ここ数日間,アルファベットを中心に文字の話題に集中してきた.文字に関連する記事は,grammatology, graphemics, grapheme, alphabet, runic, writing などで書いてきた.中心的な記事を抜き出すと,例えば次のようなものがあった.
(1) 「#41. 言語と文字の歴史は浅い」 ([2009-06-08-1])
(2) 「#751. 地球46億年のあゆみのなかでの人類と言語」 ([2011-05-18-1])
(3) 「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1])
(4) 「#1544. 言語の起源と進化の年表」 ([2013-07-19-1])
(5) 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
(6) 「#490. アルファベットの起源は North Semitic よりも前に遡る?」 ([2010-08-30-1])
(7) 「#1006. ルーン文字の変種」 ([2012-01-28-1])
(8) 「#1005. 平仮名による最古の「いろは歌」が発見された」 ([2012-01-27-1])
(9) 「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1])
(10) 「#1822. 文字の系統」 ([2014-04-23-1])
今回は,カルヴェ (241--42) による文字史略年表を掲げよう.(1)--(4) などの記事で掲げた年表とは年代や順序が若干異なるところもあるが,とりわけ紀元前において文字の成立年代を特定することの困難は勘案すべきだろう.
前30000年頃 [陰画手像] 前4000年頃 スサ(現イラン)で土器に書いた文字が現れる 前3300年頃 メソポタミア南部で絵文字が現れる 前3100年頃 エジプト聖刻文字成立 前2700年頃 シュメールの楔形文字成立 前2500年頃 スサで楔形文字が原エラム文字にとって代る 前2300年頃 インダス川流域で「原インド文字」が現れる 前2200年頃 プズル・インチュチナク王の原エラム文字碑文 前2000年頃 シュメールの首都ウル陥落。以降,メソポタミアではアッカド語が共通語として使用される 前1600年頃 原シナイ文字 地中海で線文字A成立 前1300年頃 ラス・シャムラ(現シリア)のウガリット文字 古代中国で甲骨文字成立 前1000年頃 フェニキア文字成立 同じ頃アラム文字、古ヘブライ文字成立 前8世紀 ギリシア文字、エトルリア文字、イタリア文字成立 前6世紀 ローマ字成立 前3世紀 カロシュティー文字、ブラーフミ文字成立 前2世紀 ヘブライ文字成立 前1--1世紀 中国で漢字が完成 1世紀 最古のルーン文字碑文 3世紀 コプト文字、原マヤ文字成立 4世紀頃 漢字、朝鮮半島に伝来 グプタ文字成立 ゴート文字、アラビア文字成立 5世紀頃 漢字、日本に伝来。オガム文字成立 アルメニア文字、グルジア文字成立 7世紀 チベット文字成立 8世紀 ナーガリー文字成立 9世紀 グラゴール文字成立(その後キリル文字となる) 11世紀 ネパール文字成立
人類最古の文字がいつ発生したかを明言することはできない.今なお未発見の文字は眠っているだろうし,文字の書かれた材質ゆえに永遠に失われしまったものも多くあるだろう.カルヴェ (23) は,楔形文字の研究者,ジャン=マリ・デュランの次の記述を引いている.
「それゆえ文字が地上のどこに生まれたかなどと詮索するのはむなしいことである。ある社会が象徴的事物を描きつつ一連の物質的記号を残そうとし、媒体を選び、そこに表記する、こういった社会がある限り文字出現の地点はどこにもあるのである。いくつもの社会が原始的媒体(洞窟壁画)とか保存不能の媒体(粘土以外のもの)を選択したと思われる」
数々の未解読文字とともに,後世に見られることのない多数の文字に思いを馳せざるをえない.
・ ルイ=ジャン・カルヴェ 著,矢島 文夫 監訳,会津 洋・前島 和也 訳 『文字の世界史』 河出書房,1998年.
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