hellog〜英語史ブログ

#5337. 野矢茂樹(著)『言語哲学がはじまる』(岩波新書,2023年)[philosophy_of_language][review][voicy][heldio][link]

2023-12-07


野矢 茂樹 『言語哲学がはじまる』 岩波書店〈岩波新書〉,2023年.


 先日 heldio にて Voicy のデイリートークテーマ「#今年読んでよかった本」に参加する形で,言語哲学 (philosophy_of_language) の入門書を紹介しました.「#913. 野矢茂樹(著)『言語哲学がはじまる』(岩波新書,2023年)です.この秋に出版されたばかりの新書で,言語哲学といういかにも堅そうな分野の書籍ではありますが広く読まれているようです.
 実際,私も言語哲学入門書には何度挫折してきたことでしょう(「おわりに」に挙げられている入門書の何冊かに打ちのめされてきました).それくらい私の頭では追いついていけていない領域なのですが,このたびの野矢茂樹先生の本は,語り口調の文体で書かれており抜群に読みやすいです.ただし,読みやすいとはいえ,やはり十分に難しいのが言語哲学の分野です.そのため読みやすいとは言えても分かりやすいとは言いにくいのが本当のところです.
 本書では Gottlob Frege (1848--1925),Bertrand Russel (1872--1970), Ludwig Wittgenstein (1889--1951) という3人の言語哲学者による意味をめぐる考察が丁寧に解説されていきます.読者は相互の比較対照を通じて意味への多様な対し方に触れていくことになります.言語学でも立場によって意味のとらえ方は様々ですが,一般に深入りしすぎることはありません.深入りしない程度にとどめておき,この本質的な問題を一度脇に置いて,何食わぬ顔で意味論 (semantics) や語用論 (pragmatics) の議論を展開していくことが多いように思われます.しかし,言語哲学では当然ながらそこにぐいぐい深入りしていきます.この辺りがおもしろく,気持ちのよいところです.
 語の意味とは何か,文の意味とは何か.なぜ私たちは言葉の意味を理解できているのか.考え出すと止まらなくなりますね.皆さんも,ぜひこの知的冒険にお出かけください.
 意味をめぐる議論としては,以下の hellog 記事もご参照ください.

 ・ 「#1782. 意味の意味」 ([2014-03-14-1])
 ・ 「#1990. 様々な種類の意味」 ([2014-10-08-1])
 ・ 「#2199. Bloomfield にとっての意味の意味」 ([2015-05-05-1])
 ・ 「#2795. 「意味=指示対象」説の問題点」 ([2016-12-21-1])
 ・ 「#5197. 固有名に意味はあるのか,ないのか?」 ([2023-07-20-1])
 ・ 「#5289. 名前に意味はあるのか?」 ([2023-10-20-1])
 ・ 「#5290. 名前に意味はあるのか論争の4つの論点」 ([2023-10-21-1])

 ・ 野矢 茂樹 『言語哲学がはじまる』 岩波書店〈岩波新書〉,2023年.

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