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dialect - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-06-05 08:55

2010-11-18 Thu

#570. bury の母音の方言分布 [dialect][me_dialect][standardisation]

 [2010-11-10-1]の記事で,古英語 y の中英語諸方言での発達形を話題にした.続けて[2010-11-11-1]の記事では,merry ( OE myrig ) を取り上げ,複数の方言形が Chaucer の英語に混在していることを見た.そこで示唆したように,大きく分けて3種類に区別されていた中英語方言形のうち,どの発音・綴字が後に標準英語として定着することになるかはランダムだったと考えられる.
 しかし,ある程度の傾向はつかむことができる.(1) 北部・東部の <i> /ɪ/,(2) 西部・南西部の <u> /y/,(3) 南東部の <e> /ɛ/ の3種類の方言形のなかで,(1) が最も多い.例を現代標準形で示すと bridge ( OE brycg ), kiss ( OE cyssan ), kin ( OE cynn ), lust ( OE lystan ), sin ( OE synn ) .(2) は母音は後に変化しているが,blush ( OE blyscan ), church ( OE cyrce ), much ( mycel; for mickle see [2010-11-12-1] ) などが方言形の痕跡を残している.最も少ないのが (3) のタイプで,knell ( OE cnyllan ), merry ( OE myrig ) などが現代標準形として伝わっている.
 さて,これまでは現代標準形として採用された形態という観点で話を進めてきたが,現代における方言の形態はどうなっているのだろうか.イングランドの諸方言は,中英語以降,現在に至るまで存在し続けている.例えば,中英語の南東方言に由来する /ɛ/ を保存している現代標準語の bury は,現代の方言ではどのように発音されているのだろうか.
 便利なことに,Upton and Widdowson の Map 1 には buried の第1母音の方言分布が図示されている(現代英語とはいっても20世紀半ばの時点での分布であることに注意).これによると,イングランドの大域では /ɛ/ が行なわれているが,最北部を除く北部,最南西部を除く南西部,Cambridgeshire,そして南東部では /ʌ/ の発音が行なわれていることが分かる.また,Durham 東部できわめて例外的な /a/ の発音もある.
 現代標準発音の /ɛ/ の起源である Kent を含む南東部で,/ɛ/ でなく /ʌ/ が行なわれているというのは驚きである.標準となるべき音をかつて提供しておきながら,自らは非標準的な発音を用いるようになったのだから妙だ.ただ,<u> の綴字に /ʌ/ が対応しているのだから,むしろ規則的ともいえる.
 普段は「標準英語の形態」の歴史をみるだけで満足してしまうことが多いが,方言を考慮に入れると,もっとおもしろい(そして複雑な)歴史の事実が出てくるものだなと実感した.

 ・ Upton, Clive and J. D. A. Widdowson. An Atlas of English Dialects. 2nd ed. Abingdon: Routledge, 2006.

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2010-10-08 Fri

#529. 現代非標準変種の2人称複数代名詞 [personal_pronoun][ame][dialect][t/v_distinction]

 人称代名詞体系の変遷については,古英語 ([2009-10-24-1]),中英語 (Chaucer) ([2009-10-25-1]),現代英語 ([2009-11-09-1]) で屈折表を掲げてきた.2人称代名詞に焦点を当てると,古英語では þū 「あなた」(単数)と ȝē 「あなたがた」(複数)が形態上,完全に区別されていた.中英語でも同様に thou / ye と単複の区別がつけられていたが,その上に [2009-10-11-1], [2009-10-29-1]で触れたような T/V distinction (親称と敬称)の区別も覆いかぶさり,語用論的に複雑な使い分けの様相を呈した.しかし,近代英語以降は数の区別も語用論上の区別も一気に解消され,標準語では you が唯一の2人称代名詞となった.便利なのか不便なのかよく分からないが,現在では単複の区別も敬称・親称の区別もつけない you 一辺倒である.
 ただ,これは標準英語に限った話しである.非標準変種を考慮に入れれば,現代英語でも規則的に単複の区別をつけるような代名詞体系が発達している.[2010-03-05-1], [2010-03-06-1]で言及したように,単数の you に対して複数の諸形態が頻用される頻用される変種がある.以下のような形態が確認されている.

