hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     前ページ 1 2 / page 2 (2)

christianity - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-10-25 11:06

2013-04-19 Fri

#1453. Franks Casket [inscription][runic][oe][christianity][anglo-saxon]

 8世紀前半,Northumbria で作られたとされる The Franks Casket を紹介する.1867年,大英博物館の考古学部門の学芸員だった Augustus Franks は,パリで購入していた鯨骨で作られた小箱を展示した.そのとき小箱の右側面は失われていたが,後にその側面がイタリアで発見され,現在はその鋳型がはめられた状態で大英博物館に所蔵されている.正面,両側面,背面,蓋には,ルーン文字による古英語やローマ字によるラテン語が刻まれており,そのテキストは彫られている絵柄とともにローマ,ユダヤ,キリスト教,ゲルマンの伝統を表わしており,キリスト教へ改宗して間もない当時のイングランドの移行的,混合的な文化を示唆する.
 正面は,左と右にある2つの絵柄からなる.左にはゲルマンの伝説の Wayland the Smith が描かれ,右には東方の三博士が赤ん坊のキリストを崇拝している様子が描かれている.彼らの頭の上にはルーン文字で mægi と記されている.正面の縁には左下から時計回りにルーン文字で碑文が彫られているが,このテキストは古英語詩としては最古のものであり,内容は絵柄の説明ではなくなぞなぞ (riddle) となっている.テキストの読みについては議論があるが,ある解釈にしたがえば次のようになる(現代英語対訳つき).

fisc . flodu . ahof on fergenberig    the flood cast up the fish onto the cliff-bank
warþ gasric grorn þær he on greut giswom    the ghost-king was sad when he swam onto the shingle
hronæs banh    whale's bone


なぞなぞの答えは,この小箱の材質である「鯨骨」である.「#1435. The Caistor rune」 ([2013-04-01-1]) でみたノロジカ骨のサイコロように,材質をことばで示す慣習は,この時代の工芸品によく見られる.
 左側面は,狼に育てられたローマの2人の建国者 Romulus と Remus が描かれている.テキストは古英語で,絵柄の内容説明である.
 背面には,70年のローマ皇帝 Titus による Jerusalem 攻略の様子が描かれている.テキストは古英語とラテン語での内容説明.
 右側面は,絵柄も古英語の説明テキストも意味がはっきりしないが,ゲルマンの伝説にちなんでいるようだ.
 蓋の部分には,Ægili なる射手が家を守っている絵柄が描かれる.
 全体として何かまとまったメッセージになっているというよりは,種々の伝統文化の融合が強く感じられる.
 以上,Crystal (15--16) を参照して執筆した.古英語碑文については,「#572. 現存する最古の英文」 ([2010-11-20-1]) も参照.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-04-03 Wed

#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例 [loan_word][latin][oe][christianity][borrowing]

 英語史におけるラテン語借用については,latin loan_word の幾多の記事で取り上げてきた.古英語期以前のラテン借用については,「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1]) で簡単な時代別の分類に触れ,いくつかの例を挙げたにすぎないので,今回はもう少し例を挙げてみたい.
 Crystal (59--65) では,古英語以前のラテン語借用を,Serjeantson (Appendix A) にしたがって (1) 大陸時代,(2) c. 450--c. 650, (3) c. 650--c. 1100 と時代別に3区分している.以下に,それぞれの時代を代表する例をいくつか挙げよう.

(1) 大陸時代
 belt (belt) < L balteus
 butere (butter) < L butyrum
 camp (field, battle) < L campus
 candel (candle) < L candela
 catt (cat) < L cattus
 ceaster (city) < L castra
 cetel (kettle) < L catillus
 cupp (cup) < L cuppa
 cycene (kitchen) < L coquina
 cyse (cheese) < L caseus
 draca (dragon) < L draco
 mæsse (mass) < L missa
 mil (mile) < L mille
 minte (mint) < L menta
 munuc (monk) < L monachus
 mynster (minster) < L monasterium
 panne (pan) < L panna
 piper (pepper) < L piper
 pise (pea) < L pisum
 plante (plant) < L planta
 port (door, gate) < L porta
 port (harbour, town) < L portus
 pund (pound) < L pondo
 sacc (sack, bag) < L saccus
 sinoð (council, synod) < L synodus
 stræt (road) < L strata
 tigle (tile) < L tegula
 weall (wall) < L vallum
 win (wine) < L vinum
 ynce (inch) < L uncia

