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geography - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-09-17 10:36

2015-03-26 Thu

#2159. 共時態と通時態を結びつける diffusion [lexical_diffusion][diachrony][dialectology][language_change][geography][geolinguistics][sociolinguistics][isogloss]

 「#2134. 言語変化は矛盾ではない」 ([2015-03-01-1]) で,共時態と通時態が相矛盾するものではないとするコセリウの議論をみた.両者は矛盾しないというよりは,1つの現実の2つの側面にすぎないのであり,むしろ実際には融合しているのである.このことは,方言分布や語彙拡散の研究をしているとよく分かる.時間の流れが空間(地理的空間や社会階層の空間)に痕跡を残すとでも言えばよいだろうか,動と静が同居しているのだ.このような視点をうまく説明することはできないかと日々考えていたところ,Wolfram and Schilling-Estes による方言学と言語的拡散についての文章の冒頭 (713) に,求めていたものをみつけた.言い得て妙.

Dialect variation brings together language synchrony and diachrony in a unique way. Language change is typically initiated by a group of speakers in a particular locale at a given point in time, spreading from that locus outward in successive stages that reflect an apparent time depth in the spatial dispersion of forms. Thus, there is a time dimension that is implied in the layered boundaries, or isoglosses, that represent linguistic diffusion from a known point of origin. Insofar as the synchronic dispersion patterns are reflexes of diachronic change, the examination of synchronic points in a spatial continuum also may open an important observational window into language change in progress.


 引用内で "spatial" というとき,地理空間を指しているように思われるが,同じことは社会空間にも当てはまる.実際,Wolfram and Schilling-Estes (714) は,2つの異なる空間への拡散の同時性について考えている.

Although dialect diffusion is usually associated with linguistic innovations among populations in geographical space, a horizontal dimension, it is essential to recognize that diffusion may take place on the vertical axis of social space as well. In fact, in most cases of diffusion, the vertical and horizontal dimensions operate in tandem. Within a stratified population a change will typically be initiated in a particular social class and spread to other classes in the population from that point, even as the change spreads in geographical space.


 地理空間と社会空間への同時の拡散のほかにも,様々な次元への同時の拡散を考えることができる.語彙拡散 (lexical_diffusion) はそもそも言語空間における拡散であるし,時間は一方向の流れなので「拡散」とは表現しないが,(「時間空間」とすると妙な言い方だが,そこへの)一種の拡散とも考えられる.このような多重的な言語拡散の見方については,「#1550. 波状理論語彙拡散含意尺度 (3)」 ([2013-07-25-1]) で,"double diffusion" や "cumulative diffusion" と呼びながら議論したことでもある.新たに「同時多次元拡散」 (simultaneous multi-dimensional diffusion) と名付けたい思うが,この命名はいかがだろうか.ソシュールによる態の区別の呪縛から解放されるためのキーワードの1つとして・・・.

・ Wolfram, Walt and Natalie Schilling-Estes. "Dialectology and Linguistic Diffusion." The Handbook of Historical Linguistics. Ed. Brian D. Joseph and Richard D. Janda. Malden, MA: Blackwell, 2003. 713--35.

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2014-11-29 Sat

#2042. 方言周圏論の反対 [wave_theory][japanese][dialect][dialectology][geography][geolinguistics][stress][prosody][map][prescriptive_grammar][speed_of_change]

 「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]),「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]),方言周圏論を含む他の記事で,言語革新の典型的な伝播経路とその歴史的な側面に言及してきた.中心的な地域はしばしば革新的な地域でもあり,そこで生じた言語革新が周囲に波状に伝播していくが,徐々に波の勢いが弱まるため周辺部には伝わりにくい.その結果,中心は新しく周辺は古いという分布を示すに至る.互いに遠く離れた周辺部が類似した形態をもつという現象は,一見すると不思議だが,方言周圏論によりきれいに説明がつく.
 以上が典型的な方言周圏論だが,むしろまったく逆に中心が古く周辺が新しいという分布を示唆する例がある.日本語のアクセント分布だ.日本の方言では様々なアクセントが行われており,京阪式アクセント,東京式アクセント,特殊アクセント,一型アクセント,無アクセントが区別される.興味深いことに,これらのアクセントの複雑さと地理分布はおよそ相関していることが知られている.例えば2音節名詞で4つの型が区別される最も複雑な京阪式アクセントは,その名が示すとおり,京阪を中心として近畿周縁,さらに波状に北陸や四国にまで分布している.その外側には2音節名詞で3つの型が区別される次に複雑な東京式アクセントが分布する.東京を含む関東一円から,東は(後で述べる無アクセント地域は除き)東北や北海道まで拡がっており,西は近畿を飛び越えて中国地方と九州北部にまで分布している.つまり,東京式アクセントは,近畿に分断されている部分を除き,広く本州に分布している.
 続いて2音節名詞で2つの型を区別する特殊アクセントは,埼玉東部や九州南西部に飛び地としてわずかに分布するにとどまる.1つの型しかもたない一型アクセントは,全国で鹿児島県都城にのみ認められる.最後に型を区別しない無アクセントは,茨城県,栃木県,福島県,そして九州中央部の広い地域に分布している.このように互いに遠く離れた周辺部に類似したアクセントがみられることは,方言周圏論を想起させる.
 しかし,ここで典型的な方言周圏論と著しく異なるのは,歴史的にはより古い京阪アクセントが本州中央部に残っており,より新しい東京アクセントその他が周辺部に展開していることだ.また,平安時代の京都方言では2音節名詞は5つの型を区別していたことが知られている.すると,平安時代の京都方言のアクセントのもつ複雑さを現代において最もよく保っているのが京阪式アクセントで,そこから順次単純化されたアクセントが波状に分布していると解釈できる.中心が複雑で古く,周辺が単純で新しいという図式に整理できるが,これは方言周圏論の主張とはむしろ逆である.日本の方言を分かりやすく紹介した彦坂 (77) は,次のように述べている.

 内輪にあたる中央の文化的な地方では、教育や伝統がよく伝えられ、ことばもふるい型がたもたれやすかったのです。その外側の中輪の地方になるとこれが弱まり、さらに外輪の地方ではもっと弱まります。近畿を中心に円をえがくようにして、中心がアクセントの型をたもち外側がくずれているのは、そのためです。これは、方言の歴史的な変化のようすを語るものです。
 ――きみはこれを聞いて、前に話した「方言周圏論」=“文化が活発な中央で新しい語が生まれてひろがり、地方にはふるい語がのこる”というのと反対だと、思うかもしれません。この考え方は方言単語のひろがり方によく当てはまります。
 でも、アクセントを中心にして考えられたこうした解しゃくは、「アクセントなどのふくざつな型をもつものは地方のほうが変化を起こしやすい」という、ことばのもうひとつの変化の仕方を語っています。


 構造的に比較的単純な語と複雑なアクセントは,変化や伝播の仕方に関して,別に扱う必要があるということだろうか.構造的複雑さと変化速度との間に何らかの関連があるかもしれないことを示唆する興味深い現象かもしれない.と同時に,上の引用にもあるように,規範や教育という社会的な力が作用しているとも考えられる.
 なお,最も周縁部に分布する無アクセントが最新ということであれば,それは今後の日本語アクセントの姿を予言するものであるとも解釈できる.事実,彦坂 (75) は,「将来の日本語はこういうアクセントになるかもしれません。いゃ、なるでしょう。」と確信的である.  *

 ・ 彦坂 佳宣 『方言はまほうのことば!』 アリス館,1997年.

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2014-11-27 Thu

#2040. 北前船と飛び石理論 [geolinguistics][geography][dialect][japanese][map][gravity_model]

