井出新先生(慶應義塾大学文学部英米文学専攻)の新著のコラムに,シェイクスピアの作品一覧表(執筆年代順)が便利に掲載されている (42--43) .「作品一覧表の推定執筆年は,戯曲については Martin Wiggins, British Drama 1533--1642: A Catalogue (Oxford University Press, 2021--) に,詩作については Arden 版シェイクスピア(第3シリーズ)に拠っています」 (43) とのことで,以下に一覧を再現しておきたい(関連して「#1044. 中英語作品,Chaucer,Shakespeare,聖書の略記一覧」 ([2012-03-06-1]) も参照).表中の「判型」は,F = Folio (二つ折り本), Q = Quarter (四つ折り本), O = Octavo (八つ折り本).
*: シェイクスピア存命中に宮廷上演の史料が残っている作品 +: ロンドン法学院,オックスフォード,またはケンブリッジでの上演を示唆する史料が残っている作品
[A] Pembroke's Men [B] Strange's Men [C] Derby's Men [D] Chamberlain's Men [E] King's Men
作品名 | 推定執筆年 | 初版出版年 (判型) [初演の劇団] |
---|---|---|
ヘンリー六世 第二部 Henry VI, Part 2 | 1591 | 1594 (Q) [A?] |
ヘンリー六世 第三部 Henry VI, Part 3 | 1591 | 1595 (O) [A] |
じゃじゃ馬ならし The Taming of the Shrew | 1592 | 1623 (F) [A] |
ヘンリー六世 第一部 Henry VI, Part 1 | 1592 | 1623 (F) [B] |
タイタス・アンドロニカス Titus Andronicus | 1592 | 1594 (Q) [A?] |
間違いの喜劇 The Comedy of Errors | 1592 | 1623 (F) [A?+*] |
リチャード三世 Richard III | 1593 | 1597 (Q) [C?] |
エドワード三世 Edward III | 1593 | 1596 (Q) [?] |
ヴィーナスとアドーニス[詩] Venus and Adonis | 1593--94 | 1593 (Q) |
ヴェローナの二紳士 The Two Gentlemen of Verona | 1594 | 1623 (F) [?] |
ロミオとジュリエット Romeo and Juliet | 1594 | 1597 (Q) [D?] |
ルークリースの陵辱[詩] The Rape of Lucrece | 1593--94 | 1594 (Q) |
リチャード二世 Richard II | 1595 | 1597 (Q) [D] |
夏の夜の夢 A Midsummer Night's Dream | 1595 | 1600 (Q) [D*] |
恋の骨折り損 Love's Labour's Lost | 1596 | 1598 (Q) [D*] |
ジョン王 King John | 1596 | 1623 (F) [D] |
ヴェニスの商人 The Merchant of Venice | 1596 | 1600 (Q) [D*] |
ヘンリー四世 第一部 Henry IV, Part 1 | 1597 | 1598 (Q) [D*] |
ウィンザーの陽気な女房たち The Merry Wives of Windsor | 1597 | 1602 (Q) [D*] |
ヘンリー四世 第二部 Henry IV, Part 2 | 1597 | 1609 (Q) [D*] |
から騒ぎ Much Ado About Nothing | 1598 | 1600 (Q) [D*] |
ヘンリー五世 Henry V | 1599 | 1600 (Q) [D*] |
ジュリアス・シーザー Julius Caesar | 1599 | 1623 (F) [D*] |
情熱の巡礼者[詩] The Passionate Pilgrim | 1598--99 | 1599 (Q) |
お気に召すまま As You Like It | 1600 | 1623 [F] [D] |
ハムレット Hamlet | 1600 | 1603 (Q) [D+] |
十二夜 Twelfth Night, or What You Will | 1601 | 1623 (Q) [D+] |
不死鳥と雉鳩[詩] The Passionate Pilgrim | 1601 | 1601 (Q) |
トロイラスとクレシダ Troilus and Cressida | 1602 | 1609 (Q) [D] |
尺には尺を Measure for Measure | 1603 | 1623 (F) [E*] |
オセロー Othello | 1604 | 1622 (Q) [E+*] |
終わりよければすべてよし All's Well That Ends Well | 1605 | 1623 (F) [E] |
リア王 King Lear | 1605 | 1608 (Q) [E*] |
マクベス Macbeth | 1606 | 1623 (F) [E] |
アントニーとクレオパトラ Antony and Cleopatra | 1606 | 1623 (F) [E] |
アテネのタイモン Timon of Athens | 1607 | 1623 (F) [E] |
ペリクリーズ Pericles | 1607 | 1609 (Q) [E] |
コリオレイナス Coriolanus | 1608 | 1623 (F) [E] |
ソネット集[詩] Sonnets | ?--1609 | 1609 (Q) |
恋人の嘆き[詩] A Lover's Complaint | 1609 | 1609 (Q) |
シンベリン Cymbeline | 1610 | 1623 (F) [E] |
冬物語 The Winter's Tale | 1611 | 1623 (F) [E*] |
テンペスト The Tempest | 1611 | 1623 (F) [E*] |
ヘンリー八世 Henry VIII | 1612 | 1623 (F) [E] |
血縁の二公子 The Two Noble Kinsmen | 1613 | 1634 (Q) [E] |
本書については昨日の Voicy heldio でも「#898. 井出新先生のご著書の紹介 --- 『シェイクスピア それが問題だ!』(大修館,2023年)」としてご紹介していますので,ぜひお聴き下さい.
・ 井出 新 『シェイクスピア それが問題だ!』 大修館,2023年.
一昨日配信された YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回は「英語史研究は超絶推理ゲーム!!!」と題して,表記の素朴な疑問に答えています.
なぜ書き言葉でしか残っていない古英語や中英語の発音がわかるのか? この問いは定期的に寄せられてくる素朴な疑問ですので,今回 YouTube チャンネルで答えてみました.
本ブログを始めとして別の媒体でも同じ素朴な疑問に回答してきた経緯がありますので,そちらにもリンクを張っておきます.
・ hellog 「#437. いかにして古音を推定するか」 ([2010-07-08-1])
・ hellog 「#758. いかにして古音を推定するか (2)」 ([2011-05-25-1])
・ hellog 「#4015. いかにして中英語の発音を推定するか」 ([2020-04-24-1])
・ hellog 「#4499. いかにして Shakespeare の発音を推定するか」 ([2021-08-21-1])
・ heldio 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」(2022年4月22日)
昨日,人気 YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回が配信されました.今回は英語史ともおおいに関係する「不規則動詞はなぜ存在するのか?【カタルシス英文法_不規則動詞】#280」です.
ゆる言語学ラジオの水野太貴さんには,拙著,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio),および YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」のいくつかの関連コンテンツに言及していただきました.抜群の発信力をもつゆる言語学ラジオさんに,この英語史上の第一級の話題を取り上げていただき,とても嬉しいです.このトピックの魅力が広く伝わりますように.
概要欄に掲載していただいたコンテンツ等へのリンクを,こちらにも再掲しておきます.
