英語の世界において <x> という文字は,魅力的かつ不思議な文字です.今回の hellog ラジオ版は,このちょっと素性の怪しい文字 <x> に注目したいと思います.
英語アルファベット26文字の1つとして大事な文字ではありますが,皆さんも薄々感じている通り,どうにもちょっと信用できない,日陰者的な文字ですよね.<x> からこのように独特な雰囲気が醸し出されているのは,なぜなのでしょうか.本当はこれだけで90分話したいところですが,短く収めてみました(とはいえ,10分近くの長尺).
いかがでしょうか.<x> は,決してもともとの英語と調和しないわけではないのですが,概していえば外来語との親和性が高いといえます.その性格が現代まで受け継がれ,<x> という文字は,半ば先進的で半ば胡散臭い雰囲気を醸しているのです.多くの人々が <x> に関心を寄せるのは,この何ともいえない得体のしれなさゆえだろうと思います.
変革の時代には,「得体のしれなさ」はポジティヴなキャッチフレーズです.これを機に,改めて <x> について考えてみませんか?
<x> について関心をもった方は,ぜひ##2280,3654,2918,4219の記事セットをご一読ください.また,昨日の記事「#4219. なぜ DX が digital transformation の略記となるのか?」 ([2020-11-14-1]) もどうぞ.
hellog ラジオ版の第23回は,しばしば寄せられる <w> の文字の呼称に関する疑問です.英語ではこの文字は "double-u "と呼ばれますが,フランス語などを学んだことがある方は,"double-v" と呼ばれているのを知っているかと思います.見た目は確かに v が2つですね.では,英語ではなぜ u が2つという呼び方をするのでしょうか.背景には,なかなか興味深い歴史があります.
英語がラテン語からローマ字一式を借りたときに,そのなかに <w> の文字がなかったのが,そもそもの出発点です./w/ 音を多用する英語は,相当する文字がなくては不便で仕方がないので,自ら文字を考案することにしました.ローマ字一式には <u> はあった(ただし <v> はなかった)ので,それを2つ合わせて <uu> とすることで,この難局を乗り切ろうとしました.一方,英語は以前より使っていたルーン文字から /w/ 音を表わす <ƿ> (wynn) を流用する慣習も発達させ,先に考案した <uu> はあまり使われなくなりました.
ところが,英語で不使用となった <uu> は,お隣のフランスに渡り,そこで「亡命」生活をして生き延びることとなりました.その後11世紀頃に,亡命していた <uu> は再び英語に舞い戻る機会を得て,<ƿ> を置き換えることになりました.こうして英語で "double-u" の <uu>,転じて <w> が定着することになりました.
ちなみに,亡命先のフランスでは <u> から派生した(<u> の先を尖らせた) <v> の文字も早くから使われており,例の文字を "double-v" の <vv> と解釈したのです.
この疑問のキモは,<u>, <v>, <w> (そして実は <f> も!)の文字が,歴史的にはすべて近親関係にあるという点です.関心のある方は,ぜひ##2411,373,374,3391,3927,1825の記事セットをじっくりお読みください.
hellog ラジオ版の第8回目として,英語(史)の専門家にも意外と知られていない事実を紹介します.前回の第7回 ([2020-07-15-1]) でも実は少し触れたのですが,今回は詳しく取り上げます.
現在,世界の約20億人によって話されるともいわれる lingua franca たる英語.現代における威信が注目されるあまり,その最古の姿がいかなるものだったかについては関心をもたれません.しかし,調べてみるとメチャクチャおもしろいのです.英語の現存する最古の証拠の1つに "Undley bracteate" があります.これは1982年に Suffolk の Undley で発見された直径2.3cmの金のメダルに付けられた名前で,年代は紀元450--80年のものとされます.メダルの円周に沿って,ルーン文字で反時計回りに,つまり「右から左に」書かれています.まさにロマンを掻きたてるメダルです.
実におもしろいでしょう."gægogæ mægæ medu" とは何なのか? 呪文? 祈祷? 無味乾燥な散文? 今を時めく英語という言語が,いわば少数民族の言語だった最初期の時代の証拠です.
関連する記事を挙げておきましょう.ぜひ##572,1435,1453の記事セットをじっくりご覧ください.
hellog ラジオ版の第3弾.英語を学んでいる多くの大学生からも質問自体がなるほどと思った,というコメントが寄せられた興味深い素朴な疑問です.私たちは <qu> のスペリングには読むときにも書くときにも頻繁に触れているわけですが,あまりに慣れすぎているために,<q> の後にはほぼ必ず <u> が続くというこの事実に,意識的に気づいたことがあまりなかったのだろうと思います.
6分間の音声にまとめました.以下からどうぞ.
今回は /kw/ という子音連鎖を表わすのにどのようなスペリングをもってするかという話題でしたが,/k/ という1つの子音を表わすにも,英語には <q(u)> だけでなく <c> もあれば <k> もあり,意外とややこしいことになっています.この発展的な問題も含め,今回の内容を文章でじっくり読みたいという方は,ぜひ##3649,1599,2249,2367,1824の記事セットをご覧ください.
