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voicy - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-07 20:58

2022-05-02 Mon

#4753. 「英文法」は250年ほど前に規範的に作り上げられた! [prescriptivism][prescriptive_grammar][lmode][lowth][priestley][youtube][voicy]

 日本語なり英語なりの「文法」というものは,その話者集団が歴史のなかで暗黙裏に作り上げ,互いに従ってきた一種の慣習です.その意味では,日本語なり英語なりに歴史の当初から「文法」があったということはいうまでもありません.人間集団が作ったという点では厳密にいって人工的な文法であるには違いありませんが,さほど意識的にこしらえた文法ではなく,何となく慣習的に文法らしいものができあがってきたという点を考慮すれば,あくまで自然発生的な文法といえます.
 しかし,言語に対して意識が高まってきた西洋近代においては,文字通り人工的に文法をこしらえるという動きが出てきました.イギリスでは他国よりも若干遅れましたが,18世紀がまさにその時代でした.守るべき規範として意識的に作られた文法という意味で規範文法 (prescriptive_grammar) と呼ばれます.この時代にできあがった「規範英文法」は圧倒的に支持されることになり,現代に至るまで「英文法」といえば,デフォルトでこの時代にできあがって後に受け継がれた英文法を指すということになっています.日本の受験英文法も TOEIC の英文法もこれです.
 このような歴史的な事情があったことを踏まえ,私はあえて標題のように「『英文法』は250年ほど前に規範的に作り上げられた!」と述べることにしています.私たちがデフォルトで理解している「英文法」というものは,約250年ほど前にイギリスの知識人が有志で「英文法書」を上梓し,人々に受け入れられた瞬間に,生まれたといっても過言ではありません.つまり「英文法」とは,彼らが「英文法書」を書き上げた瞬間にできあがった代物ということになります.それ以前には「英文法」はなかったのです.
 昨晩公開された YouTube 番組「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第19弾は「英文法が苦手なみなさん!苦手にさせた犯人は18世紀の規範文法家たちです.【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 19 】」というタイトルです.前回からの流れで関係代名詞の歴史から始め,18世紀の規範文法の時代に話が及びます.



 そして,この YouTube の内容を受けて,話し足りなかった部分を補足すべく,私の今朝の Voicy でも「18世紀半ばに英文法を作り上げた Robert Lowth とはいったい何者?」と題して,関連することをお話ししました.この規範文法の時代における最重要人物が Robert Lowth という人でした.



 詳しくは「#2583. Robert Lowth, Short Introduction to English Grammar」 ([2016-05-23-1]) を始めとして lowth あるいは prescriptive_grammar の各記事をご覧ください.

Referrer (Inside): [2022-07-19-1]

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2022-04-25 Mon

#4746. Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の再生回数ベスト50コンテンツ [voicy][notice][sobokunagimon]

 本ブログの姉妹版としての音声ブログを「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」として運営しています.昨年の6月2日より,Voicy というメディアを通じて,毎日英語史の話題をお届けしています.通勤・通学時間帯の聴取を念頭に,毎朝6時にオンエアーしています.
 文章(書き言葉)中心の本ブログとは異なり,音声(話し言葉)に依存するウェブ上の新しいメディアですし,あまり馴染みがないかもしれませんが,本ブログと同じくらいの力を入れて配信していますので,ぜひ聴取していただければと思います.「新しいメディア」とはいっても,技術的に新しいというだけで,ラジオという伝統的な音声メディアの延長線上です.私自身,中高生のときに深夜ラジオにはまっていた世代ですので,配信側の役割になっても抵抗感なく,日々楽しんで収録しています.

 この4月1日からは新年度開始の勢いを借りて,「英語史スタートアップ」という複合的な企画を立ち上げてきました(「#4722. 新年度の「英語史スタートアップ」企画を開始!」 ([2022-04-01-1]) を参照).Voicy でも,この3週間ほどは,英語史研究者との対談企画を中心に,普段以上に力を注いで収録してきました.おかげさまで,本ブログの読者も増えましたし,Voicy の視聴者も増えました.ありがとうございます! 英語史の魅力を広めるべく,(日々,ネタ欠乏症に苦しみつつも)今後も話題を提供し続けて行きたいと思います.
 Voicy の放送はウェブ上でも聴取できますが,スマホのアプリを用いるとバックグラウンド再生を始め,より便利な機能を利用できます.ぜひこの機会にこちらよりダウンロードしてお試しください.「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」のフォローもよろしくお願いします.heldio 以外にも語学関連の音声コンテンツが様々に取りそろえられています.