(2) c. 450--c. 650
 cocc (cock) < L coccus
 cugle (cowl) < L cuculla
 cyrtan (to shorten, curtail) < L curtus
 forca (fork) < L furca
 fossere (spade) < L fossorium
 græf (stylus) < L graphium
 læden (Latin) < L ladinus (Vulgar Latin)
 leahtric (lettuce) < L lactuca
 mægester (master) < L magister
 nunne (nun) < L nonna
 pere (pear) < L pirum
 pinsian (to reflect, consider) < L pensare
 punt (punt, flat boat) < L ponto
 relic (relic) < L reliquia
 renge (spider) < L aranea
 seglian (to seal) < L sigillare
 segn (mark, sign) < L signum
 stropp (strap) < L stroppus
 torr (tower) < L turris
 turl (ladle, trowel) < L trulla

(3) c. 650--c. 1100
 alter (altar) < L altar
 biblioþece (library) < L bibliotheca
 cancer (crab) < L cancer
 creda (creed, belief) < L credo
 cucumer (cucumber) < L cucumer
 culpe (guilt, fault) < L culpa
 diacon (deacon) < L diaconus
 fenester (window) < L fenestra
 fers (verse) < L versus
 grammatic (grammar) < L grammatica
 mamma (breast) < L mamma
 notere (notary) < L notarius
 offrian (sacrifice, offer) < L offere
 orgel (organ) < L organum
 papa (pope) < L papa
 philosoph (philosopher) < L philosophus
 predician (preach) < L praedicare
 regol (religious rule) < L regula
 sabbat (sabbath) < L sabbatum
 scol (school) < L scola

 Serjeantson のリストによれば,(1) には183語,(2) には114語,(3) には244語が挙がっているが,各語の時代区分の正確性は必ずしも保証されておらず,額面通りに受け取るには注意を要する.だが,単語の意味領域について一般的にいえば,(1) は日常語を含む幅広い意味領域を覆っているが,(2) では宗教的な色彩が見え始め,(3) では宗教に加え学識を感じさせる単語が多い.キリスト教の伝来を契機に,ラテン借用語の質が変化したことを見て取ることができる.借用の媒介に関しても,(1) や (2) は主として話し言葉から入ったが,(3) は主として書き言葉を通じて流入したと想定される.
 上記のリストでは,主に現代英語まで残ったラテン借用語を挙げてあるが,実際には現代英語にまで生き残らなかったものも多い.現代標準英語に残っているのは,約100語くらいのものである.大多数が後に死語となった背景には,中英語期に同義のフランス借用語が流入したという事情がある.新しくて格好のよいフランス語が,古めかしいラテン語に取って代わったのである.ただし,現代まで残っているラテン借用語の多くは,本来語彙と同じぐらい盤石に英語語彙に根付いている.
 なお,古英語期以前に同一のラテン単語が2度借用された例もあるので,触れておこう.L calicem は "cup" の意味で最初に celc として,後に calic として古英語に借用された.同様の例を挙げる.

 cliroc, cleric (cleric, clergyman) < L clericus
 læden, latin (Latin) < L latinus
 leahtric, lactuca (lettuce) < L lactuca
 minte, menta (mint) < L menta
 spynge, sponge (sponge) < L spongea

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
 ・ Serjeantson, Mary S. A History of Foreign Words in English. London: Routledge and Kegan Paul, 1935.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2010-02-17 Wed

#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響 [japanese][hybrid][loan_word][latin][christianity][alphabet][religion][buddhism][hebrew]