今回の疑問のように,当たり前すぎて見過ごしてきた事実は意外に多いものです.このような疑問を発掘するのも,楽しい知的作業です.
昨日の記事「#4074. 「素朴な疑問」にひたすら音声で答える英語史の講義を行ないました」 ([2020-06-22-1]) で予告したように,恥を晒して「hellog ラジオ版」をオープンします.
初回となる今回は「なぜ大文字と小文字があるのですか?」という疑問に答えます.2分20秒ほどの音声 (mp3) によるお手軽な話題です.以下よりどうぞ.
皿洗いをしながらでも気軽に聴けるようなコンテンツかと思います.とはいっても,完全な聞き流しをするには濃密なコンテンツかもしれません.深く知りたいと思ったら,やはり文字情報がベストです.じっくりと文章で読みたい方は,hellog より##1309,3668の記事セットをご覧ください.
今後たまに発信していく予定の「hellog ラジオ版」では,新しい話題を提示するというよりも,すでに hellog 本体で扱ってきた話題へと誘う「入り口」を提供することを意識していきます.各メディアの特性を活かして,皆さんの英語史への好奇心を掻き立てることができればと思います.
本年度より英語の教員となったゼミの卒業生から,標記の素朴な疑問をもらっていました.中学1年生にアルファベットの書き方を教えるに当たって,第1文字から早速ハテナが飛ぶ敏感な生徒もいるのではないか,という問題意識からだと思います.私も深く考えたことはありませんでしたが,以下のような書き方練習のドリルを見てみると,確かに,とうなずける問いです.上段が(印刷用の)活字体,下段が(手書き用の)ブロック体です.
小文字 <a> の字形について,活字体では上部に左向きの閉じていない半ループがみえる <<a>> ("open a") が,ブロック体では円の形に近い <<ɑ>> ("closed a") がそれぞれ用いられます.
ついでにいえば,右端にみえる小文字 <g> についても2つの異なる字形が確認されます.活字体では下のループが閉じた <<g>> ("closed g") となり,ブロック体では下のループの開いている <<ɡ>> ("open g") となります.
他の24文字の小文字については活字体とブロック体の字形にさほど大きな違いはありませんが,この <a> と <g> に関しては看過できない差がみられます.なぜこの2文字には妙な差異が観察されるのでしょうか.
端的に答えれば,それはもととなった書体が異なるからです.活字体の <<a>> は,Roman uncial と呼ばれる書体に端を発し,8世紀のシャルルマーニュの教育改革に際して生み出された Carolingian minuscule と呼ばれる書体を経由して現代に受け継がれた字体です.一方,ブロック体の <<ɑ>> は italic と呼ばれる,中世から近代にかけて生じた別の書体における字形に由来します.
では,活字体はすべて Carolingian minuscule の流れを,ブロック体はすべて italic の流れを汲んでいるかといえば,そうでもありません.<g> についていえば,今度は活字体の <<g>> のほうがむしろ italic の系列に連なり,ブロック体の <<ɡ>> のほうが Carolingian minuscule の字形に近いのです.
活字体,ブロック体,筆記体やコンピュータ上のフォントなど,現代のアルファベットには様々な書体があります.それぞれの書体のたどってきた歴史は非常に複雑で,複数の書体が混じったものや,複数の書体の中間的なものなど,その系譜をまとめようとするとなかなか家系図のように綺麗にはいきません.本格的に作図しようとすれば,ある文字の字形はこっちから,別の文字の字形はあっちから,というような複雑なネットワーク図になるでしょう.活字体やブロック体についても,全体としておおまかな系統はたどれるにせよ,英語アルファベットを構成する26文字の個々の字形については,ときに個別に系統を探る必要が生じるのです.
上記は「#3668. なぜ大文字と小文字の字形で異なるものがあるのですか?」 ([2019-05-13-1]) で展開した議論とほとんど同じです.大文字と小文字で字形の異なる文字がいくつかありますが,これももととなった書体の差異に由来します.歴史的にみれば <<A>>, <<a>> , <<ɑ>> は3つの異なる書体に由来し,<<G>>, <<g>>, <<ɡ>> も同様に3つの異なる書体に由来するということになります(特に <g> のたどった歴史は複雑です.g の記事を参照).
漢字に喩えると分かりやすいでしょうか.「令和」の最初の文字「令」は,楷書体などの主として活字用の書体では最終画が真下に伸びますが,国語の授業で習う手書き用の書体では最終画は斜めとなり,片仮名の「マ」のようになります.属する書体が異なり,辿ってきた歴史が異なるからこそ,字形が多少なりとも異なっているということです.
だとすれば,当初の発問を逆転させて,「なぜ他の24文字については活字体とブロック体の字形が似ているのか」と問い直すほうが,もしかしたらベターなのかもしれません.漢字などに比べればローマ字は単純な幾何学的な字形を示すため,歴史上数々の書体が生み出されてきた過程において字形に何らかの「ひねり」や「変形」が加えられたとしても,認識できないほど異なる字形に変化してしまうことは少なかったのでしょう.異なる書体でも結果としておよそ似ている文字が多いのは,このような事情があったためではないでしょうか.
関連して次の記事もご参照ください.
