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proverb - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-10-21 08:10

2011-12-01 Thu

#948. Be it never so humble, there's no place like home. (1) [proverb][negative][syntax][subjunctive][pchron]

 標記の文のような,譲歩を表わす特殊な表現が現代英語にある.前半部分が "however humble" あるいは "no matter how humble" ほどの意味に相当する,仮定法現在を用いた倒置表現だ.倒置を含まずに,ifthough を用いたり,仮定法過去を用いたりすることもある.OED の定義としては,"never" の語義4として以下のようにある.

never so, in conditional clauses, denoting an unlimited degree or amount.


 以下に,辞書やコーパスから例文を挙げてみよう.

 ・ She would not marry him, though he were never so rich.
 ・ Some vigorous effort, though it carried never so much danger, ought to be made.
 ・ Were the critic never so much in the wrong, the author will have contrived to put him in the right.
 ・ 'I am at home, and that is everything.' Be it never so gloomy --- is there still a sofa covered with black velvet?


 辞書では《古》とレーベルが貼られているし,BNCWeb で "be it never so" を検索するとヒットは7例のみである.いずれにせよ,頻度の高い表現ではない.
 倒置や仮定法を用いるということであれば,古い英語ではより多く用いられたに違いない.実際に中英語ではよく使われた表現で,MED, "never" 2 (b) には幾多の例が挙げられている.定義は以下の通り.


(b) ~ so, with adj. or adv.: to whatever degree; extremely; ~ so muchel (mirie, hard, wel, etc.), no matter how much, however much, etc.; also with noun: if he be ~ so mi fo, however great an enemy he may be to me;


 OED によると,この表現の初例は12世紀 Peterborough Chronicle の1086年の記事ということなので,相当に古い表現ではある.

Nan man ne dorste slean oðerne man, næfde he nævre swa mycel yfel ȝedon.


 中英語最初期から現代英語まで長く使われてきた統語的イディオムだが,なぜ上記の意味が生じてくるのか理屈がよく分からない.否定の never と譲歩が合わされば,「たとえ〜でないとしても」と実際とは裏返しの意味になりそうなところである.

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2011-10-24 Mon

#910. の定義がなぜ難しいか (1) [morphology][terminology][word_formation][idiom][word][proverb]

  (word) をいかに定義するかという問題は,言語学の最大の難問の1つといってよい.語は,いまだに明確な定義を与えられていない.形態素 (morpheme) についても事情は同じである.関連する議論は,以下の記事でも触れてきたので参照されたい.

 ・ #886. 形態素にまつわる通時的な問題: [2011-09-30-1]
 ・ #700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体: [2011-03-28-1]
 ・ #554. cranberry morpheme: [2010-11-02-1]

 さて,一般的な感覚で語を話題にする場合には,次の2つの条件を与えておけば語の定義として十分だろうと思われる (Carstairs-McCarthy 5) .

  (a) 予測不可能な (unpredictable) 意味を有し,辞書に列挙される必要があること
  (b) 句や文を形成するための構成要素 (building-block) であること

 しかし,この2つの条件を満たしていれば語と呼んでよいかというと,厳密には漏れがある.
 dioecious を例にとろう.日常的な感覚ではこれはれっきとした語である.まず,The plant is dioecious. あるいは a dioecious plant などと使え,句や文を構成する要素であるから,(b) の条件は満たしている.また,ほとんどの読者がこの語の意味(生物学の専門用語で「雌雄異体の」の意味)を知らなかったと思われるが,そのことは意味が予測不可能であるという (a) の条件を満たしていることを表わしている.しかし,いったんこの語を知ってしまえば,dioeciouslydioeciousness という派生形の意味は予測可能だろう.ここで (a) の条件が満たされなくなるわけだが,dioeciouslydioeciousnessdiocious と同じ資格で語としてみなすのが通常の感覚だろう.たとえ辞書には列挙されないとしても,である.
 別の例として,keep tabs on は「〜に気をつける」という idiom を取りあげよう.この表現は,通常の感覚では3つの語から構成されていると捉えられ,論理的には語そのものではなく語より大きい単位とみなされている.つまり,(b) の条件を満たしていないことが前提となっているが,idiom の常として意味は予測不可能であり,(a) の条件は満たしている.idiom よりも大きな文に相当する単位でありながら,その意味が予測不可能なことわざ (proverb) も同様である.
 上の2つの例は,問題の表現が (a), (b) の条件 をともに満たしていて初めて語とみなせるのか,どちらかを満たしていればよいのか,あるいは条件の設定そのものに難があるのか,という疑問を抱かせる.Carstairs-McCarthy は,(a) を満たしている単位を lexical item,(b) を満たしている単位を専門的な意味での word として用い,区別の必要を主張している (12--13) .
 以上,語の定義の難しさを垣間見る記事の第1弾.

