NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の3月号のテキストが発売されました.今回で連載「英語のソボクな疑問」も第12回となります.この1年間で読者の皆さんからも反響をいただきました.ありがとうございます.年度の締めとして,少々変わり種の話題を用意しました.「単数の they って何?」です.
「みんな,自分が正しいと思っている」という意味で Everyone thinks they are right. という英文は可能ですが,何か違和感を感じませんか? そう,everyone は意味こそ「みんな」でも,文法的には単数扱いと習いましたね.とすれば,Everyone thinks he is right. とすればよいでしょうか.しかし,「みんな」は男性だけではないはずですので,he の使用にも違和感があります.であれば,Everyone thinks he or she is right. ほどが妥当でしょうか.ただ,まどろっこしくて舌をかみそうですね.結局,単複の問題は残りますが,ぐるっと一周して Everyone thinks they are right. 辺りに戻るのがよいのでは,という方向で落ち着きつつあります.「単数の they」 (singular_they) と呼ばれる用法です.
連載記事では,この「単数の they」について英語史の観点からできるかぎり分かりやすく解説しました.単なる文法の問題にとどまらず,社会的なテーマであり歴史的なトピックでもあることが理解ます.言葉の話題は,思いのほか広くて深いのですね.
「単数の they」を深掘りしたいという方は,singular "they" に関する一連の記事セットをご参照ください.
「#4672. 知識共有サービス「Mond」で英語に関する素朴な疑問に回答しています」 ([2022-02-10-1]) で触れたように,ここ数日間「Mond」にて,いくつかの質問に回答しています.そのなかでもそこそこの反応を得た,標題の素朴な疑問への回答について,本ブログでも改めて紹介します.その質問と回答のHPはこちらになりますが,以下にも転載します.転載だけのブログ記事となっては芸がありませんので,本記事末尾には少々のコメントと関連リンクを付してあります.なお,私の他の質問への回答記事もご覧いただければと思います.
同じ発音なのにまったく意味の違う言葉が存在するのはなぜでしょうか?
橋(はし)と箸(はし)など,わりと日常的に使う言葉が全く同じ音で構成されていて,コミュニケーション上の無駄も多く発生しているはずなのに,言語が生まれてからこれまでの間に淘汰されずにいるのはなぜですか?
私の回答は,以下の通りです.
質問の「同音異義語」の出来方には,3つの可能性があると考えています.(1) 異なる2語だったものが発音上合一してしまった,(2) 1語だったものが意味上分化してしまった,(3) たまたま同じ発音の別の語ができてしまった.
私の専門は言葉を歴史的にみることですので,標題の質問を「同じ発音なのにまったく意味の違う言葉が存在するに至ったのにはどのような経緯があったのでしょうか?」とパラフレーズさせてもらいます.なぜ存在するかというよりも,なぜ存在するに至ってしまったのか,という風に考えるほうが,具体的な議論もしやすくなります.以下,日本語でも英語でも他の言語でも,まったく同じように考えることができます.
(1) 異なる2語だったものが発音上合一してしまった
どの言語でも,発音の変化というのは避けられませんし,実際,頻繁に生じています.もともと異なっていた2語が,発音変化の結果,合一してしまうということもよくあります.
火事(クワジ)と家事(カジ)は古い表記からわかるとおり,もともと異なる発音でしたが「クワ」→「カ」(合拗音の消失)という変化により,両語が同じ発音になってしまいました.英語の last (最後の)と last (継続する)も,千年ほど前には母音が異なっており,2つの別々の語だったのですが,歴史の過程で母音が合一してしまいました.
(2) 1語だったものが意味上分化してしまった
単語の意味の変化も,発音の変化と同じように頻繁に生じます.通常,古い意味と新しい意味は何らかの点で関係しているものなので,意味変化もそれと分かることが多いのですが,意味変化が連鎖的に繰り返されていくと,出発点と到着点の意味に関連性を見いだすのが難しくなります.
例えば,容器の「壺」と急所の「ツボ」は,語源を探れば同一語の派生義です.もともと「くぼみ」ほどを意味していたこの単語は,形状の類似から容器やお灸を据える体の部位の意味を発達させ,後者から「急所」の意味を派生させました.出発点と到着点の意味が離れすぎているので,現在では別々の語という感覚が一般的なのではないでしょうか(だからこそ表記も「壺」と「ツボ」と分けているわけです).英語の flower 「花」と flour 「小麦粉」も,もともとは同一語だったのですが,著しい意味変化の結果,関連づけが難しくなり,別々の語とみなされるようになりました.
(3) たまたま同じ発音の別の語ができてしまった
どの言語にも,使える音(音素)のリストがあり,さほど多数ではありません.また,その音素の組み合わせ方にも規則があるので,すべての単語に独自の異なる語形(発音)を与えることはできません.単語を多く作れば作るほど,既存の単語と同じ発音のものが出てきてしまうのです.橋(はし)と箸(はし)などがその典型例です.関連する例としては,すでに「牡丹」という単語があったところにポルトガル語から「ボタン」が入ってきてしまったというようなパターンもあります.
最後に,同音異義語はコミュニケーションにとって不利のはずなのに,これまでの間に淘汰されずにいるのはなぜかという質問に回答します.
1つは,区別化の試みはそこそこなされてきたということです.「壺」と「ツボ」の表記,flower と flour の綴字,橋と箸の(共通語における)アクセントの違いなどが,その試みの跡です.ただし,そのような試みがなされ,ある程度成功したとしても,別のところで上記 (1), (2), (3) の理由により,新たな同音異義語が次々と発生しているので,いつまでたっても全般的な淘汰には至らないということです.
もう1つは,もっと本質的な回答となりますが,実は同音異義語はコミュニケーションにとってさほど不利ではないということです.ほとんどの場合,文脈の支えがあるために,いずれの語・意味として用いられているかが自明だからです.例えば I'll give you a ring. が「指輪をあげるよ」なのか「電話するよ」なのかが曖昧なシチュエーションは,想像するほうが難しいですね.同音異義語は,思われているほどにはコミュニケーション上の問題とならないのです.
flower/flour については「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」をお聴きください.last についてはこちらの記事をどうぞ.
同音異義 (homonymy) は,まずもって語彙論の話題と思われるかもしれませんが,音韻論,形態論,統語論,正書法,意味論,語用論にも深く関わる話題です.つまり,言語のあらゆる側面に関わる懐の深いトピックなのです.
