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numeral - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-07-22 19:32

2014-02-26 Wed

#1766. a three-hour(s)-and-a-half flight [compound][adjective][plural][number][numeral][hyphen]

 標記のような数詞と単位を含む複合形容詞においては,単位を表わす名詞は複数形を取らないのが規則とされる.a four-power agreement, a five-foot-deep river, a ten-dollar bill, a twelve-year-old boy などの如くである.
 しかし,ときに複数形を取る例も散見され,a three-hours-and-a-half flight もあり得るし,a four years course もあり得る.Quirk et al. (Section 17.108) によれば,同種の表現として以下の4通りが可能である.

. . . in quantitative expressions of the following type there is possible variation . . .:
a ten day absence[singular]
a ten-day absence[hyphen + singular]
a ten days absence[plural]
a ten days' absence[genitive plural]


 同様に,「4年制課程」についても,"a four year course", "a four-year course", "a four years course", "a four years' course" のいずれもあり得ることになる.これらの変異形がいかにして生じてきたのか,使い分けの基準がありうるのかという問題は,通時的,理論的に興味深い問題だが,現段階では未調査である.
 この問題と関連しうる話題として注意しておきたいのは,やはりイギリス英語において,名詞の限定形容詞用法では,その名詞が複数形としてある程度語彙化している場合に,複数形の形態のままで実現されることが多いという事実だ.例えば,Quirk et al. (Section 17.109) によると,イギリス英語限定だが,次のような例がみられるという.parks department, courses committee, examinations board, the heavy chemicals industry, Scotland Yard's Obscene Publications Squad, Chesterfield Hospitals management Committee, the British Museum Prints and Drawings Gallery, an Arts degree, soft drinks manufacturer, entertainments guide, appliances manufacturer, the Watergate tapes affair.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2012-12-11 Tue

#1324. two の /w/ はいつ落ちたか [numeral][spelling][pronunciation][laeme][lalme]

 「#184. two の /w/ が発音されないのはなぜか」 ([2009-10-28-1]) で,two の発音に含まれる半母音 /w/ が,いつどのように脱落したかについて簡単に触れた.15?16世紀に脱落したとされるが,綴字で確認する限りでは,方言によってはもっと早く中英語期に脱落していたことを示す証拠がある.
 まず,後期中英語について.LALME の Dot Map 548--57 に two の異綴りの方言分布が示されている.主要な異綴りについて概説すれば,twa タイプ (Dot Map 548) は北部方言に限定されているのに対して,最も普通の two タイプ (Dot Map 550) は北部を含むイングランド全域にまんべんなく例証される.問題の <w> の綴字を含まない to(o) タイプ (Dot Map 557) は,広く南部に見られ,とりわけ East Anglia や South-West Midland に濃く分布している.このように,後期中英語では,すでに w の落ちた形態がイングランド南半で珍しくなかったことがわかる.
 では,初期中英語ではどうだったろうか.LAEME で調べてみた.TO あるいは TO- の綴字をもつ "two" を取り出し,方言別,時代別に整理すると以下のようになった.

 C12bC13aC13bC14a
N   1
NEM   1
NWM    
SEM  286
SWM 11 
SW  420
SE    


 ちょうど LALME の Dot Map 557 で to(o) が比較的濃い分布を示していた地域に,TO(-) が集まっている.初期中英語から後期中英語への分布の連続性がよく表われている例といえるだろう.<w> をもたない綴字は,時代としてはおよそ13世紀後半以降に,南部諸方言を中心に始まったと考えてよさそうだ.対応する音声における /w/ の脱落も同様に考えるのが妥当だろう.
 中英語におけるこの語の数々の異綴りについては,MEDを参照.

 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

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2012-12-06 Thu

#1319. 多数を表わす sixty [numeral][sir_orfeo]

 Sir Orfeo の最初に,林檎の木の下で昼寝をして気の狂った Eurydice を連れ戻すために,多数の人々が駆けつけてくる場面がある.そこで,多数を表わすのに sexti という数が用いられている.Bliss 版,Auchinleck MS (ll. 89--90) より.

Kniȝtes vrn & leuedis also,
Damisels sexti & mo.


 対応する Harley 3810 の行は "Knyȝtys out went & ladyes also, / & damsellis fyfty & mony mo;" (ll. 86--87) ,Ashmole 61 の行は "Sexty knyȝtys & ȝit mo, / And also fele ladys þer-to," (ll. 77--78) とあり,数は60と50で揺れている.現代の我々にとって50はキリがよいが,60というのは中途半端の気味がある."and more" と付け足されているからには,厳密な数ではなく多数を表わす表現であると理解してよいが,この60という数は一体どこから出てきたのだろうか.
 中英語の詩ではこの種の適当な概数はよくあるように思われるので,それほど注目していなかったが,ちょうどこの箇所の "sixty" について,小論があるというので読んでみた.Tucker によると,中英語には多数を表わす "sixty" の用法の "plenty of evidence" (152) があるという.Tucker (153) は,Havelok, Sir Ferumbras, Otuel and Roland からの "sixty" およびその倍数の例を指摘しながら,次のように推測する.