 「#2034. 波状理論ならぬ飛び石理論」 ([2014-11-21-1]) 及び「#2037. 言語革新の伝播と交通網」 ([2014-11-24-1]) で話題にしたように,言語革新は,その他の文化的革新と同様に,交通網に沿って伝播することが多かった.現代はテレビやインターネットなど各種のメディアが発達し,物理的な障害をいともたやすく飛び越えていく時代だが,近代までは物理的な交通こそが,あらゆる文化的伝播の基礎にあった.
 ある一地方で始まった言語革新や,ある一地方に限定されていた方言形が,交通網に沿って伝播する例は,近世の日本にもみられる.明治期までの日本の物流の幹線は,内陸の街道ではなく,沿海の航路である.江戸初期の寛永年間 (1624--44) に河村瑞賢 (1618--99) により本州を巡る廻船航路が開かれると,廻米船が本州の沿岸を頻繁に巡るようになった.大阪,瀬戸内海,日本海岸,酒田を巡る西廻り航路と,江戸,太平洋岸,日本海岸,酒田を巡る東廻り航路と,大阪,太平洋岸,江戸を巡る南海路があった.特に日本海岸を往来した西廻り航路の北前船の活躍がよく知られている.廻船は佐渡,酒田,松前,宮古,銚子などに寄港し,これらの港町に上方の物品,文化,そして方言を伝えた.いわば途中の中小の港町や内陸部を飛び越えて,遠く離れた大きな港町へ飛び石風に上方方言を伝えることとなったのである.  *
 具体例を挙げれば,西廻り航路の要衝だった佐渡には京都風の敬称「〜はん」(共通語の「〜さん」に相当)が行われているほか,「行かない」の意の近畿方言形「いきゃせん」,「いとおしむ」の意の東北方言形「かなじゅむ」,「だけど」の意の九州方言形「ばってん」などが聞かれる(井上,p. 44).また,宮古など岩手県の沿岸部や千葉県の銚子では「ありがとう」の意味での「おおきに」が聞かれる.ほかに銚子方言では「煮る」ことを「たく」と表現するが,これも上方の方言に倣ったものである.周囲にそのような方言形が行われている地域がなく,孤立した分布を示しているため,これらは当時の廻船航路という交通網に沿っての飛び石現象と解釈するよりほかない.また,八丈島の「おじゃる」は古い京都の方言で,黒潮に乗って流れ着いたと言われており,広い意味で交通網に沿った方言形の伝播の例といってよい(井上,pp. 8--9).
 北前船の活躍は幕末から明治初期が最盛期だったが,その後に汽船や内陸鉄道網の発達で衰退していった.それとともに方言伝播のルートも変わっていったものと思われる.

 ・ 井上 史雄(監修) 『方言と地図』 フレーベル館,2009年.

Referrer (Inside): [2015-04-06-1]

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2014-11-24 Mon

#2037. 言語革新の伝播と交通網 [wave_theory][geolinguistics][geography][dialect][sociolinguistics][map][gravity_model]

 「#2034. 波状理論ならぬ飛び石理論」 ([2014-11-21-1]) で,都市から都市への言語革新の伝播に触れた.交通が未発達の社会では,人々の行動半径は大きくなく,移動は近隣の地域に限られる.その場合には,言語革新の伝播の様式は,波状理論 (wave_theory) で予想されるとおりの波紋状になるだろう.しかし,交通が発達した社会では,言語革新は例えば道路網や鉄道網に沿うなどして,互いに遠く離れた都市から都市へと飛び石のように伝播するだろう.このように波状理論と飛び石理論は互いに矛盾するものではなく,むしろその社会の交通の発達度を変数とする,より一般的な理論へと止揚できるように思われる.
 刷新形の伝播と交通網とがいかに連動しているかを知るには,イングランド南部で「かいばおけ」を表わす標準形 manger が伝統方言形 trough を置換していく過程と分布を眺めるのがよい.Survey of English Dialects のための調査が進められていた20世紀半ばには,この地域では伝統方言形 trough が行われていたが,北から標準形 manger が着実に浸透しつつあった.その侵入の経路を詳しくみてみると,ロンドンから南西,南,南東へ延びる幹線道路と鉄道網にぴったりと沿いながら浸透していることがわかったのである.結果として,交通網に沿った地域では新形 manger が早く根付いたが,交通網から外れた地域では古形 trough が持続しているという状況が示された.以下,Trudgill (130--31) より,方言地図と交通地図を示す(両地図がいかに重なるかを見るには,こちらのGIFアニメーションをどうぞ.)

Map of

It can be seen that each of the three southward-encroaching prongs of the manger area, two of which actually reach the coast, coincide with the main London to Dover road and rail route, the main London to Brighton route, and the main route from London to Portsmouth. The spread of the incoming form is clearly accelerated in areas with good communications links, and is retarded in more isolated areas. (Trudgill 132)


 言語革新に限らず,モノにせよウィルスにせよ情報にせよ,あらゆるものが交通網に沿って,より一般的にはコミュニケーション・ネットワークに沿って移動し伝播する.考えてみれば当然のことだが,南イングランドにおける「かいばおけ」の例のように地図で示されると,そのことが具体的に理解でき,納得できる.方言地理学がいかにダイナミックであるかを味わわせてくれる好例だろう.「#1543. 言語の地理学」 ([2013-07-18-1]) の分野からの研究例としても評価できる.

 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

Referrer (Inside): [2015-04-06-1] [2014-11-27-1]

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2014-11-23 Sun

#2036. イングランド方言にみられる方言周圏論の典型例 [wave_theory][dialect][geography][isogloss][map][geolinguistics]

 方言周圏論といえば,「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]) でみた「蝸牛」の例がよく知られている.ほかにも,「とんぼ(蜻蛉)」を指すアキヅに類似する形が,福島から岩手にかけての東北地方と宮崎南部という遠く離れた地域に分布する例,「退屈」を意味するトゼンの訛語がやはり東北と九州に独立して分布する例などが知られている.南西ヨーロッパの albus に由来する古形が周辺に残存している例も,「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]) でみた.では,英語における方言周圏論の例として,何が挙げられるだろうか.
 1つは「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]) の地図である.r 脱落という革新がイングランド南東部に発し,北部や東部へ拡がっている.現在も拡大中だが,波紋の及んでいない最北部や西部などの周辺的な地域では,r を保持する古形が残存している.このように方言周圏論の典型例では,ある形態が互いに遠く離れた周縁部 (relic area) に現われる.
 Upton and Widdowson のイングランド方言地図をパラパラ眺めていて,もう1つ典型的な例を見つけることができた.以下は,Upton and Widdowson (140) に掲載されている「(ワシ・タカの)くちばし」を意味する beak の方言語の分布である.

Map of

 標準語形である beak がイングランドの大半を覆っているが,南西部,西部,北部の辺境に bill の小島が細々と分布している.これほど互いに離れた地域で独立して bill が発生したとは考えにくいので,代わりに,かつて全土を覆っていた bill が革新的で勢いのある beak に詰め寄られ,かろうじてその侵入を免れた小区画が辺境に点々と分布しているものと解釈する.ただし,北西部に第3の方言形 neb もある程度の分布を占めており,若干複雑な様相を呈する.
 beak は古フランス語 bec からの借用語で13世紀半ばに入ってきた比較的新しい語である.一方,bill は古英語 bile に遡る本来語で,その起源は古い.neb も同様に古英語 neb(b) に遡る本来語である.現在はイングランド北西部のほかスコットランドにも方言として使用されているが,この北寄りに偏った分布は,英語史的には古ノルド語の同根語 nef の存在によって補強されたのではないかと考えたくなる.
 英語史の知見を交えながらこの方言地図と読み解くと,通時的には次のような過程があったのではないかと想像される.まず,古英語期には bill がイングランド中に広く分布していた.それと並んで neb もそれなりの分布を示していた可能性があるが,とりわけ古ノルド語との接触以来,北部方言で勢力を強めていった.続く中英語期にフランス語からの新参者 beak がおそらく南部に導入され,波状にイングランド全土へ伝播していった.大半の地域では beak が従来の語を置き換えつつ定着していったが,周縁部には本来語の billneb がしぶとく生き延びる小区画が点々と残ることとなった.以上は1つの歴史のシナリオにすぎないが,少なくとも方言地図の示す分布と矛盾しないシナリオである.方言地図の読み解き方の1つの指南として,「#2019. 地理言語学における6つの原則」 ([2014-11-06-1]) も参照されたい.

 ・ Upton, Clive and J. D. A. Widdowson. An Atlas of English Dialects. 2nd ed. Abingdon: Routledge, 2006.

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2014-11-21 Fri

#2034. 波状理論ならぬ飛び石理論 [wave_theory][geolinguistics][geography][dialect][map][gravity_model]

 言語革新がある地点から波状に伝播していくという波状理論 wave_theory について,その具体例を「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]),「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]),「#1055. uvular r の言語境界を越える拡大」 ([2012-03-17-1]),「#1505. オランダ語方言における "mouse"-line と "house"-line」 ([2013-06-10-1]),「#1506. The Rhenish fan」 ([2013-06-11-1]) などでみてきた.波状理論の最も純粋な解釈によれば,言語革新はある地点から文字通り同心円の波紋を描きながら拡がっていくとされる.これを現実的な地理空間の用語で言い換えると,言語革新は中心地となる町や村から,東西南北あらゆる方向へ,隣り合う町や村に順次伝播していくということになる.
 しかし,この純粋な波状理論には当てはまらない伝播の事例も数多く例証される.言語革新のみならず文化的流行にせよ疫病にせよ,必ずしも隣り合う町伝い,村伝いに伝播するとは限らず,遠く離れた地点へ飛び火するということがありうる.とりわけ交通網の発達した社会では,周辺の村邑を素通りして,大都市間で革新が共有されるタイミングのほうが早いことが多い.例えば,東京発信の革新は,関東外縁へ波状に広まるよりも,東海道新幹線に沿って飛び飛びに横浜,名古屋,京都,大阪へ伝わるほうが早いかもしれない.この場合,波状理論というよりは飛び石理論を想定したくなる.しかし,両理論は排他的な関係ではない.飛び石の各着地点(上の例では横浜,名古屋,京都,大阪)からは,着地の刺激によりそこを中心にやはり新しい波紋が広がりだす.したがって,波状理論のほうがより基本的なモデルであるらしいことがわかる.
 飛び石理論は Chambers and Trudgill による提案だが,拙著で関連する以下の文章を書いたことがあるので引用しておきたい.

