他動性 (transitivity) について,2回にわたって論じてきた.
・ 「#5202. 他動性 (transitivity) とは何か?」 ([2023-07-25-1])
・ 「#5204. 他動性 (transitivity) とは何か? (2)」 [2023-07-27-1]
今回は Bussmann (494--95) の用語辞典より transitivity の項を引用する.
Valence property of verbs which require a direct object, e.g. read, see, hear. Used more broadly, verbs which govern other objects (e.g. dative, genitive) can also be termed 'transitive'; while only verbs which have no object at all (e.g. sleep, rain) would be intransitive. Hopper and Thompson (1980) introduce other factors of transitivity in the framework of universal grammar, which result in a graduated concept of transitivity. In addition to the selection of a direct object, other semantic roles as well as the properties of adverbials, mood, affirmation vs negation, and aspect play a role. A maximally transitive sentence contains a non-negated resultive verb in the indicative which requires at least a subject and direct object; the verb complements function as agent and affected object, are definite and animate . . . . Using data from various languages, Hopper and Thompson demonstrate that each of the factors listed above as affecting transitivity is important for making transivtivity through case, adpositions, or verbal inflection. Thus in many languages (e.g. Lithuanian, Polish, Middle High German) affirmation vs negation correlates with the selection of case for objects in such a way that in affirmative sentences the object is usually in the accusative, while in negated sentences the object of the same verb occurs in the genitive or in another oblique case.
他動性とは,(1) グラデーションであること,(2) 言語によってその具現化の方法は様々であること,が分かってきた.理論的には,対格目的語を要求する,結果を表わす直説法の肯定動詞が,最大限に "transitive" であるということだ.
・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.
「#5202. 他動性 (transitivity) とは何か?」 ([2023-07-25-1]) ひ引き続き,他動性 (transitivity) について.
Halliday の機能文法によると,他動性を考える際には3つのパラメータが重要となる.過程 (process),参与者 (participant),状況 (circumstance) の3つだ.このうち,とりわけ過程 (process) が支配的なパラメータとなる.
「過程」と称されるものには大きく3つの種類がある.さらに小さくいえば3つの種類が付け足される.それぞれを挙げると,物質的 (material),精神的 (mental),関係的 (relational),そして 行為的 (behavioural), 言語的 (verbal), 存在的 (existential) の6種となる.
Transitivity A term used mainly in systemic functional linguistics to refer to the system of grammatical choices available in language for representing actions, events, experiences and relationships in the world . . . .
There are three components in a transitivity process: the process type (the process or state represented by the verb phrase in a clause), the participant(s) (people, things or concepts involved in a process or experiencing a state) and the circumstance (elements augmenting the clause, providing information about extent, location, manner, cause, contingency and so on). So in the clause 'Mary and Jim ate fish and chips on Friday', the process is represented by 'ate', the participants are 'Mary and Jim' and the circumstances are 'on Friday'.
Halliday and Mtthiesen (2004) identify three main process types, material, mental and relational, and three minor types, behavioural, verbal and existential. Associated with each process are certain kinds of participants. 1) Material processes refer to actions and events. The verb in a material process clause is usually a 'doing' word . . .: Elinor grabbed a fire extinguisher; She kicked Marina. Participants in material processes include actor ('Elinor', 'she') and goal ('a fire extinguisher', 'Marina'). 2) Metal processes refer to states of mind or psychological experiences. The verb in a mental process clause is usually a mental verb: I can't remember his name; Our party believes in choice. Participants in mental processes include senser(s) ('I'; 'our party') and phenomenon ('his name'; 'choice'). 3) Relational processes commonly ascribe an attribute to an entity, or identify it: Something smells awful in here; My name is Scruff. The verb in a relational processes include token ('something', 'my name')) and value ('Scruff', 'awful'). 4) Behavioural processes are concerned with the behaviour of a participant who is a conscious entity. They lie somewhere between material and mental processes. The verb in a behavioural process clause is usually intransitive, and semantically it refers to a process of consciousness or a physiological state: Many survivors are sleeping in the open; The baby cried. The participant in a behavioral process is called a behaver. 5) Verbal processes are processes of verbal action: 'Really?', said Septimus Coffin; He told them a story about a gooseberry in a lift. Participants in verbal processes include sayer ('Septimus Coffin', 'he'), verbiage ('really', 'a story') an recipient ('them'). 6) Existential processes report the existence of someone or something. Only one participant is involved in an existential process: the existent. There are two main grammatical forms for this type of process: existential there as subject + copular verb (There are thousands of examples.); and existent as subject + copular verb (Maureen was at home.)
これらは,言語活動においてとりわけ根源的な意味関係の6種を選び取ったものといってよいだろう.言語哲学的にいえば,これらのパラメータがどこまで根源的な言語カテゴリーを構成するのかは分からない.考え方一つである.