・ 拙著 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)
・ 拙著 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)
・ heldio 「#58. なぜ高頻度語には不規則なことが多いのですか?」
・ YouTube 「新説! go の過去形が went な理由」 (cf. 「#4774. go/went は社会言語学的リトマス試験紙である」 ([2022-05-23-1]))
・ YouTube 「英語の不規則活用動詞のひきこもごも --- ヴァイキングも登場!」 (cf. hellog 「#4810. sing の過去形は sang でもあり sung でもある!」 ([2022-06-28-1]))
・ YouTube 「昔の英語は不規則動詞だらけ!」 (cf. 「#4807. -ed により過去形を作る規則動詞の出現は革命的だった!」 ([2022-06-25-1]))
・ heldio 「#9. first の -st は最上級だった!」
・ heldio 「#10. third は three + th の変形なので準規則的」
・ heldio 「#11. なぜか second 「2番目の」は借用語!」
「不規則動詞はなぜ存在するのか?」という英語に関する素朴な疑問から説き起こし,補充法 (suppletion) の話題(「ヴィヴァ・サンバ!」)を導入した後に,不規則形の社会言語学的意義を経由しつつ,全体として言語における「規則」あるいは「不規則」とは何なのかという大きな議論を提示していただきました.水野さん,堀元さん,ありがとうございました! 「#5130. 「ゆる言語学ラジオ」周りの話題とリンク集」 ([2023-05-14-1]) もぜひご参照ください.
昨夕,Voicy heldio にて「#893. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(前半)」を配信しました.Baugh and Cable の英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で精読していくシリーズの特別回としてお届けしました(シリーズについては「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) を参照).
今回精読した第24節の題目は Celtic です.原文(原書で1ページほどの英文)は昨日の hellog 記事「#5309. ケルト語派の記述 --- Baugh and Cable の英語史より」 ([2023-11-09-1]) に掲載しています.そちらをご覧になりながらお聴きいただければと思います.
英語史研究者2人が,まだ明るい時間からグラスを傾けつつ専門分野について語るというのは,何とも豊かな時間です.それを少なからぬリスナーの方々にライヴでお聴きいただいたというのも,ありがたき幸せです.
案の定,60分では語り足りなかったので,続編をプレミアムリスナー限定配信チャンネルにて【英語史の輪 #52】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(後半)」として収録・配信しています.最後に,ケルト語派について学ぶことの英語史上の意義についても議論していますので,よろしければそちらもお聴きください.
さて,ケルト語派に関心を抱いた方は,本ブログでも多くの記事でカバーしています.まずは,celtic, irish, scottish_gaelic, manx, welsh, cornish, breton などのタグ付きの記事群をご参照ください.今回精読した英文の内容と関わりが強い記事として,以下を挙げておきます.
・ 「#774. ケルト語の分布」 ([2011-06-10-1])
・ 「#779. Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1])
・ 「#2803. アイルランド語の話者人口と使用地域」 ([2016-12-29-1])
・ 「#2968. ローマ時代以前のブリテン島民」 ([2017-06-12-1])
・ 「#3743. Celt の指示対象の歴史的変化」 ([2019-07-27-1])
・ 「#3747. ケルト人とは何者か」 ([2019-07-31-1])
・ 「#3757. 講座「英語の歴史と語源」の第2回「ケルトの島」を終えました」 ([2019-08-10-1])
・ 「#3761. ブリテンとブルターニュ」 ([2019-08-14-1])
また,heldio でもケルト語関連の話題は様々に配信しています.以下をリストアップしておきます.
・ 「#692. ケルト語派を紹介します」(2023/04/23)
・ 「#693. 英語史とケルト,英語史とブルターニュ --- 国立西洋美術館の「憧憬の地 ブルターニュ展」訪問に向けて」(2023/04/24)
・ 「#697. イギリスにおけるケルト系言語に対する言語政策」(2023/04/28)
・ 「#715. ケルト語仮説」(2023/05/16)
・ 「#731. ケルト語の書記文化の開花が英仏独語よりも早かった理由」(2023/06/01)
・ 「#696. コーンウォール語は死語? --- ブルトン語の親戚言語」(2023/04/27)
・ 「#714. Manx 「マン島語」 --- 1974年に死語となったブルトン語の親戚言語」(2023/05/15)
今日の配信回をお聴きになり B&C 精読シリーズに関心をもたれた方は,ぜひ本書(第6版)を入手し,シリーズの初回からでも途中からでも参加いただければと思います.間違いなく英語の勉強にも英語史の勉強にもなる本として選んでいます!
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
Baugh and Cable の英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で精読する Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) でのシリーズ企画を始めて4ヶ月弱となります(cf. 「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1])).
目下,第24節 Celtic 「ケルト語派」に入ろうというところです.本日の夕方早めの時間から,和田忍先生(駿河台大学)とともに,この節を超精読する対談精読実況生中継を heldio より配信する予定です.グラスを片手にリラックスした雰囲気のなか,詳細な英文解釈に加え,英語史研究者の立場からケルト語派について縦横無尽にコメントしつつ議論していく予定です.開始時刻は厳密には決められませんが,おそらく16:30くらいからになりそうです.こちらの heldio チャンネルをフォローいただきますと,予定通知や開始通知を受け取ることができるようになりますので,ぜひフォローのほどよろしくお願いいたします(目下,約5,160名のリスナーの皆さんにフォローいただいています).
今夕の配信に合わせ,3段落からなる1ページほどの同節を以下に引用します.
24. Celtic. The Celtic languages at one time formed one of the most extensive groups in the Indo-European family. At the beginning of the Christian era, the Celts were found in Gaul and Spain, in Great Britain, in western Germany, and northern Italy---indeed, they covered the greater part of Western Europe. A few centuries earlier, their triumphal progress had extended even into Greece and Asia Minor. The steady retreat of Celtic before advancing Italic and Germanic tongues is one of the surprising phenomena of history. Today, Celtic languages are found only in the far corners of France and the British Isles; in the areas in which they were once dominant, they have left but little trace of their presence.
The language of the Celts in Gaul who were conquered by Caesar is known as Gallic. Because it was early replaced by Latin, we know next to nothing about it. A few inscriptions, some proper names (cf. Orgetorix), one fragmentary text, and a small number of words preserved in modern French are all that survive. With respect to the Celtic languages in Britain, we are better off, although the many contradictory theories of Celticists make it impossible to say with any confidence how the Celts came to England. The older view, which is now questioned, holds that the first to come were Goidelic or Gaelic Celts. Some of these may have been driven to Ireland by the later invaders and from there may have spread into Scotland and the Isle of Man. Their language is represented in modern times by Irish, Scottish Gaelic, and Manx. The later Brythonic Celts, after occupying for some centuries what is now England, were in turn driven westward by Germanic invaders in the fifth century. Some of the fugitives crossed over into Brittany. The modern representatives of the Brythonic division are Welsh, Cornish, and Breton.
The remnants of this one-time extensive group of languages are everywhere losing ground at the present day. Spoken by minorities in France and the British Isles, these languages are faced with the competition of two languages of wider communication, and some seem destined not to survive this competition. Cornish became extinct in the eighteenth century, and Manx, once spoken by all the native inhabitants of the Isle of Man, has died out since World War II. In Scotland, Gaelic is found only in the Highlands. It is spoken by about 50,000 people, all of whom know English as well. Welsh is still spoken by about one-quarter of the people, but the spread of English among them is indicated by the fact that the number of those who speak only Welsh had dropped from 30 percent in 1891 to 2 percent in 1950 and continues to slowly decrease. Irish is spoken by about 500,000 people, most of whom are bilingual. Whether nationalist sentiment will succeed in arresting the declining trend that has been observable here as in the other Celtic territory remains to be seen. If language-planning efforts fail, it seems inevitable that eventually another branch of the Indo-European family of languages will disappear.
