hellog〜英語史ブログ

#3364. 理論言語学と社会言語学[sociolinguistics][linguistics][history_of_linguistics]

2018-07-13

 標題の2つの言語学の分野は,何かと対比されることが多い.両分野をまたいで仕事をする研究者もいるが,デフォルトの身の置き場はいずれかであるという向きが多い.20世紀の主流は理論言語学であり,そのために単に「言語学」といえば,狭い意味でそちらを指す.21世紀でも,社会言語学から「社会」を省略するわけにはいかないという状況は続いており,まだまだ理論言語学はメジャーである.
 一方,大きな潮流ということでいえば,20世紀後半から21世紀にかけて社会言語学的な発想がおおいに強まってきていることは確かである.この言語学史的な背景としては,「#1081. 社会言語学の発展の背景と社会言語学の分野」 ([2012-04-12-1]) や「#2884. HiSoPra* に参加して (2)」 ([2017-03-20-1]) を参照されたい.
 さて,理論言語学と社会言語学とでは,具体的に何がどのように異なるのだろうか.石黒 (34) は,両者の違いを以下のように対比的に示している.

 関心の所在言葉の在処分析の対象分析の観点分析の方法
理論言語学言葉の普遍性・共通性頭のなかにある言葉の能力構造と規則演繹的・内省的
社会言語学言葉の個別性・差異性社会のなかにある言葉の使用種類と選択帰納的・記述的


 もちろん,いずれの言語学も言葉の性質のある側面をとらえているのであり,どちらが良いとか悪いという問題ではまったくない.言葉は一側面からみて理解できるほど単純なものではなく,様々な側面から見ていかなければ解明できない.とりあえずは各側面から迫って知見を増やしていき,最終的にはそれをまとめあげて究極の言葉の理解に至るというのが狙いである.いずれも言語学の重要な構成要素には違いない.

 ・ 石黒 圭 『日本語は「空気」が決める 社会言語学入門』 光文社〈光文社新書〉,2013年.

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