しかし,機能文法的には当面これらを前提として「過程」が定義され,さらにいえば「他動性」の程度も決まってくる,ということになっている.他動性とはすぐれて相対的な概念・用語ではあるが,このような言語観・文法観の枠組みから出てきた発想であることは知っておきたい.
・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.
標題の問いについては,多くの議論がなされてきた.例えば人名や地名を考えてみよう.「大谷」や「広島」には,指示対象 (referent) があるだけであり,そこに意味 (meaning) はない,という議論がある.これは「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1]) でも前提とした立場だ.
一方,「大谷」は「大きい」「谷」,「広島」は「広い」「島」という語形成であり,各々の要素も,それを組み合わせた合成物も,それぞれ日本語において確かに意味をもつものと考えることができる.さらにいえば,多くの日本語話者にとって多くの場合,「大谷」にはプロ野球界におけるヒーローのイメージが付随しており,「広島」には平和のメッセージが込められている.このようなイメージ性やメッセージ性は,語彙的意味であるとはいえないまでも,別の観点から何らかの意味であるということができそうだ.何をもって「意味」とするかという難しい議論につながっていくことは不可避である.
この問題と関連して,Nyström は5つほどの意味を区別している.私のコメントを付しながら解説する.
(1) 語彙的意味 (lexical meaning):上記の例でいえば「大谷」は「大きい谷」ほどの通常の語彙的意味をもっている.
(2) 固有名的意味 (proprial meaning):「広島」は,日本の本州西部に位置する県あるいは市を指示する固有名詞である.
(3) 範疇的意味 (categorial meaning):「ポチ」は(典型的に)犬というカテゴリーに属するメンバーに付けられる名前である.
(4) 連想的意味 (associative meaning):「大谷」は(多くの人にとって)プロ野球界の希望の星である.
(5) 感情的意味 (emotive meaning):「広島」は(多くの人にとって)原爆被害の強烈な悲惨さ,平和への願いを喚起する.
とりわけ (4) や (5) のような含蓄的意味 (connotation) は,内容も程度も個人によって,あるいは集団にとって異なり得るものであり,語彙的意味や固有名的意味にみられる一般性は必ずしもみられないかもしれない.
・ Nyström, Staffan. "Names and Meaning." Chapter 3 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 39--51.
昨日の記事「#5177. 語議論 (semasiology) と名議論 (onomasiology)」 ([2023-06-30-1]) で取り上げたように,意味変化 (semantic_change or semasiological change) とともに扱われることが多いが,明確に区別すべき過程として名議論的変化 (onomasiological change) というものがある.
Traugott and Dasher (52--53) は,名義論的変化 ("onomasiological changes") について,Bréal の議論を参照する形で,2つのタイプを挙げている.
(i) Specialization: one element "becomes the pre-eminent exponent of the grammatical conception of which it bears the stamp" . . . , for example, the selection of que as the sole complementizer in French . . . .
(ii) Differentiation: two elements which are (near-)synonymous diverge. Paradigm examples include, in English, (a) the specialization, e.g. of hound when dog was borrowed from Scandinavian, and (b) loss of a form when sound change leads to "homonymic clash," e.g. ME let in the sense "prohibit" from OE lett- was lost after OE lætan "allow" also developed into ME let . . . .
Bréal によれば,名義論的変化は,意味変化の話題でないばかりか,単純に名前の変化というわけでもなく,"the proper subject of the 'science of significations'" (95) ということらしい.
正直にいうと,Bréal の説明は込み入っており理解しにくい.
・ Traugott, Elizabeth C. and Richard B. Dasher. Regularity in Semantic Change. Cambridge: CUP, 2005.
・ Bréal, Michel. Semantics: Studies in the Science of Meaning. Trans. Mrs. Henry Cust. New York: Dover, 1964. 1900.
語の意味変化 (semantic_change) を論じる際に,語議論 (semasiology) と名議論 (onomasiology) を分けて考える必要がある.堀田 (155) より引用する.
語の意味変化を考えるに当たっては,語議論 (semasiology) と名議論 (onomasiology) を区別しておきたい.語を意味と発音の結びついた記号と考えるとき,発音(名前)を固定しておき,その発音に結びつけられる意味が変化していく様式を,語議論的変化と呼ぶ.一方,意味の方を固定しておき,その意味に結びつけられる名前が変化していく様式を名義論的変化と呼ぶ.語の意味変化を,記号の内部における結びつき方の変化として広義に捉えるならば,語議論的な変化のみならず名義論的な変化をも考慮に入れてよいだろう.
要するに,語議論は通常の意味変化,名議論は名前の変化と理解しておけばよい.「#3283. 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]が出版されました」 ([2018-04-23-1]) を参照.
現代英語には不定代名詞 (indefinite_pronoun) や不定決定詞 (indefinite determiner) という語類の体系がある.不定 (indefinite) の反対は定 (definite) である.例えば人称代名詞,再帰代名詞,所有代名詞,指示代名詞,そしてときに疑問代名詞にも定的な要素が確認されるが,不定代名詞にはそれがみられない.ただし,不定代名詞・決定詞は,むしろ論理的観点から,量的である (quantitative) ととらえてもよいかもしれない.全称的 (universal) か部分的 (partitive) かという観点である.
Quirk et al. (§6.45) に主要な不定代名詞・決定詞の一覧表がある.こちらを掲載しよう.体系的ではあるが,なかなか複雑な語類であることがわかるだろう.
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
「反対語」「対義語」「対照語」「対応語」などと称される antonym は,語彙意味論においても関心を集めてきた.私も反対語辞典の類いは好きでよく引くのだが,日本語で常用しているものとして『反対語対照語辞典 新装版』がある.
反対語といっても「反対」のあり方は様々で,語彙意味論でもまさにその点が問題となる.上記の辞典の「まえがき」 (i--ii) を読めば,その難しさとおもしろさが理解できるだろう.
単語は一つ一つがばらばらに存在しているのではなく,まとまりをもち,いわばネットワークをなしている.たとえば「父」という単語は,「お父さん」「おやじ」「パパ」などと言い換えることができる.これら四語は,同じものを指している.四語の間には敬意の有無やニュアンスの違いなどがあり,完全に同義であるとはいえないが,同義に近い関係ーー類義の関係ーーにあるということができる.一方,「父」の対として「母」という語がある.そして,「母」にも「お母さん」「おふくろ」「ママ」といったような類義の語が存在する.また,「父」と「母」の両者を包含する語として「親」があり,「親」の対として「子」という語がある.このように,単語は相互に関連して複雑な組織網を形成している.
反対語の定義はきわめて難しい.同義語・類義語には同じものを指すといった基準があるが,反対語の条件は単純ではない.反対語という場合,まず両者の間に共通する意味がなければならない.「母」が「父」の反対語になるのは,両者が<親>という共通の意味をもっているからである.しかし,共通する意味をもっているだけでは,もちろん反対語にはならない.「母」が「父」の反対語になるのは,男性ではなく女性であるということによる.つまり,男性か女性かという基準から見て反対の意味になるのである.反対語の条件は,
(1) 共通する意味をもっていること
(2) その上で,ある基準から見て,反対の意味をもっていること
の二点であるということになるだろう.
もう一つの例をあげよう.「大勝」の反対語には,「大敗」と「辛勝」とがあげられるが,前者は,(1) 大差で勝負がつくという共通点をもち,(2) 勝ち負けという基準から見て反対の意味をもっており,後者,つまり「辛勝」は,(1) 勝つという共通の意味をもち,(2) 勝ち方が大差か小差かという基準から見て反対の意味をもっている.ある語の反対語は,一つとは限らない.基準が変わると,いくつも存在することになる.
以上のように説明すると,反対語の判定は比較的容易なように見えるが,一語一語について具体的に考えていく段になると,反対の意味とは何かということが問題になってきて,判断に苦しむことが多い.
上記で例に挙げられている「大勝」に関する辞典内の図を参照しよう.構造主義的な,きれいなマトリックスとなる.
<大差> | <小差> | ||
<勝利> | 圧勝(大勝・快勝) | ←───→ | 辛勝 |
↑ | ↑ | ||
│ | │ | ||
↓ | ↓ | ||
<敗北> | 惨敗(大敗・完敗) | ←───→ | 惜敗 |
┌─┐ │油│ └─┘ ┌─┐ ↑ ┌─┐ │ │ │ │ │ │ │ ↓ │ │ │水│←──────→┌─┐ │ │ │ │ ┌─┐ │ │ │ │ │蒸│ │湯│←─→│水│←─→│氷│ │ │ └─┘ │ │ │ │ │気│ └─┘ │ │ │ │ ↑ │ │ │ │←────────┼───→│ │ └─┘ ↓ └─┘ ┌─┐ │火│ └─┘
Heine and Kuteva (92) によると,諸言語において不定冠詞 (indefinite article) が発達してきた経路をたどってみると,しばしばそこには意味論的・語用論的な観点から一連の段階が確認されるという.
1 An item serves as a nominal modifier denoting the numerical value 'one' (numeral).
2 The item introduces a new participant presumed to be unknown to the hearer and this participant is then taken up as definite in subsequent discourse (presentative marker).
3 The item presents a participant known to the speaker but presumed to be unknown to the hearer, irrespective of whether or not the participant is expected to come up as a major discourse participant (specific indefinite marker).
4 The item presents a participant whose referential identity neither the hearer nor the speaker knows (nonspecific indefinite marker).
