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plural - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-10-13 11:14

2014-11-04 Tue

#2017. foot の複数はなぜ feet か (2) [plural][i-mutation][verners_law][phonetics][high_vowel_deletion][sobokunagimon]

 「#157. foot の複数はなぜ feet か」 ([2009-10-01-1]) で,不規則複数形 feet の形態について,i-mutation を含む一連の音韻変化の結果として説明した.原則として同じ説明が feet に限らず他の不規則複数形 geese, lice, men, mice, teeth, women にも当てはまるが,復習すると,概略以下のような経緯だったと考えられている.

 (1) ゲルマン祖語: *fōt- (sg.) / *fōt-iz- (pl.)
 (2) 複数形で i-mutation が起こる: *fōt- (sg.) / *fēt-iz- (pl.)
 (3) 古英語期までに *-iz が消失: fōt- (sg.) / fēt- (pl.)

 しかし,この過程をより正確に理解するには,音韻変化の詳細にまで踏み込む必要がある.特に (3) の *-iz が消失するというくだりは,掘り下げる必要がある.というのは,*-iz の消失により,本来は音韻的な意義しかなかった ōē の対立が,形態的な役割を担うようになったからである.
 語尾 *-iz の消失は,2つの音が一気に消失したのではなく,先に *z が,次に *i が消失したと考えられている.ゲルマン祖語では,foot は語幹と屈折語尾の間に母音のないことを特徴とする athematic の屈折タイプに属し,複数主格として *-iz 語尾(無強勢)を取った.末尾の *z は,印欧祖語の *s が強勢を伴わない音節の末尾で有声化した,いわゆる Verner's Law の出力である (Campbell §398.2) .この *z は,同じ弱音節の環境で後に消失した.なお,ゲルマン祖語における a-stem の男性強変化屈折における複数主格語尾は強勢をもつ *-ôs であったため,*s は失われることなく,現在に至るまで複数標示の機能を担い続けている (Campbell §571) .つまり,feet と例えば stones のたどった形態上の歴史は,複数主格語尾に強勢がなかったか,あったかの違い(究極的には,印欧祖語で属していた屈折タイプの違い)に帰せられることになる.
 さて,*z が脱落すると,次は語末の *i も消失にさらされることになった.古英語以前の時期に,語末の弱音節における高母音 *i と *u は,直前に強勢のある長い音節がある環境で脱落した.いわゆる,High Vowel Deletion と呼ばれる音韻変化である.*fēti の *i はこの条件に合致していたために脱落することになった (Campbell §345) .
 (3) では一言で *-iz が脱落したと述べたが,実際には条件づけられた一連の音韻変化の連鎖によって順繰りに脱落していったのである.標題のような現代英語の「素朴な疑問」に対してできる限り満足のいく回答を得るためには,どこまでも歴史を遡らなければならない.

 ・ Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959.

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2014-03-04 Tue

#1772. greengrocer's apostrophe [punctuation][plural][writing][register]

 現代英語では,原則として複数形の s に対して書記上 apostrophe を前置することはない.ただし,例外はあり,規範的には dot your i's など文字そのものの複数形,1890's などの年代,PhD's などの略語の複数形の場合には apostrophe が付されことになっている([2010-11-30-1]の記事「#582. apostrophe」を参照).しかし,最近では,後者2つでは apostrophe を省いて 1890sPhDs とすることが多くなってきている.かつては一般の名詞の複数形にも -'s の綴字が見られたが,現在ではほぼ死に絶えた正書法といっていいだろう.
 しかし,規範から逸れた非標準的な場面で,複数形の -'s が使用されることがある.いや,むしろそこでは生き生きと使用されているのだ.これは "greengrocer's apostrophe" と言われる.Horobin (12) によれば,

. . . the apostrophe is used before a plural -s ending; so-called because it is thought to be particularly prevalent in greengrocers' signs advertising apple's, pear's, and orange's. As Keith Waterhouse notes in his book English our English (1991): 'Greengrocers, for some reason, are extremely generous with their apostrophes---banana's, tomatoe's (or tom's), orange's, etc. Perhaps these come over in crates of fruit, like exotic spiders' (p. 43).


 言われてみれば,なるほど確かに八百屋の値札によく見かける表記だ.例えば,以下のように.

Greengrocer's Apostrophe

 だが,この greengrocer's apostrophe が果たしている役割は何なのだろうか.単なる誤用という解釈もあるようだが,そればかりとは言い切れない.1つ考えられることとして,greengrocer's apostrophe は,八百屋(に限らないが)と結びつけられるものとして,「八百屋」的な使用域 (register) あるいは文体 (style) を表わしているのではないか.「八百屋」的とは何か的確に述べるのは難しいが,日常の食べ物を売る店として,形式的な社会的規範から離れた,庶民性や世俗性のようなものを体現しているのではないか.もっと一般化して言えば,標準的で規範的な表記法から逸脱することで,親しみやすさを演出しているということかもしれない.青物の値札には印刷ではなく手書きがよく似合うが,greengrocer's apostrophe は手書きの気取らなさを一層強める働きをしているとも考えられる.
 もし仮に上記の文体的効果(あるいは社会言語学的効果と言ってもよい)があるのだとすれば,その効果は「#574. punctuation の4つの機能」 ([2010-11-22-1]) のいずれの機能にも該当しないものであるから,punctuation の第5の機能ということになる.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2014-02-26 Wed

#1766. a three-hour(s)-and-a-half flight [compound][adjective][plural][number][numeral]

 標記のような数詞と単位を含む複合形容詞においては,単位を表わす名詞は複数形を取らないのが規則とされる.a four-power agreement, a five-foot-deep river, a ten-dollar bill, a twelve-year-old boy などの如くである.
 しかし,ときに複数形を取る例も散見され,a three-hours-and-a-half flight もあり得るし,a four years course もあり得る.Quirk et al. (Section 17.108) によれば,同種の表現として以下の4通りが可能である.

. . . in quantitative expressions of the following type there is possible variation . . .:
a ten day absence[singular]
a ten-day absence[hyphen + singular]
a ten days absence[plural]
a ten days' absence[genitive plural]


 同様に,「4年制課程」についても,"a four year course", "a four-year course", "a four years course", "a four years' course" のいずれもあり得ることになる.これらの変異形がいかにして生じてきたのか,使い分けの基準がありうるのかという問題は,通時的,理論的に興味深い問題だが,現段階では未調査である.
 この問題と関連しうる話題として注意しておきたいのは,やはりイギリス英語において,名詞の限定形容詞用法では,その名詞が複数形としてある程度語彙化している場合に,複数形の形態のままで実現されることが多いという事実だ.例えば,Quirk et al. (Section 17.109) によると,イギリス英語限定だが,次のような例がみられるという.parks department, courses committee, examinations board, the heavy chemicals industry, Scotland Yard's Obscene Publications Squad, Chesterfield Hospitals management Committee, the British Museum Prints and Drawings Gallery, an Arts degree, soft drinks manufacturer, entertainments guide, appliances manufacturer, the Watergate tapes affair.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2013-11-13 Wed

#1661. 借用と code-switching の狭間 [code-switching][borrowing][plural]