・ 「#1309. 大文字と小文字」 ([2012-11-26-1])
・ 「#3714. 活字体(ブロック体)と筆記体」 ([2019-06-28-1])
・ 「#3674. Harris のカリグラフィ本の目次」 ([2019-05-19-1])
・ 「#1824. <C> と <G> の分化」 ([2014-04-25-1])
・ 「#1914. <g> の仲間たち」 ([2014-07-24-1])
・ 「#2498. yogh の文字」 ([2016-02-28-1])
本ブログでは,英語のアルファベット (alphabet) に関する記事を多く書きためてきました.今年度はようやく年度が始まっているという学校が多いはずですので,先生方も児童・生徒たちに英語のアルファベットを教え始めている頃かと思います.算数のかけ算九九と同じで,アルファベットの学習も基礎の基礎としてドリルのように練習させるのが普通かと思います.しかし,先生方には,ぜひとも英語アルファベットの成立や発展について背景知識をもっておいてもらえればと思います.その知識を直接子供たちに教えはせずとも,1文字1文字に歴史的な深みがあることを知っているだけで,教えるに当たって気持ちの余裕が得られるのではないでしょうか.以下に,そのための記事セットをまとめました.
・ 「英語の先生がこれだけ知っておくと安心というアルファベット関連の話し」の記事セット
この記事セットは,実際には何年も英語を学び続けてきた上級者に対しても十分に楽しめる読み物となっていると思います.アルファベットに関するネタ集としてもどうぞ.
昨日の記事「#4009. 英語史の始まりはいつか? --- 449年説」 ([2020-04-18-1]) に引き続き,英語史の開始時期を巡る議論.今回は,実はあまり聞いたことのなかった(約)600年説について考えてみたい
597年に St. Augustine がキリスト教宣教のために教皇 Gregory I によってローマから Kent 王国へ派遣されたことは英国史上名高いが,この出来事がアングロサクソンの社会と文化を一変させたということは,象徴的な意味でよく分かる.社会と文化のみならず英語という言語にもその影響が及んだことは「#3102. 「キリスト教伝来と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-24-1]),「#3845. 講座「英語の歴史と語源」の第5回「キリスト教の伝来」を終えました」 ([2019-11-06-1]),「#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」 ([2010-02-17-1]) でたびたび注目してきた.確かに英語史上きわめて重大な事件が600年前後に起こったとはいえるだろう.Mengden の議論に耳を傾けてみよう.
. . . because the conversion is the first major change in the society and culture of the Anglo-Saxons that is not shared by the related tribes on the Continent, it is similarly significant for (the beginning of) an independent linguistic history of English as the settlement in Britain. Moreover, the immediate impact of the conversion on the language of the Anglo-Saxons is much more obvious than that of the migration: first, the Latin influence on English grows in intensity and, perhaps more crucially, enters new domains of social life; second, a new writing system, the Latin alphabet, is introduced, and third, a new medium of (linguistic) communication comes to be used --- the book.
600年説の要点は3つある.1つめは,主に語彙借用のことを述べているものと思われるが,ラテン語からキリスト教や学問を中心とした文明を体現する分野の借用語が流れ込んだこと.2つめはローマン・アルファベットの導入.3つめは本というメディアがもたらされたこと.
いずれも英語に直接・間接の影響を及ぼした重要なポイントであり,しかも各々の効果が非常に見えやすいというメリットもある.
・ Mengden, Ferdinand von. "Periods: Old English." Chapter 2 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 19--32.
私たちは,非表音文字を含む日本語の書記において続け書き (scriptura continua) がなされるのに慣れており,特に問題を感じていない.しかし,最たる表音文字であるアルファベットを用いる言語圏で,もし続け書きがなされていたらと想像すると,頭が痛くなる.実際には,連日の記事で取り上げてきたように,それが古典ギリシア語や古典ラテン語では常態だったのではあるが (cf. 「#3929. なぜギリシアとローマは続け書きを採用したか? (1)」 ([2020-01-29-1]),「#3930. なぜギリシアとローマは続け書きを採用したか? (2)」 ([2020-01-30-1]),「#3931. 語順の固定化と分かち書き」 ([2020-01-31-1])) .
現代人の感覚からすると,アルファベットの分かち書き (distinctiones) という発明は当たり前すぎて,疑ったこともない.分かち書きがなかったらどうなるのだろうかと想像することすらしない.しかし,よくよく考えてみると,分かち書きにより語の区切りが明確に分かるというのは実にありがたいことである.続け書きでは,読み手がいちいち語の区切りを判断しなければならない.字面が連綿と続くページのなかで,ある語を検索しようとするとき,分かち書きと続け書きでは,検索スピードが天と地ほど異なるだろう.分かち書きは,語の検索という作業に革命的な能率をもたらすのだ.
さらに,語の検索を主たるサービスとして提供する辞書 (dictionary) や語彙集 (glossary) や各種の索引を考えてみよう.現代の辞書では,語彙項目がアルファベット順などの決められた順序で,行頭に見出しとして立てられているからこそ検索しやすいのであって,もし延々と連なる続け書きされた文字列のなかから目的の語彙項目の見出しを探さなければならないとしたら,そもそも検索サービスの用を足していないとみなされるだろう.辞書や索引は分かち書きが前提とされているのである.このことは当たり前すぎて気づきすらしなかったことだ.