5 The item can be expected to occur in all contexts and on all types of nouns except for a few contexts involving, for instance, definiteness marking, proper nouns, predicative clauses, etc. (generalized indefinite article).
英語の不定冠詞の発達においても,この一連の段階が見られたのかどうかは,詳細に調査してみなければ分からない.しかし,少なくとも発達の開始に相当する第1段階は的確である.つまり,数詞 one (古英語 ān) から始まったことは疑い得ない.2--5の各段階が実証されれば,文法化 (grammaticalisation) の一方向性 (unidirectionality) を支持する事例として取り上げられることにもなろう.注目すべき時代は,おそらく中英語期から近代英語期にかけてとなるに違いない.
関連して「#2144. 冠詞の発達と機能範疇の創発」 ([2015-03-11-1]) も参照.
・ Heine, Bernd and Tania Kuteva. "Contact and Grammaticalization." Chapter 4 of The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 86--107.
標題は多くの英語学習者が抱いたことのある疑問ではないでしょうか?
目下 khelf(慶應英語史フォーラム)では「英語史コンテンツ50」企画が開催されています.4月13日より始めて,休日を除く毎日,khelf メンバーによる英語史コンテンツが1つずつ公開されてきています.コンテンツ公開情報は日々 khelf の公式ツイッターアカウント @khelf_keio からもお知らせしていますので,ぜひフォローいただき,リマインダーとしてご利用ください.
さて,標題の疑問について4月22日に公開されたコンテンツ「#9. なぜ be going to は未来を意味するの?」を紹介します.
さらに,先日このコンテンツの heldio 版を作りました.コンテンツ作成者との対談という形で,この素朴な疑問に迫っています.「#711. なぜ be going to は未来を意味するの?」として配信しています.ぜひお聴きください.
コンテンツでも放送でも触れているように,キーワードは文法化 (grammaticalisation) です.英語史研究でも非常に重要な概念・用語ですので,ぜひ注目してください.本ブログでも多くの記事で取り上げてきたので,いくつか挙げてみます.
・ 「#417. 文法化とは?」 ([2010-06-18-1])
・ 「#1972. Meillet の文法化」([2014-09-20-1])
・ 「#1974. 文法化研究の発展と拡大 (1)」 ([2014-09-22-1])
・ 「#1975. 文法化研究の発展と拡大 (2)」 ([2014-09-23-1])
・ 「#3281. Hopper and Traugott による文法化の定義と本質」 ([2018-04-21-1])
・ 「#5124 Oxford Bibliographies による文法化研究の概要」 ([2023-05-08-1])
とりわけ be going to に関する文法化の議論と関連して,以下を参照.
・ 「#2317. 英語における未来時制の発達」 ([2015-08-31-1])
・ 「#3272. 文法化の2つのメカニズム」 ([2018-04-12-1])
・ 「#4844. 未来表現の発生パターン」 ([2022-08-01-1])
・ 「#3273. Lehman による文法化の尺度,6点」 ([2018-04-13-1])
文法化に関する入門書としては「#2144. 冠詞の発達と機能範疇の創発」 ([2015-03-11-1]) で紹介した保坂道雄著『文法化する英語』(開拓社,2014年)がお薦めです.
・ 保坂 道雄 『文法化する英語』 開拓社,2014年.
昨日までに,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」や YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」を通じて,複数回にわたり五所万実さん(目白大学)と商標言語学 (trademark linguistics) について対談してきました.
[ Voicy ]
・ 「#667. 五所万実さんとの対談 --- 商標言語学とは何か?」(3月29日公開)
・ 「#671. 五所万実さんとの対談 --- 商標の記号論的考察」(4月2日公開)
・ 「#674. 五所万実さんとの対談 --- 商標の比喩的用法」(4月5日公開)
[ YouTube ]
・ 「#112. 商標の言語学 --- 五所万実さん登場」(3月22日公開)
・ 「#114. マスクしていること・していないこと・してきたことは何を意味するか --- マスクの社会的意味 --- 五所万実さんの授業」(3月29日公開)
・ 「#116. 一筋縄ではいかない商標の問題を五所万実さんが言語学の切り口でアプローチ」(4月5日公開)
・ 次回 #118 (4月12日公開予定)に続く・・・(後記 2023/04/12(Wed):「#118. 五所万実さんが深掘りする法言語学・商標言語学 --- コーパス法言語学へ」)
商標の言語学というのは私にとっても馴染みが薄かったのですが,実は日常的な話題を扱っていることもあり,関連分野も多く,隣接領域が広そうだということがよく分かりました.私自身の関心は英語史・歴史言語学ですが,その観点から考えても接点は多々あります.思いついたものを箇条書きで挙げてみます.
