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metonymy - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-12-15 08:44

2012-08-30 Thu

#1221. 季節語の歴史 [semantic_change][lexicology][metonymy][calendar]

 Fischer が英語の季節語に関する興味深い論文を書いている.要約すると次のようになる.

 ゲルマン文化において,1年は夏と冬の2季に区分されていた.しかし,四季を区分する南欧文化との接触により,早くから春と秋の概念も入ってきてはいた.古英語では,sumerwinter の伝統的な2季区分に加えて,狭義に春の特定の1期間を表わす lencten が 広義に「春」として用いられ,狭義に秋の特定の1期間を表わす hærfest が広義に「秋」として用いられる例があり,現代のように四季の概念も語も揃っていた.ただし,lenctenhærfest のそれぞれの語には相変わらず狭義も併存していたため,専ら広義に季節を表わす現代英語の springautumn, fall と比べると,季節名称としての存在感はやや希薄だった.
 中英語になると,古英語 lencten に対応する語は狭義へと退行する.14--15世紀には広義の「春」を失い,「春」の意味の場を巡る語彙の競合が始まる.「春」の意味の場は不安定となり,かつてのゲルマン的2季区分の記憶ゆえか,sumer が「春」をも含む超広義を発達させる.こうして,13世紀後半には,春の到来を告げる表現 Sumer is icumen in が現われた.
 近代英語に入ると,「春」を巡る競合を制して,spring が台頭してくる.これは,植物が芽吹くイメージに重ね合わせた比喩として,生き生きとした表現に感じられたためかもしれない.spring of the leaf のような metonymy 表現もあれば,spring of the year のような metaphor もあった.同様に,古英語以降長らく「秋」を担当していた hervest も,18世紀の終わりまでには,やはり植物に比喩を取った fall や,フランス借用語の autumn などの類義語に徐々に地位を明け渡した.最終的に,同じように植物に比喩をとった springfall が生き残ったのは偶然ではないだろう.

 Fischer は,以上の結論を得るために,古英語から近代英語にかけての「春」「秋」語彙を詳細に調査し,季節語の多義の消長を示す semasiological diagram と,季節に対応する類義語の消長を示す onomasiological diagram を描いた.結論の一環として,spring の存在は drag-chain によって,harvest の消失は push-chain によって説明されるとしている点も興味深い (86) .

 ・ Fischer, Andreas. "'Sumer is icumen in': The Seasons of the Year in Middle English and Early Modern English". Studies in Early Modern English. Ed. Dieter Kastovsky. Mouton de Gruyter, 1994. 79--95.

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2012-07-24 Tue

#1184. 固有名詞化 (1) [onomastics][toponymy][metonymy][semantic_change][semantics][sign][origin_of_language]

 metonymy を含む比喩 (trope) の研究は,意味論で盛んに行なわれてきた.そこでは,しばしば,固有名詞が一般名詞化した事例が取り上げられる.atlas, bloody mary, cardigan, dobermann (pinscher), hoover, jacuzzi, jersey, juggernaut, madeira, mercury, oscar, post-it, sandwich, tom (cat), turkey, wellington (boot) など枚挙にいとまがない.総称部の省略,固有名を記念しての命名,ヒット商品などにより,普通名詞化してゆく例が見られる.
 しかし,逆の過程,一般名詞が固有名詞化する過程については,あまり研究対象とされてこなかった.この過程は,固有名詞学 (onomastics) では "onymisation" と呼ぶべきものである.Coates は,古英語の一般的な統語表現 sēo fūle flōde "the foul channel" が Fulflood という固有の河川名へ発展して行く過程を例に取りながら,onymisation を理論的に考察している.以下,Coates (30--33) を要約しよう.
 まず,onymisation は,必ずしも形態的な変化を含意しない.確かに Fulflood の場合には,母音の変化を伴っているが,the White House などは,元となる "the white house" と比べて特に形態的な変化は生じていない(ここでは強勢の差異は考慮しないこととする).onymisation の本質は,語の形態にあるのではなく,常に固有名として使われるようになっているか,という点にある.後に見るように,実際には onymisation は形態変化を伴うことも多いが,それは過程の本質ではないということである.
 次に,固有名詞になるということは,元となる表現のもっていた意味を失うということである.sēo fūle flōde は,「その」「きたない」「水路」という,生きた個別的な意味の和として理解されるが,Fulflood は通常分析されずに,直接に問題の河川を指示する記号として理解される.前者の意味作用を "semantic" と呼ぶのであれば,後者の意味作用は "onymic" と呼ぶことができるだろう.
 現在,日常的には flood にかつての「水路」の意味はない.一般名詞としての flood は,古英語以来,意味を変化させてきたからだ.しかし,古い意味は固有名詞 Fulflood のなかに(敢えて分析すれば)化石的に残存しているといえる.この残存は,固有名詞 Fulflood が形態分析も意味分析もなされなかったからこそ可能になったのであり,onymisation の結果の典型的な現われといえる,意味を失うことによって残存し得たというのが,逆説的で興味深い.
 さらに,Coates は,意味作用,進化論,言語獲得の知見から,"Onymic Reference Default Principle" (ORDP) を提唱している.これは,"the default interpretation of any linguistic string is a proper name" という仮説である.前提には,原初の言語使用においては,具体的で直接な指示作用 (onymic reference) が有利だったに違いないという進化論的な発想がある.
 最後に,onymisation はしばしば形態的な変化を伴う.これは音韻的な摩耗や,一般語には見られない例外的な音韻変化というかたちを取ることが多い.固有名詞語彙は一般語彙のように音韻領域密度が高いわけではないので,発音に多少の不正確さや不規則さがあっても,固有名詞間の識別は損なわれないからだという.