このような点に注意を向けさせてくれたのは,Saenger (90) の指摘である.古代的な続け書きが解消され,中世的な分かち書きが発達してきて初めて,用が足りる辞書的なものが現われたのだという.同様に,アルファベット順に並べるという実践も,本質的には中世以降に出現した発想といっていいだろう.
It is difficult to imagine an alphabetical dictionary functioning as a reference tool when written in scriptura continua, even after the codex had supplanted the scroll. For the Greeks and Romans, alphabetical order was chiefly an aid to grammarians in assembling collections of grammatical definitions, such as that of Pompeius Festus, and as a mnemonic tool for relatively short lists of names. The alphabetical principle was never used to facilitate rapid consultation, as in modern indexes.
分かち書き,アルファベット順,辞書編纂というのは,すべて関わりがあるということだ.関連して,「#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1)」 ([2010-12-21-1]),「#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2)」 ([2010-12-22-1]),「#1451. 英語史上初のコンコーダンスと完全アルファベット主義」 ([2013-04-17-1]),「#2930. 以呂波引きの元祖『色葉字類抄』」 ([2017-05-05-1]),「#3365. 以呂波引きの元祖『色葉字類抄』 (2)」 ([2018-07-14-1]) も参照.
・ Saenger, P. Space Between Words: The Origins of Silent Reading. Stanford, CA: Stanford UP, 1997.
昨日の記事 ([2020-01-29-1]) に引き続き,なぜギリシアとローマが,それ以前の地中海世界で普通に行なわれていた分かち書き (distinctiones) を捨て,代わりに続け書き (scriptura continua) を作用したかという問題について.
Saenger によれば,この問題に迫るには,読むという行為に対する現代的な発想を脇に置き,古代の読書習慣とその社会的文脈を理解する必要があるという.端的にいえば,現代人はみな黙読や速読に慣れており,何よりも「読みやすさ」を重視するが,古代ギリシアやローマの限られた人口の読み手にとって,読む行為とは口頭の音読のことであり,現代的な「読みやすさ」を追求する姿勢はなかったのだという.以下,Saenger の解説を聞いてみよう (11--12) .
. . . the ancient world did not possess the desire, characteristic of the modern age, to make reading easier and swifter because the advantages that modern readers perceive as accruing from ease of reading were seldom viewed as advantages by the ancients. These include the effective retrieval of information in reference consultation, the ability to read with minimum difficulty a great many technical logical, and scientific texts, and the greater diffusion of literacy throughout all social strata of the population. We know that the reading habits of the ancient world, which were profoundly oral and rhetorical by physiological necessity as well as by taste, were focused on a limited and intensely scrutinized canon of literature. Because those who read relished the mellifluous metrical and accentual patterns of pronounced text and were not interested in the swift intrusive consultation of books, the absence of interword space in Greek and Latin was not perceived to be an impediment to effective reading, as it would be to the modern reader, who strives to read swiftly. Moreover, oralization, which the ancients savored aesthetically, provided mnemonic compensation (through enhanced short-term aural recall) for the difficulty in gaining access to the meaning of unseparated text. Long-term memory of texts frequently read aloud also compensated for the inherent graphic and grammatical ambiguities of the languages of late antiquity.
Finally, the notion that the greater portion of the population should be autonomous and self-motivated readers was entirely foreign to the elitist literate mentality of the ancient world. For the literate, the reaction to the difficulties of lexical access arising from scriptura continua did not spark the desire to make script easier to decipher, but resulted instead in the delegation of much of the labor of reading and writing to skilled slaves, who acted as professional readers and scribes. It is in the context of a society with an abundant supply of cheap, intellectually skilled labor that ancient attitudes toward reading must be comprehended and the ready and pervasive acceptance of the suppression of word separation throughout the Roman Empire understood.
引用の最後に示唆されているように,古代人は続け書きにシフトすることで,読みにくさをあえて高めようとした,という言い方さえできるのかもしれない.この観点は,中世後期に再び分かち書きへと回帰していく過程を理解する上でも示唆的である.関連して「#1903. 分かち書きの歴史」 ([2014-07-13-1]) も参照.
・ Saenger, P. Space Between Words: The Origins of Silent Reading. Stanford, CA: Stanford UP, 1997.
アルファベットの分かち書き (distinctiones) と続け書き (scriptura continua) の問題については,最近では「#3926. 分かち書き,表語性,黙読習慣」 ([2020-01-26-1]) で,それ以前にも distinctiones の各記事で取り上げてきた.
Saenger (9) によると,アルファベットに母音表記の慣習が持ち込まれる以前の地中海世界では,スペースによるか点によるかの違いこそあれ,分かち書きが普通に行なわれていた.ところが,ギリシア語において母音表記が可能となるに及び,続け書きが生まれたという.これを時系列で整理すると次のようになる.
まず,アルファベット使用の初期から分かち書きは普通にあった.ところが,ギリシア・ローマ時代にそれが廃用となり,代わって続け書きが一般化した.ローマ帝国が崩壊し,中世後期の8世紀頃になると分かち書きが改めて導入され,その後徐々に一般化して現代に至る.