今朝の heldio の配信回「#892. Celtic --- ケルティックかセルティックか?」でもケルト関連の話題を扱っていますので,ぜひそちらもお聴きいただき,今夕の生放送のために準備していただければ.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
1ヶ月半ほど前のことになりますが,9月21日(火)から23日(木)にかけて,秩父のとある温泉宿にて2泊3日の khelf ゼミ合宿を実施しました.合宿中の課題の1つとして,最終日の朝に英語史・英語学に関する音声コンテンツを Voicy heldio のために収録する,というものを設定しました.合宿初日に3--4名1組のグループを決め,各グループが1日程度の短期間で音声コンテンツのテーマを決めた上で収録に臨むという,なかなかの無茶振り課題です.
半ば遊び的な課題ではありましたが,各グループがよく工夫してくれました.雰囲気はインフォーマルだけれども話題はフォーマルといった独特の収録回となりました.合宿後,その成果となる音声コンテンツを随時 heldio でお届けしてきましたが,昨日の第9回をもって「ゼミ合宿収録シリーズ」が完結となりました.以下がシリーズのラインナップです.
・ 「#847. ゼミ合宿収録シリーズ (1) --- khelf 会長の青木くんと学部生3名による emoji と CMC」(2023/09/25)
・ 「#850. ゼミ合宿収録シリーズ (2) --- K さんの司会による「ゼミ生に英語史ゼミを選んだ理由をきいてみた」」(2023/09/28)
・ 「#854. ゼミ合宿収録シリーズ (3) --- 藤原くんの司会による「ゼミ生に英語史ゼミを選んだ理由を聞いてみた」」(2023/10/02)
・ 「#858. ゼミ合宿収録シリーズ (4) --- 寺澤さんの司会による linguistics の -s って何?」(2023/10/06)
・ 「#863. ゼミ合宿収録シリーズ (5) --- 小林くんの司会による「ディズニーランドと political correctness」」(2023/10/11)
・ 「#870. ゼミ合宿収録シリーズ (6) --- 川島さんの司会による most unhappy or unhappiest?」(2023/10/18)
・ 「#876. ゼミ合宿収録シリーズ (7) --- 情報構造入門」(2023/10/24)
・ 「#882. ゼミ合宿収録シリーズ (8) --- シンガポールの英語事情」(2023/10/30)
・ 「#886. ゼミ合宿収録シリーズ (9) --- なぜ堀田ゼミを選んだの?」(2023/10/30)
配信回のなかには危うい間違い発言も含まれていますし,ゼミ生たちの不勉強が露呈されるシーンもありましたが,リスナーの皆様には,好意的に温かい目(耳?)で見守っていただきました.ありがとうございます.今後も khelf メンバーたちによる同趣旨の配信回を作っていきたいと思っておりますので,khelf による hel活(英語史活動)を応援いただければ幸いです.
「ゼミ合宿収録シリーズ」については,khelf HP のこちらのページにも案内があります.HP も内容が充実してきていますので,ぜひ訪れていただければ.
10月30日付けで,khelf(慶應英語史フォーラム)による『英語史新聞』第6号がウェブ公開となりました.こちらよりPDFで閲覧・ダウンロードできます.
第7号の公開および記事紹介などの情報は,khelf 公式の X アカウント @khelf_keio からもお届けしています.フォローやリツイートなどを通じて「英語史をお茶の間に」の英語史活動(hel活)にご協力いただけますと幸いです.
今回も khelf の『英語史新聞』第7号の制作班が,総力を結集して作り込んでくれました(関係者一同よく頑張りました,ありがとう!).第7号の記事のラインナップです.
・ 四季か二季か
・ 読書の秋に古英語を
・ 形を変えることわざ
・ 英語の擬態語: gl- と輝き
・ 「変なアルファベット表」単語募集フォーム
・ 英語史ラウンジ by khelf 「第2回 矢冨弘先生(後編)」
・ EMOJI の発達と新たな時代のコミュニケーション~英語現代史の変化を考える~
今回も読者の皆さんを飽きさせない多種多様な記事を取りそろえています.読者参加型の「変なアルファベット表」企画についての案内もありますので,ご注目ください.また,目玉企画の「英語史ラウンジ by khelf」では,前号に引き続き,新進気鋭の英語史研究者である矢冨弘先生(熊本学園大学)にスポットライトを当てます.矢冨先生には khelf でもお世話になっていますし,Voicy heldio にも何度も出演していただいています(ありがとうございます).本号は voicy heldio でも「#884. 『英語史新聞』第7号発行!」としてご案内していますので,そちらもお聴きいただければ.
『英語史新聞』は昨年4月に創刊号を発行して以来,おおよそ3ヶ月に1度のペースで発行し続けてきました.毎号の制作班のモチベーションが保たれているのも,多くの方々にお読みいただいているからこそです.ご愛読ありがとうございます.最新号も含め『英語史新聞』のすべての号は,教育目的での利用・配布について自由にお取り扱いいただけます.むしろ,英語史の魅力を広げるべく活動している発行主体の khelf としては,電子媒体・紙媒体を問わず,皆様に広く利用・配布していただけますと幸いです.
もし学校の授業などの公的な機会(あるいは,その他の準ずる機会)にお使いの場合には,ぜひこちらのフォームを通じてご一報くださいますと khelf の活動実績の把握につながるほか,『英語史新聞』編集委員の励みともなります.ご協力のほどよろしくお願いいたします.ご入力いただいた学校名・個人名などの情報につきましては,khelf の実績把握の目的のみに限り,記入者の許可なく一般に公開するなどの行為は一切行なわない旨,ここに明記いたします.フォームへの入力を通じ,khelf による「英語史をお茶の間に」の英語史活動(hel活)への賛同をいただけますと幸いです.
最後に『英語史新聞』のバックナンバー(号外を含む)も紹介しておきます.こちらも合わせてご一読ください(khelf HP のこちらのページにもバックナンバー一覧があります).
・ 『英語史新聞』第1号(創刊号)(2022年4月1日)
・ 『英語史新聞』号外第1号(2022年4月10日)
・ 『英語史新聞』第2号(2022年7月11日)
・ 『英語史新聞』号外第2号(2022年7月18日)
・ 『英語史新聞』第3号(2022年10月3日)
・ 『英語史新聞』第4号(2023年1月11日)
・ 『英語史新聞』第5号(2023年4月10日)
・ 『英語史新聞』第6号(2023年8月14日)
新著『World Englishes 入門』は,本ブログでもすでに何度か取り上げてきました.その第2章「アメリカとカナダの英語」を執筆された今村洋美先生(中部大学)と,Voicy heldio にて対談させていただきました.「#883. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 今村洋美先生とのアメリカ・カナダ英語をめぐる対談」です.本編とアフタートークを合わせて20分ほどの音声コンテンツです.ぜひお聴きください.
以下,第2章の内部の小見出し等を紹介します.
・ 大石 晴美(編) 『World Englishes 入門』 昭和堂,2023年.
早いもので今年も11月となりました.
