1月14日に,『英語教育』(大修館書店)の2月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第11回となる今回は「なぜ英語には省略語が多いのか」という話題です.
今回の連載記事は,タイトルとしては省略語に焦点を当てているようにみえますが,実際には英語の語形成史の概観を目指しています.複合 (compounding) や派生 (derivation) などを多用した古英語.他言語から語を借用 (borrowing) することに目覚めた中英語.品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生 (zero-derivation) と呼ばれる玄人的な技を覚えた後期中英語.そして,近現代英語にかけて台頭してきた省略 (abbreviation) や短縮 (shortening) です.
英語史を通じて様々に発展してきたこれらの語形成 (word_formation) の流れを,四則計算になぞらえて大雑把にまとめると,(1) 足し算・掛け算の古英語,(2) ゼロの後期中英語,(3) 引き算・割り算の近現代英語となります.現代は省略や短縮が繁栄している引き算・割り算の時代ということになります.
英語の語形成史を上記のように四則計算になぞらえて大づかみして示したのは,今回の連載記事が初めてです.荒削りではありますが,少なくとも英語史の流れを頭に入れる方法の1つとしては有効だろうと思っています.ぜひ原文をお読みいただければと思います.
省略や短縮について,連載記事と関連するブログ記事へリンクを集めてみました.あわせてご一読ください.
・ 「#631. blending の拡大」 ([2011-01-18-1])
・ 「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1])
・ 「#887. acronym の分類」 ([2011-10-01-1])
・ 「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1])
・ 「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1])
・ 「#894. shortening の分類 (2)」 ([2011-10-08-1])
・ 「#1946. 機能的な観点からみる短化」 ([2014-08-25-1])
・ 「#2624. Brexit, Breget, Regrexit」 ([2016-07-03-1])
・ 「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1])
・ 「#3075. 略語と暗号」 ([2017-09-27-1])
・ 「#3329. なぜ現代は省略(語)が多いのか?」 ([2018-06-08-1])
・ 「#3708. 省略・短縮は形態上のみならず機能上の問題解決法である」 ([2019-06-22-1])
・ 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第11回 なぜ英語には省略語が多いのか」『英語教育』2020年2月号,大修館書店,2020年1月14日.62--63頁.
昨日の記事「#3863. adapt の派生語にみる近代英語期の語彙問題」 ([2019-11-24-1]) に引き続き,Durkin (334) より retard および pulse に関する派生語の乱立状況をのぞいてみよう.
retard (1490) と retardate (1613) の2語が,動詞としてライバル関係にある基体である.ここから派生した語群を年代順に挙げよう(ただし,時間的には逆転しているようにみえるケースもある).retardation (n.) (c.1437), retardance (n.) (1550), retarding (n.) (1585), retardment (n.) (1640), retardant (adj.) (1642), retarder (n.) (1644), retarding (adj.) (1645), retardative (adj.) (1705), retardure (n.) (1751), retardive (adj.) (1787), retardant (n.) (1824), retardatory (adj.) (1843), retardent (adj.) (1858), retardent (n.) (1858), retardency (n.) (1939), retardancy (n.) (1947) となる.
同じように pulse (?a.1425) と pulsate (1674) を動詞の基体として,様々な派生語が生じてきた(やはり時間的には逆転しているようにみえるケースもある).pulsative (n.) (a.1398), pulsatile (adj.) (?a.1425), pulsation (n.) (?a.1425), pulsing (n.) (a.1525), pulsing (adj.) (1559), pulsive (adj.) (1600), pulsatory (adj.) (1613), pulsant (adj.) (1642), pulsating (adj.) (1742), pulsating (n.) (1829) である.
このなかには直接の借用語もあるだろうし,英語内で形成された語もあるだろう.その両方であると解釈するのが妥当な語もあるだろう.混乱,類推,勘違い,浪費,余剰などあらゆるものが詰まった word family である.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
初期近代英語期の語彙に関する問題の1つに,同根派生語の乱立がある.「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#3258. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (1)」 ([2018-03-29-1]),「#3259. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (2)」 ([2018-03-30-1]) などで論じてきたが,今回は adapt という基体を出発点にした派生語の乱立をのぞいてみよう.以下,Durkin (332--33) に依拠する.
OED によると,15世紀初期に adapted が現われるが,adapt 単体として出現するのは1531年である.これ自体,ラテン語 adaptāre とフランス語 adapter のいずれが借用されたものなのか,あるいはいずれの形に基づいているものなのか,必ずしも明確ではない.
その後,両形を基体とした様々な派生語が次々に現われる.adaptation (n.) (1597), adapting (n.) (1610), adaption (n.) (1615), adaptate (v.) (1638), adaptness (n.) (1657), adapt (adj.) (1658), adaptability (n.) (1661), adaptable (adj.) (1692), adaptive (adj.) (1734), adaptment (n.) (1739), adapter (n.) (1753), adaptor (1764), adaptative (adj.) (1815), adaptiveness (n.) (1815), adaptableness (n.) (1833), adaptorial (adj.) (1838), adaptational (adj.) (1849), adaptivity (n.) (1840), adaptativeness (n.) (1841), adaptationism (n.) (1889), adaptationalism (n.) (1922) のごとくだ.
いずれの語がいずれの言語からの借用なのかが不明確であるし,そもそも借用などではなく英語内部において造語された語である可能性も高い.後者の場合には「英製羅語」や「英製仏語」ということになる.歴史語彙論的に,このような語群を何と呼んだらよいのか悩むところである.
この問題に関する Durkin (333) の解説を引いておく.
Very few of these words show direct borrowing from Latin or French (probably just adapt verb, adaptate, adaptation, and maybe adapt adjective), but a number of others are best explained as hybrid or analogous formations on Latin stems. The group as a whole illustrates the impact of the borrowing of a handful of key words in giving rise to an extended word family over time, including many full or partial synonyms. In some cases synonyms may have arisen accidentally, as speakers were simply ignorant of the existence of earlier formations; some others could result from misrecollection of earlier words. . . . However, such profligacy and redundancy is typical of such word families in English well into the Later Modern period, well beyond the period in which 'copy' was particularly in vogue in literary style.
ここからキーワードを拾い出せば "hybrid or analogous formations", "ignorant", "misrecollection", "profligacy and redundancy" などとなろうか.
今回の内容と関連する話題として,以下の記事も参照されたい.
・ 「#1493. 和製英語ならぬ英製羅語」 ([2013-05-29-1])
・ 「#1927. 英製仏語」 ([2014-08-06-1])
・ 「#3165. 英製羅語としての conspicuous と external」 ([2017-12-26-1])
・ 「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1])
・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])
・ 「#3348. 初期近代英語期に借用系の接辞・基体が大幅に伸張した」 ([2018-06-27-1])
・ 「#3858. 「和製○語」も「英製△語」も言語として普通の現象」 ([2019-11-19-1])
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
単語の語源に関する話題で用いられる標題の術語は,少し分かりにくいところがある.定義を求めて OED をはじめ各種の辞書に当たってみたが,最も有用なのは『ジーニアス英和大辞典』なのではないか.以下のようにある.