今回の質問は,歴史言語学の用語でいえば「同音異義衝突」 (homonymic_clash) の問題です.理論的にも様々に論じられてきましたし,本ブログでもしばしば論じてきました.homonymy に関する記事セットを用意しましたので,ぜひご一読ください.
株式会社ハウテレビジョンが運営している知識共有サービス「Mond」というサービスがあり,そちらに寄せられてくる匿名の質問について私が英語史研究者の立場から回答するということを,ここ数日始めています.有名な類似サービスとして「Yahoo!知恵袋」や「Quora」がありますが,Mond はよりアカデミックに特化しているということのようです.
そこへ言語に関する興味深い「素朴な疑問」も多く投稿されていることを確認し,本ブログや Voicy の「英語の語源が身につくラジオ」を通じて私が日頃目指しているものと同じ方向性をもつサービスだと理解しましたので,本質的な問い5件に回答してみました.回答順に並べると以下の通りです.
・ 「言語が文化を作るのでしょうか?それとも文化が言語を作るのでしょうか?」
・ 「ドイツ語やフランス語は「女性名詞」と「男性名詞」という分類がありますが,どのような理屈で性が決まっているのでしょうか?」
・ 「音韻論と音声学の違いがよく分からないのですが,具体例を用いて教えてください.」
・ 「アメリカ英語とイギリス英語,オーストラリア英語の関係は,日本で言う方言とは異なるものなのでしょうか?」
・ 「日本語ならSOV型,英語ならSVO型,アラビア語ならVSO型,など言語によって語順が異なりますが,これはどのような原因から生じる違いなのでしょうか?」
すでに本ブログで直接・間接に解説している話題も多いのですが,上記のように直球の疑問として問われると回答の仕方も異なってくるということで,いずれの回答も新たに書き下ろしています.hellog 記事へのリンクも張っていますので,そこから行き来していただければと思います.
いずれも私的な回答であり,他の専門家の方々の立場からは一般的な回答として受け入れられるものかどうかはまったく自信がありませんし,質問者が期待する回答になっているかも分かりません.それでも,この数日間だけでも,良質な「素朴な疑問」が寄せられてくる場だなという印象は受けています.
英語の名詞には,可算名詞 (countable noun) と不可算名詞 (uncountable noun) がある.前者は不定冠詞 a(n) が付いたり複数形の -(e)s が付くが,後者はそのようなものは付かない.可算名詞の典型は普通名詞の book や集合名詞の family であり,不可算名詞の典型は物質名詞の water や抽象名詞の love である.
上で「○○名詞」という名詞の種別が,すでに6つも現われた.これらの関係を整理するには,語彙意味論の観点から2つのパラメータを考慮するだけで足りる."bounded" と "internal structure" の2つである.
"bounded" とは「定まった形をもっている」ということである.例えば,a book は,1冊の本として定まった形をイメージすることができるから "bounded" である.しかし,複数形の books では,何冊あるのか,それぞれがどのような位置関係にあるのかなどの疑問が湧き,全体としての定まった形をイメージすることは難しいので "unbounded" である.water や love も,それだけでは定的なイメージを持ちにくいという点で,"unbounded" である.
一方,"internal structure" は,内部に構造があるかどうか,さらに小さい単位へ分割が可能かどうかというパラメータである.a book は1冊だからこれ以上分割できない.しかし books は構成員であるそれぞれの本に分割できる.おもしろいのは a family のような名詞で,通常血のつながった複数のメンバーからなる集団を意味するから,内部構造をもち,個々人へと分割できる.water や love は,一般的にはそれ自体の内部構造はないとみなされる(物理学や哲学のように,とことん突き詰めれば内部構造があると主張できるかもしれないが,ここではあくまで「一般的な見方によれば」である).
この2つのパラメータを掛け合わせると次のように整理できる.
[+internal structure] | [-internal structure] | |
[+bounded] | 集合名詞 family | 普通名詞(個体) book |
[-bounded] | 個体の複数 books 集合名詞の複数 families | 物質名詞 water 抽象名詞 love |
標題は,最近いただいた本質的な質問です.
ご質問は,言語学や言語哲学の分野の最大の問題の1つですね.「サピア=ウォーフの仮説」や「言語相対論」などと呼ばれ,長らく議論されてきたテーマですが,いまだに明確な答えは出ていません.
「強い」言語相対論は,言語が思考(さらには文化)を規定すると主張します.言語がアッパーハンドを握っているという考え方ですね.一方,「弱い」言語相対論は,言語は思考(さらには文化)を反映するにすぎないと主張します.文化がアッパーハンドを握っているという考え方です.両者はガチンコで対立しており,今のところ,個々人の捉え方次第であるというレベルの回答にとどまっているように思われます.
「言語が文化を作るのか,文化が言語を作るのか」というご質問の前提には,時間的・因果的に一方が先で,他方が後だという発想があるように思われます.しかし,実はここには時間的・因果的な順序というものはないのではないかと,私は考えています.
よく「言語は文化の一部である」と言われますね.まったくその通りだと思っています.数学でいえば「偶数は整数の一部である」というのと同じようなものではないでしょうか.「偶数が整数を作るのか,整数が偶数を作るのか」という問いは,何とも答えにくいものです.時間的・因果的に,順序としてはどちらが先で,どちらが後なのか,と問うても答えは出ないように思われます.偶数がなければ整数もあり得ないですし,逆に整数がなければ偶数もあり得ません.
言語と文化の関係も,これと同じように部分と全体の関係なのではないかと考えています.一方が先で,他方が後ととらえられればスッキリするのに,という気持ちは分かるのですが,どうやら言語と文化はそのような関係にはないのではないか.それが,目下の私の考えです.
煮え切らない回答ではありますが,こんなところでいかがでしょうか.
この問題についてより詳しくは,本ブログよりこちらの記事セットをご覧ください.
内輪の話しで恐縮ですが,慶應義塾大学文学部英米文学専攻の私の英語史ゼミを中心とするフォーラム khelf (= Keio History of the English Language Forum) では,オンライン授業期となったこの1年半ほど,チャットツールを用いて「ちぐはぐチャンネル」 (chiguhagu_channel) なる遊び(いえいえ,重要な学術的交流です)を実践しています.