 [2009-05-30-1]の記事で,6世紀にブリテン島にもたらされたキリスト教が,アングロサクソン人と英語に多大な影響を与えたことを見た.キリスト教は,布教の媒体であったラテン語とともに英語の語彙に深く入り込んだだけでなく,英語に alphabet という文字体系をもたらしもした.6世紀のキリスト教の伝来は,英語文化史的にも最重要の事件だったとみてよい.
 興味深いことに,同じ頃,ユーラシア大陸の反対側でも似たような出来事が起こっていた.6世紀半ば,大陸から日本へ仏教という外来宗教がもたらされた.仏教文化を伝える媒体は漢語(漢字)だった.日本語は,漢字という文字体系を受け入れ,仏教関連語彙として「法師(ほふし)」「香(かう)」「餓鬼(がき)」「布施(ふせ)」「檀越(だにをち)」などを受容した.『万葉集』には漢語は上記のものなど少数しか見られないが,和歌が主に大和言葉を使って歌われるものであることを考えれば,実際にはより多くの漢語が奈良時代までに日本語に入っていたと考えられる.和語接辞と漢語基体を混在させた「を(男)餓鬼」「め(女)餓鬼」などの混種語 ( hybrid ) がみられることからも,相当程度に漢語が日本語語彙に組み込まれていたことが想像される.
 丁寧に比較検討すれば,英語と日本語とでは文字や語彙の受容の仕方の詳細は異なっているだろう.しかし,大陸の宗教とそれに付随する文字文化を受け入れ,純度の高いネイティブな語彙体系に外来要素を持ち込み始めたのが,両言語においてほぼ同時期であることは注目に値する.その後,両言語の歴史で外来語が次々と受け入れられてゆくという共通点を考え合わせると,ますます比較する価値がありそうだ.
 また,上に挙げた「餓鬼(がき)」「布施(ふせ)」「檀越(だにをち)」などの仏教用語が究極的には梵語 ( Sanskrit ) という印欧語族の言語にさかのぼるのもおもしろい.英語に借用されたキリスト教用語もラテン語 ( Latin ) やギリシャ語 ( Greek ) という印欧語族の言語の語彙であるから,根っことしては互いに近いことになる.(もっとも,究極的にはキリスト教用語の多くは非印欧語であるヘブライ語 ( Hebrew ) にさかのぼる).偶然の符合ではあるが,英語と日本語における外来宗教の言語的影響を比べてみるといろいろと発見がありそうだ.

 ・山口 仲美 『日本語の歴史』 岩波書店〈岩波新書〉,2006年. 40--42頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2009-05-30 Sat

#32. 古英語期に借用されたラテン語 [loan_word][latin][oe][christianity]

 英語にはラテン語からの借用語が大量に存在する.歴史的に見ると,これらのラテン借用語の流入にはいくつかの波がある.古英語期以前だけに限ってもその波は三つある.

 (1) アングル人,サクソン人,ジュート人がまだ大陸にいた時代にラテン語と接したときの借用
 (2) ブリテン島がローマ人に支配されていたときにケルト人が借用したラテン語を,後にアングル人,サクソン人,ジュート人がブリテン島において借用したもの
 (3) ブリテン島に入ったアングル人,サクソン人,ジュート人が6世紀以降にキリスト教に改宗した際に借用したもの

 (3)に属する借用語は,その歴史的経緯からキリスト教関係の用語が多い.現代英語にも豊富に残っているこれらの用語の例を挙げよう.

abbot 「修道院長」, altar 「祭壇」, angel 「天使」, anthem 「聖歌」, candle 「ろうそく」, canon 「法規」, cleric 「聖職者」, deacon 「助祭」, demon 「悪魔」, disciple 「使徒」, gloss 「注解」, grammar 「文法」, hymn 「賛美歌」, martyr 「殉教者」, mass 「ミサ」, master 「先生」, minster 「大寺院,大聖堂」, monk 「修道士」, noon 「九つの時(の礼拝)」, nun 「修道女」, palm 「しゅろ」, pope 「ローマ教皇」, priest 「司祭」, prophet 「預言者」, psalm 「賛美歌」, psalter 「詩篇」, school 「学校」, shrive 「告解する」, temple 「神殿」, verse 「韻文」

 キリスト教の伝来が英語に及ぼした影響の大きさが垣間見える.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow