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inflection - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-12-09 15:40

2010-02-16 Tue

#295. blackBlake [etymology][inflection][doublet][meosl]

 人名で Black さんと Blake さんに語源的な関係があることを最近になって知った.考えてみれば,かつての母音が短母音だったか ( /blak/ ),あるいは長母音だったか ( /bla:k/ ) の違いにすぎない.長母音をもつ異形は,後に大母音推移を経て /bleɪk/ の発音になった.
 中英語では,名詞や形容詞で,閉音節・一音節の形態と開音節・二音節の形態が交替することがあった.例えば,現代英語の hole に相当する中英語の形態としては hol /hol/ と hole /hɔ:lə/ があり得た.このような異形態が存在するのは,古英語の段階で,単数主格・対格では hol という閉音節・一音節の形態が,それ以外では複数主格・対格の holu など開音節・二音節の形態が,区別して用いられていたことに起因する.古英語の形容詞 blæc も屈折によっては blæce, blacu など開音節・二音節の形態が生じたが,この区別が中英語以降にも異形態として引き継がれ,現在の blackBlake の二重語のペアを生み出したということになる.総じて,名詞は holegate のように歴史的に開音節・二音節だった形態が生き残り,形容詞は blackglad のように歴史的に閉音節・一音節だった形態が生き残ったという ( Görlach 63 ).
 だが,black については語源を詳しく調べてみると,もっと込み入った状況があったようである.古英語には,blæc "black" の他に語源を一にする blāc "bright, pale, white" なる形容詞が存在し,中英語に至って両者の形態がマージし,意味の上でも混同が起こってくる.「黒」と「白」が合流してしまうというのだからただごとではない.
 両語とも,印欧祖語の *bhel-, *bhleg- に遡り,原義は "to shine, gleam" である.「白く燃え光る」から「焦げる」を経由して「黒くなる」というのだから,なるほど「白」と「黒」にはこのような因果関係があったのだなと感心.ここから,bleak 「荒涼とした,暗い」や bleach 「漂白する」も派生しているから,なおさら感心だ.
 とここで最初の問題に戻るが,Black さんと Blake さんのあいだに語源的な関係があることはわかったが,(もし肌や髪の色などにちなんで名付けたのであれば)どちらが黒くてどちらが白かったのだろうか.あるいは,両者とも黒あるいは白だったのだろうか.意味も形態も混乱していたのであれば,解決の糸口はないか・・・.

 ・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

Referrer (Inside): [2015-08-04-1]

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2010-01-02 Sat

#250. 古英語の屈折表のアンチョコ [oe][inflection][chart][link]

 正月でお酒が回ってきたので軽い話題を一つ.
 OE Inflection Magic Sheetから,非常にコンパクトにまとまった古英語の屈折表をPDFで落とすことができる(直接にはこちら).A4用紙1枚にカラーで印刷できるので,試験前のアンチョコとして申し分ない.名詞,形容詞,代名詞,動詞の主要な屈折が掲げられている.  *
 私は中英語の形態論を主な研究領域としているので古英語の屈折は熟知していなければならないはずなのだが,かなりの部分が記憶から抜け落ちてしまっている.新年でもあるし,改めて覚えなおすか・・・.せめて手帳に挟み込んでおくことにする.

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2009-11-07 Sat

#194. shadowshade [doublet][etymology][register][inflection][oe]

 英語には二重語が数多く存在するので,この話題には事欠かない.今回は,綴りも発音も意味もよく似ていることが直感的にわかる shadow 「影」と shade 「陰」の関係について.
 両単語はゲルマン系の語であり,元来は一つの語だったと思われる.だが,古英語の時点ではすでに二つの形態に分化して存在していた.一つは女性強変化名詞の sċeadu,もう一つは中性強変化名詞の sċead である.両方の屈折表を掲げよう.

Paradigm of OE sceadu

 形態的には,現代英語の shade は,古英語の sċeadu の単数主格形(あるいは sċead の母音語尾をもつ屈折形)に由来する.一方,現代英語の shadow は,古英語の sċeadu の屈折形のうち <w> の現れる形態に由来する.
 形態としてはこのように二語が区別されていたが,意味のほうは必ずしも「影」と「陰」で厳密に区別されていたわけではないようである.互いに混同しながら徐々に意味の分化が起こってきたと考えるべきだろう.
 同一語の主格形と斜格形がそれぞれ生き残って現代に伝わった興味深い例だが,類例としては meadmeadow 「牧草地」が挙げられる.ただ,このペアの場合には意味の違いはない.後者が一般的な語であり,前者が詩的な響きを有するというレジスター ( register ) の差があるのみである.