メンバーの皆に「英語の素朴な疑問を教えてください」と投稿を呼びかけても,すでにネタが尽きており,なかなか新しいものが出てきません.しかし「日々の英語の学びなどで気づいた様々なチグハグ案件を教えてください」と呼びかけ方を変えると,少しは出てきます.日英語のチグハグでも,英語内部でのチグハグでもよいですし,何なら全然チグハグでなくても可,という自由な発言の機会です.
いろいろとおもしろいものが出てきているのですが,皆から寄せられた大事な「チグハグ案件」をここで直接公開するわけにもいきませんので,私自身がこの1ヶ月ほどで書きためてきたチグハグをいくつか披露したいと思います.たいしたものではありませんが,こんなノリでネタが少しずつ集まってきているということです.
このような素朴な疑問の蓄積が,しばしば本ブログや Voicy の「英語の語源が身につくラジオ」で取り上げる話題のソースとなっています.
child は2重母音なのに,children は短母音.同じく,wild は2重母音なのに,wilderness は短母音.ちぐはぐチャンネル!
規範文法では,2重比較級の worser はダメ.しかし同じく2重比較級の lesser は OK.ちぐはぐチャンネル.
sometimes の -s は属格(所有格)語尾に由来する.some times の -s は複数語尾に由来する.ちぐはぐチャンネル!
・ well written: (本が)うまく書かれている
・ well read: (人が)本をよく読んでいて博学である
同じ過去分詞形容詞なのに.ちぐはぐチャンネル!
・ 普通の英語の先生:英語では r と l は明確に区別されますので気をつけましょうね.rice/lice, right/light など間違えたら大変ですよ.
・ 英語史を知っている英語の先生:ネイティヴだって混乱していたようですよ.coriander は古くは coliandre だったし,marble も同じように marbre だったので.
ちぐはぐチャンネル!
調子に乗ってもう1つ.
・ 普通の英語の先生:英語では v と b は明確に区別されますので気をつけましょうね.very/berry, vest/best など間違えたら大変ですよ.
・ 英語史を知っている英語の先生:ネイティヴだって混乱していたようですよ.have, live の古英語の原形は habban, libban だったので.
ちぐはぐチャンネル!
目下,話題のにっくき「オミクロン」.ご存じの通り,ギリシア・アルファベットの第15文字 ο は "o-miron" (オ・ミクロン)と呼ばれ「小さい o」(=短母音の o)の意.一方,最後の第24文字 ω は "o-mega" (オ・メガ)は「大きい o」(=長母音の o)の意.
では,これを前提に英語の話しに移ります.英語では長母音の「オー」は,歴史的に <oo> で綴られ [o:] と発音されてきました.大母音推移により [o:] > [u:] となったために food, moon, pool では [u:] と発音されます.英語版の「オメガ発音」と呼んでおきましょう.
ところが,中には [o:] > [u:] となった後に,発音が短母音化,いわば「ミクロ化」して [ʊ] となったものがあります.それが,good, look, took のタイプです.英語版の「オミクロン発音」と呼んでおきましょうか.
ということで,まとめると.
・ オメガ発音: food, moon, pool, etc.
・ オミクロン発音: good, look, took, etc.
新型コロナウィルスが「オメガ」まで行かないことを願って,ちぐはぐチャンネル!
16--17世紀の英語:
・ 発音は大母音推移 (Great Vowel Shift) により大変化を遂げようとしていた
・ 綴字は標準化の機運に乗り,古い発音に忠実なままに固定化しようとしていた
これが現代の spelling-pronunciation gap の不幸な起源.発音と綴字がたどったチグハグな運命.
皆さん both と either は反意語だと思いますか? 確かに both A and B は「AとBと両方」で,either A or B は「AかBかどちらか」と学んだはずです.いかにも反意ですよね.しかし,
・ Unfortunately I was sitting at the table with smokers on both sides of me.
・ Unfortunately I was sitting at the table with smokers on either side of me.
という2つの文は同義なのです.ちぐはぐチャンネル!
形容詞 free に対応する副詞としては単純副詞の free と,-ly 副詞の freely がありますね.
・ to travel free: 無料の旅行,ただ乗り
・ to travel freely: 時間も場所も自由で,制限なしの旅行
どちらも好きですけどね.チグハグ!
こういうの困りますねぇ.
・ conceive - conceit - concept - conception
・ deceive - deceit -decept- deception
・ receive -receit- receipt - reception
・ perceive -perceit- percept - perception
異なる時代にラテン語から借りたり,フランス語から借りたり,個々別々の動きをしてきたから,後から整理してみると,こんな風になっちゃうわけです.
ある言語が他言語(文化)と接触し大きな刺激を受けたときに,大規模な語彙拡充が起こることがあります.その際に,そのまま他言語から語を借用する「オープン借用」と,翻訳して取り込む「むっつり借用」という2つの方法があり得ます.言語や時代によって,この方針がおよそきれいに分かれます.
・ 「オープン借用」の方針:フランス語より影響を受けた中英語,ラテン語より影響を受けた初期近代英語,漢語より影響を受けた上代以降の日本語
・ 「むっつり借用」の方針:ラテン語より影響を受けた古英語,ラテン語の影響を受けた近代期のドイツ語,西洋語より影響を受けた明治期の日本語
2つの方針を巡って,各々の言語・時代で何がどう異なっていたのか? ちぐはぐチャンネル.
以上12件につき,お粗末様でした.
多くの言語には,時間 (time) に関連する概念を標示する機能があります.まず,日本語にも英語にもあって分かりやすいのは時制 (tense) という範疇 (category) ですね.過去,現在,未来という時間軸上のポイントを示すアレです.
もう1つ,よく聞くのが相 (aspect) です.aspect という英単語は「局面,側面,様態,視座,相」ほどを意味し,いずれで訳してもよさそうですが,最も分かりにくい「相」が定訳となっているので困ります.難しそうなほうが学術用語としてありがたがられるという目論見だったのでしょうかね.あまり感心できませんが,定着してしまったものを無視するわけにもいきませんので,今回は「相」で通します.
さて,aspect や「相」について参考書を調べてみると,様々な定義や解説が挙げられていますが,互いに主旨は大きく異なりません.
