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最終更新時間: 2024-04-27 09:58

2010-07-13 Tue

#442. 言語変化の原因 [language_change][functionalism][contact][causation]

 言語変化がなぜ生じるか,その原因については様々な研究がなされてきた.言語変化の causation に関する議論は,基本的には後付けの議論である.過去に生じた,あるいは今生じている言語変化を観察し,状況証拠から何が原因だろうかと推測する.多くの場合,そのように推測された原因は当該の言語変化についてのみ有効な説明であり,別の変化に適用したり,今後の変化を予測するのには役立たない.また,ほぼすべての言語変化において原因は一つではなく複数の原因が複合的に組み合わさっていると考えられ,causation の議論では一般論が成立しにくい.
 しかし,概論的にいえば多くの言語変化に当てはまると考えられる傾向はあり,いろいろと分類されている.細分化すればきりがないが,基本的に同意されていると思われるのは,言語内的 ( language-internal ) な原因と言語外的 ( language-external ) な原因とに二分するやり方である.Brinton and Arnovick ( 56--62 ) に従って,代表的な原因を箇条書きしよう.いくつかの項目の末尾に,関連するキーワードと本ブログ内へのリンクを付した.

・ Language-Internal Causes

   [ 話者がおよそ無意識的 ]
  ・ ease of articulation ( assimilation )
  ・ perceptual clarity ( dissimilation )
  ・ phonological symmetry ( [2009-11-27-1] )
  ・ universal tendencies
  ・ efficiency or transparency

   [ 話者がおよそ意識的 ]
  ・ spelling pronunciation ( spelling_pronunciation )
  ・ hypercorrection
  ・ overgeneralization
  ・ analogy ( analogy )
  ・ renewal
  ・ reanalysis ( reanalysis, metanalysis )

・ Language-External Causes

  ・ contact-induced language change ( contact )
  ・ extreme language mixture ( leading to pidgins, creoles, and bilingual mixed languages ) ( pidgin, creole )
  ・ language death ( language_death )

 言語内的な原因については,話者が当該の変化について無意識的なのか意識的なのかで二分されているが,意識の有無は程度の問題なので絶対的な基準にはならないだろう.
 関連する記事として,[2010-07-01-1], [2010-06-01-1]の記事も参照.

 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.

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2010-05-01 Sat

#369. 言語における系統影響 [indo-european][family_tree][contact]

 この時期,英語史の講義では英語が印欧語族の一員であることについて話をする.リアクションペーパー等で寄せられる所見で非常に多いのが「英語はラテン語から生まれたと思っていた」というものである.英文科のなかでも相当数の学生が,神話とも幻想とも伝説ともいえるこの誤った知識をもって英語を何年も勉強してきたことになる.
 似たような誤解としては「英語はドイツ語から生まれた」「英語はラテン系である」「英語はケルト系」などがある.また,首をかしげてしまうような誤解としては「現代英語は古英語の影響を受けている」というものもある.
 こうした誤解を解くには,印欧語族の系統図を一瞥すればよい ( see [2009-06-17-1] ).英語がラテン語から生まれたのではないことは一目瞭然だし,英語がドイツ語やケルト諸語などといかなる関係にあるかも即座に明らかになる.これまでに聞いたことのある言語,あるいは名前すら知らなかった言語が,英語とどのような系統関係にあるかが明快に図示されており,初めての人は是非じっくり眺めてみることを勧める.
 上記の誤解の多くは「系統」と「影響」とを混同していることによる. 「系統」とは比喩的にいえば血統の関係であり,親子,兄弟,親戚といった用語で語られるような関係である.系統図から分かるとおり,「フランス語はラテン語から生まれた」「英語とフリジア語は兄弟(の子孫)である」「英語とオランダ語は低地ゲルマン語派として遠縁に当たる」などと表現することができる.ラテン語と英語についていえば,決して前者が後者を生んだという関係ではない.広く印欧語族という大きなくくりの中では確かに遠縁に当たるが,あまりに遠すぎて実際上は赤の他人といってよいくらいの関係である.
 系統的に近ければ,見た目も似ている傾向があるのは,生物の場合と同じである.だが,血がつながっていたとしても数世代たてば外見や性格の著しく異なる個体が現れることも珍しくない.それでも,血液検査をすれば系統関係ははっきりする.このような関係が「系統」である.
 一方で「影響」は,血統とは別次元の問題である.知人から受ける影響ということを想像するとよい.ある知人と親交が深まれば,自分の見た目や考え方もその知人に似てくるものである.ここで知人とは同時代に生きている人物だけでなく,かつて生きていた偉大な人物であってもよい.後者の場合,その人物の残した本などにより影響を受けるということになる.
 ラテン語と英語の関係はまさしくこのような「影響」の関係である.英語にとってラテン語は系統的には限りなく赤の他人に近い.しかし,ラテン語の圧倒的な文化は英語にとって良きお手本になった.英語は歴史的に,ラテン語文書やそれを読み書きできる知識人を通じて大量のラテン単語を借用してきたのである.したがって,特に語彙の一面においては,英語はラテン語さながらといってよい.この類似が親子関係や親戚関係(系統)によるものではなく,いわば師弟関係(影響)によるものであることは,しっかりと区別して理解しておく必要がある.
 遠くの親戚よりも近くの知人のほうに似るのは,人だけでなく言語も同じことなのかもしれない.先日,授業のリアクションペーパーで,ある学生曰く,

