkshire, Lancashire, and Cheshire. The significance of the Norse impact on (Standard) English lies instead in the fact that most of the Norse-derived terms do not have a technical character (consider, for instance, skirt, leg, window, ugly, ill, happy, scare, bask, die) and even include a number of grammatical terms, the most notable being the third person plural pronouns they, them and their (because personal pronouns are not easily borrowed between languages). The presence of these terms was probably facilitated by the similarity between Old English and Old Norse, both of which were Germanic languages. In fact, it seems very likely that the speakers of the two languages were able to understand each other by speaking their own language, of course with some careful lexical choices and a good deal of pointing and, when appropriate, smiling.
借用語彙の統計は,語源の不確かさの問題などが絡み,いきおい概数にならざるを得ないが,与えられていれば参考になる.ここに挙げられている数値も,他書のものと大きく異なっていない.中英語期の借用語に限定して数えると,フランス語からはおよそ1万語(うち約7千語が現在まで残る)が入り,古ノルド語からはおよそ2千語(うち約700語が現代標準英語に残る)が入ったとしている.古ノルド語からの借用語は絶対数も現在までの残存率も相対的に低いといえるが,英語語彙のコアにまで浸透しているという意味で,質的な深さはある.また,イングランド北部・東部の諸方言を考慮に入れれば,現在使われている古ノルド語借用語の数は著しく増えるということも銘記しておきたい.古英語話者と古ノルド語話者がある程度通じ合えたとの積極的な指摘も注目に値する.
その他,借用語に関する統計は cat:loan_word statistics の各記事を参照.
先日参加した ICEHL19 (see 「#2686. ICEHL19 に参加して気づいた学界の潮流など」 ([2016-09-03-1])) の学会で目を引いた研究発表に,Cambridge 大学の Richard Dance や Cardiff 大学の Sara M. Pons-Sanz による Gersum Project の経過報告があった.古英語から中英語にかけて生じた典型的な意味借用 (semantic_borrowing) の例といわれる bread と,その従来の類義語 loaf との関係について語史を詳しく調査した結果,Jespersen の唱えた従来の意味借用説を支持する証拠はない,という衝撃的な結論が導かれた(この従来の説については,本ブログでも「#2149. 意味借用」 ([2015-03-16-1]),「#23. "Good evening, ladies and gentlemen!"は間違い?」 ([2009-05-21-1]),「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1]) で触れている).
Gersum Project は,従来の古ノルド語の英語に対する影響は過大評価されてきたきらいがあり(おそらくはデンマーク人の偉大な英語学者 Jespersen の愛国主義的な英語史観ゆえ?),その評価を正す必要があるとの立場を取っているようだ(関連して「#1183. 古ノルド語の影響の正当な評価を目指して」 ([2012-07-23-1]) を参照).プロジェクトのHPによると(←成蹊大学の田辺先生,教えていただき,ありがとうございます),プロジェクトの狙いは "The Gersum project aims to understand this Scandinavian influence on English vocabulary by examining the origins of up to 1,600 words in a corpus of Middle English poems from the North of England, including renowned works of literature like Sir Gawain and the Green Knight, Pearl, and the Alliterative Morte Arthure." だという.主たる成果は,総計3万行を越えるこれらのテキストにおける古ノルド語由来の単語のデータベースとして,いずれ公開されることになるようだ.
古ノルド語の借用語とその歴史的背景に関する基礎知識を得るには,同HP内の Norse Terms in English: A (basic!) Introduction が有用.
古英語は複合 (compounding) による語形成が非常に得意な言語だった.これは「#1148. 古英語の豊かな語形成力」 ([2012-06-18-1]) でも確認済みだが,複合語はとりわけ韻文において最大限に活用された.実際 Beowulf に代表される古英詩においては「王」「勇士」「戦い」「海」などの頻出する概念に対して,様々な類義語 (synonym) が用いられた.これは,単調さを避けるためでもあったし,昨日の記事「#2676. 古英詩の頭韻」 ([2016-08-24-1]) で取り上げた頭韻の規則に沿うために種々の表現が必要だったからでもあった.
以下,Baker (137) より,Beowulf (及びその他の詩)に現われる「王,主君」を表わす類義語を列挙しよう(複合語が多いが,単形態素の語も含まれている).
bēagġyfa, masc. ring-giver.
bealdor, masc. lord.
brego, masc. lord.
folcāgend, masc. possessor of the people.
folccyning, masc. king of the people.
folctoga, masc. leader of the people.
frēa, masc. lord.
frēadrihten, masc. lord-lord.
frumgār, masc. first spear.
godlgġyfa, masc. gold-giver.
goldwine, masc. gold-friend.
gūðcyning, masc. war-king.
herewīsa, masc. leader of an army.
hildfruma, masc. battle-first.
hlēo, masc. cover, shelter.
lēodfruma, masc. first of a people.
lēodġebyrġea, masc. protector of a people.
mondryhten, masc. lord of men.
rǣswa, masc. counsellor.
siġedryhten, masc. lord of victory.
sincġifa, masc. treasure giver.
sinfrēa, masc. great lord.
þenġel, masc. prince.
þēodcyning, masc. people-king.
þēoden, masc. chief, lord.
wilġeofa, masc. joy-giver.
wine, masc. friend.
winedryhten, masc. friend-lord.
wīsa, masc. guide.
woroldcyning, masc. worldly king.