動詞に関する文法範疇の一つで,動詞の表わす動作・状態の様相のとらえ方およびそれを示す文法形式をいう.(『新英語学辞典』, p. 96)
The grammatical category (expressed in verb forms) that refers to a way of looking at the time of a situation: for example, its duration, repetition, completion. Aspect contrasts with tense, the category that refers to the time of the situation with respect to some other time: for example, the moment of speaking or writing. There are two aspects in English: the progressive aspect ('We are eating lunch') and the perfect aspect ('We have eaten lunch'). (McArthur 86)
A grammatical category concerned with the relationship between the action, state or process denoted by a verb, and various temporal meanings, such as duration and level of completion. There are two aspects in English: the progressive and the perfect. (Pearce 18)
半年ほど前のことですが,オンライン授業の最中に,学生よりズバリ「相」って何ですかという質問がチャットで寄せられました.そのときに次の即席の回答をしたことを思い出しましたので,こちらに再現します.授業中ということもあり,その場での分かりやすさを重視し,カジュアルで私的な解説にはなっていますが,かえって分かりやすいかもしれません.
相が時制とどう違うか,という内容の問題でしょうかね? そうするとけっこう難しいのですが,よく言われるのは「相」は動詞の表わす動作の内部時間の問題,「時制」は動詞の表わす動作の外部時間の問題とか言われます.
例えば jump 「跳ぶ」の外部時間は分かりやすくて「跳んだ」「跳ぶ」「跳ぶだろう」ですね.内部時間というのは,「跳ぶ」と一言でいっても,脚の筋肉を緊張させて跳び始めようかなという段階(=相)もあれば,実際跳び始めてるよという段階(=相)もあるし,跳んでいて空中にいる最中の段階(=相)もあれば,跳び終わって着時寸前の段階(=相)もあれば,跳び終わっちゃった段階(=相)もあるというように,今の例では少なくとも5段階くらいあるわけです.スローモーションの画像のどこで止めようかという話しです.この細かい段階を表わすのが「相」です.時間が関わってくる点では共通していますが,「時制」とは別次元の時間の捉え方ですよね.
言語における「相」の概念の一部のみをつかんだ取り急ぎの解説にすぎませんが,参考になれば.
もう少し本格的には「#2747. Reichenbach の時制・相の理論」 ([2016-11-03-1]) も参照.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.
一昨日の記事「#4652. any が「どんな?でも」を表わせるように either は「いずれの?でも」を表わせる」 ([2022-01-21-1]) でもすでに取り上げましたが,標記は目下私のゼミを中心とする khelf (= Keio History of the English Language Forum) メンバーの間で熱い議論の対象となっている問題です.
either は,2者のうちのいずれかを選ぶ「片方」の意味を表わすというイメージが強いと思いますが,実は「両方」の意味を表わすケースもあるという問題です.一種の contronym の例といえます.
『コンパスローズ英和辞典』の either より,それぞれに対応する語義1と語義2を引用しましょう.
--- (形)[単数形の名詞につけて]
(1) (2つ[2人]のうち)どちらか(一方)の;どちらの…でも,どちらでも任意の
Take either apple.|どちらかのりんごを取りなさい
You may invite either boy.|どちらの少年を招待しても結構です.
. . . .
(3) どちらの…も,両方の
There was a chair at either end of the long table.|長いテーブルの両端にそれぞれいすが置かれていた.
(語法)3の意味では特に side, end, hand など対を表わす名詞と用いるが, 次の例のように both(+複数名詞)や each(+単数名詞)を用いることも多い.both は「両方」を同時にまとめて,either, each は「片方」 ずつそれぞれを個別に捉える感じとなる
There were chairs at both ends of the long table.
There was a chair at each end of the long table.
either A or B という高頻度の相関表現がありますし,一般には (1) こそが either の原義だと捉えられていると思いますが,歴史的にみれば驚くことに (3) のほうが古いのです.OED によれば,(3) は古英語から普通に見られる語義ですが,(1) は中英語後期になってようやく現われる新参語義です.
どうしてこんなことになってしまったのでしょうか.よく似た形態の outher という語とややこしい関係に陥ってしまったという事情があるようです.関連して「#945. either の2つの発音」 ([2011-11-28-1]) もご参照ください.
先日「#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか?」 ([2022-01-18-1]) の記事を投稿したところ,読者の方より関連する論文がある,ということで教えていただきました.私の寡聞にして存じあげなかった Toyota 論文です.たいへんありがたいことです.早速読んでみました.
論文の主旨は非常に明快です.Toyota (118) の冒頭より,論文を要約している文章を引用します.
Our main question is about how the distinction between mass and count nouns evolved. Earlier English surprisingly has a relatively poor counting system, the distinction between count and mass nouns not being clear. This poor distinction in earlier English has developed into a new systems of considering certain referents as mass nouns, and these referents came to be counted differently from those considered as count nouns. There are various changes involved in this development, and it is possible that factors like language contact caused the change. This view is challenged, asking whether other possibilities, such as a change in human cognition and the world-view of speakers, also affected this development.
同論文によれば,古英語から初期中英語までは,可算性 (countability) に関する区別は明確にはなかったということです(その種のようなものはあったのですが).これは,可算性の区別をつけていなかったと考えられる印欧祖語の特徴の継承・残存と考えてよさそうです.
ところが,後期中英語から,とりわけ初期近代英語期にかけて,突如として現代に通じる可算性の区別がつけられるようになってきました.背景には,すでに可算性の区別を獲得していたラテン語やフランス語からの影響が考えられますが,それだけでは比較的短い期間内に明確な区別が生じた事実を十分には説明できません.そこで,言語接触により触発された可能性は認めつつも,内発的に英語における「世界観」(弱めにいえば「名詞の分節基準」ほどでしょうか)が変化したのではないか,と Toyota は提言しています.
Helsinki Corpus による経験的な調査として注目に値します.仮説として立てられた「世界観」の変化を実証するにはクリアしなければならない問題がまだ多くあるように思いましたが,それでも,たいへん理解しやすい野心的な試みとして読むことができました.私も,俄然この問題に関心が湧いてきました.
・ Toyota, Junichi. "When the Mass Was Counted: English as Classifier and Non-Classifier Language." SKASE Journal of Theoretical Linguistics 6.1 (2009): 118--30. Available online at http://www.skase.sk/Volumes/JTL13/pdf_doc/07.pdf .
この素朴な疑問は私も長らくナゾだったのですが,最近ゼミの学生に指摘してもらう機会があり,改めて考え出した次第です.fire に派生接尾辞 -y を付すのであれば,そのまま *firy でよさそうなものですが,なぜ fiery となるのでしょうか.expire → expiry, mire → miry, spire → spiry, wire → wiry などの例はあるのですが,fire → fiery のタイプは他に例がないようなので,ますます不思議です.