 さて,本日までに10分以内の放送を329本ほどお届けしてきました.これまでの再生回数の多い放送ベスト50を集めてみましたので,お時間のあるときに聴いてみてください.1ヶ月ほど前までは,再生回数の第1位は,YouTube 番組「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」でコンビを組ませていただいている同僚の井上逸兵さん(←超人気者)との対談にさらわれていましたが,新年度企画による猛追の結果,私自身の初回放送が(僅差で)第1位に返り咲きましたので,記念してここに公表します(笑).

  1. 「なぜ A pen なのに AN apple なの?」(1,060回再生,第1回,2021年06月02日放送)
  2. 「『英語の思考法』(ちくま新書)の著者、井上逸兵先生との対談」(1,016回再生,第108回,2021年09月17日放送)
  3. 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」(870回再生,第2回,2021年06月03日放送)
  4. 「なぜ否定語が文頭に来ると VS 語順になるの?」(737回再生,第88回,2021年08月28日放送)
  5. 「「塵も積もれば山となる」に対応する英語の諺」(666回再生,第3回,2021年06月04日放送)
  6. 「なぜ used to do が「〜したものだった」なの?」(539回再生,第169回,2021年11月16日放送)
  7. 「対談 井上逸兵先生と「英語新書ブーム」を語る」(538回再生,第144回,2021年10月22日放送)
  8. 「なぜ月曜日 Monday はムーンデイではなくマンデイなの?」(516回再生,第6回,2021年06月07日放送)
  9. 「harassment のアクセントはどこに置けばいいの?」(504回再生,第4回,2021年06月05日放送)
  10. 「なぜ one と書いてオネではなくてワンなの?」(463回再生,第7回,2021年06月08日放送)
  11. 「対談 英語史の入門書」(430回再生,第140回,2021年10月18日放送)
  12. 「meat のかつての意味は「食物」一般だった!」(420回再生,第5回,2021年06月06日放送)
  13. 「one, only, any は同語源って知ってました?」(414回再生,第8回,2021年06月09日放送)
  14. 「this,that,theなどのthは何を意味するの?」(402回再生,第233回,2022月01月19日放送)
  15. 「forget, forgive の for- とは何?」(389回再生,第87回,2021年08月27日放送)
  16. 「first の -st は最上級だった!」(386回再生,第9回,2021年06月10日放送)
  17. 「ウクライナ(語)について」(381回再生,第271回,2022月02月26日放送)
  18. 「「超弩級」の「弩」は Dreadnought の D」(37回再生,第328回,2022月04月24日放送)
  19. 「対談 英語史 X 国際英語」(376回再生,第141回,2021年10月19日放送)
  20. 「Japanese の -ese って何?」(372回再生,第165回,2021年11月12日放送)
  21. 「現在完了は過去を表わす表現と共起したらNG?」(359回再生,第83回,2021年08月23日放送)
  22. 「read - read - read のナゾ」(353回再生,第199回,2021年12月16日放送)
  23. 「立命館大学、岡本広毅先生との対談:国際英語とは何か?」(347回再生,第173回,2021年11月20日放送)
  24. 「英語語彙の1/3はフランス語!」(343回再生,第26回,2021年06月27日放送)
  25. 「third は three + th の変形なので準規則的」(341回再生,第10回,2021年06月11日放送)
  26. 「shall とwill の使い分け規則はいつからあるの?」(337回再生,第218回,2022月01月04日放送)
  27. 「曜日名の語源」(336回再生,第299回,2022月03月26日放送)
  28. 「なぜアメリカ英語では R の発音があ〜るの?」(334回再生,第14回,2021年06月15日放送)
  29. 「時・条件の副詞節では未来でも現在形を用いる?」(331回再生,第33回,2021年07月04日放送)
  30. 「前置詞ならぬ後置詞の存在」(331回再生,第133回,2021年10月11日放送)
  31. 「なぜ名詞は REcord なのに動詞は reCORD なの?」(324回再生,第15回,2021年06月16日放送)
  32. 「sheep と deer の単複同形のナゾ」(323回再生,第12回,2021年06月13日放送)
  33. 「英語とギリシア語の関係って?」(318回再生,第137回,2021年10月15日放送)
  34. 「対談 「毎日古英語」のまさにゃんと、古英語ってどんな言語?」(317回再生,第149回,2021年10月27日放送)
  35. 「なぜ who はこの綴字で「フー」と読むのか?」(316回再生,第253回,2022月02月08日放送)
  36. 「そもそも English という単語はナゾだらけ!」(312回再生,第16回,2021年06月17日放送)
  37. 「スーパーマーケットとハイパーマーケット」(311回再生,第43回,2021年07月14日放送)
  38. 「It's kind of you to come. の of」(308回再生,第91回,2021年08月31日放送)
  39. 「大母音推移(前編)」(307回再生,第281回,2022月03月08日放送)
  40. 「なぜ Wednesday には読まない d があるの?」(307回再生,第300回,2022月03月27日放送)
  41. 「i, j の上の点は何?」(306回再生,第128回,2021年10月07日放送)
  42. 「-ment, -ance など近代英語の名詞語尾の乱立」(306回再生,第170回,2021年11月17日放送)
  43. 「なぜ will must のように助動詞を並べてはダメなの?」(304回再生,第152回,2021年10月30日放送)
  44. 「なぜか second 「2番目の」は借用語!」(303回再生,第11回,2021年06月12日放送)
  45. 「古英語期ってどんな時代?」(301回再生,第148回,2021年10月26日放送)
  46. 「なぜ文頭や固有名詞は大文字で始めるの?」(300回再生,第50回,2021年07月21日放送)
  47. 「-ly が付かない単純形副詞の用法と歴史」(299回再生,第127回,2021年10月05日放送)
  48. 「地球46億年の歴史における世界語としての英語」(299回再生,第134回,2021年10月12日放送)
  49. 「重要な文法的単語には強音と弱音の2つの発音がある」(298回再生,第162回,2021年11月09日放送)
  50. 「なぜ英語は世界語となっているのですか?」(295回再生,第129回,2021年10月08日放送)
  51. 「you の発音が「ユー」になるまでの長い道のり」(295回再,生第163回,2021年11月10)