 ・ yous(e): many parts of North America (esp. New York City and Boston), Ireland, parts of Britain (e.g. Liverpool, Glasgow), Australia, New Zealand
 ・ you-uns: upper Southern USA (western Pennsylvania and the Appalachians)
 ・ you-all, y'all: Southern US
 ・ you guys, youse guys: in a spoken variety (newer innovations than the other dialectal forms)
 ・ you folks, you people: in a more formal variety

 American Heritage Dictionary of the English Dictionary のコラムがこの辺の事情をコンパクトにまとめてくれている.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 210.
 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 168--69.
 ・ 寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年. 125頁.

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2010-07-29 Thu

#458. アメリカ英語の方言区分( Baugh and Cable 版) [ame][dialect][map]

 昨日の記事[2010-07-28-1]に引き続き,アメリカ英語の方言区分について.昨日の Kurath の区分は広く知られているが,Baugh and Cable がその古典的英語史書のなかで採用している区分も影響力があると思われるのでノートしておきたい.
 Baugh and Cable は,アメリカを南北に大きく4つに分ける区分法を採用している.上から順に Upper North, Lower North, Upper South, Lower South である.これに加えて,Upper North の東端を構成する Eastern New England は別の方言とみなすのに十分独特であり,同じく New York City (NYC) も別扱いとし,合わせて6つの方言が区別されることになる.以下の方言地図は,Baugh and Calbe (377) をもとに作成した.

Map of the American Dialects by Kurath

 6方言それぞれの特徴は Baugh and Cable (379--91) にまとまっているのでここでは省略するが,[2010-07-24-1], [2010-06-07-1]で話題にした postvocalic r の有無,cotcaught の母音対立の有無,fast の母音の音価などが方言区分の鍵となっている.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

Referrer (Inside): [2012-02-21-1]

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2010-07-28 Wed

#457. アメリカ英語の方言区分( Kurath 版) [ame][dialect][map]

 アメリカ英語の顕著な特徴の一つに,言語的な同質性がある.アメリカの国土面積は世界第3位で,イギリスの40倍,日本の26倍と実に広大だが,その割には方言差が僅少である.その理由は複合的であり,歴史が浅いこと,イギリス諸島の故地から持ち込まれた様々な英語変種の混成であること,多種多様な移民の言語との混成であること,標準を遵守する傾向,合理主義的な言語観などが挙げられるだろうか.
 しかし,イギリス英語などと比べて相対的に同質的ということであり,アメリカ英語にも方言は存在する.最も簡便なアメリカ英語の方言区分は,the New England dialect, the Southern dialect, General American と三分する方法である.General American は,その他二つの方言でない方言として定義される大雑把な方言で,一般的なイメージのアメリカ英語に最も近い.
 だが,この大雑把な区分はアメリカ方言学の発展とともに大幅に修正・置換されてきた.アメリカ方言学の本格的な研究は,ミシガン大学の Hans Kurath の指揮するプロジェクト The Linguistic Atlas of the United States and Canada として1931年に始められた.1939年に New England,1973--76年に the Upper Midwest,1986--92年に the Gulf States の方言地図が出版され,関連する研究は現在も継続中である.
 これらの一連の研究のなかで,1949年に Kurath が出版した A Word Geography of the Eastern United States は現在でも重要な地位を占めている.Kurath は語彙の分布に基づいてアメリカ英語をまず18の小方言区に分け,それを Northern, Midland, Southern の3つの大方言区にまとめた.以下は,Crystal (245) の地図をもとに作成した Kurath の方言区分地図である.