分かち書きは現在では当然視されているが,母音表記を享受し始めた古典時代の間に,その慣習が一度廃れた経緯があるということだ.では,なぜ母音表記の導入により,私たちにとって明らかに便利に思われる分かち書きが廃用となり,むしろ読みにくいと思われる続け書きが発達したのだろうか.Saenger (9--10) によれば,母音表記と続け書きの間には密接な関係があるという.
The uninterrupted writing of ancient scriptura continua was possible only in the context of a writing system that had a complete set of signs for the unambiguous transcription of pronounced speech. This occurred for the first time in Indo-European languages when the Greeks adapted the Phoenician alphabet by adding symbols for vowels. The Greco-Latin alphabetical scripts, which employed vowels with varying degrees of modification, were used for the transcription of the old forms of the Romance, Germanic, Slavic, and Hindu tongues, all members of the Indo-European language group, in which words were polysyllabic and inflected. For an oral reading of these Indo-European languages, the reader's immediate identification of words was not essential, but a reasonably swift identification and parsing of syllables was fundamental. Vowels as necessary and sufficient codes for sounds permitted the reader to identify syllables swiftly within rows of uninterrupted letters. Before the introduction of vowels to the Phoenician alphabet, all the ancient languages of the Mediterranean world---syllabic or alphabetical, Semitic or Indo-European---were written with word separation by either space, points, or both in conjunction. After the introduction of vowels, word separation was no longer necessary to eliminate an unacceptable level of ambiguity.
Throughout the antique Mediterranean world, the adoption of vowels and of scriptura continua went hand in hand. The ancient writings of Mesopotamia, Phoenicia, and Israel did not employ vowels, so separation between words was retained. Had the space between words been deleted and the signs been written in scriptura continua, the resulting visual presentation of the text would have been analogous to a modern lexogrammatic puzzle. Such written languages might have been decipherable, given their clearly defined conventions for word order and contextual clues, but only after protracted cognitive activity that would have made fluent reading as we know it impractical. While the very earliest Greek inscriptions were written with separation by interpuncts, points placed at midlevel between words, Greece soon thereafter became the first ancient civilization to employ scriptura continua. The Romans, who borrowed their letter forms and vowels from the Greeks, maintained the earlier Mediterranean tradition of separating words by points far longer than the Greeks, but they, too, after a scantily documented period of six centuries, discarded word separation as superfluous and substituted scriptura continua for interpunct-separated script in the second century A.D.
ここで展開されている議論について,私はよく理解できていない.母音表記の導入の結果,音節が同定しやすくなったという理屈がよくわからない.また,仮にそれが本当だったとして,文字の読み手が従来の分かち書きではなく続け書きにシフトしたとしても何とか解読できる,という点までは理解できるが,なぜ続け書きに積極的にシフトしたのかは不明である.上の議論は,消極的な説明づけにすぎないように思われる.
母音文字を発明してアルファベットを便利にしたギリシア人が,読みにくい続け書きにシフトしたというのは,何か矛盾しているように感じられる.実際,この問題は多くの論者を悩ませ続けてきたようだ (Saenger 10)
ギリシア人による母音文字の導入という文字史上の画期的な出来事については,「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1]) や「#2092. アルファベットは母音を直接表わすのが苦手」 ([2015-01-18-1]) を参照.
・ Saenger, P. Space Between Words: The Origins of Silent Reading. Stanford, CA: Stanford UP, 1997.
Cook (166) に,"Comparing older letter forms with Modern English" と題する表がある.大雑把ではあるが,英語のローマン・アルファベット一式を構成する文字の目録の変遷がよくまとまっているので,以下に再現する.
Shared letters | Extra letters | Variants of another letter | Rare letters | Unused letters | |
Old English (tenth century) | b c d f h l m n p r s t | ȝ ƿ þ ð æ | x (used for -cs occasionally æx) | k q z | g j v |
a e i o u y | |||||
Middle English (fourteenth century) | b c d f g h k l m n p q r s t w x z | ȝ þ (later th) | u (medial v) | ||
a e i o u y | j (initial i) | ||||
Early Modern English (1500--1700) | b c d f g h k l m n p q r s t w x z | u/v (till 1630) | |||
a e i o u y | j/i (till 1640) | ||||
'long' ʃ | |||||
Modern English (1700--present-day) | b c d f g h j k l m n p q r s t v w x z | ||||
a e i o u y |
英語は同じローマン・アルファベットを用いる文字圏のなかでも,句読法 (punctuation) に関しては比較的単純な部類に入る.現代的な句読記号が出そろったのは500年前くらいであり,その数も多くない (cf. 「#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど」 ([2010-11-23-1])) .また,文字そのものが26文字しかない上に,フランス語やドイツ語などにみられる,文字の周辺に付す特殊な発音区別符(号) (diacritical mark; cf. 「#870. diacritical mark」 ([2011-09-14-1])) も原則として用いられない.さらに,現代の印刷文化では句読記号が控えめに使われるようになってきているとも言われる.一方,net_speak などでは,新たな句読記号の使用法が生み出されていることも確かであり,句読法の発展が止まってしまったわけではないようだ (cf. 「#808. smileys or emoticons」 ([2011-07-14-1])) .