本ブログの姉妹版・音声版というべき Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio)では,今年の6月より,プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) という月次サブスクリプションの有料チャンネルを開始しています.その収益は khelf(慶應英語史フォーラム)の英語史活動(hel活)に回し,日々の heldio の収録や,一昨日 khelf より発行された『英語史新聞』第7号の制作の関連費用などに充てています.
helwa を立ち上げて5ヶ月が経ちますが,現時点で40名超の方々にプレミアムリスナーとなっていただいています.毎月コミュニティが少しずつ大きくなってきており,少しずつ活動の質と量も高くなってきてます.新しい月となりましたので,関心はあるけれども入会に躊躇してきたという方々は,ぜひ今月こそプレミアムリスナーとしてコミュニティに加わっていただければと存じます.
月ごとのサブスクリプションで,新月のみならず過去月の各々もアーカイヴとして別途購入できます.10月分の13回の配信回も昨日付けで出そろっていますので,そちらもぜひお聴きください.ウェブブラウザ経由で月額800円となっております(Voicy アプリ経由ですとさらに多額の手数料がかかりますので,絶対にウェブブラウザ経由をお薦めします).
helwa はもともと週2回の配信で始まりましたが,先月10月より週3回へと更新頻度を上げました.目下,原則として(たまに生放送などの都合でズレることはありますが),毎週火木土のそれぞれ午後6時に配信しています.毎朝の通常回だけでは英語史養分が足りないという方や,hel活とその応援に関心のある方は,ぜひ helwa においでください.
この5ヶ月で醸成されてきた helwa コミュニティの特徴を5点ほど挙げます.
- 学びたいリスナーの集合体となっている
- 普通ではあり得ないブレスト集団となっている
- 事実上の heldio 企画委員会(というか諮問機関?)でもある
- コメントの質と量が著しい
- オフ会が盛り上がり楽しすぎる
以下,helwa を開始した6月以降の各月の配信回を一覧します.
【6月分(9回)】
・ 「【英語史の輪 #1】プレミアムリスナー限定配信チャンネルが始まりました」(2023/06/02配信)
・ 「【英語史の輪 #2】言語は暗号である」(2023/06/06配信)
・ 「【英語史の輪 #3】方言にもいろいろある」(2023/06/09配信)
・ 「【英語史の輪 #4】「書き言葉よりも話し言葉を優先すべし」という現代言語学の大前提は本当に正しいのか?」(2023/06/13配信)
・ 「【英語史の輪 #5】金曜夜のコトバ対談(生放送)の2次会」(2023/06/17配信)
・ 「【英語史の輪 #6】6月中旬のhel活報告」(2023/06/20配信)
・ 「【英語史の輪 #7】英語に関する素朴な疑問を ChatGPT に投げてみた」(2023/06/23配信)
・ 「【英語史の輪 #8】プレミアム限定のコメント返し&週末の学会でのhel活報告」(2023/06/27配信)
・ 「【英語史の輪 #9】語源って何?」(2023/06/30配信)
【7月分(8回)】
・ 「【英語史の輪 #10】言語は○○のようだ --- あなたは言語を何に喩えますか?」(2023/07/04配信)
・ 「【英語史の輪 #11】言語は○○のようだ --- 生激論」(2023/07/08配信)
・ 「【英語史の輪 #12】千本ノック&雑談回(生放送)」(2023/07/11配信)
・ 「【英語史の輪 #13】みんなでhel活の交流と発信を!」(2023/07/14配信)
・ 「【英語史の輪 #14】名前で英語史・言語学 --- あなたは何に名前をつけますか?」(2023/07/18配信)
・ 「【英語史の輪 #15】名前に意味があるかないか論争」(2023/07/21配信)
・ 「【英語史の輪 #16】なぜ私は英語史をおもしろいと思っているのか,英語史をお茶の間に広めたいと思っているのか?」(2023/07/25配信)
・ 「【英語史の輪 #17】英語の語源辞典を引く際には古今の「方言のズレ」に要注意」(2023/07/28配信)
【8月分(9回)】
・ 「【英語史の輪 #18】「英語は(私にとって)○○です」企画の発進」(2023/08/01配信)
・ 「【英語史の輪 #19】「私にとって英語は○○です」お披露目会」(2023/08/04配信)
・ 「【英語史の輪 #20】名前学に興奮しているので,その興奮をお裾分けします」(2023/08/08配信)
・ 「【英語史の輪 #21】英語学研究者の helwa メンバーとの4人飲み会 --- 金田拓さん,尾崎萌子さん,まさにゃんの登場」(2023/08/11配信)
・ 「【英語史の輪 #22】最近のhel活を雑談的に報告します」(2023/08/15配信)
・ 「【英語史の輪 #23】verbalization 「言語化」入門」(2023/08/18配信)
・ 「【英語史の輪 #24】文字の魅力から逃れられない --- 古代メキシコ展に行ってきました」(2023/08/22配信)
・ 「【英語史の輪 #25】ニックネーム論で行こう」(2023/08/25配信)
・ 「【英語史の輪 #26】鳥と卵の話し」(2023/08/29配信)
【9月分(9回)】
・ 「【英語史の輪 #27】長く発信を続けるコツは?」(2023/09/01配信)
・ 「【英語史の輪 #28】heldio/helwa のリスナーコミュニティはブレスト集団である」(2023/09/05配信)
・ 「【英語史の輪 #29】Taku さんとの英語類義語談義」(2023/09/08配信)
・ 「【英語史の輪 #30】類義語辞典を使っていますか?」(2023/09/12配信)
・ 「【英語史の輪 #31】語順のフシギ」(2023/09/15配信)
・ 「【英語史の輪 #32】ゼミ合宿でのお悩み相談」(2023/09/20配信)
・ 「【英語史の輪 #33】ゼミ合宿を終えて」(2023/09/22配信)
・ 「【英語史の輪 #34】中英語は標準綴字がないから辞書が引きにくい」(2023/09/26配信)
・ 「【英語史の輪 #35】月末の helwa としてのコメント返し 2023/09/29(Fri)」(2023/09/29配信)
【10月分(13回)】
・ 「【英語史の輪 #36】ハドリアヌスの長城と英語史」(2023/10/03配信)
・ 「【英語史の輪 #37】コメント返し,書字方向論続き,素朴な疑問,みんなのhel活」(2023/10/05配信)
・ 「【英語史の輪 #38】よい質問とは何か?」(2023/10/07配信)
・ 「【英語史の輪 #39】第2回オフ会 --- 学ぶ場としての helwa について語る」(2023/10/10配信)
・ 「【英語史の輪 #40】linguistics 「言語学」も -ics です」(2023/10/12配信)
・ 「【英語史の輪 #41】和田忍さん(駿河台大学)」(2023/10/15配信)
・ 「【英語史の輪 #42】変なアルファベット表を作る企画」(2023/10/17配信)
・ 「【英語史の輪 #43】変なアルファベット表企画への反響」(2023/10/19配信)
・ 「【英語史の輪 #44】茶色のもの」(2023/10/21配信)
・ 「【英語史の輪 #45】リズムかロジックか --- 小河舜さんとの生対談」(2023/10/24配信)
・ 「【英語史の輪 #46】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(後半)」(2023/10/26配信)
・ 「【英語史の輪 #47】最後にダメ押し,Taku さんとの実況中継第3弾 --- 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic」(2023/10/28配信)
・ 「【英語史の輪 #48】セミコロンに注目;」(2023/10/31配信)
11月の配信回の初回は明日11月2日(木)となります.どうぞよろしくお願い致します.