系統と影響は違うということは分かりました。生活してて、親せきからより、身近な友達からの方が影響受けます。

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2010-03-20 Sat

#327. Irish English が American English に与えた影響 [ame][irish_english][ireland][contact][history]

 19世紀半ば,アイルランド大飢饉 ( 1845--48 ) を受けてアイルランド人のアメリカへの大移住 ( The Great Irish Immigration ) が起こった.その結果,いくつかのアイルランド英語の語法がアメリカ英語に持ち込まれ,後にアメリカ語法として定着したという.松浪有編『英語史』によれば,例えば,次のような項目が挙げられている.

 ・ shall の用法が will にほとんど取って代わられた(早くも1855年頃にすでに確立)
 ・ the measles などのように定冠詞を用いる用法(アイルランド英語の基層にあるゲール語の影響か)
 ・ 接頭辞・接尾辞の頻繁な使用( anti-, semi-, -ster, -eer などの接辞による造語は AmE に顕著.このケースではアイルランド英語の影響はあくまで可能性とのこと.)
 ・ 強意語の多用

 いずれも知らなかった.これらの影響が言語事実からどれだけ客観的に裏付けられるのか確認する必要があるが,しばしば指摘される英語の英米差の一端が Irish English に帰せられるとすれば,アメリカ移民史とも関連して興味深い.

 ・ 松浪 有 編,秋元 実治,河井 迪男,外池 滋生,松浪 有,水鳥 喜喬,村上 隆太,山内 一芳 著 『英語史』 英語学コース[1],1986年,大修館書店.159--60頁.

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2010-03-13 Sat

#320. The Untrue-Born English Language [contact][elf]

 Robinson Crusoe の著者 Daniel Defoe (1660-1731) が,その出版よりずっと前の1701年に The True-Born Englishman という風刺詩を書いている.当時,イギリスは James II を廃して(名誉革命),オランダからやってきた William of Orange が William III として,Mary II との共同統治という形で王位についていた.政治パンフレット作家で William III の支持派であった Defoe は,外国人が我が国を治めているということに不満を抱く人々に対抗する目的で,本書を世に出した.要するに,生粋のイングランド人などというものはありえない.歴史を見れば分かるとおりイングランド人は雑種なのだから,外国人の王を黙って受け入れよ,というメッセージである.当時これは飛ぶように売れ,現在でも人種・国籍差別廃止の観点からその内容は色あせていないと評価されている.
 イングランド人が雑種であることと英語が雑種であることは,ぴたりと符合している.かつての征服や移住などによる多民族との接触の結果として,イングランドが今ある姿になり,英語が今ある姿になった (see [2009-06-04-1]).イングランドの多民族性,英語の雑種性を説明するには,当の Defoe の言葉をして語らしめるのが一番よさそうだ.少し長いが 1703年版に基づくオンラインの Luminarium Edition から引用する.

