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alphabet - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-06-05 08:55

2012-12-31 Mon

#1344. final -e の歴史 [final_e][mulcaster][spelling][graphemics][alphabet][orthography][pronunciation][phonetics][silent_letter][ilame]

 英語史における最重要の問題の1つとして,final -e が挙げられる.本ブログでも,「#979. 現代英語の綴字 <e> の役割」 ([2012-01-01-1]) や「#1289. magic <e>」 ([2012-11-06-1]) などで扱ってきた話題だ.個人的な関心ゆえにひいき目に「最重要」と呼んでいる節もないではないが,「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) という英語史の潮流,ひいては印欧語史の潮流を体現する問題として final -e のもつ意義は大きい.final -e は,発音の問題でもあり綴字の問題でもある.final -e は,古英語・中英語の問題でもあり,近代英語・現代英語の問題でもある.今回は,本年の最後の日の話題としてもふさわしいと思われる final -e の歴史を概観してみよう.概観といっても本来は一言では済ませられないところだが,Caon の論文に従って,無理矢理,要約する.
 後期古英語までは,語尾に現われる様々な母音は互いに音価も綴字も区別されていた.ところが,後期古英語になると,強勢の落ちない語尾の環境では -a, -o, -u は -e へと融合してゆく.母音(字)の水平化 (levelling) と呼ばれる現象である.歴史的には明確に区別されていたこれらの母音は,まず schwa /ə/ へと曖昧化し,次に消失した (e.g., sune > sunə > sun) .しかし,この -e は,綴字上はずっと遅くまで保たれた.
 final -e の脱落は次のような条件に左右された (Caon 297) .

- from North to South in all dialects in turn;
- first from written disyllabic forms with short stem vowel and then from those with a long stem vowel. In the latter forms, -e was generally retained to indicate that the previous vowel was long e.g. name;
- first from nouns and verbs and then from adjectives . . . .


 一方,final -e の残存は次のような条件に左右された (Caon 297) .

- the kind of text: the ending occurred more frequently in poetry than in prose, in that it provided the poet with an extra syllable whenever he needed it;
- the presence of the ending in the dialect: if the writer spoke a southern dialect he probably still pronounced --- and therefore wrote --- all his final -e's;
- the author of the text: conservative writers like Chaucer and Gower preserved final -e in their spelling.


 15世紀までには,発音としての final -e はほぼ消えていたと考えられる.16, 17世紀には,言語学者や綴字改革者が,正書法上,final -e の定式化を図った.この点で最も影響力があったとされるのが Richard Mulcaster (1530?--1611; see [2010-07-12-1]) である.Mulcaster は,著書 The First Part of the Elementarie (1582) において,-ld, -nd, -st, -ss, -ff の後位置,有声の cg の後位置,長い語幹母音をもつ語において final -e の使用を定式化した(ただし,16世紀の印刷家 John Rastell (c. 1475--1536) が Mulcaster よりも先に先行母音の長さを標示する final -e の機能を発達させていたともいわれる).これは18世紀に再分析され,最後に挙げた機能のみが標準化した.

 ・ Caon, Louisella. "Final -e and Spelling Habits in the Fifteenth-Century Versions of the Wife of Bath's Prologue." English Studies (2002): 296--310.

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2012-12-17 Mon

#1330. 初期中英語における eth, thorn, <th> の盛衰 [thorn][spelling][laeme][alphabet][graphemics]

 昨日の記事[2012-12-16-1]で,Helsinki Corpus を用いて「#1329. 英語史における eth, thorn, <th> の盛衰」を概観した.グラフによると,<þ> が <ð> を押しのけて著しく成長するのは,M1 (1150--1250) から M2 (1250--1350) にかけての時期であり,この時期について詳細に調査するには LAEME がうってつけである.方言による差異なども確認できるだろうと考え,早速,大雑把に調査してみた.大雑把というのは,例えば,1つの語形のなかに <þ> が2回以上現われたとしても1回と数えるなど,自動処理上の都合があるためである.
 以下は,時代別(半世紀単位)および方言別の分布を示すグラフである(数値データは,HTMLソースを参照).なお,方言付与については,[2012-03-19-1]の記事「#1057. LAEME Index of Sources の検索ツール Ver. 2」で触れたように,仮のものである.COUNTY と DIALECT の仮の対応表はこちらを参照.

The Ebb and Flow of 'eth', 'thorn', and <th> by EME Subperiod
The Ebb and Flow of 'eth', 'thorn', and <th> by EME Dialect


 LAEME による時代別の調査結果は,昨日の Helsinki Corpus による調査結果と符合する.C13a と C13b の間に <ð> の減小と <þ> の増加が著しく観察される.以降,数十年間は <ð> 独走の時代といってよいだろう.一方,方言別にみると概ね <þ> が支配的だが,NWM を除く中部においては <ð> もある程度は健闘していることがわかる.方言別の分布は,より詳細な調査が必要かもしれない.

Referrer (Inside): [2017-10-30-1] [2013-03-25-1]

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2012-12-16 Sun

#1329. 英語史における eth, thorn, <th> の盛衰 [thorn][spelling][hc][alphabet][graphemics]

 古英語や中英語では,現代英語の <th> /θ, ð/ に相当する文字として,<þ> "thorn" と <ð> "eth" or "edh" が頻繁に用いられた.中英語期以降は <th> が両者を置き換えてゆくことになったが,ルーン文字に由来する前者は([2012-01-28-1]の記事「#1006. ルーン文字の変種」を参照),中英語期中,とりわけ北部方言でしぶとく生き残った.17世紀の印刷本に現われることすらあったという (Schmitt and Marsden 159) .
 では,<þ>, <ð>, <th> に関する上の記述は,Helsinki Corpus によって裏付けられるだろうか.写本の時代区分(COCOA の <C で表される part of corpus)をキーにしておおまかに頻度を数え,各時代の内部比率でグラフ化した.数値データは,HTMLソースを参照.また,時代区分についてはマニュアルを参照.

The Ebb and Flow of 'eth', 'thorn', and <th> by HC


 近代英語での <þ> の使用は Helsinki Corpus では確認できなかったものの,上に概観した3種類の文字素の盛衰はおよそ裏付けられたといってよいだろう.古英語から M2 (1250--1350) にかけて,<ð> がひたすら減少する一方で,<þ> は分布を広げていた.しかし,絶頂もつかの間,次の時代以降,<þ> は <th> に急速に置き換えられてゆく.
 中英語ではとりわけ北部で <þ> が持続したというが,こちらも確認したいところだ.Helsinki Corpus を用いた他の頻度調査の例としては,「#381. oftoften の分布の通時的変化」 ([2010-05-13-1]) も参照.