ここには詩にしか現われない複合語も多く含まれており,詩的複合語 (poetic compound) と呼ばれている.第1要素が第2要素を修飾する folccyning (people-king) のような例もあれば,両要素がほぼ同義で冗長な frēadrihten (lord-lord) のような例もある.さらに,メトニミーを用いた謎かけ・言葉遊び風の bēagġyfa (ring-giver) もある.最後に挙げた類いの比喩的複合語は kenning と呼ばれ,古英詩における大きな特徴となっている(「#472. kenning」 ([2010-08-12-1]) を参照).
・ Baker, Peter S. Introduction to Old English. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.
「基本語彙」 (basic vocabulary) という用語は,言語の調査や議論において様々な機会に出くわす.しかし,昨日の記事「#2660. glottochronology と基本語彙」 ([2016-08-08-1]) でも触れたように,個別言語においても,言語一般においても,基本語彙とは何なのか,どこまでの範囲を含むのかを客観的に定めることは難しい.
glottochronology に携わる人類言語学者は,独自の通言語的,通時的な観点から,基本語彙リストに相当するものを編集し,改訂してきた.例えば,この分野の草分けである Swadesh (456--57) は,完璧なリストは作り得ないということを認めつつ,次の200語からなる一覧を挙げている.その一覧を,Hymes ("Lexicostatistics" 6) 経由で掲げよう.
all, and, animal, ashes, at, back, bad, bark, because, belly, big, bird, bite, black, blood, blow, bone, breathe, burn, child, cloud, cold, come take, count, cut, day, die, dig, dirty, dog, drink, dry, dull, dust, ear, earth, eat, egg, eye, fall, far, fat-grease, father, fear, feather, few, fight, fire, fish, five, float, flow, flower, fly, fog, foot, four, freeze, fruit, give, good, grass, green, guts, hair, hand, he, head, hear, heart, heavy, here, hit, hold-take, how, hunt, husband, I, ice, if, in, kill, know, lake, laugh, leaf, leftside, leg, lie, live, liver, long, louse, man-male, many, meat-flesh, mother, mountain, mouth, name, narrow, near, neck, new, night, nose, not, old, one, other, person, play, pull, push, rain, red, right-correct, rightside, river, road, root, rope, rotten, rub, salt, sand, say, scratch, sea, see, seed, sew, sharp, short, sing, sit, skin, sky, sleep, small, smell, smoke, smooth, snake, snow, some, spit, split, squeeze, stab-pierce, stand, star, stick, stone, straight, suck, sun, swell, swim, tail, that, there, they, thick, thin, think, this, thou, three, throw, tie, tongue, tooth, tree, turn, two, vomit, walk, warm, wash, water, we, wet, what, when, where, white, who, wide, wife, wind, wing, wipe, with, woman, woods, worm, ye, year, yellow
この一覧は理論と実践を組み合わせたものであり,その後も数々の改訂を経ることになった.だが,もとより完璧な基本語彙リストは作り得ないのだから,何らかの言語調査を行なう場合に,この一覧を拠り所にするというのは,1つの便法ではある.なお,Swadesh が言語年代測定の診断のために用いたのは,別途厳選された100語のリストであり,それは「#1128. glottochronology」 ([2012-05-29-1]) で掲載した通りである(100語リストのほうが言語年代学的に有用性が高いという意見もある (Hymes, "More" 341)).
基本語彙の問題については,「#308. 現代英語の最頻英単語リスト」 ([2010-03-01-1]),「#1101. Zipf's law」 ([2012-05-02-1]),「#1961. 基本レベル範疇」 ([2014-09-09-1]),「#1965. 普遍的な語彙素」 ([2014-09-13-1]),「#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性」 ([2016-07-04-1]) などの記事も要参照.
・ Swadesh, Morris. "Lexico-Statistic Dating of Prehistoric Ethnic Contacts: With Special Reference to North American Indians and Eskimos." Proceedings of the American Philosophical Society 96 (1952): 452--63.
・ Hymes, D. H. "Lexicostatistics So Far." Current Anthropology 1 (1960): 3--44.
・ Hymes, D. H. "More on Lexicostatistics." Current Anthropology 1 (1960): 338--45.
glottochronology の方法論を批評した Hymes (11) は,もう1人の人類言語学者 Gleason による1950年代の論著を参照しながら,語彙変化確率に関する3つの前提について解説している.
(1) Every lexical item at every given time has a certain probability of change.
(2) This probability of change is variable, and is influenced by both linguistic and non-linguistic factors.
(3) There exist certain sets of largely independent vocabulary items in which the probability of change within the group is large relative to the variability of that probability of change.
glottochronology では,(1) と (2) は当初から前提とされてきた.Hymes が特に重要だと指摘するのは (3) の仮定である.これによれば,語彙にはある種の閉じた語群がいくつかあり,ある語群は比較的安定し,その安定の度合いの揺れも比較的小さいが,別の語群は比較的不安定であり,その不安定の度合いの揺れも比較的大きいという.具体的にはいわゆる "basic vocabulary" と "non-basic vocabulary" などの区別を念頭においていることは間違いないが,必ずしも定義の明らかでない "(non-)basic" という用語を使わずに,集合論的,統計学的な手法で,それらに相当する語彙の部分集合を取り出せる可能性を示している.実際の検証には,多くの言語の語彙について調査し,それぞれについて長期間にわたる通時的な語彙変化確率を求め,それらを比較するという地道な作業が必要であり,すぐに結論が出るというものではないだろう.しかし,検証可能性は確保されているという点が重要である.