'Fifty'---or 'half a hundred' would seem more natural to the modern reader: are these prevailing 'sixties' a relic of the old duodecimal reckoning familiar in the Scandinavian 'Long Hundred' of 120?


 MED には特に関連する記述はなかったが,OED では sixty, adj. and n の項で,B. n. 1b として次の句が登録されている.初例は1848年である.

b. like sixty, with great force or vigour; at a great rate. colloq. or slang. (Cf. FORTY adj. b.)


 そこに参照のある forty の項を見ると,"Used indefinitely to express a large number. like forty (U.S. colloq.): with immense force or vigour, 'like anything'. とあり,Shakespeare が初例となっている.
 中英語の「多数」の "sixty" と近現代の like sixty に連続性があるかどうかは疑わしいが,古今東西,特定の数のもつ含意というのは様々であり,興味深い.関連して,「#84. once, twice, thrice」 ([2009-07-20-1]) の thrice- 複合語を参照.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Tucker, Susie I. "'Sixty' as an Indefinite Number in Middle English." The Review of English Studies 25 (1949): 152--53.

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2012-04-11 Wed

#1080. なぜ five の序数詞は fifth なのか? [numeral][adjective][inflection][oe][phonetics][assimilation][analogy][sobokunagimon][shocc]

 標題は,先日素朴な疑問への投稿に寄せられた質問.基数詞 five に対して序数詞 fifth であるのはなぜか.基数詞 twelve に対して序数詞 twelfth であるのはなぜか,というのも同じ問題である.
 今回の疑問のように「基本形 A に対して,関連する A' が不規則形を帯びているのはなぜか」というタイプの問題は少なくないが,問題提起を逆さに見るほうが歴史的事実に対して忠実であるということが,しばしばある.今回のケースで言えば,「 /v/ をもつ基数詞 five に対して,関連する序数詞が不規則な /f/ をもつ fifth となっているのはなぜか」ではなく「 /f/ をもつ序数詞 fifth に対して,関連する基数詞が不規則な /v/ をもつ five となっているのはなぜか」と考えるべき問題である.歴史的には fifth の /f/ は自然であり,five の /v/ こそが説明を要する問題なの である.
 古英語に遡ると,基数詞「5」は fīf であり,基数詞「12」は twelf だった.綴字に示されている通り,語尾は無声音の [f] である(cf. 現代ドイツ語の fünf, zwölf).古英語で序数詞を作る接尾辞は -(o)þa だったが,この摩擦子音は [f] の後では破裂音 [t] として実現され,古英語での対応する序数詞は fīfta, twelfta として現われた.中英語以降に,他の序数詞との類推 (analogy) により tth に置き換えられ,現代英語の fifth, twelfth が生まれた.
 もう1つ説明を加えるべきは,古英語で「5番目の」は fīfta と長母音を示したが,現在では短母音を示すことだ.これは,語末に2子音が後続する環境で直前の長母音が短化するという,中英語にかけて生じた一般的な音韻変化の結果である.同じ音韻変化を経た語を含むペアをいくつか示そう.現代英語ではたいてい母音の音価が交替する.([2009-05-14-1]の記事「#16. 接尾辞-th をもつ抽象名詞のもとになった動詞・形容詞は?」も参照.)

 ・ feel -- felt
 ・ keep -- kept
 ・ sleep -- slept
 ・ broad -- breadth
 ・ deep -- depth
 ・ foul -- filth
 ・ weal -- wealth
 ・ wide -- width