 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

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2012-11-26 Mon

#1309. 大文字と小文字 [punctuation][alphabet][writing][hiragana][calligraphy][capitalisation]

 なぜアルファベットには大文字 (capital letters, uppercase letters) と小文字 (small letters, lowercase letters) があるのか.
 まず,アルファベットは大文字書体 (majuscule) として発達してきたという歴史がある.これは2本の平行線の間に納まる書体で,古代ローマでは,石に彫るのに用いられた荘重な square capital や,本に用いるより滑らかな rustic capital などが行なわれた.しかし,これらの書体は7世紀後半には廃れる.一方,4世紀より現われていた,より書きやすい各種の筆記体 (cursive) 版の大文字書体が隆盛してきた.このなかで最もよく用いられたのが円みのある手写体であるアンシャル書体 (uncial) だ.ここから,イギリス諸島でよく用いられることになる half-uncial が発達した.上記はいずれも大文字書体ではあるが,特に最後に挙げたアンシャル書体の変種から,中世の小文字書体 (minuscule) が発達することになった.
 小文字書体は,2本の平行線の上下にはみだす文字があるのが特徴である.アンシャル書体から生まれたカロリング書体は,781--90年のシャルルマーニュの教育改革に際してヨーク出身の Alcuin (c732--804) が聖書の書写のために発達させたものであり,その美しさと読みやすさは好評を博した.その後継として10--15世紀に広く用いられた小文字書体が,北欧で起こったゴシック書体 (Gothic) である.
 小文字書体が発達してからは,大文字書体は文頭に用いるなどの句読法的な機能や装飾的な機能へと特化してゆく.しかし,現代のような大文字使用の慣用が一般的になるのは中世後半になってからであり,規範として確立するのは1800年くらいである.
 小文字発生の歴史は,文字の書きやすさと読みやすさの追究の歴史だったといえる.真仮名(漢字)を草書化して草仮名を発展させ,さらに仮名を生み出した日本語書体の歴史とも比較されよう.
 関連して,「#583. ドイツ語式の名詞語頭の大文字使用は英語にもあった」 ([2010-12-01-1]) を参照.

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2012-06-22 Fri

#1152. sneeze の語源 [etymology][spelling][onomatopoeia][alphabet][graphemics][palaeography]

 sneeze 「くしゃみ(をする)」の初出は14世紀.中英語では snese(n) などの綴字で現われたが,語頭子音字が <s> でなく <f> である異形を考慮に入れれば,起源は古英語,そしてそれ以前にまで遡る.古英語では fnēosan が "to breathe hard, sneeze" ほどの意味で文証される.ゲルマン祖語では *fneusan が再建され,ゲルマン諸語の cognate では,語頭の <fn>- あるいは <f> の消失した <n>- が広く見られる (ex. MDu fniesen, ON fnýsa, Swed nysa, Ger niesen) .また,fn という語頭子音群はグリムの法則により規則的に印欧祖語 *pneu- "to breathe" の語頭子音に対応する.
 語源辞典によると,中英語期における <fn>- から <sn>- への変形は,<f> と <s> の文字の古体を誤読したものという説が紹介されているが,字形の混同が変形の直接の原因となりうるのか疑問である.確かに[2010-12-02-1]の記事「#584. long <s> と graphemics」で紹介したように,<f> と long <s> が非常に良く似ていたことは事実である.しかし,聴覚に鮮烈な印象を与えるくしゃみという生理現象に対応する語が,音声レベルではなく綴字レベルで混同されて,変形したということは考えにくい.くしゃみは,綴字ベースの誤読を想定するにはあまりに聴覚的であるように思われる.むしろ,次のように考えたい.
 問題の語頭子音の消失した nese のような形態が同じ14世紀から行なわれており,中英語の fnese はすでに発音を必ずしも正確に表わさない古めかしい綴字,徐々に廃れゆく綴字だったと思われる.一方で,語頭子音の落ちた nese に擬音的な効果を付すかのように,[s] 音が語頭に添加され,snese が一種の強調形として現われるようになったのではないか.この擬音の連想は,sn- を語頭にもつ snarl (うなる),sneer (あざ笑う,はなを鳴らす),sniff (くんくんかぐ), snore (いびきをかく),snort (鼻息を荒立てる),snout (ブタなどの鼻), snuff (吸う,かぐ)などの呼吸・鼻の関連語によって相互に強められていると想像される.これらのうち sneersnore も古英語では fn- をもっていたので,問題の sneeze に限らず,fn- と sn- の混同は,中英語期には広く起こっていたに違いない.
 語頭音 [f] が消えていったときに,綴字 <f> も徐々に消えゆく運命だった.しかし,古い綴字として <f> がしぶとく残るケースもあった.一方,発音としては擬音的な [s] の添加によってくしゃみの音声的イメージが強められ,綴字にも <s> が添加されるようになった.<f> で始まる fnese と <s> で始まる snese とは,音声レベルではともにおそらく /sneːze/ と発音されていた可能性がある.このような状況においては,<f> を <s> として「誤読した」と考えるよりも,発音に合わせて綴字を「差し替えた」と考える方が理に適っている.少なくとも,「誤読」説は,<fn>- から <sn>- への変形の直接の原因を説明するには,弱い議論のように思われる.

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2012-05-13 Sun

#1112. 分かち書き (1) [punctuation][grammatology][alphabet][japanese][kanji][hiragana][writing][syntagma_marking][distinctiones]

 分かち書きとは,読みやすさを考慮して,その言語の特定の統語形態的な単位(典型的には語や文節)で区切り,空白を置きながら書くことである.「分け書き」「分別書き」「付け離し」とも呼ばれ,世界のほとんどすべての言語の正書法に採用されている.対する「べた書き」は日本語や韓国語に見られ,日本語母語話者には当然のように思われているが,世界ではきわめて稀である.
 では,日本語ではなぜ分かち書きをしないのだろうか.そして,例えば,英語ではなぜ分かち書きをするのだろうか.それは,表記に用いる文字の種類および性質の違いによる([2010-06-23-1]の記事「#422. 文字の種類」を参照).日本語では,表音文字(音節文字)である仮名と表語文字である漢字とを混在させた漢字仮名交じり文が普通に用いられるのに対して,英語は原則としてアルファベットという表音文字(音素文字)のみで表記される.この違いが決定的である.
 説明を続ける前に,書き言葉の性質を確認しておこう.書き言葉の本質的な役割は話し言葉を写し取ることだが,写し取る過程で,話し言葉においては強勢,抑揚,休止などによって標示されていたような多くの言語機能が捨象される.話し言葉におけるこのような言語機能は,メッセージの受け手にとって,理解を助けてくれる大きなキューである.聞こえている音声の羅列に,形態的,統語的,意味的な秩序をもたらしてくれるキューである.別の言い方をすれば,話し言葉には,文の構造の理解にヒントを与えてくれる,様々な syntagma marker ([2011-12-29-1], [2011-12-30-1]) が含まれている.書き言葉は,話し言葉とは異なるメディアであり,寸分違わず写し取ることは不可能なので,話し言葉のもっている機能の多くを捨象せざるを得ない.どこまで再現し,どこから捨象するのかという程度は文字体系によって異なるが,最低限,特定の統語的単位の区切りは示すのが望ましい.それは,多くの場合,語という単位であり,ときには文節のような単位であることもあるが,いずれにせよ文字をもつほとんどの言語で,ある統語的単位の区切りが syntagma marking されている.
 さて,表音文字のみで表記される英語を考えてみよう.語の区切りがなく,アルファベットがひたすら続いていたら,さぞかし読みにくいだろう.書き手は頭の中にある統語構造を連続的に書き取っていけばよいだけなので楽だろうが,読み手は連続した文字列を自力で統語的単位に分解してゆく必要があるだろう.読み手を考慮すれば,特定の統語的単位(典型的には語)ごとに区切りをつけながら書いてゆくのが理に適っている.その方法はいくつか考えられる.各語を枠でくくるという方法もあるだろうし,(中世の英語写本にも実際に見られるように)語と語の間に縦線を入れるという方法もあるだろう.しかし,なんといっても簡便なのは,空白で区切ることである.これは話し言葉の休止にも相似し,直感的でもある.したがって,表音文字のみで表記される書き言葉では,分かち書きは syntagma marking を確保する最も普通のやり方なのである.
 同じことは,日本語の仮名書きについても言える.漢字を用いず,平仮名か片仮名のいずれかだけで書かれる文章を考えてみよう.小学校一年生の入学当初,国語の教科書の文章は平仮名書きである.ちょうど娘がその時期なので光村図書の教科書「こくご 一上」の最初のページを開いてみると次のようにある.