・ 語の意味変化とそのメカニズム.特に , metonymy, synecdoche など.すると rhetoric とも相性が良い?
・ 固有名詞学 (onomastics) 全般.人名 (personal_name),地名,eponym など.これらがいかにして一般名称化するのかという問題.
・ 言語の意味作用・進化論・獲得に関する仮説としての "Onymic Reference Default Principle" (ORDP) .これについては「#1184. 固有名詞化 (1)」 ([2012-07-24-1]) を参照.
・ 記号論 (semiotics) 一般の諸問題.
・ 音象徴 (sound_symbolism) と音感覚性 (phonaesthesia)
・ 書き言葉における大文字化/小文字化,ローマン体/イタリック体の問題 (cf. capitalisation)
・ 言語は誰がコントロールするのかという言語と支配と権利の社会言語学的諸問題.言語権 (linguistic_right) や言語計画 (language_planning) のテーマ.
細かく挙げていくとキリがなさそうですが,これを機に商標の言語学の存在を念頭に置いていきたいと思います.
「#5074. 英語の談話標識,43種」 ([2023-03-19-1]),「#5075. 談話標識の言語的特徴」 ([2023-03-20-1]) で談話標識 () 的にとらえていくのがよいだろうという見解である.
実はこの3つのアプローチは,談話標識の意味にとどまらず,一般の語の意味を分析する際にもそのまま応用できる.要するに,同音異義 (homonymy) の問題なのか,あるいは多義 (polysemy) の問題なのか,という議論だ.これについては,以下の記事も参照されたい.
・ 「#286. homonymy, homophony, homography, polysemy」 ([2010-02-07-1])
・ 「#815. polysemic clash?」 ([2011-07-21-1])
・ 「#1801. homonymy と polysemy の境」 ([2014-04-02-1])
・ 「#2823. homonymy と polysemy の境 (2)」 ([2017-01-18-1])
・ 松尾 文子・廣瀬 浩三・西川 眞由美(編著) 『英語談話標識用法辞典 43の基本ディスコース・マーカー』 研究社,2015年.
「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) および「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]) で splendid とその類義語の盛衰をみてきた.類義語間の語義については互いに重なるところも多いのだが,そもそもどのような語義があり得るのだろうか.現在最も普通の形容詞である splendid に注目して語義の拡がりを確認しておきたい.
先月発売されたばかりの『ジーニアス英和辞典』第6版によると,次のように3つの語義が与えられている.
(1) 《やや古》すばらしい,申し分のない (excellent, great) || a splendid idea すばらしい考え / a splendid achievement 立派な業績 / We had a splendid time at the beach. ビーチですばらしい時を過ごした.
(2) 美しい,強い印象を与える (magnificent); 豪華な,華麗な || a splendid view 美しい眺め / a splendid jewel 豪華な宝石.
(3) 《やや古》[間投詞的に]すばらしい!,大賛成!.
splendid は,昨日の記事 ([2022-12-04-1]) でも触れたように,語源としてはラテン語の動詞 splendēre "to be bright or shining" に由来する.その形容詞 splendidus が,17世紀に英語化した形態で取り込まれたということである.原義は「明るい,輝いている」ほどだが,英語での初出語義はむしろ比喩的な語義「豪華な,華麗な」である.原義での例は,その少し後になってから確認される.さらに,時を経ずして「偉大な」「有名な」「すぐれた,非常によい」の語義も次々と現われている.19世紀後半の外交政策である in splendid isolation 「光栄ある孤立」に表わされているような皮肉的な語義・用法も,早く17世紀に確認される.このような語義の通時的発展と共時的拡がりは,いずれもメタファー (metaphor),メトニミー (metonymy),良化 (amelioration),悪化 (pejoration) などの観点から理解できるだろう.参考までに OED の語義区分を挙げておく.
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a. Marked by much grandeur or display; sumptuous, grand, gorgeous.
b. Of persons: Maintaining, or living in, great style or grandeur.
2.
a. Resplendent, brilliant, extremely bright, in respect of light or colour. rare.
b. Magnificent in material respects; made or adorned in a grand or sumptuous manner.
c. Having or embodying some element of material grandeur or beauty.
d. In specific names of birds or insects.
3.
a. Imposing or impressive by greatness, grandeur, or some similar excellence.
b. Dignified, haughty, lordly.
4. Of persons: Illustrious, distinguished.
5. Excellent; very good or fine.
6. Used, by way of contrast, to qualify nouns having an opposite or different connotation. splendid isolation: used with reference to the political and commercial uniqueness or isolation of Great Britain; . . . .
身近な概念だが対応するズバリの1単語が存在しない,そのような概念が言語には多々ある.この現象を「語彙上の欠落」とみなして lexical gap と呼ぶことがある.