 fifth については,このように接尾辞の子音の声や語幹の母音の量に関して多少の変化があったが,語幹の第2子音としては古英語以来一貫して無声の /f/ が継承されてきており,古英語の基数詞 fīf からの直系の子孫といってよいだろう.
 では,次に本質的な問題.古英語の基数詞 fīf の語末子音が有声の /v/ となったのはなぜか.現代英語でもそうだが,基数詞は「5」のように単独で名詞的に用いられる場合と「5つの」のように形容詞的に用いられる場合がある.古英語では,形容詞としての基数詞は,他の通常の形容詞と同様に,関係する名詞の性・数・格・定不定などの文法カテゴリーに従って特定の屈折語尾をとった.fīf は,当然ながら,数のカテゴリーに関して複数としての屈折語尾をとったが,それは典型的には -e 語尾だった(他の語尾も,結局,中英語までには -e へ収斂した).古英語では,原則として有声音に挟まれた無声摩擦音は声の同化 (assimilation) により有声化したので,fīfeの第2子音は <f> と綴られていても [v] と発音された.そして,やがてこの有声音をもつ形態が,無声音をもつ形態を置き換え,基本形とみなされるようになった.twelve についても同様の事情である.実際には,基数詞の屈折の条件は一般の形容詞よりも複雑であり,なぜ [v] をもつ屈折形のほうが優勢となり,基本形と認識されるようになったのかは,別に説明すべき問題として残る.
 数詞のなかでは,たまたま five / fifthtwelve / twelfth のみが上記の音韻変化の条件に合致したために,結果として「不規則」に見え,変わり者として目立っている.しかし,共時的には不規則と見られる現象も,通時的には,かなりの程度規則的な変化の結果であることがわかってくる.規則的な音韻変化が不規則な出力を与えるというのは矛盾しているようだが,言語にはしばしば観察されることである.また,不規則な形態変化が規則的な出力を与える(例えば類推作用)というのもまた,言語にはしばしば観察されるのである.

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2011-12-10 Sat

#957. many more people [adverb][comparison][numeral]

 現代英語で,可算名詞の数が「より多い」場合で,比較基準との差分が大きいときには,many more people などと,比較級の強調に much ではなく many を用いるのが規則である.この many は,more を修飾しているので機能としては副詞的であり,統語上 people と直接関係しているわけではないが,当然,意味上は関連しているために much では不適切との意識が働くのだろう.用例はいくらでもある.

 ・ Many more questions were buzzing around in my head.
 ・ Many have already died, and in the nature of things many more will die.
 ・ They provided a far better news service and pulled in many more viewers.
 ・ How many more can she possibly make?
 ・ Thousands were saved yesterday, but many more remained trapped.


 many の副詞としての用法を理解していれば,多いのか少ないのか混乱するような many fewer なる表現にも驚かないだろう.

 ・ The squid has many fewer tentacles than the nautilus --- only ten --- and the octopus, as its name makes obvious, has only eight.
 ・ How many fewer places are there today than there were two years ago?
 ・ Making love burns up more calories than playing golf and not that many fewer than throwing a frisbee.

 
 では,この many の品詞は何か.統語的には副詞的なので,『ジーニアス英和大辞典』では素直に副詞として扱っている.比較級を強める muchfar と同列に考えても,副詞としての品詞付与は納得されるかもしれない.
 しかし,many には多数を表わす不定数詞としての用法があり,その副詞的用法と解釈することもできる.one more people, two more people, a few more people, some more people, several more people などの表現を参照すれば,many more people はその延長線上に位置づけるのが自然だろう.more の差分を表わすのに,数詞や不定数詞が前置されている構文ととらえるのが理にかなっている.
 OED "more" 4.a. に,関連する記述があった.

4. a. Additional to the quantity or number specified or implied; an additional amount or number of; further. Now rare exc. as preceded by an indefinite or numeral adj., e.g. any more, no more, some more; many more, two more, twenty more; and in archaic phrases like without more ado.
This use appears to have been developed from the advb. use as in anything, nothing more (see C. 4b).


 比較と関連する文脈で不定代名詞がその程度を表わすのに用いられる例としては,[2011-07-12-1]の記事「what with A and what with B」で触れた something like this があろうか.much the same なども関連してくるかもしれない.
 なお,歴史的に見ると,many more 相当表現は少なくとも中英語にはすでに行なわれていたことが,MED "mō (adj.)" に挙げられている例文から確認される.

 ・ By bethleem be many mo placys of goode pasture..þan in oþer placys.
 ・ Thai bith mony mo than we haue shewid yet.

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2011-02-03 Thu

#647. million 以上の大きな単位 [numeral][bre][blend]

 昨日の記事[2011-02-02-1]で,billion 以上の単位の表わす値が現代英語と古風なイギリス英語の間で食い違っており,使用には注意を要することについて述べた.billion を話題にしたついでに,million 以上の大きな単位の英語表現について表でまとめてみた.
 million の -on はフランス語の増大辞 ( augmentative ) で,「大きな mille (千)」の意である ( see [2009-08-30-1] ) .それより大きい単位では,million から -(i)llion が切り出され,それにラテン語の数詞接頭辞が前置されるという語形成になっている.ただし,-(i)llion が生産的な形態素として切り出されたと解釈するのではなく,bi- + million が縮約された一種のblend 「混成語」であるという解釈もありうる ( see [2011-01-18-1] ) .