 言語接触に起因する現象はいくつか挙げることができるが,そのなかに借用 (borrowing) や code-switching がある.「#1627. code-switchingcode-mixing」 ([2013-10-10-1]) の記事でも示唆したが,論者によってはこの2つの現象は1つの連続体の両極であるとされる.確かに,そう考えられる理由はある.例えば,A言語とB言語の code-switching において,基盤となるA言語の発話のなかにB言語から取られた単語が1つだけ用いられる場合,これを "nonce-borrowing" と呼ぶこともできそうである.そして,このような nonce-borrowing がある程度慣習化したものが "established borrowing" であり,結果として定着した語が借用語 (loanword) であると言えそうだ.このように考えると,借用と code-switching は連続体の両端だという説も説得力がある.接触言語学の第一人者である Einar Haugen も,この趣旨で code-switching を次のように定義している."the alternate use of two languages including everything from the introduction of a single, unassimilated word up to a complete sentence or more into the context of another language" (quoted from Haugen (193: 521) by Myers-Scotton (256)).
 だが,その想定された連続体の真ん中辺り,借用と code-switching が互いに乗り入れるとされる付近においては,互いの特徴は自然と溶け合うのだろうか,あるいは連続体とはいえどもある程度の不連続な境界が認められるのだろうか.この問題については議論があるようだが,取っ掛かりとして Myers-Scotton (253--60) に当たってみた.
 基盤のA言語にB言語から取られた単語が1つだけ用いられる場合,通常,その語はA言語で置かれるはずの統語的位置に現れるが,形態的にはA言語に特有の屈折などは取らず,裸で用いられる.また,通常その語はB言語での発音として実現される.すなわち,問題の語は基盤言語への同化の度合いが低い分,借用よりも code-switching のほうに近いということになる.一方,スワヒリ語を基盤とする英語の code-switching の実例によると,英単語がスワヒリ語の屈折を示しつつも英語風に実現されるケースがあるというので,判断が難しい.
 問題となるのは,借用と code-switching の境界,あるいは同化の程度を決めるのに,音韻,形態,統語の基準のそれぞれにどの程度の重みづけを付与するのかである.Myers-Scotton (260) は必ずしも歯切れはよくないが,単体で差し挟まれる語は,どちらかというと借用よりは code-switching に近いとして,両者の区別あるいは不連続性を一応は認めている.

Let's be clear: we aren't arguing that all Embedded language single words in codeswitching data sets are bona fide instances of codeswtiching. Some singly occurring Embedded Language words could have become established borrowings. But, as we've shown above, there is good reason to treat most of these singly occurring words as codeswitched forms.


 この問題と関与しそうなのが,借用元言語の形態論を反映した借用である.元言語の形態論を反映しているという意味で code-switching 的だが,音韻的,統語的には慣習化されており,借用語的であるという例だ.何を指すかは具体例を挙げれば一目瞭然だろう.現代英語における alumnus -- alumni, alga -- algae, phenomenon -- phenomena のような外来語の単複数形などである.これらは一般に借用語とみなされているが,上の議論を踏まえると,code-switching 的な特徴を部分的に残した借用語とみなしたくなる.借用と code-switching の境目はグレーではあるが,グレーであるがゆえに,外来語複数の問題に新たな洞察を与えてくれるようにも思える.

 ・ Myers-Scotton, Carol. Multiple Voices: An Introduction to Bilingualism. Malden, MA: Blackwell, 2006.

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2013-06-17 Mon

#1512. fish の複数形 [plural][number][poema_morale][manuscript][inflection]

 現代英語では,通常 fish の複数形は同形の fish である (ex. I saw a school of fish in the river) .特に種類が異なる魚であることを強調する場合には fishes とすることもあるが,その場合にも three kinds of fish などとすることが多い.また,イギリス英語では種類の異同にかかわらず fishes とすることはあるが,一般的には fish は単複同形と考えておいてよいだろう.あるいは,複数としての fish は集合的に用いられているものと考えてもよい.その点では,部分的に fruithair などとも用法が似ている.
 単複同形といえば,ほかに sheepdeer (ただし規則的な複数形 deers もある)が思い浮かぶかもしれない.これらは両語とも古英語の中性強変化名詞 scēap, dēor に遡り,複数主格・対格が同形になることは古英語の形態規則に沿っている.したがって,現代英語の単複同形は古英語からの遺産として説明される.
 ところが,fish の古英語形 fisc は,男性強変化名詞なので複数主格・対格形は fiscas である.これが後に fishes へと発展してゆくのだが,現代英語でより一般的な複数形 fish のほうは sheep, deer のように古英語の遺産としては説明できないことになる.つまり,複数形 fish は古英語より後の時代に生まれた革新形と考える必要がある.
 実際に,複数形 fish は初期中英語で初出している.OED によると,fish を単数形と同形のまま集合的に用いる用法 (1b) は,a1300 の Cursor Mundi に初出する.

9395 (Cott.): Foghul and fiche, grett thing and small.


 また,MEDfish (n.) (2b) によれば,fish の総称的あるいは質量的な名詞としての用法が挙げられており,初例は?a1200の作とされる Layamon's Brut からだ.

Lay. Brut (Clg A.9) 22000: Þer inne is feower kunnes fisc.


 手元にある初期中英語の複数形データベースでは,40例までが複数語尾を伴う形態で,5例のみが単数形と同形である.いまだ -es 形が優勢だが,後の歴史のある段階で形勢が逆転することになったのだろう.7つのバージョンで伝わる Poema Morale では,D写本とM写本のみが語尾なしの形態を用いている.

T(83): He makeð þe fisses in þe sa þe fueles on þe lofte.
J(82): He makede fysses in þe sea. and fuweles in þe lufte.
E1(83): He makede fisses inne þe see. and fuȝeles inne þe lofte
E2(83): He makede fisces in ðe sé. {end} fuȝeles in ðe lufte.
D (159--60): he wrohte fis on þer sae / and foȝeles on þar lefte.
L (83): He makede fisses in þe se 7 fuȝeles in þe lifte.
M (77): He scuppeþ þe fish in þe seo, þe foȝel bi þe lefte.


 以上は「#12. How many carp!」 ([2009-05-11-1]) でも取り上げた話題だが,現代英語における「不規則な」形態の多くが古英語からの遺産として説明できる一方,中英語以降の革新として説明される例も同じくらい多いということに注意したい.

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2012-09-26 Wed

#1248. sth の調音・音響の差 [plural][verb][inflection][suffix][phonetics][3sp]

 名詞複数形の -s 語尾拡大の歴史は私の主要なテーマの1つである(拙著および[2011-11-29-1]の記事「#946. 名詞複数形の歴史の概要」を参照).とりわけ,なぜほかならぬ -s が選ばれたのかという問題にはこだわってきた.Hotta (148--49) では,いくつかの言語内的な要因を指摘したが,その1つとして,-s は他の複数形を代表する屈折語尾と比べて音声的に強固であり,失われにくいことを指摘した.
 -s の音声的卓越という点について,Hickey (62) に関連する言及を見つけた.そこでは,名詞複数形の -s のみならず,動詞3単現の -th に対する -s についても議論されている.

. . . acoustic prominence can be appealed to in the history of English as well, for instance the substitution of /-θ/ by /-s/ in the third person singular or the progressive productivity of /-s/ plurals from Old English onwards and their encroaching on already established plural types --- cf. ME nasal plurals, such as eyeneyes --- can be accounted for on the grounds of the phonetic salience of /s/ and hence its suitability as a grammatical suffix.