はる

はるの はな
さいた
あさの ひかり
きらきら

おはよう
おはよう
みんな ともだち
いちねんせい


 一種の詩だからということもあるが,空白と改行を組み合わせた,文節区切りの分かち書きが実践されている(初期の国定教科書では語単位の分かち書きだったが,以後,現在の検定教科書に至るまで文節主義が採用されている).これがなければ「はるのはなさいたあさのひかりきらきらおはようおはようみんなともだちいちねんせい」となり,ひどく読みにくい.そういえば,娘が初めて覚え立ての平仮名で文を書いたときに,分かち書きも句読点もなしに(すなわち読み手への考慮なしに),ひたすら頭の中にある話し言葉を平仮名に連続的に書き取っていたことを思い出す.ピリオド,カンマ,句点,読点などの句読法 (punctuation) の役割も,分かち書きと同じように,syntagma marking を確保することであることがわかる.
 日本語を音素文字であるローマ字で書く場合も,仮名の場合と同様である.海外から日本に電子メールを送るとき,PCが日本語対応でない場合にローマ字書きせざるを得ない状況は今でもある.その際には,語単位あるいは文節単位で日本語を区切りながら書かないと,読み手にとって相当に負担がかかる.いずれの単位で区切るかは方針の問題であり,日本語の正書法としては確立していない.
 それでは,日本語を書き表わす通常のやり方である漢字仮名交じり文では,どのように状況が異なるのか.明日の記事で.

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2012-02-07 Tue

#1016. pangram の例を追加 [word_play][japanese][alphabet][etymology][compound][combining_form]

 [2012-01-29-1]の記事「#1007. Veldt jynx grimps waqf zho buck.」で,アルファベットの26字母すべてを用いて文を作る pangram ということば遊びを紹介した.
 その記事で,よく知られたものとして,タイピストがタイプ確認に利用したという The quick brown fox jumps over the lazy dog. を紹介したが,この pangram とその亜種は,現在,通信業界で "fox message" (FOXメッセージ)と呼ばれており,通信テストのために利用されているというから,pangram は単なることば遊びである以上に,実用性も兼ね備えているというべきだろう.
 pangram という語は,pan "all" + gram "letter" というギリシア語の combining form を組み合わせた neo-classical compound で,1933年が初出と新しいが,遊びそのものは古く,OED の "pangram" のもとに引用されている Medium Ævum からの例文を(文脈なしではあるが)一瞥したかぎりでは,13世紀よりずっと以前にさかのぼるようだ.
 英語の pangram の例について,『学研 日本語知識辞典』のミニ知識欄「英語版いろは歌」で新たに見つけたものを,以下に挙げておきたい.

The five boxing wizards jump quickly. (5人のボクシングの魔術師がすばやくジャンプする)
Mr. Jock, TV quiz Ph.D., bags few lynx. (テレビのクイズ博士ジョック氏は山猫をほとんど袋に入れない)
Quick wafting zephyrs vex bold Jim. (さやさやとそよぐそよ風が、大胆なジムを苛立たせる)
Waltz, nymph, for quick jigs vex Bud. (ワルツになさい、乙女よ、速いジグだとバドが苛立つから)


 日本語のいろは歌については,[2012-01-27-1]の記事「#1005. 平仮名による最古の「いろは歌」が発見された」で触れたが,いろは歌に先行する,同じく47字の「たゐに歌」を紹介しよう.

たゐにいでなつむわれをぞきみめすとあさりおひゆくやましろのうちゑへるこらもはほせよえふねかけぬ
(田居に出で菜摘む我をぞ君召すと 求食り追ひ行く山城の 打酔へる子ら藻は干せよ え舟繋けぬ)


 「たゐに歌」にさらに先行する平安初期の「あめつちの詞」についても触れておく.当時はまだ [e] と [je] が区別されており,47字ではなく48字からなる pangram だ.後半の「えのえお」の2つめの「え」は [je] を表わしたと考えられる.

あめ(天)つち(地)ほし(星)そら(空)やま(山)かは(川)みね(峰)たに(谷)くも(雲)きり(霧)むろ(室)こけ(苔)ひと(人)いぬ(犬)うへ(上)すゑ(末)ゆわ(硫黄)さる(猿)おふせよ(生ふせよ)えのを(榎の枝を)なれゐて(馴れ居て)


 また,『学研 日本語知識辞典』によると,明治時代に新聞「万朝報」が新いろは歌を募集したところ,「とりな歌」なる次のものが選ばれたという.

とりなくこゑすゆめさませみよあけわたるひんかしをそらいろはえておきつへにほふねむれゐぬもやのうち
(鳥鳴く声す 夢覚ませ 見よ明けわたる 東を 空色栄えて 沖つ辺に 帆船群れゐぬ 靄の中)

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2012-01-30 Mon

#1008. 「いろは」と ABC [hiragana][alphabet][etymology]