AmE and BrE old-fashioned BrE日本語
million106million百万
billion109milliard??????
trillion1012billion一兆
quadrillion1015 ??????
quintillion1018trillion百京
sextillion1021 ??????
septillion1024quadrillionじょ
octillion1027 じょ
nonillion1030quintillion百穰
decillion1033 十溝
undecillion1036sextillion一澗
duodecillion1039 千澗
tredecillion1042septillion百正
quattuordecillion1045 十載
quindecillion1048octillion一極
sexdecillion1051 千極
septendecillion1054nonillion百恒河沙
octodecillion1057 十阿僧祇
novemdecillion1060decillion一那由他
vigintillion1063 千那由他
 1069undecillion十無量大数
 1072duodecillion 
 1078tredecillion 
 1084quattuordecillion 
 1090quindecillion 
 1096sexdecillion 
 10102septendecillion 
 10108octodecillion 
 10114novemdecillion 
 10120vigintillion 
centillion10303  
 10600centillion 

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2011-02-02 Wed

#646. billion の値 [numeral][bre]

 どの言語でも,数詞や数詞を含む句は頻度が高く,発音や語法において不規則であることが多い.日本語では「ひとり」「ふたり」に対して「さんにん」,「しちじ」(七時)に対して「ななかい」(七階),「ようか」(八日)や「はたち」(二十歳)など,例は尽きない.
 英語での形態的な問題を指摘すると,通常 hundred, thousand, milliontwo hundred, three thousand, four million のように -s のつかない単複同形だが,概数表現としては hundreds of students, thousands of fans, millions of years のように -s を伴う.
 さて,million の上の単位である billion も上記のように振る舞うが,こちらは指す値に注意する必要がある.billion は一般的には「10億」 ( = one thousand million ) を意味するが,古風なイギリス英語では「1兆」 ( = one million million ) を意味した.同様に,次の単位である trillion は一般的には「1兆」だが,古風なイギリス英語では「100京」である.さらに上の単位である quadrillion, quintillion などでも,現代英語と古風なイギリス英語の指示する値に差が見られる.つまるところ,現代語法では「100万」を基準として次々に1000倍してゆく計算であるのに対して,古風なイギリス語法では「100万」のべき乗で計算するということである.
 billion = 「1兆」の対応関係は古風なイギリス語法であるとはいっても,20世紀半ばまで実際に用いられていたので注意を要する.billion は17世紀の終わりころにフランス語から借用された.フランス語の原義は100万の2乗を表わす「1兆」であり,それが英語やドイツ語に入った.ところが,後にフランスやアメリカは3桁ずつ数字を区切る慣習を発達させ,100万の1000倍を表わす「10億」の意味を採用することになる.ここに「英独1兆」対「米仏10億」という対立が生じることになった.しかし,話しはここで終わらない.イギリス英語は20世紀半ばからアメリカ式の「10億」の意味を一般化させ,フランス語は1949年以降もとの「1兆」に回帰した.このような複雑な過程を経て,現在は「英米10億」対「仏独1兆」という図式に落ち着いている.
 イギリス英語では,上記のように比較的近年まで billion が「1兆」を指していたこともあり,現在でも意味の曖昧さを排除すべき文脈では billion の使用は避けるべきともされる.Quirk et al. (6.63n [p. 394]) の説明を引用する.

One thousand million (1,000,000,000) is called one billion in the American system of numeration. In the UK, billion has traditionally been used for 1,000,000,000,000 (1012), corresponding to one trillion in the US. However, the American usage where billion = 109 is now often used also in the UK by people who are ignorant of the double meaning of the word. It is not used by scientists, engineers, and mathematicians according to the British Standards Institution, which recommends that the use of billion, together with the equally ambiguous trillion (1012 or 1015) and quadrillion (1015 or 1018), should be avoided.


 引用の最後の "together with . . ." 句は,現代英語語法と古風なイギリス語法との対比という文脈ということであれば,"together with the equally ambiguous trillion (1012 or 1018) and quadrillion (1015 or 1024)" (赤字引用者)となるべきところではないだろうか.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2009-10-28 Wed

#184. two の /w/ が発音されないのはなぜか [numeral][etymology][pronunciation][vowel][phonetics][inflection][oe][sobokunagimon]

 [2009-07-22-1], [2009-07-25-1]one の綴りには <w> がないのになぜ /w/ が発音されるかを見たが,今回は逆に two の綴りに <w> があるのになぜ /w/ が発音されないかを考えてみたい.
 数詞は形容詞の一種であり,古英語では two も以下のように性と格で屈折した(数については定義上,常に複数である).