 -s の音声的卓越は,ライバル接尾辞に対する直接的な勝因というよりは,最終的な生き残りに貢献した a conditioning factor ぐらいにとらえておくのがよいのではないかと考えるが,形態論の変化に音声的特徴が関わっている事例として注目に値する.特に [s] と [θ] の調音・音響音声学的な差異については,専門的に突っ込んだ裏取りをしたことはなかったので,Hickey (71 [fn. 5]) の次の要約はありがたい(引用中の参考文献書誌は引用者が展開したもの).

Ladefoged and Maddieson (pp. 145--72 of Ladefoged, Peter and Ian Maddieson. The Sounds of the World's Languages. Oxford: Blackwell, 1996.) suggest a division of fricatives into sibilant and non-sibilant given that with the former (/s, ʃ/ articulations in English for instance) the constriction at the alveolar ridge produces a jet of air that hits the obstacle formed by the teeth. In non-obstacle fricatives, such as /θ, ð/, the turbulence is produced at the constriction itself. Laver (pp. 260--63 of Laver, John. Principles of Phonetics. Cambridge: CUP, 1994.) discusses the auditory characteristics of fricatives as does Fry (p. 122 of Fry, Dennis Butler. The Physics of Speech. Cambridge: CUP, 1979.), who notes that the noise energy for [s] is prominent between 4000 and 8000 Hz. It is similar in frequency distribution to [θ] but has much greater energy which means it is more clearly audible (see diagrams, Fry 1979: 123).   *  


 ・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
 ・ Hickey, Raymond. "Salience, Stigma and Standard." The Development of Standard English, 1300--1800. Ed. Laura Wright. Cambridge: CUP, 2000. 57--72.

Referrer (Inside): [2014-05-28-1]

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2012-07-09 Mon

#1169. 抽象名詞としての news [etymology][wycliffe][plural]

 現代英語で news は抽象名詞で不可算として扱われる.数えるときには an item [a piece, a bit] of news のように用い,No news is good news. のように無冠詞でもよく使われる.
 しかし,news の起源は語尾の s に示唆される通り,複数形である.形容詞 new が名詞化され,それが複数形となったのが news である.「新奇な事物」を意味する名詞としての最も早い例は,13世紀に現われる (see MED neue (n.)) .形容詞 new から派生した通常の名詞なので,不定冠詞もつけば,複数形にもなった.
 しかし,この語は「数々の新しい事物」として複数形で用いられることが多かったので,複数形が無標の形式となっていったようだ.この傾向には,ラテン語やフランス語の関与も想定できるだろう.例えば,14世紀後半の Wycliffite Bible に現われる次の例文を見てみよう.

(a1382) WBible(1) (Bod 959) Ecclus.24.35: A king..þe whiche fulfilleþ as phison wisdam & as tigris in þe daiys of newis [WB(2): newe thingis].


 of newis に対応するラテン語は複数属格の novorum である.ラテン語の複数主格 nova は,古仏語でも noveles と複数形で受け入れられ,英語の複数形 news の固定化にも貢献したのではないか.
 「新しい事物」から「新しい情報」へと意味が拡大すると,現代的な「ニュース」となる.OEDMED によれば,この語義での初例は次のものとされる.

c1500(?a1437) ?Jas.I KQ (SeldArch B.24) st.179: Awak..I bring The newis glad.


 この語義は,一般には16世紀以降に盛んとなった.また,16世紀後半からは,news が抽象的に単数で解される例が現われるようになる.OED によると,その初例は次の通り.

1566 Pasquine in Traunce 36, I hearde speak of it, when ye newes therof was brought to Pope Iulie the seconde.


 その後,19世紀まで news の複数扱いと単数扱いの例が並び立つが,結果的に単数扱いの抽象名詞としての用法が確立して現代に至っている.
 名詞の複数形が集合的あるいは抽象的に解され,単数扱いとなってゆく例は,学問名などに典型的に現われる.economics, mathematics, politics, statistics などは,学問名としては単数扱い,具体的な手段や結果を表わす場合には複数扱いとなる.

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2012-03-08 Thu

#1046. 子音字の重複による複数形の表語性と表意性 [iconicity][reduplication][plural][grapheme][grammatology]

 [2009-07-02-1]の記事「#65. 英語における reduplication」の最後で,pp. (= pages) のような子音字の重複 (reduplication) による特殊な複数形について触れた.書きことば限定の表現ということで,これを "graphemic reduplication" と呼んだが,他に探してみると,あまり知られていないものも含めて以下の9種が見つかった.

cc. = chapters
ff. = following pages, lines, etc.
ll. = lines
mm. = messieurs
pp. = pages
qq. = quartos or questions
ss. = sections
SS. = Saints
vv. = verbs, verses, violins, volumes


 例えば pp. 100--200 のもとにあるのは,"pages 100 to 200" あるいは "page 100 to page 200" であり,ページという概念を2度想起させるので,<p> の文字を2度重ねるという発想だろう.これは,書きことばに反映された iconicity図像性)の一種と考えられる([2009-08-18-1]の記事「#113. 言語は世界を写し出す --- iconicity」を参照).
 さて,上記の表記を読み下す場合には,chapters, lines, pages などと対応する単語の複数形で発音すればよいのだろうが,ff. などは "and (the) following (pages [lines])" などと発音するのだろうか.手元の辞書では,意味は示されているが,読みは示されていない.
 pp. などのようにもとの語句へ容易に展開できる場合には,その表記は略記 (abbreviation) であるとともに表語的 (logographic) であるとみなせる.しかし,ff. のようにもとの語句が必ずしも一意的に定まらない場合には,その表記は表語的というよりは表意的 (ideographic) と呼ぶほうが適切だろう.表意的な表記の特徴は,意味が最重要であり,音(読み)は付随的であるという点にあるから,対応する音(読み)は,言ってしまえばどうでもよい.文字を見て意味をとれれば,必ずしも音読する必要がないのである.[2012-03-04-1]の記事「#1042. 英語におけるの音読みと訓読み」で列挙した i.e. の類も,書きことば専用であり,読みはどうであれ意味がわかればそれでよいという点ではすぐれて表語的であった.
 アルファベットは表音文字の最たるものだが (see ##422,423) ,上記のように,省略という動機づけを得て,表語的に用いられる場合もあるし,さらに表意的に用いられる場合すらあることを見た.文字史では,表意文字→表語文字→表音文字と文字体系が発展してきたと説かれるが,典型的な表音文字にあっても,表語文字や表意文字のもつ機能や価値は部分的に保たれているのである.
 表語的あるいは表意的な文字体系である漢字に慣れている日本語母語話者にとって,英語の ff. のような用法は驚くに値しないだろう.「窪隆」なる漢熟語を見せられれば,「ワリュウ」とは読めなくとも,くぼんだ所ともりあがった所なのだろうなと意味は推測できるし,「堀室」を「コッシツ」と読めなくとも,地下に掘った部屋かなと想像がつく.

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2011-11-29 Tue

#946. 名詞複数形の歴史の概要 [plural][number]

 名詞複数形の発展(主として初期中英語期)を長らく研究しているのだが,入れ込みすぎているためか,かえってブログ記事として概要を書きづらい.しかし,概要くらいは書き留めておくとやはり便利なので,以下に教科書的な記述を与えておく.2つ引用を挙げるうち,先のものは簡易版要約として拙著論文 (Hotta, "Review") から,後のものは詳細版要約として Baugh and Cable のものからである.

