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genitive - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-10-13 11:14

2013-03-03 Sun

#1406. 束となって急速に生じる文法変化 [causation][language_change][speed_of_change][generative_grammar][lexical_diffusion][grammatical_change][auxiliary_verb][syntax][genitive][case]

 言語変化あるいは文法変化の速度については speed_of_change の各記事で取り上げてきたが,ほとんどが言語変化の遅速に関わる社会的な要因を指摘するにとどまり,理論的には迫ってこなかった.「#621. 文法変化の進行の円滑さと速度」 ([2011-01-08-1]) で,言語を構成する部門別の変化速度について,少し論じたぐらいである.
 生成文法では,子供の言語習得に関わるメカニズムと Primary Linguistic Data (PLD) とよばれる入力の観点から,共時的に文法変化が論じられてきた.この議論の第一人者は Lightfoot である.Lightfoot は2006年の論文で長年にわたる持論を要約している.

Changes often take place in clusters: apparently unrelated superficial changes occur simultaneously or in rapid sequence. Such clusters manifest a single theoretical choice which has been taken differently. If so, the singularity of the change can be explained by the appropriately defined theoretical choice. So the principles of UG and the definition of the cues constitute the laws which guide change in grammars, defining the available terrain. Any change is explained if we show, first, that the linguistic environment has changed and, second, that the new phenomenon . . . must be the way that it is because of some principle of the theory and the new PLD. (42)


 引用の第1文に,言語変化においては,関連する変化が束となって同時にあるいは急速に生じる,とある.別の引用も示そう.

[I]f grammars are abstract, then they change only occasionally and sometimes with dramatic consequences for a wide range of constructions and expressions; grammar change tends to be "bumpy," manifested by clusters of phenomena changing at the same time . . . . (27)


 この論文のなかで,Lightfoot は,can, may, must などの法助動詞化 (auxiliary_verb) が,関与する多くの語において短期間に生じ,16世紀初期までに完了したこと,do-periphrasis ([2010-08-26-1]) が18世紀に生じたこと,この2つの一見すると関連しない英語史における文法変化が,V-to-I operation という過程の消失によって関連づけられることを論じる.また,英語史における主要な問題である格の衰退と語順の発達の関係について,split genitive, group genitive, of による迂言的属格,-'s の盛衰を例にとり,格理論を用いることで一連の文法変化が関連づけて説明できると主張する.
 「束となって」「急速に」というのが,Lightfoot の言語変化論において最も重要な主張の1つである.この点でおそらく間接的に結びついてくるのが,語彙拡散 (lexical_diffusion) だろうと考えている.語彙拡散においては,関連する項目が「束となって」少なくとも拡散の中間段階においては「急速に」進行するといわれている.Lightfoot の言語変化理論と語彙拡散は,世界観がまるで異なるし,扱う対象も違うのは確かだが,"clusters" と "bumpy" という共通のキーワードは言語変化の生じ方の特徴を言い表わしているように思えてならない.

 ・ Lightfoot, David W. "Cuing a New Grammar." Chapter 2 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 24--44.

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2012-11-23 Fri

#1306. for the nonce [etymology][inflection][metanalysis][terminology][sir_orfeo][oed][dative][genitive][ormulum]

 for the nonce (さしあたって,当座は;当分)という句がある.The team is called "the Lions," at least for the nonce. のように使われる.この表現には,定冠詞 the のかつての屈折形の名残がみられ,語源的に興味深い.
 現在の形態に直接につながる初例は,1200年くらいの作とされる Ormulum において forr þe naness として現われる.第3語の語頭の n は,直前の定冠詞の初期中英語での単数与格屈折形 þen の語末の n異分析 (metanalysis) されたものであり,語幹の一部と再解釈されて現在に至っている.かつての単数与格屈折語尾が意外なところで化石的に生き残っている例である.
 この句は,形態的にも意味的にも現代英語でいう *for the once に対応するかのように見えるが,歴史的には第3語を once あるいは one's[2009-07-18-1]の記事「#81. oncetwice の -ce とは何か」を参照)に相当する初期中英語の属格に基づく表現に直接由来すると解するには難点がある.OED によれば,属格形は確かに間接的には関与するだろうが,この句は,むしろ古英語に見られる to þam anum や その初期中英語版 to þan ane などと比較されるべき,one の与格を含む表現として始まったのではないかという.後に定着した属格形は,与格形が置換されたものと考えられる.置換の理由としては,「一度」を意味するのに属格に由来する anes, ones と並んで,与格に由来する ane, ene も用いられたことから,両者の交替が自然だったのではないか.
 中英語では,異分析が生じる前の形態と生じた後の形態が共存しており,MED には ōnes (adv.) の語義5と nōnes (n.(1)) の語義1の両方に,この句が登録されている.後者によれば,現在に伝わる「臨時に」と「当座は」の語義のほかに,強意語として "indeed" ほどの語義や,韻律的な埋め草としての意味の希薄な用法があると記載されている.強意あるいは埋め草としての例を,Bliss 版 Sir Orfeo (Auchinleck MS, ll. 51--56) から引こう.