1 (派生語のもとである)語の原形,(派生語[複合語]の)形成要素.
2 (ある単語の)原形《現代英語の two に対する古英語の twā》.
3 外来語の原語.
特に定まった訳語もなく「エティモン」(複数形は etyma 「エティマ」)と呼ぶほかないが,試みに訳を当てるなら「語源素」ほどだろうか.
『ジーニアス英和大辞典』で3つの語義が挙げられているとおり,etymon は「語源」の複数の側面に光を当てており,それゆえに少々分かりにくくなっているが,実はとても便利な用語である.「○○という単語の語源は何?」という日常的な質問に対する様々な答え(方)に対応しているからだ.
たとえば「poorly という単語の語源は何?」という質問について考えよう.これに対する1つの答え(方)は「中英語の poureliche に遡る」というものだ.現代よりも前の時代から祖先形が確認されれば,それを持ち出して,poorly の語源だといえばよい.poureliche は,"the Middle English etymon of poorly" ということになる.これは先の語義2に対応する.
もう1つの答え(方)は,poorly は形容詞 poor と副詞形成接尾辞 -ly からなっていると説明するやり方である.これは一見すると語源の説明というよりは語形成の説明のように思われる.それでも語源に関する一般的な質問において求められている情報にはちがいない.実際,中英語の poureliche は当時の形容詞 poure と副詞形成接尾辞 -liche を組み合わせて造語したものであるから,これは厳密な意味においても語源の説明になっているのである.この場合,poor/poure と -ly/-liche は,各々が etymon ということになる(つまり "the two etyma of poorly").これは先の語義1に対応する.
最後に,poorly の1つ目の etymon である poor/poure に注目して質問に答えると,「この単語はフランス語 povre を借用したもの」ということになる.借用語の場合には,借用元言語とその言語での形態(「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) の用語に従えば "model")を示すのが典型的な答え方である.ここで説明しているのは "the French etymon of poor" ということになる.これは先の語義3に対応する.
もちろん,フランス語 povre は,これ自体がさらに古い語源をもっており,ラテン語 pauper や,さらに印欧祖語 *pau- にまで遡る.これらの各々も,語義2の意味での etymon という言い方ができる.さらに,2つ目の etymon である接尾辞 -ly/-liche のほうに注目するならば,それはそれとしてゲルマン祖語に遡る豊かな歴史と etymon をもっている.究極の etymon に至るまで etymon の連鎖が続くというわけだ.
etymon はこのように様々な単位を指して用いられるので少々分かりにくく,それゆえ訳語も定まらないのかもしれない.しかし,「○○という単語の語源は何?」という問いに対してどのように答えたとしても,その答えはたいてい etymon/etyma の指摘となっているはずである.このように etymon をとらえると,むしろ分かりやすくなるのではないか.
「#3801. gan にみる古英語語彙の結合的性格」 ([2019-09-23-1]) では,主として古英語の派生語 (derivative) の広がりをみたが,古英語語彙の結合的性格は,複合語 (compound) によって一層よく示される.複合語とは,自立した2つ以上の単語をつなぎ合わせて新たに1つの単語を作ったもので,現代英語でも girlfriend や convenience store などでお馴染みのタイプの単語である.
したがって,現代英語でも複合 (compounding) という語形成はおおいに活躍しているのだが,古英語ではその活躍の幅が広く,また天真爛漫,天衣無縫ですらある.複合語の各要素の意味を知っていれば,それらをつなぎ合わせた複合語自体の意味もおよそ容易に理解できることから,"self-explaining compounds" と呼ばれることもある.Crystal (22) より,古英語からの「自明の複合語」の例をいくつか挙げてみよう.
・ gōdspel < gōd 'good' + spel 'tidings': gospel
・ sunnandæg < sunnan 'sun's' + dæg 'day': Sunday
・ stæfcræft < stæf 'letters' + cræft 'crat': grammar
・ mynstermann < mynster 'monastery' + mann 'man': monk
・ frumweorc < frum 'beginning' + weorc 'work': creation
・ eorþcræft < eorþ 'earth' + cræft 'craft': geometry
・ rōdfæstnian < rōd 'cross' + fæstnian 'fasten': crucify
・ dægred < dæg 'day' + red 'red': dawn
・ lēohtfæt < lēoht 'light' + fæt 'vessel': lamp
・ tīdymbwlātend < tīd 'time' + ymb 'about' + wlātend 'gaze': astronomer
もちろん「自明の」といっても程度の差はあり,最後の tīdymbwlātend などは本当に自明かどうかは疑わしい.また,形式的な変形により本来の自明度が失われた偽装複合語 (disguised_compound) なるものもあれば,あえて自明さを封じ込めることで文学的効果やナゾナゾ効果を醸し出す隠喩的複合語 (kenning) なるものもある(各々「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1]),「#472. kenning」 ([2010-08-12-1]) を参照).ただし,いずれも「自明の複合語」という基礎があった上での応用編ともいうべきものではあろう.「自明の複合語」は,古英語の語形成における際立った特徴の1つといってよい.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.
「#1783. whole の <w>」 ([2014-03-15-1]),「#3275. 乾杯! wassail」 ([2018-04-15-1]) の記事で触れたように,hail, hale, heal, holy, whole, wassail などは同一語根に遡る,互いに語源的に関連する語群である.古英語 hāl (完全な,健全な,健康な)からの派生関係をざっと見てみよう.
まず,古英語 hāl の直接の子孫が,hale や whole である.後者は,それ自体が基体となって wholesome, wholesale, wholly などが派生している.
次に名詞接尾辞を付した古英語 hǣlþ からは,お馴染みの単語 health, healthy, healthful が現われている.
動詞形 hǣlan からは heal, healer が派生した.また,行為者接尾辞を付した Hælend は「救済者(癒やす人)」を意味する重要な古英語単語だった.
形容詞接尾辞を付加した hālig からは holy, holiness, holiday が派生している.hālig を元にして作られた動詞 hālgian からは,hallow, Halloween が現われている.
一方,古英語 hāl に対応する古ノルド語の同根語 heill の影響化で,hail, hail from, hail fellow, wassail なども英語で用いられるようになった.
古英語の語形成の豊かさと意味変化・変異の幅広さを味わうには,うってつけの単語群といえるだろう.以上,Crystal (22) より.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.
現代英語の語彙に3層構造が認められることは,本ブログで「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) を始め,そこに張ったリンク先の記事や,lexical_stratification の各記事で注目してきた.端的にいえば,歴史を通じて様々な言語と接触してきたなかで,語形的に関連しない類義語が借用され蓄積されてきたことに起因する.おかげで,ask -- question -- interrogate のように,語形としては結びつかない「分離的な」 (dissociated) 語彙の性格をもつことになった.