The s-plural was fairly quickly generalised at the expense of other plural formations such as an n-ending, a vowel-ending, a zero-ending, and an i-mutation, first in the northern/eastern dialects of England in Late Old English (LOE). In the course of Early Middle English (EME), the trend was followed slowly but surely by the southern/western dialects. Although there long persisted older plural formations such as n- and vowel-endings and even unchanged forms, the s-form finally dominated the plural system by the end of ME, with the exception of a handful of "irregular plurals" that have survived to this day. (95)


In early Middle English only two methods of indicating the plural remained fairly distinctive: the -s or -es from the strong masculine declension and the -en (as in oxen) from the weak . . . . And for a time, at least in southern England, it would have been difficult to predict that the -s would become the almost universal sign of the plural that it has become. Until the thirteenth century the -en plural enjoyed great favor in the south, being often added to nouns which had not belonged to the weak declension in Old English. But in the rest of England the -s plural (and genitive singular) of the old first declension (masculine) was apparently felt to be so distinctive that it spread rapidly. Its extension took place most quickly in the north. Even in Old English many nouns originally of other declensions had gone over to this declension in the Northumbrian dialect. By 1200 -s was the standard plural ending in the north and north Midland areas; other forms were exceptional. Fifty years later it had conquered the rest of the Midlands, and in the course of the fourteenth century it had definitely been accepted all over England as the normal sign of the plural in English nouns. Its spread may have been helped by the early extension of -s throughout the plural in Anglo-Norman, but in general it may be considered as an example of the survival of the fittest in language. (160)


 本当はこの記述のように簡単に説明しきれないからこそ突っ込んだ研究が成り立つのだが,概略としてはこの理解で間違いない.ただし,Baugh and Cable の引用の末尾に見られる,Anglo-Norman が英語の -s の発展に影響を与えた可能性があるという説は,今ではほぼ否定されており,私も否定されるべきと考える (Hotta, Development 154, 268 [Note 66]) .

 ・ Hotta, Ryuichi. "Review of The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English." Studies in Medieval English Language and Literature 25 (2010): 95--112.
 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.
 ・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.

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2011-07-05 Tue

#799. 海賊複数の <z> [plural][netspeak][suffix][corpus][z][alphabet]

 複数形ウォッチャーとして,気になる複数接尾辞がある.発音は -s の場合と同様だが,綴字が <z> となる「z 複数」である.Crystal (137) が以下のように指摘していた.

New spelling conventions have emerged, such as the replacement of plural -s by -z to refer to pirated versions of software, as in warez, tunez, gamez, serialz, pornz, downloadz, and filez. (137)


 それぞれ発音の差異を伴わない完全に綴字上の異形態だが,いかがわしい効果は抜群である.このいかがわしさが何に由来するのかといえば,<z> の文字自体のもつ異様さだろう.[2010-07-17-1]の記事「しぶとく生き残ってきた <z>」で取りあげたように,<z> はきわめて影の薄い文字だが,<s> の明らかに期待されるところで <z> が前景化されるとやけに目立つ.
 しかし,「海賊複数」 ( plural of piracy ) とでも呼びたくなるこの <z> 接尾辞(字)の使用は,現在では NetSpeak での隠語としての使用に限定されているようだ.COCA ( Corpus of Contemporary American English ) の検索によると,warez で4例がヒットした( warez 以外の上掲の語はヒットなし).以下はそのうちの1例で,2004年の Houston Chronicle からの記事である.

CW Shredder - www.spyware info.com/merijn/ Developed by the same author as Hijack This!, CW Shredder removes a very common piece of spyware known as the Coolwebsearch Trojan. It takes advantage of a flaw in a key component of Windows - Microsoft's version of the Java Virtual Machine - to install itself via pop-ups often found on porn and illegal software (a.k.a. "warez") sites.


 他に BNCweb で "*z_NN2" として検索してみると,BOYZ が多数ヒットした.ただし,これはアメリカの人気グループ Boyz II Men やアメリカ英語 Boyz n the Hood への言及によるもので,海賊複数とは趣が異なる.とはいえ,固有名や商品名(の宣伝)に非標準的な綴字を用いることは商業広告では広く見られる現象であり(例えば Heinz 社の "Heinz Buildz Kidz" ),目立たせる効果を狙っている点では共通性が感じられる.
 ちなみに,Kirg(h)iz 「キルギス人」がヒットしたが,これはロシア語の綴字に準じたもので単複同形であるにすぎない(異形として Kirg(h)izes もあり).

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

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2011-06-07 Tue

#771. 名詞の単数形と複数形の頻度 [corpus][statistics][plural]

 Biber et al. (Section 4.5.6 [pp. 291--22]) に,一般名詞の単数形と複数形の頻度に関する記述がある.現代英語における大雑把な分布ではあるが,LSWE Corpus の500万語サブコーパスを用いた信頼できる数値なので参考までにメモしておく.まず,各サブコーパスで100万語当たりの生起数に換算してのグラフの再現から(数値データは与えられていなかったのでグラフから概数を読み取っての再現).

Distribution of Plural v. Singular Common Nouns Across Registers by LGSWE


 (1) conversation transcription (CONV), fiction text (FICT), newspaper text (NEWS), academic text (ACAD) の4サブコーパス間の差が激しい.
  - 原則として複数形をとらない不可算名詞も含めているとはいえ,すべてのサブコーパスで単数形が複数形よりも頻度が高い.
  - 会話では単数形の頻度が比較的高い.
  - 書き言葉では話し言葉よりも複数形の頻度が3--4倍も高い.
 (2) 個々の名詞でみると,多くの名詞が単数形あるいは複数形のいずれかへの強い偏りを示す.
 (3) 例えば,次の名詞は75%以上の割合で単数形をとる.ex. car, god, government, grandmother, head, house, theory.
 (4) 例えば,次の名詞は75%以上の割合で複数形をとる.ex. grandchildren, parents, socks, circumstances, eyebrows, onlookers, employees, perks.

 (1) に関して,単数形が圧倒的に多いこと自体はまったく不思議ではない.上述のように不可算名詞は原則として単数形しかあり得ない.また,ほとんどの可算名詞では単数形が lemma そのものであるし無標の形態でもある.ほかには,数の概念が中立化される場合,例えば hand in hand, from time to time などの慣用表現においては,単数形が用いられるのが普通である.
 (2)--(4) に関して,名詞によって単数形か複数形への偏りを示すというのも驚くに当たらない.それぞれの語群を眺めれば,そこに "the communicative needs of the language user" (291) が反映されていることがはっきりと分かるだろう.名詞全体をならせば,「コミュニケーション上の必要性」が単数形に偏りそうだということも直感される.
 では,会話で単数形の使用が多いというのは,どういうわけだろうか.Biber et al. (291--92) は次のように述べている.

In general, the high frequency of singular nouns in conversation probably follows from the concern of speakers with individuals: a person, a thing, an event. Writers of academic prose, on the other hand, are more preoccupied with generalizations that are valid more widely (for people, things, events, etc.). This same tendency applies not only to nouns, but also to determiners and pronouns (4.4.3.1, 4.12.1, 4.14.1, 4.15.2.1).


 コーパス全体としては,複数形は一般名詞の2割程度しか占めないことになる.複数形の研究を専門とする(つまり複数形の例をなるべく多く集めなければならない)私にとっては,なかなか厳しい数値だなあ・・・.

