#2787. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (4)[colonial_lag][language_change][speed_of_change]


 アメリカ英語について古風な性質や保守性がしばしば指摘されるが,それはどこまで真実なのか.この問題について,「#1266. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (1)」 ([2012-10-14-1]),「#1267. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (2)」 ([2012-10-15-1]),「#1268. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (3)」 ([2012-10-16-1]),「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1]),「#1738. 「アメリカ南部山中で話されるエリザベス朝の英語」の神話」 ([2014-01-29-1]) などの記事で考えてきた.
 英語史の古典的名著を著わした Baugh and Cable (350) も,colonial_lag という用語こそ用いていないが,アメリカ英語に見られるこの特徴について論じている.「接ぎ木」の比喩がおもしろい.

. . . it has often been maintained that transplanting a language results in a sort of arrested development. The process has been compared to the transplanting of a tree. A certain time is required for the tree to take root, and growth is temporarily retarded. In language, this slower development is often regarded as a form of conservatism, and it is assumed as a general principle that the language of a new country is more conservative than the same language when it remains in the old habitat. In this theory there is doubtless an element of truth. . . . And it is a well-recognized fact in cultural history that isolated communities tend to preserve old customs and beliefs. To the extent, then, that new countries into which a language is carried are cut off from contact with the old, we may find them more tenacious of old habits of speech.

 孤立した地域に古風な言語項が保存されるということは直観的にも理解できるだろう.実際に,「#430. 言語変化を阻害する要因」 ([2010-07-01-1]) で孤立したアイスランドの言語の例や,日本やヨーロッパからは,「#1045. 柳田国男の方言周圏論」 ([2012-03-07-1]) や「#1000. 古語は辺境に残る」 ([2012-01-22-1]) で取り上げた例に示される通りである.アメリカ植民においても,特に初期には新しい集落が互いに孤立してポツポツと点在していたのであり,そこでイギリス本国から持ち込まれた語法が変化せず,末永く保たれることになった,ということは十分にありそうである.
 しかし Baugh and Cable は,この後,しばしば言われる「アメリカ英語の保守性」は無批判に受け入れることはできないだろうと慎重に議論を展開している.その議論は,至極まっとうである.アメリカ英語には "colonial lag" として説明できそうな古風な表現が多くあることは認めるにせよ,言語的革新もまた多く生じてきたのであり,一言で「古風」「保守的」と特徴づけて終わらせることはできない.
 やはり "colonial lag" は多分に相対的な概念だと思う.ところで,なぜ「植民地の遅れ」と表現し「宗主国の進み」とは表現しないのだろうか.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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