言語一般,あるいは個別言語において,基本語彙 (basic vocabulary) とは何かという問題は,客観的に答えるのが案外難しい.母語話者にとっては直感的に分かるものではあるが,その範囲を客観的に定めるのは難しい.昨日の記事「#2659. glottochronology と lexicostatistics」 ([2016-08-07-1]) でも触れたように,基本語彙の同定に関与する属性として (1) 共時的な commonness (or frequency), (2) 通言語的な universality (of semantic reference), (3) 通時的な (historical) persistence の3種が提案されており,これらが互いにおよその相関関係にあることも知られている.しかし,この3つの属性の各々にどの程度の重みをつけ最終的に基本語彙を決定すべきかについて,特に合意はない.
glottochronology にとっては,基本語彙とはあくまで言語の年代を測定するための材料ではあるが,むしろその材料探しの過程で,基本語彙とは何かという肝心な問題に,実践と理論の両側面から迫ることになったのではないかとも思われる.glottochronology という分野の前提と成果については多くの批判がなされてきたが,その過程で繰り広げられてきた議論はしばしば本質的であり,(人類)言語学史的な貢献は大きいといえるだろう.
glottochronology と基本語彙を巡る問題については,Hymes (32--33) が詳しく議論しているので,そちらを参照.
・ Hymes, D. H. "Lexicostatistics So Far." Current Anthropology 1 (1960): 3--44.
言語学の分野としての言語年代学 (glottochronology) と語彙統計学 (lexicostatistics) は,しばしば同義に用いられてきた.だが,glottochronology の創始者である Swadesh は,両用語を使い分けている.私自身も「#1128. glottochronology」 ([2012-05-29-1]) の記事で,両者は異なるとの前提に立ち,「glottochronology (言語年代学)は,アメリカの言語学者 Morris Swadesh (1909--67) および Robert Lees (1922--65) によって1940年代に開かれた通時言語学の1分野である.その手法は lexicostatistics (語彙統計学)と呼ばれる.」と述べた.今回は,この用語の問題について考えてみたい.
人類言語学者・社会言語学者の Hymes (4) は Swadesh に依拠しながら,両用語の区別を次のように理解している.
The terms "glottochronology" and "lexicostatistics" have often been used interchangeably. Recently several writers have proposed some sort of distinction between them . . . . I shall now distinguish them according to a suggestion by Swadesh.
Glottochronology is the study of rate of change in language, and the use of the rate for historical inference, especially for the estimation of time depths and the use of such time depths to provide a pattern of internal relationships within a language family. Lexicostatistics is the study of vocabulary statistically for historical inference. The contribution that has given rise to both terms is a glottochronologic method which is also lexicostatistic. Glottochronology based on rate of change in sectors of language other than vocabulary is conceivable, and lexicostatistic methods that do not involve rates of change or time exist . . . .
Lexicostatistics and glottochronology are thus best conceived as intersecting fields.
つまり,glottochronology と lexicostatistics は本来別物だが,両者の重なる部分,すなわち語彙統計により言語の年代を測定する部門が,いずれの分野にとっても最もよく知られた部分であるから,両者が事実上同義となっているということだ.ただし,Swadesh から80年近く経った現在では,lexicostatistics は,電子コーパスの発展により言語の年代測定とは無関係の諸問題をも扱う分野となっており,その守備範囲は広がっているといえるだろう.
上で引用した Hymes の論文は,言語における "basic vocabulary" とは何か,という根源的かつ物議を醸す問題について深く検討を加えており,一読の価値がある."basic vocabulary" は,commonness (or frequency), universality (of semantic reference), (historical) persistence のいずれかの属性,あるいはその組み合わせに基づくものと概ね受け取られているが,同論文はこの辺りの議論についても詳しい.基本語彙の問題については,「#1128. glottochronology」 ([2012-05-29-1]) や「#1965. 普遍的な語彙素」 ([2014-09-13-1]) の記事で直接に扱ったほか,「#308. 現代英語の最頻英単語リスト」 ([2010-03-01-1]),「#1089. 情報理論と言語の余剰性」 ([2012-04-20-1]),「#1091. 言語の余剰性,頻度,費用」 ([2012-04-22-1]),「#1101. Zipf's law」 ([2012-05-02-1]),「#1497. taboo が言語学的な話題となる理由 (2)」 ([2013-06-02-1]),「#1874. 高頻度語の語義の保守性」 ([2014-06-14-1]),「#1961. 基本レベル範疇」 ([2014-09-09-1]),「#1970. 多義性と頻度の相関関係」 ([2014-09-18-1]) なの記事で関与する問題に触れてきたので,そちらも参照されたい.
・ Hymes, D. H. "Lexicostatistics So Far." Current Anthropology 1 (1960): 3--44.
文学史的には,John Lydgate (c1370--1449) は Chaucer の追随者にすぎず,独創性という点では見劣りがするものと評価されることが多い(「#2503. 中英語文学」 ([2016-03-04-1]) を参照).15世紀イングランドの宮廷のパトロンとして政治的な詩人とも言われ,その長大な著作は,彼の置かれていた環境によって,書いたというよりは書かされたともいえるものである.文体的には,「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]) で触れたように,ラテン語を散りばめた華麗語法の使い手としても知られている.
Pearsall は,"Lydgate as Innovator" という意外な題のもとに論考を著わし,Lydgate の英文学史上の再評価を試みている.結論としては,Lydgate は Chaucer が生み出した数々の作詩上の新機軸を模倣し,強調し,拡大することによって,それが後世に伝統として受け継がれていく礎を築いた,ということである.Pearsall の主張点をいくつか抜き出そう.