Referrer (Inside): [2020-07-13-1] [2014-11-18-1]

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2009-11-04 Wed

#191. 古英語,中英語,近代英語は互いにどれくらい異なるか [typology][germanic][inflection][morphology]

 授業で古英語,中英語の順にテキストを読み進めていくと,ほとんどの学生が,古英語から中英語に移ったときに現代英語にぐんと近づいたと感じる,と口にする.古英語を初めて読むとまるで英語とは思えないが,中英語は初めて読んでも現代英語とのつながりが感覚として感じられる,ということもよく聞かれる.では,主観的な感覚ではなく客観的な基準で,古英語,中英語,近代英語の異なり具合を評価できないだろうか.いいかえれば,言語類型論的に,英語の各段階はどのくらい似ていてどのくらい異なっているのだろうか.
 誰しもが認める「客観的な基準」を設けるのは不可能であり,どこまでも主観がついて回るという限界を前提としつつ,Lass の評価を紹介する.Lass (30) は,10の言語特徴を選び出し,それを基準にして,主要なゲルマン語の「古さ」 ( archaism ) を数値化した.その結果,以下のようなランキング表が得られた( Nevalainen に要約されている図表より).

RankLanguage(s)
1.00Gothic, Old Icelandic
0.95Old English
0.90Old High German, Modern Icelandic
0.85
0.80
0.75
0.70
0.65
0.60Middle High German, Modern German, Middle Dutch
0.55
0.50
0.45
0.40
0.35Middle English, Modern Swedish, Modern Dutch
0.30
0.25
0.20
0.15Afrikaans
0.10
0.05
0.00Modern English


 これによると,近代英語と中英語の差は 0.35 で,中英語と古英語の差は 0.6 であるから,多くの学生の感覚が客観的に裏付けられたことになる.

 ・Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006. 2, 9--10.
 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41.

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2009-10-28 Wed

#184. two の /w/ が発音されないのはなぜか [numeral][etymology][pronunciation][vowel][phonetics][inflection][oe][sobokunagimon]

 [2009-07-22-1], [2009-07-25-1]one の綴りには <w> がないのになぜ /w/ が発音されるかを見たが,今回は逆に two の綴りに <w> があるのになぜ /w/ が発音されないかを考えてみたい.
 数詞は形容詞の一種であり,古英語では two も以下のように性と格で屈折した(数については定義上,常に複数である).

Paradigm of OE numeral twa

 古英語では独立して「2」を表す場合には女性・中性形の twā が使われ,現在の two につらなっているが,男性形も twain として現代英語に残っている.
 さて,/w/ 音は,母音 /u/ が子音化したものであるから,調音的性質は同じである.母音四辺形[2009-05-17-1]をみると,
高・後舌・円唇という調音的性質をもつことがわかる./w/ や /u/ は口の奥深くという極端な位置での調音となるため,周辺の音にも影響を及ぼすことが多い.twā でいうと,後続する母音 /a:/ が /w/ 音に引っ張られ,後舌・円唇化した結果,/ɔ:/ となった.後にこの /ɔ:/ は /o:/ へ上昇し,そして最終的には /u:/ へと押し上げられた.そして,/w/ 音はここにきて役割を終えたかのごとく,/u:/ に吸収されつつ消えてゆく.まとめれば,次のような音変化の過程を経たことになる.

/twa:/ → /twɔ:/ → /two:/ → /twu:/ → /tu:/


 最後の /w/ 音の消失は15?16世紀のことで,この単語のみならず,子音と後舌・円唇母音にはさまれた環境で,同じように /w/ が消失した.whosword においても,綴りでは <w> が入っているものの /w/ が発音されないのはこのためである./w/ の消失は「子音と後舌・円唇母音にはさまれた環境」が条件であり,「子音と前舌母音にはさまれた環境」では起こらなかったため,twain, twelve, twenty, twin などでは /w/ 音はしっかり保たれている.
 swollen 「膨れた」や swore 「誓った」などでも,上の条件に合致したために /w/ 音が一度は消失したのだが,それぞれの動詞の原形である swellswear で /w/ 音が保持されていることから,類推作用 ( analogy ) により後に /w/ が復活した.多くの語で /w/ 音がこのように復活したので,むしろ two, who, sword が例外的に見えてしまうわけである.