 ・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.

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2011-06-16 Thu

#780. ベジタリアンの meat [semantic_change][proverb]

 昨日の記事「Cornish と Manx」 ([2011-06-15-1]) で Cornish pasty に軽く言及した.LDOCE5 により "a folded piece of pastry, baked with meat and potatoes in it, for one person to eat" と定義される大きな D 形のコーニッシュ・パイは,英国内はもちろんのこと欧米で広く食されており,その生産は Cornwall の主要産業の1つともなっている.ロンドンなどの街角では Cornish pasty shop はよく目にする.
 このパイと Cornwall との結びつきの由来は定かではないようだが,17,18世紀の Cornwall のスズ坑夫の手軽な弁当として発展してきたものといわれる.ボリュームがあり,冷めにくく,手で食べられるのが魅力だったのではないか(ボリュームがありすぎてビールのお供にというつもりで夜中に食べると胃がもたれるので注意).詳しい蘊蓄と写真は Wikipedia: Pasty を参照.
 パイにも様々な種類があるが,特にクリスマスに食される mince pie というパイがある.LDOCE5 によると "a pie filled with mincemeat, especially one that people eat at Christmas" とある.甘い菓子パイで,Google 画像で写真をみれば,あれのことかと思い当たるのではないだろうか.
 この mince pie の詰め物のことを mincemeat という.mincemeat の定義を CALD3 でみると,"a sweet, spicy mixture of small pieces of apple, dried fruit and nuts, (but not meat), which is often eaten at Christmas in mince pies" とある.ここから mincemeat には意外なことに肉が入っておらず,それを詰め物にした mince pie がベジタリアン食であることが分かる.
 meat の本来の意味と意味変化について知っていれば,これは不思議なことではない.meat は古英語では「食物;食事」の意であり,「肉」の意に限定されてきたのは13世紀以降のことである.ここでは意味の特殊化 ( specialisation ) が生じていることになる(意味の特殊化の他の例は,[2009-09-01-1], [2010-08-13-1], [2010-12-14-1], [2010-12-15-1], [2011-02-15-1]の記事を参照).
 The Authorized Version of the Bible では meat は「食物;食事」の意でしか用いられていないが,それを除けば,現代英語では上記の mincemeat や下記の少数の慣用表現・諺に古い語義が認められるのみである.

- before [after] meat 「食前[食後]に」
- green meat 「青物」
- meat and drink 「飲食物」 cf. meat and drink to sb 「〜にとって何よりの楽しみ」
- One man's meat is another man's poison. 「甲の薬は乙の毒(=人の好みはさまざま)」
- sit down to meat 「食卓につく」
- sweetmeat 「砂糖菓子」

Referrer (Inside): [2018-08-22-1] [2014-09-02-1]

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2010-11-12 Fri

#564. Many a little makes a mickle [article][proverb]

 標題の文は「ちりも積もれば山となる」を意味する諺である.mickle は,古英語でごく普通に用いられた micel "much" が,対応する古ノルド語 mikill に音韻的な影響を受けて,中英語で mikel となったものに由来する.現在,mickle はスコットランド方言などで行なわれているが,標準語では古風である.
 しかし,ここで問題にしたいのは many a little という表現である.この little は「少量」の意味の可算名詞と考えてよいが,これに many を付加するのであれば many littles となりそうである.ところが,many a で修飾されている.現代でも,「 many a + 名詞単数形」という構造は古風で格式ばっているものの,「many + 名詞複数形」と同等の意味を表わすことができる.この構造は単数名詞扱いとなり,上の諺の makes が示しているように,対応する動詞は単数受けするのが特徴である.
 この構造は中英語では当たり前のように用いられていた.それどころか,不定冠詞の発達していない古英語,また発達過程にあった中英語では「 many + 名詞単数形」の構造すら用いられていた.現代的な「 many + 名詞複数形」の構造は古英語期にも存在はしたが,使用が広がっていくのは中英語以降のことである.古英語で最も普通に「多数の」の意を表わした fela (典型的に複数名詞を伴った)と組み合わさった「 many fele + 名詞複数形」という構文が中英語にしばしば現われるが,これが「 many + 名詞複数形」の構造の拡大に一役買った可能性はあるかもしれない.
 「多数の」という意味を考えると many に不定冠詞 a(n) が続くのは不思議に思えるかもしれないが,ここには,all に対する everyeach と同様に,多数あるものの一つひとつの個別性を重視する発想があると考えられる.「 many a(n) + 名詞複数形」のほうが多数であることをより強調する効果があるとも言われるが,(逆説的ではあるが)この構造が個別性に着目しているがゆえだろう.

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