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geography - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-02-23 19:08

2013-12-23 Mon

#1701. アメリカへの移民の出身地 [geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1]) の記事では,アメリカ「から」の人々の移住と英語の拡大の歴史を一覧したが,アメリカ「へ」の人口流入の歴史も,アメリカ英語の形成過程を論じる上では重要な知識である.アメリカ移民史は一大分野をなすが,英語史の話題として論じるにあたっては,簡便なリストが手元にあると重宝する.「#158. アメリカ英語の時代区分」 ([2009-10-02-1]) よりは詳しいが,本格的な移民史よりは簡略な表が,Gramley の英語史のコンパニオンサイトにあった.7章のための補足資料 (pp. 6--7) より再現しよう.一部,目的地として米国以外の地域も含まれている.

FROMTO
Southern EnglandEastern New England, the coastal South (from the early 17th century)
The CaribbeanVirginia and the plantation South (from the early 17th century)
Northern England, Scotland, UlsterSoutheast Pennsylvania, the Piedmont, and the Appalachian South (all from the late 17th century)
GermanyPennsylvania (from the late 17th century)
The 13 coloniesUpper Canada, the Maritimes (in the late 18th century)
HaitiLouisiana (in the late 18th century)
New EnglandNorthwest Territory (from the early 19th century)
Pennsylvania, Maryland, Virginia, and the Carolinas, and Georgiathe Ohio Valley and Southern Appalachians (from the 18th century)
US (freed slaves)Liberia (from 1822)
Upper Canadathe Prairie and Mountain provinces; British Columbia (19th century)
Midwestthe Oregon Territory, California, and the Mountain West (19th century)
New EnglandHawaii (late 19th century)
Far WestAlaska (late 19th century)
US (colonial administration)Philippines (from 1898--1946)


 上掲は,主としてアメリカが目的地となる移住についての表だが,部分的にアメリカが出発地となる移住の情報とも読める.移民はアメリカへ移動し,アメリカ内を移動し,アメリカから移動しているのである.その意味では,「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) の略図も参考になるだろう.
 上の年表によれば,アメリカ英語の形成と拡散の歴史は,17世紀初頭に始まり20世紀半ばまで続いたことが示唆されるが,その後もアメリカ(英語)が現在にいたるまで世界各地に影響力を行使し続けていることを考えれば,広い意味でのアメリカ英語の拡散史は約400年に及ぶことになる.対応するイギリス英語の拡散史は450年余なので,近現代における英語の世界展開の歴史に限定するのであれば,アメリカ英語にも充分に長い歴史があるということになろう.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

Referrer (Inside): [2015-07-06-1] [2014-01-24-1]

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2013-12-22 Sun

#1700. イギリス発の英語の拡散の年表 [bre][geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 昨日の記事「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1]) を受けて,今日はイギリス版を.昨日と同様,Gramley の英語史のコンパニオンサイトより,7章のための補足資料の p. 6 を転載する.イギリス諸島のどの地域から,世界のどの地域へ人々と英語が移動したかを時代順に示したものである.

FROMTO
Southwest EnglandSoutheastern Ireland (from 1556 to well into the 17th century)
Scotland + EnglandUlster (from 1606 to the 1690's)
England + ScotlandNorth America (from 1607)
Britain + Irelandthe Caribbean (esp. Barbados) (from 1627)
Britain + IrelandAustralia (from 1788)
EnglandSouth Africa (from 1820)
Britain + AustraliaNew Zealand (from 1820)
Britain (exploration, trade, colonial administration)West Africa: Gambia (1661, 1816); Sierra Leone (1787); Ghana (1824; 1850); Nigeria (1851, 1861); Camero on (1914)
East Africa: Uganda (1860's); Malawi (1878); Kenya (1886); Tanzania (1880's)
Southern Africa: South Africa (1795); Botswana (19th century); Namibia (1878); Zambia (1888); Zimbabwe (1890); Swaziland (1894)
South Asia: India (1600); Bangla Desh (1690); Sri Lanka (1796); Pakistan (1857)
Southeast Asia: Malaysia (1786); Singapore (1819); Hong Kong (1841)


 この表をじっくり眺めれば,いかにイギリスが16世紀半ばから19世紀半ばまでの約300年間にわたって,ゆっくりと確実に英語の種を世界中に蒔いてきたかが分かるだろう.もちろん19世紀半ば以降もイギリスによる世界各地の統治は続いたし,現在でもその遺産は「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]) として生きているので,広い意味でのイギリス英語の拡散は優に450年を超える歴史を有しているといえよう.
 関連する年表や地域リストについては,「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]),「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-21 Sat

#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表 [ame][geography][geolinguistics][history][timeline]

 昨日の記事「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) で,アメリカを中心地とする英語の拡散について話題にした.近代から現代にかけての英語の拡散の中心地といえば真っ先にイギリス,すなわち大英帝国の存在が思い浮かぶが,19世紀以降のアメリカ発の拡散も,現在の英語の分布に大きく貢献している.
 アメリカ発の英語の拡散も,その領土の拡大と二人三脚で進行した.イギリスと比較した場合のアメリカの領土拡大の特徴は,世界を目指す外的な拡大ではなく,概ね北米にとどまる内的な拡大だった点である.確かに,「#255. 米西戦争と英語史」 ([2010-01-07-1]),「#1589. フィリピンの英語事情」 ([2013-09-02-1]),「#1697. Liberia の国旗」 ([2013-12-19-1]) の記事で取り上げた Guam, Puerto Rico, the Philippines, Liberia などのように,世界への展開もあるにはあるのだが,基本的には内的な拡大とみてよい.アメリカの領土拡大と英語拡散の歴史については,「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]),「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) などで触れているが,とりわけこの点に注目した年表を以下に掲げたい.Gramley の英語史のコンパニオンサイトの,著書の7章に相当する補足資料の p. 5 より抜き出したものである.

1. The original extent of the US according to the Treaty of Paris at the end of the War of Independence in 1783 extended to the Mississippi River.
2. In 1803 the Louisiana Purchase, the territory ceded to the U.S. by Napoleon for $15 million, doubled the territory of the US, which now reached the Rocky Mountains.
3. First West Florida (1810 and 1813) and then East Florida (1819) were taken from Spain by invasion and the payment of $5 million.
4. Texas, once a Mexican state, then an independent republic run by American settlers since 1836, was annexed by the US in 1845.
5. The Northwest Territory (Oregon, Washington, and British Colombia), claimed by Britain and the U.S. as well as Spain and Russia, was peaceably divided between the former two in 1846.
6. In the Mexican-American War (1846--1848) vast conquered areas in the west (California) and southwest (New Mexico, Arizona) were annexed. The US indemnified Mexico for $10 million. Many speakers of Native American languages and Spanish became US citizens.
7. Further Mexican territory (the Gadsden Purchase, 1853) was acquired for $10 million to ease the building of a rail line to California.
8. The US bought Alaska from Russia for $7.2 million in 1867 (Seward's Folly). The original Inuit peoples are today a distinct minority.
9. The kingdom of Hawaii (formerly known as the Sandwich Islands) became a republic after a coup by Americans living there in 1893. It was annexed in 1898. Today the Hawaiian language is making something of a comeback within a context of a society dominated by StE and Hawaiian Creole English.
10. The Spanish-American War ended with the US taking over numerous territories, some such as Cuba only temporarily, others longer. Today Puerto Rico is a commonwealth, Spanish-language American territory, and Guam in the Pacific, a bilingual territory. The Philippines, for which the U.S. paid Spain $20 million, remained an American colony until 1946. Pilipino is the national language in this very multilingual country, and English is a widely used L2.