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

Referrer (Inside): [2012-12-09-1]

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2011-05-31 Tue

#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法 [verb][conjugation][suppletion][plural]

 一般に,現代英語の動詞は過去・過去分詞形の形成法により大きく規則変化動詞と不規則変化動詞に分けられる.この区分は,単純に形態音韻論的な1点のみに注目する.過去・過去分詞形の語尾に <-ed> が付加されるか否かという点である.音韻上の現われとしては /-d, -t, -ɪd/ の3種類があり得るが,原形の基体にいずれかがそのまま付加されるか(規則変化動詞),あるいはそれ以外か(不規則変化動詞)という大雑把な区分である.後者はさらに形態音韻論的に細分化されるのが普通だが,ここでは細部には立ち入らない.これを仮に「-<ed> の有無による共時的分類法」と名付け,以下のようにまとめる.

TypeExamples
-ed (規則変化)called, looked, visited
non-ed (不規則変化)bought, came, got, made, sent, set, went


 もう1つ,英語史ではゲルマン語比較言語学の観点から,弱変化動詞と強変化動詞の区分が広く用いられている.要点は,過去・過去分詞形に "dental suffix" を含むか含まないかという点である.表面的には「-<ed> の有無による共時的分類法」と類似しているが,原形(不定形)の基体に「そのまま」 dental suffix が付加されるかどうかという点は重要ではない.この意味では bought, made, sent, went は dental suffix をもっており,called, looked, visited と区別すべき理由はない.弱変化と強変化のほかにも周辺的な活用が存在するが,ここでは考えないこととする.これを仮に「通時的分類法」と名付け,以下のようにまとめる.

TypeExamples
弱変化bought, called, looked, made, sent, set, visited, went
強変化came, got


 ここまではよく知られているが,小林 (42) に「音相変異の大小」による区分という考え方が示されており,関心をもった.これは「-<ed> の有無による共時的分類法」よりもなおのこと共時的な発想で,過去・過去分詞形がどのくらい形態音韻論的に標示されているかという観点から,動詞を大きく3分するものである.音相変異の存在しない「無変異」タイプは,いわゆる無変化型と呼ばれる活用に対応し,cut, hit, hurt, put, set などがここに属する.その対極として,「完全変異」タイプの動詞,いわゆる補充法 ( suppletion ) により活用する動詞がある.be 動詞や went がその例となる.そして,両極の中間として,接辞法 ( called, looked ) ,母音変異 ( came, sang ) ,子音変異 ( sent ) による「不完全変異」タイプがある.これを仮に「音相変異の大小による共時的分類」と呼び,以下のようにまとめる.

TypeExamples
無変異set
不完全変異called, looked, visited; bought, came, got, made; sent
完全変異went


 「音相変異の大小による共時的分類」では,従来の「-<ed> の有無による共時的分類法」や「通時的分類法」では思いつかなかった,set タイプと went タイプの体系的な対置が得られる.これにより,補充法が単なる例外的な振る舞いとして扱われることから解放され,体系のなかで明確な位置づけをもって見直すことができるようになる.補充法の研究に,俄然意義を付されたかのようだ.
 これを名詞の複数形の分類に応用するのもおもしろいだろう.単純な規則・不規則形の対立による分類,あるいは通時的な形態クラスによる分類とは異なる第3の分類が以下の如く可能になる ( cf. [2009-05-11-1] ) .

TypeExamples
無変異carp, fish, hundred, sheep
不完全変異books, dogs, watches; children, oxen; feet, men; alumni, phenomena
完全変異people (for persons)


 ・ 小林 英夫 「補充法について」 『英語英文学論叢』7巻(廣島文理科大學英語英文學論叢編輯室編),1935年,39--49頁,1935年.

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2011-04-21 Thu

#724 thumb の綴りと発音 (2) [spelling_pronunciation_gap][reverse_spelling][silent_letter][plural]

 [2009-06-01-1]の記事で,現代英語 thumb の綴字に含まれる非語源的な reverse spelling の <b> についてOED の記述を参照して「13世紀末の添加」と記した.OED によると,1290年頃の The South English Legendary からの Strongue is þe þoumbe I-cleoped が初例となっている.他の辞書や語源辞典もこの OED の記述を踏襲しているようだが,MED, "thoume" によると,<b> を含む例は,12世紀半ばの The Peterborough Chronicle の1137年の記録に見いだすことができる.Clark 版から該当箇所を引く(赤字は引用者).

Me henged bi the þumbes other bi the hefed 7 hengen bryniges on ˈherˈ fet. (1137, l. 22)


 Clark の注 (p. 94) によると,PChron よりも早い土地台帳 the Doomsday Book に,Oxfordshire の地名 Thomley を表わす語形として Tvmbeleia が用いられているという.<b> の挿入は,OED の記述よりもずっと早く,中英語の最初期にすでに見られたということである.
 [2009-06-01-1]では,crumb, limb, numb と合わせて thumb の <b> は歴史上 /b/ として発音されたためしがないと述べたが,thumb についてはこの発言は訂正すべきかもしれない.11世紀や12世紀の早い時期にこの種の reverse spelling や黙字 ( silent letter ) が導入されたとは考えにくいし,上記の Tvmbeleia の例のように,/m/ に他の音が後続する環境で,わたり音 ( glide ) として破裂音 /b/ が挿入されるのは調音的に自然である.他の語についても,<b> の挿入は近代英語期にかけてのことだが,綴り字発音 ( spelling pronunciation ) が一切なかったかというと,それは確かめようがない.「歴史上 /b/ として発音されたためしがない」というのは主張としては強すぎたかもしれない.せいぜい主張できるのは,「 /b/ を含む発音が散発的にありえたとしても,主要な変種において /b/ を含まない発音に比して優勢な交替形であったことはなさそうだ」くらいのものだろう.ここに訂正したい.
 なお,thumb の古英語形は þūma (男性弱変化名詞)だったので,初期中英語での予想される複数形(主格および対格)は -n 語尾をもつ形態だが,PChron の例ではすでに -s 複数化した þumbes である.私が調べた範囲では,初期中英語コーパスでこの語が複数形に -s をとる例はこれが唯一のものである.

 ・ Clark, Cecily, ed. The Peterborough Chronicle 1070-1154. London: OUP, 1958.

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2011-04-05 Tue

#708. Frequency Sorter CGI [corpus][bnc][statistics][web_service][cgi][lexicology][plural]

 何らかの基準で集めた英単語のリストを,一般的な頻度の順に並び替えたいことがある.例えば,[2011-03-22-1]で論じたように,頻度と不規則な振る舞いとの関係を調べたいときに,注目する語(群)の一般的な頻度を知る必要がある.この目的には,[2010-03-01-1]で紹介したような大規模な汎用コーパスに基づく頻度表が有用である.BNC lemma-pos list (122KB) や ANC word-tagset list (7.2MB) などで問題の語を一つひとつ検索し,頻度数や頻度順位を調べてゆけばよいが,語数が多い場合には面倒だ.そこで,上記2つの頻度表から,入力した語(群)の頻度と順位を取り出す CGI を作成した.
 改行でもスペースでもカンマでもよいのだが,区切られた単語リストを以下のボックスに入力し,"Frequency Sort Go!" をクリックする.出力結果を頻度順位の高い順にソートする場合には,"sort by rank?" をオンにする(デフォルトでオン.オフにすると,入力順に出力される).例えば,現代標準英語に残る純粋に i-mutation を示す複数形は以下の7語のみである(複合語,二重複数,[2011-04-01-1]で話題にした sister(e)n は除く).これをコピーしてボックスに入力する.

foot, goose, louse, man, mouse, tooth, woman


     sort by rank?