. . . Lydgate's career, poem by poem, was a determined effort not just to emulate Chaucer but to surpass him in each of the major poetic genres he had attempted. (7)
. . . Lydgate's ambitious attempt to build an English poetic tradition by "fortifying" (in Dryden's sense) preliminary structures thrown up by Chaucer . . . . (7)
. . . Lydgate did on a large scale what Chaucer had first hinted at on a small scale and in so doing introduced change by sheer reiteration. (8)
. . . Lydgate found himself extending the outbuildings of the mansion of English poetry that Chaucer had established. All he knew was how to lay one line beside another, but somehow, accidentally, he invented the English poetic tradition. (22)
では,Lydgate の英語史上に果たした役割は何だろうか.Pearsall によると,Lydgate は,英語がラテン語やフランス語に比肩する文学語として機能し得ることを示した Chaucer の路線を決定的にし,さらに拡張するという役割を果たしたのだという.とりわけ新語彙導入に,Lydgate は大きく貢献したようだ.Pearsall (8--9) 曰く,"Someone . . . had to do the work of introducing the many new words that English needed to cope with the vast new range of responsibilities it was taking over from Latin and French, and in an extraordinarily large number of cases it was Lydgate."
OED によると,Lydgate が初例となっている単語は少なくない.例えば abuse (vb.), adjacent, capacity, circumspect, combine (vb.), credulity, delude, depend, disappear, equivalent, excel などの通用単語が含まれる.Lydgate はこれらの単語を単に導入しただけではなく,繰り返し用いて定着に貢献したという点も見逃してはならない.同様に,Lydgate 自身が導入者ではなくとも,例えば Chaucer が導入したものの1度しか用いなかったような単語を,繰り返し人々の目に触れるようにした功績も看過できない.MED による調査では,casual, circular, continuation, credible, dishonest, examination, existence, femininity, finally, foundation, ignorant, influence, intelligence, introduction, modify, onward, opposition, perverse, refuge, remorse, rigour, seriously などが,そのような単語として挙げられる.逆にいえば,現代の私たちが Chaucer の言語に何らかの親しみを感じるとすれば,それは Lydgate が間に入って結びつけてくれているからとも言えるのである (Pearsall 9) .
今ひとつ Lydgate の英語史上の役割をあげれば,華麗語法を導入することで「権威ある英語変種とはこれのことだ」と公的に宣言し,Henry V を筆頭とする体制側からはいかがわしく見えた Lollard などの用いる他の変種との差別化を図ったということがあろう.体制側からの「正しい」変種の喧伝である.Pearsall (20) は,Lydgate の aureate diction をそのように位置づけている.
[T]he writing that [Henry V] encouraged, and the writing that Lydgate did . . . in the aureate and Latinate style, demonstrates, one may assume, a policy of reasserting a kind of English as remote as possible from the vernacular promulgated in Lollard writings and biblical translation. English had replaced French as the literary language of England and was increasingly taking over roles traditionally reserved for Latin, but there were kinds of English more appropriate than the language of the people to the preservation of the clerical monopoly and its state sponsors. "Aureation" in Lydgate may be seen in this light as a political choice as well as a stylistic one.
関連して,Lydgate の先輩文学者について「#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2)」 ([2010-02-19-1]) も参照されたい.
・ Pearsall, Derek. "Lydgate as Innovator." Modern Language Quarterly 53 (1992): 5--22.
rise -- mount -- ascend や ask -- question -- interrogate などの英語語彙における三層構造については,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) を始め,lexical_stratification の各記事で扱ってきた.低層の本来語,中層のフランス語,高層のラテン語という分布を示す例は確かに観察されるし,歴史的にもイングランドにおける中世以来の3言語の社会的地位ときれいに連動しているために,英語史では外せないトピックとして話題に上る.
しかし,いつでもこのようにきれいな分布が観察されるとは限らず,上記の三層構造はあくまで傾向としてとらえておくべきである.すでに「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1]) でも示したように,本来語とフランス借用語を並べたときに,最も「普通」で「日常的」に用いられるのがフランス借用語のほうであるようなケースも散見される.Baugh and Cable (182) は,英語語彙の記述において三層構造が理想的に描かれすぎている現状に警鐘を鳴らしている.
. . . such contrasts [between the English element and the Latin and French element] ignore the many hundreds of words from French that are equally simple and as capable of conveying a vivid image, idea, or emotion---nouns like bar, beak, cell, cry, fool, frown, fury, glory, guile, gullet, horror, humor, isle, pity, river, rock, ruin, stain, stuff, touch, and wreck, or adjectives such as calm, clear, cruel, eager, fierce, gay, mean, rude, safe, and tender, to take examples almost at random. The truth is that many of the most vivid and forceful words in English are French, and even where the French and Latin words are more literary or learned, as indeed they often are, they are no less valuable and important. . . . The difference in tone between the English and the French words is often slight; the Latin word is generally more bookish. However, it is more important to recognize the distinctive uses of each than to form prejudices in favor of one group above another.
三層構造の「神話」とまで言ってしまうと言い過ぎのきらいがあるが,特にフランス借用語がしばしば本来語と同じくらい「低い」層に位置づけられる事実は知っておいてよいだろう.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
古ノルド語からの借用語には,基礎的で日常的な語彙が多く含まれていることはよく知られている.「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1]) では,この事実を印象的に表現する Jespersen の文章を引用した.