As for dialect-to-dialect change, the wave model was first proposed to describe the geographical diffusion of linguistic innovation. Then some geographically aware linguists developed an extended theory on linguistic diffusion over space. Chambers and Trudgill, for example, advanced the gravity model against the wave model to account for the path along which innovation diffuses in space (166). In this model, a linguistic innovation is likened to a stone skipping across a pond because it spreads not necessarily from a speaker or place to the immediate next but jumps from a speaker or place to another which may be geographically apart but socially connected. For example, linguistic innovation can spread from a big city to another, skipping through small towns in between. (Hotta 173)


 言語革新の伝播に関する飛び石理論の具体例としては,イングランド伝統方言における「橋」を表わす bridge (標準語形)と brig の方言分布が挙げられる(以下,地図は Upton and Widdowson 154 より).前者は古英語の本来的な形態 (brycg) を継承する語形であり,後者は古ノルド語の同根語の形態 (bryggja) より影響を受けたとされる語形である.基本的な方言形の分布としては,イングランド南部の大半で bridge が,北部では brig が行われているが,北部の東岸に2箇所,それぞれ離れたエリアに,bridge が用いられている小区画がある.1つは最北の Newcastle, Sunderland, Durham を含むエリア,もう1つはより南の Humber 河口の Grimsby を含むエリアである.周囲がすべて brig である地域に,2つの小区画がポツポツと小島のように浮かんでいる印象だ.これは,南から勢力を拡げる標準語形 bridge が,波状でじわじわと北部に詰め寄っているというよりは,北部東海岸の都市から都市へと飛び石風に分布を拡げているという伝播の仕方を示唆する.そして,その北部東海岸の各都市から近郊へと,今度はおよそ波状に分布を拡げていったという具合だ.

Map of

 Trudgill (129, 132) はイングランドの都市化の潮流と関連づけて,この方言形の分布を読み解いている.

The geographical patterning of the occurrence of the two words suggests that the southern and Standard English word is beginning to spread north, and in a rather interesting way. In its spread northwards, bridge has first invaded the coastal city areas of Sunderland and Grimsby, and then spread outwards again from these centres. This is just one example of the importance of urban centres in the spreading of new forms in language . . ., and of the way in which the increasing urbanization of England has contributed in this century to the loss of Traditional Dialects.


 ・ Hotta, Ryuichi. "The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English." PhD thesis, University of Glasgow. Glasgow, November 2005.
 ・ Chambers, J. K. and Peter Trudgill. Dialectology. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1998.
 ・ Upton, Clive and J. D. A. Widdowson. An Atlas of English Dialects. 2nd ed. Abingdon: Routledge, 2006.  *
 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

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2014-11-20 Thu

#2033. 日本とイングランドの方言地図 [hel_education][historiography][map][dialectology][history_of_linguistics][geolinguistics][geography][dialect]

 様々な方言地図を眺めながら日本語とイングランド英語の方言について概要を学ぼうと思い,以下の4冊をざっと読んだ.いずれも概説的で読みやすく,気軽に方言地図のおもしろさを味わえるのがよい.

 ・ 柴田 武 『日本の方言』 岩波書店〈岩波新書〉,1958年.
 ・ 徳川 宗賢(編) 『日本の方言地図』33版,中央公論新社〈中公新書〉,2013年.  *
 ・ Upton, Clive and J. D. A. Widdowson. An Atlas of English Dialects. 2nd ed. Abingdon: Routledge, 2006.  *
 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

 方言地理学と言語史は密接な関係にある.現代方言はいわば生きた言語史の素材を提供してくれ,言語史の知識は方言地図の解釈を助けてくれる.両者の連携を意識すれば,そこは通時態と共時態の交差点となるし,汎時的 (panchronic) な平面ともなる.英語史の記述や教育にも,現代方言の知見を盛り込むことにより,新たな可能性が開かれるのではないかと感じている.
 さて,日本における方言地図作成の歴史は,世界のなかでも最も古い類いに属する.徳川 (ii) によると,明治期に文部省の国語調査委員会が標準語制定の参考とするために音韻と口語法に関する方言調査を行い,その成果として刊行された29面の『音韻分布図』 (1905) と37面の『口語法分布図』 (1906) が日本の方言地理学の出発点である.Gilliéron らによる画期的なフランス方言地図 (Atlas linguistique de la France) の出版が1902--10年であることを考えると,日本の方言研究も相当早い時期に発展してたかのように思われる.しかし,当時の国語調査委員会の目的は標準語制定や方言区画論といった実用的な色彩が強く,学問としての方言地理学のその後の発展に大きく貢献することはなかった.
 日本の方言地理学にとって次の重要な契機となったは,柳田国男の『蝸牛考』 (1930) (cf. 「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1])) である.しかし,柳田が作り出した潮流は戦争により頓挫し,その発展は戦後を待たなければならなかった.戦後,国立国語研究所(文部省・文化庁)による大規模な全国調査の結果として,300面に及ぶ『日本言語地図』 (1966--74) が刊行された.その目的は方言地理学と日本語史の研究に資する材料を提供することであり,明治期と異なり,明らかに科学的な方向を示していた.日本語方言地理学の本格的な歩みはここに始まるといってよい.手に取りやすい新書『日本の方言地図』(徳川宗賢(編))は,『日本言語地図』の300面から50面を選び出して丁寧に解説した方言学の入門書である.
 一方,英語の方言地図作成は,日本や他のヨーロッパ諸国に比べて,出遅れていた.イングランド英語の最初の本格的な方言地図は,Harold Orton と Eugen Dieth が企図し,Leeds 大学を基点として行われた大規模な全国調査に基づく Survey of English Dialects (A in 1962; B in 1962--71) である.これは,現地調査員が1948--61年のあいだに全国313地点において伝統方言 (Traditional Dialects) を調査した成果であり,イングランドの方言地理学の基礎をなすものである.
 日本においてもイングランドにおいても,大規模調査に基づいて作成された方言地図が,現在の各言語の方言地理学の基礎となっている.それぞれすでに半世紀以上前の伝統方言の調査結果であり,古めかしくなっていることは否定できないが,方言地図の1枚1枚がそれぞれの言語項と話者の歴史を物語っており,言語資料であるとともに貴重な民俗資料ともなっている.

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2014-11-06 Thu

#2019. 地理言語学における6つの原則 [geolinguistics][geography][dialectology][wave_theory][neolinguistics]

 「#2013. イタリア新言語学 (1)」 ([2014-10-31-1]) 及び「#2014. イタリア新言語学 (2)」 ([2014-11-01-1]) で,地理言語学を推進した学派について紹介した.イタリア新言語学派 (neolinguistics) は,言語項の地理的な伝播の過程について理論的考察を行い,その結果としての各項の地理的な分布を解釈するための作業上の方針を策定した.要するに,地図上に共時的に示された方言形の分布から,過去に生じた変化の順序や伝播の経路を読み取るための手続きや指針を明文化しようとしたのである.例えば,「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]) というような原則のようなものである.
 新言語学の領袖 Matteo Giulio Bàrtoli が1925年に著わした Introduzione alla neolinguistica の第1章に,6つの原則が提示されている.残念ながらイタリア語の原書は読めないので,Hall (274) の要約より引用して示す(ただし,Hall は新言語学に非常に批判的な立場を取っていることに注意).

1. Of two stages of linguistic development, the one attested earlier (quella ch'é documentata prima) is usually the older (3).
2. The earlier stage (fase anteriore) is usually preserved in the more isolated of two areas (area isolata) (3--6).
3. The stage attested in marginal areas (aree laterali) is usually the earlier stage, provided the central area (area di mezzo) is not the more isolated area (6--10).
4. The greater of two areas (area maggiore) usually preserves the earlier stage of development, provided the lesser area (area minore) is not the more isolated and does not consist of marginal areas (10--12).
5. The earlier stage of development is usually preserved in a 'later area' (area seriore) (13--15).
6. If one of two stages of development is obsolete or on its way out, it is usually the obsolete stage (fase sparita) which is the earlier (15--17).