一方,語彙の借用が僅かしかなかった古英語は,1つの基本的な語彙素をもとにして関連語を累々と作り出していく語形成が得意であり,結果として生じた語彙は「結合的な」 (associative) 性格を示した (Kastovsky 294) .この古英語語彙の結合的性格を例証するために,Kastovsky (294--96) に拠って,「行く」を意味する単純な語彙素 gan を取り上げ,そのおびただしい関連語を挙げてみよう.
(1) gan/gangan 'go, come, move, proceed, depart; happen'
(2) derivatives:
(a) gang 'going, journey; track, footprint; passage, way; privy; steps, platform'; compounds: ciricgang 'churchgoing', earsgang 'excrement', faldgang 'going into the sheep-fold', feþegang 'foot journey', forlig-gang 'adultery', hingang 'a going hence, death', hlafgang 'a going to eat bread', huselgang 'partaking in the sacrament', mynstergang 'the entering on a monastic life', oxangang 'hide, eighth of a plough-land', sulhgang 'plough-gang = as much land as can properly be tilled by one plough in one day'; gangern, gangpytt, gangsetl, gangstol, gangtun, all 'privy'
(b) genge n., sb. 'troops, company'
(c) -genge f., sb. in nightgenge 'hyena, i.e. an animal that prowls at night'
(d) -genga m., sb. in angenga 'a solitary, lone goer', æftergenga 'one who follows', hindergenga 'one that goes backwards, a crab', huselgenga 'one who goes to the Lord's supper', mangenga 'one practising evil', nihtgenga 'one who goes by night, goblin', rapgenga 'rope-dancer', sægenga 'sea-goer, mariner; ship'
(e) genge adj. 'prevailing, going, effectual, agreeable'
(f) -gengel sb. in æftergengel 'successor' (perhaps from æftergengan, wk. vb. 'to go')
(3) compounds with verbal first constituent, i.e. V + N (some of them might, however, also be treated as N + N, i.e. with gang as in (2a): gangdæg 'Rogation day, one of the three processional days before Ascension day', gangewifre 'spider, i.e. a weaver that goes', ganggeteld 'portable tent', ganghere 'army of foot-soldiers', gangwucu 'the week of Holy Thursday, Rogation week'
(4) gengan wk. vb. 'to go' < *gang-j-an; æftergengness 'succession, posterity'
(5) prefixations of gan/gangan;
(a) agan 'go, go by, pass, pass into possession, occur, befall, come forth'
(b) began/begangan 'go over, go to, visit; cultivate; surround; honour, worship' with derivatives begánga/bígang 'practice, exercise, worship, cultivation'; begánga/bígenga 'inhabitant, cultivator' and numerous compounds of both; begenge n. 'practice, worship', bigengere 'worker, worshipper'; bigengestre 'hand maiden, attendant, worshipper'; begangness 'calendae, celebration'
(c) foregan 'go before, precede' with derivatives foregenga 'forerunner, predecessor', foregengel 'predecessor'
(d) forgan 'pass over, abstain from'
(e) forþgan 'to go forth' with forþgang 'progress, purging, privy'
(f) ingan 'go in' with ingang 'entrance(-fee), ingression', ingenga 'visitor, intruder'
(g) niþergan 'to descend' with niþergang 'descent'
(h) ofgan 'to demand, extort; obtain; begin, start' with ofgangende 'derivative'
(i) ofergan 'pass over, go across, overcome, overreach' with ofergenga 'traveller'
(j) ongan 'to approach, enter into' with ongang 'entrance, assault'
(k) oþgan 'go away, escape'
(l) togan 'go to, go into; happen; separate, depart' with togang 'approach, attack'
(m) þurhgan 'go through'
(n) undergan 'undermine, undergo'
(o) upgan 'go up; raise' with upgang 'rising, sunrise, ascent', upgange 'landing'
(p) utgan 'go out' with utgang 'exit, departure; privy; excrement; anus'; ?utgenge 'exit'
(q) wiþgan 'go against, oppose; pass away, disappear'
(r) ymbgan 'go round, surround' with ymbgang 'circumference, circuit, going about'.
これらの語彙素には,すべて語幹 gan (多少の変形が加えられているとしても)が含まれている.古英語語彙の結合的な性格の一端を垣間見ることができただろう.
古英語の語形成の類型論的な位置づけについては,同じく Kastovsky に拠った「#3358. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (1)」 ([2018-07-07-1]),「#3359. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (2)」 ([2018-07-08-1]),「#3360. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (3)」 ([2018-07-09-1]) を参照.
・ Kastovsky, Dieter. "Semantics and Vocabulary." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 290--408.
和製英語の話題については「#1624. 和製英語の一覧」 ([2013-10-07-1]) を始めとして (waseieigo) の各記事で取り上げてきた.英語史上も「英製羅語」「英製仏語」「英製希語」などが確認されており,「和製英語」は決して日本語のみのローカルな話しではない.ひとかたならぬ語彙借用の歴史をたどってきた言語には,しばしば見られる現象である.
すでに先の記事で和製英語の一覧を示したが,小学館の『英語便利辞典』に別途「注意すべきカタカナ語・和製英語」 (pp. 450--53) と題する該当語一覧があったので,それを再現しておこう.日本語としてもやや古いもの(というよりも死語?)が少なくないような・・・.