Þe king hadde a quen of priis
Þat was y-cleped Dame Heurodis,
Þe fairest leuedi, for þe nones,
Þat miȝt gon on bodi & bones,
Ful of loue & of godenisse;
Ac no man may telle hir fairnise.


 句として以外にも,nonce には「臨時の」という形容詞としての用法がある.名詞とともに一種の複合語を形成して,言語学の術語として nonce-word (臨時語),nonce-form (臨時形)などと使う.この用法の初例は,OED の編纂者 James Murray が1884年に OED 初版の説明書きに用いたときである.

1884 N.E.D. Fasc. 1, p. x, Words apparently employed only for the nonce, are, when inserted in the Dictionary, marked nonce-wd.


 OED にこの旨が詳しく記載されているのだから,OED による自作自演の用法といってよいだろう.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.

Referrer (Inside): [2015-10-16-1] [2014-11-11-1]

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2012-08-24 Fri

#1215. 属格名詞の衰退と of 迂言形の発達 [word_order][syntax][genitive][lexical_diffusion][statistics][synthesis_to_analysis]

 昨日の記事「#1214. 属格名詞の位置の固定化の歴史」 ([2012-08-23-1]) で,中英語における被修飾名詞に対する属格名詞の位置の固定可について見たが,前置であれ後置であれ,属格名詞そのものが同時期に衰退していったという事実を忘れてはならない.属格名詞を用いた A's B の代わりに B of A というof による迂言形が発達し,前者を脅かした.この交替劇は,大局から見れば,総合から分析へ (synthesis_to_analysis) という英語史の潮流に乗った言語変化である.
 Fries (206) に与えられている表は,古英語から中英語にかけて3種類の属格(前置属格,of 迂言形,後置属格)がそれぞれどの程度の割合で用いられれたかを示す統計値である.これをグラフ化してみた.

 Post-positive genitive'Periphrastic' genitivePre-positive genitive
c. 90047.5%0.5%52.0%
c. 100030.5%1.0%68.5%
c. 110022.2%1.2%76.6%
c. 120011.8%6.3%81.9%
c. 12500.6%31.4%68.9%
c. 13000.0%84.5%15.6%


Development of Three Types of Genitive

 グラフからは,3種類の属格の交代劇が一目瞭然である.古英語の終わりにかけて後置属格が衰退するにともなって前置属格が伸長し,その後13世紀中に of 迂言形が一気に拡大して前置属格を置き換えてゆく.of 迂言形の拡大については,Mustanoja (74--76) が詳しい.

 ・ Fries, Charles C. "On the Development of the Structural Use of Word-Order in Modern English." Language 16 (1940): 199--208.
 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

Referrer (Inside): [2015-10-19-1]

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2012-08-23 Thu

#1214. 属格名詞の位置の固定化の歴史 [word_order][syntax][genitive][lexical_diffusion][statistics]

 「#132. 古英語から中英語への語順の発達過程」 ([2009-09-06-1]) と昨日の記事「#1213. 間接目的語の位置の固定化の歴史」 ([2012-08-22-1]) に引き続き,Fries の研究の紹介.今回は,属格名詞が被修飾名詞に対して前置されるか後置されるかという問題について.
 c900--c1250年の発展について,次のような結果が得られた (Fries 205) .

 c. 900c. 1000c. 1100c. 1200c. 1250
Genitive before its noun52.4%69.1%77.4%87.4%99.1%
Genitive after its noun47.6%30.9%22.6%12.6%0.9%


Development of Genitive Before Its Noun

 早くも13世紀には,属格名詞の前置が固定可されていたことがわかる.
 関連して,17世紀後半に属格名詞ではなく通格名詞(単数でも複数でも)が他の名詞に前置されてそのまま修飾語として用いられる例 (ex. school teacher, examination paper) が現われるが,修飾語と被修飾語の位置関係が固定されていなければ不可能な統語手段である (206) .
 これまでに動詞と直接目的語と間接目的語の位置関係,属格名詞と被修飾名詞の位置関係の歴史について見てきたことになるが,いずれも遅くとも中英語の終わりまでには現代英語的な語順に固定していたことがわかる.中英語は,語順の固定可が著しく進んだ時代と結論づけてよいだろう.

