hellog〜英語史ブログ

#3134. James VI 作の「主の祈り」[monarch][scots_english][emode][bible]

2017-11-25

 「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1]) で古英語から現代英語にかけての「主の祈り」のヴァージョンを比べたが,ここに初期近代のスコットランド方言のヴァージョンを加えよう.
 学者肌のスコットランド王 James VI (1566--1625) が,1580年代に韻文版「主の祈り」を自らの Scots 方言で作成していた.本人による手書きのものが London, British Library, MS Royal 18 B.xvi, f. 44 に確認される.James VI は English English ではなく Scots (English) で書くことにためらいを感じていた様子はなく,堂々たる出来映えだ.Crystal (125) より再現しよう.

THE LORDIS PRAYER

Ô michtie father that in heauin remainis
thy noble name be sanctifeit alwayes
thy kingdome come, in earth thy will & rainis
euen as in heauunis mot be obeyed with prayse
& giue us lorde oure dayly bread & foode
forgiuing us all oure trespassis aye
as we forgiue ilk other in lyke moode
lorde in temptation lead us not ue praye
but us from euill deliuer euer moire
for thyne is kingdome ue do all record
allmichtie pouer & euerlasting gloire
for nou & aye so mot it be ô lorde.


 このスコットランド王 James VI が,後の1603年にイングランドのスチュワート朝の開祖としてイングランド王 James I ともなるわけだが,そのときに臣下の者たちとともにこの Scots 方言をロンドンの宮廷に運ぶこととなった.はたしてイングランドの民衆は,この方言を権威ある変種として認めたのだろうか.新しい宮廷言語の発生に,少なくともある種のショックは感じたことだろう.逆にいえば,Scots のイングランド英語化が始まった瞬間ともいえるだろう.
 この君主に関係する話題として,「#491. Stuart 朝に衰退した肯定平叙文における迂言的 do」 ([2010-08-31-1]),「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]),「#1952. 「陛下」と Your Majesty にみられる敬意」 ([2014-08-31-1]),「#2128. "than" としての noror」 ([2015-02-23-1]),「#3095. Your Grace, Your Highness, Your Majesty」 ([2017-10-17-1]) も参照されたい.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

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