  The Romans first with Julius Cæsar came,
Including all the nations of that name,
Gauls, Greeks, and Lombards, and, by computation,
Auxiliaries or slaves of every nation.
With Hengist, Saxons; Danes with Sueno came,
In search of plunder, not in search of fame.
Scots, Picts, and Irish from the Hibernian shore,
And conquering William brought the Normans o'er.
  All these their barbarous offspring left behind,
The dregs of armies, they of all mankind;
Blended with Britons, who before were here,
Of whom the Welsh ha' blessed the character.
  From this amphibious ill-born mob began
That vain ill-natured thing, an Englishman.
The customs, surnames, languages, and manners
Of all these nations are their own explainers:
Whose relics are so lasting and so strong,
They ha' left a shibboleth upon our tongue,
By which with easy search you may distinguish
Your Roman-Saxon-Danish-Norman English.


 さしずめ英語は,"this amphibious ill-born language" ということになろうか.あるいは,"The Untrue-Born English Language" と呼んでもよい.
 今後,非母語話者からの強力な圧力により英語が変容してゆく可能性があるが ( see [2009-10-07-1] ),新たに現われてくる雑種的な英語に対して母語話者(や伝統文法を重んじる世界中の英語教師)はどのような反応を示してゆくことになるだろうか.

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2009-09-01 Tue

#127. deer, beast, and animal [etymology][french][contact][semantic_change][push_chain][synonym]

 英語の意味変化を取りあげるときに必ずといってよいほど引き合いに出される例として,deer がある.現在「鹿」を意味するこの語は,古英語や中英語では普通には「(ヒトに対しての)動物」を意味した.古英語でも「鹿」の意味がまったくなかったいわけではないが,この語の本来的な意味が「動物」であることは,他のゲルマン諸語からも確認できる.たとえばドイツ語の同語根語 ( cognate ) は Tier であり,現在でも「動物」を意味する.
 ところが,中英語期になり「鹿」の意味が目立ってくるようになる.その一方で,「動物」の意味は徐々に衰えていった.動物一般を表していた語が,ある特定の種類の動物を表すように変化してきたわけで,このような意味変化のことを意味の特殊化 ( specialisation ) とよぶ.
 deer に意味の特殊化が起こった背景には,中英語期のフランス語との言語接触がある.1200年頃の Ancrene Riwle という作品に,フランス語から借用された beast 「(ヒトに対しての)動物」という語が初めて用いられているが,以降,中英語期には「動物」の意味ではこちらの beast が優勢になってゆく.deer は「動物」の意味を beast に明け渡し,「鹿」の意味に限定することで自らを生き延びさせたといえる.
 さらに,近代英語期に入り,animal という別の語がフランス語から入ってきた.「(ヒトに対しての)動物」という意味では,初例は Shakespeare である.これによって,それまで活躍してきた beast は「(ヒトに対しての)動物」の意味から追い出され,これまた意味の特殊化を経て,「けもの,下等動物」の意味へと限定された.

deer, beast, and animal

 フランス語との言語接触によるショックと,それを契機に回り出した押し出しの連鎖 ( push chain ) により,語と意味が変遷していったわけだが,ポイントは,deerbeast も廃語とはならず,意味を特化させることによってしぶとく生き残ったことである.こうしたしぶとさによって類義語 ( synonym ) が累々と蓄積されてゆき,英語の語彙と意味の世界は豊かに成長してきたといえる.

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2009-08-31 Mon

#126. 7言語による英語への影響の比較 [contact][flemish][dutch][japanese]

 Gelderen (102) に,Celtic, Latin, Scandinavian, French, Dutch/Flemish の5言語が英語に与えた影響の比較表がある.これに,もう一つ Greek を加えて,6言語による影響の比較表を掲げる.

 vocabularymorphologysyntax
Celticyesnopossibly
Latinyessomewhatno
Scandinavianyesyesyes
Frenchvery muchyesminimal
Dutch/Flemishminimalnono
Greekyessomewhatno


 [2009-08-16-1]の記事でフランス語と古ノルド語による影響を様々な視点から比較したのとは異なり,分野ごとへの影響を大雑把に示した表にすぎないが,いくつかの興味深いポイントが見えてくる.一般の英語史概説ではあまり扱われない項目,あるいは問題意識を呼び覚ましてくれる項目に目が止まった.