アース | (米)ground; (英)earth |
アットマーク | at sign |
アドバルイン | advertising balloon |
アニメ | animation |
アパート | (米)apartment house; (英)block of flats |
アフターサービス | after-sales service |
アルミホイル | tinfoil; aluminum foil |
アンカー | anchor(man/woman) |
アンプ | amplifier |
イージーオーダー | semi-tailored |
イエスマン | yes-man |
イメチェン(イメージチェンジ) | makeover |
イラスト | illustration |
インクエットプリンター | ink-jet printer |
インターホン | intercom |
インフォマーシャル(情報コマーシャル) | info(r)mercial |
インフラ | infrastructure |
ウィンカー | (米)turn signal; (英)indicator |
ウーマンリブ | women's liberation |
エアコン | air conditioner |
エキス | extract |
エネルギッシュな | energetic |
エンゲージリング | engagement ring |
エンジンキー | ignition key |
エンスト | engine stall; engine failure |
エンタメ | entertainment |
オーダーメード | custom-made; tailor-made; made to order |
オートバイ | motorcycle |
オープンカー | convertible |
オールラウンドの(網羅的) | (米)all-around; (英)all-round |
オキシフル | hydrogen peroxide |
送りバント | sacrifice bunt |
ガーター | (米)suspender; (英)garter |
ガードマン | (security) guard |
カーナビ | car navigation system |
(カー)レーサー | racing driver |
ガソリンスタンド | (米)gas station; (英)petrol station |
カタログ | (米)catalog; (英)catalogue |
ガッツボーズ | victory pose |
カメラマン(写真家) | photographer |
カメラマン(映画などの) | cameraman |
カンニング | cheating |
缶ビール | canned beer |
キータッチ | keyboarding |
キーホルダー | key chain; key ring |
キスマーク | hickey; kiss mark |
ギフトカード(ギフト券) | gift certificate |
キャスター(総合司会者) | newscaster |
キャッチボールをする | play catch |
キャッチホン | telephone with call waiting |
クーラー(冷房装置) | air conditioner |
クラクション | (car) horn |
クリスマス (X'mas) | Xmas; Christmas |
ゲームセンター | (米)(penny) arcade; amusement arcade |
コインロッカー | coin-operated locker |
ゴーカート | go-kart |
コークハイ | coke highball |
ゴーグル | goggle |
ゴーサイン | all-clear; green light |
ゴーストップ | traffic signal |
コーヒーsたんど | coffee bar |
コーポラス | condominium |
ゴールデンアワー | prime time |
コールドマーマ | cold wave |
ゴムバンド | rubber band; (英)elastic band |
ゴロ(野球) | grounder |
コンセント | (米)(electrical) outlet; (英)(wall) socket |
コンパ | party; get-together |
コンパニオン(案内係) | escort; guide |
コンビ | combination |
コンビニ | convenience store |
サイダー | soda |
サイドビジネス(アルバイト) | sideline |
サイドミラー | (米)side(view) mirror; (英)wing mirror, door mirror |
サイン(署名) | signature |
サイン(有名人などの) | autograph |
サントラ | sound track |
シーズンオフ | off season |
ジーバン | jeans |
ジェットコースター | roller coaster |
シスアド | system administrator |
システムキッチン | built-in kitchen unit |
シャー(プ)ペン | (米)mechanical pencil; (英)propelling pencil |
ジャージ | jersey |
シュークリーム | cream puff |
シルバー(お年寄り) | senior citizen |
シルバーシート | priority seat |
シンパ(支持者) | sympathizer |
スカッシュ | squash |
スキンシップ | physical contact |
スタンドプレー | grandstand play |
ステッキ | (walking) stick |
ステン(レス) | stainless steel |
ストーブ | heater |
スパイクタイヤ | (米)studded tire; (英)studded tyre |
スピードダウン | slowdown |
スピードメーター | speedometer |
スペルミス | spelling error; misspelling |
スマートな | stylish; dashing |
スリッパ | mules; scuffs |
セーフティーバント | drag bunt |
セクハラ | sexual harassment |
セレブ | celeb(rity) |
セロテープ | adhesive tape; Scotch tape |
ソフト(コンピュータ) | software |
タイプミス | typo; typographical error |
タイムリミット | deadline |
タイムレコーダー | time clock |
タキシード | (米)dinner suit; (英)tuxedo |
タレント | personality; star |
ダンプカー | (米)dump truck; (英)dumper truck |
?????c????? | fastener; 鐚?膠鰹??zipper; 鐚???縁??zip (fastener) |
チョーク(車の) | choke |
テーブルスピーチ | after-dinner speech |
テールランプ | (米)tail light; (英)tail lamp |
デジカメ | digital camera |
デモ(示威運動) | demonstration |
テレホンサービス | telephone information service |
電子レンジ | microwave oven |
ドアボーイ | doorman |
ドクターヘリ | medi-copter |
ドットプリンター | dot matrix printer |
トップバッター | lead-off batter; lead-off man |
トランク(車の) | (米)trunk; (英)boot |
トランプ | (playing) card |
??????????? | 鐚?膠鰹??sweat pants; 鐚???縁??track-suit trousers |
ナイター | night game |
ナンバープレート | (米)license plate; (英)number plate |
ニュースキャスター | anchor(man/woman) |
ニューフェース | newcomer |
ネームBリュー | recognition value |
?????? | negative |
ノースリーブ(の) | sleeveless |
ノート(帳面) | notebook |
ノルマ | quota |
ノンステップバス | kneeling bus |
バイキング | buffet; buffet-style dinner; smorgasbord |
バイク | motorcycle; motorbike |
ハイティーン | late teens |
?????ゃ????? | high tech(nology) |
ハイビジョン | high-definition TV system |
ハウスマヌカン | sales clerk |
バスローブ | (米)bathrobe; (英)dressing gown |
パソコン | personal computer |
バックアップ(支援) | backing; support |
バックネット | backstop |
バックマージン | kickback |
バックミュージック | background music |
バックミラー | rear-view mirror |
バックライト | (米)backup light; (英)reversing light |
バッターボックス | batter's box |
ハッピーエンド | happy ending |
パネラー | panelist |
バリカン | hair clippers |
ハローワーク | (米)employment agency; employment bureau |
パンク | (米)flat tire; (英)puncture |
ハンスト | hunger strike |
パンスト | (米)pantyhose; (英)tights |
ハンドマイク | (米)bullhorn; (英)loudhailer |
ハンドル(車の) | steering wheel |
?????若????? | green pepper |
ピッチ(速度) | pace |
ビニール袋 | plastic bag |
?????? | flyer; flier |
ビル(建物) | building |
フォアボール | base on balls |
プッシュホン | push-button phone; touch-tone phone |
ブラインドタッチ | touch typing |
プラモデル | plastic model |
ブランド物 | brand-name goods |
フリーサイズ | one size fits all |
フリーター | job-hopping part-timer worker |
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標題の2つの行為者接尾辞 (agentive suffix) について,それぞれ「#1748. -er or -or」 ([2014-02-08-1]),「#2188. spinster, youngster などにみられる接尾辞 -ster」 ([2015-04-24-1]) などで取り上げてきた.
-er は古英語では -ere として現われ,ゲルマン諸語にも同根語が確認される.そこからゲルマン祖語 *-ārjaz, *-ǣrijaz が再建されているが,さらに遡ろうとすると起源は判然としない.Durkin (114) によれば,ラテン語 -ārius, -ārium, -āria の借用かとのことだ(このラテン語接尾辞は別途英語に形容詞語尾 -ary として入ってきており,budgetary, discretionary, parliamentary, unitary などにみられる).
一方,もともと女性の行為者を表わす古英語の接尾辞 -estre, -istre も限定的ながらもいくつかのゲルマン諸語にみられ,ゲルマン祖語形 *-strjōn が再建されてはいるが,やはりそれ以前の起源は不明である.Durkin (114) は,こちらもラテン語の -istria に由来するのではないかと疑っている.