暫定的な答え,あるいはヒントとしては,近代英語期に fire が1音節ではなく2音節で,fiery が2音節ではなく3音節で発音されたことが関係するのではないかと睨んでいます.
教科書的にいえば,中英語の [fiːr], [ˈfiː ri] は大母音推移 (gvs) を経て各々 [fəɪr], [ˈfəɪ ri] へ変化しました.長母音が2重母音に変化しただけで,音変化の前後でそれぞれ音節数に変化はありませんでした.
しかし,語幹末の r の影響で,その直前に渡り音として曖昧母音 [ə] が挿入され,それが独立した音節の核となるような発音が,初期近代英語期には変異形として存在したようなのです.要するに fi-er, fi-e-ry のようなプラス1音節の異形態があったということです.似たような音構成をもつ語について,その旨の報告が同時代からあります.Jespersen (§11.11)の記述を見てみましょう.
The glide before /r/ was even before that time [= 1588 or †1639] felt as a distinct vowel-sound [ə], especially after the new diphthongs that took the place of /iˑ, uˑ/. This is shown by the spelling in some cases after ow: shower < OE scūr bower < OE būr . cower < Scn kūra . lower by the side of lour < Scn lūra 'look gloomy'. tower < F tour; cf. on flower and flour 3.49. Thus also after i in brier, briar, frier, friar, ME brere, frere; fiery, fierie, fyeri (from the 16th c.) for earlier fyry, firy. The glide-vowel [ə] is also indicated by Hart's phonetic spellings 1569: [feiër/ fire (as /heiër/) higher) . /meier/ mire /oˑer/ oar . [piuër] pure . /diër/ dear . [hier/ here (hie r, which also occurs, many be a misprint).
要するに,fire の形容詞形に関する限り,もともとは発音上2音節であり,綴字上も2音節にみえる由緒正しい firy もあったけれども,初期近代英語期辺りには発音上渡り音が挿入されて3音節となり,綴字上もその3音節発音を反映した fiery が併用されたということのようです.そして,もとの名詞でも同じことが起こっていたと.
ところが,現代英語の観点から振り返ってみると,名詞では渡り音を反映していないかのような fire の綴字が標準として採用され,形容詞では渡り音を反映したかのような fiery の綴字が標準として採用されてしまったように見えます.どうやら,英語史では典型的な(というよりも,お得意の)「ちぐはぐ」が,ここでも起こってしまったということではないでしょうか.
あるいは,意味上の「激しさ」つながりで連想される形容詞 fierce との綴字上の類推 (analogy) もあったかもしれないと疑っています.いかがでしょうか.
上の引用でも触れられていますが,flower と flour が,同語源かつ同じ発音でありながらも,異なる綴字に分化した事情と,今回の話題は近いように思われます.「#183. flower と flour」 ([2009-10-27-1]),「#2440. flower と flour (2)」 ([2016-01-01-1]),および 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」 (heldio) も参照ください.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. London: Allen and Unwin, 1909.
昨日の記事「#4649. 可算名詞と不可算名詞の区別はいつ生まれたのか?」 ([2022-01-18-1]) と関連して,ゼミ大学院生が興味深い疑問を振ってくれたので,ここで考えてみたい.
通常,抽象名詞は不可算名詞として不定冠詞 a(n) を取らないが,形容詞で修飾される場合には具体性を帯び,不定冠詞を伴うことがあるといわれる.例を挙げれば,"Ours was a very happy marriage." "The book was a great success." のようなケースである.
一方,形容詞を伴っても原則として不定冠詞を取らない「頑固な抽象名詞」もある.院生が言及してくれた『ロイヤル英文法』 (93) を参照していみると,次の語が列挙されていた.確かに good advice, remarkable progress, bitter weather などと不定冠詞は取らない.
advice, applause, behavior, conduct, damage, fun, harm, homework, information, luck, music, news, nonsense, progress, weather, wisdom, work
この辺りの問題には合理的な説明を施すことは難しいようだ.Quirk et al. (§5.59)によると,不定冠詞が付き得る例文が3つ挙げられている.
Mavis had a good education.
My son suffers from a strange dislike of mathematics. <ironic>
She played the oboe with (a) remarkable sensitivity.
このようなケースで不定冠詞が付き得る条件ははっきりしておらず,あくまで次のような場合には付きやすいという緩い傾向が指摘できるにとどまる.
(i) the noun refers to a quality or other abstraction which is attributed to a person;
(ii) the noun is premodified and/or postmodified; and, generally speaking, the greater the amount of modification, the greater the acceptability of a/an.
標題が相当に難しそうな問題であることが分かってきた.
・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
名詞の可算性 (countability) は現代英語における重要な問題だが,本ブログでまともに扱ったことがなかったことに気づいた.「#4335. 名詞の下位分類」 ([2021-03-10-1]),「#4214. 強意複数 (1)」 ([2020-11-09-1]),「#4215. 強意複数 (2)」 ([2020-11-10-1]),「#2808. Jackendoff の概念意味論」 ([2017-01-03-1]) 辺りで間接的に触れてきた程度である.私自身,この問題について歴史的に向き合ったことがなかったということもある.
日本語母語話者として英語を学んできて,なぜこの単語は不可算名詞なのか,と疑問を抱いたことは一度や二度ではない.次に挙げる単語は,そのまま数えられそうでいて英語では数えられということになっており,強引に数えたい場合にはいちいち単位を表わす可算名詞を用いた表現にパラフレーズしなければならない.例えば Quirk et al. (§5.9)によると次の通り.
NONCOUNT NOUN | COUNT EQUIVALENT |
This is important information | a piece/bit/word of information |
Have you any news? | a piece/a bit/an item of good news |
a lot of abuse | a term/word of abuse |
some good advice | a piece/word of good advice |
warm applause | a round of applause |
How's business? | a piece/bit of business |
There is evidence that . . . | a piece of evidence |
expensive furniture | a piece/an article/a suite of furniture |
The interest is only 5 percent. | a (low) rate of interest |
What (bad/good) luck! | a piece of (bad/good) luck |
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の2月号のテキストが発売されました.本年度連載中の「英語のソボクな疑問」の第11回の話題は「なぜ eleven, twelve というの?」です.13から19までは X-teen という語形成で「X + 10」という構成原理がわかりやすいのですが,11と12については期待される *oneteen, *twoteen とはなりません.これはなぜなのでしょうか.