 ・ケルト語の統語への影響の "possibly" が気になる
 ・ラテン語の統語への影響が "no" というのは本当か
 ・オランダ語・フラマン語による英語への影響を,ラテン語やフランス語などと同列に比較するという視点そのものが斬新

 オランダ語・フラマン語については,従来,英語への影響という視点がフィーチャーされることはあまりなかった.確かに英語史概説書で語彙の借用の話題として軽く取り上げられることはあるが,あくまでマイナーな話題としてである.著者の Gelderen がオランダ人であり,多分にひいき目はあるだろうが,こうしたニッチな領域に関心が向けられるというのは,英語史の視点を豊かにしてくれるという点で歓迎すべきである.
 上の文章を書いているうちに,ぜひとも日本語を含めたくなった.

 vocabularymorphologysyntax
Celticyesnopossibly
Latinyessomewhatno
Scandinavianyesyesyes
Frenchvery muchyesminimal
Dutch/Flemishminimalnono
Greekyessomewhatno
Japanesesomewhatnono


 [2009-06-12-1]の記事で,「過去50年で,英語への借用語の約8%が日本語から」と紹介したので,"minimal" でなく "somewhat" としてみたが,この判断はいかがだろうか.

 ・Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.

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2009-08-16 Sun

#111. 英語史における古ノルド語と古フランス語の影響を比較する [contact][old_norse][french]

 英語は歴史のなかで数多くの言語と接触し、影響を受けてきたが、そのなかでも特に古ノルド語 ( Old Norse ) と古フランス語 ( Old French ) からのインパクトは顕著である.
 古ノルド語は古英語後期から中英語初期にかけて、古フランス語は主に中英語期を中心に、英語に多大な影響を及ぼした.両言語とも現代英語に深い接触の爪痕を残した点では共通しているが、爪痕のタイプは天と地ほど違う.英語史の概説書でも両言語の影響はよく対比されるので、今回は対比ポイントをまとめておきたい.下の表は,英語史における古ノルド語と古フランス語の役割を図式的に対比させたものである.

 古ノルド語古フランス語
影響の顕著な時代後期古英語から初期中英語中英語
影響の始まった地域主に北部・東部から主に南部から
英語との言語的類似大きい小さい
英語との歴史文化的類似大きい小さい
書き言葉としての立場なし確立
影響の及ぼし手の数多い少ない
影響の及ぼし手の階級一般階級上流階級
英語との社会言語学的関係同等上位
相互の意思疎通可能不可能
借用語の数中くらい多い
借用語のタイプ内容語と機能語主に内容語
借用語の難易度主に基本語基本語と難解語
借用語の頻度高い中くらい
借用語の文体口語的文語的
借用語の音節多くは単音節多くは多音節
地名の借用語多い少ない
綴り字への影響少ない多い


 対立を強調するためにいきおい単純化しすぎていることは否定できないが,二言語の影響を対立させてとらえる見方は,全体として妥当だと考える.ただ,あえて共通点は挙げなかったが,人名への影響の大きさなど,両言語ともに英語に大きな影響を与えている点も少なくないことは銘記しておきたい.
 英語史も歴史であり物語であるから、古ノルド語と古フランス語という登場人物に反対の個性をもたせてみるのも,脚本としてはおもしろいだろう.

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2009-06-11 Thu

#44. 「借用」にみる言語の性質 [borrowing][loan_word][contact][terminology]

 英語史や言語学の入門書で 借用 ( borrowing ) が取り上げられるときに,セレモニーのように繰り返される但し書きがある:「言語における借用は一般のモノの借用とは異なり,借りた後に返す必要はない.だが,借用という概念は理解しやすいし,広く受け入れられているので,本書ではこの用語を使い続けることにする.」
 もっともなことである.みな,確かにそうだとうなずくだろう.だが,一般のモノの借用と言語の借用の差異について,それ以上つっこんで議論されることはほとんどない.今回の記事では,この問題をもう少し掘り下げてみたい.
 モノの借用と語の借用の違いを挙げてみよう.

 (1) モノを借りるときにはたいてい許可を求めるが,語を借りるときには許可を求めない.好きなものを好きなだけ好きなときに勝手に「借りる」ことができる.
 (2) モノの場合,貸し手は貸したという認識があるが,語の場合,貸し手は貸したという認識がない.
 (3) モノを貸したらそれは貸し手の手元からなくなるが,語を貸したとしても,依然としてそれは貸し手の手元に残っている.つまり,語の場合には移動ではなくコピーが起こっている.
 (4) 貸し手は(2)(3)のとおり,貸した後に喪失感がない.なので,借り手は特に返す必要もない.たとえ返したところで,貸し手の手元には同じものがすでにあるのだ.一方,モノの場合には,貸し手には喪失感が生じるかもしれない.