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2022-04-19 Tue

#4740. 古英語入門のためのオンラインリソース [notice][oe][hel_education][voicy][youtube][link][masanyan]

 新年度が始まり,大学(院)の英文科の専門科目などで「古英語」の授業が開講されたところもあるかと思います.「英語史」概説はまだしも,「古英語」入門の授業というのは日本の大学(院)でもかなり稀で,絶滅危惧種といってよい代物です.大学(院)の正規の授業ですらそのような状況ですので,せめて別メディアでの「古英語学習」のための情報を発信したいと思います.ということで,「古英語入門」の入門を提供する各種メディアへのリンクを紹介します.

 ・ 「まさにゃんチャンネル」の,シリーズ「毎日古英語」は,日本初の古英語系 YouTube チャンネルです.
 ・ まさにゃんには,私の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) にも2度ほど出演してもらっています.以下より2本の放送をお聴きください.
   - 「#149. 対談 「毎日古英語」のまさにゃんと、古英語ってどんな言語?」(2021年10月27日)
   - 「#309. khelf 会長「まさにゃん」による「第一回古英語模試」」(2022年4月5日放送):世界初の試み.古英語模試そのものはこちらからどうぞ.



 ・ 堀田による Voicy の古英語関連としては,次の通りです.
   - 「#148. 古英語期ってどんな時代?」(2021年10月26日)
   - 「#321. 古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より(2022年4月17日)
   - 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」(2022年4月22日)(←後日付け足しました)
 ・ 古英語の屈折表のアンチョコ (PDF) はこちらからどうぞ.
 ・ Essentials of Old English: オンラインで古英語を勉強するならここ.古英語の歴史的背景や文法などが学べます.とりわけ A short grammar of Old English は手軽で必見.
 ・ Readings in Early English: 古英語,中英語,初期近代英語のテキストとそれを読み上げたオーディオファイルが入手できます.
 ・ Essentials of Early Englishリソース集: 古英語の屈折表などがPDFで手に入ります.中世の写本へのリンクも張られています.本書はこちら
 ・ Peter S. Baker による YouTube での Old English Readings
 ・ 本ブログより oe のタグの付いた記事群も,もちろん有用なはずです.