もしこれらの行為者接尾辞がラテン語から借用された早期の(おそらく大陸時代の)要素だとすれば,後の英語の歴史において,これほど高い生産性を示すことになったラテン語由来の形態素はないだろう.特に -er についてはそうである.これが真実ならば,「#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性」 ([2019-09-10-1]) で述べたとおり,最初期のラテン借用要素のもつ日常的な性格を裏書きするもう一つの事例となる.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
昨日の記事「#3763. 形容詞接尾辞 -ate の起源と発達」 ([2019-08-16-1]) に引き続き,接尾辞 -ate の話題.動詞接尾辞の -ate については「#2731. -ate 動詞はどのように生じたか?」 ([2016-10-18-1]) で取り上げたが,今回はその起源と発達について,OED -ate, suffix1 を参照しながら,もう少し詳細に考えてみよう.
昨日も述べたように,-ate はラテン語の第1活用動詞の過去分詞接辞 -ātus, -ātum, -āta に遡るから,本来は動詞の語尾というよりは(過去分詞)形容詞の語尾というべきものである.動詞接尾辞 -ate の起源を巡る議論で前提とされているのは,-ate 語に関して形容詞から動詞への品詞転換 (conversion) が起こったということである.形容詞から動詞への品詞転換は多くの言語で認められ,実際に古英語から現代英語にかけても枚挙にいとまがない.たとえば,古英語では hwít から hwítian, wearm から wearmian, bysig から bysgian, drýge から drýgan が作られ,それぞれ後者の動詞形は近代英語期にかけて屈折語尾を失い,前者と形態的に融合したという経緯がある.
ラテン語でも同様に,形容詞から動詞への品詞転換は日常茶飯だった.たとえば,siccus から siccāre, clārus から clārāre, līber から līberāre, sacer から sacrāre などが作られた.さらにフランス語でも然りで,sec から sècher, clair から clairer, content から contenter, confus から confuser などが形成された.英語はラテン語やフランス語からこれらの語を借用したが,その形容詞形と動詞形がやはり屈折語尾の衰退により15世紀までに融合した.
こうした流れのなかで,16世紀にはラテン語の過去分詞形容詞をそのまま動詞として用いるタイプの品詞転換が一般的にみられるようになった.direct, separate, aggravate などの例があがる.英語内部でこのような例が増えてくると,ラテン語の -ātus が,歴史的には過去分詞に対応していたはずだが,共時的にはしばしば英語の動詞の原形にひもづけられるようになった.つまり,過去分詞形容詞的な機能の介在なしに,-ate が直接に動詞の原形と結びつけられるようになったのである.
この結び付きが強まると,ラテン語(やフランス語)の動詞語幹を借りてきて,それに -ate をつけさえすれば,英語側で新しい動詞を簡単に導入できるという,1種の語形成上の便法が発達した.こうして16世紀中には fascinate, concatenate, asseverate, venerate を含め数百の -ate 動詞が生み出された.
いったんこの便法が確立してしまえば,実際にラテン語(やフランス語)に存在したかどうかは問わず,「ラテン語(やフランス語)的な要素」であれば,それをもってきて -ate を付けることにより,いともたやすく新しい動詞を形成できるようになったわけだ.これにより nobilitate, felicitate, capacitate, differentiate, substantiate, vaccinate など多数の -ate 動詞が近現代期に生み出された.
全体として -ate の発達は,語形成とその成果としての -ate 動詞群との間の,絶え間なき類推作用と規則拡張の歴史とみることができる.
英語で典型的な動詞語尾の1つと考えられている -ate 接尾辞は,実はいくつかの形容詞にもみられる.aspirate, desolate, moderate, prostrate, sedate, separate は動詞としての用法もあるが,形容詞でもある.一方 innate, oblate, ornate, temperate などは常に形容詞である.形容詞接尾辞としての -ate の起源と発達をたどってみよう.
この接尾辞はラテン語の第1活用動詞の過去分詞接辞 -ātus, -ātum, -āta に遡る.フランス語はこれらの末尾にみえる屈折接辞 -us, -um, -a を脱落させたが,英語もラテン語を取り込む際にこの脱落の慣習を含めてフランス語のやり方を真似た.結果として,英語は1400年くらいから,ラテン語 -atus などを -at (のちに先行する母音が長いことを示すために e を添えて -ate) として取り込む習慣を獲得していった.
上記のように -ate の起源は動詞の過去分詞であるから,英語でも文字通りの動詞の過去分詞のほか,形容詞としても機能していたことは無理なく理解できるだろう.しかし,後に -ate が動詞の原形と分析されるに及んで,本来的な過去分詞の役割は,多く新たに規則的に作られた -ated という形態に取って代わられ,過去分詞(形容詞)としての -ate の多くは廃用となってしまった.しかし,形容詞として周辺的に残ったものもあった.冒頭に挙げた -ate 形容詞は,そのような経緯で「生き残った」ものである.
以上の流れを解説した箇所を,OED の -ate, suffix2 より引こう.
Forming participial adjectives from Latin past participles in -ātus, -āta, -ātum, being only a special instance of the adoption of Latin past participles by dropping the inflectional endings, e.g. content-us, convict-us, direct-us, remiss-us, or with phonetic final -e, e.g. complēt-us, finīt-us, revolūt-us, spars-us. The analogy for this was set by the survival of some Latin past participles in Old French, as confus:--confūsus, content:--contentus, divers:--diversus. This analogy was widely followed in later French, in introducing new words from Latin; and both classes of French words, i.e. the popular survivals and the later accessions, being adopted in English, provided English in its turn with analogies for adapting similar words directly from Latin, by dropping the termination. This began about 1400, and as in -ate suffix1 (with which this suffix is phonetically identical), Latin -ātus gave -at, subsequently -ate, e.g. desolātus, desolat, desolate, separātus, separat, separate. Many of these participial adjectives soon gave rise to causative verbs, identical with them in form (see -ate suffix3), to which, for some time, they did duty as past participles, as 'the land was desolat(e by war;' but, at length, regular past participles were formed with the native suffix -ed, upon the general use of which these earlier participial adjectives generally lost their participial force, and either became obsolete or remained as simple adjectives, as in 'the desolate land,' 'a compact mass.' (But cf. situate adj. = situated adj.) So aspirate, moderate, prostrate, separate; and (where a verb has not been formed), innate, oblate, ornate, sedate, temperate, etc. As the French representation of Latin -atus is -é, English words in -ate have also been formed directly after French words in --é, e.g. affectionné, affectionate.
つまり,-ate 接尾辞は,起源からみればむしろ形容詞にふさわしい接尾辞というべきであり,動詞にふさわしい接尾辞へと変化したのは,中英語期以降の新機軸ということになる.なぜ -ate が典型的な動詞接尾辞となったのかという問題を巡っては,複雑な歴史的事情がある.これについては「#2731. -ate 動詞はどのように生じたか?」 ([2016-10-18-1]) を参照(また,明日の記事でも扱う予定).
接尾辞 -ate については,強勢位置や発音などの観点から「#1242. -ate 動詞の強勢移行」 ([2012-09-20-1]),「#3685. -ate 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-30-1]),「#3686. -ate 語尾,-ment 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-31-1]),「#1383. ラテン単語を英語化する形態規則」 ([2013-02-08-1]) をはじめ,-ate の記事で取り上げてきたので,そちらも参照されたい.