 [2012-01-27-1]の記事「#1005. 平仮名による最古の「いろは歌」が発見された」で,日本語音韻の順序としての「いろは」について簡単に触れた.
 平安末期,橘忠兼が「色葉字類抄」2巻本で漢字や熟語をいろは順に整理したのを嚆矢として,鎌倉初期に10巻本として増補改訂された「伊呂波字類抄」を含め,広く辞書の配列に,いろはが利用されるようになった.室町時代に成立したいろは順の国語辞書「節用集」は,その実用性ゆえに江戸時代には広く用いられ,辞書の代名詞となった.明治以降は,平安時代に別途成立した五十音図(現存最古の図は11世紀初めの醍醐寺蔵「孔雀経音義」)にもとづく「あいうえお」順が配列の基本となっているが,いろはは歴史的仮名遣いにおける仮名の使い分けの根拠とされ,現代かなづかいにも間接的に影響を与えていることになる.配列としてのいろはの伝統は,「ピアノのいろは」「いろはの『い』の字も知らない」などの慣用表現においても「物事の初歩」ほどの意味で残っている.
 「物事の初歩」ということでいえば,英語にも ABC という表現がある.the ABC of gardening, (as) easy as ABC, I don't know even the ABC of business など,「いろは」とよく似た使い方だ.語としての ABC は,英語では14世紀前半に「読み書き」や「アルファベット」の語義で初出する.「初歩」の語義では,Gower が初出だ.
 関連して from A to Z (初めから終わりまで,すっかり)も,アルファベットの配列にもとづいた慣用表現だ.こちらの初出は1819年.
 ギリシア語アルファベトからは,Rev. 1:8 の I am Alpha and Omega, the beginning and the ending が英語に入っており,Tyndale の聖書 (1526) がその初出である.
 サンスクリット語(梵語)からは,日本語へ「阿吽(あうん)」が入ってきている.「阿」は口を開く音で字音の初め,「吽」は口を閉じる音で字音の終わり.万物の初めと終わりを示す点では,上記と相通ずる.阿吽は「息の出入り」という意味を発展させ,共に一つのことをするときの相互の微妙な調子や気持ちを表わすのに「阿吽の呼吸」という慣用句が生まれた.
 いろは歌にせよアルファベットにせよ,順序を表わすという役割の大きかったことがわかる.現代は科学の時代で,数字で順序を表わすのが主流になってきているとはいえ,「あいうえお」や ABC もまだまだ健在である.いずれも文化史上の大発明といってよいだろう.ちなみに,いろは歌の最後に「京(ん)」が加えられたのは鎌倉時代からだが,その理由はよくわかっていない.

Referrer (Inside): [2015-01-30-1] [2014-05-04-1]

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2012-01-29 Sun

#1007. Veldt jynx grimps waqf zho buck. [word_play][japanese][alphabet]

 [2012-01-27-1]の記事「#1005. 平仮名による最古の「いろは歌」が発見された」で,いろは歌のもつ日本語音韻史上の意義に触れた.中古後半より,48字の「あめつちの詞」に代わって47字の「太為仁歌」や「いろは歌」が受け入れられてきたという事実は,この頃までに [e] と [je] の音韻上の対立が解消されていたことを強く示唆する.しかし,このように論じられるのは,ある一つの前提を無条件に受け入れているからにすぎない.この前提が崩れれば,上の推論も成り立たない.
 その前提とは,いろは歌が,当時の日本語の主要な音韻に対応する仮名のすべてを一度ずつ用いて意味のある文章を組み立てなければならない,というルールに基づいたことば遊びであるという点だ.あくまで過去のことば遊びのルールはこうだったに違いないという前提のもとにいろは歌を解釈すると,過去の音韻はこうだったのではないか,と推論しているにすぎない.しかし,ことば遊びもルールが厳格であればあるほど,それを乗り越えて完成された作品は高く称賛されるはずであり,後代のいろは歌の普及は,当時のくだんのルールの存在を支持していると考えられる.
 ところで,文字一覧のすべての要素を用いて文章を作るということば遊びは,英語でも知られている.pangram と呼ばれることば遊びで,"A sentence or series of words that contains all the letters of the alphabet. The ideal pangram contains each letter only once, but it is difficult to compose a meaningful sentence of this kind." (McArthur 744) と説明される.有名な例としては,タイピストが各文字を確かめるために打ったという The quick brown fox jumps over the lazy dog. という伝統的な pangram があるが,文字の重複がある.ほかに26文字きっかりの力作としては Quiz my black Whigs---export fund.Blowzy night-frumps vex'd Jack Q. というものもある.さらに,辞書なしではほとんど意味の取れない1984年の労作として,標題の Veldt jynx grimps waqf zho buck. (草原アリスイ(鳥)が(イスラム教の)寄付の雄ゾー(ヤクとウシの雑種)を引き上げる)がある (Crystal, English 118) .
 なお,フランス語での最短の pangram として,Whisky vert: jugez cinq fox d'aplomb. (緑のウィスキーよ,好調な5匹のフォックステリアを裁け)という作品がある (Crystal, Encyclopedia 65) .
 この点,いろは歌は,涅槃経第十四聖行品の偈の「諸行無常,是生滅法,生滅滅已,寂滅為楽」の意訳とされ,内容からもできの良い作品といえる.ことば遊びでありながら,韻律や含蓄にもすぐれ,なおかつ文字の順序を表わす実用的な役割も兼ねてきたとあって,文化史上の偉大な発明だったことがわかる.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.
 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1997. 199--205.

Referrer (Inside): [2012-02-07-1]

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2012-01-01 Sun

#979. 現代英語の綴字 <e> の役割 [spelling][graphemics][alphabet][ame_bre][orthography][final_e]

 明けましておめでとうございます.2012年(平成23年)辰年です.本年も hellog をよろしくお願いいたします.
 本年の初回記事は,綴字 <e> の役割について.<e> の役割としてよく知られているのは,"magic <e>" と呼ばれるものである.namebite などの語末の e は,それ自身は発音されないものの,先行する母音が長母音あるいは2重母音であることを示している.なぜこのような magic <e> の機能があるのか,どのような過程で <e> がこの機能を獲得したのかについてはいずれ取り上げたいが,今回は <e> のもっている様々な役割について考えてみたい.Crystal (259) および中尾 (112) を総合し,さらに10点目を付け加えた箇条書きを記す.

 (1) 当然のことだが,短母音 /ɛ/ あるいは長母音 /iː/ を表わすという基本的な表音機能をもっている (ex. set, me) .
 (2) これも英語のアルファベットの常だが,English, certain, ballet, serious などにおいては,<e> は (1) とは別の母音を表わしている.
 (3) 他の母音字と組み合わさって,様々な母音を表わす (ex. great, wear, ear; meet, beer; rein, believe; leopard, people; Europe; bureau)
 (4) 上記の magic <e> .「先行する母音」は,直接に先行する場合と (ex. die, doe) ,子音字が挿入されている場合 (ex. take, mete, side, rose, cube) がある.
 (5) <e> の有無によって先行する子音の音価が決定される (ex. bathe vs bath, breathe vs breath, teethe vs teeth [2011-03-30-1], [2009-05-15-1]; singe vs sing; vice vs Vic) .
 (6) 特に共時的な機能を示さず,単にかつての発音を示唆するだけという場合がある (ex. give, have, love, some) .
 (7) (特に英米)変種間の,綴字上の区別 (ex. judg(e)ment, ag(e)ing [2009-12-27-1], ax(e)) や,発音上の区別 (ex. clerk with AmE /ɛr/ or BrE /ɑː/ [2009-10-30-1]) を表わす.
 (8) 屈折語尾でないことを示す (ex. lapse vs laps, please vs pleas) .
 (9) 同綴異義語 (homograph) を避ける (ex. singeing vs singing, dyeing vs dying) .
 (10) 多義語の語義を区別する (ex. borne vs born [2011-12-19-1]; blonde vs blond [2010-09-13-1]) .