Paradigm of OE numeral twa

 古英語では独立して「2」を表す場合には女性・中性形の twā が使われ,現在の two につらなっているが,男性形も twain として現代英語に残っている.
 さて,/w/ 音は,母音 /u/ が子音化したものであるから,調音的性質は同じである.母音四辺形[2009-05-17-1]をみると,
高・後舌・円唇という調音的性質をもつことがわかる./w/ や /u/ は口の奥深くという極端な位置での調音となるため,周辺の音にも影響を及ぼすことが多い.twā でいうと,後続する母音 /a:/ が /w/ 音に引っ張られ,後舌・円唇化した結果,/ɔ:/ となった.後にこの /ɔ:/ は /o:/ へ上昇し,そして最終的には /u:/ へと押し上げられた.そして,/w/ 音はここにきて役割を終えたかのごとく,/u:/ に吸収されつつ消えてゆく.まとめれば,次のような音変化の過程を経たことになる.

/twa:/ → /twɔ:/ → /two:/ → /twu:/ → /tu:/


 最後の /w/ 音の消失は15?16世紀のことで,この単語のみならず,子音と後舌・円唇母音にはさまれた環境で,同じように /w/ が消失した.whosword においても,綴りでは <w> が入っているものの /w/ が発音されないのはこのためである./w/ の消失は「子音と後舌・円唇母音にはさまれた環境」が条件であり,「子音と前舌母音にはさまれた環境」では起こらなかったため,twain, twelve, twenty, twin などでは /w/ 音はしっかり保たれている.
 swollen 「膨れた」や swore 「誓った」などでも,上の条件に合致したために /w/ 音が一度は消失したのだが,それぞれの動詞の原形である swellswear で /w/ 音が保持されていることから,類推作用 ( analogy ) により後に /w/ が復活した.多くの語で /w/ 音がこのように復活したので,むしろ two, who, sword が例外的に見えてしまうわけである.

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2009-09-18 Fri

#144. 隔離は40日 [etymology][black_death][epidemic][numeral]

 黒死病が英語の復興に一役買ったことについては,本ブログで何度か記事にしたが,黒死病に関連して直接の言語的な影響もいくつかあった.その一例として quarantine 「隔離,隔離期間,隔離所,検疫,検疫所」が挙げられる.
 語源はラテン語の quadrāgintā 「40」にさかのぼり,「隔離」としてはイタリア語から quarantine という形態で英語に入ってきた.もとは,疫病を運んでいると疑われる船から乗客を上陸させずに差し止める期間が40日間だったことにちなむが,後に日数にかかわらず「隔離,検疫」という一般的な意味で用いられるようになった.OED によると英語での初例は1663年で,その例文がこの意味変化を裏付けている.

Making of all ships coming from thence . . . to perform their 'quarantine for thirty days', as Sir Richard Browne expressed it . . . contrary to the import of the word (though, in the general acceptation, it signifies now the thing, not the time spent in doing it). ( Pepys Diary, 26 Nov. )


 英語での初例こそ17世紀だが,船を係留する慣習自体は1377年にペスト予防のためにレバントやエジプトからイタリアへ入港してくる船を差し止めたことから始まった.シチリア島のラグーサ市評議会が感染地区からやってきた人々に30日間の隔離を命じたのが始まりで,期間がのちに40日に延びたというから,場合によってはイタリア語で「30」を意味する *trentina が代わりに用いられることになっていたかもしれない.
 1348年以降にヨーロッパを席巻した黒死病の産みだした,歴史を背負った語である.

 ・クラウズリー=トンプソン 『歴史を変えた昆虫たち』増補新装版 小西正泰訳,思索社,1990年,129頁.

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2009-07-25 Sat

#89. one の発音は訛った発音 [numeral][etymology][me_dialect][pronunciation][vowel]