10月26日(木)の夜に,帝京科学大学の金田拓さんとともに,Baugh and Cable の英語史書の「対談精読実況生中継」を Voicy heldio で配信しました.同書の第21節 Italic (イタリック語派)を題材に,英文を精読し,内容について様々な角度から議論と解説を行ないました.(一緒に講師を務めました Taku さん,対談内での重要かつ適切なコメントで盛り上げていただきましてありがとうございました!)
配信している側の2人は確かに豊かで実りある時間を過ごすことができたのですが,お聴きのリスナーの方々はいかがでしたでしょうか? まだお聴きでない方もいるかと思いますので,ぜひお時間のあるときにどうぞ.生放送のアーカイヴは3回に分かれており,第1回は通常配信で,第2回と第3回はプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) にてお届けしています(第1回だけでも50分超の長尺です).第1回で関心が湧いた方は,ぜひ第2第,第3回へもお進みいただければと存じます(後者2回は有料となります).
対談特別回だったこともあり,精読対象となったテキストを特別にこちらの PDF に上げておきます.できれば,オンライン読書会のシリーズ企画でもありますので,ぜひ本書そのものを入手し,今後も長くお付き合いください.
(1) 「#879. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(前半)」
(2) 「【英語史の輪 #46】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(後半)」(10月分の helwa に含まれる有料配信です)
(3) 「【英語史の輪 #47】最後にダメ押し,Taku さんとの実況中継第3弾 --- 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic」(10月分の helwa に含まれる有料配信です)
各回にはリスナーの皆さんからも今回の精読について様々なコメントが寄せられてきていますので,そちらもご覧ください.
今回の対談精読実況生中継(第1回)は,先日の「#877. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (20) Albanian --- 小河舜さんとの実況中継」と同様に,サンプル回ということで一般公開した次第です.普段は週に1,2回のペースでお届けする有料配信のシリーズとなっています.ぜひ「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) より過去回のラインナップをご覧いただければと思います.今後,皆さんとともに本書を読み進めていけることを楽しみにしています.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) でご紹介したとおり,Voicy heldio では英語で書かれた英語史の名著をじっくり読み進めていくというオンライン読書会風のシリーズ企画を始めています.有志のリスナーが集う有料配信のシリーズとなっています.
週に1,2回の配信で1節ずつゆっくり進んでおり,3ヶ月ほどかけて第20節まで進んできています.最新の第20節では,印欧語族のなかの1語派である Albanian 「アルバニア語派」が扱われています.この最新回については,ゲスト講師として小河舜さん(フェリス女学院大学ほか)を招いての特別回として「#877. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (20) Albanian --- 小河舜さんとの実況中継」を無料配信しています.生放送として収録したものをアーカイヴに置いておりますので,そちらからお聴きください.シリーズ企画の雰囲気や,そこで読み進めている英語史書のレベル感なども分かるかと思います.
第20節は短い英文ということもありますし,シリーズ企画の特別サンプル回という位置づけでもありますので,同節のテキスト全文を以下に掲載しておきます.この長くない文章を種に50分以上お話ししました.
20. Albanian. Northwest of Greece on the eastern coast of the Adriatic is the small language branch named Albanian. It is possibly the modern remnant of Illyrian, a language spoken in ancient times in the northwestern Balkans, but we have too little knowledge of this early tongue to be sure. Moreover, our knowledge of Albanian, except for a few words, extends back only as far as the fifteenth century of our era, and, when we first meet with it, the vocabulary is so mixed with Latin, Greek, Turkish, and Slavonic elements---owing to conquests and other causes---that it is somewhat difficult to isolate the original Albanian. For this reason, its position among the languages of the Indo-European family was slow to be recognized. It was formerly classed with the Hellenic group, but since the beginning of the present century it has been recognized as an independent member of the family.
本シリーズにご関心を抱かれた方は,ぜひ本書第6版を入手し,ご都合のよいタイミングとペースで読み進めていっていただければと思います.
ちなみに,今晩6時辺りからも,heldio/helwa で特別ゲストとの対談生放送として,第22節 Italic 「イタリック語派」を配信する予定です.ご都合がつく方は,ぜひライヴでお聴きください.
昨日の Voicy heldio にて「#873. ゼミ合宿収録シリーズ (7) --- 情報構造入門」を配信しました.khelf (慶應英語史フォーラム)のメンバー3名による収録で,ご好評いただいています(ありがとうございます).「桃太郎」を題材に,情報構造 (information_structure) という用語・概念の基本が丁寧に解説されています.
情報構造に関する基本的事項の1つに,「旧情報」 (given information) と「新情報」 (new information) の対立があります.談話は原則として,話し手と聞き手にとって既知の旧情報の提示に始まり,その上に未知の新情報を加えることで,段階的に共有知識が蓄積されていきます.つまり,旧情報→新情報と進み,次にこの蓄積全体が旧情報となって,その上に新情報が積み上げられ,さらにこれまでの蓄積全体が旧情報となって次の新情報が加えられる,等々ということです.
Cruse の用語辞典より "given vs new information" (74--75) の項目を引用します.
given vs new information These notions are concerned with what is called the 'information structure' of utterances. In virtually all utterances, some items are assumed by the speaker to be already present in the consciousness of the hearer, mostly as a result of previous discourse, and these constitute a platform for the presentation of new information. As the discourse proceeds, the new information of one utterance can become the given information for subsequent utterances, and so on. The distinction between given and new information can be marked linguistically in various ways. The indefinite article typically marks new information, and the definite article, given information: A man and a woman entered the room. The man was smoking a pipe. A pronoun used anaphorically indicates given information: A man entered the room. He looked around for a vacant seat. The stress pattern of an utterance can indicate new and given information (in the following example capitals indicate stress):
PETE washed the dishes. (in answer to Who washed the dishes?)
Pete washed the DISHES. (in answer to What did Pete do?)
Givenness is a matter of degree. Sometimes the degree of givenness is so great that the given item(s) can be omitted altogether (ellipsis):
A: What did you get for Christmas?
B: A computer. (The full form would be I got a computer for Christmas.)
談話は旧情報の上に新情報を付け加えることで流れていく,という情報構造の基本事項を導入しました.
・ Cruse, Alan. A Glossary of Semantics and Pragmatics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.
一昨日の hellog 記事「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) でもお伝えしましたが,目下 Voicy heldio によるオンライン読書会シリーズに力を入れているところです.ウェブ時代の新スタイルの読書会・勉強会として,とてもおもしろい試みになっているという実感があります.参加者は今のところ20名程度ですが,読んでいる本のサイズを考えると理屈上は向こう数年間にわたって続いていくシリーズ企画ということもあり,これからメンバーがゆっくりと少しずつでも増えていくと楽しそうだなと夢想しています.毎回200円の有料配信ですが,第1チャプターは試聴可能となっています.
最新回は,昨日アップされた上記の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (19) Hellenic」です.毎週1,2回,指定の英語史書をゆっくりと1節ずつ読み進めていくという企画で,7月に開始したばかりなので,昨日ようやく第19節にたどり着いたところです.英語史といえど,まだ英語の歴史に本格的に入る前の段階で,印欧語族を構成する各語派を概説しているところです.その1つがギリシア語派ということになります.
今回はテキストに沿ってあくまで印欧語族のなかのギリシア語派を紹介しているのですが,この語派(とりわけギリシア語そのもの)の英語史上の意義については,さほどお話ししていません.ギリシア語については本ブログで greek の記事群にて多く取り上げてきましたが,ギリシア語の英語史上のエッセンスを箇条書きすれば,次の4点となるでしょうか.
