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conjugation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-06-05 08:55

2011-11-15 Tue

#932. neutralization は異形態の縮減にも貢献した [oe][old_norse][inflection][conjugation][paradigm][contact][language_change][analogy]

 [2011-11-11-1]の記事「#928. 屈折の neutralization と simplification」と[2011-11-14-1]の記事「#931. 古英語と古ノルド語の屈折語尾の差異」で,古ノルド語との言語接触に起因する古英語の屈折体系の簡単化について取り上げてきた.O'Neil が neutralization と呼ぶ,この英語形態論の再編成については,両言語話者による屈折語尾の積極的な切り落としという側面が強調されることが多いが,より目立たない側面,allomorphy の縮減という側面も見逃してはならない.
 昨日の記事で示したパラダイムの対照表を見れば,屈折語尾の差異を切り落とし,ほぼ同一の語幹により語を識別するという話者の戦略が有効そうであることが分かるが,語幹そのものの同一性が必ずしも確保できないケースがある.パラダイムのスロットによっては,語幹が異形態 (allomorph) として現われることがある.昨日の例では,drīfan の過去形においては,単数1・3人称 (drāf) で ā の語幹母音を示すが,単数2人称および複数 (drifedrifon) で i の語幹母音を示す.
 他にも,現在単数2・3人称の屈折において語幹母音が i-mutation を示す古英語の動詞は少なくない.OE lūcan "to lock" の現在形の活用表を示すと,以下のように語幹母音が変異する (O'Neil 262) .

 Old English
Inflūcan 'lock'
Pres. Sing. 1.lūce
2.lȳc(e)st
3.lȳc(e)ð
Plur.lūcað


 ところが,中英語の典型的なパラダイムでは,現在単数2・3人称の語幹は他のスロットと同じ語幹を取るようになっている.ここで生じたのは allomorphy の縮減であり,結果として,不変の語幹が現在形のパラダイムを通じて用いられるようになった.動機づけのない allormophy をこのように縮減することは,当時,互いに意志疎通を図ろうとしていた古英語や古ノルド語の話者にとっては好意的に迎え入れられただろうし,それ以上にかれらが縮減を積極的に迎え入れたとすら考えることができる.

I think it clear that working from quite similar, often identical, underlying forms but with different sets and intersecting sets of endings associated with them and bewildering allomorphies as a result of the conditions established by the endings, the basic underlying sameness of Old English and Old Norse had become somewhat distorted and thus a superficial barrier to communication between speakers of the two languages had arisen. It is not surprising then that the inflections of the languages were rapidly and radically neutralized, for they were the source of nearly all difficulty. (O'Neil 262--63)


 allormophy の縮減は,言語接触による neutralization の過程としてだけでなく,言語内的な類推 (analogy) や 単純化 (simplification) の過程としても捉えることができる.実際には,片方のみが作用していたと考えるのではなく,両者が共に作用していたと考えるのが妥当かもしれない.
 allomorphy の縮減は,パラダイム内の levelling (水平化)と読み替えることも可能だろう.この用語については,[2010-11-03-1]の記事「#555. 2種類の analogy」を参照.

 ・ O'Neil, Wayne. "The Evolution of the Germanic Inflectional Systems: A Study in the Causes of Language Change." Orbis 27 (1980): 248--86.

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2011-11-14 Mon

#931. 古英語と古ノルド語の屈折語尾の差異 [oe][old_norse][inflection][conjugation][paradigm][contact][language_change]

 [2011-11-11-1]の記事「#928. 屈折の neutralization と simplification」では,古英語の言語体系が古ノルド語との接触により簡単化していった過程を,O'Neil の用語を用いて neutralization と呼んだ.この過程の要諦は,古英語と古ノルド語との間で,対応する語幹はほぼ同一であるにもかかわらず,対応する屈折語尾は激しく異なっていたために,後者が積極的に切り落とされたということだった.
 では,具体的にどのように両言語の屈折体系が混乱を招き得るものだったかを確かめてみよう.以下は,典型的な強変化動詞,弱変化動詞,弱変化名詞,強変化女性名詞 (o-stem) の屈折の対照表である (O'Neil 257--59) .

Strong Verb

 Old EnglishOld Norse
Infdrīfan 'drive'drífã
Pres. Sing. 1.drīfedríf
2.drīfestdrífR
3.drīfeðdrífR
Plur. 1.drīfaðdrífom
2.drīfaðdrífeð
3.drīfaðdrífã
Past Sing. 1. and 3.drāfdreif
2.drifedreift
Plur. 1.drifondrifom
2.drifondrifoð
3.drifondrifð
Pres. pple.drīfendedrífande
Past pple.drifendrifenn

Weak Verb

 Old EnglishOld Norse
Inftellan 'count'teljã
Pres. Sing. 1.telletel
2.telesttelR
3.telðtelR
Plur. 1.tellaðteljom
2.tellaðteleð
3.tellaðteljã
Past Sing. 1taldetalda
2.taldesttalder
3.taldetalde
Plur. 1.taldontǫldom
2.taldontǫldoð
3.taldontǫldõ
Pres. pple.tellendeteljande
Past ppl.etaldtal(e)ð

Weak Noun

 Old EnglishOld Norse
Sing. Nom.guma 'man'gume
Obliquegumangumã
Plur. Nom.gumangumaR
Acc.gumangumã
Gen.gumenagum(n)a
Dat.gumumgumon

Strong Noun (Feminine ō-stems)

 Old EnglishOld Norse
Sing. Nom.bōt 'remedy'bót
Acc.bōtebót
Gen.bōtebótaR
Dat.bōtebót
Plur. Nom.bōtabótaR
Acc.bōtabótaR
Gen.bōtenabóta
Dat.bōtumbótom


 語幹はほぼ同一であり,わずかに異なるとしても「訛り」の許容範囲である.ところが,対応する屈折語尾を比べると,類似よりも相違のほうが目立つ.対応するスロットに異なる語尾が用いられているということはさることながら,形態的に同一の語尾が異なるスロットに用いられているというのも混乱を招くに十分だったろう.例えば,古英語の drīfeð は現在3人称単数だが,同音の古ノルド語 drífeð は現在2人称複数である.
 このように屈折表を見比べると,両言語話者の混乱振りが具体的に見えてくるのではないか.