 [2009-07-22-1]で,one の音声変化について教科書的な説明を施した.母音の変化というのは,有名な大母音推移 ( Great Vowel Shift ) を含め,英語史において非常に頻繁に起こるし,現代英語でも母音の方言差は非常に大きい.したがって,one に起こった一連の母音変化もむべなるかなと受け入れるよりほかない気がする.しかし,[w] という子音の語頭挿入という部分については,そうやすやすとは受け入れられない.
 「後舌母音に伴う円唇化」は調音音声学的には合理的である[2009-05-17-1].だが,なぜこの特定の単語でのみそれが見られるのか.なぜ他の単語群では [w] 音が挿入されなかったのか.まったく関係のない単語ならいざしらず,語源的関連の強い only がなぜ [wʌnli] と発音されないか.
 その答えは方言の違いにある.[w] 音が挿入されたのは中英語期のイングランド南西部・西部方言の発音であり,その方言形がたまたま後に標準語へ取り込まれたということに過ぎない.一方,only にみられる [w] 音のない発音は中英語期のイングランド南部・中部方言の発音に由来する.
 つまり,one の発音はこっちの方言からとって来られて標準発音となったが,only の発音はあっちの方言から来たというわけだ.ある語について,その発音がどこの方言からとられて標準化したか,そしてそれを決めるファクターは何だったのかという問いに対しては,明確な基準はなくランダムだった,としか答えようがない.
 だが,このように,中英語期のどの方言に由来するかで,もともとは同根の語どうしが,現代標準語では異なる発音をもつようになった例はたくさんある.一例を挙げれば,will の母音は中英語の多くの方言で用いられておりそのまま標準化したが,否定形 won't の母音は主に中部・南部の方言に由来する.後者は,中部訛りの wol(e) + not が縮約された形に他ならない.肯定形と否定形がセットで同じ方言から標準語に入ってきていたならば母音も同じになったろうが,ランダムともいうべき方言選択の結果,現在の標準英語の will --- won't という分布になってしまった.
 嘆かわしいと思うなかれ,言葉の歴史は興味深いと思うべし.

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2009-07-22 Wed

#86. one の発音 [numeral][etymology][phonetics][spelling][pronunciation][vowel][article]

 現代英語の綴りと発音のギャップは大きいが,その中でも特に不思議に思われるものに one の発音がある.普通は,どうひっくり返ってもこの綴りで [wʌn] とは読めない.これは,この語の綴り字が歴史上あまり変わってこなかったのに対して,発音は激しく変化してきたためである.以下は教科書的な説明.
 古英語の対応する語形は ān だった.この語はもちろん「一つの」の意で,後に one へ発展したと同時に,ana という不定冠詞へも分化した.したがって,数詞の one と不定冠詞の an, a とは,まったくの同語源であり,単に強形と弱形の関係に過ぎない[2009-06-22-1]
 さて,古英語の ān は [ɑ:n] という発音だったが,強形の数詞としては次のような音声変化を経た.まず,長母音が後舌母音化し,[ɔ:n] となった.それから,後舌母音に伴う唇の丸めが付加され,[wɔ:n] となった.次に長母音が短母音化して [wɔn] となり,その短母音が後に中舌母音して [wʌn] となった.実に長い道のりである.
 ここまで激しく音声変化を経たくらいだから,その中間段階では綴りもそれこそ百花繚乱で,oon, won, en など様々だったが,最終的に標準的な綴りとして落ち着いたのが比較的古めの one だったわけである.
 綴りと発音について,one と平行して歩んだ別の語として once がある[2009-07-18-1].だが,これ以外の one を含む複合語では,上記の例外的に激しい音声変化とは異なる,もっと緩やかで規則的な音声変化が適用された.古英語の [ɑ:n] は規則的な音声変化によると現代英語では [oʊn] となるはずだが,これは alone ( all + one ) や only ( one + -ly ) の発音で確認できる.

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2009-07-21 Tue

#85. It's time for the meal --- timemeal の関係 [etymology][numeral]

 [2009-07-20-1][2009-07-18-1]once, twice, thrice に焦点を当てたが,倍数・度数は一般に eight times のように「 数詞 + times 」という句を用いる.しかし,このように本来「時間」を意味する time が倍数・度数表現に用いられるようになったのは13世紀くらいからのもので,それ以前は(そしてそれ以降も)「行程,道」を原義とする sīþ が用いられていた.sīþ は現在では廃用となっているが,たとえば近代英語では Spenser が The foolish man . . . humbly thanked him a thousand sith などと使っている.
 さて,「時間」を意味する語は「分量」や「回数」と関わりが深いが,これは共通項として「はかる」(計る,測る,量る)行為が関与するためである.time と似たような意味の拡がりをもつ別の語に meal がある.この語は究極的には measure と同根であり,やはり「はかる」と関連が深い.ドイツ語では,einmal, zweimal, dreimal など「 数詞 + mal 」で倍数・度数を表すので,英語の times にぴったり対応する
 meal といえば現代英語ではもっぱら「食事」を意味するが,対応する古英語の mǣl は「(一定の)分量,時間」を意味した.そこから,「定時」→「(定時に繰り返される)食事」と意味が展開した.日本語でも「三度の食事」というので意味の関連は分かりやすい.ドイツ語では,上記の -mal の綴りに <h> を加えて Mahl とすれば,発音は同じままで「食事」を指す.
 現代英語では meal は古英語やドイツ語における「分量,度数」の原義は失われてしまったが,わずかに piecemeal 「ひとかけら分の量ずつ(の),少しずつ(の)」という語にその原義が化石的に残存する.