 19世紀の最初の2/3の時期のあいだに,アメリカ合衆国は大西洋沿岸から内陸へ,西へ南へ北へと領土を拡大した.この時期に,アメリカは北米に盤石な基礎を作りあげた.19世紀後半からは,Hawaii, Guam, other Pacific islands, the Philippines, Puerto Rico, the American Virgin Islands など世界へも進出したが,その頃までには,世界には進出できる主要な地域は多く残されていなかったのが実態である.
 上記の Gramley の補足資料には,その他にも人々の移住と英語の拡散との関係をまとめた表が盛りだくさんで,重宝する.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-20 Fri

#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン [ame][variety][map][geography][geolinguistics][history][linguistic_imperialism]

 昨日の記事「#1697. Liberia の国旗」 ([2013-12-19-1]) で,Liberia の英語が,イギリス英語ではなくアメリカ英語に基礎を置いている歴史的背景を略述した.「#376. 世界における英語の広がりを地図でみる」 ([2010-05-08-1]) では歴史的にイギリス英語とアメリカ英語の影響化にある地域を図示したが,今日はアメリカ英語を基盤とした英語の世界展開,さらに英語の世界展開の一般的なパターンについて考えてみたい.
 移民,征服,交易などによる人々の移動は,言語そのものの地理的拡大に貢献する.これは,geolinguistics や geography of language と呼ばれる分野で専門的に取り扱われる話題である.19世紀より前には,英語の中心地はブリテン諸島にあり,そこから英語が植民や交易により北アメリカ,カリブ海,アフリカ,オーストラリア,ニュージーランド,アジアなどへと展開していた.しかし,19世紀に近づくと,アメリカが英語の拡散のもう一つの中心地として成長してきた.英語は,そこからアメリカ西部,アラスカ,カナダを始め,カリブ海,ハワイ,フィリピン,リベリアなどへも展開した(関連して「#255. 米西戦争と英語史」 ([2010-01-07-1]) を参照).アメリカからの英語の拡散を駆動した要素は,当初はイギリスの場合と同様に重商主義 (mercantilism) と領土の拡大 (territorial expansion) だったが,19世紀終わりまでには,新たに宗教と文明という要素もアメリカ発の英語の拡大に貢献した.
 やがて,New England から出発してカナダに入った英語も,それ自身がもう一つの中心となろうとしていた.こちらは北米の外へ展開することはなく,内部的な拡散でとどまったが,拡散の過程で新たな中心地が生み出されたという点では,イギリスやアメリカが先に示していたパターンと変わるところがない.英語の拡散の過程で生まれた中心地と,そこからのさらなる拡散を,Gramley (159) の図を参考に,下のように表わしてみた.

Spread of English In and From America

 この英語の拡散のパターンは世界の至る所で繰り返された.イギリス英語の流れを汲む Jamaica の英語も,それ自体が拡散の中心となり,中央アメリカの沿岸部へ影響を及ぼした.Western Jamaica から広がった Belize, Bay Islands, Corn Islands, Blue Fields, Puerto Limón の英語がその例である.また,Australia は,New Zealand, the Solomon Islands, Fiji, Papua New Guinea への展開の中心地となったし,South Africa は Namibia, Zimbabwe, Lesotho, Malawi への展開の中心地となった.極めて類似したパターンである.
 英語は,他の帝国主義国の言語と異なり,このパターンにより大成功を収めたのである.Gramley (159--60) は,英語の拡大の成功について次のように分析している.

What we see, then, is economically and demographically motivated expansion and closely related to it, a geographical spread of English to a unique extent. While the other major European colonial powers, Spain, Portugal, France, and The Netherlands, also acquired colonial empires, they differed because they did not establish settler communities which repeated the process of expansion to the degree that Britain did. In the case of Russia there was "merely" what is most frequently seen as "internal" expansion eastward. And the late-comers to the field, Germany, Italy, and Japan, were able to acquire relatively few and less desirable territories and were knocked out of the game at the latest by losing World War I (Germany) or World War II (Japan, Italy).


 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-19 Thu

#1697. Liberia の国旗 [vexillology][link][map][geography]

 旗を研究対象とする旗章学 (vexillology) と呼ばれる分野がある.国旗のデザイン,由来,変遷の歴史なども研究対象となるが,世界の地理や歴史を学ぶ上で,よい教材を提供してくれる.英語史でも,近代以降の英語の世界展開をたどるのに時に有益である.例えば,英国の歴史をたどる上で,Union Jack (Union Flag) 成立の経緯は重要である(詳しくはこちらのサイトを参照).国旗に関する出版物は多いが,ウェブ上のリソースも便利なものが多いので,いくつかを紹介しておこう.
 
 ・ Flags of the World (FOTWO): 由来や変遷の歴史など詳細な情報を含み,非常に有用.
 ・ World Flag Database: アルファベット順で,大きくデザインを表示する.国の地図へも飛べる.
 ・ All Flags in Alphabetical Sequence: アルファベット順にサムネイルで一覧.各種のサイズをフリーで利用できる.
 ・ 外務省 世界の国旗: 地域ごとにサムネイルで一覧するのに便利

 さて,今日は リベリア共和国 (Republic of Liberia) とその国旗を取り上げる.西アフリカ南西部,大西洋に面したこの土地には,古来多数の土着民族が住んでいた.建国につながる近現代史に限れば,1822年にアメリカ植民協会 (American Colonization Society) が米国の黒人解放奴隷の入植地として買収したことに始まる.首都となる Monrovia (アメリカ第5代大統領 James Monroe にちなむ)へ移住したアメリカの解放奴隷が支配層となり,1847年に独立した.アフリカで最も古い共和国である.国名には,ラテン語で「自由な」を意味する liber が含まれている.

Map of Liberia

 350万人ほどの国民のうち,解放奴隷の子孫は数パーセントを占めるにすぎないが,早くから欧米式の教育を受け,社会的には影響力のある集団となっている.英語が国語として採用されているのもそのためである.使用されている英語変種としては,アメリカ英語の影響を受けた標準的な変種のほか,Liberian English と呼ばれるピジン英語もある.アフリカにおける標準英語変種は,英植民地の歴史によりイギリス英語のそれに大きく偏っているが,リベリアはアメリカ英語に基づいており,特異な存在である.「#376. 世界における英語の広がりを地図でみる」 ([2010-05-08-1]) で,アフリカ大陸のなかで唯一リベリアがピンクで示されていることを確認されたい.ほかに Ethnologue: Liberia も参照.
 アメリカとの関連の深さは,国旗にもよく現れている.アメリカの星条旗 (Stars and Stripes) を基にしたデザインであることが明らかである.赤白11本の縞は憲法の起草者の数を,白い1つの星 (Lone Star) はアフリカにおいて模範となるべき欧米風独立国家の象徴を表わす.

National Flag of Liberia

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2013-12-02 Mon

#1680. The West Indies の言語事情 [geography][creole][world_languages][diglossia][sociolinguistics][language_shift][caribbean]