例えば brother 問題を取り上げてみよう.「#3779. brother と兄・弟 --- 1対1とならない語の関係」 ([2019-09-01-1]) や「#4128. なぜ英語では「兄」も「弟」も brother と同じ語になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-08-15-1]) で確認したように,英語の brother は年齢の上下を意識せずに用いられるが,日本語では「兄」「弟」のように年齢に応じて区別される.ただし,英語でも年齢を意識した「兄」「妹」に相当する概念そのものは十分に身近なものであり,elder brother や younger sister と表現することは可能である.つまり,英語では1単語では表現できないだけであり,対応する概念が欠けているというわけではまったくない.英語に「兄」「妹」に対応する1単語があってもよさそうなものだが,実際にはないという点で,lexical gap の1例といえる.逆に,日本語に brother に対応する1単語があってもよさそうなものだが,実際にはないので,これまた lexical gap の例と解釈することもできる.
Cruse の解説と例がおもしろいので引用しておこう.
lexical gap This terms is applied to cases where a language might be expected to have a word to express a particular idea, but no such word exists. It is not usual to speak of a lexical gap when a language does not have a word for a concept that is foreign to its culture: we would not say, for instance, that there was a lexical gap in Yanomami (spoken by a tribe in the Amazonian rainforest) if it turned out that there was no word corresponding to modem. A lexical gap has to be internally motivated: typically, it results from a nearly-consistent structural pattern in the language which in exceptional cases is not followed. For instance, in French, most polar antonyms are lexically distinct: long ('long'): court ('short'), lourd ('heavy'): leger ('light'), épais ('thick'): mince ('thin'), rapide ('fast'): lent ('slow'). An example from English is the lack of a word to refer to animal locomotion on land. One might expect a set of incompatibles at a given level of specificity which are felt to 'go together' to be grouped under a hyperonym (like oak, ash, and beech under tree, or rose, lupin, and peony under flower). The terms walk, run, hop, jump, crawl, gallop form such a set, but there is no hyperonym at the same level of generality as fly and swim. These two examples illustrate an important point: just because there is no single word in some language expressing an idea, it does not follow that the idea cannot be expressed.
引用最後の「重要な点」と関連して「#1337. 「一単語文化論に要注意」」 ([2012-12-24-1]) も参照.英語や日本語の lexical gap をいろいろ探してみるとおもしろそうだ.
・ Cruse, Alan. A Glossary of Semantics and Pragmatics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.
昨日の記事「#4937. 仮定法過去は発話時点における反実仮想を表わす」 ([2022-11-02-1]) に引き続き,仮定法過去のもう1つの重要な用法を紹介する.語用論的軟化剤 (pragmatic softener) としての働きだ.Taylor (178) より引用する.
The other use of the past tense that I want to consider is also restricted to a small number of contexts. This is the use of the past tense as a pragmatic softener. By choosing the past tense, a speaker can as it were cushion the effect an utterance might have on the addressee. Thus (6b) is a more tactful way of intruding on a person's privacy than (6a):
(6) a. Excuse me, I want to ask you something.
b. Excuse me, I wanted to ask you something.
Tact can also be conveyed by the past tense in association with the progressive aspect:
(7) a. Was there anything else you were wanting?
b. I was wondering if you could help me.
The softening function of the past tense has been conventionalized in the meanings of the past tense modals in English. (8b) and (9b) are felt to be less direct than the (a) sentences; (10b) expresses greater uncertainty than (10a), especially with tonic stress on might; (11b) merely gives advice, while (11a) has the force of a command.
(8) a. Can you help me?
b. Could you help me?
(9) a. Will you help me?
b. Would you help me?
(10) a. John may know.
b. John might know.
(11) a. You shall speak to him.
b. You should speak to him.
ここで述べられていないのは,なぜ(仮定法)過去が語用論的軟化剤として機能するのかということだ.「敬して遠ざく」というように,社会心理的な敬意と物理的距離とは連動すると考えられる.一種のメタファーだ.現時点からの時間的隔たり,すなわち「遠さ」を表わす過去(形)が,社会心理的な敬意に転用されるというのは,それなりに理に適ったことではないかと私は考えている.
なぜ動詞の過去形を用いると,反実仮想 (counterfactual) となるのか.英語の「仮定法過去」にまつわる意味論上の問題は,古くから議論されてきた.時制 (tense) としての過去は理解しやすい.現在からみて時間的に先行する方向に隔たっている事象を記述する場合に,過去(形)を使うということだ.一方,法 (mood) の観点からは,過去(形)を用いることによって,現実と乖離している事象,いわゆる反実仮想を記述することができる,といわれる.心的態度の距離が物理的時間の距離に喩えられているわけだ.
時制としての過去ではなく反実仮想を表わす過去形について,Taylor (177--78) の主張に耳を傾けよう.