Referrer (Inside): [2022-07-19-1]

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2009-07-20 Mon

#84. once, twice, thrice [numeral][adverbial_genitive][shakespeare][intensifier]

 [2009-07-18-1]で倍数・度数表現の oncetwice について述べたが,この延長として thrice 「三倍,三度」 ( = three times ) なる語があるのを知っているだろうか.古風な語なので現代英語ではあまりお目にかからないかもしれないが,-ce 語尾が付加されている背景は once, twice と同じである.さすがに,*fource や *fifce はないようだ.
 この thrice は文字通りには「三倍」の意だが,強調の副詞として「大いに」の意で,数多くの合成語を作り出してきた.特に Shakespeare がよく使ったというので,どんなものがあったのかを Bartleby.com より Oxford Shakespeare で検索してみた.そこから,thrice- を含む句を取り出したのが以下の例である.

My thrice-driven bed of down, my thrice-puissant liege, my thrice-renowned liege, The thrice-victorious Lord of Falconbridge, this thrice-famed duke, this thrice-worthy and right valiant lord, thrice-crowned queen of night, thrice-fair lady, thrice-gentle Cassio, thrice-gorgeous ceremony, thrice-gracious queen, Thrice-noble Titus, thrice-repured nectar, thrice-valiant countrymen, Thrice-worthy gentleman, thrice-worthy signieur of England, Thy thrice-noble cousin, thy thrice-valiant son, What a thrice-double ass

 全体として良い意味の形容詞を強める働きをしていることがわかる.ただ,最後に挙げた例 What a thrice-double ass ( The Tempest, V, i, 320 ) は悪い意味を強めている.三回二重にするということだから,最終的には「六重に輪をかけた馬鹿」ということになり,相当な馬鹿者である.
 thrice- 表現を現代英語でもリバイバルさせたくなった.

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2009-07-18 Sat

#81. oncetwice の -ce とは何か [numeral][etymology][genitive][adverbial_genitive][spelling][sobokunagimon]

 [2009-07-04-1]の記事で,現代英語の序数詞において firstsecond だけが他と比べて異質であることを話題にしたが,倍数・度数表現にも似たようなことが観察される.原則として倍数・度数表現は ten times のように「 数詞 + times 」という句で表されるが,oncetwice は例外である.
 この oncetwice が,それぞれ onetwo の語幹の変異形に -ce が付加されたものだ,ということは初見でもわかると思うが,この -ce とはいったい何だろうか.
 -ce は,現代英語の名詞の所有格を示す 's と同一の起源,すなわち古英語の男性・中性名詞の単数属格語尾 -es にさかのぼる.形態的には,古英語の「属格」が現代英語の「所有格」につらなるのだが,古英語や中英語の属格は単なる所有関係を指示するにとどまらず,より広い機能を果たすことができた.属格の機能の一つに,名詞を副詞へ転換させる副詞的属格 ( adverbial genitive ) という用法があり,oncetwice はその具体例である(詳しくは Mustanoja を参照).いわば one'stwo's と言っているだけのことだが,古くはこれが副詞として用いられ,それが現在まで化石的に生き残っているというのが真相である.OED によると,oncetwice という語形が作られたのは,古英語から中英語にかけての時期である.
 中英語期にも副詞的属格は健在であり,時や場所などを表す名詞の属格が多く用いられた.たとえば,always, sometimes, nowadays, besides, else, needs の語尾の -s(e) は古い属格語尾に由来するのであり,複数語尾の -s とは語源的に関係がない.towards, southwards, upwards などの -wards をもつ語も,属格語尾の名残をとどめている.
 また,I go shopping Sundays のような文における Sundays は,現在では複数形と解釈されるのが普通だが,起源としては単数属格と考えるべきである.属格表現はのちに前置詞 of を用いた迂言表現に置き換えられたことを考えれば,of a Sunday 「日曜日などに」という現代英語の表現は Sundays と本質的に同じことを意味することがわかる.
 最後に,古英語の -esoncetwice において,なぜ <ce> と綴られるようになったか.中英語までは onestweies などと綴られていたが,近代英語期に入り,有声の /z/ ではなく無声の /s/ であることを明示するために,フランス語の綴り字の習慣を借りて <ce> とした.同じような経緯で <ce> で綴られるようになった語に,hence, pence, fence, ice, mice などがある.

 ・Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960. 88--92.