 まず,BNC lemma-pos list による出力だが,この頻度表は約1億語の BNC 全体から,頻度にして800回以上現われる,上位6318位までの見出し語 ( lemma ) を収録している.したがって,それよりも頻度の下回る goose, louse については空欄となっている.頻度と不規則性の相関関係を考える際に参考になるだろう.
 次に,ANC word-tagset list による出力が続くが,この頻度表は BNC のものよりも規模が大きく,かつきめ細かい.合計22,164,985語を有する ANC (American National Corpus) から,Penn Treebank Tagset によってクラス付与された単位で語形が列挙されたリストである.タグセットが細かいので読みにくいし,自動タグ付与に起因するエラーも少なからず含まれているが,BNC のものよりも低頻度の語(形)を収録しているので,gooselouse の頻度情報も現われる.こちらの頻度表では WORD FORM ごとの頻度も確認できるため,直接 geeselice の頻度も確かめられる.
 当初 Frequency Sorter の用途として想定していたのは,上記の不規則複数形を示す語群などの頻度と順位の一括調査だったが,他にも用途はあるかもしれない.以下に,思いつきをメモ.

 ・ 1単語から使えるので,like のような多品詞語を入力して,品詞(あるいはタグ付与されたクラス)ごとの頻度を取り出せる.
 ・ ヒット数だけを確認したい場合には,いちいちコーパスを立ち上げる必要がない.
 ・ 論文やプレゼンで,ある目的で集めた数百語の単語リストの中から典型的な例,分かりやすい例を10個ほど示したいときなど,頻度の高い10個を選べばよい.例えば,[2011-03-29-1]で列挙した sur- を接頭辞にもつ単語リストのうち,例示に最もふさわしい10個を選ぶなどの目的に.頻度に基づいた順番のほうが,ランダム順やアルファベット順よりも親切なことが多いだろう(今後,本ブログ執筆に活用する予定).
 ・ 英米それぞれの代表的なコーパスに基づく頻度表を利用しているので,綴字や形態などの頻度の英米差を確認するのに使える.
 ・ (実際には lemmatisation が必要だが)適当な英文を放り込んでみて,妙に頻度の低い語が含まれていないかを調べる.頻度のツールなので,その他,教育・学習目的にいろいろと使えるかもしれない.

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2011-04-04 Mon

#707. dragoman [plural][etymology][metanalysis][analogy][kyng_alisaunder]

 標題の語は「(アラビア語,トルコ語,ペルシア語国の)通訳者」を意味する.OED の語義は,"An interpreter; strictly applied to a man who acts as guide and interpreter in countries where Arabic, Turkish, or Persian is spoken." である.語源はアラビア語の tarjumān 「通訳者」で,様々な言語を経由し,フランス語から中英語に drugeman として14世紀に借用された( MED を参照).初例は,たまたま最近読んでいる Kyng Alisaunder からだというので,以下に引用する.Alexander の進軍に対して,Darius のいとこ Salome がただちに軍を整えるように促す場面.(Smithers 版より.赤字は引用者.)

For Alisaunder is ypassed Achaye,
And is ycome to Arabye,
And is on þis half þe flum Jordan,
And so me seide a drugeman.
Haue we þe feld ar he,
We scullen hym wynne, hym maugre.' (B 3395--400)


 この語がおもしろいのは,語源的には本来語の man とは無関係にもかかわらず,man を含む複合語と誤って分析され,dragomen なる複数形が早くから現われていることだ.現代の辞書でも,複数形として dragomans に加えて dragomen が記載されている.Quirk et al. (306) でも,". . . the irregular plural can be found also in nouns that are not 'true' compounds with -man; eg: dragomandragomans or dragomen." として言及されている.いわば German を *Germen, human を *humen と複数化してしまうタイプの異分析 ( metanalysis ) に基づく誤用といえるが,使用の歴史が長く,辞書に記載されるほどに一般化したということだろう.BNC の検索では,dragomans が3例,dragomen が1例あった.
 通常,名詞の複数形の形成に働く類推 ( analogy ) は,大多数の -s 複数への引きつけという方向に働く.しかし,高度に不規則な i-mutation による複数形であっても,とりわけ頻度の高い men の吸引力は相当に強いと考えられる ([2011-03-22-1]) .現代英語語彙においてタイプの数として圧倒的な吸引力を誇る -s の磁場のなかで,単体の頻度として相当に高い吸引力を有する men が劣勢ながらも反抗している---そんな構図が描けるかもしれない.(ちなみに,初期中英語の名詞複数形を集めた私の研究では,全複数形20496トークンのうち2431トークンが man の複数形だった.あの収集作業のエネルギーの 11.86% が主に men に注がれていたと思うと徒労感が・・・.)

 ・ Smithers, G. V. ed. Kyng Alisaunder. 2 vols. EETS os 227 and 237. 1952--57.
 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2011-04-01 Fri

#704. brethren and sister(e)n [plural][analogy][ame][i-mutation][relationship_noun][corpus][coca][coha]

 昨日の記事[2011-03-31-1]で,古英語の親族名詞の屈折表を見た.brethren の起源についても言及したが,これと関連して親族名詞お得意の類推 ( analogy ) の例をもう一つ挙げよう.brethren との類推で sister(e)n という複数形がある.MED の記述にあるように,中英語では -(e)n 形はごく普通であり,-s 形が一般化するのは brother の場合と同じく近代期以降である.この辺りの話題は私の専門領域なので,詳細なデータをもっている.初期中英語でもイングランドの北部や東部では -s が優勢だが,南部や西部ではこの時期の sister の複数形は原則として -n あるいは母音の語尾が圧倒していることは間違いない ( Hotta, p. 256 ) .
 さて,sister(e)n は現代英語に生き残っているが,brethren と異なり,通常辞書には記載されていない.BNC ( The British National Corpus ) でもヒットしなかった.しかし,COCA ( Corpus of Contemporary American English ), COHA ( Corpus of Historical American English ) ではそれぞれ4例,15例(19世紀後半以降の例)がヒットし,もっぱらアメリカ英語で聞かれることが分かる.COCA からの例を1つ挙げる.政治討論会番組 "CNN Crossfire" からの用例である(赤字は引用者).

Well, you know, I hate to correct you, but you made the same mistake many of your liberal brethren and sisteren, have said in analyzing this dissent by Judge Stevens.


 COCA, COHA 両コーパスからの計19例のうち16例までが brethren and sister(e)n として現われ,主にフィクションで用いられ,dearmy が先行する呼びかけの使い方が多い.brethren と同様に宗教的,組合的な文脈で現われているようだが,限定された語義としてのほか,文体的な効果もあるのかもしれない.関連して,OEDsister の語義5を引用しておこう."In the vocative, as a mode of address, chiefly in transferred senses. Also colloq. as a mode of address to an unrelated woman, esp. one whose name is not known."
 もっぱらアメリカ英語で用いられることについては,Mencken (502) が触れている.