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
 ・ 中尾 俊夫,寺島 廸子 『図説英語史入門』 大修館書店,1988年,174頁.

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2011-12-18 Sun

#965. z の文字の発音 (2) [z][alphabet][ame_bre][alphabet][new_zealand_english][americanism]

 昨日の記事「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1]) の話題について,もう少し調べてみたので,その報告.
 アメリカ英語での zee としての発音について,Mencken (445) が次のように述べている.

The name of the last letter of the alphabet, which is always zed in England and Canada, is zee in the United States. Thornton shows that this Americanism arose in the Eighteenth Century.


 この記述だと,zee の発音はアメリカ英語独自の刷新ということになるが,昨日も触れたように,zee の発音は周辺的ではあったが近代英語期のイギリス英語にれっきとして存在していたのだから,誤った記述,少なくとも誤解を招く記述である.より正しくは,Cassidy and Hall (191) の記述を参考にすべきだろう.

Though zed is now the regular English form, z had also been pronounced zee from the seventeenth century in England. Both forms were taken to America, but evidently New Englanders favored zee. When, in his American Dictionary of the English Language (1828), Noah Webster wrote flatly, "It is pronounced zee," he was not merely flouting English preference for zed but accepting an American fait accompli. The split had already come about and continues today.


 昨日も記した通り,歴史的には z の発音の variation は英米いずれの変種にも存在したが,近代以降の歴史で,各変種の標準的な発音としてたまたま別の発音が選択された,ということである.アメリカ英語独自あるいはイギリス英語独自という言語項目は信じられているほど多くなく,むしろかつての variation の選択に際する相違とみるべき例が多いことに注意したい.
 なお,ニュージーランド英語では,近年,若年層を中心に,伝統的なイギリス発音 zed に代わって,アメリカ発音 zee が広がってきているという.Bailey (492) より引用しよう.

In data compiled in the 1980s, children younger than eleven offered zee as the name of the last letter of the alphabet while all those older than thirty responded with zed.


 ・ Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.
 ・ Cassidy Frederic G. and Joan Houston Hall. "Americanisms." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 184--252.
 ・ Bailey, Richard W. "American English Abroad." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 456--96.

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2011-12-18 Sun

#965. z の文字の発音 (2) [z][alphabet][ame_bre][alphabet][new_zealand_english][americanism]

 昨日の記事「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1]) の話題について,もう少し調べてみたので,その報告.
 アメリカ英語での zee としての発音について,Mencken (445) が次のように述べている.

The name of the last letter of the alphabet, which is always zed in England and Canada, is zee in the United States. Thornton shows that this Americanism arose in the Eighteenth Century.


 この記述だと,zee の発音はアメリカ英語独自の刷新ということになるが,昨日も触れたように,zee の発音は周辺的ではあったが近代英語期のイギリス英語にれっきとして存在していたのだから,誤った記述,少なくとも誤解を招く記述である.より正しくは,Cassidy and Hall (191) の記述を参考にすべきだろう.

Though zed is now the regular English form, z had also been pronounced zee from the seventeenth century in England. Both forms were taken to America, but evidently New Englanders favored zee. When, in his American Dictionary of the English Language (1828), Noah Webster wrote flatly, "It is pronounced zee," he was not merely flouting English preference for zed but accepting an American fait accompli. The split had already come about and continues today.


 昨日も記した通り,歴史的には z の発音の variation は英米いずれの変種にも存在したが,近代以降の歴史で,各変種の標準的な発音としてたまたま別の発音が選択された,ということである.アメリカ英語独自あるいはイギリス英語独自という言語項目は信じられているほど多くなく,むしろかつての variation の選択に際する相違とみるべき例が多いことに注意したい.
 なお,ニュージーランド英語では,近年,若年層を中心に,伝統的なイギリス発音 zed に代わって,アメリカ発音 zee が広がってきているという.Bailey (492) より引用しよう.

In data compiled in the 1980s, children younger than eleven offered zee as the name of the last letter of the alphabet while all those older than thirty responded with zed.


 ・ Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.
 ・ Cassidy Frederic G. and Joan Houston Hall. "Americanisms." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 184--252.
 ・ Bailey, Richard W. "American English Abroad." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 456--96.

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2011-12-17 Sat

#964. z の文字の発音 (1) [z][alphabet][ame_bre][spelling][alphabet]

 z に関しては,z の各記事で取り上げてきた.今回も,z の話題.
 z はアルファベット最後の文字だが,これには理由がある. z は,セム諸語やギリシア語(7番目の文字 ζ "zeta" として)では普通に用いられていた.しかし,ラテン語には必要とされなかったので,ローマ人は当初は取り入れていなかった.ところが,後にギリシア語の借用語を表記するのに用いられるようになったのがきっかけで,アルファベットの文字列の最後に加えられ,やがて市民権を得ることとなった (Crystal 2003) .現代では,z は言語によって様々な音価,様々な役割で用いられている.
 英語においては,-ize と -ise の対立がよく知られている.この対立は,大雑把にいって英米変種を区別するものとして知られているが([2010-02-26-1], [2010-03-07-1] の記事を参照),z にまつわるもう1つの重要な対立は,z 自身の文字としての発音に見られる.一般に,BrE では /zɛd/, AmE では /ziː/ と発音される.この違いは何によるものだろうか.
 OED によると,ノルマン征服以来,イギリスでは zed の発音が途切れることなく行なわれてきたと考えられる.17世紀前後には,†zad, †zard, izzard, ezod, uzzard などの異形も行なわれていた.このなかで,2音節形はギリシア語 ζ "zeta" の発達形に,ロマンス諸語で母音が語頭音添加 (prosthesis) されたものに由来する.
 ところが,優勢だった zed に対抗して,近代英語初期に音声学者が新しい発音を「発明」した.Alexander Gill の Logonomia Anglica (1619) では ez の発音が,Charles Butler の The English Grammar (1633) では ze の発音が提示されたのである.これは,y の文字の発音としてかつて yayi が提案されたのと同じように,アルファベットの他の文字の発音との平行性を実現するための,意図的な策,おそらくは教育的な配慮だったと考えられる.例えば,ze の発音により,zb, c, d, e, g, p, t, v のそれぞれの標準的な発音と脚韻を踏むことになる.
 このような流れで,zee の発音は zed と並んでイギリスでも部分的には行なわれるようになったようだが,後には衰退した.一方,2つの発音はアメリカへも持ち込まれ,後のアメリカでの選択は zee に軍配が上がった.z の発音にまつわる英米差は,多くの英語の英米差と同様,同じ選択肢のなかでの異なる選択に起因するものだとわかる.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2011-12-17 Sat