 ・ O'Neil, Wayne. "The Evolution of the Germanic Inflectional Systems: A Study in the Causes of Language Change." Orbis 27 (1980): 248--86.

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2011-07-04 Mon

#798. the powers that be [be][conjugation][paradigm]

 英語で最も不規則な屈折を示す動詞は何か.答えは,be 動詞である.確かに現代英語のすべての動詞は数,人称,時制,法により屈折するが,大部分は規則的に屈折するし,不規則な屈折を示すものですら,異なる屈折形(定形)の種類は最大でも4つである ( ex. have, has, had ) .ところが,be に関しては,定形に限っても is, am, are, was, were の5屈折形が区別される.原形(不定詞)が3人称単数以外の現在形と異なる屈折形をもつのも,be 動詞のみである.最も頻度の高い動詞であり,連結詞 (copula) として特殊な機能を担う動詞(かつ助動詞)でもあるので,be が形態的にも例外的に不規則であることは不思議ではない.
 中英語に遡れば,be 動詞の屈折の方言による変異は著しい.以下は,Burrow and Turville-Petre (36--37) に挙げられている中英語の2方言の be の屈折表である.それぞれ中西部の南部 (Ancrene Wisse) と北部 (Gawain) からのパラダイムである.


Acnrene WisseGawain
infinitivebeonbe, bene
present indicative
sg. 1am, beoam
sg. 2art, bistart
sg. 3is, biðis, betz
pl.beoðar(n), ben
present subjunctive
sg.beobe
pl.beonbe(n)
past indicative
sg.1weswatz, was
sg. 2werewatz, were
sg. 3weswatz, was
pl.werenwer(en)
past subjunctive
sg.werewer(e)
pl.werenwer(e), wern
past participleibeonben(e)


 ここで注目したいのは,直説法現在複数で are に相当する形態の代わりに ben があったということである.これは現代の be に相当し,現代英語の表現としては化石的に表題の the powers that be に痕跡をとどめている.この be は直説法現在複数 are の代用であり,完全自動詞として "exist, be present" ほどの意を担う.全体として,「権力者,官憲,当局」 (the authorities) を意味する慣用表現となっているが,かつての be 動詞の定形を保持する貴重な言語的シーラカンスといえよう.
 ちなみに,この表現はしばしば「当局」を否定的にとらえる文脈で用いられ,"There is no mutual understanding between the people and the powers that be." のごとくに用いられる.OALD8COBUILD English Dictionary より定義を示そう.

OALD8: (often ironic) the people who control an organization, a country, etc

COBUILD English Dictionary: You can refer to people in authority as the powers that be, especially when you want to say that you disagree with them or do not understand what they say or do.


 ・ Burrow, J. A. and Thorlac Turville-Petre, eds. A Book of Middle English. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell, 2005.

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2011-05-31 Tue

#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法 [verb][conjugation][suppletion][plural]

 一般に,現代英語の動詞は過去・過去分詞形の形成法により大きく規則変化動詞と不規則変化動詞に分けられる.この区分は,単純に形態音韻論的な1点のみに注目する.過去・過去分詞形の語尾に <-ed> が付加されるか否かという点である.音韻上の現われとしては /-d, -t, -ɪd/ の3種類があり得るが,原形の基体にいずれかがそのまま付加されるか(規則変化動詞),あるいはそれ以外か(不規則変化動詞)という大雑把な区分である.後者はさらに形態音韻論的に細分化されるのが普通だが,ここでは細部には立ち入らない.これを仮に「-<ed> の有無による共時的分類法」と名付け,以下のようにまとめる.

TypeExamples
-ed (規則変化)called, looked, visited
non-ed (不規則変化)bought, came, got, made, sent, set, went


 もう1つ,英語史ではゲルマン語比較言語学の観点から,弱変化動詞と強変化動詞の区分が広く用いられている.要点は,過去・過去分詞形に "dental suffix" を含むか含まないかという点である.表面的には「-<ed> の有無による共時的分類法」と類似しているが,原形(不定形)の基体に「そのまま」 dental suffix が付加されるかどうかという点は重要ではない.この意味では bought, made, sent, went は dental suffix をもっており,called, looked, visited と区別すべき理由はない.弱変化と強変化のほかにも周辺的な活用が存在するが,ここでは考えないこととする.これを仮に「通時的分類法」と名付け,以下のようにまとめる.

TypeExamples
弱変化bought, called, looked, made, sent, set, visited, went
強変化came, got


 ここまではよく知られているが,小林 (42) に「音相変異の大小」による区分という考え方が示されており,関心をもった.これは「-<ed> の有無による共時的分類法」よりもなおのこと共時的な発想で,過去・過去分詞形がどのくらい形態音韻論的に標示されているかという観点から,動詞を大きく3分するものである.音相変異の存在しない「無変異」タイプは,いわゆる無変化型と呼ばれる活用に対応し,cut, hit, hurt, put, set などがここに属する.その対極として,「完全変異」タイプの動詞,いわゆる補充法 ( suppletion ) により活用する動詞がある.be 動詞や went がその例となる.そして,両極の中間として,接辞法 ( called, looked ) ,母音変異 ( came, sang ) ,子音変異 ( sent ) による「不完全変異」タイプがある.これを仮に「音相変異の大小による共時的分類」と呼び,以下のようにまとめる.

TypeExamples
無変異set
不完全変異called, looked, visited; bought, came, got, made; sent
完全変異went


 「音相変異の大小による共時的分類」では,従来の「-<ed> の有無による共時的分類法」や「通時的分類法」では思いつかなかった,set タイプと went タイプの体系的な対置が得られる.これにより,補充法が単なる例外的な振る舞いとして扱われることから解放され,体系のなかで明確な位置づけをもって見直すことができるようになる.補充法の研究に,俄然意義を付されたかのようだ.
 これを名詞の複数形の分類に応用するのもおもしろいだろう.単純な規則・不規則形の対立による分類,あるいは通時的な形態クラスによる分類とは異なる第3の分類が以下の如く可能になる ( cf. [2009-05-11-1] ) .