Map of the American Dialects by Kurath

 アメリカ方言の区分法には様々な代替案が提起されており,現在でも議論が絶えないが,この Kurath の区分法は基本として押さえておきたい.アメリカ英語の方言区分については,Baugh and Cable (376ff) がよくまとまっている.

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.
 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2010-07-24 Sat

#453. アメリカ英語の諸方言における r [dialect][rhotic][ame][phonetics]

 昨日の記事[2010-07-23-1]に引き続き,postvocalic r の話題.[2010-06-07-1]で見たように典型的なアメリカ英語では postvocalic r は発音されるが,イングランドの場合と同様に,アメリカでも典型から逸脱する方言は存在する.若田部 (33) によると,アメリカ英語の rhotic の分布は以下のようになる.

 Rhotic Areas in US

 面積でいうとイングランドの non-rhotic 率が意外と低かったのに対し,アメリカの rhotic 率は著しく高い.若田部が拠っている参考文献はすでに古いということを前提としてだが,アメリカ英語話者の 2/3 から 3/4 ほどが rhotic であるという情報もある.しかし,New England 東部,New York City,南部からメキシコ湾岸部にかけての地域がアメリカではマイナーな non-rhotic な地域であるということを知っておくことは英語史的には重要である.というのは,これらの non-rhotic な地域は,すでに non-rhotic 化していたかあるいは non-rhotic 化しつつあったイングランド南部からの移民が中心となって植民した地域だからである.一方で,広大な rhotic な地域は,従来 General American と呼ばれてきた方言区域とおよそ一致し,歴史的には rhotic であった英国北部諸地域からの移民によって主に開拓されてきた地域である.イギリスでの r の分布と移民の歴史を考え合わせると,アメリカでの r の分布は合点がいく.Krapp ( Vol. 2, 228 ) は,英米の r の分布の符合が偶然ではなく歴史的な継承 ( inheritance ) に基づいていることを確信している ( see [2009-12-21-1], [2009-12-23-1] ) .

. . . one must be assured that the weakening of [r] in America was really an older dialectal phenomenon, a trait of speech which did not develop on American soil in the eighteenth century, but one which went back, as a common inheritance of both British and American speech, to an early colonial custom in America.


 もっとも,[2010-06-07-1]で見た Labov の研究が示唆する通り,現在では伝統的なアメリカの non-rhotic な地域でも r が聞かれるようになってきているようだ.

 ・ 若田部 博哉 『英語史IIIB』 英語学大系第10巻,大修館書店,1985年.
 ・ Krapp, George Philip. English Language in America. 2 vols. New York: Century, 1925.

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2010-07-23 Fri

#452. イングランド英語の諸方言における r [dialect][rhotic][bre][phonetics][lexical_diffusion][map]

 [2010-06-07-1]の記事で New York City の r について触れたが,今日はイングランドにおける r を取り上げる.典型的にイギリス英語では,armfar など母音後の r ( postvocalic r ) は発音しない ( non-rhotic ) とされる.しかしこれはイギリス英語全般に当てはまるわけではない.スコットランドやアイルランドでは r が広く聞かれるし,実はイングランドでも rhotic な地域のほうが面積としては広い.以下は,arm という語の伝統的な方言の分布を示したイングランドの地図である ( Trudgill, pp. 25--28 ).