 Hall の批判に応酬した Bonfante (368) によれば,上記の方針3と4で触れられている "marginal areas" はイタリア語の "aree laterali" の不正確な英訳であるとしているので,ここに付言しておく."laterali" は,純粋に地理空間的な用語であり,例えば Castile の観点からすると Catalonia と Porgual は "literali" であると言われる.
 また "laterali" (marginal) に限らず "isolata" (isolated), "seriore" (later) という用語も相対的なものであることに注意したい.例えば,イタリアはある言語変化に関しては側面的な位置にあったとしても,別の言語変化に関しては中心的な位置にあると言いうる.同じように,同一地域が,考察対象となっている言語変化によって孤立的あるいは非孤立的のいずれともみなされうるし,後発的あるいは非後発的のいずれとも解されうる.
 いずれの原則にも "usually" とあるように,これらの原則はむしろ例外の存在を積極的に認めた上での原則である.地理言語学者自身が最もよく知っているように,個々の言語項は個々の地理的分布を示すものであり,個別に取り扱うべきものである.その分布の解釈は,さしあたって6つの原則に基づいて開始してみるが,原則の予想に反する事実が現われれば,当然,事実を優先して再解釈を試みるというのが前提である.Bàrtoli による上記の原則は,新言語学派=言語地理学者の経験則から生まれた作業上の仮説としてとらえるのが妥当だろう.
 関連して,「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]),「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]),「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]),「#1053. 波状説の波及効果」 ([2012-03-15-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]) も参照されたい.

 ・ Hall, Robert A. "Bartoli's 'Neolinguistica'." Language 22 (1946): 273--83.

Referrer (Inside): [2014-11-23-1] [2014-11-07-1]

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2014-10-31 Fri

#2013. イタリア新言語学 (1) [history_of_linguistics][neolinguistics][neogrammarian][geography][geolinguistics][wave_theory]

 「#1069. フォスラー学派,新言語学派,柳田 --- 話者個人の心理を重んじる言語観」 ([2012-03-31-1]),「#1722. Pisani 曰く「言語は大河である」」 ([2014-01-13-1]),「#2006. 言語接触研究の略史」 ([2014-10-26-1]),「#2008. 借用は言語項の複製か模倣か」 ([2014-10-28-1]) でイタリアで生じた新言語学 (neolinguistics) 派について触れた.言語学史上の新言語学の立場に関心を寄せているが,この学派の論者たちは主たる著作をイタリア語で書いており,アクセスが容易ではない.そのため,新言語学は,日本でも,また言語学一般の世界でもそれほど知られていない.このような状況下で新言語学のエッセンスを理解するには,言語学史の参考書および学術雑誌 Language で戦わされた激しい論争を読むのが役に立つ.今回は,すぐれた言語学史を著わしたイヴィッチによる記述に依拠し,新言語学登場の背景と,その言語観の要点を紹介する.
 イタリア新言語学は,Matteo Giulio Bartoli (1873--1946) の著わした論文 "Alle fonti del neolatino" (Miscellanea in onore de Attillio Hortis, 1910, pp. 889--913) をもってその嚆矢とする.1925年には,Bartoli による Introduzione alla neolinguistica (Principi---Scopi---Metodi) (Genève, 1925) と,Bartoli and Giulio Bertoni による Breviorio di neolinguistica (Modena, 1925) が継いで出版され,新言語学の基盤を築いた.Vittolio Pisani や Giuliano Bonfante もこの学派の卓越した学者だった.
 新言語学の思想は,Wilhelm von Humboldt (1767--1835),Hugo Schuchardt (1842--1927),Benedetto Croce (1866--1952),Karl Vossler (1872--1947) の観念論を源泉とする.一方,方法論としてはフランスの言語地理学者 Jules Gilliéron (1854--1926) に多くを負っている.その系譜はドイツの美的観念論とフランスの言語地理学の融合により,その気質は徹底的な青年文法学派 (neogrammarian) への批判に特徴づけられる.
 新言語学の理論的立場は多岐で複合的である.エッセンスを抜き出せば,話者の精神・心理(創造性や美的感覚など)の尊重,地理的・歴史的環境の重視,(音声ではなく)語彙と方言の研究への傾斜といったところか.イヴィッチ (66) の記述に拠ろう.

 人間は言語を物質的のみならず精神的意味においても――その意志・想像力・思考・感情によっても――創造する.言語はその創造者たる人間の反映である.言語に関するものはすべて精神的ならびに生理的過程の帰結である.
 生理学だけでは言語学の何物をも説明できない.生理学は特定の現象が創造される際の諸条件を示しうるにすぎない.言語現象の背後にある原因は人間の精神活動である.
 「話す社会」 speaking society は現実に存在しない.それは「平均的人間」と同様に仮構である.実在するものはただ「話す個人」 speaking person だけである.言語の改新はどれも「話す個人」が口火を切る.
 個人の創始になる言語の改新は,その変化の創始者が重要な人物(高い社会的地位の持主,際立った創造力の持主,話術の達人,等)の場合に,いっそう確実・完全・迅速に社会に容れられる.
 言語において正しくないと見なし得るものは何一つない.存在するものはすべて存在するという事実故に正しい.
 言語は根本的には美的感覚の表現であるが,これはうつろいやすいものである.事実,同じく美的感覚に依存している人生の他の面(芸術・文学・衣服)においてと同様,言語においても流行の変化が観察できる.
 単語の意味の変化は詩的比喩の結果として生ずる.これらの変化の研究は人間の創造力の働きを知る手がかりとして有益である.
 言語構造の変化は民族の混合の結果として生ずるが,それは人種の混合ではなく,精神文化の混合の意味においてである.
 事実上言語は,しばしば相互に矛盾する様々の発展動向の嵐の中心となる.この様々の発展動向を理解するには,様々の視覚から言語現象に接近しなければならない.まず第一に,個々の言語の進化はとりわけ地理的・歴史的環境に規定されるという事実を考慮に入れるべきである(例えば,フランス語の歴史は,フランスの歴史――キリスト教の影響,ゲルマン人の進出,封建制度,イタリアの影響,宮廷の雰囲気,アカデミーの仕事,フランス革命,ローマン主義運動,等々――を考慮に入れなくては適切に研究できない).


 この新言語学の伝統は,その後青年文法学派に基づく主流派からは見捨てられることになったが,イタリアでは受け継がれることとなった.様々な批判はあったが,言語の問題に歴史,社会,地理の視点を交え,とりわけ方言学や地理言語学(あるいは地域言語学 "areal linguistics")においていくつかの重要な貢献をなしたことは銘記すべきである.例えば,波状説 (wave_theory) に詳しい地理学的な精密さを加え,基層言語影響説 (substratum_theory) に人種の混合ではなく精神文化の混合という解釈を与えたことなどは評価されるべきだろう.これらの点については,「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]),「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]),「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]),「#1053. 波状説の波及効果」 ([2012-03-15-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]),「#1594. ノルマン・コンクェストは英語をロマンス化しただけか?」 ([2013-09-07-1]) も参照されたい.

 ・ ミルカ・イヴィッチ 著,早田 輝洋・井上 史雄 訳 『言語学の流れ』 みすず書房,1974年.
 ・ Hall, Robert A. "Bartoli's 'Neolinguistica'." Language 22 (1946): 273--83.
 ・ Bonfante, Giuliano. "The Neolinguistic Position (A Reply to Hall's Criticism of Neolinguistics)." Language 23 (1947): 344--75.

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2014-10-26 Sun

#2008. 言語接触研究の略史 [history_of_linguistics][contact][sociolinguistics][bilingualism][geolinguistics][geography][pidgin][creole][neogrammarian][wave_theory][linguistic_area][neolinguistics]