TypeExamples
無変異carp, fish, hundred, sheep
不完全変異books, dogs, watches; children, oxen; feet, men; alumni, phenomena
完全変異people (for persons)


 ・ 小林 英夫 「補充法について」 『英語英文学論叢』7巻(廣島文理科大學英語英文學論叢編輯室編),1935年,39--49頁,1935年.

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2010-11-29 Mon

#581. ache --- なぜこの綴字と発音か [etymology][spelling_pronunciation_gap][etymological_respelling][verb][conjugation][johnson][sobokunagimon]

 綴字と発音の関係について,<ch> は通常 /tʃ/ に対応するが,/k/ に対応することもある./k/ への対応はギリシア語やラテン語からの借用語に典型的に見られ,さして珍しいことではない ( ex. chemistry, chorus, chronic, school ) .しかし,英語本来語で <ch> = /k/ の対応は相当に珍しい.ache /eɪk/ がその変わり者の例である.
 この語は古英語の acan 「痛む」に遡るが,究極的には印欧祖語の *ak- 「鋭い」にまで遡りうる ( cf. acid, acrid, acute, vinegar ) .古英語の動詞 acan は強変化動詞第VI類に属し,その4主要形は acan -- ōc -- ōcon -- acen だったが,14世紀からは弱変化形も現われ,じきに完全に強弱移行を経た(←この現象を「強弱移行」と呼ぶようで,英語にはない実に簡便な日本語表現).
 古英語動詞 acan からは子音を口蓋化させた名詞 æce 「痛み」が派生しており( see [2009-06-16-1] ) ,それ以降,初期近代英語期までは動詞と名詞の綴字・発音は区別されていたが,1700年辺りから混同が生じてくる.発音では名詞が動詞に吸収され /eɪk/ に統一されたが,綴字では動詞が名詞に吸収され <ache> に統一された.本来語としてはまれな <ch> = /k/ の対応は,動詞と名詞の混同に基づくものだったことになる.
 この混同した対応を決定づけたのは,Dr Johnson である.1755年の辞書の中で,to ake の見出しに次のような説明が見られる.

to ake by Johnson

 Johnson はこの語の語源をギリシア語と誤解していたようで,それゆえに <ache> の綴字が正しいとした.この記述が後に影響力を及ぼし,現在の綴字と発音のねじれた関係が確定してしまった.
 ちなみに,日本語の「痛いっ」と英語の ouch は発音が類似していなくもない.間投詞 ouch は,18世紀にドイツ語 ( Pennsylvania Dutch ) の間投詞 autsch からアメリカ英語に入ったとされるが,日本語の「いたい」にしろ,ドイツ語の autsch にしろ,英語の ouch にしろ,そして当然 ache も悲痛の擬音語に端を発したのではないかと疑われる.ouch について,日本語の「いたい」を参照している粋な Online Etymology Dictionary の記事も参照.

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2010-10-30 Sat

#551. 有標・無標と不規則・規則 [markedness][verb][conjugation]

 昨日の記事[2010-10-29-1]で有標性を話題にした.それは,学生から次のような質問があったことを受けて有標性について改めて調べる必要があったからである.その質問とは「有標・無標という対立と不規則・規則という対立は同じものと考えてよいのか.もし同じものであるのならば,有標・無標という術語を持ち出す意味がないのではないか」というものである.学生の質問の背景には現代英語の不規則動詞と規則動詞の対立の問題があり,ここに有標性の視点を持ち込むということは妥当なのか否かという疑問があった.
 確かに有標・無標と不規則・規則という概念は互いに関係があるように思える.しかし,結論からいえば (1) 有標・無標と不規則・規則の対立は互いに注目する観点が異なる,(2) 有標・無標の対立は通言語的な普遍性を意識した対立で,より一般的に用いられる傾向がある,ということではないか.
 (1) 現代英語の不規則動詞 ( ex. sing ) と規則動詞 ( ex. walk ) について markedness に従ってフラグを立てるとすれば,不規則動詞が有標で,規則動詞が無標となりそうなことは容易に理解されるだろう.直感的にいって,規則動詞のほうが「普通」で「自然」だからである.しかし,不規則動詞と規則動詞の対立は,通常 markedness の観点から語られるような対立とは異なっている.昨日の記事でみたように,有標・無標はある言語項目の対立するペアを取りあげて,その一方を有標,他方を無標とすることである.singwalk の例でいえば前者が不規則動詞,後者が規則動詞だが,両語を有標性の観点で「対立するペア」ととらえることはできない.形態論において有標性を語るときの「対立するペア」とは,dogdogsprinceprincess, singsang, walkwalked のようなペアのことであり,singwalk あるいは sangwalked のようなペアのことではないように思われる.
 不規則・規則という対立が注目しているのは,原形から過去・過去分詞形を作るときに形態的な予測可能性 ( predictability ) があるか否かである.一方で,有標・無標という対立が注目しているのは,原形のスロットと過去・過去分詞形のスロットを比べたときにどちらがより普通で自然かということである.私も最初は違和感なく聞いていたが,「不規則動詞が有標で,規則動詞が無標」というのは二つの異なる物差しを用いた妙な表現なのではないか.
 (2) 不規則・規則という対立は個別言語の形態規則に関していわれる対立だが,有標・無標という対立は,どちらかというと naturalness や universality などという通言語的な概念と結びつきやすいように思われる.これは昨日の記事で見たように有標性の概念が発展してきた経緯とも関連しているようである.英語という個別言語の動詞の活用の規則性を問題にする場合には,有標・無標という用語使いはなじまないのではないか.
 有標・無標と不規則・規則という2つの対立はともに「普通さ」や「自然さ」に注目するという点で共通しているが,観点がずれていることを示してきた.術語には定義とは別に慣用というものもあるので,正確に使いこなすというのはなかなか難しいものである.