・ 古典ギリシア語は『新訳聖書』の言語である.
・ ギリシア語とギリシア文明は,現代まで続く西洋文明の基礎を形成する.そこから,英語自体が拠って立つのも究極的にはギリシア語とギリシア文明といってよい側面がある.
・ ギリシア語は,ラテン語に多大な影響を与え,ラテン語はフランス語に影響を与え,フランス語は英語に影響を与えてきた.ギリシア語が英語史上重要であるのはこのような事情による.
・ ギリシア語は古代・中世・近現代を通じて,上記の歴史的経緯により汎ヨーロッパ的な威信言語とみなされてきた.現代でもとりわけ学術の分野では,国際的な学名や学術用語は,しばしばギリシア語要素によって作られる (cf. 新古典主義的複合語 (neo-classical compounds)).現代の最たる国際語である英語も,その伝統と要素を多分に受け継いでいる.
ギリシア語に関連した Voicy heldio の配信回としては 「#137. 英語とギリシア語の関係って?」もお聴きください.
なお,今晩19:30~20:00の間に,こちらの Voicy heldio にてゲストを招いての生放送を配信する予定です.その内容は,テキストの次の節「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (20) Albanian」を題材とした初の「オンライン読書会生実況中継」(?)となる予定です.今回に関しましては,放送回の概要欄などにテキストも添付しますのでライヴあるいはアーカイヴにてお気軽にお聴きいただければ.
このように一風変わったオンライン読書回シリーズですが,関心のある方はぜひ覗いていただければ.精読しているテキストは,こちらの Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013. です.名著であることは保証します.
今年の7月17日に開始した Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でのシリーズ企画が,毎週1~2回のペースで順調に進んでいます.Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013. という著名な英語史の本を,原文で毎回1セクションずつゆっくり精読していくというオンライン読書会です.英語の文章の1文1文を精読していくわけではないのですが,表現や文法の気になる点を指摘して厳密に解釈したり,セクションの内容について英語史の観点から深掘りするなど,テキストを元にして縦横無尽に「英語史する」企画です.シリーズ開始時の記事「#5205. Baugh and Cable の英語史概説書を1節ずつ読み進めながら Voicy heldio で自由にコメントしていく試みを始めています」 ([2023-07-28-1]) をご参照ください.
おかげさまで,ゆっくりペースながらも第18節の "Armenian" までたどり着いています(こちらの最新回は昨日より配信されています.さらにこの回は比較的短いこともあり,特別にサンプル回として該当節のテキスト全文を概要欄に載せています).また,シリーズへの参加メンバーも夏の間にじわじわと増えてきており,毎回の配信のコメント欄を通じてメンバー間のやりとりも行なわれるようになってきています.各回は有料配信ですが,第1チャプターは常に試聴可能となっていますので,関心のある方は雰囲気をご確認いただければと思います(料金はウェブブラウザ経由で200円なのに対して,Voicy アプリ経由では320円と手数料により割高となりますので,ぜひ前者からどうぞ).
本ブログ hellog や Voicy heldio などを通じて英語史への関心が湧いた方や,しっかりと書かれた英語で英文解釈力を鍛えたい方にはお薦めのオンライン読書会シリーズとなっています.実際,よく書かれた英語で精読対象としてふさわしい英文ですので,この点は保証します(精読の練習には,対象が良い英文であることが絶対の条件です).
読書会なのでB&Cのテキストが手元にないと参加しにくいという事情はあるかと思います.ぜひ上記よりご購入くださるか,あるいは古書や図書館での入手も結構かと思います.これから入手される場合には,改訂が重ねられてきた本であることに注意し,最新版である第6版を手に取っていただければと思います.オンライン読書会では第6版をベースに読み進めています.ただし,先立つ第5版などしか入手できないという場合でも,内容把握には大きな問題はありませんし,私自身の手元にも第5版や第4版がありますので,必要に応じて異同を確認できます.オンライン読書会の長所を活かし,メンバー間でインタラクティヴに「精読交流」もできますし,各自ご都合のよいタイミングとペースで無理なく読み進められるのもメリットかと思います.参加メンバーからの要望を受け,今後はたまに生実況回やゲスト講師を招いての精読回などもやってみようかとも企画中です.
以下,過去18回のラインナップです.第1回(第1節)の "The History of the English Language as a Cultural Subject" については,第6版からのテキスト全文を本ブログの「#3641. 英語史のすゝめ (1) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-16-1]) に掲載していますので,テキストをお持ちでない方も,そちらを参照して追いかけることができます.
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (1) The History of the English Language as a Cultural Subject」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (2) Influences at Work on Language」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (3) Growth and Decay」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (4) The Importance of a Language」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (5) The Importance of English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (6) The Future of the English Language: Demography」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (7) External and Internal Aspects of English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (8) Cosmopolitan Vocabulary」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (9) Inflectional Simplicity」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (10) Natural Gender」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (11) Language Constantly Changing」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (12) Dialectal Differentiation」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (13) The Discovery of Sanskrit」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (14) Grimm's Law」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (15) The Indo-European Family」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (16) Indian」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (17) Iranian」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (18) Armenian」
(以下,後記)
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (19) Hellenic」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (20) Albanian --- 小河舜さんとの実況中継」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(前半)」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
- 「【英語史の輪 #46】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(後半)」
- 「【英語史の輪 #47】最後にダメ押し,Taku さんとの実況中継第3弾 --- 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (22) Balto-Slavic」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (23) Germanic」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(前半)」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
- 【英語史の輪 #52】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (24) Celtic --- 和田忍先生との実況中継(後半)」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (25) Twentieth-century Discoveries」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (26) The Home of the Indo-Europeans --- khelf 藤原くんとの実況中継 1/3」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
- 「【英語史の輪 #57】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (26) The Home of the Indo-Europeans -- khelf 藤原くんとの実況中継 2/3」
- 「【英語史の輪 #58】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (26) The Home of the Indo-Europeans -- khelf 藤原くんとの実況中継 3/3」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (27) The Languages in England before English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (28) The Romans in Britain」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (29) The Roman Conquest」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (30) Romanization of the Island」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (31) The Latin Language in Britain」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (32) The Germanic Conquest --- Taku さんとの実況中継(前半)」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
- 「【英語史の輪 #65】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (32) The Germanic Conquest --- Taku さんとの実況中継(後半)」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (33) The Anglo-Saxon Civilization」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (34) The Names "England" and "English"」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (35) The Origin and Position of English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (36) The Periods in the History of English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (37) The Dialects of Old English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (38) Old English Pronunciation」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (39) Old English Vocabulary」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (40) Old English Grammar」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (41) The Noun」
・ 「#983. B&Cの第42節「文法性」の対談精読実況生中継 with 金田拓さんと小河舜さん」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (43) The Adjective」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (44) The Definite Article」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (45) The Personal Pronoun」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (46) The Verb」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (47) The Language Illustrated」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (48) The Resourcefulness of the Old English Vocabulary」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (49) Self-explaining Compounds」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (50) Prefixes and Suffixes」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (51) Syntax and Style」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (52) Old English Literature」(←この回は対談形式で特別無料配信となっています)
- 「【英語史の輪 #146】 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (52) Old English Literature --- 和田忍さんとの実況中継(後半)」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (53) Contact of English with Other Languages」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (54) The Celtic Influence」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (55) Celtic Place-Names and Other Loanwords」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (56) Three Latin Influences on Old English」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (57) Chronological Criteria」(←この回は「英語史ライヴ2024」での対談精読実況生中継により特別無料配信となっています)
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (58) Continental Borrowing (Latin Influence of the Zero Period)」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (59) Latin through Celtic Transmission (Latin Influence of the First Period)」
・ 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60) Latin Influence of the Second Period: The Christianizing of Britain」
(後記ここまで)
以下,リスナーの方々からの反応をいくつか挙げてみます.