#964. z の文字の発音 (1) [z][alphabet][ame_bre][spelling][alphabet]

 z に関しては,z の各記事で取り上げてきた.今回も,z の話題.
 z はアルファベット最後の文字だが,これには理由がある. z は,セム諸語やギリシア語(7番目の文字 ζ "zeta" として)では普通に用いられていた.しかし,ラテン語には必要とされなかったので,ローマ人は当初は取り入れていなかった.ところが,後にギリシア語の借用語を表記するのに用いられるようになったのがきっかけで,アルファベットの文字列の最後に加えられ,やがて市民権を得ることとなった (Crystal 2003) .現代では,z は言語によって様々な音価,様々な役割で用いられている.
 英語においては,-ize と -ise の対立がよく知られている.この対立は,大雑把にいって英米変種を区別するものとして知られているが([2010-02-26-1], [2010-03-07-1] の記事を参照),z にまつわるもう1つの重要な対立は,z 自身の文字としての発音に見られる.一般に,BrE では /zɛd/, AmE では /ziː/ と発音される.この違いは何によるものだろうか.
 OED によると,ノルマン征服以来,イギリスでは zed の発音が途切れることなく行なわれてきたと考えられる.17世紀前後には,†zad, †zard, izzard, ezod, uzzard などの異形も行なわれていた.このなかで,2音節形はギリシア語 ζ "zeta" の発達形に,ロマンス諸語で母音が語頭音添加 (prosthesis) されたものに由来する.
 ところが,優勢だった zed に対抗して,近代英語初期に音声学者が新しい発音を「発明」した.Alexander Gill の Logonomia Anglica (1619) では ez の発音が,Charles Butler の The English Grammar (1633) では ze の発音が提示されたのである.これは,y の文字の発音としてかつて yayi が提案されたのと同じように,アルファベットの他の文字の発音との平行性を実現するための,意図的な策,おそらくは教育的な配慮だったと考えられる.例えば,ze の発音により,zb, c, d, e, g, p, t, v のそれぞれの標準的な発音と脚韻を踏むことになる.
 このような流れで,zee の発音は zed と並んでイギリスでも部分的には行なわれるようになったようだが,後には衰退した.一方,2つの発音はアメリカへも持ち込まれ,後のアメリカでの選択は zee に軍配が上がった.z の発音にまつわる英米差は,多くの英語の英米差と同様,同じ選択肢のなかでの異なる選択に起因するものだとわかる.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2011-09-14 Wed

#870. diacritical mark [punctuation][alphabet][grammatology][ipa][netspeak][diacritical_mark]

 書き言葉にローマ字を用いる諸言語のなかでも,英語の句読法の大きな特徴は,diacritical mark(発音区別符(号), 分音符号)をほとんど使用しないことである.よく知られているところでは,ドイツ語のウムラウト記号 (ex. ö, ü) ,フランス語のアクサン記号やセディーユ (ex. é, à, î, ç) ,スペイン語のティルダ (ñ),そして国際音標文字 (International Phonetic Alphabet; [2011-07-28-1]の記事「IPA の略史」を参照) があるが,英語には文字の周囲を飾る(ごちゃごちゃさせる)符号はほとんどない.これにより,英語はペンで書くにもキーボードでタイプするにも面倒がない.(自作の hel typist は,IPA に用いられるような diacritical mark をタイプする際の煩わしさを減じるためのツールである.)
 diacritical mark あるいは diacritic という術語は「分離的な,区別する」を意味する διακριτικóς に由来する.術語としての定義は,"[i]n alphabetic writing, a symbol that attaches to a letter so as to alter its value or provide some other information" (McArthur) である.
 現代英語では diacritical mark はほとんど使用されないと述べたが,かつては様々なものが存在したし,現代まで生きながらえたものも,わずかながら存在する.apostrophe, diaeresis, supraliteral dot の3つである.apostrophe ( ' )は,[2010-11-30-1]の記事「apostrophe」で触れたように,3種類の機能を担っている.isi's では発音の違いに関与していることに注意されたい.diaeresis ( ¨ ) は,ほとんど廃用となっているが,naïve, coöperate, zoölogy などの古風な綴字に見られ,連続する母音字が別々の母音として読まれることを示す.
 supraliteral dot ( ˙ ) は ij の上の点である.この点は文字の一部として組み込まれているので diacritical mark として意識されることはないだろうし,そのように呼ぶことが適切かどうかという問題もあるが,起源としては確かに別の文字と「区別する」符号だった.本来は i にも,そこから派生した j にも supraliteral dot は付されていなかったが,minim と呼ばれる縦棒1本きりで構成される文字は周囲の文字の縦棒のなかに埋没されやすかったので,点を付けることで独立した文字であることを明示したのである(関連して,[2009-07-27-1]の記事「なぜ一人称単数代名詞 I は大文字で書くか」を参照).ラテン語においても i の supraliteral dot は12世紀の新機軸であり,決してローマ字発生の当時から付されていたわけではない.ローマ字の i と対照的に,ギリシア文字の ι (iota) は点なしの原形をとどめていることに注意.なお,ij の文字としての分化は15世紀スペイン語における革新で,後に諸言語にも広がったものである(関連して,uv の文字の分化については[2010-05-05-1], [2010-05-06-1]の記事を参照).
 そのほか借用語の caféSchprachgefühl などにおいて,借用元言語の diacritical mark が保持されている例はあるが,これは英語の文字体系に同化しているとはみなせないだろう.
 [2011-09-04-1]の記事「現代英語の変化と変異の一覧」で挙げたが,現代英語の書き言葉の傾向として,句読点の使用が控えめになってきているという流れがある.diaeresis の不使用はもとより,apostrophe の省略も手書きでは頻繁であり,Netspeak などでも普通になってきている.当面,正書法としては保持されてゆくと思われるが,規範意識が変化してゆけば,それすらも確実ではないかもしれない.supraliteral dot に関しては,手書きでは脱落が日常茶飯事だが(特に筆記体を書いていると点を打ち忘れたり,別の文字の上に点を打ってしまうなどが多い),タイプでは点が最初から埋め込まれており脱落の可能性がないので,他の diacritical mark とは一線を画し,堅持されてゆくだろう.
 本記事の話題については,Potter (38fn) に以下のような記述があったので参考にした.

The apostrophe (now much diminished in use), the diaeresis (now obsolescent) and the supraliteral dot (over i and j) are, most fortunately, our only diacritics. The latter is a nuisance. How many writers place their dots precisely where they should be placed? In writing Greek you dot no iotas. No Latin manuscripts have supraliteral dots before the twelfth century when, for the first time, they were used to distinguish i more clearly since it was liable, especially in cursive script, to be taken as one of the strokes of an adjacent letter. An undotted j had begun as a mere final tailed i in Classical Latin in numerals like vıȷ and in words like fılıȷ 'of the son'. The letters i and j were first taken as two separate symbols in fifteenth-century Spanish. They did not become separate letters in English until the seventeeth [sic] century.


 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ Potter, Simon. Changing English. London: Deutsch, 1969.