 昨日の記事「#1679. The West Indies の英語圏」 ([2013-12-01-1]) で示唆したように,西インド諸島の言語事情は,歴史的な事情で複雑である.近代における列強の領土分割により,島ごとに支配的な言語が異なるという状況が生じ,島嶼間の地域的な連携も希薄となっている.独立国家と英米仏蘭の自治領とが混在していることも,地域の一体性が保たれにくい要因となっている.全体として,各地域では旧宗主国の言語が支配的だが,そのほかに主として英語やフランス語をベースとしたクレオール諸語(「#1531. pidgin と creole の地理分布」 ([2013-07-06-1])),移民の言語も行われており,言語事情は込み入っている.以下,Encylopædia Britannica 1997 の記事を参照してまとめる.
 クレオール語についていえば,Jamaica における英語ベースのクレオール語がよく知られている.Jamaica では,ラジオ放送,小説,詩,劇などでクレオール語が広く使用されており,しばしば標準英語は不在である.場の雰囲気により,クレオール語と標準英語とのはざまで切り替えが生じることも通常である(Jamaican creole の具体例については,Jamaican Creole Texts を参照されたい).Jamaica に限らず,脱植民地化を経た the Commonwealth Caribbean でも,一般に英語ベースのクレオール語が重要性を増している.
 フランス語ベースのクレオール語使用については,Haiti が典型例として挙げられる.Jamaica の場合と同様に,Haiti でもクレオール語が広範に使用されており,実際に大多数の国民が標準フランス語を理解しない.「#1486. diglossia を破った Chaucer」 ([2013-05-22-1]) で Haiti における diglossia について触れたように,クレオール語は,上位変種の標準フランス語に対して下位変種として位置づけられるものの,実用性の度合いでいえばむしろ優勢である.一方,Guadeloupe や Martinique の仏領アンティル諸島では,フランス本国の政治体制に組み込まれているために,標準フランス語の使用が一般的である.
 スペイン語ベースのクレオール語は,Cuba, Puerto Rico, the Dominican Republic などの主要なスペイン地域においては発達しなかった.ただし,Aruba, Curaçao, Bonaire など蘭領アンティル諸島では Papiamento と呼ばれる西・蘭・葡・英語の混成クレオール語が広く話されている.Puerto Rico では,帰国移民により,アメリカ英語の影響を受けたスペイン語が話されている.
 移民の言語としては Hindi, Urdu, Chinese が行われている.奴隷制廃止後に,契約移民としてインドや中国からこの地域にやってきた人々の言語である.話者の多くは,それぞれの地域における支配的な言語へと徐々に同化していっている.例えば,Trinidad and Tobago では国民の4割がインド系移民だが,彼らの間で Hindi や Urdu の使用は少なくなってきているという.言語交替が進行中ということだろう.

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2013-12-01 Sun

#1679. The West Indies の英語圏 [map][enl][creole][geography][caribbean]

 The West Indies (西インド諸島)は,南北アメリカにはさまれ,大西洋からカリブ海およびメキシコ湾を隔てる大弧状列島を指す.名称はコロンブスが Indias と名付けたことに由来する.Greater Antilles, Lesser Antilles, Bahamas の諸島からなる.地域一帯は,ロッキー山脈とアンデス山脈をつなぐ火山帯の島嶼であること,植民地,プランテーション,奴隷制の歴史をもつことによって結びつけられている.現在13の独立国を含むが,その他は英・仏・米・蘭の領土である.

Map of the West Indies  *  *

 17--18世紀の西・仏・英・蘭・デンマークなどの列強による熾烈な領土分割の結果,地域内の連絡は弱くなった.各地域は言語的にも分割・個別化されており,英語圏,フランス語圏,オランダ語圏などの区別が明確である.現在も西インド諸島全体としての一体性はないが,歴史的・政治的な観点から4つの地域に分けるのが通例である.ハイチを含むヒスパニック系グループ,英領西インド諸島 (The British West Indies or the Commonwealth Caribbean; cf. 「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1])),仏領アンティル諸島 (The French Antilles),蘭領アンティル諸島 (The Dutch Antilles) の4つだ.
 とりわけ英語圏に注目しよう.歴史的な英領インド諸島は,Bahamas, Jamaica, Caymans, British Virgin Islands, Barbados, Trinidad, Tobago, Leeward Islands, Winward Islands から構成されていたが,1958年に大部分が Federation of West Indies (西インド諸島連邦)として独立し,その中から Bahamas, Barbados, Jamaica, Trinidad and Tobago などいくつかの地域が共和国として独立した.現在,西インド諸島でENL地域と呼べるのは以下の17地域である.

Anguilla, Antigua and Barbuda, Bahamas, Barbados, Bermuda, the Cayman Islands, Dominica, Grenada, Jamaica, Montserrat, Saint Christopher and Nevis (St. Kitts-Nevis), Saint Lucia, Saint Vincent and the Grenadines, Trinidad and Tobago, the Turks and Caicos Islands, the Virgin Islands (US), the Virgin Islands (British)


 周辺国を含むと,南米の Guyana や中米の Belize も公用語として英語を採用している.スペイン語やポルトガル語が支配的な中南米にあっては,珍しい2国である(ただし,Belize ではスペイン語も支配的).Guyana については,「#385. Guyanese Creole の連続体」 ([2010-05-17-1]) の記事も参照.
 より一般的に世界の英語地域については,「#1591. Crystal による英語話者の人口」 ([2013-09-04-1]),「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.
 また,同地域は世界有数のクレオール地域でもある.関連して,「#1531. pidgin と creole の地理分布」 ([2013-07-06-1]) も参照.

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2013-11-23 Sat

#1671. dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koineization [koine][dialect][accommodation_theory][terminology][variation][geography][demography][me_dialect][koineisation][dialect_mixture][dialect_levelling][dialect_contact]

 互いに通じるが異なる方言を話す者どうしが接触する場合には,しばしば互いに自らの方言の特徴を緩和させ,言語項目を歩み寄らせる accommodation の作用が観察される.しかし,このような交流が個人レベルではなくより大きな集団レベルで生じるようになると,dialect contact方言接触) と呼ぶべき現象となる.dialect contact は,典型的には,方言境界での交流において,また都市化,植民地化,移民といった過程において生じる.
 dialect contact の結果,ある言語項目はこちらの方言から採用し,別の言語項目はあちらの方言から採用するといったランダムに見える過程,すなわち dialect mixture を経て,人々の間に方言の混合体が生まれる.
 この方言の混合体から1--2世代を経ると,各言語項目の取り得る変異形が淘汰され,少数の(典型的には1つの)形態へと落ち着く.ヴァリエーションが減少してゆくこの水平化過程は,dialect levelling と呼ばれる.
 dialect levelling (および平行して生じることの多い簡略化 (simplification) の過程)を経て,この新たな方言は koiné として発展するかもしれない (koinéization) .さらに,この koiné は,標準語形成の基盤になることもある.
 さて,dialect contact から koinéization までの一連の流れを,Trudgill (157) により今一度追ってみよう.

The dialect mixture situation would not have lasted more than a generation or possibly two, and in the end everybody in a given location would have ended up levelling out the original dialect difference brought from across the Atlantic and speaking the same dialect. This new dialect would have been 'mixed' with respect to its origins, but uniform in its current characteristics throughout the community. Where dialect levelling occurs in a colonial situation of this type --- or in the growth of a new town, for instance --- and that leads to the development of a whole new dialect, the process is known as koinéization (from the Ancient Greek word koiné meaning 'general, common').


 歴史的に確認される koinéization の例を挙げておこう.用語の起源ともなっているが,古代ギリシア語の Attic 方言は典型的な koiné である.中世ラテン語の俗ラテン語も,koinéization により生じた.また,17世紀前期にイギリスからアメリカへ最初の植民がなされた後,数世代の間に植民地で生じたのも,koinéization である.同じ過程が,様々な英語方言話者によるオーストラリア植民やニュージーランド植民のときにも生じた.さらに,近代の都市化の結果として生じた英米都市方言も,多くが koiné である.
 英語史上で dialect contact, dialect mixture, dialect levelling, koinéization の過程が想定されるのは,14世紀後半のロンドン英語においてだろう.様々な方言話者が大都市ロンドンに集まり,dialect mixture と dialect levelling が起こった.この結果として,後に標準語へと発展する変種の原型が成立したのではないか.現代英語で busy, bury, merry の綴字と発音の関係が混乱している背景にも,上記の一連の過程が関与しているのだろう.
 busy, bury, merry 等の問題については,「#562. busy の綴字と発音」 ([2010-11-10-1]),「#563. Chaucer の merry」 ([2010-11-11-1]),「#570. bury の母音の方言分布」 ([2010-11-18-1]),「#1245. 複合的な選択の過程としての書きことば標準英語の発展」 ([2012-09-23-1]),「#1434. left および hemlock は Kentish 方言形か」 ([2013-03-31-1]),「#1561. 14世紀,Norfolk 移民の社会言語学的役割」 ([2013-08-05-1]) を参照.