Referrer (Inside): [2019-07-07-1]

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2010-10-07 Thu

#528. 次に規則化する動詞は wed !? [verb][conjugation]

 昨日の記事[2010-10-06-1]で紹介した Lieberman et al. の論文で疑問点がもう1つあった.計算に基づく予測によると,今後最も近い未来に規則化する動詞は頻度指標からいって wed である可能性が高いという.理論上のこととはいえ言語変化を予測できる可能性があるというのは実に興味深い.

What will be the next irregular verb to regularize? It is likely to be wed/wed/wed. The frequency of 'wed' is only 4.2 uses per million verbs, ranking at the very bottom of the modern irregular verbs. Indeed, it is already being replaced in many contexts by wed/wedded/wedded. Now is your last chance to be a 'newly wed'. The married couples of the future can only hope for 'wedded' bliss. (715)


 予測自体はよいとして,誤解を招く表現があるので指摘しておきたい.そもそも wed は古英語の弱変化動詞(規則変化動詞) weddian に由来し,以来 dental suffix を伴った wedded やその異形態が通常の過去・過去分詞形だった.中英語では北部方言で wede が起こるが稀で,不規則動詞として活用すること「も」あったというのが正確である.この場合も,厳密には不規則動詞化したというよりは weded などからの母音中略および単子音化の過程を経た結果と考えるのが妥当かもしれない.
 不規則変化 wed はその後,英国方言やアメリカで一般的になったが,wedded などの規則的な形態は連綿として続いていたのであり,wedweddedregularize するだろうという予測は,この語の形態の歴史を直線的,一面的にしか捉えていないことになる.ただし,the modern irregular verbs と表現していること,調査対象とした177の古英語の強変化動詞に wed が入っていないことから,Lieberman et. al が以上の事実をまったく知らなかったということではないと思われる.また,この予測は論文の最後のほうで示されており,明らかに論文を印象深く終えようとした意図がうかがわれ,ちょっとした付け足し情報のつもりなのだろうとも思う.だが,(1) 動詞の形態の変化が必ずしも一方向ではないこと,(2) 規則形と不規則形の共存している期間を正しく評価する必要があることは,指摘しておきたい.

 ・ Lieberman, Erez, Jean-Baptiste Michel, Joe Jackson, Tina Tang, and Martin A. Nowak. "Quantifying the Evolutionary Dynamics of Language." Nature 449 (2007): 713--16.

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2010-10-06 Wed

#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する? [verb][conjugation][statistics][lexical_diffusion][speed_of_change][frequency]

 言語進化論の立場からの驚くべき論文を読んだ.古英語の強変化動詞(不規則変化動詞)が時間とともに現在・未来に向かって規則化してゆく速度は,その動詞の頻度指標の2乗に反比例するというのである.不規則形の規則化と頻度に相関関係があることは多くの関連研究で明らかにされてきているが,この研究で驚かされるのは具体的な数式を挙げてきたことである.
 古英語から取り出した177の不規則動詞(現在にまで廃語となっていないもののみ)のうち,中英語でも不規則のまま残ったのは145個,近代英語でも不規則のままなのは98個だという.また,未来に計算式を当てはめると西暦2500年までに不規則のまま残っているのは83個であると予測している.
 この論文には計算に関わる数々の前提が説明されているが,細かくみればいろいろと疑問点がわき出てくる.

 ・ 現代英語における各動詞の頻度をコーパスで求めているのはよいとして,古英語と中英語における頻度の求め方は適切か.著者たちは中英語に関しては The Penn-Helsinki Parsed Corpus of Middle English を利用したと述べているが,現代英語の頻度を流用して計算している箇所もあった.もっとも,この流用による値の乱れは大きくないという議論は論文内で展開されてはいるが.
 ・ 現代英語については標準変種を想定して動詞を数えているが,過去の英語についてはどの変種を選んでいるのかが不明.おそらくは雑多な変種を含めたコーパスを対象としているのだろう.
 ・ 古英語から現代英語にかけておよそ一定の速度で規則化が起こっているという結果だが,近代期以降は「自然な」言語変化に干渉を加える規範文法の成立や教育の普及という社会的な出来事があった.こうした事情を考え合わせたうえで一定の速度であるということは何を意味するのか.
 ・ 規則形が現われだした時点ではなく,不規則形が最後に現われた(のちにもう現われないことになる)時点をカウントの基準にしているが,両形が共存している時期の長さについては何か言えることはあるのか.

 ただ,非常に大きな視点からの研究なので,あまり細かい点を持ち出して評するのもどうかとは思う.そこで,細かいことは抜きにしてこのマクロな研究結果を好意的に受け入れてみることにして,次にこの研究の後に生じるはずの大きな課題を考えてみたい(論文中には特に further studies が示されていないかったので).
 「規則化の速度が動詞の頻度指標の2乗に反比例する」という結果が出たが,この公式は英語の動詞の規則化だけに適用される単発の公式と考えてよいのだろうか.他のいくつかの(望むらくは多くの)言語的規則化にも一般的に適用できるのであればとても有意義だが,おそらくそれほどうまくは行かないだろう.そうすると,今回のように綺麗に公式が導き出される「理想的な」規則化の例は,逆に言うとどのような条件を備えているのだろうか.この条件を一般化することはできるのだろうか,また意味があるのだろうか.
 私も「理想的な言語変化の推移」には関心があり,言語変化は slow-quick-quick-slow のパターンのS字曲線を描くとする語彙拡散 ( lexical diffusion ) という理論に注目しているが,上記と同じ課題を抱えている.現実には,理想的な言語変化の推移の起こることは稀だからである.この問題については今後もじっくり考えていきたい.

 ・ Lieberman, Erez, Jean-Baptiste Michel, Joe Jackson, Tina Tang, and Martin A. Nowak. "Quantifying the Evolutionary Dynamics of Language." Nature 449 (2007): 713--16.