本ブログでは「#3279. 年度初めの「素朴な疑問」を3点」 ([2018-04-19-1]) にて,この問題に簡単に触れました.わからないことも多々あるのですが,そこでの説明を膨らませたのが今回の連載記事です.記事では,その他 thirteen と fifteen についての謎にも迫っています.なぜ素直に *threeteen や *fiveteen とならないのか,という素朴な疑問です.ぜひテキストを手に取っていただければと思います.
数詞というのは非常に身近な語彙ですが,eleven, twelve の問題に関わらず謎が多い語群でもあります.むしろ日常的で頻度が高すぎるからこそ,イレギュラーなことが多いのだろうと思われます.数詞の不思議については,本ブログでも numeral の各記事で取り上げてきましたので,そちらもご覧ください.
昨年6月2日に音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしました.以後,毎日更新しています(cf. 「#4421. 「英語の語源が身につくラジオ」をオープンしました」 ([2021-06-04-1])).前身の「hellog ラジオ版」も合わせてどうぞ.
謹賀新年.今年も英語史に関する話題を広く長く提供し続ける「hellog?英語史ブログ」を続けていきます.引き続きよろしくお願いいたします.
2021年に本ブログのどの記事が最もよく読まれたか,調べてみました.12月30日付のアクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事をご覧ください(昨年版と一昨年版については,それぞれ「#4267. 2020年によく読まれた記事」 ([2021-01-01-1]) と「#3901. 2019年によく読まれた記事」 ([2020-01-01-1]) をどうぞ).
「素朴な疑問」系の記事 (sobokunagimon) がよく読まれているようなので,その系列で上位に入っている50件ほどを以下に挙げておきます(各行末の数字は年間アクセス数).お正月の読み物(ラジオの場合は聴き物)としてどうぞ.
・ 「#4188. なぜ sheep の複数形は sheep なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-14-1]) (8159)
・ 「#4044. なぜ活字体とブロック体の小文字 <a> の字形は違うのですか?」 ([2020-05-23-1]) (7541)
・ 「#3717. 音声学と音韻論はどう違うのですか?」 ([2019-07-01-1]) (5679)
・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1]) (5164)
・ 「#1299. 英語で「みかん」のことを satsuma というのはなぜか?」 ([2012-11-16-1]) (4807)
・ 「#4017. なぜ前置詞の後では人称代名詞は目的格を取るのですか?」 ([2020-04-26-1]) (3126)
・ 「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1]) (2937)
・ 「#3611. なぜ He is to blame. は He is to be blamed. とならないのか?」 ([2019-03-17-1]) (2756)
・ 「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) (2696)
・ 「#2784. なぜアメリカでは英語が唯一の主たる言語となったのか?」 ([2016-12-10-1]) (2511)
・ 「#3747. ケルト人とは何者か」 ([2019-07-31-1) (2304)
・ 「#3677. 英語に関する「素朴な疑問」を集めてみました」 ([2019-05-22-1]) (2226)
・ 「#4272. 世界に言語はいくつあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-01-06-1]) (2120)
・ 「#2924. 「カステラ」の語源」 ([2017-04-29-1]) (1882)
・ 「#4069. なぜ live の発音は動詞では「リヴ」,形容詞だと「ライヴ」なのですか?」 ([2020-06-17-1]) (1845)
・ 「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) (1801)
・ 「#4060. なぜ「精神」を意味する spirit が「蒸留酒」をも意味するのか?」 ([2020-06-08-1]) (1695)
・ 「#4196. なぜ英語でいびきは zzz なのですか?」 ([2020-10-22-1]) (1598)
・ 「#2618. 文字をもたない言語の数は? (2)」 ([2016-06-27-1]) (1591)
・ 「#2885. なぜ「前置詞+関係代名詞 that」がダメなのか (1)」 ([2017-03-21-1]) (1563)
・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1]) (1539)
・ 「#4233. なぜ quite a few が「かなりの,相当数の」の意味になるのか?」 ([2020-11-28-1]) (1529)
・ 「#4199. なぜ last には「最後の」と「継続する」の意味があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-25-1]) (1526)
・ 「#3648. なんで *He cans swim. のように助動詞には3単現の -s がつかないのですか?」 ([2019-04-23-1]) (1475)
・ 「#3017. industry の2つの語義,「産業」と「勤勉」 (1)」 ([2017-07-31-1]) (1447)
・ 「#3298. なぜ wolf の複数形が wolves なのか? (1)」 ([2018-05-08-1]) (1446)
・ 「#4304. なぜ foot の複数形は feet なのですか?」 ([2021-02-07-1]) (1404)
・ 「#11. 「虹」の比較語源学」 ([2009-05-10-1]) (1398)
・ 「#3941. なぜ hour, honour, honest, heir では h が発音されないのですか?」 ([2020-02-10-1]) (1395)
・ 「#2601. なぜ If I WERE a bird なのか?」 ([2016-06-10-1]) (1360)
・ 「#2105. 英語アルファベットの配列」 ([2015-01-31-1]) (1358)
・ 「#3852. なぜ「新橋」(しんばし)のローマ字表記 Shimbashi には n ではなく m が用いられるのですか? (1)」 ([2019-11-13-1]) (1350)
・ 「#3831. なぜ英語には冠詞があるのですか?」 ([2019-10-23-1]) (1337)
・ 「#103. グリムの法則とは何か」 ([2009-08-08-1]) (1280)
・ 「#3588. -o で終わる名詞の複数形語尾 --- pianos か potatoes か?」 ([2019-02-22-1]) (1270)
・ 「#4195. なぜ船や国名は女性代名詞 she で受けられることがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-21-1]) (1262)
・ 「#417. 文法化とは?」 ([2010-06-18-1]) (1249)
・ 「#4389. 英語に関する素朴な疑問を2685件集めました」 ([2021-05-03-1]) (1224)
・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1]) (1211)
・ 「#4186. なぜ Are you a student? に対して *Yes, I'm. ではダメなのですか?」 ([2020-10-12-1]) (1156)
・ 「#4026. なぜ Japanese や Chinese などは単複同形なのですか? (3)」 ([2020-05-05-1]) (1122)
・ 「#3113. アングロサクソン人は本当にイングランドを素早く征服したのか?」 ([2017-11-04-1]) (1062)
・ 「#2891. フランス語 bleu に対して英語 blue なのはなぜか」 ([2017-03-27-1]) (1053)
・ 「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1]) (1012)
・ 「#47. 所有格か目的格か:myself と himself」 ([2009-06-14-1]) (962)
・ 「#4219. なぜ DX が digital transformation の略記となるのか?」 ([2020-11-14-1]) (938)
・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1]) (936)
・ 「#580. island --- なぜこの綴字と発音か」 ([2010-11-28-1]) (925)
・ 「#2189. 時・条件の副詞節における will の不使用」 ([2015-04-25-1]) (920)
・ 「#146. child の複数形が children なわけ」 ([2009-09-20-1]) (890)
新年は学び始めにふさわしい時期でもあります.英語史に関心をもった方,さらに関心をもちたい方は,「#4359. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!(2021年度版)」 ([2021-04-03-1]) および「なぜ英語史を学ぶか」の記事セットをご覧ください.