 ・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.

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2013-09-24 Tue

#1611. 入り江から内海,そして大海原へ [history][geography][map][old_norse]

 昨日の記事「#1610. Viking の語源」 ([2013-09-23-1]) で,''Viking' = 「入り江に住む者」の説を紹介した.入り江とは,海が陸地に入り込んだ静かな湾のことである.この入り江の地理的特徴に注目して,渡部昇一先生が,ヴァイキングや日本人のような海洋民族の発生について,興味深い説を紹介している.

ヴァイキングがどうして来たかというと、あれはやはり耕す場所がないから、ある程度人口が増えると海に乗り出さざるをえなかったんだと思うんですね。おもしろいセオリーがあります。海洋民族というか、海に乗り出す民族というのは、必ず故郷には静かな小さな海があるというんです。ヴァイキングなんかもフィヨルドが細く長くて非常に静かですから、そこで船の操作を覚えて、いつの間にか海に親しみを持つんですね。そうして、ある時期にパーッと外へ乗り出す。ちょうど日本でも同じように瀬戸内海があったもんですから、ここで船に乗って訓練をして、あるときから和冦になって荒らし回ったりする。つまり静かな海がないところでは海洋民族はできないというんですね。アフリカだとかインドというのは、いきなり大洋に面しちゃうもんですから、海が圧倒的に強くて征服できない。結局、海洋民族にならない。海洋民族は必ず静かな海があるところで舟を操るのがうまくなってから出てくるという説があります。(59--60)


 瀬戸内海とは規模は違うが,北海 (the North Sea) もある意味では内海である.ヴァイキングにとって,スカンディナヴィア西岸のフィヨルドの入り江は操船の訓練地だった.そこで基本的な技術を習得した後に,中級レベルの北海で実践し,さらに上級レベルの大西洋へも乗り出していった.
 デーン人やノルウェー人の北海進出と,それに続くイギリス諸島およびノルマンディへの侵入の経路は,スカンディナヴィア人の故郷からの目線で眺めると,よく理解できる.湖の対岸に向かうがごとき船旅である.北海周辺の地図を時計回りに90度回転させれば,北海上の自然な航路を同定することができるだろう.

Map of the North Sea

 ブリテン島の東部・北部が文化的にも言語的にも北方的である理由が,地勢としてよくわかる.同様に,ブリテン島の南部が大陸的(フランス的)である理由,西部がとりわけ島嶼的(ケルト的)である理由も納得できるだろう.

 ・ 渡部 昇一,ピーター・ミルワード 『物語英文学史 --- ベオウルフからバージニア・ウルフまで』 大修館,1981年.

Referrer (Inside): [2020-03-17-1] [2017-03-25-1]

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2013-08-05 Mon

#1561. 14世紀,Norfolk 移民の社会言語学的役割 [sociolinguistics][me_dialect][history][geography][demography][geolinguistics]

 古英語 West-Saxon 方言の y で表わされる母音が,中英語では方言により i, u, e などとして現われることについては,「#562. busy の綴字と発音」 ([2010-11-10-1]),「#563. Chaucer の merry」 ([2010-11-11-1]),「#570. bury の母音の方言分布」 ([2010-11-18-1]),「#1434. left および hemlock は Kentish 方言形か」 ([2013-03-31-1]) などの記事で取り上げた.
 14世紀後半より書き言葉の標準が徐々に発達していたときに,どの方言形が標準的な形態として最終的に選択されたかにより,現代英語の busy, bury, merry などに見られるような,綴字と発音の種々の関係が帰結してしまった.「#562. busy の綴字と発音」 ([2010-11-10-1]) では「個々の語の標準形がどの方言に由来するかはランダムとしかいいようがない」と述べたが,標準化に際して,現代英語の kinsin につらなる単語など,大多数が北部・東部に由来する i を反映することになったことは事実である.傾向として i が多かったという事実については,何らかの説明が可能かもしれない.
 この問題について,地村 (33--35) は G. Kristensson ("Sociolects in 14th-Century London." Nonstandard Varieties of Language: Papers from the Stockholm Symposium 11--13 April 1991. Stockholm: Almqvist & Wiksell International, 1994. 103--10) の議論に拠りながら,14世紀のロンドンに流入した Norfolk 出身の人々が担っていた社会言語学的な役割を指摘している.14世紀初頭のロンドンへの移民リストのなかで,Norfolk 出身者がトップの座を占めていた.Norfolk からの著しい人口流入は少なくとも1360年までは続いており,これらの Norfolk 移民は主として行政や商業に関する職業に就いていたため,ロンドンにおいて社会的に優勢な集団を形成していたと考えられる.そして,彼らの社会的な地位とともに,彼らが故郷からもってきた北部・東部系の i の地位も上昇し,最終的にロンドンにおいて威信ある発音として受け入れられたのではないかという.

ロンドンにいるノーフォーク出身の人々は人口の上層部、つまり行政方面で影響を与える商人の階級を形成したことがわかる。彼らの方言は次の点でロンドンの地方言とは逸脱していた。OE /y(:)/ に対して /i(:)/、stret におけるように OE /æ:/ に対して /ɛ:/ または /e:/、fen におけるように OE /e/ に対して /e/、milk におけるように OE /eo/ に対して /i/、flax, wax のような語では /a/、old, cold のような語では /ɔ:/、fen, fair のような語では /f-/ である。ロンドン英語におけるこの変種は14世紀前半に生じて、14世紀後半では重要な社会方言として目立つようになったと言っても過言ないであろう。この英語は、裕福な商人の階級の属する人達によって使用され、恐らく格式の高い方言となり、フランス語とラテン語が公用語の地位を失った時、(政府の)官庁で使われた模範的な言語となった。政府高官の多くはノーフォークの移住民集団に所属していたように思われる。(地村,pp. 33--35)


 では,なぜ Norfolk からの移民がこの時期これほどまでに著しかったのだろうか.1つには,この地域がイングランドで最も人口密度の高い地域であったことが挙げられる.しかし,より重要なことは,Norfolk 人の多くが,イングランドに大きな富をもたらす羊毛産業に従事していたことである.さらに,Norfolk は古英語後期からの歴史的事情によりスカンディナヴィア系の人口を多く抱えており,農民は他の地域の農奴 (villein) よりも自由な地位を有していたために,産業活動の発達と商人階級の勃興が促されたという事情もあったろう.
 以上のような人口分布,経済活動,歴史的条件が相俟って,Norfolk 方言がロンドンにおいて幅を利かせることとなったということが事実だとすれば,これはまさに「#1543. 言語の地理学」 ([2013-07-18-1]) の話題だろう.その記事の終わりに示した「エスニーの一般的特徴」の図において枠で囲ったキーワードのほとんどが,上の議論に関与している(すなわち,言語,領域,住民,経済,社会階級,都市網,主要都市,政治制度).

 ・ 地村 彰之 『チョーサーの英語の世界』 溪水社,2011年.

Referrer (Inside): [2013-11-23-1]

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2013-07-18 Thu

#1543. 言語の地理学 [geolinguistics][geography][sociolinguistics][demography][language_shift][language_death][world_languages][terminology]

 ブルトンの『言語の地理学』を読み,地理学の観点から言語を考察するという新たなアプローチに気づかされた.言語における地理的側面は,方言調査,言語変化の伝播の理論,言語圏 (linguistic area; see [2012-12-01-1]) の研究などで前提とはされてきたが,あまりに当然のものとみなされ,表面的な関心しか払われてこなかったといえるかもしれない.このことは,「#1053. 波状説の波及効果」 ([2012-03-15-1]) の記事でも触れた.
 言語の地理学,言語地理学,地理言語学などと呼び方はいろいろあるだろうが,これはちょうど言語の社会学か社会言語学かという区分の問題に比較される.Trudgill (56) の用語集で geolinguistics を引いてみると,案の定,この呼称には2つの側面が区別されている.