さて,約100万語のアメリカ英語の書き言葉コーパス Brown Corpus を用いた調査によると,英語の主要な句読記号の使用頻度 (%) は次の通りだという (Cook 92) .
Commas | 47 |
Full stops | 45 |
Dashes | 2 |
Parentheses | 2 |
Semi-colons | 2 |
Question marks | 1 |
Colons | 1 |
Exclamation marks | 1 |
「#3881. 文字読解の「2経路モデル」」 ([2019-12-12-1]) の記事でみたように,文字解読には「音韻ルート」 (phonological route) と「語ルート」 (lexical route) の2経路があると想定されている.典型的には各々アルファベットと漢字(訓読み)に結びつけるのが分かりやすいが,アルファベットで綴られた単語が語ルートで読解されることもあれば,形声文字の漢字が音韻ルートで読解されることもあり得るので,そう単純ではない.Cook (25) は,2つのルートを以下のように対比している.
Phonological route | Lexical route | |
---|---|---|
Converts written units | To phonemes | To meanings |
Also known as | Assembled phonology | Addressed phonology |
Needs | Mental rules | Mental lexicon of items |
Works by | Correspondence rules | Matching |
Can handle | Any novel combination | Only familiar symbols |
Used with | Any words | High frequency words |
日本語(特に漢字)を読んでいるのと英語を読んでいるのとでは,何かモードが異なるような感覚をずっともっていた.異なる言語だから異なるモードで読んでいるのだといえばそうなのだろうが,それとは別の何かがあるような気がする.さらされているのが表語文字か表音文字かという違いが関与しているに違いない.この違和感を理論的に説明してくれると思われるのが,文字読解の「2経路モデル」 ('dual-route' model) である.これ自体が心理学上の仮説(ときに「標準モデル」とも)とはいえ,しっくりくるところがある.
表音文字であるローマン・アルファベットで表記される英語を読んでいるとき,目に飛び込んでくる文字上の1音1音に意識が向くことは確かに多いが,必ずしもそうではないことも多い.どうやら音を意識する「音韻ルート」 (phonological route) と語を意識する「語ルート」 (lexical route) が別々に存在しており,読者は場合によっていずれかのルートのみ,場合によって両方のルートを用いて読解を行なっているということらしい.以下に「2経路モデル」の図を示そう(Cook 17 より).
┌────────────┐ │ Phonological route │ │ │ ┌──→│Converting 'letters' to │───┐ ┌───────┐ │ │Phonemes with a small │ │ Reading │ Working │───┘ │ set of rules │ └───→ written ───→ │out 'letters' │ └────────────┘ Saying words aloud words │ and 'words' │───┐ ┌────────────┐ ┌───→ └───────┘ │ │ Lexical route │ │ └──→│ │───┘ ???Looking up 'words' in a ??? │ large mental lexicon │ └────────────┘
昨日の記事「#3879. アルファベット文字体系の「1対1の原理」」 ([2019-12-10-1]) に引き続き,アルファベット文字体系(あるいは音素文字体系)における正書法の深さを測るための2つの主たる指標のうち,もう1つの「線状性の原理」 (linearity principle) を紹介しよう.以下,Cook (13) に依拠する.
この原理は「文字列の並びは音素列の並びと一致していなければならない」というものである.たとえば mat という単語は /m/, /æ/, /t/ の3音素がこの順序で並んで発音されるのだから,対応する綴字も,各々の音素に対応する文字 <m>, <a>, <t> がこの同じ順序で並んだ <mat> でなければならないというものだ.<amt> や <tam> などではダメだということである.
言われるまでもなく当たり前のことで,いかにもバカバカしく聞こえる原理なのだが,実はいうほどバカバカしくない.たとえば name, take などに現われる magic <e> を考えてみよう.このような <e> の役割は,前の音節に現われる(具体的にはここでは2文字分前の)母音字が,短音 /æ/ ではなく長音 /eɪ/ で発音されることを示すことである.別の言い方をすれば,<e> は後ろのほうから前のほうに発音の指示出しを行なっているのである.これは通常の情報の流れに対して逆行的であり,かつ遠隔的でもあるから,線状性の原理から逸脱する."Fairy e waves its magic wand and makes the vowel before it say its name." といわれるとおり,magic <e> は自然の摂理ではなく魔法なのだ!
ほかに ?5 は表記とは逆順に "five pounds" と読まれることからわかるように,線状性の原理に反している.1, 10, 100, 1000 という数字にしても,<1> の右にいくつ <0> が続くかによって読み方が決まるという点で,同原理から逸脱する.また,歴史的な無声の w を2重字 <wh> で綴る習慣が中英語以来確立しているが,むしろ2文字を逆順に綴った古英語の綴字 <hw> のほうが音声学的にはより正確ともいえるので,現代の綴字は非線状的であると議論し得る.
世界を見渡しても,Devanagari 文字では,ある子音の後に続く母音を文字上は子音字の前に綴る慣習があるという.いわば /bɪt/ を <ibt> と綴るかの如くである.「線状性の原理」は必ずしもバカバカしいほど当たり前のことではないようだ.