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2010-09-01 Wed

#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ [emode][verb][conjugation][variation][corpus][ppceme]

 近代英語期には,動詞の過去形や過去分詞形に数々の異形態があったことが知られている.特に母音の変化 ( ablaut, or vowel gradation ) によって過去形,過去分詞形を作った古英語の強変化動詞に由来する動詞は,-ed への規則化の傾向とも相俟って変異の種類が多かった.
 現代英語でも過去形や過去分詞形に変異のある動詞はないわけではない.例えば bid -- bid / bade / bad -- bid / bidden, prove -- proved -- proved / proven, show -- showed -- shown / showed, sow -- sowed / sown -- sown / sowed などがある.しかし,近代英語期の異形態間の揺れは現代英語の比ではない.18世紀の著名な規範文法家 Robert Lowth (1710-87) ですら揺れを許容しているほどだから,それだけ収拾がつかなかったということだろう ( Nevalainen, pp. 93--94 ) .
 今回はこの問題に関して,[2010-03-03-1]で紹介した PPCEME ( Penn-Helsinki Parsed Corpus of Middle English, second edition ) により,主要な動詞(とその派生・複合動詞)の過去形について異形態をざっと検索してみた.単に異綴りと考えられるものもあるが,明らかに語幹母音の音価の異なるものもあり,揺れの激しさが分かるだろう.カッコ内は頻度.

awake : awaked (1), awoke (3)
bear : bar (6), bare (133), barest (2), beare (1), bore (24)
begin : be-gane (12), be-gayne (1), began (281), began'st (1), begane (13), begann (1), beganne (27), begannyst (1), begayn (1), begayne (1), begon (1), begun (10)
break : brak (6), brake (60), brakest (2), break (2), broake (7), brok (4), broke (49), brokest (1)
come : bacame (1), becam (5), became (79), become (1), cam (475), came (2170), camest (11), camst (4), com (27), come (55), comst (1), ouercame (4), ouercome (2), over-cam (1), overcame (2), overcome (1)
drink : drancke (3), dranckt (1), drank (19), dranke (21), dronke (3), drunk (1), drunke (2)
eat : ate (15), eat (11), eate (12), ete (2)
fall : befel (1), befell (6), fel (15), fele (1), fell (306), felle (4), ffell (1)
find : fande (4), ffond (1), ffonde (1), ffound (1), find (1), fond (2), fonde (2), found (344), founde (63)
get : begat (67), begate (60), begot (3), begott (2), forgat (3), forgate (2), forgot (8), forgote (1), forgott (2), gat (10), gate (15), gatt (4), gatte (1), got (101), gote (23), gott (23)
give : forgaue (2), gaue (261), gauest (9), gave (364), gavest (12), gayff (4), gayffe (2), geve (1), misgaue (1)
help : help'd (2), help't (1), helped (5), helpt (1), holp (1), holpe (1)
know : knew (419), knewe (88), knewest (3), knewyst (1), know (1), knowe (1), knowethe (1), knue (1), knwe (1)
ring : rang'd (1), rong (1), rung (1), runge (1)
run : ran (77), rane (7), rann (3), ranne (38), run (12), rune (1), runn (1)
see : saw (627), saw (1), sawe (237), sawest (14), sawiste (1), see (5)
sing : sang (7), sange (5), song (11), songe (3), sung (13)
sink : sanke (1), sunke (1)
speak : bespake (2), spak (2), spake (318), spoak (1), spoake (8), spock (1), spoke (61), spokest (2)
spring : sprang (1), sprange (5), spronge (1), sprung (3), sprunge (1)
swear : sware (55), swoare (1), swore (56)
take : betoke (1), betook (4), betooke (4), mistook (1), mistooke (2), ouer-tooke (1), ouertoke (2), ouertooke (3), overtook (2), overtooke (2), take (1), taked (3), tok (2), toke (333), tokened (1), tokest (2), took (296), tooke (333), tooke (1), undertook (8), undertooke (2), vnd=er=tooke (1), vndertooke (2)
write : wrat (1), wrate (7), wret (32), wrett (49), writ (19), write (2), writt (8), writte (1), wrot (21), wrote (106), wrote (1), wrott (7), wrotte (3), wryt (1), wryte (1), wrytt (2)


 近代英語期の強変化動詞の過去形,過去分詞形の揺れは様々に研究されているが,Nevalainen の References から以下の2件の研究を見つけたのでメモしておく.

 ・ Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.
 ・ Gustafsson, Larisa O. Preterite and Past Participle Forms in English, 1680--1790. Studia Anglistica Upsaliensia 120. Uppsala: Uppsala U, 2002.
 ・ Lass, Roger. "Proliferation and Option-Cutting: The Strong Verb in the Fifteenth to Eighteenth Centuries." Towards a Standard English, 1600--1800. Ed. Dieter Stein and Ingrid Tieken-Boon van Ostade. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 81--113.

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2010-07-10 Sat

#439. come -- came -- come なのに welcome -- welcomed -- welcomed なのはなぜか [verb][conjugation][etymology][sobokunagimon]