 「#1993. Hickey による言語外的要因への慎重論」 ([2014-10-11-1]) の記事で,近年,言語変化の原因を言語接触 (language contact) に帰する論考が増えてきている.言語接触による説明は1970--80年代はむしろ逆風を受けていたが,1990年代以降,揺り戻しが来ているようだ.しかし,近代言語学での言語接触の研究史は案外と古い.今日は,主として Drinka (325--28) の概説に依拠して,言語接触研究の略史を描く.
 略史のスタートとして,Johannes Schmidt (1843--1901) の名を挙げたい.「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]),「#1118. Schleicher の系統樹説」 ([2012-05-19-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]) などの記事で見たように,Schmidt は,諸言語間の関係をとらえるための理論として師匠の August Schleicher (1821--68) が1860年に提示した Stammbaumtheorie (Family Tree Theory) に対抗し,1872年に Wellentheorie (wave_theory) を提示した.Schmidt のこの提案は言語的革新が中心から周辺へと地理的に波及していく過程を前提としており,言語接触に基づいて言語変化を説明しようとするモデルの先駆けとなった.
 この時代は青年文法学派 (neogrammarian) の全盛期に当たるが,そのなかで異才 Hugo Schuchardt (1842--1927) もまた言語接触の重要性に早くから気づいていた1人である.Schuchardt は,ピジン語やクレオール語など混合言語の研究の端緒を開いた人物でもある.
 20世紀に入ると,フランスの方言学者 Jules Gilliéron (1854--1926) により方言地理学が開かれる.1930年には Kristian Sandfeld によりバルカン言語学 (linguistique balkanique) が創始され,地域言語学 (areal linguistics) や地理言語学 (geolinguistics) の先鞭をつけた.イタリアでは,「#1069. フォスラー学派,新言語学派,柳田 --- 話者個人の心理を重んじる言語観」 ([2012-03-31-1]) で触れたように,Matteo Bartoli により新言語学 (Neolinguistics) が開かれ,言語変化における中心と周辺の対立関係が追究された.1940年代には Franz Boaz や Roman Jakobson などの言語学者が言語境界を越えた言語項の拡散について論じた.
 言語接触の分野で最初の体系的で包括的な研究といえば,Weinreich 著 Languages in Contact (1953) だろう.Weinreich は,言語接触の場は言語でも社会でもなく,2言語話者たる個人にあることを明言したことで,研究史上に名を残している.Weinreich は.師匠 André Martinet 譲りの構造言語学の知見を駆使しながらも,社会言語学や心理言語学の観点を重視し,その後の言語接触研究に確かな方向性を与えた.1970年代には,Peter Trudgill が言語的革新の拡散のもう1つのモデルとして "gravity model" を提起した(cf.「#1053. 波状説の波及効果」 ([2012-03-15-1])).
 1970年代後半からは,歴史言語学や言語類型論からのアプローチが顕著となってきたほか,個人あるいは社会の2言語使用 (bilingualism) に関する心理言語学的な観点からの研究も多くなってきた.現在では言語接触研究は様々な分野へと分岐しており,以下はその多様性を示すキーワードをいくつか挙げたものである.言語交替 (language_shift),言語計画 (language_planning),2言語使用にかかわる脳の働きと習得,code-switching,借用や混合の構造的制約,言語変化論,ピジン語 (pidgin) やクレオール語 (creole) などの接触言語 (contact language),地域言語学 (areal linguistics),言語圏 (linguistic_area),等々 (Matras 203) .
 最後に,近年の言語接触研究において記念碑的な役割を果たしている研究書を1冊挙げよう.Thomason and Kaufman による Language Contact, Creolization, and Genetic Linguistics (1988) である.その後の言語接触の分野のほぼすべての研究が,多少なりともこの著作の影響を受けているといっても過言ではない.本ブログでも,いくつかの記事 (cf. Thomason and Kaufman) で取り上げてきた通りである.

 ・ Drinka, Bridget. "Language Contact." Chapter 18 of Continuum Companion to Historical Linguistics. Ed. Silvia Luraghi and Vit Bubenik. London: Continuum, 2010. 325--45.
 ・ Matras, Yaron. "Language Contact." Variation and Change. Ed. Mirjam Fried et al. Amsterdam: Benjamins, 2010. 203--14.
 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.
 ・ Thomason, Sarah Grey and Terrence Kaufman. Language Contact, Creolization, and Genetic Linguistics. Berkeley: U of California P, 1988.

Referrer (Inside): [2014-10-31-1] [2014-10-27-1]

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2014-01-02 Thu

#1711. カリブ海地域の英語の拡散 [geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 カリブ海の英語の分布について,「#1679. The West Indies の英語圏」 ([2013-12-01-1]),「#1680. The West Indies の言語事情」 ([2013-12-02-1]),「#1702. カリブ海地域への移民の出身地」 ([2013-12-24-1]) で取り上げてきた.この地域の言語事情は実に複雑であり,主として社会言語学的な関心から "Caribbean linguistics" という名で研究が進められている.
 英語事情をとってみても,移民の歴史,英語が拡散した歴史,pidgin や creole と標準英語の社会言語学的な関係,スペイン語など他の主要言語との共存など,問うべき課題は多い.問題の多様さと複雑さの背景には,歴史自体の多様さと複雑さがあるのだが,Holm (1) は3点を指摘している.その主旨を示すと,(1) この地域の英語の歴史は,個々の島や領土ごとの複数の英語史から成っており,1つの歴史にまとめることが難しい,(2) この地域の英語の拡散史は,イギリスの政治的権力の拡散史とは必ずしも一致していない,(3) この地域の伝統的な歴史記述は,政治史や経済史が主であり,言語史は pidgin や creole に付されていた否定的な評価ゆえに顧みられることが少なかった.(3) については現在では事情は変わってきているのだろうが,(1) と (2) はいかんともしがたい.(2) についていえば,例えば St. Lucia や Dominica は旧英国植民地だが,現在英語は概して第2言語として話されるにすぎない.一方,旧英国植民地ではないコスタリカの Puerto Limón やドミニカ共和国の the Samaná Peninsula では,現在英語が母語として話されている,などの事情がある.
 この地域の移民史と英語拡散史の一端を「#1702. カリブ海地域への移民の出身地」 ([2013-12-24-1]) の記事でみたが,島・領土ごとに情報をまとめた資料が Holm の補遺 (18--19) に与えられていたので,それを示しておきたい.約30年前の古い情報ではあるが,移民の出身地,Holm 執筆当時に得られた人口などがまとめられており,地域の英語事情の概観を得るのに参考にはなるだろう(表中の人口欄の「---」は,他の行に算入されていることを示す).

Date of SettlementTerritorySettled fromCurrent Population
1609Bermuda (Atlantic)Britain, Africa55,000
1624St. Kitts (Leewards)Britain, Africa, Ireland40,000
1627BarbadosBritain, Africa, Ireland280,000
1628Nevis (Leewards)St. Kitts, Ireland15,000
1628Barbuda (Leewards)St. Kitts, Ireland1,100
1631St. Martin (Dutch Ww.)Leewards, Holland, France10,000
1631Providence (West Car.)Britain, Bermuda, New England4,000
1631?San Andrés (West Car.)uncertain4,000
1632Antigua (Leewards)St. Kitts74,000
1633Montserrat (Leewards)St. Kitts, Ireland12,000
1636St. Eustatius (D. Ww.)Leewards, Holland1,000
1640Saba (Dutch Windwards)St. Eustatius, Leewards1,000
1648Bahamas (Eleuthera)Bermuda240,000
1650Anguilla (Leewards)Leewards6,500
1651Suriname (S. America)Barbados (Sranan 1st lang.: 125,000)404,000
1655JamaicaBarbados, Leewards, Suriname, Bermuda2,215,000
1666British Virgin Is.Leewards12,000
1670Cayman Is. (West Car.)Britain, Jamaica16,000
1670CarolinaBritain, Jamaica, Barbados, Bermuda, BahamasGullah: 250,000
1672St. Thomas (Virgin Is.)Leewards, Dutch Windwards, Denmark---
1678Turks and CaicosBermuda7,000
1684St. John (Virgin Is.)St. Thomas---
to 1715Saramaccan (Suriname)Coastal plantations(20,000)
from 1715Djuka (Suriname)Coastal plantations(16,000)
ca. 1730Miskito Coast (C.A.)Belize, Jamaica40,000
1733St. Croix (Virgin Is.)Leewards, St. Thomas---
1740's(British) GuyanaBarbados, Leewards832,000
from 1760Aluku (Fr. Guiana)Coastal plantations of Suriname---
1763Dominica (Br. Windw.)French Antilles (French Creole) 
1763St. Vincent (Br. Ww.)Leewards, Barbados112,000
1763Grenada (Br. Windw.)Fr. Antilles, Leewards, Barbados108,000
1763Tobago?---
from 1780southern BahamasU.S. South---
1786BelizeMiskito Coast150,000
1786Andros, BahamasMiskito Coast---
1797TrinidadWindwards, Barbados, Bahamas1,150,000
1815St. LuciaFrench Antilles (French Creole) 
from 1824Samaná, Dominican Rep.U.S. freedmen8,000
1827Bocas del Toro, PanamaSan Andrés---
1830'sBay Islands, HondurasCayman Islands10,000
1849Nacimiento, MexicoAfro-Seminoles300?
from 1850Rama, east NicaraguaMiskito Coast300?
1870Bracketville, TexasNacimiento Afro-Seminoles300?
1871Puerto Limón, Costa RicaJamaica, Eastern Caribbean40,000
1898Puerto RicoUnited States100,000?
1904--14PanamaJamaica, Eastern Caribbean100,000?
1917Virgin IslandsUnited Statestotal: 100,000
total: 6,398,500


 ・ Holm, J. A. "The Spread of English in the Caribbean Area." Focus on the Caribbean. Ed. M. Görlach and J. A. Holm. Amsterdam: Benjamins, 1986. 1--22.