上で触れた magic <e> については「#979. 現代英語の綴字 <e> の役割」 ([2012-01-01-1]),「#1289. magic <e>」 ([2012-11-06-1]),「#1344. final -e の歴史」 ([2012-12-31-1]),「#2377. 先行する長母音を表わす <e> の先駆け (1)」 ([2015-10-30-1]),「#2378. 先行する長母音を表わす <e> の先駆け (2)」 ([2015-10-31-1]) を参照.
・ Cook, Vivian. The English Writing System. London: Hodder Education, 2004.
Cook (12--13) によれば,アルファベット文字体系(あるいは音素文字体系)には2つの原理がある.「1対1の原理」 (one-to-one principle) と「線状性の原理」 (linearity principle) である.昨日の記事「#3878. 正書法の深さ --- 英語と日本語の比較」 ([2019-12-09-1]) で取り上げた正書法の深さとは,およそ当該の正書法がこの2つの原理からいかに逸脱しているかの指標と理解して差し支えない.原理とはいっても理想的なアルファベット文字体系が備えているべき条件というほどのものではあるが,今回は1つ目の「1対1の原理」について考えてみよう.
「1対1の原理」とは「特定の文字と特定の音素が1対1の関係で結びついていなければならない」という原理のことである.正書法的同型性 (orthographic isomorphism) と言い換えてもいいだろう.英語の正書法は,この原理からしばしば逸脱していることで知られる.逸脱のタイプについては「#1024. 現代英語の綴字の不規則性あれこれ」 ([2012-02-15-1]) の「不規則性の種類」にていくつか挙げたが,主要な3種を示せば次の通りとなる.
(1) 特定の文字(列)に対して複数種類の音素(列)が対応してしまっている例,あるいは逆に,特定の音素(列)に対して複数種類の文字(列)が対応してしまっている例.たとえば,cat /kæt/, gate /geɪt/, about /əˈbaʊt/, father /ˈfɑːðə/, also /ˈɔːlsəʊ/ では,いずれも第1音節の母音を表記するのに <a> の文字が用いられているが,この <a> が表している母音音素はそれぞれ異なっている.1文字に対して5音素が対応してしまっているのだ.
一方,/eɪ/ という2重母音音素に対応する文字(列)を考えると,以下の単語群では異なる文字(列)が用いられている:mate, eh, great, play, weight, Beowulf, halfpenny, pain, veil, obey, gauge, gaol, champagne, champaign, quoit, bouquet, café, Baedeker, Baal.1つの母音音素に対して,多くの文字(列)が対応してしまっている.これは明らかに「1対1の原理」に反している.(関連して拙論「なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?」を参照.)
(2) (1) の特殊なケースと考えることもできるが,2文字がペアになって1つの音素に対応する例や,2音素がペアになって1つの文字に対応する例がある.前者は,<sh> で /ʃ/ を表わし,<ng> で /ŋ/ を表わすなどの2重字 (digraph) の問題に関わる.2重字それ自体を1つの単位ととらえる限りにおいては,原理からの逸脱とはみなせないかもしれないが,厳密にいうならば逸脱の一種といえよう.後者は,/ks/, /juː/ などの2音素のつながりが <x>, <u> のような1文字で表わされる例を指す.
(3) 文字(列)が無音に対応する,いわゆる黙字 (silent_letter) の例.いわば「1対0」の関係になってしまう点で,原理からの逸脱といえる.sign の <g>,limb の <b>,thought の <gh> など枚挙にいとまがない.黙字の他の例については「#1290. 黙字と黙字をもたらした音韻消失等の一覧」 ([2012-11-07-1]),「#2518. 子音字の黙字」 ([2016-03-19-1]),「#3857. 『英語教育』の連載第9回「なぜ英語のスペリングには黙字が多いのか」」 ([2019-11-18-1]) などを参照されたい.
・ Cook, Vivian. The English Writing System. London: Hodder Education, 2004.
Cook (9) が,話者人口によるランキングでトップ50に入る言語で使用されている文字体系を調査し,その種別ごとの割合をはじき出している.15年ほど前の統計なので解釈には若干の注意を要するが,参考になる.
文字体系のオーソドックスな分類は,「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1]) でみたとおりだが,ここでは表語文字 (Character-based) および3種の表音文字へと大雑把に分類されている.後者の3種とは,音素文字 (Alphabet-base),音節文字 (Syllable-based),子音文字 (Consonant-based) のことである.
最も多いのは,世界中で12億3200万人以上の人々に用いられている音素文字,いわゆるアルファベットである.次に来るのが,漢字に代表される表語文字 (Character-based) である.ここには9億3千万人を超える中国語使用者(実際には1億2500万人の日本の漢字使用者も含む)が含まれる.3番目に来るのは,3億2900万人以上に用いられている音節文字である.ここにはインド系文字や日本語の仮名が含まれる.そして,ヘブライ語やアラビア語を話す4500万人以上によって用いられる子音文字が続く.