 古英語の多くの強変化動詞が後の時代に弱変化化(規則化)していったという歴史を研究テーマとする学生と話をしていたときに,come は古英語から現代英語に至るまで強変化(不規則)のままだが,合成語の welcome は現代では弱変化(規則)動詞になっているのが不思議だという話題になった.確かに,単純形と合成形の動詞の変化は一致するのが普通である ( ex. come -- came -- come に対して overcome -- overcame -- overcomeget -- got -- got(ten) に対して forget -- forgot -- forgot(ten) ) .welcome はドイツ語 Willkommen,フランス語 bienvenue でも分かるとおり,well + come のはずなのに,なぜ過去形は *welcame にならないのか.
 この謎を解決しようと welcome の語源を調べてみると,そもそも welcome の語源を思い違いしていたことが分かった.まず第一形態素 wel は,副詞 well ではなく名詞 will "desire, pleasure, will" に対応する.次に第二形態素 come は,動詞 come ではなく "comer" を意味する OE の名詞 cuma に対応する.OE cuma 自身は確かに動詞 cuman "come" に由来するが,動詞そのものではなくそこから派生した動作主名詞「来る人,客人」に対応するというのが盲点だった.したがって,welcome は OE の名詞 wilcuma 「望まれる客人,喜ばしい来訪者」に遡るということになる( OE の動作主の接尾辞 -a が現代に化石化して残っている例としても welcome は貴重である).客人に向かって wilcuma! と呼びかけるところから,間投詞としての「ようこそ」の意味が生じ,さらに形容詞としての「よく来た,歓迎される,喜ばしい」も発達した.いずれも OE から見られる用法である.意外なことに,Thank you に対する返答としての You're welcome は20世紀になってからの非常に新しい表現である.
 さて,OE の段階ですでに wilcuma 「望まれる客人」からは「望まれる客人として迎え入れる,ようこそと挨拶する」という意味の動詞も派生されていた.OE の典型的な派生動詞の接尾辞は -ian であり,このように派生された動詞は必ず弱変化として活用した.wilcumian は,本来の強変化動詞 cuman "come" と語源的には関連づけられながらも,派生によってできた動詞なので弱変化動詞として歩みを始めたのである.したがって,OE での過去形は wilcumode,これが現在 welcomed として受け継がれてきた.
 まとめると,現代英語の動詞 come は当初より強変化動詞だったが,welcome は動作主名詞から派生した弱変化動詞だったということになる.ヨーロッパの近隣の諸言語に対応語があるのは,それぞれ独立して発生したと考えるよりも,互いの間に借用が起こったためだろうと考えられる.

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2010-02-12 Fri

#291. 二人称代名詞 thou の消失の動詞語尾への影響 [pragmatics][personal_pronoun][conjugation][paradigm][deixis][t/v_distinction]

 英語史では,二人称代名詞の形態と機能の変遷はよく取りあげられるテーマの一つである.古英語では þūȝē はそれぞれ二人称の単数と複数を表し,単純に数カテゴリーに基づく区別をなしていた(屈折表は[2009-10-24-1]).
 中英語になると,thouye は,古英語からの数カテゴリーの基準に加え,[2009-10-29-1][2009-10-11-1]で触れたように,親称・敬称の区別を考慮に入れるようになった(屈折表は[2009-10-25-1]).T/V distinction と呼ばれる,語用論でいうところの社会的直示性 ( social deixis ) の機能が,単複の区別のうえに覆いかぶさってきたことになる.
 近代英語期には,thou が犠牲となり T/V distinction が解消されたが,同時に古英語以来の単複の区別も解消されてしまい,一般に二人称代名詞としては you だけが残った(屈折表は[2009-11-09-1]).
 中英語の T/V distinction やその対立解消の過程などは,語用論的な関心から英語史でもよく取りあげられるが,しばしば見落とされているのは thou の消失によって,単純化へ向かっていた動詞の屈折体系がさらに単純化したことである.thou が現役だった中英語期の動詞屈折をみてみよう.強変化動詞の代表として binde(n),弱変化動詞の代表として loue(n) の屈折表を掲げる.

ME Verb Conjugation

 中英語の段階では,数・人称による屈折語尾の種類は現在系列で -e(n), -est, -eth の3通りがあったが,これでも古英語に比べれば単純化している.過去系列にあってはさらに種類が少なく,事実上,弱変化二人称単数で -est が他と区別されるのみである.近代英語期に入ると,-e(n) も消失したので,動詞屈折の単純化はいっそう進むことになった.
 そして,近代英語期にもう一つだめ押しが加えられた.上に述べたように,語用論的な原因により thou が消失すると,thou に対応する二人称単数の屈折語尾 -est は現れる機会がなくなり,廃れていった.結果として,三人称単数の -eth (後に -s で置換される)のみが生き残り,現在に至っている.
 thou の消失が,英語の屈折衰退の流れに一押しを加えたという点は覚えておきたい.
 中英語期の動詞屈折については,以下のサイトも参照.

 ・ Horobin, Simon and Jeremy Smith. An Introduction to Middle English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002. 115--16.
 ・ Middle English Verb Morphology
 ・ ME Strong Verbs
 ・ ME Weak Verbs

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2009-12-26 Sat

#243. phonaesthesia と 現在・過去 [sound_symbolism][phonaesthesia][phonetics][conjugation]

 昨日の記事[2009-12-25-1]で,前舌・高母音が「近い,小さい」を,後舌・低母音が「遠い,大きい」を示唆するという英語の phonaesthesia を話題にした.
 認知科学では,空間的な「遠近」と時間的な「遠近」が関係していることは広く認められている.前舌・高母音は "here-me-now" を,後舌・低母音は "there-you-then" を象徴するという.時間の遠近の phonaesthesia についても,Smith 先生のお気に入りの例があるので紹介したい.
 その例というのは Prokosch からの引用にもとづいたものであり,以下は孫引きとなるが,Smith 先生の論文より再掲する.

American nursery talk offers an amusing illustration. A little steam train tries to climb a hill and says cheerfully, 'I think I can, I think I can.' But the hill is too steep, the poor little engine slides back and says sadly, 'I thought I could, I thought I could.' The front vowels [ɪ æ] aptly characterize the active interest in the successful performance, the back vowels [ɔ ʊ] the melancholy retrospect to what might have been. (Prokosch 122 qtd in Smith 13)


 不規則変化動詞の母音交替 ( Ablaut or gradation ) を観察してみると,現在形と過去形に現れる母音が前舌母音と後舌母音の対応を示している例が少なからずある ( Smith 14 ).特に,大母音推移以前の発音を想定すると,この傾向がよりよくわかるだろう.

現在形過去形
writewrote
bindbound
bearbore
treadtrod
shakeshook


 phonaesthesia は音と意味の関係の傾向にすぎない.例外を探せばいくらでも挙げられるだろう.だが,複数の variants が競合している環境で,ある variant が選ばれることになった場合,その選択を左右するパラメータの一つになりうるということは議論できるのではないだろうか.