今回は,現代英語の基礎語彙を構成しているとみなすことのできる古ノルド語からの借用語を列挙しよう.ただし,ここでいう「基礎語彙」とは,Durkin (213) が "we can identify fairly impressionistically the following items as belonging to contemporary everyday vocabulary, familiar to the average speaker of modern English" と述べているように,英語母語話者が直感的に基礎的と認識している語彙のことである.
・ pronouns: they, them, their
・ other function words: both, though, (probably) till; (archaic or regional) fro, (regional) mun
・ verbs that realize very basic meanings: die, get, give, hit, seem, take, want
・ other familiar items of everyday vocabulary (impressionistically assessed): anger, awe, awkward, axle, bait, bank (of earth), bask, bleak, bloom, bond, boon, booth, boulder, bound (for), brink, bulk, cake, calf (of the leg), call, cast, clip (= cut), club (= stick), cog, crawl, dank, daze, dirt, down (= feathers), dregs, droop, dump, egg, to egg (on), fellow, flat, flaw, fling, flit, gap, gape, gasp, gaze, gear, gift, gill, glitter, grime, guest, guild, hail (= greet), husband, ill, kettle, kid, law, leg, lift, link, loan, loose, low, lug, meek, mire, muck, odd, race (= rush, running), raft, rag, raise, ransack, rift, root, rotten, rug, rump, same, scab, scalp, scant, scare, score, scowl, scrap, scrape, scuffle, seat, sister, skill, skin, skirt, skulk, skull, sky, slant, slug, sly, snare, stack, steak, thrive, thrust, (perhaps) Thursday, thwart, ugly, wand, weak, whisk, window, wing, wisp, (perhaps) wrong.
なお,この一覧を掲げた Durkin (213) の断わり書きも付しておこう."Of course, it must be remembered that in many of these cases it is probable that a native cognate has been directly replaced by a very similar-sounding Scandinavian form and we may only wish to see this as lexical borrowing in a rather limited sense."
古ノルド語からの借用語の日常性は,しばしば英語と古ノルド語の言語接触の顕著な特異性を示すものとして紹介されるが,言語接触の類型論の立場からは,いわれるほど特異ではないとする議論もある.後者については,「#1182. 古ノルド語との言語接触はたいした事件ではない?」 ([2012-07-22-1]),「#1183. 古ノルド語の影響の正当な評価を目指して」 ([2012-07-23-1]),「#1779. 言語接触の程度と種類を予測する指標」 ([2014-03-11-1]) を参照されたい.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
英語語彙は世界的 (cosmopolitan) である.350以上の言語から語彙を借用してきた歴史をもち,現在もなお借用し続けている.英語語彙の世界性とその歴史について,以下に本ブログ (http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/) 上の関連する記事にリンクを張った.英語語彙史に関連するリンク集としてどうぞ.
1 数でみる英語語彙
1.1 語彙の規模の大きさ (#45)
1.2 語彙の種類の豊富さ (##756,309,202,429,845,1202,110,201,384)
2 語彙借用とは?
2.1 なぜ語彙を借用するのか? (##46,1794)
2.2 借用の5W1H:いつ,どこで,何を,誰から,どのように,なぜ借りたのか? (#37)
3 英語の語彙借用の歴史 (#1526)
3.1 大陸時代 (--449)
3.1.1 ラテン語 (#1437)
3.2 古英語期 (449--1100)
3.2.1 ケルト語 (##1216,2443)
3.2.2 ラテン語 (#32)
3.2.3 古ノルド語 (##340,818)
3.3 中英語期 (1100--1500)
3.3.1 フランス語 (##117,1210)
3.3.2 ラテン語 (#120)
3.4 初期近代英語期 (1500--1700)
3.4.1 ラテン語 (##114,478)
3.4.2 ギリシア語 (#516)
3.4.3 ロマンス諸語 (#2385)
3.5 後期近代英語期 (1700--1900) と現代英語期 (1900--)
3.5.1 世界の諸言語 (##874,2165)
4 現代の英語語彙にみられる歴史の遺産
4.1 フランス語とラテン語からの借用語 (#2162)
4.2 動物と肉を表わす単語 (##331,754)
4.3 語彙の3層構造 (##334,1296,335)
4.4 日英語の語彙の共通点 (##1526,296,1630,1067)
5 現在そして未来の英語語彙
5.1 借用以外の新語の源泉 (##873,875)
5.2 語彙は時代を映し出す (##625,631,876,889)
[ 参考文献 ]
・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
「#1917. numb」 ([2014-07-27-1]) の記事で,中英語における本来語 nimen と古ノルド語借用語 taken の競合について調査した Rynell の研究に触れた.一般に古ノルド語借用語が中英語期中いかにして英語諸方言に浸透していったかを論じる際には,時期の観点と地域方言の観点から考慮される.当然のことながら,言語項の浸透にはある程度の時間がかかるので,初期よりも後期のほうが浸透の度合いは顕著となるだろう.また,古ノルド語の影響は the Danelaw と呼ばれるイングランド北部・東部において最も強烈であり,イングランド南部・西部へは,その衝撃がいくぶん弱まりながら伝播していったと考えるのが自然である.
このように古ノルド語の言語的影響の強さについては,時期と地域方言の間に密接な相互関係があり,その分布は明確であるとされる.実際に「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1]) や「#1937. 連結形 -son による父称は古ノルド語由来」 ([2014-08-16-1]) に示した語の分布図は,きわめて明確な分布を示す.古英語本来語と古ノルド語借用語が競合するケースでは,一般に上記の分布が確認されることが多いようだ.Rynell (359) 曰く,"The Scn words so far dealt with have this in common that they prevail in the East Midlands, the North, and the North West Midlands, or in one or two of these districts, while their native synonyms hold the field in the South West Midlands and the South."