 上記のポイントは,言語の性質を論じる上で重要な点である.他言語から語を借用するという過程は,誰にも迷惑をかけずに,しかもノーコストで自言語に新たな項目を付加するという過程である.語の借用過程の本質が移動ではなくコピーであることが,これを可能にしている.移動の場合には,その前後でモノの量は不変だが,コピーの場合には,その前後でモノの量が一つ増える.
 物質世界では,他を変化させずに1を2にすることは不可能である.もし2になったとしたら,必ずよそから1を奪っているはずである.それに対して,言語世界ではいとも簡単に1を2にすることができる.その際,誰にも喪失感はなく,常に純増である.
 このことは,言語が,あるいは言語をつかさどる人の精神が,無限の可能性を秘めていることを示唆しているのではないだろうか.

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2009-06-04 Thu

#37. ブリテン島へ侵入した5民族の言語とその英語への影響 [contact]

 古英語の終わりまでに,ブリテン島は少なくとも5民族による侵入を受けた.各民族が話していた言語は,様々な形で英語史に足跡を残してきた.各言語の英語史における意義を概説してみる.

 (1) Celtic
  ケルト語派.紀元前6000年頃より,大陸よりブリテン島に移住.ブリテン島ではケルト語派のうち Brythonic グループに属する言語が話されていた.英語への影響としては,特にブリテン島内の地名に顕著な痕跡を残す.

 (2) Latin
  イタリック語派.アングロサクソン人がブリテン島に渡る以前,大陸にいた時代より,すでにローマ人との接触を通じてゲルマン語にはラテン語が入っていた.さらに,ブリテン島がローマの支配下にあった時代にブリテン島のケルト人に根付いたラテン単語が,のちに英語にも受け継がれた.古英語時代には,キリスト教の伝来とともに多くのキリスト教関係の単語が借用されたし,中世以降,特にルネサンス期には大量のラテン語が英語に借用された.

 (3) English
  ゲルマン語派.そのなかでも西ゲルマン語派に属する.大陸のアングロサクソン人(実際にはアングル人,サクソン人,ジュート人の少なくとも3民族を含む[2009-05-31-1])が5世紀にブリテン島に持ち込んだ言語であり,英語史上の意義ははかりしれない.というよりも,英語史の開始そのものである.

 (4) Old Norse
  ゲルマン語派.そのなかでも北ゲルマン語派に属する.現代の北欧諸語の祖であり,古ノルド語と呼ばれる.8世紀以降,ブリテン島へ侵攻したヴァイキングが島の北東部に定住するに伴い,古ノルド語と英語の混交が進んだ.地名や人名のほか,本来語の基本語彙や機能語を置き換えるなど,英語に多大な影響を与えた.古ノルド語の英語史上の意義は特異である.

 (5) French
  イタリック語派.ラテン語から生じた言語の一つ.1066年のノルマン人の征服以来,フランス語の単語や表現が大量に英語に流れ込んだ.フランス語(とラテン語)の単語の大流入により,語彙の観点から見る限り,英語はもはや純粋なゲルマン系の言語とは呼ぶことができないと言ってよい.

 以上がブリテン島への5民族の侵入と,各民族の言語が英語に与えた影響であるが,もう一つ触れておきたい言語がある.ヘレニック語派に属する古典ギリシャ語である.近代英語期以降,文献を通じて古典ギリシャ語由来の単語が大量に英語に入った.学問用語,専門用語が多く,現在でも古典ギリシャ語に由来する bio-,eco-,-logy などの接辞は生産的である.また,ラテン語自体が古典ギリシャ語から多くの単語を借用しており,それらを英語はラテン語から直接,あるいはフランス語経由で,あらためて借用しているので,想像以上に英語の中にはギリシャ語起源の単語が多い.
 上に挙げたのは,英語に及ぼした影響が特に大きい言語のみである.英語はほかにも数百もの言語から大小の影響を受けてきたのであり,この事実は忘れてはならない.

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