Sisteren or sistern, now confined to the Christians, white and black, of the Get-Right-with-God country, was common in Middle English and is just as respectable, etymologically speaking, as brethren.


 sister(e)n という複数形に関する歴史的な問題は,近現代アメリカ英語での使用を,中英語期以来の継続としてとらえるべきか,あるいはアメリカ英語で改めてもたらされた刷新としてとらえるべきか,である.OED によると,sister(e)n は一般的な文章語としては16世紀半ばに廃れたとある.初期近代英語期の例やイギリス英語を含めた諸方言の例を調査しないと分からないが,(1) brethren との類推は時代を問わずありそうであること,(2) brethren と脚韻を踏むので呼びかけなど口語で特に好まれそうであること,この2点からアメリカ英語での再形成と考えるのが妥当ではないだろうか.中英語で非語源的な sister(e)n が作り出されたくらいだから,近代英語で改めて作られたとしても不思議はない.
 sister(e)n は通常の辞書には載っていないくらいのレアな複数形だが,brethren, children, oxen (but see [2010-08-22-1]) と同じ,現代に残る少数派 -en 複数の仲間に入れてあげたい気がする.

 ・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
 ・ Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.

Referrer (Inside): [2011-04-05-1]

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2011-03-31 Thu

#703. 古英語の親族名詞の屈折表 [inflection][oe][relationship_noun][plural][double_plural][i-mutation][analogy]

 [2011-03-26-1], [2011-03-27-1]の記事で,歯音をもつ5つの親族名詞 father, mother, brother, sister, daughter の形態について論じた.親族名詞はきわめて基本的な語彙であり,形態的にも複雑な歴史を背負っているために,話題に取り上げることが多い.一度,古英語の形態を整理しておきたい.以下は,West-Saxon 方言での主な屈折形を示した表である( Campbell, pp. 255--56; Davis, p. 15 ) .

OE Relationship Noun Inflection

 5語のあいだで互いに類推作用が生じ,屈折形が部分的に似通っていることが観察される.相互に密接な語群なので,何が語源的な形態であるかがすでによく分からなくなっている.
 古英語でも初期と後期,方言の差を考慮に入れれば,この他にも異形がある.例えば brother の複数形として Anglian 方言には i-mutation([2009-10-01-1]) を経た brōēþre が行なわれた.この母音は現代英語の brethren に痕跡を残している.brethren の語尾の -en は,children に見られるものと同じで,古英語,中英語で広く行なわれた複数語尾に由来する.この形態は i-mutation と -en 語尾が同時に見られる二重複数 ( double plural; see [2009-12-01-1] ) の例である.brethren は「信者仲間;(プロテスタントの福音教会派の)牧師;同一組合員;《米》 (男子大学生)友愛会会員」の語義で用いられる brother の特殊な複数形で,古風ではあるが現役である.近代以降に brothers が優勢になるまでは,brethren は「兄弟」の語義でも普通の複数形であり,広く使われていた.中英語では MED に述べられているように,-s 複数形は稀だったのである.

 ・ Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959.
 ・ Davis, Norman. Sweet's Anglo-Saxon Primer. 9th ed. Oxford: Clarendon, 1953.

Referrer (Inside): [2018-04-10-1] [2011-04-01-1]

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2011-03-30 Wed

#702. -ths の発音 [pronunciation][plural]

 近代英語期には,-th で終わる語は,無声と有声のあいだで揺れていた.例えば,seventh, ninth, tenth などでは /ð/ も行なわれていたという(中尾, p. 383 ).それに伴って複数形の -s を付加した発音も /θs/ と /ðz/ のあいだで揺れていたようだが(中尾,p. 372 ),その揺れは現代英語でも解消されていない.Quirk et al. では,"There is considerable indeterminacy between voicing and nonvoicing in many nouns ending in -th." (305) とある.
 現代英語で -th をもつ名詞に複数形の -s を付加した -ths の発音を調べてみた.参照したのは,主にイギリス英語について規範的な言及のある Longman Pronunciation Dictionary ( LPD ) , Fowler's Modern English Usage ( MEU, p. 770 ) , A Comprehensive Grammar of the English Language ( CGEL, pp. 305--06 ) の3点である.今回は,複数形で現われる可能性の十分にある名詞に限った.表中で,"Ts" は /θs/ を,"Dz" は /ðz/ をそれぞれ表わす.セミコロンの後はアメリカ発音.LPDMEU では,相対的に規範性の低いものを ( ) でくくり,非容認発音のものを (( )) でくくった.

 LPDMEUCGEL
bathsDz ((Ts))Dz (Ts) 
berthsTs (Dz); TsTsTs
birthsTsTsTs
breathsTsTs 
brothsTs (Dz); Ts  
clothsTs (Dz); Dz (Ts)Ts (Dz)Ts
deathsTsTsTs
faithsTs Ts
fourthsTsTs 
girthsTsTs 
growthsTsTs 
hearthsTs (Dz); TsTs (Dz) 
heathsTsTs (Dz)Ts
lathsTs (Dz); Dz (Ts)Ts (Dz) 
lengthsTs Ts
mothsTs; Dz (Ts)Ts; Dz (Ts)Ts
mouthsDz ((Ts))Dz 
mythsTsTs 
oathsDz (Ts)DzTs, Dz
pathsDz (Ts)DzDz
sheathsDz (Ts)Dz (Ts)Ts, Dz
smithsTsTs 
truthsDz (Ts)Dz (Ts)Ts, Dz
wraithsTsTs (Dz) 
wreathsDz (Ts) Ts, Dz
youthsDz (Ts); Ts (Dz)DzTs, Dz


  問題の子音群の直前が子音の場合には /θs/ が原則だが,母音の場合には揺れが激しい.( ) でくくられた発音は規範性のより低いとされているものだが,それは必ずしも頻度が低いことを意味しない.LPD の発音傾向調査によると,baths は英米いずれの変種においても /ðz/ と /θs/ が同比率だったという.伝統的な有声発音が相対的に衰えてきているということだろうか.「入浴」の意味では /θs/ を,「バスタブ」の意味では /ðz/ を用いるという人もあるようだ.youths については,有声の /ðz/ は BrE で82%,AmE で39% である.母音に先行される -ths については,今後の振る舞いに注意してゆきたい.もっとも,少なくとも近代英語期から続いている揺れであることを考えると,今後数十年である明確な傾向が観察されるという可能性は低いだろう.
 関連して,上記の名詞から派生した動詞や動名詞の多くは /ðz/ をもっていることに注意したい( ex. bathe, breathe, clothe, mouthing, sheathe, teething, wreathe ) .有声音に挟まれた無声摩擦音の有声化は,古英語に普通に見られた現象である ([2009-05-15-1]).

 ・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.
 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.

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2011-03-22 Tue

#694. 高頻度語と不規則複数 [plural][analogy][kyng_alisaunder][frequency]

 英語に限らず言語において頻度の高い語は妙な振る舞いをする ([2009-09-20-1]) .現代英語では,動詞の過去・過去分詞,名詞の複数,形容詞・副詞の比較級・最上級で不規則な振る舞いをするものには,高頻度語が確かに多い.名詞の複数形に話を絞ると,借用語は別にして本来語で考えると men, children, feet, teeth などがすぐに思い浮かぶ.しかし,geese, mice, oxen, sheep などははたしてそれほど高頻度語といえるだろうか.[2010-03-01-1]で紹介した高頻度語リストから BNC lemma を眺めた限り,gooseox などは上位6318語に入っていない.( oxen については[2010-08-22-1]を参照.)
 しかし,geeseoxen もかつては現代よりも身近な動物であり,使用頻度も高かったと思われる.それが,身近でなくなってからも一種の惰性により不規則形を保持してきたものと考えられるだろう.もちろん,現代あるいは過去における高頻度だけを根拠に,不規則な現象を体系的に説明することはできない.しかし,頻度と規則性の関係が無視しえないことは確かである.関連する議論を McMahon (73) より引用する.