(1) A relatively recent label used by some linguists to refer to work in sociolinguistics which represents a synthesis of Labovian secular linguistics and spatial dialectology. The quantitative study of the geographical diffusion of words or pronunciations from one area to another is an example of work in this field. (2) A term used by human geographers to describe modern quantitative research on geographical aspects of language maintenance and language shift, and other aspects of the spatial relationships to be found between languages and dialects. An example of such work is the study of geographical patterning in the use of English and Welsh in Wales. Given the model of the distinction between sociolinguistics and the sociology of language, it might be better to refer to this sort of work as the geography of language.


 伝統的な方言研究や言語変化の伝播の研究では,言語項目の地理的な分布を明らかにするという作業が主であるから,それは「地理言語学」と呼ぶべき (1) の領域だろう.一方,ブルトンが話題にしているのは,「言語の地理学」と呼ぶべき (2) の領域である.後者は,民族や宗教や国家や経済などではなく言語という現象に焦点を当てる地理学である,といえる.
 言語の地理学で扱われる話題は多岐にわたるが,その代表の1つに,「#1540. 中英語期における言語交替」 ([2013-07-15-1]) で具体的にその方法論を適用したような言語交替 (language shift) がある.また,失われてゆく言語の保存を目指す言語政策の話題,言語の死の話題も,話者人口の推移といった問題も言語の地理学の重要な関心事だろう.世界の諸言語の地理的な分布という観点からは,先述の言語圏という概念も関与する.諸文字の地理的分布も同様である.
 ブルトンが打ち立てようとしている言語の地理学がどのような性格と輪郭をもつものなのか,直接ブルトンに語ってもらおう.

結局,地理学者は,社会史学的・経済学的な次元の人文現象と言語とのあいだの空間的相関関係の確立に習熟しているのである.そして中でも,自然環境や生物地理的環境との相関関係はお手のものである.言語が,自然環境に直接働きかけるものでない以上,言語については本来の生態学を語ることはできない.しかしすべての言語は,住民の中に独自の分布を示しており,住民は言語の環境でもある.したがってまた共通の言語を備えた人間集団の生態学が存在するのである.そしてある文化的特徴――言語――がある一つの環境――またはいくつかの環境――の中で,他の文化的・社会的・経済的特質と同様の,あるいは異なったしかたで,どのように拡大しどのように維持されどのように定着できたかを明らかにするには,地理学者はまさに資格十分である.(29--30)


 実際にはブルトンは,言語の地理学を,さらに大きな文化地理学へと結びつけようとしている.

自然現象と文化現象の2つの領域を厳密に分けることによってのみ,人種や人類学的圏域のような概念を理解し利用することが可能となり,これら人種圏の範囲と文化的な集合体の範囲とを比較することができる.この文化的集合体の中でも,言語的,宗教的,政治的属性といった異なる次元のあいだの相違は,長いあいだ,より明確に認識されてきた.そこからエスニー(民族言語的共同体)や信仰社会集団や国家といったような,それぞれの区別に対応する共同体や構造についての認識が派生してきたのである./文化の諸特徴の地理学から,われわれはいまや文化それ自体の地理学へと近づくことができる.すなわち,社会の言語的・宗教的・歴史政治的な遺産を結びつけ,そして思考と仲間意識との個性的な諸体系を生みだすような文化の集合体に関する地理学へ,である.この文化地理学はそれゆえに,大きなあるいは社会全体の人間集団を見極めることを目的とする.これらの集団は,場合に応じて部族,エスニー,国家,大文明の一大単位などと同列視されるのである.地理学者はこれらの集団の生態学を,その内部運動,偶発的な相互依存,さらにそれらの機能的な階層性,依存度または支配度,文化の受容と放棄といった個別的または集団的な現象による浸透力などの側面から研究する.経済活動の優先性が一般に認められている世界では,文化地理学は社会の中で経済人の反対の側に生きいきと存在しているものを見分けるという使命を帯びているのである.(32--33)


 要するに,ブルトンの姿勢は,社会における言語という大局観のもとで言語の地理的側面に焦点を当てるということである.以下は,その大局観と焦点の関係を図示したものである(ブルトン,p. 47,「エスニーの一般的特徴」).言語の社会学や社会言語学のための見取り図としても解釈できる.

General Characteristics of Ethnie


 なお,上の引用文で用いられているエスニーという概念と用語については,「#1539. ethnie」 ([2013-07-14-1]) を参照.

 ・ Trudgill, Peter. A Glossary of Sociolinguistics. Oxford: Oxford University Press, 2003.
 ・ ロラン・ブルトン 著,田辺 裕・中俣 均 訳 『言語の地理学』 白水社〈文庫クセジュ〉,1988年.

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2013-07-07 Sun

#1532. 波状理論語彙拡散含意尺度 (1) [wave_theory][lexical_diffusion][implicational_scale][dialectology][german][geography][isogloss][consonant][neogrammarian][sgcs][germanic]

 「#1506. The Rhenish fan」 ([2013-06-11-1]) の記事で,高地ドイツ語と低地ドイツ語を分ける等語線が,語によって互いに一致しない事実を確認した.この事実を説明するには,青年文法学派 (Neogrammarians) による音韻法則の一律の適用を前提とするのではなく,むしろ波状理論 (wave_theory) を前提として,語ごとに拡大してゆく地理領域が異なるものとみなす必要がある.
 いま The Rhenish fan を北から南へと直線上に縦断する一連の異なる方言地域を順に1--7と名付けよう.この方言群を縦軸に取り,その変異を考慮したい子音を含む6語 (ich, machen, dorf, das, apfel, pfund) を横軸に取る.すると,Second Germanic Consonant Shift ([2010-06-06-1]) の効果について,以下のような階段状の分布を得ることができる(Romain, p. 138 の "Isoglosses between Low and High German consonant shift: /p t k/ → /(p)f s x/" より).

Isoglosses between Low and High German Consonant Shift

  方言1では SGCS の効果はゼロだが,方言2では ich に関してのみ効果が現われている.方言3では machen に効果が及び,方言4では dorf にも及ぶ.順に続いてゆき,最後の方言7にいたって,6語すべてが子音変化を経たことになる.1--7が地理的に直線上に連続する方言であることを思い出せば,この表は,言語変化が波状に拡大してゆく様子,すなわち波状理論を表わすものであることは明らかだろう.
 さて,次に1--7を直線上に隣接する方言を表わすものではなく,ある1地点における時系列を表わすものとして解釈しよう.その地点において,時点1においては SGCS の効果はいまだ現われていないが,時点2においては ich に関して効果が現われている.時点3,時点4において machen, dorf がそれぞれ変化を経て,順次,時点7の pfund まで続き,その時点にいたってようやくすべての語において SGCS が完了する.この解釈をとれば,上の表は,時間とともに SGCS が語彙を縫うようにして進行する語彙拡散 (lexical diffusion) を表わすものであることは明らかだろう.
 縦軸の1--7というラベルは,地理的に直線上に並ぶ方言を示すものととらえることもできれば,時間を示すものととらえることもできる.前者は波状理論を,後者は語彙拡散を表わし,言語変化論における両理論の関係がよく理解されるのではないか.
 さらに,この表は言語変化に伴う含意尺度 (implicational scale) を示唆している点でも有意義である.6語のうちある語が SGCS をすでに経ているとわかっているのであれば,その方言あるいはその時点において,その語より左側にあるすべての語も SGCS を経ているはずである.このことは右側の語は左側の語を含意すると表現できる.言語変化の順序という通時的な次元と,どの語が SGCS の効果を示すかが予測可能であるという共時的な次元とが,みごとに融和している.
 音韻変化と implicational scale については,「#841. yod-dropping」 ([2011-08-16-1]) も参照.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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2013-07-06 Sat

