hellog〜英語史ブログ

#1112. 分かち書き (1)[punctuation][grammatology][alphabet][japanese][kanji][hiragana][writing][syntagma_marking]

2012-05-13

 分かち書きとは,読みやすさを考慮して,その言語の特定の統語形態的な単位(典型的には語や文節)で区切り,空白を置きながら書くことである.「分け書き」「分別書き」「付け離し」とも呼ばれ,世界のほとんどすべての言語の正書法に採用されている.対する「べた書き」は日本語や韓国語に見られ,日本語母語話者には当然のように思われているが,世界ではきわめて稀である.
 では,日本語ではなぜ分かち書きをしないのだろうか.そして,例えば,英語ではなぜ分かち書きをするのだろうか.それは,表記に用いる文字の種類および性質の違いによる([2010-06-23-1]の記事「#422. 文字の種類」を参照).日本語では,表音文字(音節文字)である仮名と表語文字である漢字とを混在させた漢字仮名交じり文が普通に用いられるのに対して,英語は原則としてアルファベットという表音文字(音素文字)のみで表記される.この違いが決定的である.
 説明を続ける前に,書き言葉の性質を確認しておこう.書き言葉の本質的な役割は話し言葉を写し取ることだが,写し取る過程で,話し言葉においては強勢,抑揚,休止などによって標示されていたような多くの言語機能が捨象される.話し言葉におけるこのような言語機能は,メッセージの受け手にとって,理解を助けてくれる大きなキューである.聞こえている音声の羅列に,形態的,統語的,意味的な秩序をもたらしてくれるキューである.別の言い方をすれば,話し言葉には,文の構造の理解にヒントを与えてくれる,様々な syntagma marker ([2011-12-29-1], [2011-12-30-1]) が含まれている.書き言葉は,話し言葉とは異なるメディアであり,寸分違わず写し取ることは不可能なので,話し言葉のもっている機能の多くを捨象せざるを得ない.どこまで再現し,どこから捨象するのかという程度は文字体系によって異なるが,最低限,特定の統語的単位の区切りは示すのが望ましい.それは,多くの場合,語という単位であり,ときには文節のような単位であることもあるが,いずれにせよ文字をもつほとんどの言語で,ある統語的単位の区切りが syntagma marking されている.
 さて,表音文字のみで表記される英語を考えてみよう.語の区切りがなく,アルファベットがひたすら続いていたら,さぞかし読みにくいだろう.書き手は頭の中にある統語構造を連続的に書き取っていけばよいだけなので楽だろうが,読み手は連続した文字列を自力で統語的単位に分解してゆく必要があるだろう.読み手を考慮すれば,特定の統語的単位(典型的には語)ごとに区切りをつけながら書いてゆくのが理に適っている.その方法はいくつか考えられる.各語を枠でくくるという方法もあるだろうし,(中世の英語写本にも実際に見られるように)語と語の間に縦線を入れるという方法もあるだろう.しかし,なんといっても簡便なのは,空白で区切ることである.これは話し言葉の休止にも相似し,直感的でもある.したがって,表音文字のみで表記される書き言葉では,分かち書きは syntagma marking を確保する最も普通のやり方なのである.
 同じことは,日本語の仮名書きについても言える.漢字を用いず,平仮名か片仮名のいずれかだけで書かれる文章を考えてみよう.小学校一年生の入学当初,国語の教科書の文章は平仮名書きである.ちょうど娘がその時期なので光村図書の教科書「こくご 一上」の最初のページを開いてみると次のようにある.

はる

はるの はな
さいた
あさの ひかり
きらきら

おはよう
おはよう
みんな ともだち
いちねんせい


 一種の詩だからということもあるが,空白と改行を組み合わせた,文節区切りの分かち書きが実践されている(初期の国定教科書では語単位の分かち書きだったが,以後,現在の検定教科書に至るまで文節主義が採用されている).これがなければ「はるのはなさいたあさのひかりきらきらおはようおはようみんなともだちいちねんせい」となり,ひどく読みにくい.そういえば,娘が初めて覚え立ての平仮名で文を書いたときに,分かち書きも句読点もなしに(すなわち読み手への考慮なしに),ひたすら頭の中にある話し言葉を平仮名に連続的に書き取っていたことを思い出す.ピリオド,カンマ,句点,読点などの句読法 (punctuation) の役割も,分かち書きと同じように,syntagma marking を確保することであることがわかる.
 日本語を音素文字であるローマ字で書く場合も,仮名の場合と同様である.海外から日本に電子メールを送るとき,PCが日本語対応でない場合にローマ字書きせざるを得ない状況は今でもある.その際には,語単位あるいは文節単位で日本語を区切りながら書かないと,読み手にとって相当に負担がかかる.いずれの単位で区切るかは方針の問題であり,日本語の正書法としては確立していない.
 それでは,日本語を書き表わす通常のやり方である漢字仮名交じり文では,どのように状況が異なるのか.明日の記事で.

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