「名前動後」の現象について,diatone の各記事で触れてきた.Kelly and Bock の研究によれば,2音節語における名前動後の強勢パターンは,一般的な強勢位置の傾向を反映しているという.すなわち,2音節の名詞では第1音節に強勢のおちる強弱型 (trochaic) ,2音節の動詞では第2音節に強勢の落ちる弱強型 (iambic) が普通とされる.この傾向は stress typicality と呼ばれるが,率でいえばどの程度の傾向を示すのだろうか.
Amano は,Kelly and Bock や Sereno の調査結果を参照しながら,MRC Psycholinguistic Database を用いた独自の調査をおこなった.調査間の比較が可能となるように,純粋な名詞(他の品詞機能をもたないもの)と純粋な動詞に限定しての数え上げだが,次のような結果となった.他の調査と合わせて,Amano (86) の調査の統計を挙げよう.
researcher | category | result |
Sereno (1986) | noun | out of 1425 nouns, 93% are trochaic |
verb | out of 523 verbs, 76% are iambic |
Kelly & Bock (1988) | noun | out of 3202 nouns, 94% are trochaic |
verb | out of 1021 verbs, 69% are iambic |
Amano (2009) | noun | out of 5766 nouns, 92.92% are trochaic |
verb | out of 1184 verbs, 72.65% are iambic |
(注記.Sereno の値は Brown Corpus によるものであり,Amano (86) より孫引きしたものである.しかし,直接 Sereno の原典に当たったところ,名詞が92%,動詞が85%と異なる値が示されていた.)
調査間に大きな差異はなく,名詞の約93%が trochaic,動詞の約73%が iambic という事実が確認された.対比的に評価すれば,品詞ごとに stress typicality があることは,疑いえない.なぜこのような傾向があるのかという問題については,Kelly and Bock および Amano で論じられている.要約すれば,2音節名詞を強弱型に,2音節動詞を弱強型にそれぞれはめ込むことにより,周囲の語とともに,強勢と無強勢の交替のリズムを作りやすくなるからである.名詞は無強勢の冠詞が前置されることが多いので,あわせて「弱強弱」となりやすく,動詞は1音節の屈折語尾(-
ing および語幹の一定の音声環境のもとでの
ed や -
es)を伴う頻度が名詞よりも高いので,あわせて「弱強弱」となりやすい,等々.
名前動後の問題を考える際にも,2音節語の名詞・動詞に関するこの一般的な傾向を念頭に置いておく必要があるだろう.
・ Kelly, Michael H. and J. Kathryn Bock. "Stress in Time."
Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance 14 (1988): 389--403.
・ Sereno, J. A. "Stress Pattern Differentiation of Form Class in English."
The Journal of the Acoustical Society of America 79 (1986): S36.
・ Amano, Shuichi. "Rhythmic Alternation and the Noun-Verb Stress Difference in English Disyllabic Words." 『名古屋造形大学名古屋造形芸術大学短期大学部紀要』 15 (2009): 83--90.
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