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2009-10-24 Sat

#180. 古英語の人称代名詞の非対称性 [personal_pronoun][oe][inflection][paradigm]

 [2009-09-29-1]で古英語の人称代名詞の屈折表(三人称のみ)を掲げた.複雑に見えるが,この語類だけは loss of inflection の時代と呼ばれる近代英語期に至っても多くの屈折を残している.今日は,古英語の人称代名詞について,もう少し詳しく述べる.
 古英語の人称代名詞体系は,数 ( number ),格 ( case ),人称 ( person ),性 ( gender ) の四つのカテゴリーによって屈折した.以下,各カテゴリーの中身.

 数:単数,双数,複数
 格:主格,対格,属格,与格
 人称:一人称,二人称,三人称
 性:男性,女性,中性

 [2009-09-29-1]の表では「双数」 ( dual ) には触れなかったが,古英語では単数と複数の中間として,特別に「二人」を示す代名詞が存在した.だが,実際には古英語でもすでに廃れつつあった.双数を含めた人称代名詞体系の拡大版を掲げる.

Paradigm of OE Personal Pronouns Extended

 この表から,古英語から現代英語にかけて人称代名詞体系にどんな変化が起こったかが読み取れようが,ここでは,一つ一つの具体的な変化を考えるよりも,そもそも古英語の段階から人称代名詞体系が非対称だったという事実に注目してみたい.
 本来,数,格,人称,性でフルに屈折するのであれば,3 x 4 x 3 x 3 = 108 のセルからなる表ができあがるはずだが,実際には40セルしか埋まっていない.これだけ見ても体系が不完全であることがよくわかる.各カテゴリーについて非対称的・非機能的な点を指摘しよう.

 ・双数が1人称と2人称にしか存在しない
 ・1人称と2人称では,対格と与格の形態的区別がない(かっこ内は古い形態を示す)
 ・3人称で,his, him, hiere, hit が異なる複数の機能を果たしている
 ・2人称と3人称でいう(双数と)複数は,対応する単数が複数集まったものと考えられるが,1人称の双数と複数は,対応する単数である「私」が複数集まったものではない.あくまで,私とそれ以外のものの集合である.
 ・性が区別されるのは,三人称単数のみである.

 「体系」と呼びうるためには,それなりの対称性が必要である.欠陥がありつつも一応は表の形で表すことができるので,そこそこの対称性はあるということは間違いないが,期待されるほど綺麗な体系ではない.非対称性に満ちているといってよい.
 しかし,なぜそのような非対称が生じるのか.なぜカテゴリーによって区別の目が粗かったり細かかったりするのか.言語には体系を指向する力と体系を乱す力がともに働いており,その力関係は刻一刻と変化している.一定にとどまっていることがない以上,たとえある段階でより対称的になったとしても,次の段階ですぐに非対称へと逆行する.言語における体系は,ある程度の非対称をもっていることが常態なのかもしれない.

 ・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997. 64--66.

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2009-10-18 Sun

#174. 古英語のもう一つの指示代名詞の屈折 [determiner][article][oe][inflection][demonstrative][paradigm]

 [2009-09-30-1]の記事で触れた se とは別の系列の指示代名詞 þēs "this" の屈折表を掲げる.

Paradigm of OE Demonstrative

 現代英語の this は,表中の単数中性主格の形態が生き残ったものである.また,表中の複数主格の þās は,現代英語の those の形態に影響を与えた.では,現代英語の these の起源は? 現代英語の that の起源は? この辺の話題は,実に深くて複雑な歴史が絡んでくるので,日を改めて.

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2009-09-29 Tue

#155. 古英語の人称代名詞の屈折 [personal_pronoun][oe][inflection][paradigm]

 昨日の古英語の決定詞の屈折表[2009-09-28-1]に続き,今日は古英語の人称代名詞 ( personal pronoun ) の屈折表を掲げる.