Using an expression to refer onymically licenses the kind of attrition, or early and/or irregular sound change . . . because the phonological space of proper names is less densely populated than that of lexical words, and successful reference may be achieved despite less phonological precision. (33)


 固有名詞あるいは固有名詞化という話題について,記号論的な立場から,ここまで詳しく考えたことはなかったので,Coates の論文をおもしろく読んだ.

 ・ Coates, Richard. "to þære fulan flóde . óf þære fulan flode: On Becoming a Name in Easton and Winchester, Hampshire." Analysing Older English. Ed. David Denison, Ricardo Bermúdez-Otero, Chris McCully, and Emma Moore. Cambridge: CUP, 2012. 28--34.

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2011-07-30 Sat

#824. smoke --- 2重の品詞転換 [conversion][metonymy][semantic_change][pronunciation]

 名詞 smoke には主要な語義として「煙」と「喫煙」の2つがある.The air was thick with cigarette smoke. では前者の語義が,Are you coming outside for a smoke? では後者の語義が用いられている.両語義は密接であり,その関係は換喩 (metonymy) によって容易に説明できる.したがって,これは単純に名詞 smoke の意味の拡大の例だと片付けてしまいがちである.
 ところが,Bradley は,これは歴史的には2重の品詞転換 (conversion) の例であると断言している.なるほどと納得させられる議論だ.

Occasionally it happens that a noun in this way gives rise to a verb, which in its turn gives rise to another noun, all three words being exactly alike in sound and spelling. Thus, in the following examples: (1) 'The smoke of a pipe,' (2) 'To smoke a pipe,' (3) 'To have a smoke,' the noun of (1) is not, strictly speaking, the same word as the noun of (3). It is true that in cases like this our dictionaries usually treat the secondary noun as merely a special sense of the primary noun; and, indeed, very often, this treatment is unavoidable, because the difference of meaning between the two is so slight that in some contexts it disappears altogether. Still, it ought not to be forgotten that from the historical point of view the two nouns are really distinct: if English had retained its original grammatical system this would probably have been shown by a difference of termination, gender, or declension. (93--94)


 英語史における品詞転換については[2009-11-03-1]ほか conversion の各記事で扱ってきたが,その起源は古英語後期に始まった屈折語尾や派生語尾の水平化現象に遡る.古英語には名詞語尾や動詞語尾などカテゴリーごとに異なる語尾を付与する形態論があったが,語尾の水平化によりカテゴリー間の形態的区別が失われると,同一形態がカテゴリーをまたいで自由に往来できる素地が整った.Bradley は,smoke の名詞としての両語義は,その往来により生まれたものだとしている.興味深いのは,引用の最後にあるように,古英語の形態論が健在であると仮定すれば,「煙」と「喫煙」は異なる形態論的特徴(形態そのもの,性,屈折タイプなど)をもつ異なる名詞として存在していただろうということである.
 smoke についてはあくまで仮定の話しだが,実際に古英語の形態論的特徴を保ったまま現代に生きている例がある.例えば,bath は,(1) 'take a bath,' (2) 'bathe in the sea,' (3) 'take a bathe in the sea' のように発展してきており,(1) と (3) は smoke の場合と違い,異なる形態を示している.これは,古英語で <th> に相当する語幹末の音素が,音声環境に応じて無声音 [θ] か有声音 [ð] として現われる音素だったことに由来する差異で,[2011-03-30-1]の記事「-ths の発音」で触れたように breathe, clothe にも共通する.
 このように bathbathe による明らかな例を示されると,smoke の例を2重の品詞転換と考える議論が説得力をもつように思われる.

 ・ Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

Referrer (Inside): [2012-04-23-1] [2011-11-08-1]

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