・ 堀田先生,最高の企画をありがとうございます.学部・院時代が恋しくなりました.週1ペースだと5年ぐらいか…と思うとこれからの5年間が楽しみになりました
・ 夢のような企画,待っていました! 始まったばかりだというのに,もう次が待ち遠しいです.
・ 英語史の素養のない自分についていけるかなと一瞬躊躇しましたが,英語史は教養であるとの言葉に背中を押されて,本の注文ボタンもポチっと押しました.ありがとうございます.
・ 堀田先生,素敵な企画をありがとうございます! 先生の Voicy は楽しく拝聴しておりましたが,自分で英語で英語史の本を読むとなると,はて,読めるだろうか,と不安に感じながらも本をポチりました.
・ はじめまして.Twitterで見つけまして,本が届きましたので,今日より本を読んでいきたいと思います.自分も続けられるか自信がないですが,ゆっくり,歩んでいきたいと思います.宜しくお願いします!
・ 1セクションずつですと,熟読できて良いペースだと思います!
・ インタラクティブに読む!おおいに共感!本をお金を払ってまで所有する動機の一つは書き込み.
・ 1節に3時間かけて読んでます.超精読,とてもありがたいです.有料が妥当だと思います.私自身,体調不良が続き,皆さんからだいぶ遅れてしまいましたが,コツコツついてゆこうと思います.
・ 途中で脱落しそうになりましたが,やはり自分1人の読みですと気付けないことが多々あるので,ついて行けるよう少しずつ追いかけます!
ぜひともに楽しく英語史を学び,英文解釈力をつけていきましょう!
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
名前学あるいは固有名詞学 (onomastics) の論争の1つに,標題の議論がある.はたして名前に意味があるのかどうか.この問題については,私も長らく考え続けてきた.「#5197. 固有名に意味はあるのか,ないのか?」 ([2023-07-20-1]) を参照されたい.(Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」のプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」(有料)では「【英語史の輪 #15】名前に意味があるかないか論争」として議論している.)
Nyström (40--41) は,固有名詞には広い意味での「意味」があるとして,"the maxium meaningfulness thesis" に賛同している (40) .以下に Nyström の議論より,最も重要な節を引きたい.
Do names have meaning or not, that is do they have both meaning and reference or do they only have reference? This question is closely connected to the dichotomy proper name---common noun (or to use another pair of terms name--appellative) and also to the idea of names being more or less 'namelike', showing a lower or higher degree of propriality or 'nameness'. Can a certain name be a more 'namelike' name than another? I believe it can. To support such an assertion one might argue that a name is not a physical, material object. It is an abstract conception. A name is the result of a complex mental process: sometimes (when we hear or see a name) the result of an individual analysis of a string of sounds or letters, sometimes (when we produce a name) the result of a verbalization of a thought. We shall not ask ourselves what a name is but what a name does. To use a name means to start a process in the brain, a process which in turn activates our memories, fantasy, linguistic abilities, emotions, and many other things. With an approach like that, it would be counterproductive to state that names do not have meaning, that names are meaningless.
「名前とは何か」という問いよりも「名前は何をするものか」という名前の役割を問うことが重要なのではないか,というくだりには目から鱗が落ちた.この話題,これからも取り上げていければと.
・ Nyström, Staffan. "Names and Meaning." Chapter 3 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 39--51.
このブログでもすでに何度か紹介している新刊書『World Englishes 入門』の第1章「イギリスとケルトの英語」を執筆された和田忍先生(駿河台大学)と,直接対談する機会を得ました.一昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて配信しました.「#869. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 和田忍さんとの対談」です(15分ほどの音声コンテンツ).ぜひお聴きいただければ.
本書は文字通り世界英語 (world_englishes) に関する本ですが,その礎となる第1章は,実は凝縮された英語史概説となっています.つまり,古英語期以前から近代英語までを要領よくカバーした,18ページほどの英語史入門として読めるということです.
世界英語入門を謳う本書を手に取る読者の多くは,英米以外の英語の諸変種,例えばインド英語,シンガポール英語,ジャマイカ英語などの状況についてとりわけ知りたいと思っているのではないでしょうか.そのような読者にとっては,伝統的かつ主流派に属する英語変種であるイギリス英語やアメリカ英語には,むしろあまり関心が湧かないということもあるかと思います.
しかし,なぜ世界英語がこのように多様なのかという本質的な謎を解くためには,英語がたどってきた歴史の理解が欠かせません.その礎として,英語史の概略的な知識がぜひとも必要になります.第1章は,そのような位置づけとして読めるのではないかと思います.
しかも,単なる「イギリスの英語」ではなく「イギリスとケルトの英語」と「ケルト」がタイトルに添えてあるのが,心憎い演出です.英語は主に近代以降にイギリスの植民地支配を通じて世界展開していきますが,すでにその千年以上前から,ケルト人が住まっていたブリテン諸島において植民地支配の練習のようなことが行なわれていたからです.第1章は近代以降の英語の世界展開のミニチュア版を示してくれている --- そのような読み方が可能です.また,英語が歴史的に言語接触の多かった言語であることもよく分かる章となっています.
以下,第1章のなかの小見出しとコラムを挙げておきます.
日曜日に配信した YouTube の「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回は「#171. OED(オクスフォード英語辞典 --- Oxford English Dictionary)の特徴まるわかり!」です.本ブログでも何度となく登場している,世界最強の英語辞典 OED を一から導入しています.14分ほどの対談動画です.「OED ってよく聞くけど何?」という方は,ぜひご覧ください.画面の背景に OED 第2版の全20冊が並んでいます.
本ブログには OED の様々な側面を紹介する記事も多いですし,OED を実践的に用いて調査し執筆した記事も少なくありません(cf. oed の記事群を参照).今回の YouTube は OED とは何かという導入動画でしたので,同様にイントロ風の趣旨で執筆した記事,および Voicy heldio 配信回へのリンクを一覧しておきます.