 Rhotic Areas in England

 ロンドンとそこから東部や北部に向かっては non-rhotic な地域が広がっているが,南部,西部の大域やスコットランドに近い北部の周辺では rhotic な発音が聞かれる.地図上に (r) で示されている小区画では,単語毎に rhotic か non-rhotic かが異なる地域である.
 もともとはイングランドでもすべての地域で r は発音されていた.綴字に <r> が残っていることからもそのように考えるのが妥当である.ところが,250年ほど前に,ロンドン付近の東部方言で r が脱落するという音声変化が生じた.このロンドン付近発祥の革新が北部や東部へと波状に広がり,各地の方言の語彙を縫うように拡大していった.この伝播は最北部や西部の保守的な方言の境目にぶつかることで減速・休止し,現在の分布に至っている.周辺地域に r が残っていること,また語によって r の発音の有無が異なる地域があることは,伝播の波が地理的にも語彙的にも一気に展開したわけではなく,徐々に浸透していったことを示唆する.イングランド英語における r の脱落は語彙拡散 ( lexical diffusion ) の一例と言っていいだろう.
 ロンドン方言や標準イギリス英語が non-rhotic であるから「イギリス英語=イングランド英語=non-rhotic」という等式を信じてしまいがちだが,これが不正確であることがわかるだろう.むしろ,面積でみる限り,イギリス英語あるいはイングランド英語はどちらかというと rhotic であるという事実が浮かび上がってくる.

 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

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2010-05-21 Fri

#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先 [jute][history][germanic][popular_passage][dialect][kyng_alisaunder][map][anglo-saxon]

 英語の歴史は,449年に北ドイツや南デンマークに分布していたアングル人 ( Angles ),サクソン人 ( Saxons ),ジュート人 ( Jutes ) の三民族が西ゲルマン語派の方言を携えてブリテン島に渡ってきたときに始まる ( see [2009-06-04-1] ).ケルトの王 Vortigern が,北方民族を撃退してくれることを期待して大陸の勇猛なゲルマン人を招き寄せたということが背景にある.その年を限定的に449年と言えるのは,古英語期の学者 Bede による The Ecclesiastical History of the English People という歴史書にその記述があるからである.この記述は後に The Anglo-Saxon Chronicle にも受け継がれ,ブリテン島における英語を含めた Anglo-Saxon の伝統の創始にまつわる神話として,現在に至るまで広く言及されてきた.The Anglo-Saxon Chronicle の北部系校訂本の代表である The Peterborough Chronicle の449年の記述から,有名な一節を古英語で引用しよう.現代英語訳とともに,Irvine (35) より抜き出したものである.

Ða comon þa men of þrim megðum Germanie: of Aldseaxum, of Anglum, of Iotum. Of Iotum comon Cantwara 7 Wihtwara, þet is seo megð þe nu eardaþ on Wiht, 7 þet cyn on Westsexum þe man nu git hæt Iutnacynn. Of Ealdseaxum coman Eastseaxa 7 Suðsexa 7 Westsexa. Of Angle comon, se a syððan stod westig betwix Iutum 7 Seaxum, Eastangla, Middelangla, Mearca and ealla Norþhymbra.


PDE translation: Those people came from three nations of Germany: from the Old Saxons, from the Angles, and from the Jutes. From the Jutes came the inhabitants of Kent and the Wihtwara, that is, the race which now dwells in the Isle of Wight, and that race in Wessex which is still called the race of the Jutes. From the Old Saxons came the East Saxons, the South Saxons, and the West Saxons. From the land of the Angles, which has lain waste between the Jutes and the Saxons ever since, came the East Anglians, the Middle Anglians, the Mercians, and all of the Northumbrians.


 この一節に基づいて形成されてきた移住神話 ( migration myth ) は,いくつかの事実を覆い隠しているので注意が必要である.449年は移住の象徴の年として理解すべきで,実際にはそれ以前からゲルマン民族が大陸よりブリテン島に移住を開始していた形跡がある.また,449年に一度に移住が起こったわけではなく,5世紀から6世紀にかけて段階的に移住と定住が繰り返されたということもある.他には,アングル人,サクソン人,ジュート人の三民族の他にフランク人 ( Franks ) もこの移住に加わっていたとされる.同様に,現在では疑問視されてはいるが,フリジア人 ( Frisians ) の混在も議論されてきた.移住の詳細については,いまだ不明なことも多いようである ( Hoad 27 ).
 上の一節にもあるとおり,主要三民族は大陸のそれぞれの故地からブリテン島のおよそ特定の地へと移住した.大雑把に言えば,ジュート人は Kent や the Isle of Wight,サクソン人はイングランド南部へ,アングル人はイングランド北部や東部へ移住・定住した(下の略地図参照).古英語の方言は英語がブリテン島に入ってから分化したのではなく,大陸時代にすでに分化していた三民族の方言に由来すると考えられる.