Paradigm of OE Personal Pronouns

 現代英語でも人称代名詞は古い屈折の痕跡をかなり多く残している語類であり,屈折型言語であった時代の生きた化石と言える.例外なくすべて <h> で始まっている点や,今はなき hine, hēo, hīe, hiera といった形態に注意.
 ちなみに,古英語の疑問代名詞の屈折については,[2009-06-18-1]を参照.

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2009-09-28 Mon

#154. 古英語の決定詞 se の屈折 [determiner][article][oe][inflection][german][paradigm]

 現代英語の定冠詞 the の起源である古英語の se は,「定冠詞」 ( definite article ) ではなく「決定詞」 ( determiner ) と呼ばれるのが普通である.これは,機能や用法が現代英語の the とは相当に異なっていたためである.
 現代英語の定冠詞のように名詞に前置して定性 ( definiteness ) を標示するという用法は確かにあったが,現代のように義務的に課される文法事項ではなかった.また,名詞をともなわずに単独で he, she, it, they など人称代名詞に相当する用法もあった.さらに,関係代名詞としても用いられることがあった.古英語の決定詞は,現代英語の定冠詞 the よりも守備範囲がずっと広かったのである.
 形態的にも,古英語の se は現代英語の the と大きく異なっていた.現代英語の the はいつどこで使っても the という形態に変わりないが,古英語の se は性・数・格によって激しく屈折したのである.現代ドイツ語を学んでいる人は,屈折表を比較されたい.同じゲルマン系だけに,比べてみると,よく似ている.

Paradigm of OE Determiner se
Paradigm of German Definite Article der

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2009-07-15 Wed

#78. Verbix とコーパス [software][web_service][conjugation][inflection][oe][me][corpus][variation]

 昨日の記事[2009-07-14-1]で,Verbix の古英語版の機能を紹介し,評価して終わったが,実は述べたかったことは別のことである.
 動詞の不定詞形を入れると活用表が自動生成されるという発想は,標準語として形態論の規則が確立している現代語を念頭においた発想である.これは古英語や中英語などには,あまりなじまない発想である.確かに古英語にも Late West-Saxon という「標準語」が存在し,古英語の文法書では,通常この方言にもとづいた動詞の活用表が整理されている.だが,Late West-Saxon の「標準語」内ですら variation はありうるし,方言や時代が変われば活用の仕方も変わる.中英語にいたっては,古英語的な意味においてすら「標準語」が存在しないわけであり,Verbix の中英語版というのは果たしてどこの方言を標準とみなして活用表を生成しているのだろうか.
 Verbix 的な発想からすると,方言や variation といった現象は,厄介な問題だろう.このような問題に対処するには,Verbix 的な発想ではなくコーパス検索的な発想が必要である.タグ付きコーパスというデータベースに対して,例えば「bēon の直説法一人称単数現在形を提示せよ」とクエリーを発行すると,コーパス中の無数の例文から該当する形態を探しだし,すべて提示してくれる.その検索結果は,おそらく Verbix 型のきれいに整理された表ではなく,変異形 ( variant ) の羅列になるだろう.古英語の初学者にはまったく役に立たないリストだろうが,研究者には貴重な材料だ.
 英語史研究,ひいては言語研究における現在の潮流は,標準形を前提とする Verbix 的な発想ではなく,variation を許容するコーパス検索的な発想である.同じプログラミングをするなら,Verbix のようなプログラムよりも,コーパスを検索するプログラムを作るほうがタイムリーかもしれない.
 とはいえ,Verbix それ自体は,学習・教育・研究の観点から,なかなかおもしろいツールだと思う.だが,個人的な研究上の都合でいうと,古英語や中英語の名詞の屈折表の自動生成ツールがあればいいのにな,と思う.誰か作ってくれないだろうか・・・.自分で作るしかないのだろうな・・・.