#1531. pidgin と creole の地理分布 [pidgin][creole][map][geography][world_languages][tok_pisin][caribbean]

 数え方にもよるが,世界中で100以上のピジン語やクレオール語が日常的に用いられているといわれる.なかには200万人を超える話者を擁する Tok Pisin のような活発な言語もある.実際,Tok Pisin は南太平洋における最大の言語である.英語を lexifier とする「#463. 英語ベースのピジン語とクレオール語の一覧」 ([2010-08-03-1]) についてはすでに本ブログで言及したが,かつての大英帝国の影響力から予想される通り,英語ベースのものが最も多い.
 Romain (170--73) の地図を参照して lexifier 言語別にピジン語とクレオール語の個数を数え上げると,英語が35,フランス語が14,ポルトガル語が9,スペイン語が3,オランダ語が3,その他の言語が26となる. * *
 世界に散在する種々のピジン語とクレオール語を分類するのに,上記のように語彙を提供している言語,すなわち superstratum の言語を基準とする方法があるが,ほかに地域を基準とする分類もある.地理的な分布の観点からピジン語やクレオール語を大きく2分すると,大西洋系列と太平洋系列とに分かれる.Romain (174--75) を引用しよう.

Creolists recognize two major groups of languages, the Atlantic and the Pacific, according to historical, geographic, and linguistic factors. The Atlantic group was established primarily during the seventeenth and eighteenth centuries in the Caribbean and West Africa, while the Pacific group originated primarily in the nineteenth. The Atlantic creoles were largely products of the slave trade in West Africa which dispersed large numbers of West Africans to the Caribbean. Varieties of Caribbean creoles have also been transplanted to the United Kingdom by West Indian immigrants, as well as to the USA and Canada. The languages of the Atlantic share a West African common substrate and display many common features . . . . / In the Pacific different languages formed the substratum and socio-cultural conditions were somewhat different from those in the Atlantic. Although the plantation setting was crucial for the emergence of pidgins in both areas, in the Pacific laborers were recruited and indentured rather than slaves. Apart from Hawai'i, a history of more gradual creolization has distinguished the Pacific from the Atlantic (particularly Caribbean) creoles, whose transition has been more abrupt.


 このように地理的な分布による2分法は明快だが,両系列のあいだに複雑な関係があることを見えにくくしているきらいがあることには注意しておきたい.例えば,両系列に共有されている語彙 (savvy "to know" や picanniny "child, baby") の存在は,2つの海をまたいで活躍した船乗りの役割を考慮せずにうまく説明することはできないだろう.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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2013-06-11 Tue

#1506. The Rhenish fan [dialectology][german][geography][isogloss][wave_theory][map][consonant][neogrammarian][sgcs][germanic]

 昨日の記事「#1505. オランダ語方言における "mouse"-line と "house"-line」 ([2013-06-10-1]) で,同じ母音音素を含む2つの語について,それぞれの母音の等語線 (isogloss) が一致しない例を見た.今回は,同様の有名な例をもう1つ見てみよう.ドイツ・オランダを南から北へ流れるライン川 (the Rhine) を横切っていくつかの等語線が走っており,河岸の東40キロくらいの地点から河岸の西へ向けて扇を開いたように伸びているため,方言学では "The Rhenish fan" として知られている.Bloomfield (344) に掲載されている Behaghel からの方言地図を掲載する.

The Rhenish Fan

 ゲルマン語の方言学では,"make" に相当する語の第2子音を [x] と [k] に分ける等語線をもって,高地ドイツ語と低地ドイツ語を分けるのが伝統的である.この等語線の選択は突き詰めれば恣意的ということになるが,「#1317. 重要な等語線の選び方」 ([2012-12-04-1]) には適っている.この等語線は,東側では Berlin 北部と西部をかすめて東西に延びているが,西側では Benrath という町の北部でライン川を渡る.この西側の等語線は "Benrath line" と呼ばれている.この線は,古代における Berg (ライン川の東)と Jülich (ライン川の西)の領土を分ける境界線だった.
 同じ [x/k] の変異でも,1人称単数代名詞 I においては異なる等語線が確認される.Benrath から下流へしばらく行ったところにある Ürdingen という村の北部を通ってライン川を渡る [ix/ik] の等語線で,これを "Ürdingen line" と呼んでいる.Benrath line ではなく Ürdingen line を高低地ドイツ語の境界とみなす研究者もいる.この線は,ナポレオン時代以前の公爵領とケルン選帝侯領とを分ける境界線だった.
 Benrath line から南へ目を移すと,「村」を表わす語の語末子音に関して [dorf/dorp] 線が走っている.この線も歴史的にはトレーブ選帝侯領の境界線とおよそ一致する.さらに南には,"that" に相当する語で [das/dat] 線が南西に延びている.やはり歴史的な領土の境と概ね一致する.
 Benrath line と Ürdingen line における [x/k] 変異の不一致は,青年文法学派 (Neogrammarians) による音韻法則の一律の適用という原理がうまく当てはまらない例である.同じ音素を含むからといって,個々の語の等語線が一致するとは限らない.不一致の理由は,個々の等語線が個々の歴史的・社会的な境界線に対応しているからである.改めて chaque mot a son histoire "every word has its own history" ([2012-10-21-1]) を認識させられる.この金言の最後の語 "history" に形容詞 "social" を冠したいところだ.
 以上,Bloomfield (343--45) を参照して執筆した.

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.

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2013-06-10 Mon

#1505. オランダ語方言における "mouse"-line と "house"-line [dialectology][dutch][geography][isogloss][wave_theory][map][phonetics][vowel]

 現代標準英語の mousehouse には [əʊ] の2重母音が含まれている.この2重母音はゲルマン祖語では *[uː] だったが,現在のゲルマン諸語の多くでは,音価こそ多種多様だが,何らかの2重母音か長母音かが共通して両語に現われる.例えば,標準ドイツ語では [aʊ] であり,標準オランダ語では [øy] である.
 ところが,ベルギーとオランダにまたがる地域の方言地図(記事末尾を参照)を描いてみると,この2語の母音について興味深い分布が明らかになる.東部には古い [uː] が残っており,[muːs, huːs] が見られる.一方,西部には,飛び地としての分布ではあるが円唇化した長母音 [yː] を含む [myːs, hyːs] が行なわれている.また,最西端には [øː] を含む [møːs, høːs] が細々と分布している.そして,西部の大半には標準オランダ語の [øy] が広がっている.それぞれの地域で,音価こそ異なるものの,"mouse" と "house" の両語に同じ長母音か2重母音が現われていることが確認できる.
 ところが,[muːs, huːs] と [myːs, hyːs] に挟まれたところに,両語で母音の食い違った [muːs, hyːs] を示すエリアがあるのである.このことは,"mouse" と "house" の母音の変異を表わす等語線 (isogloss) が互いに一致していないことを物語っている.mouse のほうが "house" よりも広い地域において,古い2重母音を保っているということになる.簡略化した模式図を以下に示そう.



 この分布を説明するのに,次のようなシナリオが想定される.中世のあるとき,おそらく西部のフランドル地方で革新形 [yː] が生じた.文化的な優位ゆえに,この革新的な母音は波状に広がっていった.一方,東からは北ドイツのハンザ都市を中心とするもう1つの文化圏の影響により,古い [uː] も根強く分布していた.この東西文化圏からの波紋が問題のエリア周辺で複雑にぶつかりあい,等語線の妥協の産物ともいえる上記の分布が生じたのである.実際,現在でも西からの [yː] の東進はゆっくりと継続しているという.
 後の16--17世紀,おそらくアントワープ発で,次なる革新的な2重母音 [øy] が広がり出す.これが,その時までに優勢となっていた [yː] を置き換えてゆき,オランダ語に標準的な発音となっていった.
 [muːs, hyːs] を生み出した一致しない等語線は,[2012-10-21-1]の記事で触れた chaque mot a son histoire "every word has its own history" を明確に裏付けるものである.
 以上,Kloeke, G. G (De Hollandsche Expansie. Noorden Zuid-Nederlandsche Dialectbibliotheek 2. The Hague: 1927.) の調査を概説した Bloomfield (328--31) を参照して執筆した.以下の地図は,Bloomfield (328) より.