また,本ブログとは別に,昨年の6月2日に音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしました.耳で学ぶ英語史として毎日配信していますので,こちらも是非お聴きください(cf. 「#4421. 「英語の語源が身につくラジオ」をオープンしました」 ([2021-06-04-1])).
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の1月号のテキストが発売となりました.連載中の「英語のソボクな疑問」の第10回は「なぜ英語には省略語が多いの?」です.piano, bus, cute, sport, Paralympics, AI, CEO, GDP, EU, USA などの英単語は,ほぼそのまま日本語にも入ってきている日常語といってよいですが,なんといずれも何らかの点で省略されている語なのです.それぞれオリジナルの長い形を復元できるでしょうか.かなり難しいのではないでしょうか.
英語にも日本語にもその他の言語にも省略語は存在します.すべてを口にするには長ったらしいけれども情報量が詰まっていて有用な表現というものは,たくさんあるものですね.そのような表現をぐっと約めて簡潔な1単語に省略できれば,便利に違いありません.言語には省略語が付きものです.
省略の方法についていえば種類は限られています.連載記事で詳しく述べていますが,基本となるのは「切り落とし」「切り貼り」「イニシャル取り」の3種です.それぞれの例をたくさん挙げていますので,どうぞご覧ください.
言語には省略語が付きものとは述べましたが,英語に関する限り,とりわけ20世紀以降におびただしい省略語が生み出されてきたという事情があります.過去にもまして現代は省略語の時代といってもよいほどです.なぜなのでしょうか.連載記事では,この謎解きも披露しています.
先日の講演「世界の "English" から "Englishes" の世界へ」でお世話になった立命館大学の岡本広毅先生より,たいへんおもしろい話題を提供してもらいました.William Caxton (1422?--91) の egges/eyren の逸話において,なぜ南部の農夫の奥さんは北部訛りを理解できないだけでなく,それを「フランス語」と勘違いしたのか,という疑問です.
簡単に背景を解説しておきますと,史上初の英語の印刷家である Caxton が,1490年に出版した Eneydos の序文のなかで,英語方言に関する逸話が紹介されています.イングランド北部出身とおぼしき商人が,イングランド南部のテムズ川で船を停留させ,陸に上がって,ある農夫の奥さんに食事を求めたときの話しです.商人は egges (卵)を所望したのですが,奥さんはこの単語を理解せず,フランス語は分からないと答えました.商人は商人でフランス語など話していない,なぜ egges を理解できないのかと怒ったところ,別の者が割って入り,商人が言っている(北部方言の) egges とは(奥さんの理解する南部方言でいうところの) eyren のことだと解説してあげて一件落着といった小話しです.
当時の英語の方言差を指摘しているメタコメントとして,英語史ではよく知られている逸話です.本ブログでも「#337. egges or eyren」 ([2010-03-30-1]) でそのくだりを中英語の原文で引用しました.改めて,以下に引用しておきます.
And one of theym named Sheffelde, a mercer, cam in-to an hows and axed for mete; and specyally axed after eggys. And the goode wyf answerde, that she coude speke no frenshe. And the marchaunt was angry, for he also coude speke no frensche, but wolde have hadde egges, and she understode hym not. And thenne at laste a nother sayd that he wolde have eyren. Then the gode wyf sayd that she understode hym wel. Loo, what sholde a man in thyse dayes wryte, egges or eyren?
岡本先生の疑問は,なぜ南部の農夫の奥さんは北部訛りを理解できないだけでなく,それを「フランス語」と勘違いしたか,というものです.とてもおもしろい質問だと思い,私なりに考えてみました.
まず根本的な点ですが,この逸話は事実に基づく話しというよりは,Caxton による創作ではないかという疑念があります.egges (北部方言)と eyren (南部方言)の方言分布は事実ですので,根も葉もない言説ではないとはいえ,小話しとしてうまくできすぎている感があり,多かれ少なかれ Caxton が「盛った」ネタである可能性が高いと考えています(語幹と複数形語尾の両形態素が方言間で相当異なるこの単語を意図的に選んだのではないか,という疑惑).ただ,もし創作だとしても,同時代の読者の間に当時の言語・方言事情の知識が共有されていることが前提となっているはずなので,「フランス語」を引き合いにして逸話におかしみを加えようとした狙いそのものは,読み解く価値がありそうです.
では,なぜ奥さんは egges をフランス語と勘違いしたのでしょうか.おそらく商人は北部訛りで "Can I ask for eggs?" に相当する発言をしたのではないかと想像されます.奥さんは,肝心の eggs の部分は理解できずとも,その他の部分は訛っているけれども英語は英語だと認識できたはずなので,なぜこの人は肝心の部分だけ理解不能の単語で表現するのだろうといぶかしく思ったに違いありません.そこで,奥さんは,この理解不能の単語は当時のイングランドにおける筆頭外国語であるフランス語の単語に違いないと疑ってみたのではないでしょうか.
奥さんが egges と聞いて,最初に英語の北部方言の単語ではなく,フランス語の単語と勘ぐった辺りが,話しとしてはおもしろいところです.南部方言話者の奥さんにとって,外国語であるフランス語よりも英語の北部方言のほうが理解不能だったということになるからです.それほどまでに英語の南部方言と北部方言は異なるのだということを,Caxton は示したかったのではないでしょうか.誇張といえば誇張のようにも感じられます.