Homeland of the Angles, Saxons, and Jutes

 西ゲルマン諸民族のなかで,特に Jutes の果たした役割については[2009-05-31-1]を参照.また,上の一節については,オンラインからも古英語現代英語訳で参照できる.

 ・ Irvin, Susan. "Beginnings and Transitions: Old English." The Oxford History of English. Ed. Lynda Mugglestone. Oxford: OUP, 2006. 32--60.
 ・ Hoad, Terry. "Preliminaries: Before English." The Oxford History of English. Ed. Lynda Mugglestone. Oxford: OUP, 2006. 7--31.

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2010-03-26 Fri

#333. イングランド北部に生き残る thou [personal_pronoun][dialect]

 二人称単数代名詞の thou については,このブログでも何度か話題に取りあげた([2010-02-12-1], [2009-10-29-1], [2009-10-11-1]).現代標準英語では聖書や詩などの限られた register で生き残っているにすぎないが,地域変種を考慮に入れると,イングランド北部などで生き延びていることが確認される.通常,綴りは <tha>,発音は /ðə/ で,予想通り中英語以来の親近感のこめられた二人称単数代名詞として用いられているという.
 次の用例は,ヨークシャー発の表現である (Svartvik and Leech 55).

Don't thou thou me, thou thou them as thous thee.


 thou は,二人称親称代名詞としての用法のほか,「二人称親称代名詞 thou で呼びかける」という動詞の用法があり,ここでは "Please don't use thou in addressing me; use thou to address people who use thou in addressing you." ほどの意味になる.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.

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2009-09-04 Fri

#130. 中英語の方言区分 [me_dialect][dialect][standardisation][map][isogloss]

 現在の言語学では,通時的な研究にしろ共時的な研究にしろ,方言が重視されている.とりわけ中英語に関しては方言研究が盛んである.その現れの一つとして,このブログでも何度か紹介してきたが,初期中英語期の方言地図 LAEME がオンラインで公表されたことが挙げられる.
 とりわけ中英語研究が方言学と相性がよいのには理由がある.古英語や現代英語では,標準語なるものが存在する.ここでは 標準変種 ( standard variety ) と呼んでおくことにしよう.古英語では書き言葉に限定すれば West-Saxon 方言が標準変種であったし,現代英語では英国に限定すれば BBC English や Estuary English などが標準変種とされる.このように社会的に広く認められた標準変種が存在すると,そうでない変種,特に地方方言は,標準から逸脱した変種,堕落した変種としてとらえられることが,従来は多かった.このような従来の風潮では,方言研究は亜流であるとのステレオタイプから免れることは難しかった.
 ところが,中英語にはそもそも標準変種と呼ばれるものがない.確かに中英語の末期には書き言葉標準の萌芽が見られるようになるが,確立された標準変種は,中英語期を通じてほぼなかったといってよい.政治・経済・文化の中心地たるロンドンで話されていた言葉ですら,特別視されるような変種ではなく,あくまで「ロンドン方言」であった.したがって,中英語には標準変種もなければ,方言間の社会的な上下差もなく,まさに各方言が百花繚乱に咲き乱れた時代といえる.
 その百花繚乱の中英語方言を地理的に区分する試みは古くからなされているが,どんな言語特徴を基準に区分するかによって諸説ある.下に掲げたのは,現在,比較的ひろく受け入れられている区分である.

ME Dialect Map

 区分線は,およそ注目する語(群)の等語線 ( isogloss ) によるが,その選択は恣意的である.また,特に West Midland と East Midland を分ける線などは,実際にはこれほど明確ではなく,かなり曖昧であった.地図上の区分はあくまで目安までに.

 ・ Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.

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