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2013-12-24 Tue

#1702. カリブ海地域への移民の出身地 [geography][geolinguistics][history][timeline][map][caribbean]

 この4日間の記事 ##1698,1699,1700,1701 で,Gramley の英語史のコンパニオンサイトより,7章のための補足資料を参照しながら,英語圏の人々の移住とそれに伴う英語拡散の歴史を,目的地あるいは出身地により整理してきた.今日はこの一連の話題の最後として,同資料の pp. 7--8 より,カリブ海地域 (the Caribbean) への人々と英語の進出を整理したい.

FROMTO
17th Century Movements
BritainBermuda (1609); Providence Island (1631); Cayman Islands (1670)
IrelandSt. Kitts (1624); Barbados (1627); Nevis, Barbuda (1628)
AfricaBermuda (1609)
BermudaProvidence (1631); Bahamas (1648); Jamaica (1655); Turks + Caicos (1678)
New EnglandProvidence (1631)
St. KittsNevis, Barbuda (1628); Antigua (1632); Montserrat (1633)
The Leeward IslandsAnguilla (1650); Jamaica (1655); St. Thomas (1672)
BarbadosSuriname (1651); Jamaica (1655)
SurinameJamaica (1655)
JamaicaCayman Islands (1670)
St. ThomasSt. John (1684)
18th Century Movements
Belizethe Moskito Coast (1730)
Jamaicathe Moskito Coast (1730)
LeewardsSt. Croix (1733); Guyana (1740s); St. Vincent, Grenada (1763)
St. ThomasSt. Croix (1733)
BarbadosGuyana (1740s); St. Vincent, Grenada (1763), Trinidad (1797)
American SouthBahamas (1780ff)
Moskito CoastBelize, Andros, Bahamas (1786)
WindwardsTrinidad (1797)
19th Century Movements
US (freed slaves)Samaná (Dominican Republic) (1824)
San AndrésCocas del Toro (Panama) (1827)
Cayman IslandsBay Islands (Honduras) (1830s)
JamaicaPuerto Limón (Costa Rica) (1871)
USPuerto Rico (1898)
20th Century Movements
JamaicaPanama (1904--1914)
USthe American Virgin Islands (1917)


 カリブ海地域は日本にとってあまり馴染みのない地域なので,地理関係もつかみにくいかもしれない.地域の地図は,「#1679. The West Indies の英語圏」 ([2013-12-01-1]) を参照.  *
 外からの人口流入もさることながら,同地域内での人々の移動も頻繁だったことがよくわかる.例えば,Barbados, Belize, Bermuda, Cayman Islands, Jamaica, the Moskito Coast, St. Kitts, St. Thomas, Suriname の名前は,出発地にも目的地にも現れている.また,Jamaica 発で英語が広がった the Bay Islands (Honduras), the Corn Islands (Nicaragua), Blue Fields (Nicaragua), Puerto Limón (Costa Rica) や Belize など中米に属する英語圏の存在は忘れられがちだが,英語の拡散を扱う上では見逃せない.この地域の英語拡散の歴史についての詳細は,Holm を参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Holm, J. A. "The Spread of English in the Caribbean Area." Focus on the Caribbean. Ed. M. Görlach and J. A. Holm. Amsterdam: Benjamins, 1986. 1--22.

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2013-12-23 Mon

#1701. アメリカへの移民の出身地 [geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1]) の記事では,アメリカ「から」の人々の移住と英語の拡大の歴史を一覧したが,アメリカ「へ」の人口流入の歴史も,アメリカ英語の形成過程を論じる上では重要な知識である.アメリカ移民史は一大分野をなすが,英語史の話題として論じるにあたっては,簡便なリストが手元にあると重宝する.「#158. アメリカ英語の時代区分」 ([2009-10-02-1]) よりは詳しいが,本格的な移民史よりは簡略な表が,Gramley の英語史のコンパニオンサイトにあった.7章のための補足資料 (pp. 6--7) より再現しよう.一部,目的地として米国以外の地域も含まれている.

FROMTO
Southern EnglandEastern New England, the coastal South (from the early 17th century)
The CaribbeanVirginia and the plantation South (from the early 17th century)
Northern England, Scotland, UlsterSoutheast Pennsylvania, the Piedmont, and the Appalachian South (all from the late 17th century)
GermanyPennsylvania (from the late 17th century)
The 13 coloniesUpper Canada, the Maritimes (in the late 18th century)
HaitiLouisiana (in the late 18th century)
New EnglandNorthwest Territory (from the early 19th century)
Pennsylvania, Maryland, Virginia, and the Carolinas, and Georgiathe Ohio Valley and Southern Appalachians (from the 18th century)
US (freed slaves)Liberia (from 1822)
Upper Canadathe Prairie and Mountain provinces; British Columbia (19th century)
Midwestthe Oregon Territory, California, and the Mountain West (19th century)
New EnglandHawaii (late 19th century)
Far WestAlaska (late 19th century)
US (colonial administration)Philippines (from 1898--1946)


 上掲は,主としてアメリカが目的地となる移住についての表だが,部分的にアメリカが出発地となる移住の情報とも読める.移民はアメリカへ移動し,アメリカ内を移動し,アメリカから移動しているのである.その意味では,「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) の略図も参考になるだろう.
 上の年表によれば,アメリカ英語の形成と拡散の歴史は,17世紀初頭に始まり20世紀半ばまで続いたことが示唆されるが,その後もアメリカ(英語)が現在にいたるまで世界各地に影響力を行使し続けていることを考えれば,広い意味でのアメリカ英語の拡散史は約400年に及ぶことになる.対応するイギリス英語の拡散史は450年余なので,近現代における英語の世界展開の歴史に限定するのであれば,アメリカ英語にも充分に長い歴史があるということになろう.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

Referrer (Inside): [2015-07-06-1] [2014-01-24-1]

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2013-12-22 Sun

#1700. イギリス発の英語の拡散の年表 [bre][geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 昨日の記事「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1]) を受けて,今日はイギリス版を.昨日と同様,Gramley の英語史のコンパニオンサイトより,7章のための補足資料の p. 6 を転載する.イギリス諸島のどの地域から,世界のどの地域へ人々と英語が移動したかを時代順に示したものである.

FROMTO
Southwest EnglandSoutheastern Ireland (from 1556 to well into the 17th century)
Scotland + EnglandUlster (from 1606 to the 1690's)
England + ScotlandNorth America (from 1607)
Britain + Irelandthe Caribbean (esp. Barbados) (from 1627)
Britain + IrelandAustralia (from 1788)
EnglandSouth Africa (from 1820)
Britain + AustraliaNew Zealand (from 1820)
Britain (exploration, trade, colonial administration)West Africa: Gambia (1661, 1816); Sierra Leone (1787); Ghana (1824; 1850); Nigeria (1851, 1861); Camero on (1914)
East Africa: Uganda (1860's); Malawi (1878); Kenya (1886); Tanzania (1880's)
Southern Africa: South Africa (1795); Botswana (19th century); Namibia (1878); Zambia (1888); Zimbabwe (1890); Swaziland (1894)
South Asia: India (1600); Bangla Desh (1690); Sri Lanka (1796); Pakistan (1857)
Southeast Asia: Malaysia (1786); Singapore (1819); Hong Kong (1841)


 この表をじっくり眺めれば,いかにイギリスが16世紀半ばから19世紀半ばまでの約300年間にわたって,ゆっくりと確実に英語の種を世界中に蒔いてきたかが分かるだろう.もちろん19世紀半ば以降もイギリスによる世界各地の統治は続いたし,現在でもその遺産は「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]) として生きているので,広い意味でのイギリス英語の拡散は優に450年を超える歴史を有しているといえよう.
 関連する年表や地域リストについては,「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]),「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-21 Sat

#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表 [ame][geography][geolinguistics][history][timeline]

 昨日の記事「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) で,アメリカを中心地とする英語の拡散について話題にした.近代から現代にかけての英語の拡散の中心地といえば真っ先にイギリス,すなわち大英帝国の存在が思い浮かぶが,19世紀以降のアメリカ発の拡散も,現在の英語の分布に大きく貢献している.
 アメリカ発の英語の拡散も,その領土の拡大と二人三脚で進行した.イギリスと比較した場合のアメリカの領土拡大の特徴は,世界を目指す外的な拡大ではなく,概ね北米にとどまる内的な拡大だった点である.確かに,「#255. 米西戦争と英語史」 ([2010-01-07-1]),「#1589. フィリピンの英語事情」 ([2013-09-02-1]),「#1697. Liberia の国旗」 ([2013-12-19-1]) の記事で取り上げた Guam, Puerto Rico, the Philippines, Liberia などのように,世界への展開もあるにはあるのだが,基本的には内的な拡大とみてよい.アメリカの領土拡大と英語拡散の歴史については,「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]),「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) などで触れているが,とりわけこの点に注目した年表を以下に掲げたい.Gramley の英語史のコンパニオンサイトの,著書の7章に相当する補足資料の p. 5 より抜き出したものである.