 ・ Fries, Charles C. "On the Development of the Structural Use of Word-Order in Modern English." Language 16 (1940): 199--208.

Referrer (Inside): [2015-10-19-1] [2012-08-24-1]

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2011-07-25 Mon

#819. his 属格 [genitive][synthesis_to_analysis]

 屈折語尾によらず,人称代名詞の属格形を並置して所有を示す his-genitive という独特な用法が,古い英語で知られている.用例は古英語から見られる.Mustanoja (159) が挙げている次の古英語からの例では,Enac his cynren は "Enac's posterity" の意を表わす.

we gesawon Enac his cynren (Ælfric Num. xiii 29)


 このような用法の動機づけは理解できる.固有名詞は一般名詞と異なり明確な屈折語尾を取らないのが普通であり,属格を明示したい場合には,人称代名詞の属格を用いるのが便利だからだろう.属格以外にも,格を明示したい場合に,対応する人称代名詞の格形を並置するという例は古英語にいくらでもあった( he Ninus, hym Olofernus など).
 中英語でも,his 属格の用例はいくつも見つけられる.Mustanoja (159) に挙げられている数例を示そう.

- þe cnapenchild hiss shapp (Orm. 4220)
- Hengest his sone (Lawman B 16772); þat wes Hengest sune (A)
- Loth his eldeste sone (Lawman B 23248)
- ine Winchestre his toun (Lawman B 19630); Winchastre tun (A)
- Felyce hir fayrnesse (PPl. B xii 47)
- sche hadde be kyng Alexandre his lemman (Trev. Higd. I 155)
- þe whiche kyng his prayers to God þat day were moche worthy (Trev. Higd. VI 349)
- Gwenayfer his love (Lawman B 22247)
- at þare ditch his grunde (Lawman B 1589)


 最後の2例は,his に先立つ名詞がそれぞれ女性,無性を指示する点で特異である.例からもわかるように,Lawman B と Trevisa による Higden の Polychronicon のテキスト(両方とも南西方言)では用例が多いが,それ以外では15世紀までこの構造は稀である.15世紀以降になると,この構造は頻度を高め,17世紀まで存続する.なお,女性を指示する名詞に後置される her 属格は少ないながらも例証されるが,複数形に対応する属格の例 *her や *their はない.
 中英語の his 属格の起源には諸説ある.

 (1) 古英語の所有の与格 (possessive dative) の特殊構文に基づく類推.例えば,her Romane Leone þæm papan his tungan forcurfon (OE Chron. an. 797) では,所有の与格 þæm papan がかかってゆく tunganhis による修飾をも受けている.
 (2) his はその弱形 is が属格語尾 -es, -is と同形となるので,属格語尾が語幹から切り離されたものと解釈できるのではないか.
 (3) 古英語にも上掲の Enac his cynren のように対応する構文があったことから,分析的な表現を用いる傾向が中英語以降に継続・発展したものと考えられるのではないか.
 (4) フランス語の対応する表現 (ex. pour escaper de Deu sen ire [Gilles de Muisis i 20]) の影響.しかし,フランス語でも用例は多くない.

 Mustanoja (161--162) は,(4) は排除しながら,(1), (2), (3) の組み合わせ説を支持している.
 英語史の全体的な傾向,総合から分析 (synthesis to analysis) への潮流を考えれば,his 属格の発生と発展はまったく驚くべきことではないだろう.むしろ,なぜ近代英語期に廃れていったのか,そちらの問題のほうが興味深い.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2009-11-11 Wed

#198. its の起源 [spelling][personal_pronoun][punctuation][gender][genitive]