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2009-07-14 Tue

#77. 動詞の活用表を生成してくれる「Verbix」 [software][web_service][conjugation][inflection][oe]

 Verbix: conjugate Old-English verbsでは,古英語の動詞(不定詞)をキーワードとして入れると,活用表が自動的に生成されるというウェブサービスを無償で提供している.
 古英語のみならず,現代英語を含め,世界の諸言語に対応しており,各言語の学習者,教育者,研究者にとって有益である.このサイトでは,ダウンロード可能な単体で動く同機能のアプリケーションもシェアウェアとして提供しており,一ヶ月までなら試用もできる.アプリケーション版では,機能拡張を施せば,中英語にも対応するようになるというから興味深い.

conjugation of beon

 上のスクリーンショットは,アプリケーション版で古英語の bēon "to be" の活用表を生成させた場面だが,みごとに wesan ( bēon に代わる別の動詞)の活用表に置き換えられてしまっている.現代英語でもそうだが bēon は著しく不規則な活用を示すわけで,こんな動詞をキーワードに入れてくれるなという Verbix からのメッセージとも受け取れる.
 そもそもアプリケーションのプログラム内では,どのように活用表が生成されているのだろうか.最初は,おそらく各動詞の活用形がそのままデータベースに納められており,プログラム側がそれを呼び出すだけなのではないかと思っていた.だが,bēon の例を見ると,そのようなきめ細かなデータ格納法はとられていないように思える.
 考えられるもう一つの方法は,最少限の基底形(古英語であれば「不定形 -- 第一過去形 -- 第二過去形 -- 過去分詞形」の4形態[2009-06-09-1])と所属クラスだけがデータベースに登録されており,あとは形態音韻規則によってプログラムに各活用形を生成させるという方法だ.こうすると,データ部の容量は節約できる.
 人間の脳では,上の二つの仕組みが連携して作用していると考えられる.大半の動詞についてはルールに基づいて活用形が生成されるが,bēon のような不規則活用をする動詞の場合には,ルールでは導かれないので,活用形がそのままデータとして格納されているというわけである.Verbix でも二つの方法が組み合わさって活用表の生成機能が実現されているのかもしれないが,bēon まではサポートが及ばなかったというだけのことかもしれない.
 上記のような問題はあるが,古英語動詞の活用の練習には使えそうだ.かつて学んだ動詞活用を Verbix で復習してみよう.

 ・Verbix の古英語版
 ・Verbix の現代英語版
 ・Verbix の対応言語一覧

Referrer (Inside): [2009-07-15-1]

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2009-07-11 Sat

#74. /b/ と /v/ も間違えて当然!? [consonant][phonetics][oe][inflection][have]

 [2009-07-09-1]で,日本語話者ならずとも [r] と [l] の交替は起こり得たのだから,両者を間違えるのは当然ことだと述べた.今回は,まったく同じ理屈で [b] と [v] も間違えて当然であることを示したい.
 まず第一に,[b] と [v] は音声学的に非常に近い.[2009-05-29-1]の子音表で確かめてみると,両音とも有声で唇を使う音であることがわかる.唯一の違いは調音様式で,[b] は閉鎖音,[v] は摩擦音である.つまり,唇の閉じが堅ければ [b],緩ければ [v] ということになる.
 第二に,語源的に関連する形態の間で,[b] と [v] が交替する例がある.古英語の habban ( PDE to have ) の屈折を見てみよう.

inflection of habban

のべ20個ある屈折形のうち,8個が [b] をもち,12個が [v] をもつ(綴り字では <f> ).現代英語で have の屈折に [b] が現れることはないが,古英語の不定詞が habban だったことは注目に値する.libban ( PDE to live ) も同様である.

inflection of libban

 第三に,現代英語の to bib 「飲む」はラテン語 bibere 「飲む」を借用したものと考えられるが,ラテン語の基体に名詞語尾 -age を付加した派生語で,英語に借用された beverage 「飲料」では,二つ目の [b] が [v] に交替している.また,ラテン語 bibere に対応するフランス語は boire であるが,後者の屈折形ではすでに [v] へ交替している例がある(例:nous buvons "we drink" など).
 やはり,[b] と [v] は交替し得るほどに近かったのだ.これで自信をもって I rub you と言えるだろう(←ウソ,ちゃんと発音し分けましょう).

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2009-06-14 Sun

#47. 所有格か目的格か:myselfhimself [reflexive_pronoun][personal_pronoun][case][reanalysis][inflection][paradigm][sobokunagimon]

 現代英語の再帰代名詞の系列を眺めていると,オヤと思うことがある.