しかし,事情は一見するほど単純ではないことにも留意する必要がある.Rynell (359--60) は上の文に続けて,次のように但し書きを付け加えている.
This is obviously not tantamount to saying that the native words are wanting in the former parts of the country and, inversely, that the Scn words are all absent from the latter. Instead, the native words are by no means infrequent in the East Midlands, the North, and the North West Midlands, or at least in parts of these districts, and not a few Scn loan-words turn up in the South West Midlands and the South, particularly near the East Midland border in Essex, once the southernmost country of the Danelaw. Moreover, some Scn words seem to have been more generally accepted down there at a surprisingly early stage, in some cases even at the expense of their native equivalents.
加えて注意すべきは,現存する中英語テキストの分布が偏っている点である.言い方をかえれば,中英語コーパスが,時期と地域方言に関して代表性 (representativeness) を欠いているという問題だ.Rynell (358) によれば,
A survey of the entire material above collected, which suffers from the weakness that the texts from the North and the North (and Central) West Midlands are all comparatively late and those from the South West Midlands nearly all early, while the East Midland and Southern texts, particularly the former, represent various periods, shows that in a number of cases the Scn words do prevail in the East Midlands, the North, and the North (and sometimes Central) West Midlands and the South, exclusive of Chaucer's London . . . .
古ノルド語の言語的影響は,中英語の早い時期に北部・東部方言で,遅い時期には南部・西部方言で観察される,ということは概論として述べることはできるものの,それが中英語コーパスの時期・方言の分布と見事に一致している事実を見逃してはならない.つまり,上記の概論的分布は,たまたま現存するテキストの時間・空間的な分布と平行しているために,ことによると不当に強調されているかもしれないのだ.見えやすいものがますます見えやすくなり,見えにくいものが隠れたままにされる構造的な問題が,ここにある.
この問題は,古ノルド語の言語的影響にとどまらず,中英語期に北・東部から南・西部へ伝播した言語変化一般を観察する際にも関与する問題である (see 「#941. 中英語の言語変化はなぜ北から南へ伝播したのか」 ([2011-11-24-1]),「#1843. conservative radicalism」 ([2014-05-14-1])) .
関連して,初期中英語コーパス A Linguistic Atlas of Early Middle English (LAEME) の代表性について「#1262. The LAEME Corpus の代表性 (1)」 ([2012-10-10-1]),「#1263. The LAEME Corpus の代表性 (2)」 ([2012-10-11-1]) も参照.
・ Rynell, Alarik. The Rivalry of Scandinavian and Native Synonyms in Middle English Especially taken and nimen. Lund: Håkan Ohlssons, 1948.
どのくらいの割合の古英語語彙が現代にまで残存しているかという問題について,「#450. 現代英語に受け継がれた古英語の語彙はどのくらいあるか」 ([2010-07-21-1]),「#384. 語彙数とゲルマン語彙比率で古英語と現代英語の語彙を比較する」 ([2010-05-16-1]),「#45. 英語語彙にまつわる数値」 ([2009-06-12-1]) でいくつかの数値をみてきた.最後に挙げた記事に追記したように,Gelderen (73) によれば,古英語にあった本来語の8割が失われた可能性があるという.
同じ問題について,Baugh and Cable (52) は約85%という数字を提示している.関係する箇所を引用しよう.
The vocabulary of Old English is almost purely Germanic. A large part of this vocabulary, moreover, has disappeared from the language. When the Norman Conquest brought French into England as the language of the higher classes, much of the Old English vocabulary appropriate to literature and learning died out and was replaced later by words borrowed from French and Latin. An examination of the words in an Old English dictionary shows that about 85 percent of them are no longer in use. Those that survive, to be sure, are basic elements of our vocabulary and by the frequency with which they recur make up a large part of any English sentence.
「#450. 現代英語に受け継がれた古英語の語彙はどのくらいあるか」 ([2010-07-21-1]) で解説したように,このような統計の背後には様々な前提がある.何を語と認めるか,何を辞書の見出しに採用するかという根本的な問題もあれば,現代までの音韻形態的な連続性に注目するのと意味的な連続性に注目するのとでは観点が異なってくる.だが,古英語を読んでいる実感としては,現代英語の語彙の知識だけでは太刀打ちできない尺度として,このくらい高い数値が出てもおかしくはないとは思われる.年度の始めで古英語入門を始めている学生もいると思われるが,この数値はちょっとした驚き情報ではないだろうか.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
2項イディオムとも呼ばれる英語の word pair あるいは binomial について,本ブログでも「#820. 英仏同義語の並列」 ([2011-07-26-1]),「#1443. 法律英語における同義語の並列」 ([2013-04-09-1]),「#2157. word pair の種類と効果」 ([2015-03-24-1]) をはじめ,いくつかの記事で話題にしてきた.
この語法は,特に中英語以降,フランス語やラテン語からの借用語が増えてきたときに,本来語にそれを並置する習慣から生じた.日本語も英語と同じように,諸言語,特に漢語からの借用を広く受け入れてきた経緯があるので,歴史的に似たような状況があったに違いない.この点について,齋藤 (10 fn.) に関連する言及があった.