もちろんこの割合はトップ50の言語に限って計算されたものにすぎないが,他の多数の諸言語を考慮に入れたとしても,おそらく分布が大きく変動することはないかと思われる.粗くいって表音文字系列が2/3,表語文字系列が1/3を占めるととらえておけばよいだろう.
・ Cook, Vivian. The English Writing System. London: Hodder Education, 2004.
long <s> と呼ばれる <<ʃ>> の字形については,すでに「#584. long <s> と graphemics」 ([2010-12-02-1]),「#2997. 1800年を境に印刷から消えた long <s>」 ([2017-07-11-1]),「#1152. sneeze の語源」 ([2012-06-22-1]),「#1732. Shakespeare の綴り方 (2)」 ([2014-01-23-1]),「#2998. 18世紀まで印刷と手書きの綴字は異なる世界にあった」 ([2017-07-12-1]),「#3869. ヨーロッパ諸言語が初期近代英語の書き言葉に及ぼした影響」 ([2019-11-30-1]) などの記事で取り上げてきた.
long <s> は典型的に (1) 語頭や語中において,(2) <f> の前後で,あるいは (3) <ss> の1文字目において,印刷の世界では1800年後前後まで広く用いられていた.一方,手書きの世界では,もう少し遅く19世紀半ばまで使われていたとされる.ところが,Scholfield (153) では,各々についてもう少し遅い年代が挙げられている.
. . . the letters used from the seventeenth century onwards remain easily recognizable with the exception of the 'long s', written in various ways such as <ʃ> plain or <ʃ> italic, also found with part of the crossbar such as <f> has . . . . The long form derived from an earlier cursive handwritten variant of <s> and, when used, this variant occurred widely in lower case writing (not capitals) except in word final position, where the familiar 'short s' or 'round s' letter shape was used . . . . In some usage it was also not used before/after <f> or as a second <s> in a double <s> the middle of a word, or in other specific circumstances. The long 's' was widely used in print until around 1815, and while it disappeared from published material at a stroke when a printing house or typeface-designer abandoned it . . ., it faded out slowly in the usage of individuals. The author Wilkie Collins is recorded using it in the wordin a diary entry as late as 1886 . . ., and it seems that this use in final double 's' position was the one which generally survived the longest.
印刷では1815年辺りに <<ʃ>> が消えたが,手書きでは最も遅い書き手で19世紀終わり近くまで生き残ったという.大昔の話しではない.<<ʃ>> の衰退については,「#3869. ヨーロッパ諸言語が初期近代英語の書き言葉に及ぼした影響」 ([2019-11-30-1]) で,大陸からの影響があった可能性があると簡単に触れたが,Hill (437) に関連する記述を見つけた.大陸の活字に影響を受けた印刷家の不採用の結果として,一気に衰退したもののようだ.この記述によると1787--88年くらいが重要な年代だったことになる.
The decline of the long 's' coincides closely with the emergence of the Modern or Didone letter in the eighteenth century. Though used in Bodoni's earlier work, it is absent from Manuale Typografico of 1788, and was not used by François-Ambroise Didot in the types he cut in the 1780s . . . .
In England, the printer John Bell argued against its continued use. It was not included in the types cut for him by Richard Austin in 1788, or used in his newspaper The World from 1787. Absent from British 'Modern' faces of the late eighteenth century, its use after this date was generally limited to deliberate historical effect or pastiche.
・ Scholfield, Phil. "Modernization and Standardization since the Seventeenth Century." Chapter 9 of The Routledge Handbook of the English Writing System. Ed. Vivian Cook and Des Ryan. Abingdon: Routledge, 2016. 143--61.
・ Hill, Will. "Typography and the Printed English Text." Chapter 25 of The Routledge Handbook of the English Writing System. Ed. Vivian Cook and Des Ryan. Abingdon: Routledge, 2016. 431--51.
「#3833. 講座「英語の歴史と語源」の第5回「キリスト教の伝来」のご案内」 ([2019-10-25-1]) で案内した朝日カルチャーセンター新宿教室の講座を11月2日(土)に終えました.今回も大勢の方に参加していただき,白熱した質疑応答が繰り広げられました.多岐にわたるご指摘やコメントをいただき,たいへん充実した会となりました.
講座で用いたスライド資料をこちらに置いておきますので,復習等にご利用ください.スライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・5 「キリスト教の伝来」
2. 第5回 キリスト教の伝来
3. 目次
4. 1. イングランドのキリスト教化
5. 古英語期まで(?1066年)のキリスト教に関する略年表
6. 2. ローマ字の採用
7. ルーン文字とは?
8. 現存する最古の英文はルーン文字で書かれていた
9. ルーン文字の遺産
10. 古英語のアルファベット
11. 古英語文学の開花
12. 3. ラテン語の借用
13. 古英語語彙におけるラテン借用語比率
14. キリスト教化以前と以後のラテン借用
15. 4. 聖書翻訳の伝統
16. 5. 宗教と言語
17. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響の比較
18. 日本語における宗教語彙
19. まとめ
20. 補遺:「主の祈り」の各時代のヴァージョン
21. 参考文献
次回の第6回は少し先の2020年3月21日(土)の15:15?18:30となります.「ヴァイキングの侵攻」と題して英語史上の最大の異変に迫る予定です.
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