 ??????茲????
1篋榊Оmyselfourselves
2篋榊Оyourselfyourselves
3篋榊Оhimselfthemselves
herself
itself


 1人称と2人称では「所有格+ self 」という構成だが,3人称では「目的格+ self 」という構成である.この違いはどういうことだろうか.
 結論から述べると,これは再帰代名詞の系列が二段階で整理されていったことによる.そして,その二段階の間に self の品詞の再分析 ( reanalysis ) が行われたことによる.
 そもそも,古英語では再帰代名詞という語類はなく,一般の人称代名詞が代わりに用いられていた.例えば he kills him という文は,現代英語であれば主語の he と目的語の him は同一人物ではありえないが,古英語では文脈に応じて同一人物という読みも可能である.つまり殺人の読みと自殺の読みが可能なわけで,このような解釈の曖昧性を回避するために,再帰代名詞という新しい語類が,古英語後期以降に発達したと考えられる.
 だが,上記のような解釈上の曖昧さを生むのは,もっぱら3人称においてである.1人称,2人称では問題は起こらない.なぜならば,*I kill me,*you kill you などは,現代英語では非文法的ではあるものの,主語と目的語が同一人物であることは自明だからである.再帰代名詞がまず最初に3人称において発達したことは,自然なことだろう.
 再帰的に用いられる3人称代名詞は,古英語では主に与格(現代英語の目的格へ発達した格)で現れた.ここで重要なことは,元来 self が形容詞であることである.名詞の後ろに置かれる形容詞だったため,与格代名詞とともに him selfher self のように使われた.これが,後に一語へまとまった.
 次に,中英語期になって1人称と2人称でも再帰代名詞が発達することになった.上で見たように,これは必要性からというよりも,3人称再帰代名詞が確立するに伴って,再帰代名詞系列の体系的な整理を指向した結果だろう.ここで重要なことは,この時代までに self は形容詞ではなく名詞であるという品詞の再分析が起こっていたことである.self が(代)名詞の後ろに置かれるという特殊な性質があったこと,また,屈折語尾の衰退によって直前の(代)名詞にかかるという認識が徐々に失われていったことが,この再分析に寄与していると思われる.
 self が名詞として認識されるようになると,その直前にくる語は名詞 self を修飾する語でなければならない.代名詞でいえば,所有格の形態,つまり myyour などがこなければならない.こうして,1人称と2人称の再帰代名詞は「所有格+ self 」という形態に確定した.
 以上をまとめると,特に次の二点が重要である.

 (1) 1・2人称と3人称のあいだで再帰代名詞の必要性に差があり,発生に時間差があった
 (2) この時間差の間に self の品詞の再分析が起こった

 歴史の偶然と呼ぶべきか,歴史の必然と呼ぶべきか,おそらくは偶然と必然がタイムリーにかみあわさって,再帰代名詞の系列が英語の中に定着したのだろう.言語変化の不思議を考えさせられる例である.

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2009-06-09 Tue

#42. 古英語には過去形の語幹が二種類あった [oe][inflection][conjugation][verb]

 現代英語の不規則動詞を覚えるとき、「現在形 -- 過去形 -- 過去分詞形」の三つを唱えるのが通例である.drive -- drove -- driven といった具合にだ.
 ところが、古英語の強変化動詞(現代英語の不規則変化動詞に相当)では四つの形態を暗記する必要がある.その四つとは「不定形 -- 第一過去形 -- 第二過去形 -- 過去分詞形」であり、上と同じ動詞でみると drīfan -- drāf -- drifon -- drifen となる.
 現代英語の過去形 drove は、古英語の第一過去形 drāf に由来し、第二過去形の drifon は失われてしまった.
 そもそも第一過去形と第二過去形とはどう使い分けられていたのだろうか.そえぞれ別名を過去単数と過去複数ということからもわかるとおり、主語が単数か複数かによってどちらの語幹が選ばれるかが決まった.語幹とは別に、語尾も数と人称で屈折することに留意しつつ、直説法過去の屈折表をみてみよう.