 昨日の記事[2009-11-10-1]で,人称代名詞 its の用法について触れた.そこに挙げた Shakespeare (First Folio ed.) からの引用では,its ではなく it's という綴字が用いられていることに気づいただろうか.First Folio 版を全体としてみると,apostrophe ありの it's が9例,なしの its が1例,確認される.当時は it's のほうが頻度が高かったことになる.
 apostrophe の有無は別として,そもそも its が所有代名詞として使われるようになったこと自体が,比較的あたらしい.its の初例は16世紀末であり,それ以前の古英語・中英語の時期は,his が用いられていた.この his は,[2009-09-29-1],[2009-10-25-1]でみたように,由緒正しい三人称単数中性の形態であり,三人称単数男性 his の転用というわけではない.同様に,歴史的には him は三人称単数男性の与格形であるとともに三人称単数中性の与格形でもあった.
 だが,中英語期に,文法性 ( grammatical gender ) が廃れて自然性 ( natural gender ) が名詞・代名詞のカテゴリーとして確立してくると,男性(人)と中性(非人)のものとで同じ代名詞の形態が共有されていることに違和感が生じてくる.実際に,Chaucer の代名詞体系 [2009-10-25-1] では,古英語で中性与格形だった him は姿を消している.そして,近代英語期にずれこみはしたが,違和感解消の圧力は,中性属格形だった his にも及んだ.中性の his を置き換えたのは,it という主格形に名詞の所有格語尾として定着していた -s を付けようという単純な発想に基づいて作られた its だった.
 中性としての himhis の消失・置換のほかにも,人と非人の区別を明確にしようという圧力は,先行詞に応じて関係代名詞 whowhich を使い分けるようになった過程にもみられる.これも,近代英語期に生じた過程である.
 以上の背景で its は16世紀末に現れ,17世紀中にはほぼ確立した.しかし,初期の綴字である it's も19世紀初まで散発的にみられたし,誤用として現在にまで根強く残っている.it isit has の省略形としての it's と,代名詞の所有格の its は,発音が同じこともあり,現在でも英語母語話者にとって最もよく間違えられる綴字の一つである.このよくある間違いについてはこちらの記事も要参照.

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2009-07-18 Sat

#81. oncetwice の -ce とは何か [numeral][etymology][genitive][adverbial_genitive][spelling][sobokunagimon]

 [2009-07-04-1]の記事で,現代英語の序数詞において firstsecond だけが他と比べて異質であることを話題にしたが,倍数・度数表現にも似たようなことが観察される.原則として倍数・度数表現は ten times のように「 数詞 + times 」という句で表されるが,oncetwice は例外である.
 この oncetwice が,それぞれ onetwo の語幹の変異形に -ce が付加されたものだ,ということは初見でもわかると思うが,この -ce とはいったい何だろうか.
 -ce は,現代英語の名詞の所有格を示す 's と同一の起源,すなわち古英語の男性・中性名詞の単数属格語尾 -es にさかのぼる.形態的には,古英語の「属格」が現代英語の「所有格」につらなるのだが,古英語や中英語の属格は単なる所有関係を指示するにとどまらず,より広い機能を果たすことができた.属格の機能の一つに,名詞を副詞へ転換させる副詞的属格 ( adverbial genitive ) という用法があり,oncetwice はその具体例である(詳しくは Mustanoja を参照).いわば one'stwo's と言っているだけのことだが,古くはこれが副詞として用いられ,それが現在まで化石的に生き残っているというのが真相である.OED によると,oncetwice という語形が作られたのは,古英語から中英語にかけての時期である.
 中英語期にも副詞的属格は健在であり,時や場所などを表す名詞の属格が多く用いられた.たとえば,always, sometimes, nowadays, besides, else, needs の語尾の -s(e) は古い属格語尾に由来するのであり,複数語尾の -s とは語源的に関係がない.towards, southwards, upwards などの -wards をもつ語も,属格語尾の名残をとどめている.
 また,I go shopping Sundays のような文における Sundays は,現在では複数形と解釈されるのが普通だが,起源としては単数属格と考えるべきである.属格表現はのちに前置詞 of を用いた迂言表現に置き換えられたことを考えれば,of a Sunday 「日曜日などに」という現代英語の表現は Sundays と本質的に同じことを意味することがわかる.
 最後に,古英語の -esoncetwice において,なぜ <ce> と綴られるようになったか.中英語までは onestweies などと綴られていたが,近代英語期に入り,有声の /z/ ではなく無声の /s/ であることを明示するために,フランス語の綴り字の習慣を借りて <ce> とした.同じような経緯で <ce> で綴られるようになった語に,hence, pence, fence, ice, mice などがある.

 ・Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960. 88--92.

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