The counterfactual use of the past tense is restricted to a small number of environments---if-conditionals (1), expressions of wishes and desires (2), and suppositions and suggestions (3):
(1) If I had enough time, . . .
(2) a. I wish I knew the answer.
b. It would be nice if I knew the answer.
(3) a. Suppose we went to see him.
b. It's time we went to see him.
The past tense in these sentences denotes counterfactuality at the moment of speaking, and not at some previous point in time. (1) conveys that, at the moment of speaking, the speaker does not have enough time, the sentences in (2) convey that the speaker does not know the answer, while in (3), the proposition encoded in the past tense, if it is to become true at all, will do so after the moment of speaking, that is to say, the past tense refers to a suggested future action. There are also a number of verbs whose past tense forms, under certain circumstances and with the appropriate intonation, can convey the present-time counterfactuality of a state of affairs represented in a past tense subordinate clause . . . :
(4) a. I thought John was married (. . . but he apparently isn't).
b. I had the impression Mary knew (. . . but it seems she doesn't).
These sentences might occur in a situation in which the speaker has just received information which causes him to doubt the (present-time) factuality of the propositions "John is married", "Mary knows". That it is a present, rather than a past state of affairs, that is at issue is shown by the choice of tense in a tag question. Imagine (5) uttered in a situation in which both speaker and addressee are preparing to go to a concert:
(5) But I thought the concert began at 8, does't it?/?didn't it?
The tag doesn't it is preferential in the present tense. In (5), the speaker is questioning the apparent counterfactuality, at the time of speaking, of the proposition "The concert begins at 8".
結論としては,現代英語において仮定法過去は発話時点における反実仮想の命題を表わす,と解釈することができる.
・ Taylor, John R. Linguistic Categorization. 3rd ed. Oxford: OUP, 2003.
「#2278. 意味の曖昧性」 ([2015-07-23-1]) でみたように,一口に曖昧といっても様々なタイプがある.タイプの1つに両義性 (ambiguity) がある.そして,この両義性自体にも様々なタイプがある.先の記事では統語的なものと語彙的なものの例を挙げた.今回はもう少し細かくみてみよう.Cruse (66) によれば,4種があるという.
(1) Pure syntactic ambiguity:
old men and women
French silk underwear
(2) Quasi-syntactic ambiguity:
The astronaut entered the atmosphere again.
a red pencil
(3) Lexico-syntactic ambiguity:
We saw her duck.
I saw the door open.
(4) Pure lexical ambiguity:
He reached the bank.
What is his position?
それぞれの表現にどのような両義性が潜んでいるか,分かるだろうか.
(1) については,(old men) and women なのか old (men and women) なのか,(French silk) underwear なのか French (silk underwear) なのかという統語構造上の区切り方の違いによる両義性が関与している.
(2) については,大気圏への突入(地球への帰還)が1度目なのか2度目なのか,「赤い鉛筆」なのか「赤鉛筆」なのかという両義性が関わっている.一見すると統語的な問題のようにも見えるし,あるいは語彙的な問題にも見えるかもしれないが,実際にはどちらともいえない.何とも扱いづらいタイプの両義性だ(これについては Cruse による多少の議論がある).
(3) の両義性は,彼女のアヒルを見たのか,彼女がかがむのを見たのか,扉が開いているのが見えたのか,扉が開くのが見えたのか,の違いに関係する.ここでは統語的要因と語彙的要因がタッグを組んで作用している.
(4) の両義性は,bank が土手なのか銀行なのか,position が身分なのか見解なのかという純粋に語の多義性に基づくものである.
・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.
昨日の記事「#4911. 意味調整における昇格と降格」 ([2022-10-07-1]) に引き続き,文脈が語に与える意味調整 (semantic modulation) について.
意味調整には,昇格 (promotion) や降格 (demotion) と似てはいるが別種のタイプがある."highlighting" と "backgrounding" と言われるものだ.当面,それぞれを「前景化」「背景化」と和訳しておく.Cruse (53) の説明と例が分かりやすい.
Another effect of contextual modulation on the sense of a lexical unit involves the relative highlighting or backgrounding of semantic traits. Different sorts of trait can be affected in this way. Two examples will suffice. First, some part of an object (or process, etc.) may be thrown into relief relative to other parts. For instance, The car needs servicing and The car needs washing highlight different parts of the car. (This is not to say that car refers to something different in each of these sentences --- in both cases is is the whole car which is referred to.) Second, it is commonly the case that what is highlighted or backgrounded is an attribute, or range of attributes, of the entity referred to. For instance, We can't afford that car highlights the price of the car, Our car crushed Arthur's foot its weight. It is in respect of 'contextually modulated sense' that a lexical unit may be justifiably said to have a different meaning in every distinct context in which it occurs.