Preterite Indicative of drīfan
PersonSg.Pl.
1stdrāfdrifon
2nddrife
3rddrāf


 表をみると、複数の屈折と二人称単数の屈折において第一過去形の語幹が現れ、一人称単数と三人称単数の屈折において第二過去形の語幹が現れていることがわかる.二人称単数が複数と同じ語幹をもつので、厳密にいえば「過去単数」と「過去複数」という区別の仕方は誤解を招く.それで仕方なく「第一過去形」と「第二過去形」と呼んでいるのである.だが、二人称単数の例外を念頭に置いておく限りは、「過去単数」「過去複数」という呼び方は理解しやすいので、よく用いられる.
 中英語の時代に、現代英語のように過去形の形態が一つにまとまっていったが、その際に第一、第二のどちらの過去形が採用されたかは、動詞によって異なる.ランダムに決まったといっていいが、過渡期には両形態が共存・競争した様子がうかがえる.
 結果的に、現代英語では過去形は原則として一つしかありえないこととなったが、古き時代の名残が、ある動詞に化石的に残存している.be 動詞である.第一過去形(過去単数)が was で、第二過去形(過去複数)が were である.また、古英語の分布を直接に反映しているわけではなく、別の歴史的経緯ではあるのだが、二人称単数 you 「あなた一人」は第二過去形(過去複数)の were をとるのがおもしろい.結果的に古英語の両過去形の分布と同じ分布となっている.
 古英語の強変化動詞では、一般動詞でも現在の be 動詞のように二つの過去形態を持っていたということを記憶にとどめておきたい.

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2009-06-06 Sat

#39. 複数与格語尾 -um の生きた化石 [inflection][etymology]

 [2009-05-24-1]でみたように古英語の名詞の屈折タイプはいろいろあるが,不変の屈折語尾がある.複数与格の -um である.名詞の性や屈折タイプにかかわらず,複数与格といえば -um をとる.中英語以降,屈折語尾が衰退するに及んで -um も失われてゆく運命だったわけだが,その死すべき運命を現代まで生き延びた猛者が存在する.whilom である.
 whilom 「以前に,昔」は,名詞 while 「とき,時間」の複数与格形に遡る( while の接続詞用法はこの名詞用法からの転用).古英語の形で挙げれば,女性名詞 hwīl の複数与格形が hwīlum となる.名詞の与格は副詞的な役割も果たすため,複数与格形 hwīlum は文字通り「時々に」の意味だった.それが後に「以前に,昔」の意味へと転じた.語尾の綴り字も -um から -om へと変化し,現在の形に落ち着いた.

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2009-05-24 Sun

#26. 古英語の名詞屈折(2) [oe][inflection][case][number][gender][noun]

 昨日の記事[2009-05-23-1]で,古英語の名詞屈折における性・数・格の三点を概説した.今回の記事では,昨日の最後に触れた第四のポイント「屈折タイプ」について概説する.
 各名詞が特定の性に属しているのと同じように,各名詞は特定の屈折タイプに属している.ある名詞がどの屈折タイプに属するかは,名詞の基本形を見ただけでは判断がつかないことが多い.つまり,原則として一つひとつ覚えていく必要がある.この点は,性の場合と同じである.性は男性,女性,中性と三種類あったが,屈折タイプはいったい何種類あるのだろうか.以下の図は屈折タイプの概略図である(実際にはさらに細かく枝分かれする).

OE Nominal Inflection Type

 各性ともに,大きく強変化タイプと弱変化タイプに分かれる.強変化は屈折変化が比較的激しいタイプで,弱変化は屈折変化が比較的少ないタイプである.強変化はさらに細分化される.
 古英語の初級文法では,この複雑なタイプのすべてを覚えるのは困難なため,男性・女性・中性それぞれの代表的な強変化タイプの一つと,三性の間でほぼ共通の屈折変化を示す弱変化タイプ,計四つを最初に覚えることが重要である.図中に番号を振った(1)?(4)の四つである.

 (1) 男性強変化屈折 (a-stem) : stān "stone" に代表される,古英語の名詞の中で最も頻度の高い屈折タイプ.古英語名詞全体の36%を占める.屈折表はこちら
 (2) 女性強変化屈折 (ō-stem) : lār "teaching" に代表される,女性名詞の中で最も頻度の高い屈折タイプ.古英語名詞全体の25%を占める.屈折表はこちら
 (3) 中性強変化屈折 (a-stem) : scip "ship" に代表される,中性名詞の中で最も頻度の高い屈折タイプ.古英語名詞全体の25%を占める.屈折表はこちら
 (4) 弱変化屈折 (n-stem) : nama "name" に代表される屈折タイプ.三性でほぼ同じ屈折を示す.三性まとめて古英語名詞全体の10%ほどを占める.屈折表はこちら

 この基本4つの屈折タイプを覚えれば,古英語名詞のほとんどがカバーされることがわかるだろう.その他の屈折タイプは,基本4タイプのマイナーヴァリエーションと捉えておけばよい.(以上のパーセンテージの出典: Quirk, Randolph. and C. L. Wrenn. An Old English Grammar. 2nd ed. London: Methuen, 1957. 20.)