Kloeke's Map of

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.

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2013-06-07 Fri

#1502. 波状理論ならぬ種子拡散理論 [dialect][isogloss][methodology][wave_theory][geography]

 なぜ言語には変種が存在するのかという問題について,時間と変化を強調する従来の系統樹モデルへのアンチテーゼとして,地理と拡散を強調する波状モデルが提案されてきたことは,「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]) を始め,wave_theory の各記事で取り上げてきた.
 波状説によれば,革新的な言語項目 (linguistic item) の各々は,池に投げ込まれた石のように,地理的に波状に拡散してゆく.言語項目によって波紋の中心の位置は異なるし,波の強さも異なるし,持続時間も異なるため,結果として波紋の影響の及ぶ範囲もバラバラとなり,入り組んだ複数の等語線 (isogloss) が描かれることになるのが常である.
 しかし,言語項目の拡散を波紋の広がりに喩えることができるのは,ここまでである.波紋の広がり方や止まり方は力学的,機械的に説明できるかもしれないが,言語項目の拡散はある話者(集団)がそれを積極的に採用すれば広がり続け,そうでなければ止まるという社会心理的な要因に依存する(「#1056. 言語変化は人間による積極的な採用である」 ([2012-03-18-1]) や「#1069. フォスラー学派,新言語学派,柳田 --- 話者個人の心理を重んじる言語観」 ([2012-03-31-1]) を参照).また,拡散する言語項目は,必ずしも革新的なものである必要はない.古くからそこにあった言語項目が,あるとき拡散の中心地として機能し始めるということもありうるのである.「投げ込まれた石」「機械的な波紋の広がり」の比喩のみでは,不十分ということになる.
 そこで,Hudson (41) は,代替案として,印象的な種子拡散理論というべきものを提起した.

Because of these reservations it seems best to abandon the analogy of the stones dropping in a pool. A more helpful analogy would perhaps be one involving different species of plants sown in a field, each spreading outwards by dispersing its seeds over a particular area. In the analogy, each item would be represented by a different species, with its own rate of seed dispersal, and an isogloss would be represented by the limit of spread of a given species. Different species would be able to coexist on the same spot (a relaxation of the normal laws of botany), but it might be necessary to designate certain species as being in competition with one another, corresponding to items which provide alternative ways of saying the same thing (like the two pronunciations of farm). The advantages of this analogy are that there is no need for the distribution of species in a field to be in constant change with respect to every item, and that every item may be represented in the analogy, and not just those which are innovative.
     In terms of this analogy, a linguistic innovation is a new species which has arisen (either by mutation or by being brought in from outside), and which may or may not prosper. If it does, it may spread and replace some or all of its competitors, but if it does not it may either die out or remain confined to a very small area of the field (i.e. to a very small speech community). Whether or not a species thrives depends on how strongly its representatives grow (i.e. on the power and influence of its speech community): the bigger the plants, the more seeds they produce, and the better the chances of the species conquering new territory.


 このアイデアは,Hudson (48--49) が別に提案する,従来の "variety-based view of language" に代わるところの "item-based view of language" とも符合する.いずれの説も,個々の言語項目に社会的な役割を認めるという Hudson の言語観が色濃く反映されている.

 ・ Hudson, R. A. Sociolinguistics. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1996.

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2013-06-06 Thu

#1501. 方言連続体か方言地域か [dialect_continuum][geography][dialect]

 昨日の記事「#1500 方言連続体」 ([2013-06-05-1]) で,方言連続体 (dialect continuum) と方言地域 (dialect area) の関係を巡る理論的な問題に触れた.その際に Heeringa and Nerbonne に言及したが,彼らは計量的な手法でこの問題に迫ろうとした.Heeringa and Nerbonne は,西ゲルマン方言連続体の一部をなすオランダ北東岸に沿った27の村々を対象に20世紀に行なわれた方言調査(Reeks nederlands(ch)e dialectatlassen (RND) comp. Blancquaert and Peé (1925--82)) のデータに基づいて,125を超える語彙項目の音韻変異に注目し,計量分析を施した (dialectometry) .音韻変異の幅を測定する方法としては,"Levenshtein distance" が採用されている.
 分析の詳細は割愛するが,結論としては地理的な距離と音韻変異の幅の間に強い相関関係があることが示された.

There is a strong correlation between the phonological distance and the logarithm of geographic distance (.9), accounting for 81% of the variation in pronunciation. (396)


 ただし,強い相関関係があるとはいっても,完全な相関関係ではない以上,すべての隣村どうしが同じようにスムーズな連続体をなすわけではなく,多少のでこぼこがある.つまり,隣り合う2つの村の間にある程度の断絶が認められるケースがあり,その場合,想像上の断絶線の両側には異なる方言地域が広がっていると考えることもできるわけである.

. . . we see that phonological distances can mostly be explained by geographic distance. This justifies the continuum perspective. In those cases where a dialect distance between successive points is significantly higher than would be expected on the basis of geographic distances, we may encounter a dialect border. This justifies the area perspective. (387)


 方言連続体と方言地域とは理論的に相容れない概念のように思われるかもしれないが,いずれの概念も言語的な差分は前提としているのである.その差分を限りなく小さいものとみれば連続性を語れるし,比較的大きいものとみれば断絶を,すなわち方言地域を語れることになる.つまるところ見方の問題であり,程度の問題ということなのかもしれない.Heeringa and Nerbonne の結論も,この理論的問題がとらえ方の問題であることを指摘している.

. . . the dialect landscape . . . may be described as a continuum with varying slope or, alternatively, as a continuum with unsharp borders between dialect areas. (399)


 ・ Heeringa, Wilbert and John Nerbonne. "Dialect Areas and Dialect Continua." Language Variation and Change 13 (2001): 375--400.

Referrer (Inside): [2020-08-01-1]

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2013-06-05 Wed

#1500. 方言連続体 [dialect_continuum][dialect][geography][isogloss][map][terminology][language_or_dialect]

 方言どうしの境界線(あるいは時に言語どうしの境界線)は,必ずしも明確に引けるとは限らない.否,多くの場合,方言線は多かれ少なかれ恣意的である.「#1317. 重要な等語線の選び方」 ([2012-12-04-1]) で述べたように,等語線 isogloss が太い束をなすところに境界線が引かれるとするのが一般的ではあるが,絶対的な基準はないといってよい.
 ある旅行者が地理的に連続体をなすA村からZ村へと歩いてゆく旅を想像すると,A村の言語とB村の言語とは僅少な差しかなく,B村とC村,C村とD村も同様だろう.旅行者は,各々の言語的な差異にはほとんど気付かずに歩いて行き,ついにZ村に達する.ところが,客観的にA村とZ村の言語を比べると,明らかに大きな差異があるのである.村から村への言語差はデジタルではなくアナログであり,旅行者が体験したのは方言連続体 (dialect continuum) にほかならない.世界各地に方言連続体が存在するが,ヨーロッパだけを見ても複数の方言連続体が見られる.以下は,Romain (12) の図を参考にして作った方言連続体の地図である.