接頭辞 en- をもつ動詞について「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1]) で取り上げた.今回は,この接頭辞について形態理論の観点から迫りたい.
形態論では「右側主要部規則」 (right-hand head rule: RHR) という原則が一般的にみられ,それによると,形態的に複雑な語の主要部は右側の要素であるとされる.別の言い方をすれば,右側の要素が,語全体の品詞を決定するということでもある.たとえば,singer の主要部は右側の -er であり,これは行為者を表わす接頭辞であるから,語全体が名詞となる.peaceful の主要部はやはり右側の -ful であり,これにより語全体が形容詞となる.一般的にいえば,接尾辞は品詞決定能力をもっていることが多いということである.
では,接頭辞についてはどうだろうか.接頭辞は定義上右側の要素となることはありえないので,品詞決定能力をもたないはずである.しかし,先の記事 ([2014-06-17-1]) で列挙したように,基体に接頭辞 en- を付して動詞を派生させたケースは少なくない.改めて挙げれば,基体が名詞,形容詞,動詞のものを含めて encase, enchain, encradle, enthrone, enverdure; embus, emtram, enplane;, engulf, enmesh; empower, encollar, encourage, enfranchise; embitter, enable, endear, englad, enrich, enslave; enfold, enkindle, enshroud, entame, entangle, entwine, enwrap など多数ある.これは,上記の一般論に反して「左側主要部規則」が適用されているかのように思われる.
これに対する理論的な対処法の1つとして,基体における品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生の過程を想定するというものがある.形容詞の基体 rich に接頭辞 en- を付した動詞 enrich で考えてみよう.この対処法によれば,形容詞 rich には,まず動詞を派生させるゼロ接尾辞が付され,これにより表面的には形態の変わらぬまま動詞へ化ける.そして,その後,特に品詞決定能力をもつわけではない接頭辞 en- が付加されたにすぎないと考えるのである.このように解釈すれば,動詞を派生させるゼロ接尾辞がこの語の最も右側の要素となり,それが語全体の品詞決定能力をもつと仮定する,従来の右側主要部規則に適う.以上の3ステップの形態過程をまとめれば,次のようになるだろう(西原,p. 54).
(i) lexicon: [rich] A
(ii) suffixation: [[rich] A + 0] V]
(iii) prefixation: [en + [rich] A + 0] V] V
では,接頭辞 en- の機能はいったい何なのか,という疑問は残る.しかし,この理論的解決法は,embolden, enfasten, engladden, enlighten など,接尾辞 -en が付されてすでに動詞化している基体に対しても接頭辞 en- が付きうるケースについても整合性を保てる点ですぐれている.
関連して,品詞転換やゼロ派生について conversion の各記事を参照されたい.
・ 西原 哲雄 「第2章 語の構造について ――形態論――」西原 哲雄(編)『言語学入門』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2012年.39--63頁.
通時的現象としての標題の術語群について理解を深めたい.いずれも,拘束形態素 (bound morpheme) と自由形態素 (free morpheme) の間の行き来に関する用語・概念である.輿石 (111--12) より引用する.
膠着 [通時現象として] (agglutination) とは,独立した語が弱化し独立性を失って他の要素に付加する接辞になる過程を指す.たとえば,英語の friendly の接尾辞 -ly の起源は独立した名詞の līc 「体,死体」であった.
一方,この逆の過程が Jespersen (1922: 284) の滲出(しんしゅつ)(secretion) であり,元来形態論的に分析されない単位が異分析 (metanalysis) の結果,形態論的な地位を得て,接辞のような要素が創造されていく.英語では,「?製のハンバーガー」を意味する -burger,「醜聞」を意味する -gate などの要素がこの過程で生まれ,それぞれ cheeseburger, baconburger 等や Koreagate, Irangate 等の新語が形成されている.
注意したいのは,「膠着」という用語は共時形態論において,とりわけ言語類型論の分類において,別の概念を表わすことだ(「#522. 形態論による言語類型」 ([2010-10-01-1]) を参照).今回取り上げるのは,通時的な現象(言語変化)に関して用いられる「膠着」である.例として挙げられている līc → -ly は,語として独立していた自由形態素が,拘束形態素化して接尾辞となったケースである.
「滲出」も「膠着」と同じ拘束形態素化の1種だが,ソースが自由形態素ではなく,もともといかなる有意味な単位でもなかったものである点に特徴がある.例に挙げられている burger は,もともと Hamburg + er である hamburger から異分析 (metanalysis) の結果「誤って」切り出されたものだが,それが拘束形態素として定着してしまった例である.もっとも,burger は hamburger の短縮形としても用いられるので,拘束形態素からさらに進んで自由形態素化した例としても挙げることができる (cf. hamburger) .
形態素に関係する共時的術語群については「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」 ([2011-03-28-1]) も参照されたい.また,上で膠着の例として触れた接尾辞 -ly については「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]),「#1032. -e の衰退と -ly の発達」,「#1036. 「姿形」と -ly」 ([2012-02-27-1]) も参考までに.滲出の他の例としては,「#97. 借用接尾辞「チック」」 ([2009-08-02-1]),「#98. 「リック」や「ニック」ではなく「チック」で切り出した理由」 ([2009-08-03-1]),「#105. 日本語に入った「チック」語」 ([2009-08-10-1]),「#538. monokini と trikini」 ([2010-10-17-1]) などを参照.
・ 輿石 哲哉 「第6章 形態変化・語彙の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.106--30頁.
・ Jespersen, Otto. Language: Its Nature, Development, and Origin. 1922. London: Routledge, 2007.
2日間の記事 ([2018-07-07-1], [2018-07-08-1]) に引き続き,root-based morphology (印欧祖語)→ stem-based morphology (ゲルマン祖語)→ word-based morphology (古英語以降)という英語形態論の大きな潮流について.
古英語はこの類型的シフトにおいて stem-based morphology から word-based morphology へと移り変わろうとする最初期段階といえるが,いまなお stem-based morphology は濃厚に残っていた.Lass (191) は古英語の語形成法の種類が豊富なことについて,Kastovsky を引用しつつ次のように述べている.
One of the most striking features of the OE lexicon is the extensive involvement in WF, not only of transparent affixation, compounding, and conversion, but of other devices of varying ages: ancient ones like ablaut, and newer ones like i-umlaut. This results in what Kastovsky (1992: 294) calls 'large morphologically related word-families'; considerable portions of the lexicon 'cohere' in a rather special way, characteristic of older IE and to some extent more archaic modern languages like German, but quite alien to Modern English.
1例として,印欧祖語の語根 *bhVr- "carry, bear" が,古英語の単語にどのように反映されているかを考えてみよう (Lass 191--92) .この印欧語根には ablaut シリーズとして,*bher- (e-grade), *bhor- (o-grade), *bhe:r- (lengthened e-grade), *bhr̥- (zero-grade) の4つの音形があった.
まず,e-grade の *bher- に関しては,*bher- > *βer- > ber- と経て,古英語の ber-an (不定詞), ber-ende (現在分詞), ber-end "bearer",ber-end-nes "fertility" に至っている.
次に,o-grade の *bhor- については,*bhor > *βαr- > bær- を経て古英語の bær (第1過去)に終着したほか,さらに bær- から割れ (breaking) の過程を経て bear-we "barrow, basket", bear-m "lap, bosom" に至ったものもある.
続けて lengthened e-grade の *bhe:r- については,*bhe:r- > *βe:r- > bǣr を経て古英語 bǣr-on (第2過去), bǣr "bier", bǣr-e "manner, behaviour" などが帰結した.
最後に zero-grade の *bhr̥- からは,*βur- へと変化した後,a-umlaut により bor- と *bur- が出力されたが,前者からは古英語 bor-en (過去分詞), bor-a "carrier" が,後者からはさらに i-umlaut を経て古英語 byrðenn "burden", byr-ele "cup-bearer" などgが生み出された.
古英語では /bVr-/ という抽象的な語幹 (root) から具現化した数種類の母音を示す複数の語幹 (stems) が基準となり,共時的な屈折形態論と派生形態論が展開しているとみることができ,これを指して "stem-based morphology" あるいは "variable-stem morphology" と呼ぶことができるだろう (Lass 192) .
ただし,古英語期にも,新たな時代の到来,すなわち word-based morphology あるいは invariable-stem morphology の到来を予感させる要素が,すでに部分的に現われ出していたことにも注意しておきたい.
・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.
・ Kastovsky, Dieter. "Semantics and Vocabulary." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 290--408.
Wersmer (64, 67) や Nevalainen (352, 378, 391) を参照した Cowie (610--11) によれば,接辞を用いた新語形成において,本来系の接辞を利用したものと借用系のものと比率が,初期近代英語期中に大きく変化したという.
The relative frequency of nonnative affixes to native affixes in coined words rises from 20% at the beginning of the Early Modern English period to 70% at the end of it . . . . The proportion of Germanic to French and Latin bases in new coinages falls from about 32% at the beginning of the Early Modern period to some 13% at the end . . . . Together these measures confirm the emergence of non-native affixes as independent English morphemes over the Early modern period. They also seem to contradict claims that the native affixes in Early Modern English are just as, if not more productive, than ever . . . , although it is always less likely that words coined with native affixes would be recorded in a dictionary . . . .
この時期の初めには借用系は20%だったが,終わりには70%にまで増加している.一方,基体に注目すると,借用系に対する本来系の比率は,期首で32%ほど,期末で13%ほどに落ち込んでいる.全体として,初期近代英語期中に,借用系の接辞および基体が目立つようになってきたことは疑いない.ただし,引用の最後の但し書きは重要ではある.
関連して,「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]),「#3165. 英製羅語としての conspicuous と external」 ([2017-12-26-1]),「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1]),「#3258. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (1)」 ([2018-03-29-1]),「#3259. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (2)」 ([2018-03-30-1]) を参照.
・ Wersmer, Richard. Statistische Studien zur Entwicklung des englischen Wortschatzes. Bern: Francke, 1976.
・ Nevalainen, Terttu. "Early Modern English Lexis and Semantics." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 332--458.
・ Cowie, Claire. "Early Modern English: Morphology." Chapter 38 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 604--20.
経験的な事実として,英語でも日本語でも現代は一般に省略(語)の形成および使用が多い.現代のこの潮流については,「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1]),「#631. blending の拡大」 ([2011-01-18-1]),「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1]),「#878. Algeo と Bauer の新語ソース調査の比較」 ([2011-09-22-1]),「#879. Algeo の新語ソース調査から示唆される通時的傾向」([2011-09-23-1]),「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1]),「#2982. 現代日本語に溢れるアルファベット頭字語」 ([2017-06-26-1]) などの記事で触れてきた.現代英語の新語形成として,各種の省略 (abbreviation) を含む短縮 (shortening) は破竹の勢いを示している.
では,なぜ現代は省略(語)がこのように多用されるのだろうか.これについて大学の授業でブレストしてみたら,いろいろと興味深い意見が集まった.まとめると,以下の3点ほどに絞られる.
・ 時間短縮,エネルギー短縮の欲求の高まり.情報の高密度化 (densification) の傾向.
・ 省略表現を使っている人は,元の表現やその指示対象について精通しているという感覚,すなわち「使いこなしている感」がある.そのモノや名前を知らない人に対して優越感のようなものがあるのではないか.元の表現を短く崩すという操作は,その表現を熟知しているという前提の上に成り立つため,玄人感を漂わせることができる.
・ 省略(語)を用いる動機はいつの時代にもあったはずだが,かつては言語使用における「堕落」という負のレッテルを貼られがちで,使用が抑制される傾向があった.しかし,現代は社会的な縛りが緩んできており,そのような「堕落」がかつてよりも許容される風潮があるため,潜在的な省略欲求が顕在化してきたということではないか.
2点目の「使いこなしている感」の指摘が鋭いと思う.これは,「#1946. 機能的な観点からみる短化」 ([2014-08-25-1]) で触れた「感情的な効果」 ("emotive effects") の発展版と考えられるし,「#3075. 略語と暗号」 ([2017-09-27-1]) で言及した「秘匿の目的」にも通じる.すなわち,この見解は,あるモノや表現を知っているか否かによって話者(集団)を区別化するという,すぐれて社会言語学的な機能の存在を示唆している.これを社会学的に分析すれば,「時代の流れが速すぎるために,世代差による社会の分断も激しくなってきており,その程度を表わす指標として省略(語)の多用が認められる」ということではないだろうか.
昨日の記事 ([2018-03-29-1]) の続編.昨日示した Bauer からの動詞派生名詞のリストでは,-ment や -ure の接尾辞の存在が目立っていた.17世紀の名詞を作る接尾辞にどのような種類のものがあり,それぞれがいくつの名詞を作っていたのだろうか.これについても,Bauer (185) が OED に基づいて統計をとっている.結果は以下の通り.
Suffix | Number |
-y | 2 |
-ery | 8 |
-ancy | 10 |
-ency | 10 |
-ence | 18 |
-ion | 20 |
-ance | 49 |
-al | 56 |
-ure | 96 |
-ation | 190 |
-ment | 258 |
. . . there is a constant application of unproductive morphology in order to solve problems provided by productive morphology, so that the language is continually having new words added to it which are not the forms which would be the predicted ones, as well as a number of predicted forms. That is, the processes of history add irregularities (which are available to turn into regularities if enough of them are coined). History, rather than simplifying matters (or rather than merely simplifying matters), reflects a process of building in extra complications.