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2009-05-23 Sat

#25. 古英語の名詞屈折(1) [oe][inflection][case][number][gender][noun]

 古英語の名詞の屈折について解説する.現代英語に比べ,古英語は屈折が複雑である.名詞一つを取り上げても,正しく屈折させるためには,その名詞に付与されている「性」,単数か複数かの「数」の区別,文中の他の語との文法関係を示す「格」がすべて分かっていなければならない.名詞屈折の全容を一度に解説するのは不可能なので,今回は,性・数・格の概要のみを扱う.

1. 性 ( gender )

 性は,古英語には男性 ( masculine ),女性 ( feminine ),中性 ( neuter ) の三性が区別された.どの名詞がどの性を付与されるかはほとんどランダムとも言えるほどだが,「性」という名称が示すとおり,男性を表す名詞は男性名詞,女性を表す名詞は女性名詞,モノを表す名詞は中性名詞という傾向はある.だが,wīf ( > PDE "wife" ) 「女性」は中性名詞だし,wīfmann ( > PDE "woman" ) 「女性」は男性名詞だし,多くの抽象名詞が女性名詞であるなど,理解を超える例は多い.性の見分け方はまったくないわけではないが,原則としてランダムに決まっていると理解しておくのがいいだろう.

2. 数 ( number )

 数は,現代英語にも残っているので理解しやすい.現代英語では,およそ-s語尾があるかないかで複数と単数を区別するが,sheep -- sheep (see [2009-05-11-1]), ox -- oxen, child -- children, man -- men など不規則なペアも存在する.不規則なものも含め,多くの名詞の複数形の屈折は古英語に遡る.

3. 格 ( case )

 格は,現代英語では主格,所有格,目的格の三格が区別されている.一人称代名詞でいえば,それぞれ I -- my -- me のことである.一方,古英語では,主格 ( nominative ),対格 ( accusative ),属格 ( genitive ),与格 ( dative ) の四格が区別された.現代英語の所有格は古英語の属格に,現代英語の目的格は古英語の対格と与格にそれぞれ対応する.だが,古英語の格には,現代英語の対応する格の果たした機能よりも多くの機能があり,注意を要する.

 ・主格は,現代英語と同様に,名詞が主語の働きをする場合に置かれる格である:「?が」「?は」
 ・対格は,名詞が現代英語でいう動詞の直接目的語の働きをする場合に置かれる格である:「?を」
  ただし,動詞だけでなく一部の前置詞の後位置においても対格に置かれる.
 ・属格は,名詞が現代英語でいう所有の意味を表す場合に置かれる格である:「?の」
  ただし,一部の前置詞の後位置においても対格に置かれる.
 ・与格は,名詞が現代英語でいう動詞の間接目的語の働きをする場合に,あるいは多くの前置詞の後位置において,置かれる格である.:「?に」

 古英語の名詞の語形は,以上の三点が分かって初めて確定する.だが,実際にはもう一つ重要なポイントがある.それは「屈折タイプ」と呼ぶべきものである.各名詞に最初から性が付与されているのと同様に,各名詞にはどの「屈折タイプ」で屈折するかが最初から決まっている.男性名詞ならこの屈折表を覚えればよく,女性名詞ならあの屈折表を覚えればよいという単純な話ではなく,男性名詞の中でも,このタイプの屈折,あのタイプの屈折と幾種類かの屈折タイプがある.したがって,名詞を正しく使いこなすには,個々の名詞がどの屈折タイプに属するかを知っている必要がある.そして,屈折タイプも性の場合と同様に,原則として一発で見分ける方法はないと考えてよい.この四つ目のポイントである「屈折タイプ」については,後に改めて解説する.

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