文脈に応じて同じ car という語に意味調整が働き,注目点が精妙に操作されているわけだ.前景化(および背景化)は,指示対象の特定の「部分」や「属性」に注目する点で,メトニミー (metonymy) と関係が深い.
・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.
語の意味が文脈によって調整される現象は,意味調整 (semantic modulation) と呼ばれる.意味調整は本質として連続的かつ流動的で,それだけ精妙なものである.意味調整の種類1つに昇格 (promotion) と降格 (demotion) がある.文脈によりある語の特定の意味特徴が "canonical" になった場合,その意味特徴は昇格されたといわれる.反対に,ある意味特徴があり得なくなった場合,それは降格されたといわれる.Cruse (52) より例を挙げよう.
(1) A nurse attended us.
(2) A pregnant nurse attended us.
(1) の nurse には,多くの場合「女性」という意味特徴が含まれているだろうと予期される.おそらく女性でありそうだ,おそらく男性ではなさそうだ,ほどの予期である.
一方 (2) の nurse にあっては,「女性」という意味特徴は "canonical" である,つまり解釈する上で必須の意味特徴である.文脈(あるいは pregnant との共起)によって,意味特徴「女性」が,単にありそうだという地位から,そうでなければならないという地位に昇格されるということだ.逆にいえば,「男性」という意味特徴は,場合によってはあり得るという地位から,絶対にあり得ないという地位に降格されることになる.
もう1つ例を挙げれば,
(3) Arthur poured the butter into a dish.
という文において,butter は必然的に「液体性」という意味特徴を帯びる.通常は butter の液体性は,場合によってはあり得る程度の意味特徴にすぎないが,この文脈(あるいは poured との共起)にあっては,そうでなければならないという地位に昇格されているのである.
・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.
ある人が,果物屋でリンゴを1つ取り上げながら,I like this apple. という英文を発話している場面を想像してください.私たちはこの英文を「私はこのリンゴが好きです」と容易に和訳できますし,その意味を完全に理解できていると思い込んでいますが,本当にそうでしょうか? この文がきわめて多義的となり得ることに気づいたことがあるでしょうか? とりわけ this apple の部分が意外と難しいのです.
まず,this apple が unit の読みか type の読みかという多義性があります.「隣のリンゴではなく,今取り上げているこのリンゴ」というつもりであれば unit の読みとなりますが,「隣の箱の別品種のリンゴではなく,今取り上げているものが代表している品種のリンゴ(例えば「ふじ」)」であれば type の読みとなります.
しかし,本当は type の読みにも様々な可能性があります.上記ではたまたま「品種」という観点から type 分けをしたのですが,type 分けには他の観点もあり得ます.国内産か否かという観点からの区分もあり得ますし,収穫された農園ごとの区分もあり得ます.大きさ,色,成熟度,値段という観点もあり得ます.実際の文脈では,いずれの観点からの type か,聞き手が高い確率で推測できるケースがほとんどだろうとは思いますが,this apple という表現に少なくとも潜在的な多義性があることは分かってきたのではないでしょうか.
指示詞 this のもつ直示性に由来する意味論的・語用論的多義性,および名詞 apple の指示対象である「りんご」の意味論的・語用論的多義性が合わさって,一見すると何も難しいところのなさそうな this apple という表現の意味内容が,驚くほど複雑かつ多様であり得ることが分かったかと思います.
以上,Cruse (50) の議論を参照して執筆しました.
・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.
Cruse (12--13) によると,直感的に意味の異常と理解されるものには,4つの主要なタイプがあるという.意味論的に厳密な分類というよりは,直感的に区分できる分類ということだ.こういう分類は議論のスタートとしてはすぐれていると思う.
A. Pleonasm
Kick it with one of your feet.
A female mother.
He was murdered illegally.
B. Dissonance
Arthur is a married bachelor.
Let us drink time.
Pipe ... ditties of no tone. (Keats: Ode to a Grecian Urn)
Kate was very married. (Iris Murdoch: The Nice and the Good)
C. Improbability
The kitten drank a bottle of claret.
The throne was occupied by a pipe-smoking alligator.
Arthur runs faster than the wind.
D. Zeugma
They took the door off its hinges and went through it.
Arthur and his driving licence expired last Thursday.
He was wearing a scarf, a pair of boots, and a look of considerable embarrassment.
A, B, D はすぐれて意味論的な話題となり得るが,C はむしろ語用論的な話題,もっといえば命題と現実の話題と言えるだろう.
D は日本語では「くびき語法」と言われ,しばしばレトリックやジョークに用いられる.文字通りの意味とイディオム的な意味を引っかけて,2つの異質な表現を1つにまとめるものが多い.例えば「私は家と忍耐を捨てた」「彼は鼻と唇をかんだ」「スカートとスピーチは短いほどいい」のタイプである.
・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.
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