Cf. "The inaudible and noiseless foot of Time" (Shakespeare: All's Well That Ends Well, V. iii. 41)
"The dark backward and abysm of Time" (Shakespeare: The Tempest, I. ii. 50)
これは昔,わが国の学者が「詩経」の冒頭にある
関関雎鳩,...窈窕淑女,
を,「クヮンクヮンとやはらぎなけるショキウのみさごは,...エゥテゥとゆほびかなるシュクヂョのよきむすめ」と,いわゆる「文選(もんぜん)読み」をしたのに似ている.
文選読みとは,同一の漢語を音と訓で2度読むことで,「豺狼 (サイラウ) のおほかみ」,「蟋蟀 (シッシュツ) のきりぎりす」,「芬芳(フンポウ)トカウバシ」などがこれに当たる.漢文訓読に由来する読み方で,平安時代に流行した,中国の周から梁に至る千年間の詩文集『文選』を読むときにとりわけ用いられたので,この名前がある.英語における本来語と借用語のペアには,後者の意味を理解させるための前者の並置という動機づけがしばしばあったが,文選読みでも同様に,一般には難しく馴染みの薄い漢語を理解しやすくするために和語の訓読を添えるという習慣が発達したものと思われる.これまで話題にしてきた英仏や英羅の単語ペアは,日本語の発想でいうと「音訓複読」というべきものだったわけだ.日英両言語にこのような類似点のあることは,あまり気づかれていないが,ともに豊富な語彙借用の歴史を歩んできたことを考えれば,ある程度は必然的といってもよいのかもしれない(『日本語学研究事典』 p. 117 も参照).
日本語での "binomial" については,「#1616. カタカナ語を統合する試み,2種」 ([2013-09-29-1]) で触れた「アーカイブ〔保存記録〕」「インフォームドコンセント〔納得診療〕」「ワーキンググループ〔作業部会〕」などの表記も,その一例となるだろう.
・ 齋藤 勇 『英文学史概説』 研究社,1963年.
・ 『日本語学研究事典』 飛田 良文ほか 編,明治書院,2007年.
2項イディオムとも呼ばれる英語の word pair あるいは binomial について,本ブログでも「#820. 英仏同義語の並列」 ([2011-07-26-1]),「#1443. 法律英語における同義語の並列」 ([2013-04-09-1]),「#2157. word pair の種類と効果」 ([2015-03-24-1]) をはじめ,いくつかの記事で話題にしてきた.
この語法は,特に中英語以降,フランス語やラテン語からの借用語が増えてきたときに,本来語にそれを並置する習慣から生じた.日本語も英語と同じように,諸言語,特に漢語からの借用を広く受け入れてきた経緯があるので,歴史的に似たような状況があったに違いない.この点について,齋藤 (10 fn.) に関連する言及があった.
Cf. "The inaudible and noiseless foot of Time" (Shakespeare: All's Well That Ends Well, V. iii. 41)
"The dark backward and abysm of Time" (Shakespeare: The Tempest, I. ii. 50)
これは昔,わが国の学者が「詩経」の冒頭にある
関関雎鳩,...窈窕淑女,
を,「クヮンクヮンとやはらぎなけるショキウのみさごは,...エゥテゥとゆほびかなるシュクヂョのよきむすめ」と,いわゆる「文選(もんぜん)読み」をしたのに似ている.
文選読みとは,同一の漢語を音と訓で2度読むことで,「豺狼 (サイラウ) のおほかみ」,「蟋蟀 (シッシュツ) のきりぎりす」,「芬芳(フンポウ)トカウバシ」などがこれに当たる.漢文訓読に由来する読み方で,平安時代に流行した,中国の周から梁に至る千年間の詩文集『文選』を読むときにとりわけ用いられたので,この名前がある.英語における本来語と借用語のペアには,後者の意味を理解させるための前者の並置という動機づけがしばしばあったが,文選読みでも同様に,一般には難しく馴染みの薄い漢語を理解しやすくするために和語の訓読を添えるという習慣が発達したものと思われる.これまで話題にしてきた英仏や英羅の単語ペアは,日本語の発想でいうと「音訓複読」というべきものだったわけだ.日英両言語にこのような類似点のあることは,あまり気づかれていないが,ともに豊富な語彙借用の歴史を歩んできたことを考えれば,ある程度は必然的といってもよいのかもしれない(『日本語学研究事典』 p. 117 も参照).
日本語での "binomial" については,「#1616. カタカナ語を統合する試み,2種」 ([2013-09-29-1]) で触れた「アーカイブ〔保存記録〕」「インフォームドコンセント〔納得診療〕」「ワーキンググループ〔作業部会〕」などの表記も,その一例となるだろう.
・ 齋藤 勇 『英文学史概説』 研究社,1963年.
・ 『日本語学研究事典』 飛田 良文ほか 編,明治書院,2007年.
2月23日付けで,オックスフォード大学の英語史学者 Simon Horobin による A history of English . . . in five words と題する記事がウェブ上にアップされた.英語に現われた年代順に English, beef, dictionary, tea, emoji という5単語を取り上げ,英語史的な観点からエッセー風にコメントしている.ハイパーリンクされた語句や引用のいずれも,英語にまつわる歴史や文化の知識を増やしてくれる良質の教材である.こういう記事を書きたいものだ.
以下,5単語の各々について,本ブログ内の関連する記事にもリンクを張っておきたい.