 ・ Smith, Jeremy J. Essentials of Early English. 2nd ed. London: Routledge, 2005.

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2021-10-18 Mon

#4557. 「英語史への招待:入門書10選」 [hel_education][bibliography][khelf][link][heldio][masanyan][voicy]

 昨日,青山英語史研究会(青山学院大学・寺澤盾先生主催)がオンラインで開催されました.「研究会」とはいうものの,今回は英語史を学ぶ大学生を主たるオーディエンスとして想定し,英語史の学びをエンカレッジする様々な企画が組まれました.私も参加させていただきましたが,たいへん実りの多い会となりました.ありがとうございます.
 プログラムの1つとして,明治学院大学で英語史の授業を担当している泉類尚貴氏による「英語史への招待:入門書10選」が紹介されました.氏の許可を得て,そのリスト(実際にはオマケ付きで11冊)を以下に掲載します.氏によると,この順序で手に取ってみることをお勧めするとのことです.
 ちなみに泉類氏とは,本日の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて同じ話題で対談していますので,こちらも是非お聴きください.推薦書リストというものは,選者による簡単な解説があるだけでも説得力が増しますね.



 ・ 寺澤 盾 『英語の歴史:過去から未来への物語』 中公新書,2008年.
 ・ 家入 葉子 『ベーシック英語史』 ひつじ書房,2007年.
 ・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』 研究社,2016年.
 ・ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 春風社,2011年.
 ・ 唐澤 一友 『世界の英語ができるまで』 亜紀書房,2016年.
 ・ 寺澤 盾 『聖書でたどる英語の歴史』 大修館書店,2013年.
 ・ 鳥飼 玖美子 『国際共通語としての英語』 講談社現代新書,2011年.
 ・ 西村 秀夫 編 『コーパスと英語史』 ひつじ書房,2019年.
 ・ 高田 博行・渋谷 勝巳・家入 葉子(編著) 『歴史社会言語学入門』 大修館書店,2015年.
 ・ Baugh, A. C. and T. Cable. A History of the English Language. 6th ed. Routledge, 2013.
 ・ Crystal, D. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. CUP, 2018.

 番外編として,参考になるウェブサイトということで以下の4点も紹介されました.

 ・ TED Ed
 ・ YouTube 「まさにゃんチャンネル」
 ・ 「hellog?英語史ブログ」
 ・ khelf (= Keio History of the English Language Forum)

 以上,英語史の学びのエンカレッジでした.昨日の記事「#4556. 英語史の世界にようこそ」 ([2021-10-17-1]) も合わせてどうぞ.

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2021-06-04 Fri

#4421. 「英語の語源が身につくラジオ」をオープンしました [heldio][hellog-radio][sobokunagimon][notice][hel_education][voicy]

 一昨日,音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしました.本ブログとも部分的に連携しつつ,英語史に関するコンテンツを広くお届けする試みとして始めました.一昨日,昨日と,10分弱の音声コンテンツを2本配信していますので,そちらをご案内します.

 1. 「なぜ A pen なのに AN apple なの?」
 2. 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」

 チャンネル設立の趣旨は,Voicy 公式ページに掲載していますが,以下の通りです.

 英語の歴史を研究しています,慶應義塾大学の堀田隆一(ほったりゅういち)です.このチャンネルでは,英語に関する素朴な疑問を入口として,リスナーの皆さんを広く深い英語史の世界に招待します.とりわけ語源の話題が満載です.
 英語史と聞くと難しそう!と思うかもしれませんが,心配いりません.実は皆さんが英語に対して日常的に抱いているナゼに易しく答えてくれる頼もしい味方なのです.
 なぜアルファベットは26文字なの? なぜ man の複数形は men なの? なぜ3単現の s なんてあるの? なぜ go の過去形は went なの? なぜ英語はこんなに世界中で使われているの?
 英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も教えてくれなかった数々の謎が,スルスルと解決していく快感を味わってください.ついでに,英語の豆知識を得るにとどまらず,言葉の新しい見方にも気づくことになると思います.
 本チャンネルと同じような趣旨で,毎日「hellog?英語史ブログ」を更新しています.合わせてご覧ください.なおハッシュタグの #heldio は,"The History of the English Language Radio" にちなみます.