言語使用者の新語への要求は,必ずしも生産的な派生が与えてくれる手段とその結果だけでは満たされないほどに複雑で精妙なのだろう.そこで,あえて非生産的な派生の手段を用いて,不規則な派生語を作り出すこともあるのかもしれない.現代の歴史言語学者は,過去に生きた言語使用者の,そのような複雑で精妙な造語心理にどこまで迫れるのだろうか.困難ではあるがエキサイティングなテーマである.
・ Bauer, Laurie. "Competition in English Word Formation." Chapter 8 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 177--98.
英国ルネサンス期の17世紀には,ラテン語やギリシア語を中心とする諸言語から大量の語彙が借用された.この経緯については,これまで「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]),「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]),「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]) などの記事で様々な角度から取り上げてきた.この時代には,しばしば「同じ語」が異なった接尾辞を伴って誕生するという現象が見られた.例えば,すでに1586年に discovery が英語語彙に加えられていたところに,17世紀になって同義の discoverance や discoverment も現われ,短期間とはいえ競合・共存したのである(関連して,「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) も参照).
以下は,Bauer (186) が OED から収集した,17世紀に初出する動詞派生名詞の組である.
abutment | abuttal | |
bequeathal | bequeathment | |
bewitchery | bewitchment | |
commitment | committal | committance |
composal | compositure | |
comprisal | comprisement | comprisure |
concumbence | concumbency | |
condolement | condolence | |
conducence | conducency | |
contrival | contrivance | |
depositation | depositure | |
deprival | deprivement | |
desistance | desistency | |
discoverance | discoverment | |
disfiguration | disfigurement | |
disproval | disprovement | |
disquietal | disquietment | |
dissentation | dissentment | |
disseveration | disseverment | |
encompassment | encompassure | |
engraftment | engrafture | |
exhaustment | exhausture | |
exposal | exposement | exposure |
expugnance | expugnancy | |
expulsation | expulsure | |
extendment | extendure | |
impartment | imparture | |
imposal | imposement | imposure |
insistence | insisture | |
interposal | interposure | |
pretendence | pretendment | |
promotement | promoval | |
proposal | proposure | |
redamancy | redamation | |
renewal | renewance | |
reposance | reposure | |
reserval | reservancy | |
resistal | resistment | |
retrieval | retrievement | |
returnal | returnment | |
securance | securement | |
subdual | subduement | |
supportment | supporture | |
surchargement | surchargure |
Individual ad hoc decisions on relevant forms may or may not be picked up widely in the community. . . . [I]t is clear from the history which the OED presents that the need of the individual for a particular word is not always matched by the need of the community for the same word, with the result that multiple coinages are possible.
いずれにせよ,この歴史的事情が,現代英語の動詞派生名詞の形態に少なからぬ不統一と混乱をもたらし続けていることは事実である.今後,整理されてゆくとしても,おそらくそれには数世紀という長い時間がかかることだろう.
・ Bauer, Laurie. "Competition in English Word Formation." Chapter 8 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 177--98.
新古典主義的複合語 (neoclassical compounds) とは,aerobiosis, biomorphism, cryogen, nematocide, ophthalmopathy, plasmocyte, proctoscope, rheophyte, technocracy のような語(しばしば科学用語)を指す.Durkin (346--37) によれば,この類いの語彙は早くは1600年前後から確認され,例えば polycracy (1581), pantometer (1597), multinomial (1608) がみられる.しかし,爆発的に量産されるようになったのは,科学が急速に発展した後期近代英語期,とりわけ19世紀になってからのことである(「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1]),「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1]),「#3014. 英語史におけるギリシア語の真の存在感は19世紀から」 ([2017-07-28-1]),「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1]) を参照).
新古典主義的複合語について強調しておくべきは,それが借用語ではなく,あくまで英語(を始めとするヨーロッパの諸言語)において形成された語であるという点だ.確かにラテン語やギリシア語などの古典語をモデルとしてはいるが,決してそこから借用されたわけではない.その意味では英単語ぽい体裁をしていながらも英単語ではない「和製英語」と比較することができる.新古典主義的複合語の舞台は英語であるから,つまり「英製羅語」といってよい.しかし,英製羅語と和製英語とのきわだった相違点は,前者が主として国際的で科学的な文脈で用いられるが,後者はそうではないという事実にある.すなわち,両者のあいだには使用域において著しい偏向がみられる.Durkin は,新古典主義的複合語について次のように述べている.
. . . these formations typically belong to the international language of science and move freely, often with little or no morphological adaptation, between English, French, German, and other languages of scientific discourse. They are often treated in very different ways in different traditions of lexicography and lexicology; however, those terms that are coined in modern vernacular languages are certainly not loanwords from Latin or Greek, even though they may be formed from elements that originated in such loanwords. (347)
. . . Latin words and word elements have become ubiquitous in modern technical discourse, but frequently in new compound or derivative formations or with new meanings that have seldom if ever been employed in contextual use in actual Latin sentences. (349)
これらの造語を指して「新古典主義的複合語」と呼ぶか「英製羅語」と呼ぶかは,たいした問題ではない.しかし,和製英語の場合には「英語主義的複合語」と呼ばないのはなぜだろうか.この違いは何に起因するのだろうか.
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
昨日の記事「#3165. 英製羅語としての conspicuous と external」 ([2017-12-26-1]) と関連して,再び「英製羅語」の周辺の話題.後期近代英語期には,科学の発展に伴いおびただしい科学用語が生まれたが,そのほとんどがギリシア語やラテン語に由来する要素 (combining_form) を利用した合成 (compounding) による造語である(「#552. combining form」 ([2010-10-31-1]),「#1694. 科学語彙においてギリシア語要素が繁栄した理由」 ([2013-12-16-1]),「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1]) を参照).
Kay and Allan (20--21) が,次のようにコメントしている.
While borrowing continues to reflect contact with other cultures, many scientific words are not strictly speaking loanwords. Rather, they are constructed from roots adopted from the classical languages. This has the advantage of a degree of semantic transparency: if you know that tele, graph and phone come from Greek roots meaning respectively 'afar', 'writing' and 'sound', and vision from a Latin root meaning 'see, look', you can begin to understand telegraph, telephone and television. You can also coin other words using similar patterns, and possibly elements from other sources, as in telebanking.
"neo-Hellenic compounds" や "neo-Latin compounds" とも呼ばれる上記のような語彙は,ある意味ではラテン語やギリシア語からの借用語ともみなしうるかもしれないが,より適切に「英製希語」あるいは「英製羅語」とみなすのがよいのではないか.ただし,いくつかの単語が単発で造語されたわけではなく,造語に体系的に利用された方法であるから「パターン化された英製希羅語」と呼ぶのがさらに適切かもしれない.
・ Kay, Christian and Kathryn Allan. English Historical Semantics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2015.
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