1. English or Anglo-Saxon
・ 「#33. ジュート人の名誉のために」 ([2009-05-31-1])
・ 「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」 ([2010-05-21-1])
・ 「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1])
・ 「#1145. English と England の名称」 ([2012-06-15-1])
・ 「#1436. English と England の名称 (2)」 ([2013-04-02-1])
・ 「#2353. なぜアングロサクソン人はイングランドをかくも素早く征服し得たのか」 ([2015-10-06-1])
・ 「#2493. アングル人は押し入って,サクソン人は引き寄せられた?」 ([2016-02-23-1])
2. beef
・ 「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1])
・ 「#332. 「動物とその肉を表す英単語」の神話」 ([2010-03-25-1])
・ 「#1583. swine vs pork の社会言語学的意義」 ([2013-08-27-1])
・ 「#1603. 「動物とその肉を表す英単語」を最初に指摘した人」 ([2013-09-16-1])
・ 「#1604. 「動物とその肉を表す英単語」を次に指摘した人たち」 ([2013-09-17-1])
・ 「#1966. 段々おいしくなってきた英語の飲食物メニュー」 ([2014-09-14-1])
・ 「#1967. 料理に関するフランス借用語」 ([2014-09-15-1])
・ 「#2352. 「動物とその肉を表す英単語」の神話 (2)」 ([2015-10-05-1])
3. dictionary
・ 「#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1)」 ([2010-12-21-1])
・ 「#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2)」 ([2010-12-22-1])
・ 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])
・ 「#610. 脱難語辞書の18世紀」 ([2010-12-28-1])
・ 「#726. 現代でも使えるかもしれない教育的な Cawdrey の辞書」 ([2011-04-23-1])
・ 「#1420. Johnson's Dictionary の特徴と概要」 ([2013-03-17-1])
・ 「#1421. Johnson の言語観」 ([2013-03-18-1])
・ 「#1609. Cawdrey の辞書をデータベース化」 ([2013-09-22-1])
4. tea
・ 「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1])
・ 「#1966. 段々おいしくなってきた英語の飲食物メニュー」 ([2014-09-14-1])
5. emoji
・ 「#808. smileys or emoticons」 ([2011-07-14-1])
・ 「#1664. CMC (computer-mediated communication)」 ([2013-11-16-1])
英語語彙全般については,「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1]), 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]) をはじめとして,lexicology や loan_word などの記事を参照.
「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1]) ,「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1]) などの記事で,初期近代英語の大量語彙借用の反動としての言語純粋主義 (purism) に触れた.確かに純粋主義者として Sir John Cheke (1514--57), Roger Ascham (1515?--68), Sir Thomas Chaloner, Thomas Wilson (1528?--81) などの個性の名前が挙がるが,Görlach (163--64) は,英国ルネサンスにおける反動的純粋主義については過大評価されてきたという見解を示している.彼らとて必要な語彙は借用せざるを得ず,実際に借用したのであり,あくまでラテン語やギリシア語の語彙の無駄な借用や濫用を戒めたのである,と.少々長いが,おもしろい議論なので,そのまま引用しよう.
Purism, understood as resistance to foreign words and as awareness of the possibilities of the vernacular, presupposes a certain level of standardization of, and confidence in, the native tongue. It is no surprise that puristic tendencies are unrecorded before the end of the Middle Ages --- wherever native expressions were coined to replace foreign terms, they served a different purpose to help the uneducated understand better, especially sermons and biblical paraphrase. Tyndale's striving for the proper English expression was still motivated by the desire to enable the ploughboy to understand more of the Bible than the learned bishops.
A puristic reaction was, then, provoked by fashionable eloquence, as is evident from aspects of fifteenth-century aureate diction and sixteenth-century inkhornism . . . . The humanists had rediscovered a classical form of Latin instituted by Roman writers who fought against Greek technical terms as well as fashionable Hellenization, but who could not do without terminologies for the disciplines dominated by Greek traditions. Ascham, Wilson and Cheke (all counted among the 'purists' in a loose application of the term) behaved exactly as Cicero had done: they wrote in the vernacular (no obvious choice around 1530--50), avoided fashionable loanwords and fanciful, rare expressions, but did not object to the borrowing of necessary terms.
Cheke was as inconsistent a 'purist' as he was a reformer of EModE spelling . . . . On the one hand, he went further than most of his contemporaries in his efforts to preserve the English language "vnmixt and vnmangeled" . . ., but on the other hand he also borrowed beyond what was necessary and what his own tenets seemed to allow. (The problem of untranslatable terms, as in his renderings of biblical antiquities, was solved by marginal explanations.) The practice (and historical ineffectiveness) of other 'purists', too, who attempted translations of Latin terminologies --- Golding for medicine, Lever for philosophy and Puttenham for rhetoric . . . --- demonstrates that there was no such rigorous puristic movement in sixteenth-century England as there was in many other countries during the eighteenth and nineteenth centuries. The purists' position and their influence on EModE has often been exaggerated; it is more to the point to speak of "different degrees of Latinity" . . . .
Görlach の見解は,通説とは異なる独自の指摘であり,斬新だ.中英語期のフランス借用語批判や,日本語における明治期のチンプン漢語及び戦後のカタカナ語の流入との関係で指摘される言語純粋主義も,この視点から見直してみるのもおもしろいだろう (see 「#2147. 中英語期のフランス借用語批判」 ([2015-03-14-1]),「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1]),「#1999. Chuo Online の記事「カタカナ語の氾濫問題を立体的に視る」」 ([2014-10-17-1])).
・ Görlach, Manfred. Introduction to Early Modern English. Cambridge: CUP, 1991.
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