1. The original extent of the US according to the Treaty of Paris at the end of the War of Independence in 1783 extended to the Mississippi River.
2. In 1803 the Louisiana Purchase, the territory ceded to the U.S. by Napoleon for $15 million, doubled the territory of the US, which now reached the Rocky Mountains.
3. First West Florida (1810 and 1813) and then East Florida (1819) were taken from Spain by invasion and the payment of $5 million.
4. Texas, once a Mexican state, then an independent republic run by American settlers since 1836, was annexed by the US in 1845.
5. The Northwest Territory (Oregon, Washington, and British Colombia), claimed by Britain and the U.S. as well as Spain and Russia, was peaceably divided between the former two in 1846.
6. In the Mexican-American War (1846--1848) vast conquered areas in the west (California) and southwest (New Mexico, Arizona) were annexed. The US indemnified Mexico for $10 million. Many speakers of Native American languages and Spanish became US citizens.
7. Further Mexican territory (the Gadsden Purchase, 1853) was acquired for $10 million to ease the building of a rail line to California.
8. The US bought Alaska from Russia for $7.2 million in 1867 (Seward's Folly). The original Inuit peoples are today a distinct minority.
9. The kingdom of Hawaii (formerly known as the Sandwich Islands) became a republic after a coup by Americans living there in 1893. It was annexed in 1898. Today the Hawaiian language is making something of a comeback within a context of a society dominated by StE and Hawaiian Creole English.
10. The Spanish-American War ended with the US taking over numerous territories, some such as Cuba only temporarily, others longer. Today Puerto Rico is a commonwealth, Spanish-language American territory, and Guam in the Pacific, a bilingual territory. The Philippines, for which the U.S. paid Spain $20 million, remained an American colony until 1946. Pilipino is the national language in this very multilingual country, and English is a widely used L2.


 19世紀の最初の2/3の時期のあいだに,アメリカ合衆国は大西洋沿岸から内陸へ,西へ南へ北へと領土を拡大した.この時期に,アメリカは北米に盤石な基礎を作りあげた.19世紀後半からは,Hawaii, Guam, other Pacific islands, the Philippines, Puerto Rico, the American Virgin Islands など世界へも進出したが,その頃までには,世界には進出できる主要な地域は多く残されていなかったのが実態である.
 上記の Gramley の補足資料には,その他にも人々の移住と英語の拡散との関係をまとめた表が盛りだくさんで,重宝する.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-20 Fri

#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン [ame][variety][map][geography][geolinguistics][history][linguistic_imperialism]

 昨日の記事「#1697. Liberia の国旗」 ([2013-12-19-1]) で,Liberia の英語が,イギリス英語ではなくアメリカ英語に基礎を置いている歴史的背景を略述した.「#376. 世界における英語の広がりを地図でみる」 ([2010-05-08-1]) では歴史的にイギリス英語とアメリカ英語の影響化にある地域を図示したが,今日はアメリカ英語を基盤とした英語の世界展開,さらに英語の世界展開の一般的なパターンについて考えてみたい.
 移民,征服,交易などによる人々の移動は,言語そのものの地理的拡大に貢献する.これは,geolinguistics や geography of language と呼ばれる分野で専門的に取り扱われる話題である.19世紀より前には,英語の中心地はブリテン諸島にあり,そこから英語が植民や交易により北アメリカ,カリブ海,アフリカ,オーストラリア,ニュージーランド,アジアなどへと展開していた.しかし,19世紀に近づくと,アメリカが英語の拡散のもう一つの中心地として成長してきた.英語は,そこからアメリカ西部,アラスカ,カナダを始め,カリブ海,ハワイ,フィリピン,リベリアなどへも展開した(関連して「#255. 米西戦争と英語史」 ([2010-01-07-1]) を参照).アメリカからの英語の拡散を駆動した要素は,当初はイギリスの場合と同様に重商主義 (mercantilism) と領土の拡大 (territorial expansion) だったが,19世紀終わりまでには,新たに宗教と文明という要素もアメリカ発の英語の拡大に貢献した.
 やがて,New England から出発してカナダに入った英語も,それ自身がもう一つの中心となろうとしていた.こちらは北米の外へ展開することはなく,内部的な拡散でとどまったが,拡散の過程で新たな中心地が生み出されたという点では,イギリスやアメリカが先に示していたパターンと変わるところがない.英語の拡散の過程で生まれた中心地と,そこからのさらなる拡散を,Gramley (159) の図を参考に,下のように表わしてみた.

Spread of English In and From America

 この英語の拡散のパターンは世界の至る所で繰り返された.イギリス英語の流れを汲む Jamaica の英語も,それ自体が拡散の中心となり,中央アメリカの沿岸部へ影響を及ぼした.Western Jamaica から広がった Belize, Bay Islands, Corn Islands, Blue Fields, Puerto Limón の英語がその例である.また,Australia は,New Zealand, the Solomon Islands, Fiji, Papua New Guinea への展開の中心地となったし,South Africa は Namibia, Zimbabwe, Lesotho, Malawi への展開の中心地となった.極めて類似したパターンである.
 英語は,他の帝国主義国の言語と異なり,このパターンにより大成功を収めたのである.Gramley (159--60) は,英語の拡大の成功について次のように分析している.

What we see, then, is economically and demographically motivated expansion and closely related to it, a geographical spread of English to a unique extent. While the other major European colonial powers, Spain, Portugal, France, and The Netherlands, also acquired colonial empires, they differed because they did not establish settler communities which repeated the process of expansion to the degree that Britain did. In the case of Russia there was "merely" what is most frequently seen as "internal" expansion eastward. And the late-comers to the field, Germany, Italy, and Japan, were able to acquire relatively few and less desirable territories and were knocked out of the game at the latest by losing World War I (Germany) or World War II (Japan, Italy).


 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-19 Thu

#1697. Liberia の国旗 [vexillology][link][map][geography]

 旗を研究対象とする旗章学 (vexillology) と呼ばれる分野がある.国旗のデザイン,由来,変遷の歴史なども研究対象となるが,世界の地理や歴史を学ぶ上で,よい教材を提供してくれる.英語史でも,近代以降の英語の世界展開をたどるのに時に有益である.例えば,英国の歴史をたどる上で,Union Jack (Union Flag) 成立の経緯は重要である(詳しくはこちらのサイトを参照).国旗に関する出版物は多いが,ウェブ上のリソースも便利なものが多いので,いくつかを紹介しておこう.
 
 ・ Flags of the World (FOTWO): 由来や変遷の歴史など詳細な情報を含み,非常に有用.
 ・ World Flag Database: アルファベット順で,大きくデザインを表示する.国の地図へも飛べる.
 ・ All Flags in Alphabetical Sequence: アルファベット順にサムネイルで一覧.各種のサイズをフリーで利用できる.
 ・ 外務省 世界の国旗: 地域ごとにサムネイルで一覧するのに便利

 さて,今日は リベリア共和国 (Republic of Liberia) とその国旗を取り上げる.西アフリカ南西部,大西洋に面したこの土地には,古来多数の土着民族が住んでいた.建国につながる近現代史に限れば,1822年にアメリカ植民協会 (American Colonization Society) が米国の黒人解放奴隷の入植地として買収したことに始まる.首都となる Monrovia (アメリカ第5代大統領 James Monroe にちなむ)へ移住したアメリカの解放奴隷が支配層となり,1847年に独立した.アフリカで最も古い共和国である.国名には,ラテン語で「自由な」を意味する liber が含まれている.

Map of Liberia

 350万人ほどの国民のうち,解放奴隷の子孫は数パーセントを占めるにすぎないが,早くから欧米式の教育を受け,社会的には影響力のある集団となっている.英語が国語として採用されているのもそのためである.使用されている英語変種としては,アメリカ英語の影響を受けた標準的な変種のほか,Liberian English と呼ばれるピジン英語もある.アフリカにおける標準英語変種は,英植民地の歴史によりイギリス英語のそれに大きく偏っているが,リベリアはアメリカ英語に基づいており,特異な存在である.「#376. 世界における英語の広がりを地図でみる」 ([2010-05-08-1]) で,アフリカ大陸のなかで唯一リベリアがピンクで示されていることを確認されたい.ほかに Ethnologue: Liberia も参照.
 アメリカとの関連の深さは,国旗にもよく現れている.アメリカの星条旗 (Stars and Stripes) を基にしたデザインであることが明らかである.赤白11本の縞は憲法の起草者の数を,白い1つの星 (Lone Star) はアフリカにおいて模範となるべき欧米風独立国家の象徴を表わす.