It has been suggested that residual words are often the most frequently occurring, which will be heard and learned earliest by the child and which are furthermore most susceptible to correction if the child does produce a regularised form like **foots. Some objections can be raised; for instance, ox is not a particularly common noun in modern English - although it probably occurred rather frequently in Middle English. Ox might have been expected to regularise as it became less common, but this decrease in frequency probably overlapped with the rise of literacy, which tends to slow down analogical change. In general, the connection of resistance to analogy with frequency seems to hold.


 名詞複数形の研究をしていると,古い英語(特に中英語)のテキストに現われる動物名詞の羅列に敏感に反応してしまう.先日も Kyng Alisaunder を読んでいて,次のような文章に出くわした.マケドニア王が,Alisaunder と Philippe のうち荒馬 Bulcifal を操れる者を世継ぎとすることを決め,その競技の前に神に捧げ物をするという場面である.昨日の記事[2011-03-21-1]と同様,Smithers 版から B (MS. Laud Misc. 622 of the Bodleian Library, Oxford) と L (MS. 150 of the Library of Lincoln's Inn, London) の2バージョンを比較しながら引用する(動物複数名詞を赤字とした).

Oxen, sheep, and ek ken,
many on he dude slen,
And after he bad his goddes feyre
He most wyte of his eyre,
Of Alisaunder and Philippoun,
Who shulde haue þe regioun. (B 759--64)

Oxen schep and eke kuyn
Monyon he dude slen
And after he bad his godus faire
He moste y witen of his aire
Of Alisaundre or of Philipoun
Whiche schold haue þe regioun (L 756--61)


 もう1つは,Alexander 軍が Darius 軍と戦うために準備をしている場面.

Hij charged many a selcouþe beeste
Of olifauntz, and ek camayles,
Wiþ armure and ek vitayles,
Longe cartes wiþ pauylounes,
Hors and oxen wiþ venisounes,
Assen and mulen wiþ her stouers; (B 1860--65)

Y chargid mony a selcouþ beste
Olifauns and eke camailes
Wiþ armure and eke vitailes
Long cartes wiþ pauelouns
Hors and oxen wiþ vensounes
Assen and muylyn wiþ heore stoueris (L 1854--59)


 さらにもう1つ,Darius 軍の進軍の場面より.

Ycharged olifauntz and camaile,
Dromedarien, and ek oxen,
Mo þan ȝe connen asken. (B 3402--04)

And charged olifans and camailes
Dromedaries assen and oxen
Mo þan ȝe can askyn (L 3385--87)


 このように動物名詞が列挙されると,中英語期にはこうした動物が(少なくとも物語の設定において)いかに身近であったかを確認できるとともに,当時の規則複数化の攻勢と不規則複数保持の守勢を具体的に把握することができる.

 ・ McMahon, April M. S. Understanding Language Change. Cambridge: CUP, 1994.
 ・ Smithers, G. V. ed. Kyng Alisaunder. 2 vols. EETS os 227 and 237. 1952--57.

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2011-03-19 Sat

#691. 語尾音消失と形態クラス [morphology][phonetics][lexical_diffusion][ilame][plural][adjective][speed_of_change][neogrammarian]

 音声変化のなかでも語尾音の消失はとりわけ普遍的な現象である.語尾では生理的に調音のエネルギーが落ちるので,弱い発音となりがちである.有声音は無声音になる.母音であれば曖昧母音 schwa [ə] を経由して消失し,破裂子音であれば摩擦音化して消失する.人間の生理に基づく自然の現象である.
 しかし,語尾音消失を含む「自然の」音声変化だからといって,円滑に進行するとは限らない.19世紀ドイツの青年文法学派 ( Neogrammarians ) が確信をもって主張していたものの,実際には,音声変化は当該言語の語彙に対して一律に生じるとは限らない.むしろ,最近の語彙拡散 ( lexical diffusion ) が前提としているように,音声変化には語彙を縫うようにして徐々に進行する例も少なくない.語尾音消失についていえば,語彙に対して一律に作用し始めたかのように見えて,時間が経過するにしたがって形態クラス間で消失の浸透率や速度に差が出てくる事例がある.ある形態クラスでは短期間で消失が完了するが,別の形態クラスでは消失が抑制されて遅延したり,また別の形態クラスでは消失が抑制されるどころか問題の語尾音が復活するなどということもありうる.このような音声変化では,言語外的な(生理的な)要因により開始された音声変化が,形態クラスの区別という言語内的な(機能的な)要因によって調整を受けるということになる.
 英語史からの事例としては,互いに関連する2つの語尾音消失が挙げられる.
 (1) 後期古英語から初期中英語に始まった語尾音 -n の消失.一律に始まったように見えて,中英語期中には形態クラスごとに進行の仕方が異なっていた.弱変化名詞の単数形や形容詞では -n 語尾の消失が速やかだったが,弱変化名詞の複数形では遅れた (Moore, "Loss").初期中英語期の南部諸方言では,名詞の複数形語尾としての -n は消失が遅れたばかりか,むしろ拡張したほどである (Hotta 218).
 (2) 同じく後期古英語から初期中英語に始まった語尾母音(綴字では通常 <e> で綴られ,[ə] で発音された)の消失.これも一律に始まったように見えて,中英語期中の進行の仕方は形態クラスごとに異なっていた.名詞の屈折では語尾母音はよく消失したが,[2010-10-11-1]の記事で見たように形容詞の屈折語尾(複数形と弱変化単数形)として,またおそらくは動詞の不定詞形においても,14世紀まで比較的よく保たれた (Minkova, "Forms" 166; 関連して Moore, "Earliest" も参照).
 (1), (2) の両方で,名詞・形容詞の複数形を標示するという語尾の役割が共通しているのがおもしろい.(2) に関して,Minkova (186) が述べている.

The analysis proposed here assumes that the status of the final -e as a grammatical marker is stable in the plural, for both diachronic inflexional types. Yet in maintaining the syntactically based strong - weak distinction in the singular, -e is no longer independently viable. As a plural signal it is still salient, possibly because of the morphological stability of the category of number in all nouns, so that there is phrase-internal number concord within the adjectival noun phrases. Another argument supporting the survival of plural -e comes from the continuing number agreement between subject noun phrases and the predicate, in other words a morphologically explicit opposition between the singular and the plural continues to be realized across the system.


 性と格は中英語期にほぼ捨て去ったが,数のカテゴリーは現在まで堅持し続けてきた英語の歴史を考えるとき,この語尾音消失と形態クラスの関連は興味深い.

 ・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
 ・ Minkova, Donka. "The Forms of Speech" A Companion to Medieval English Literature and Culture: c.1350--c.1500. Ed. Peter Brown. Malden, MA: Blackwell, 2007. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009. 159--75.
 ・ Minkova, Donka. The History of Final Vowels in English: The Sound of Muting. Berlin: Mouton de Gruyter, 1991.
 ・ Moore, Samuel. "Loss of Final n in Inflectional Syllables of Middle English." Language 3 (1927): 232--59.
 ・ Moore, Samuel. "Earliest Morphological Changes in Middle English." Language 4 (1928): 238--66.

Referrer (Inside): [2011-08-13-1]

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