Map of Dialect Continua in Europe

 この地図は,例えばイタリア南端からフランス北部のカレーまで,あるいはアムステルダムからウィーンまで,方言連続体を旅することができるということを意味する.
 方言連続体を示す地域の限界は,波線で示された国境線と一致することもあれば一致していないこともある.これは,隣り合う2つの村が国境を挟んでいるからといって,必ずしも大きく異なる言語を用いているというわけではないということを示すと同時に,場合によっては同一国内の隣り合う2つの村でも言語の断絶があり得るということを示す.
 方言連続体に関しては,理論的な問題がある.A, B, C, . . . Zの村々が方言連続体を構成していると想定した場合,それぞれの村の内部では一様な言語が行なわれていると考えてよいのだろうか.あるいは,村の西端と中央と東端とではミクロな方言連続体が存在しているのだろうか.もしA村とB村がそれぞれ言語的に一様だと仮定するならば,A村は1つの方言地域 (dialect area) を構成し,B村はもう1つの方言地域を構成するということになり,A村の方言とB村の方言の間には連続体ではなく小さいながらも断絶が想定されるということにならないだろうか.方言連続体という概念と方言地域という概念はどのように関連しているのだろうか.この理論的問題は,Chambers and Trudgill の問題として,Heeringa and Nerbonne によって取り上げられている.

Chambers and Trudgill (1998) introduced an interesting puzzle, one that is related to whether dialects should be viewed as organized by areas or via a geographic continuum. They observed that a traveller walking in a straight line notices successive small changes from village to village, but seldom, if ever, observes large differences. This sounds like a justification of the continuum view . . . . (376)


 いかに方言連続体が生じるか,なぜ方言が存在するのかという問題については,「#1303. なぜ方言が存在するのか --- 波状モデルによる説明」 ([2012-11-20-1]) の記事も参照.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.
 ・ Heeringa, Wilbert and John Nerbonne. "Dialect Areas and Dialect Continua." Language Variation and Change 13 (2001): 375--400.
 ・ Chambers, J. K. and Peter Trudgill. Dialectology. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1998.

Referrer (Inside): [2013-06-27-1] [2013-06-06-1]

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2012-12-28 Fri

#1341. 中英語方言を区分する8つの弁別的な形態 [me_dialect][isogloss][dialect][methodology][geography][3pp][3sp]

 中英語の方言については,me_dialect の各記事で扱ってきた.方言どうしを区分する線は特定の弁別的な形態の分布により決められることが多く,例えば「#130. 中英語の方言区分」 ([2009-09-04-1]) のような方言地図が一案として提示されている.しかし,「#1317. 重要な等語線の選び方」 ([2012-12-04-1]) で話題にしたとおり,方言線を引くことに関しては様々な理論的な問題がある.中英語方言学は20世紀前半以来の長い研究史をもっており,近年では LALMELAEME の登場により研究環境が著しく進歩したのは確かだが,いまだに多くの問題が残されている.
 今回は,伝統的な Moore, Meech and Whitehall の後期中英語方言の研究に基づき,主要な弁別的形態とその分布を示そう.Moore, Meech and Whitehall は,1400--1450年に書かれた266の(公)文書および43の文学作品を主たる対象テキストとし,11の主要な弁別的な特徴によって方言線を引いた.これは MED 編纂の基盤ともなった方言線であり,MED の "Plan and Bibliography" にも反映されている.中尾 (96--106) が8つの弁別的な特徴について要約した表 (98) を与えており便利なので,それをまとめ直したものを下に示そう.

FeatureIsoglossNNEMSEMWMSWSE
OE /ā/A/ɑː//ɔː//ɔː//ɔː//ɔː//ɔː/
OE /a/ + nasalD/a//a//a//ɔ//a//a/
OE /ȳ/, /y/, /ēo/, /eo/F/iː, ɪ/, /eː, ɛ//iː, ɪ/, /eː, ɛ//iː, ɪ/, /eː, ɛ//yː, y/, /øː, ø//yː, y/, /øː, ø//iː, ɪ/, /eː, ɛ/
/f/ -- /v/I/f//f//f//f, v//v//v/
/ʃ/ -- /s/C/s//s//ʃ//ʃ//ʃ//ʃ/
3rd pl. pronounEthemthemhemhemhemhem
3rd sg. pres. verbG-es-es-eth-es, -eth-eth-eth
3rd pl. pres. verbB, H-es-es, -e(n)-e(n)-e(n), -eth-eth-eth
  *  

 地図上に表わせばより便利なのだろうが,今回は省略する.3人称単・複現在動詞語尾については,「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1]) を参照.また,OE /ȳ/, /y/, /ēo/, /eo/ に対応する母音の分布については,「#562. busy の綴字と発音」 ([2010-11-10-1]) を参照.

 ・ Moore, S., S. B. Meech and H. Whitehall. "Middle English Dialect Characteristics and Dialect Boundaries." Essays and Studies in English and Comparative Literature. 13 (1935): 1--60. Ann Arbor: U of Michigan Publication, Language and Literature.
 ・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻,大修館書店,1972年.

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2012-12-22 Sat

#1335. Bloomfield による青年文法学派の擁護 [neogrammarian][phonetics][borrowing][wave_theory][geography][methodology][dialect]

 Bloomfield は,青年文法学派 (Neogrammarians) による音声変化の仮説(Ausnahmslose Lautgesetze "sound laws without exception")には様々な批判が浴びせられてきたが,畢竟,現代の言語学者はみな Neogrammarian であるとして,同学派の業績を高く評価している.批判の最たるものとして,音声変化に取り残された数々の residue の存在をどのように説明づけるのかという問題があるが,Bloomfield はむしろその問題に光を投げかけたのは,ほかならぬ同仮説であるとして,この批判に反論する.Language では関連する言及が散在しているが,そのうちの2カ所を引用しよう.

The occurrence of sound-change, as defined by the neo-grammarians, is not a fact of direct observation, but an assumption. The neo-grammarians believe that this assumption is correct, because it alone has enabled linguists to find order in the factual data, and because it alone has led to a plausible formulation of other factors of linguistic change. (364)

The neo-grammarians claim that the assumption of phonetic change leaves residues which show striking correlations and allow us to understand the factors of linguistic change other than sound-change. The opponents of the neo-grammarian hypothesis imply that a different assumption concerning sound-change will leave a more intelligible residue, but they have never tested this by re-classifying the data. (392--93)


 青年文法学派の批判者は,同学派が借用 (borrowing) や類推 (analogy) を,自説によって説明できない事例を投げ込むゴミ箱として悪用していることをしばしば指摘するが,Bloomfield に言わせれば,むしろ青年文法学派は借用や類推に理論的な地位を与えることに貢献したのだということになる.
 Bloomfield は,次の疑問に関しても,青年文法学派擁護論を展開する.ある音声変化が,地点Aにおいては一群の語にもれなく作用したが,すぐ隣の地点Bにおいてはある単語にだけ作用していないようなケースにおいて,青年文法学派はこの residue たる単語をどのように説明するのか.

[A]n irregular distribution shows that the new forms, in a part or in all of the area, are due not to sound-change, but to borrowing. The sound-change took place in some one center, and after this, forms which had undergone the change spread from this center by linguistic borrowing. In other cases, a community may have made a sound-change, but the changed forms may in part be superseded by unchanged forms which spread from a center which has not made the change. (362)


 そして,上の引用にすぐに続けて,青年文法学派の批判者への手厳しい反論を繰り広げる.

Students of dialect geography make this inference and base on it their reconstruction of linguistic and cultural movements, but many of these students at the same profess to reject the assumption of regular phonetic change. If they stopped to examine the implications of this, they would soon see that their work is based on the supposition that sound-change is regular, for, if we admit the possibility of irregular sound-change, then the use of [hy:s] beside [mu:s] in a Dutch dialect, or of [ˈraðr] rather beside [ˈgɛðr] gather in standard English, would justify no deductions about linguistic borrowing. (362)


 Bloomfield の議論を読みながら,青年文法学派の仮説が批判されやすいのは,むしろ仮説として手堅いからこそなのかもしれないと思えてきた.

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.

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