National Flag of Liberia

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2013-12-02 Mon

#1680. The West Indies の言語事情 [geography][creole][world_languages][diglossia][sociolinguistics][language_shift][caribbean]

 昨日の記事「#1679. The West Indies の英語圏」 ([2013-12-01-1]) で示唆したように,西インド諸島の言語事情は,歴史的な事情で複雑である.近代における列強の領土分割により,島ごとに支配的な言語が異なるという状況が生じ,島嶼間の地域的な連携も希薄となっている.独立国家と英米仏蘭の自治領とが混在していることも,地域の一体性が保たれにくい要因となっている.全体として,各地域では旧宗主国の言語が支配的だが,そのほかに主として英語やフランス語をベースとしたクレオール諸語(「#1531. pidgin と creole の地理分布」 ([2013-07-06-1])),移民の言語も行われており,言語事情は込み入っている.以下,Encylopædia Britannica 1997 の記事を参照してまとめる.
 クレオール語についていえば,Jamaica における英語ベースのクレオール語がよく知られている.Jamaica では,ラジオ放送,小説,詩,劇などでクレオール語が広く使用されており,しばしば標準英語は不在である.場の雰囲気により,クレオール語と標準英語とのはざまで切り替えが生じることも通常である(Jamaican creole の具体例については,Jamaican Creole Texts を参照されたい).Jamaica に限らず,脱植民地化を経た the Commonwealth Caribbean でも,一般に英語ベースのクレオール語が重要性を増している.
 フランス語ベースのクレオール語使用については,Haiti が典型例として挙げられる.Jamaica の場合と同様に,Haiti でもクレオール語が広範に使用されており,実際に大多数の国民が標準フランス語を理解しない.「#1486. diglossia を破った Chaucer」 ([2013-05-22-1]) で Haiti における diglossia について触れたように,クレオール語は,上位変種の標準フランス語に対して下位変種として位置づけられるものの,実用性の度合いでいえばむしろ優勢である.一方,Guadeloupe や Martinique の仏領アンティル諸島では,フランス本国の政治体制に組み込まれているために,標準フランス語の使用が一般的である.
 スペイン語ベースのクレオール語は,Cuba, Puerto Rico, the Dominican Republic などの主要なスペイン地域においては発達しなかった.ただし,Aruba, Curaçao, Bonaire など蘭領アンティル諸島では Papiamento と呼ばれる西・蘭・葡・英語の混成クレオール語が広く話されている.Puerto Rico では,帰国移民により,アメリカ英語の影響を受けたスペイン語が話されている.
 移民の言語としては Hindi, Urdu, Chinese が行われている.奴隷制廃止後に,契約移民としてインドや中国からこの地域にやってきた人々の言語である.話者の多くは,それぞれの地域における支配的な言語へと徐々に同化していっている.例えば,Trinidad and Tobago では国民の4割がインド系移民だが,彼らの間で Hindi や Urdu の使用は少なくなってきているという.言語交替が進行中ということだろう.

Referrer (Inside): [2014-01-02-1]

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2013-12-01 Sun

#1679. The West Indies の英語圏 [map][enl][creole][geography][caribbean]

 The West Indies (西インド諸島)は,南北アメリカにはさまれ,大西洋からカリブ海およびメキシコ湾を隔てる大弧状列島を指す.名称はコロンブスが Indias と名付けたことに由来する.Greater Antilles, Lesser Antilles, Bahamas の諸島からなる.地域一帯は,ロッキー山脈とアンデス山脈をつなぐ火山帯の島嶼であること,植民地,プランテーション,奴隷制の歴史をもつことによって結びつけられている.現在13の独立国を含むが,その他は英・仏・米・蘭の領土である.

Map of the West Indies  *  *

 17--18世紀の西・仏・英・蘭・デンマークなどの列強による熾烈な領土分割の結果,地域内の連絡は弱くなった.各地域は言語的にも分割・個別化されており,英語圏,フランス語圏,オランダ語圏などの区別が明確である.現在も西インド諸島全体としての一体性はないが,歴史的・政治的な観点から4つの地域に分けるのが通例である.ハイチを含むヒスパニック系グループ,英領西インド諸島 (The British West Indies or the Commonwealth Caribbean; cf. 「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1])),仏領アンティル諸島 (The French Antilles),蘭領アンティル諸島 (The Dutch Antilles) の4つだ.
 とりわけ英語圏に注目しよう.歴史的な英領インド諸島は,Bahamas, Jamaica, Caymans, British Virgin Islands, Barbados, Trinidad, Tobago, Leeward Islands, Winward Islands から構成されていたが,1958年に大部分が Federation of West Indies (西インド諸島連邦)として独立し,その中から Bahamas, Barbados, Jamaica, Trinidad and Tobago などいくつかの地域が共和国として独立した.現在,西インド諸島でENL地域と呼べるのは以下の17地域である.

Anguilla, Antigua and Barbuda, Bahamas, Barbados, Bermuda, the Cayman Islands, Dominica, Grenada, Jamaica, Montserrat, Saint Christopher and Nevis (St. Kitts-Nevis), Saint Lucia, Saint Vincent and the Grenadines, Trinidad and Tobago, the Turks and Caicos Islands, the Virgin Islands (US), the Virgin Islands (British)


 周辺国を含むと,南米の Guyana や中米の Belize も公用語として英語を採用している.スペイン語やポルトガル語が支配的な中南米にあっては,珍しい2国である(ただし,Belize ではスペイン語も支配的).Guyana については,「#385. Guyanese Creole の連続体」 ([2010-05-17-1]) の記事も参照.
 より一般的に世界の英語地域については,「#1591. Crystal による英語話者の人口」 ([2013-09-04-1]),「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.
 また,同地域は世界有数のクレオール地域でもある.関連して,「#1531. pidgin と creole の地理分布」 ([2013-07-06-1]) も参照.

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2013-11-23 Sat

#1671. dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koineization [koine][dialect][accommodation_theory][terminology][variation][geography][demography][me_dialect]

 互いに通じるが異なる方言を話す者どうしが接触する場合には,しばしば互いに自らの方言の特徴を緩和させ,言語項目を歩み寄らせる accommodation の作用が観察される.しかし,このような交流が個人レベルではなくより大きな集団レベルで生じるようになると,dialect contact方言接触) と呼ぶべき現象となる.dialect contact は,典型的には,方言境界での交流において,また都市化,植民地化,移民といった過程において生じる.
 dialect contact の結果,ある言語項目はこちらの方言から採用し,別の言語項目はあちらの方言から採用するといったランダムに見える過程,すなわち dialect mixture を経て,人々の間に方言の混合体が生まれる.
 この方言の混合体から1--2世代を経ると,各言語項目の取り得る変異形が淘汰され,少数の(典型的には1つの)形態へと落ち着く.ヴァリエーションが減少してゆくこの水平化過程は,dialect levelling と呼ばれる.
 dialect levelling (および平行して生じることの多い簡略化 (simplification) の過程)を経て,この新たな方言は koiné として発展するかもしれない (koinéization) .さらに,この koiné は,標準語形成の基盤になることもある.
 さて,dialect contact から koinéization までの一連の流れを,Trudgill (157) により今一度追ってみよう.

The dialect mixture situation would not have lasted more than a generation or possibly two, and in the end everybody in a given location would have ended up levelling out the original dialect difference brought from across the Atlantic and speaking the same dialect. This new dialect would have been 'mixed' with respect to its origins, but uniform in its current characteristics throughout the community. Where dialect levelling occurs in a colonial situation of this type --- or in the growth of a new town, for instance --- and that leads to the development of a whole new dialect, the process is known as koinéization (from the Ancient Greek word koiné meaning 'general, common').


 歴史的に確認される koinéization の例を挙げておこう.用語の起源ともなっているが,古代ギリシア語の Attic 方言は典型的な koiné である.中世ラテン語の俗ラテン語も,koinéization により生じた.また,17世紀前期にイギリスからアメリカへ最初の植民がなされた後,数世代の間に植民地で生じたのも,koinéization である.同じ過程が,様々な英語方言話者によるオーストラリア植民やニュージーランド植民のときにも生じた.さらに,近代の都市化の結果として生じた英米都市方言も,多くが koiné である.
 英語史上で dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koinéization の過程が想定されるのは,14世紀後半のロンドン英語においてだろう.様々な方言話者が大都市ロンドンに集まり,dialect mixture と dialect levelling が起こった.この結果として,後に標準語へと発展する変種の原型が成立したのではないか.現代英語で busy, bury, merry の綴字と発音の関係が混乱している背景にも,上記の一連の過程が関与しているのだろう.
 busy, bury, merry 等の問題については,「#562. busy の綴字と発音」 ([2010-11-10-1]),「#563. Chaucer の merry」 ([2010-11-11-1]),「#570. bury の母音の方言分布」 ([2010-11-18-1]),「#1245. 複合的な選択の過程としての書きことば標準英語の発展」 ([2012-09-23-1]),「#1434. left および hemlock は Kentish 方言形か」 ([2013-03-31-1]),「#1561. 14世紀,Norfolk 移民の社会言語学的役割」 ([2013-08-05-1]) を参照.

 ・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.

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