また,この逸話は,後期中英語期のイングランドにおける筆頭外国語がフランス語だったという前提をも示唆しているように思われます.ノルマン征服から3世紀以上経っており,もはやイングランドにおいてフランス語は公私の場ともに実用言語の地位をほぼ完全に失い,英語が完全復活を遂げていた時代ではありますが,フランス語はいまだ文化語としての威信は保っていました.ちょうど現代日本において英語が国際語として威信を保っているのと似たような状況です.現代日本で英語が筆頭外国語として位置づけられているのと同様に,後期中英語期のイングランドではフランス語が筆頭外国語として位置づけられていたわけです(cf. 「#2622. 15世紀にイングランド人がフランス語を学んだ理由」 ([2016-07-01-1])).奥さんも商人もフランス語はできなかったようですが,フランス語がイングランドの第1外国語であるという認識は共有しており,だからこそフランス語が引き合いに出されたということではないでしょうか.
以上,私の解釈です.岡本先生,みなさん,いかがでしょうか.
ちなみに,今回の話題と連動して,本日の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,上記の逸話を中英語の原文で読み上げてみました.ぜひお聴きください.
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の12月号のテキストが発売となりました.連載中の「英語のソボクな疑問」の第9回は「なぜ英語の語順は SVO なの?」について取り上げました.
6節からなる今回の連載記事の小見出しはそれぞれ以下の通りです.
1. 「私」「話します」「英語」
2. 世界の言語の語順
3. 基本語順とは?
4. 昔の英語は SVO ばかりではなかった!
5. 「助詞」に相当するものが消えてしまって
6. 語順というのは,割とテキトー!?
英語は語順の言語ですね.日本語についての文法用語は多く知らずとも,英語について「5文型」や「SVO」などの用語を聞いたことのない人はいないのではないでしょうか.英文法といえば語順の文法のことだといって大きな間違いはありません.語の並べ方がしっかり決まっているのが英語という言語の著しい特徴です.
しかし,です.確かに現代の英語は語順の言語といってよいのですが,歴史を遡って古い英語を覗いてみると,実は語順は比較的自由だったのです.英語のおよそ千年前の姿である古英語 (Old English) でも SVO 語順は確かに優勢ではあったものの,SOV も普通にみられましたし VSO などもありました.現代ほどガチガチに語順が決まっている言語ではなかったのです.
私も初めてこの事実を知ったときには腰を抜かしそうになりましたね.英語は最初から語順の言語だったわけではなく,歴史を通じて語順の言語へ変化してきたということなのです.
では,いつ,どのようにして,なぜ語順の言語となったのか.これは英語史における最も重要な問題の1つであり,その周辺の問題と合わせて今なお議論が続いています.
今回の連載記事では,英語史におけるこの魅力的な問題をなるべく易しく紹介しました.どれくらい成功しているかは分かりませんが,少なくとも p. 132 の古英語の叙事詩『ベーオウルフ』にちなんだ主人公ベーオウルフと怪物グレンデルのイラストは必見!?(←イラストレーターのコバタさん,いつもありがとうございます)
学期の始めなので,標題のような「英語史の学びのエンカレッジ系」の記事が多くなります.最近では「#4546. 新学期の始まりに,英語史の学び方」 ([2021-10-07-1]) も書いており,本ブログの記事などに関連するリンクを多々張っていますので,詳しくは是非そちらもご覧ください.今回は先の記事から重要な6点のみピックアップし,改めて英語史への入り口を案内します.
(1) 私(堀田隆一)の考える「英語史の魅力」はズバリこれ.
1. 英語の見方が180度変わる!
2. 英語と歴史(社会科)がミックスした不思議な感覚の科目!
3. 素朴な疑問こそがおもしろい!
4. 英語が本当によく分かるようになる!
(2) 上記の「素朴な疑問こそがおもしろい!」は本当です.「#1093. 英語に関する素朴な疑問を募集」 ([2012-04-24-1]) に挙げたような疑問が,英語史によりスルスルと解けていきます.それでも足りない方は「#4389. 英語に関する素朴な疑問を2685件集めました」 ([2021-05-03-1]) でどうでしょう!
(3) 本ブログ「hellog?英語史ブログ」は「英語史に関する話題を広く長く提供し続けるブログ」として2009年5月1日に立ち上げたものです.大学の英語史概説の講義に対する補助的な読み物を提供する趣旨で始めました.日々の記事の種類は多岐にわたり,英語を学び始めたばかりの中学生などを読者と想定した話題もあれば,大学院博士課程の学生を念頭においた学術的な話題もあります.書き手以外何を言っているか分からないという話題も少なくないと思います,失礼! それでも,ぜひ毎日タイトルだけでも目を通していれば,英語史のカバーする範囲の広さが分かってくると思います.毎日タイトルをお届けするツイッターアカウントもあります.
(4) 本ブログの姉妹版・音声版として「hellog ラジオ版 (hellog-radio)」(2020年6月23日?2021年2月7日に不定期で),および続編である「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」(2021年6月2日より現在まで毎日定期的に)を配信しています.hellog に比べ,話題は「英語に関する素朴な疑問」におよそ特化しています.各放送は10分以内の短い英語史ネタです.ぜひこれを聞くことを日課にどうぞ! ちなみに本日の放送では,上記 (1) を熱く語っています.
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の11月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」は第8回となっています.今回は英語の母音字の読みに関する,きわめて素朴な疑問「なぜ A の読みは「アー」ではなく「エイ」なの?」を取り上げています.
本ブログの読者の多くの方々は,この疑問が英語史でいうところの「大母音推移」 (gvs) に関わるものであることがお分かりかと思います.しかし,連載は中高生を対象読者とするものですので,この用語を持ち出すことは控えたいと考えました.そして,もちろん音声学の用語や概念なども前提とすることはできません.ということで,真正面から大母音推移の伝統的な説明を施すことはせず,なるべく易しく噛み砕いて伝えようと努めました.結果として,前舌母音のみの説明にとどめて後舌母音については触れないでおくなど,理解しにくくなりそうな部分を思い切って割愛しました.このような次第で,今回は私にとって1つの挑戦となりました(どのくらい成功しているかは分かりませんねえ).
大母音推移の教科書的な説明としては本ブログの「#205. 大母音推移」 ([2009-11-18-1]) をどうぞ.もう少し詳しくは,拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』の1.3節と2.5節をご参照ください.専門的には gvs の各記事で扱っています.
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
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