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2011-08-25 Thu

#850. 書き言葉の発生と論理的思考の関係 [writing][medium][alphabet][grammatology][buddhism][literacy]

 昨日の記事「話し言葉書き言葉 (2)」 ([2011-08-24-1]) の項目 (3) で,典型的にいって,書き言葉は話し言葉より分析的で論理的であると説明した.日本語であれ英語であれ標準的な書き言葉を身につけている者にとって,これは常識的に受け入れられるだろう.書き言葉のほうが正しく権威があるという文字文明のにおける直感は,論理的な思考を体現するとされる書籍,新聞,論文,契約書,法文書などへの信頼によっても表わされている.
 文字の発明が人間の思考様式を変えたというのは結果としては事実だが,その因果関係,特に書き言葉の発展と論理的思考の発展の因果関係がどのくらい直接的であるかについては熱い議論が戦わされている.Kramsch (40--41) から引用する.

. . . as has been hotly debated in recent years, the cognitive skills associated with literacy are not intrinsic to the technology of writing. Although the written medium does have its own physical parameters, there is nothing in alphabet and script that would make them more suited, say, for logical and analytic thinking than the spoken medium. To understand why literacy has become associated with logic and analysis, one needs to understand the historical association of the invention of the Greek alphabet with Plato's philosophy, and the influence of Plato's dichotomy between ideas and language on the whole of Western thought. It is cultural and historical contingency, not technology per se, that determines the way we think, but technology serves to enhance and give power to one way of thinking over another. Technology is always linked to power, as power is linked to dominant cultures.


 確かに,書き言葉のおかげで論理的思考が可能になったというのは全面的に間違いだとはいわないが,直接の因果関係を示すものではなさそうだ.書き言葉と論理的思考は互いに相性がよいことは確かだろうが,一方が必然的に他方を生み出したという関係にはないように思われる.両者のあいだに歴史的偶然のステップが何段階か入ってくる.引用にあるギリシア・アルファベットとプラトンの例で考えると,以下のようなステップが想定される.

 (1) 紀元前1000年頃,ギリシア語に書き言葉(アルファベット)が伝えられた ([2010-06-24-1])
 (2) 論理を重視するプラトン (427?--347?BC) の哲学がギリシアに現われた
 (3) こうして偶然にギリシアで書き言葉と論理性が結びついた
 (4) 両者は一旦結びつきさえすれば相性はよいので,その後はあたかも必然的な関係であるかのように見えるようになった

 人類にとっての文字の発明 ([2009-06-08-1]) や,ある文化への書き言葉の導入は,歴史上常に革命的であると評価されてきた.例えば,[2010-02-17-1]の記事「外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」で取り上げたように,英語へはキリスト教伝来を背景にラテン語経由でローマン・アルファベットが,日本語へは仏教伝来を背景に中国語経由で漢字がそれぞれ導入され,両言語のその後の知的発展を方向づけた.しかし,文字の導入という技術移転そのものがその後の知的発展の直接の推進力だったわけではなく,アルファベットや漢字という文字が体現していた先行の知的文明を学び取ったことが直接の原動力だったはずである.文字はあくまで(しかし非常に強力な)媒体であり手段だったということだろう.「文字の導入はその後の知的発展にとって革命的だった」という謂いは,比喩として捉えておくのがよいのかもしれない.
 このように考えると,昨日の記事の対立項 (3) の内容は,あくまで傾向を示すものであり,特定の時代や文化に依存する相対的なものであると考えるべきなのだろうか.

 ・ Kramsch, Clair. Language and Culture. Oxford: OUP, 1998.

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2011-07-23 Sat

#817. Netspeak における省略表現 [writing][netspeak][grammatology][alphabet]

 私は英語でも日本語でも Netspeak を常用してはいないが,インターネットという技術革新に伴う言語の新変種の誕生と発展には関心がある.[2011-07-01-1]の記事「インターネット時代は言語変化の回転率の最も速い時代」で論じたように,人類の言語変化の歴史は,今まさに新たな段階に入ったところである.Netspeak は現時点でその最先端を走っている変種であり,英語においても日々独自の表現が増殖している.
 チャット,電子メール,そしてとりわけケータイメール (texting) の書き言葉に見られる特徴として,各種の省略記法がある.多くは,句を構成する各単語の頭文字をつなぎ合わせる頭文字語 (initialism) であったり,"2" や "4" をそれぞれ "to" や "for" に対応させるような判じ絵 (rebus) であったりする.ここには遊び心も入っているだろうが,何よりもケータイのキーパッド上で打数を減らせるという実用的な効果がある.Crystal (142--43) より,主要なものを記事の末尾に挙げた.
 initialism 自体は英語では新しいことではないし,rebus もクイズでお馴染みだ.このような省略を広範に用いる英語の書き言葉変種が現われたということも,特に新しいことではない.例えば中世の写本も各種の省略符合に満ちている.省略の動機づけも,Netspeak と中世の写本の書き言葉のあいだに共通点がある.いずれも入力にかかる労力を減らしたいという欲求は同じであり,コスト削減(ネット上ではパケット料金,写本では高価な紙代)という動機づけも共通する.つまり,具体的な現われこそ省略符号か initialism かで互いに異なるが,動機づけは類似しており,書き言葉の歴史のなかで繰り返し例証されているものである.
 そもそも書き言葉は,表意文字を rebus 的に応用したり,ギリシア文字より前の alphabet では対応する話し言葉に当然含まれていた母音を標示しなかったりと,読み手にある程度の解読作業を要求するものとして出発し,発展してきた([2010-06-23-1]の記事「文字の種類」を参照).Netspeak の書き言葉の変種は,一見革新的に見えるが,文字の当初からの性質を多分に受け継いでいるという点で,意外と保守的と言えるのではないか.

abbreviationoriginal phrase
afaikas far as I know
afkaway from keyboard
asapas soon as possible
a/s/lage/sex/location
atwat the weekend
bbfnbye bye for now
bblbe back later
bcnube seeing you
b4before
bgbig grin
brbbe right back
btwby the way
cmcall me
cusee you
cul8rsee you later
cyasee you
dkdon't know
eodend of discussion
f?friends?
f2fface-to-face
fotclfalling off the chair laughing
fwiwfor what it's worth
fyafor your amusement
fyifor your information
ggrin
galget a life
gd&rgrinning ducking and running
gmtagreat minds think alike
gr8great
gsohgood sense of humour
hhokhaha only kidding
hthhope this helps
icwumI see what you mean
idkI don't know
iircif I remember correctly
imhoin my humble opinion
imiI mean it
imoin my opinion
iouI owe you
iowin other words
iriin real life
jamjust a minute
j4fjust for fun
jkjust kidding
kckeep cool
khufknow how you feel
l8rlater
lollaughing out loud
m8mate
ncno comment
npno problem
oicoh I see
otohon the other hand
pmjipardon my jumping in
ptmmplease tell me more
riprest in peace
rotflrolling on the floor laughing
ruokare you OK?
scstay cool
sosignificant other
solsooner or later
t+think positive
ta4nthat's all for now
thxthanks
tiathanks in advance
ttfnta-ta for now
ttttto tell the truth
t2ultalk to you later
ttyttto tell you the truth
tuvmthank you very much
txthanks
tyvmthank you very much
wadrwith all due respect
wbwelcome back
w4uwaiting for you
wrtwith respect to
wuwhat's up?
X!typical woman
Y!typical man
yiuyes I understand


 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

Referrer (Inside): [2016-12-15-1]

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2011-07-05 Tue

#799. 海賊複数の <z> [plural][netspeak][suffix][corpus][z][alphabet]

 複数形ウォッチャーとして,気になる複数接尾辞がある.発音は -s の場合と同様だが,綴字が <z> となる「z 複数」である.Crystal (137) が以下のように指摘していた.