・ 「#304. OED 制作プロジェクトののろし」 ([2010-02-25-1])
・ 「#638. 国家的事業としての OED 編纂」 ([2011-01-25-1])
・ 「#644. OED とヨーロッパのライバル辞書」 ([2011-01-31-1])
・ 「#898. OED2 と Web3 の比較対照表」 ([2011-10-12-1])
・ 「#2451. ワークショップ:OED Online に触れてみる」 ([2016-01-12-1])
・ 「#3544. 英語辞書史の略年表」 ([2019-01-09-1])
・ 「#4122. 物凄いツールが現われた --- OED Text Visualizer (beta)」 ([2020-08-09-1])
・ 「#4130. 英語語彙の多様化と拡大の歴史を視覚化した "The OED in two minutes"」 ([2020-08-17-1])
・ 「#4131. イギリスの世界帝国化の歴史を視覚化した "The OED in two minutes"」 ([2020-08-18-1])
・ 「#4133. OED による英語史概説」 ([2020-08-20-1])
・ 「#4141. 1150年を越えて残らなかった古英語単語は OED から外されている」 ([2020-08-28-1])
・ 「#4172. 映画『博士と狂人』の原作者による OED 編纂法の紹介文」 ([2020-09-28-1])
・ 「#4198. 映画『博士と狂人』を観ました」 ([2020-10-24-1])
・ 「#5220. OED と World Englishes」 ([2023-08-12-1])
・ heldio 「#503. OED は歴史的原則にもとづく辞書」(2022年3月2日配信)
・ heldio 「#275. どれだけ長くかかっているのよ,OED の編纂?」(2022年3月3日配信)
上記にもありますが,OED 編纂をめぐる映画『博士と狂人』(原題 The Professor and the Madman)は必見です.
また,「#5158. 家入葉子・堀田隆一著『文献学と英語史研究』(開拓社,2023年)を改めて紹介します」 ([2023-06-11-1]) で紹介した『文献学と英語史研究』の第2章1.1節では,研究ツールとしての OED について詳しく紹介しています.
先週末の10月14日(土)の午後,船橋の某所で開催された千葉慶友会の講演会にて「英語学習に役立つ英語史 --- 英語はこんなにおもしろい」をお話ししました.事前の準備から当日のハイブリッド開催の運営,そして講演会後の懇親会のアレンジまで,スタッフの皆さんにはたいへんお世話になり,感謝しております.ありがとうございました.とりわけ懇親会では千葉慶友会内外からの参加者の皆さんと直接お話しすることができ,実に楽しい時間でした.
90分ほどの講演の後,その場で続けて Voicy heldio の生放送をお送りしました.前もって運営スタッフの方々と打ち合わせしていた企画なのですが,事前に参加予定者より「英語に関する素朴な疑問」を寄せていただき,当日の投げ込み質問も合わせて,私が英語史の観点から回答していくのを heldio でライヴ配信しようというものです.
そちらの様子は,昨日 heldio のアーカイヴにて「#868. 千葉慶友会での「素朴な疑問」コーナー --- 2023年10月14日の生放送」として配信していますので,お時間のあるときにお聴きください(1時間弱の長尺となっています).
6件ほどの素朴な疑問にお答えしました.以下に分秒を挙げておきますので,聴く際にご利用ください.
(1) 02:25 --- 外国語からカタカナに音訳するときに何かルールはありますか.この質問をする理由は,例えば本によって「フロベール」だったり「フローベール」だったりすることがあるからです.また,カタカナを英語らしく発音するコツはありますか.
(2) 14:43 --- 英語の「パラフレーズ」の歴史的遷移について,なにか参考資料をご存知でしたら教えていただければ嬉しいです.Academic Writing を勉強している途中で興味を持ちました.
(3) 21:34 --- 英単語には island など読まない文字があるのはなぜですか?
(4) 30:43 --- 世界における言語の多様性の問題,および諸言語は今後どのように展開(分岐か収束か)していくのかという問題
(5) 39:05 --- 動詞によって目的語に -ing をとるか to 不定詞をとるかが決まっているのはなぜですか?
(6) 44:05 --- なぜ英語には無生物主語構文があるのですか?
時間内に取り上げられたのは6件のみですが,他にも多くの疑問をいただいていましたので,いずれ hellog/heldio で取り上げたいと思います.
実は慶友会の講演と絡めての Voicy heldio ライブの千本ノックは初めてではありません.同様の雰囲気をさらに味わいたい方は,3ヶ月半ほど前の「#5179. アメリカ文学慶友会での千本ノック収録を公開しました」 ([2023-07-02-1]) もご訪問ください.
10月5日(木)の午前11時過ぎより,事前に大学生より寄せられた英語に関する素朴な疑問に英語史の観点から回答する「千本ノック」 (senbonknock) のイベントを開催しました.その様子は Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の生放送でお届けしましたが,収録した音源をアーカイヴにも残してあります.「#859. 10月5日の「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」生放送」です.60分ほどの長さですので,お時間のあるときにお聴きください.
いずれもすぐれた「素朴な疑問」でした.疑問の抱き方が大事ですね.今回は10件の質問に回答しました.以下に本編(第2チャプター)の分秒を挙げておきます.
(1) 01:00 --- なぜ疑問文の最後に ? をつけるのか.
(2) 06:08 --- 人称代名詞について単数形と複数形では I → we,he/she/it → they と変わるのに,you は複数形になっても変わらないのはなぜか.また,なぜ3人称の複数形では同じ they になるのか.
(3) 15:54 --- なぜイギリス英語とアメリカ英語で綴字が違うものがあるのか.同じ綴字を使ったほうが便利ではなかったのか.
(4) 21:50 --- なぜ Good morning. というのか.
(5) 25:44 --- なぜ英語ではアルファベットしか用いられないのか.
(6) 35:17 --- なぜ be 動詞は主語によって使い分けるのか.
(7) 39:45 --- なぜ Wednesday の d はなぜ発音しないのか.
(8) 44:10 --- なぜ不定冠詞 a は「エイ」と発音することがあるのか.
(9) 47:53 --- なぜ形容詞は名詞の後ではなく前につくのか.
(10) 52:29 --- doctor はなぜ or で終わるのか.
本ブログの姉妹編というべき,毎朝6時に配信している Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」.おかげさまで2年5ヶ月ほど続いています.今年6月からはプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」も開始しており,この10月からは週3回(火木土)の午後6時に配信しています.通常配信と有料配信を含めた全配信回の一覧はこちらからどうぞ.
通常配信のなかから,とりわけよく聴かれている上位20回をご案内します.話題に広がりもありますので,この20回を流し聴きするだけでも,英語史の魅力が伝わるのではないかと思います.週末のゆったりした時間に,ぜひ耳からの学びを!
1. 「#333. 英語には借用語がやたらと多い!英語語彙にまつわる統計あれこれ」
2. 「#354. long と short は対等な反対語ではない?」
3. 「#318. can't, cannot, can not ー どれを使えばよいの?」
4. 「#322. butter, cheese, pepper ー 大陸時代に英語に入っていたラテン単語たち」
5. 「#338. fine と finish は同語源 --- 鍵は「切り裂く」!?」
6. 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」
7. 「#319. employee の ee って何?」
8. 「#390. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 7」
9. 「#336. 18世紀半ばに英文法を作り上げた Robert Lowth とはいったい何者?」
10. 「#391. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 8」
11. 「#317. dream, bloom, dwell ー 意味を借りた「意味借用」」
12. 「#331. 長い間英語には標準語がなかったって本当!?」
13. 「#384. morning 「朝」と mourning 「喪」は語源的に無関係」
14. 「#410. 「腕」 arm と「武器」 arms の関係」
15. 「#440. なぜ oneteen, twoteen ではなく eleven, twelve というの?」
16. 「#340. second, sect, sequence, sue, suit はすべて同語根!」
17. 「#353. 反対語っていろいろあっておもしろい!」
18. 「#522. many times ではなく many a time って何?」
19. 「#325. なぜ世界の人々は英語を学んでいるの?」
20. 「#653. 軽快な英語文化史エッセイ集『英文学者がつぶやく英語と英国文化をめぐる無駄話』の紹介」
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