 ・Prokosch, Eduard. A Comprehensive Germanic Grammar. Philadelphia: Linguistic Society of America, 1939.
 ・Smith, Jeremy J. "Phonaesthesia, Ablaut and the History of the English Demonstratives." Medieval English and its Heritage. Ed. Nikolaus Ritt, Herbert Schendl, Christiane Dalton-Puffer, and Dieter Kastovsky. Frankfurt am Main: Peter Lang, 2006.

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2009-10-22 Thu

#178. 動詞の規則活用化の略歴 [verb][conjugation][analogy][oe][statistics][sobokunagimon]

 現代英語の動詞は,規則動詞 ( regular verb ) と不規則動詞 ( irregular verb ) に大別される.
 規則動詞は原則として動詞の原形に -ed という語尾を付加して過去形・過去分詞形を作る.発音は語幹末の音にしたがって /d/, /ɪd/, /t/ のいずれかとなるが,いずれも歯音接尾辞 ( dental suffix ) を含んでいる( ex. played, wanted, looked ).これはゲルマン諸語に共通する過去形・過去分詞形の形成である.
 一方,不規則動詞 はいろいろと下位区分ができるが,多くは母音交替 ( ablaut or gradation ) によって過去形・過去分詞形を作る.swim -- swam -- swum, give -- gave -- given, come -- came -- come の類である.
 不規則動詞には基本動詞が多いために,相当数の不規則動詞があるかのように錯覚しがちだが,実際には70個ほどしかない.それ以外の無数の動詞は -ed で過去形・過去分詞形を作る規則動詞である.
 だが,昔からこのような分布だったわけではない.古英語では,およそ規則動詞に相当するものを弱変化動詞 ( weak verb ) と呼び,およそ不規則動詞に相当するものを強変化動詞 ( strong verb ) と呼んだが,後者は270語ほど存在したのである.だが,以降1000年の間に不規則動詞は激減した.この約270語がたどったパターンは以下のいずれかである.

 (1) 不規則動詞(強変化動詞)としてとどまった
 (2) 不規則動詞(強変化動詞)と規則動詞(弱変化動詞)の間で現在も揺れている
 (3) 規則動詞化(弱変化動詞化)した
 (4) 廃語として英語から消えた

 それぞれの内訳は以下の通りである.おおまかにいって,古英語の強変化動詞の1/3は廃れ,1/3は規則動詞化し,1/3は不規則動詞にとどまったといえる.

PDE Reflexes of OE Strong Verbs

 以下に簡単に具体例を挙げるが,定義上,(1) は現代英語に残っている不規則動詞であり,(4) は現代英語に残っていない語なので省略する.
 (3) のパターンには,help がある.この動詞は古英語では helpan -- healp / hulpon -- holpen母音交替によって活用していたが,現代英語では規則動詞となっている.その他,shave, step, yield などもかつては不規則動詞だった.
 (2) のパターンには,mow -- mowed -- mowed / mown, show -- showed -- showed / shown, prove -- proved -- proved / proven などがある.傾向としては,-ed の付いた規則形が優勢である.このパターンに属する動詞では,不規則形が廃れていくのも時間の問題かもしれない.

 ・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997. 69--75.

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2009-07-15 Wed

#78. Verbix とコーパス [software][web_service][conjugation][inflection][oe][me][corpus][variation]

 昨日の記事[2009-07-14-1]で,Verbix の古英語版の機能を紹介し,評価して終わったが,実は述べたかったことは別のことである.
 動詞の不定詞形を入れると活用表が自動生成されるという発想は,標準語として形態論の規則が確立している現代語を念頭においた発想である.これは古英語や中英語などには,あまりなじまない発想である.確かに古英語にも Late West-Saxon という「標準語」が存在し,古英語の文法書では,通常この方言にもとづいた動詞の活用表が整理されている.だが,Late West-Saxon の「標準語」内ですら variation はありうるし,方言や時代が変われば活用の仕方も変わる.中英語にいたっては,古英語的な意味においてすら「標準語」が存在しないわけであり,Verbix の中英語版というのは果たしてどこの方言を標準とみなして活用表を生成しているのだろうか.
 Verbix 的な発想からすると,方言や variation といった現象は,厄介な問題だろう.このような問題に対処するには,Verbix 的な発想ではなくコーパス検索的な発想が必要である.タグ付きコーパスというデータベースに対して,例えば「bēon の直説法一人称単数現在形を提示せよ」とクエリーを発行すると,コーパス中の無数の例文から該当する形態を探しだし,すべて提示してくれる.その検索結果は,おそらく Verbix 型のきれいに整理された表ではなく,変異形 ( variant ) の羅列になるだろう.古英語の初学者にはまったく役に立たないリストだろうが,研究者には貴重な材料だ.
 英語史研究,ひいては言語研究における現在の潮流は,標準形を前提とする Verbix 的な発想ではなく,variation を許容するコーパス検索的な発想である.同じプログラミングをするなら,Verbix のようなプログラムよりも,コーパスを検索するプログラムを作るほうがタイムリーかもしれない.
 とはいえ,Verbix それ自体は,学習・教育・研究の観点から,なかなかおもしろいツールだと思う.だが,個人的な研究上の都合でいうと,古英語や中英語の名詞の屈折表の自動生成ツールがあればいいのにな,と思う.誰か作ってくれないだろうか・・・.自分で作るしかないのだろうな・・・.