New spelling conventions have emerged, such as the replacement of plural -s by -z to refer to pirated versions of software, as in warez, tunez, gamez, serialz, pornz, downloadz, and filez. (137)


 それぞれ発音の差異を伴わない完全に綴字上の異形態だが,いかがわしい効果は抜群である.このいかがわしさが何に由来するのかといえば,<z> の文字自体のもつ異様さだろう.[2010-07-17-1]の記事「しぶとく生き残ってきた <z>」で取りあげたように,<z> はきわめて影の薄い文字だが,<s> の明らかに期待されるところで <z> が前景化されるとやけに目立つ.
 しかし,「海賊複数」 ( plural of piracy ) とでも呼びたくなるこの <z> 接尾辞(字)の使用は,現在では NetSpeak での隠語としての使用に限定されているようだ.COCA ( Corpus of Contemporary American English ) の検索によると,warez で4例がヒットした( warez 以外の上掲の語はヒットなし).以下はそのうちの1例で,2004年の Houston Chronicle からの記事である.

CW Shredder - www.spyware info.com/merijn/ Developed by the same author as Hijack This!, CW Shredder removes a very common piece of spyware known as the Coolwebsearch Trojan. It takes advantage of a flaw in a key component of Windows - Microsoft's version of the Java Virtual Machine - to install itself via pop-ups often found on porn and illegal software (a.k.a. "warez") sites.


 他に BNCweb で "*z_NN2" として検索してみると,BOYZ が多数ヒットした.ただし,これはアメリカの人気グループ Boyz II Men やアメリカ英語 Boyz n the Hood への言及によるもので,海賊複数とは趣が異なる.とはいえ,固有名や商品名(の宣伝)に非標準的な綴字を用いることは商業広告では広く見られる現象であり(例えば Heinz 社の "Heinz Buildz Kidz" ),目立たせる効果を狙っている点では共通性が感じられる.
 ちなみに,Kirg(h)iz 「キルギス人」がヒットしたが,これはロシア語の綴字に準じたもので単複同形であるにすぎない(異形として Kirg(h)izes もあり).

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

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2010-12-23 Thu

#605. Shavian Alphabet [shaw][alphabet][spelling_reform]

 [2010-12-20-1]の記事で19世紀以降の綴字改革運動の類型を見たが,もっとも急進的な改革案の1つに,有名な Shavian Alphabet がある.作家にして綴字改革論者でもあった George Bernard Shaw (1856-1950) の遺言で1958年に開催された綴字改革コンテストにおいて,467人の候補者のなかから勝ち上がった Kingsley Read が発明したアルファベットである.母音字と子音字の区別が明確になされ,音素の声の対立が字形に反映されているなど非常に体系的だが,現行のローマ字からは字形も音化も予想できない.基本48字よりなるが,and, of, the, to に対応する省略文字などが追加される.Shaw の劇作品 Androcles and the Lion がこのアルファベットで出版されているが,現行アルファベット使用の3分の2ほどのスペースで印刷が可能だというから省スペース設計だ.
 Shavian translator のページで,"This blog is concerned with anything about the history of the English language" という文を Shavian Alphabet 化してみると,次のようになる.確かに短いように思われる.

Shavian Alphabet --- Translation

 綴字改革運動つながりとしては,Shaw は Isaac Pitman (1813-1897) の1837年に発明した表音式速記法を20歳代半ばに習得し,終生利用していた.Pitman は速記法から派生したアルファベット Phonotypy をも発明している.Phonotypy にせよ Shavian Alphabet にせよ,これらの新アルファベットは綴字改革に異常な関心を示した少数の酔狂な人々による発明であり,一般にはまるで受け入れられなかった.ほとんどの英語の綴字改革は,このように一部の人々の熱狂で終わってしまうのが歴史的事実である.それにもかかわらず,現在でも複数の活動が続けられている.この状況を冷ややかに傍観していることもできるかもしれないが,文明にとって文字が所与のものではなく,守るべき貴重なものであること,常に議論し続けるべき真剣な話題であることを,英語綴字改革の歴史は物語っているように思われる.
 Shavian Alphabet については以下のサイトを参照.

 ・ 世界の文字サイト Omniglot から Shavian Alphabet
 ・ Shavian alphabet - Wikipedia

Referrer (Inside): [2010-12-24-1]

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2010-12-02 Thu

#584. long <s> と graphemics [alphabet][graphemics][swift]

 昨日の記事[2010-12-01-1]で,Swift の A Proposal for Correcting, Improving and Ascertaining the English Tongue (1712) に触れた(←クリックで Google Books からの本文画像を閲覧可能).本文を眺めていて,名詞の大文字使用の他にすぐに気づくのは,小文字の long <s> の使用だろう.<f> の字形に似ているが,横線が右側にまではみだしていない.long <s> は語頭や語中に使われたのに対して,通常の <s> は語末に使われた.現代の目には読みにくいが,印刷では18世紀の終わりまで,手書きでは1850年代まで使われていたから,それほど昔の話ではない (Walker 7) .
 なぜ同じ文字なのに複数の字形があったのかといぶかしく思わないでもないが,大文字と小文字,ブロック体と筆記体,<a> や <g> の書き方の個人差などを考えると,文字には variation がつきものである.かつては,ほとんどランダムに交換可能だった <þ> "thorn" と <ð> "eth" の2種類の文字があったし,<r> を表わす字形にも現代風の <r> と数字の <2> に近い形のものがあった.<u> と <v> も[2010-05-05-1], [2010-05-06-1]の記事で見たように,明確に分化するのは17世紀以降である.概念としての1つの文字に複数の字形が対応している状況は,1つの音素 ( phoneme ) に複数の異音 ( allophone ) が対応している状況と比較される.ここから音韻論 ( phonology ) と平行する書記素論 ( graphemics ) という分野を考えることができる.書記素論では,音素に対応するものを書記素 ( grapheme ) と呼び,異音に対応すものを異綴り ( allograph ) と呼ぶ.この用語でいえば,問題の long <s> は,書記素 <s> の具体的な現われである異綴りの1つとみなすことができる.

 ・ Walker, Julian. Evolving English Explored. London: The British Library, 2010.
 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 262

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