hellog〜英語史ブログ

#4751. なぜすべてを大文字書きする人がいるの?[sobokunagimon][punctuation][alphabet][capitalisation][hellog_entry_set]

2022-04-30

 英語史の授業の履修者から興味深い疑問が寄せられました.

 以前より気になっていたことがあり,お聞きします.
 これまで,英会話や大学の英語の講義にて,ネイティブの先生で,板書をする際に,アルファベット表記を全て大文字にして書く方がいらっしゃいました.
 ネイティブが非ネイティブに教育する際に,そのような習慣があるのでしょうか.
 もし何かご存じであれば,ご教示願います.


 この疑問に対して,ひとまず次のように回答しました.

 確かに黒板などにすべてを大文字書きするシーンというのは,よくありますね.
 規範的にいえば,私たちが英語教育で習うように,大文字と小文字の使い分けはしっかり決まっています.しかし,この規範が定まったのも近代以降のことで,比較的新しいものです.
 また,今でも必ずしも規範にとらわれないレジスター(使用域)は日常的に多々あります.漫画の台詞は大文字書きが普通ですし,キーワードの強調のための黒板書き大文字もまさにそのようなケースですね.強調のための大文字使用の歴史は千年以上の長きにわたりますので,それが受け継がれていると解釈することもできます.
 そもそもなぜ大文字と小文字があるのかを考えてみるとおもしろいと思います.音声解説「なぜ文頭や固有名詞は大文字で始めるの?」および関連する記事セットをどうぞ.


 回答後に1つ思い出したことがあります.主に電子テキストにみられる「怒号と敵意の大文字書き」というべき慣習です.すべて大文字書きすることは,話し言葉でいえば大声で(怒号して)発声していることに相当します.これにより,威圧的なメッセージを作り出すことができるわけです.Horobin (129) がおもしろい例を紹介しています.

While exclamation marks, smileys, and emojis offer methods of defusing situations and apologizing, what happens when you want to deliberatively provoke or insult someone? Here traditional punctuation offers little help, since there are no marks that explicitly indicate anger or aggression. In electronic discourse, however, the use of capitals has become an established means of shouting, or expressing hostility towards your addressee. To write an email entirely in upper-case is seen as an act of deliberate aggression; a New Zealand woman was dismissed from her job for sending emails exclusively in capitals, which were deemed to be the cause of disharmony in the office. The US Navy was forced to change its policy of requiring all communications to be in upper-case, since sailors accustomed to reading text messages and emails considered the default use of capitals at the equivalent of being constantly shouted at.


 大文字書きの問題1つをとっても,立派な言語学の話題になります.

 ・ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.

Referrer (Inside): [2023-08-26-1]

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