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2009-07-14 Tue

#77. 動詞の活用表を生成してくれる「Verbix」 [software][web_service][conjugation][inflection][oe]

 Verbix: conjugate Old-English verbsでは,古英語の動詞(不定詞)をキーワードとして入れると,活用表が自動的に生成されるというウェブサービスを無償で提供している.
 古英語のみならず,現代英語を含め,世界の諸言語に対応しており,各言語の学習者,教育者,研究者にとって有益である.このサイトでは,ダウンロード可能な単体で動く同機能のアプリケーションもシェアウェアとして提供しており,一ヶ月までなら試用もできる.アプリケーション版では,機能拡張を施せば,中英語にも対応するようになるというから興味深い.

conjugation of beon

 上のスクリーンショットは,アプリケーション版で古英語の bēon "to be" の活用表を生成させた場面だが,みごとに wesan ( bēon に代わる別の動詞)の活用表に置き換えられてしまっている.現代英語でもそうだが bēon は著しく不規則な活用を示すわけで,こんな動詞をキーワードに入れてくれるなという Verbix からのメッセージとも受け取れる.
 そもそもアプリケーションのプログラム内では,どのように活用表が生成されているのだろうか.最初は,おそらく各動詞の活用形がそのままデータベースに納められており,プログラム側がそれを呼び出すだけなのではないかと思っていた.だが,bēon の例を見ると,そのようなきめ細かなデータ格納法はとられていないように思える.
 考えられるもう一つの方法は,最少限の基底形(古英語であれば「不定形 -- 第一過去形 -- 第二過去形 -- 過去分詞形」の4形態[2009-06-09-1])と所属クラスだけがデータベースに登録されており,あとは形態音韻規則によってプログラムに各活用形を生成させるという方法だ.こうすると,データ部の容量は節約できる.
 人間の脳では,上の二つの仕組みが連携して作用していると考えられる.大半の動詞についてはルールに基づいて活用形が生成されるが,bēon のような不規則活用をする動詞の場合には,ルールでは導かれないので,活用形がそのままデータとして格納されているというわけである.Verbix でも二つの方法が組み合わさって活用表の生成機能が実現されているのかもしれないが,bēon まではサポートが及ばなかったというだけのことかもしれない.
 上記のような問題はあるが,古英語動詞の活用の練習には使えそうだ.かつて学んだ動詞活用を Verbix で復習してみよう.

 ・Verbix の古英語版
 ・Verbix の現代英語版
 ・Verbix の対応言語一覧

Referrer (Inside): [2009-07-15-1]

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2009-07-03 Fri

#66. 過去現在動詞 [preterite-present_verb][conjugation]

 [2009-06-25-1]過去現在動詞 ( preterite-present verb ) に触れた.過去現在動詞 とは,本来は強変化動詞だったが,その過去形が現在の意味を表すようになり,改めて弱変化で過去形が作られるようになった動詞である.そのため,強弱変化動詞 ( strong-weak verb ) とも呼ばれる.古英語には,以下のような過去現在動詞があった.古英語の不定詞を挙げる.

 ・āgan "to own" > PDE to own
 ・cunnan "to know" > PDE can
 ・dugan "to avail"
 ・"dare" (不定詞を欠く) > PDE dare
 ・(ge)munan "to remember"
 ・magan "can" > PDE may
 ・"must" (不定詞を欠く) > PDE must
 ・schulan "shall" > PDE shall
 ・þurfan "need"
 ・unnan "to grant"
 ・witan "to know" > PDE wit

 magan "can" ( > PDE may ) の古英語での屈折を見てみよう.

Present Indicative Subjunctive
1st sg. mæg mæge
2nd sg. meaht, miht
3rd sg. mæg
pl. magon mægen


Past Indicative Subjunctive
1st sg. meahte, mihte meahte
2nd sg. meahtest, mihtest
3rd sg. meahte, mihte
pl. meahton, mihton meahten


 一般の動詞の屈折を知っている者であれば,現在形の屈折が強変化動詞の過去屈折にそっくりであること,そして過去形の屈折が弱変化動詞の過去屈折にそっくりであることがわかるだろう.現代英語の may -- might のペアは,形態的には,過去形と二重過去形という関係なのである.

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2009-06-09 Tue

#42. 古英語には過去形の語幹が二種類あった [oe][inflection][conjugation][verb]

 現代英語の不規則動詞を覚えるとき、「現在形 -- 過去形 -- 過去分詞形」の三つを唱えるのが通例である.drive -- drove -- driven といった具合にだ.
 ところが、古英語の強変化動詞(現代英語の不規則変化動詞に相当)では四つの形態を暗記する必要がある.その四つとは「不定形 -- 第一過去形 -- 第二過去形 -- 過去分詞形」であり、上と同じ動詞でみると drīfan -- drāf -- drifon -- drifen となる.
 現代英語の過去形 drove は、古英語の第一過去形 drāf に由来し、第二過去形の drifon は失われてしまった.
 そもそも第一過去形と第二過去形とはどう使い分けられていたのだろうか.そえぞれ別名を過去単数と過去複数ということからもわかるとおり、主語が単数か複数かによってどちらの語幹が選ばれるかが決まった.語幹とは別に、語尾も数と人称で屈折することに留意しつつ、直説法過去の屈折表をみてみよう.

Preterite Indicative of drīfan
PersonSg.Pl.
1stdrāfdrifon
2nddrife
3rddrāf


 表をみると、複数の屈折と二人称単数の屈折において第一過去形の語幹が現れ、一人称単数と三人称単数の屈折において第二過去形の語幹が現れていることがわかる.二人称単数が複数と同じ語幹をもつので、厳密にいえば「過去単数」と「過去複数」という区別の仕方は誤解を招く.それで仕方なく「第一過去形」と「第二過去形」と呼んでいるのである.だが、二人称単数の例外を念頭に置いておく限りは、「過去単数」「過去複数」という呼び方は理解しやすいので、よく用いられる.
 中英語の時代に、現代英語のように過去形の形態が一つにまとまっていったが、その際に第一、第二のどちらの過去形が採用されたかは、動詞によって異なる.ランダムに決まったといっていいが、過渡期には両形態が共存・競争した様子がうかがえる.
 結果的に、現代英語では過去形は原則として一つしかありえないこととなったが、古き時代の名残が、ある動詞に化石的に残存している.be 動詞である.第一過去形(過去単数)が was で、第二過去形(過去複数)が were である.また、古英語の分布を直接に反映しているわけではなく、別の歴史的経緯ではあるのだが、二人称単数 you 「あなた一人」は第二過去形(過去複数)の were をとるのがおもしろい.結果的に古英語の両過去形の分布と同じ分布となっている.
 古英語の強変化動詞では、一般動詞でも現在の be 動詞のように二つの過去形態を持っていたということを記憶にとどめておきたい.

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