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2009-07-07 Tue

#70. second には「秒」の意味もある [etymology][numeral][clipping]

 今日はもう一つ second に関する話題.昨日[2009-07-06-1]second の語源にさかのぼって,「2番目の」という意味がいかにして生じたかを見たが,second のもう一つの意味,すなわち名詞としての「秒」,の成り立ちを考えてみよう.これは minute 「分」と合わせて考える必要がある.
 ラテン語では,「分」のことを,pars minūta prīma "first divided part" と表現した.「1時間」を分割して得られる各部分が「1分」という発想である.minūta は,minimum, minor, mince と同根で,「切り刻まれて小さくなった」の意である.prīma は「1番目の」の意味で,英語にも借用され,prime minister, primary, primitive などに確認される.
 一方,「秒」はラテン語で pars minūta secunda "second divided part" と表現した.最初に分割して得られた「分」をもういちど分割したので,「2番目の分割」ということになる.
 それぞれ3語からなる長い表現なので,後に一語を残して刈り取られた ( clipping ) が,刈り取られる部分が異なっていたのがミソである.そして,その縮約形が,後に英語へ借用された.

 ・minute < (pars) minūta (prīma)
 ・second < (pars minūta) secunda

 英語には,for a split second 「ほんの一瞬の間」という言い方があるが,「秒」がさらに split 「分割」されるわけだから,さしずめ pars minūta tertia "third divided part" といったところか.

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2009-07-06 Mon

#69. second の世界の広がり [numeral][etymology]

 過去二日の記事との関連で,今日は序数詞 second について.[2009-07-04-1]でも述べたとおり,語源はラテン語の異態動詞 ( deponent verb ) sequī "follow" 「あとに続く」の過去分詞形である.sequī から派生した語はおびただしく,枚挙に暇がないが,second 自体の意味の広がりを見るだけでも十分に興味深い.
 「あとに続く」の原義を念頭におけば,「後押しする」→「支持する」ということで動詞用法も理解できる.会議などで使われる Seconded. 「異議なし!」という表現があるが,これは語源的には二重過去分詞とでも呼ぶべきものかもしれない.
 他に ボクシングの「セコンド」も支持する者である.そして,あるものに続けば,それが「2番目」となるのは自然である.second の意味の広がりは広い.

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2009-07-05 Sun

#68. first は何の最上級か [superlative][etymology][numeral][sobokunagimon]

 昨日の記事[2009-07-04-1]で,序数詞 first は最上級語尾をもっていることを指摘した.それでは,何の最上級なのか.
 fir の部分はゲルマン祖語の *fur- 「前に」に遡り,その意味と形態の痕跡は before, far, fare, for, for-, fore, forth, from などに残る.first の母音は,ウムラウトによる.
 したがって,最上級 first の原義は「(時間的に)最も前」すなわち "earliest" ということになる.一方,古英語には "early, before" の意味を表す別の語として ǣr があった.これは現代英語では古風な ere に残っているし,early はそれに -ly 語尾をつけた形に由来する.ǣr の最上級 ǣr(e)st は,現代英語では erstwhile 「昔の,かつての」という語のなかに生き残っている.

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2009-07-04 Sat

#67. 序数詞における補充法 [suppletion][numeral]

 屈折などのパラダイムにおいて,まったく語源の異なる形態があるスロットに入り込んで定着する現象を補充法 ( suppletion ) ということは,[2009-06-10-1]の記事で触れた.go -- wentgood -- better が代表的な例として挙げられるが,現代英語の序数詞の系列にも補充が起こっている.
 second の語源について話していたときに,学生が鋭く指摘してくれたことである.序数詞 second は,ラテン語の異態動詞 ( deponent verb ) sequī の過去分詞形 secūtus に由来する借用語である.だが,現代英語の序数詞の系列では second 以外はすべて本来語であり,second だけが浮き立っている.
 古英語では,second の意味を表すのに本来語の ōþer ( > PDE other ) を用いていた.その名残は,現代英語の every other day ( = every second day ) という句に見られる.だが,このスロットを後に( OED の初例は1297年)外来語の second が埋めたわけであるから,これは補充法の例ではないかというわけである.
 よく考えてみると,そもそも本来語の other 自体が補充形である.そして,これまた本来語の first も然り.「3番目」以上は,すべて基数詞に序数語尾 -th が付加されただけの「規則形」である.確かに,third のように若干の語尾音変化と音位転換[2009-06-27-1]を経たものもあるが,原則として規則的といっていいだろう.
 だが,firstone と語源的なつながりはないし,othertwo とは無関係である.語尾を見るとわかるが,first は最上級,other は比較級と関係しており,そこからそれぞれ「1番目」「2番目」の意味が生じてきているのであり,対応する基数詞には関係していない.
 以上から,序数詞系列について補充法を論じる場合 second のみが借用語であるという点において補充法の例となるのではなく,そもそも firstsecond ( other ) が接尾辞付加規則とは無縁である点において補充法の例となる,というほうが正しいように思われる.

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