 基本的には,これまで私が本ブログ,著書,雑誌記事,大学教育,公開講座などで一貫して行なってきた「英語史の魅力を伝える」という活動の延長です.メディア,オーディエンス,スタイルは変わるかもしれませんが,この方針は変わりません.
 チャンネル設立の背景について,もう少し述べておきたいと思います.昨年度,大学などでオンライン初年度となったことと関連して,通常の文章によるブログ記事の配信に加えて,音声版記事を「hellog ラジオ版」として配信する試みを始めました.主として英語に関する素朴な疑問に答えるという趣旨で,学期中は定期的に,学期外はやや不定期ですが継続してきました.結果として,数分から10分程度の長さの音声コンテンツが62本蓄積されました.
 学生などから様々なフィードバックをもらって分かったことは,発音に関するトピックは音声コンテンツのほうが伝わりやすいということです.当たり前といえば当たり前の話しですが,私はナルホドと深くうなずきました.私自身は英語の綴字と発音の関係に大きな関心を寄せており,音声の話題はよく取り上げるのですが,文章ブログでは発音を発音記号で表現しなければならず,実際に口で発音すればすぐに伝わるものが容易に伝わらないもどかしさを,どこかで感じていました.そのような折に,試しに音声コンテンツを作ってみたら,発音の話題と相性が良いという当たり前のことに改めて気づいた次第です.逆に音声メディアでは綴字については語りにくいという側面もあり,一長一短ではあるのですが,従来の文章ベースの本ブログと平行して,音声ベースのブログがあるとよいと考えました.
 昨年度は手弁当で「hellog ラジオ版」を作ってきましたが,昨今ウェブ上で音声配信プラットフォームが充実してきているという流れを受け,収録・配信の便を念頭に Voicy を通じて配信することに致しました.
 本「hellog?英語史ブログ」では,高度に専門的な話題から中学生も読める話題まで,日々気の向くままに様々なレベルで書いているのですが,音声コンテンツとなると「素朴な疑問」系の話題や単語の語源に関する話題が多くなるかと思います.今後具体的にどのような感じになっていくのかは私も分からないのですが,基本方針としては「英語史に関する話題を広く長く提供し続ける」趣旨で,本ブログの姉妹版のような位置づけとなっていけばよいなと思っています.通称/ハッシュタグを「#heldio」 (= "The History of the English Language Radio") としたのも,本ブログとの連携を念頭に置いた上での命名です.
 今後とも,本「hellog?英語史ブログ」と合わせて,「英語の語源が身につくラジオ」のほうもよろしくお願い申し上げます.

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2017-03-31 Fri

#2895. 古英語聖書より「岩の上に家を建てる」 [oe][popular_passage][bible][literature][oe_text][hel_education][voicy]

 古英語訳の聖書は,古英語読解のための初級者向け教材として有用である.近代英語の欽定訳聖書 (The Authorized Version) や現代英語版はもちろん,日本語を含むありとあらゆる言語への訳も出されており,比較・参照できるからだ.
 以下,新約聖書より Matthew 7: 24--27 の「岩の上に家を建てる」寓話について,古英語版テキストを MS Corpus Christi College Cambridge 140 より示そう (Mitchell 60) .合わせて,対応する近代英語テキストを欽定訳聖書より引用する.

Ǣlċ þāra þe ðās mīne word ġehȳrþ and þā wyrcþ byþ ġelīċ þǣm wīsan were se hys hūs ofer stān ġetimbrode.
Þā cōm þǣr reġen and myċel flōd and þǣr blēowon windas and āhruron on þæt hūs and hyt nā ne fēoll・ sōþlīċe hit wæs ofer stān ġetimbrod.
And ǣlċ þāra þe ġehȳrþ ðās mīne word and þā ne wyrcþ・ sē byþ ġelīċ þǣm dysigan menn þe ġetimbrode hys hūs ofer sand-ċeosel.
Þā rīnde hit and þǣr cōmon flōd and blēowon windas and āhruron on þæt hūs and þæt hūs fēoll・ and hys hryre wæs miċel


Therefore whosoever heareth these sayings of mine, and doeth them, I will liken him unto a wise man, which built his house upon a rock:
And the rain descended, and the floods came, and the winds blew, and beat upon that house; and it fell not: for it was founded upon a rock.
And every one that heareth these sayings of mine, and doeth them not, shall be likened unto a foolish man, which built his house upon the sand:
And the rain descended, and the floods came, and the winds blew, and beat upon that house; and it fell: and great was the fall of it.


 聖書に関する古英語テキストについては,「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1]),「#1870. 「創世記」2:18--25 を7ヴァージョンで読み比べ」 ([2014-06-10-1]) も参照されたい.

(後記 2022/05/03(Tue):Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,この1節を古英語の発音で読み上げていますのでご参照ください.「古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より」です.)

・ Mitchell, Bruce. An Invitation to Old English and Anglo-Saxon England. Blackwell: Malden, MA, 1995.

Referrer (Inside): [2023-06-05-1] [2017-04-11-1]

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2010-10-13 Wed

#534. The General Prologue の冒頭の現在形と完了形 [chaucer][tense][aspect][popular_passage][perfect][voicy]

 Chaucer の The Canterbury Tales の "The General Prologue" から,あまりにも有名な冒頭の1文を引く( ll. 1--18 from The Riverside Chaucer )

   Whan that Aprill with his shoures soote
The droghte of March hath perced to the roote,
And bathed every veyne in swich licour
Of which vertu engendred is the flour;
Whan Zephirus eek with his sweete breeth
Inspired hath in every holt and heeth
The tendre croppes, and the yonge sonne
Hath in the Ram his half cours yronne,
And smale foweles maken melodye,
That slepen al the nyght with open ye
(So priketh hem nature in hir corages),
Thanne longen folk to goon on pilgrimages,
And palmeres for to seken straunge strondes,
To ferne halwes, kowthe in sondry londes;
And specially from every shires ende
Of Engelond to Caunterbury they wende,
The hooly blisful martir for to seke,
That hem hath holpen whan that they were seeke.


 初めて読んだ中英語の文章がこの文だったという人も多いのではないだろうか.格調の高い長い書き出しだが,基本的な文の構造としては Whan . . . Thanne の相関構文であり明快だ.この文の味わい方は読者の数だけあるのかもしれないが,今回は Burnley (46--47) に従って時制 ( tense ) と相 ( aspect ) に注目した読み方を紹介したい.
 まず,用いられている動詞の時制はほぼ現在で統一されている(唯一の例外は最後の行の were のみ).語りの前提のない書き出しでの現在形使用は,普遍性を感じさせる.4月が訪れ,自然が目覚め出すと同時に,人もやむにやまれずカンタベリーへの巡礼を思い立つ,ということが毎年のように繰り返されていることが暗示される.自然の循環,季節の回帰を想起させる,高らかな謳いだしである.
 相 ( aspect ) に目を移すと,Whan 節の内部では主として完了形が用いられている.これは Whan 節とそれに続く Thanne 節の内容が時間的に間をおかずに継起していることを示すとともに,単に時間的継起のみならず因果関係をも示唆している.人々が巡礼を思い立つのは,他ならぬ4月の自然の引き金によるものなのだ.長い文でありながら,Whan 節と That 節の内容が緊密に結びついているのは,完了形の力ゆえである.
 まとめれば,この冒頭の文では「自然の目覚め→人々の目覚め」という因果関係が毎年のように繰り返されるという普遍性を謳っていることになる.この文の後には "Bifil that in that seson on a day," と過去形での語りが始まるので,対照的に冒頭の現在時制とそれが含意する普遍性が際立つことになる.以上,有名な冒頭を時制と相によって読んでみた.

(後記 2022/05/03(Tue):Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,この1節を中英語の発音で読み上げていますのでご参照ください.「中英語をちょっとだけ音読 チョーサーの『カンタベリ物語』の冒頭より」です.)
(後記 2023/10/10(Tue):Ellesmere MS の冒頭部分の画像はこちらです.)

 ・ Burnley, David. The Language of Chaucer. Basingstoke: Macmillan Education, 1983. 13--15.

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