英語の語彙や意味の問題として,婉曲語法 (euphemism) は学生にも常に人気のあるテーマである.隣接領域として taboo, swearing, slang のテーマとも関わり,社会言語学寄りの語彙の問題として広く興味を引くもののようだ.
そもそも euphemism とは何か.まずは Cruse の用語辞典より解説を与えよう (57--58) .
euphemism An expression that refers to something that people hesitate to mention lest it cause offence, but which lessens the offensiveness by referring indirectly in some way. The most common topics for which we use euphemisms are sexual activity and sex organs, and bodily functions such as defecation and urination, but euphemisms can also be found in reference to death, aspects of religion and money. The main strategies of indirectness are metonymy, generalisation, metaphor and phonological deformation.
Sex:
intercourse go to bed with (metonymy), do it (generalisation)
penis His member was clearly visible (generalisation)
Bodily function:
defecate go to the toilet (metonymy), use the toilet (generalisation)
Death:
die pass away (metaphor), He's no longer with us (generalisation)
Religion:
God gosh, golly (phonological deformation)
Jesus gee whiz (phonological deformation)
Hell heck (phonological deformation)
この種の問題に関心をもったら,まずは本ブログより「#469. euphemism の作り方」 ([2010-08-09-1]),「#470. toilet の豊富な婉曲表現」 ([2010-08-10-1]),「#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」」 ([2012-01-14-1]) を始めとして (euphemism) の記事群,それから taboo の記事群にも広く目を通してもらいたい.
その後,以下の概説書の該当部分に当たるとよい.
・ Williams, Joseph M. Origins of the English Language: A Social and Linguistic History. New York: Free P, 1975. pp. 198--203.
・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000. pp. 43--49.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006. pp. 80--81.
書籍レベルとしては,Bussmann (157) と McArthur (387) の参考文献リストより,以下を掲げる.
・ Allan, K. and K. Burridge. Euphemism and Dysphemism: Language Used as a Shield and Weapon. New York: OUP, 1991.
・ Ayto, J. Euphemisms: Over 3,000 Ways to Avoid Being Rude or Giving Offence. London: 1993.
・ Enright, D. J., ed. Fair of Speech: The Uses of Euphemism. Oxford: OUP, 1985.
・ Holder, R. W. A Dictionary of American and British Euphemisms: The Language of Evasion, Hypocrisy, Prudery and Deceit. Rev. ed. London: 1989. Bath: Bath UP, 1985.
・ Lawrence, J. Unmentionable and Other Euphemisms. London: 1973.
・ Rawson, Hugh. A Dictionary of Euphemisms & Other Doubletalk. New York: Crown, 1981.
具体的な語の調査にあたっては,もちろん OED,各種の類義語辞典 (thesaurus),Room の語の意味変化の辞典などをおおいに活用してもらいたい.
・ Cruse, Alan. A Glossary of Semantics and Pragmatics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.
・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.
英語史の知見を活かして英語を教えるには(あるいは学ぶには)どのような方法がよいのか.英語史と英語教育の接点を探る試みは,古くて新しい課題である.近年も,英語史を学ぶ意義は何かという問題意識と関連して,日本でも世界でも,再びこの課題が注目されるようになってきている.
私自身が英語史研究者であると同時に英語教員でもあり,私の大学ゼミには英語教員を目指す学生が一定数いるということもあり,この問題には常に関心を抱いてきた.この分野についてまとまった論考を読むことのできる,近年出版された論文集や書籍を4点ほど紹介したい.
(1) 家入葉子(編)『これからの英語教育――英語史研究との対話――』 (Can Knowing the History of English Help in the Teaching of English?). Studies in the History of English Language 5. 大阪洋書,2016年.
(2) Heyes, Mary and Allison Burkette, eds. Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Oxford: OUP, 2017.
(3) 片見 彰夫・川端 朋広・山本 史歩子(編)『英語教師のための英語史』 開拓社,2018年.
(4) 「特集 英語史教育を考える――なぜ・どのように英語史を教えるのか」 Asterisk 第28巻,2020年.66--180頁.
まず (1) について.英語史研究会の企画による論集.私も寄稿させていただいており,「#2566. 「3単現の -s の問題とは何か」」 ([2016-05-06-1]) に目次なども掲げたのでご参照ください.
(2) は,本ブログでも何度か参照して関連する記事を書いてきた論集だが,英語圏での様々な英語史教育の理論と実践が紹介されている.日本とはまったく異なる観点・発想からの英語史教育論として,これはこれで新鮮.
(3) は,英語史の分野の一線で活躍する論者たちによる論集で,タイトルが表わしている通りの内容.英語史の知識の具体的な活用事例が紹介されている.
(4) は,古田直肇氏が企画した Asterisk 誌の特集記事群で,私も寄稿させていただいた.執筆者に現役教員や教員経験者が含まれており実践的な内容となっている.論考のラインナップを以下に示しておきたい.
・ 英語の授業に必要な英語史の基礎知識 (江藤 裕之)
・ リベラル・アーツとしての英語史 (織田 哲司)
・ 疑問解決手段としての英語史 (黒須 祐貴)
・ 英語史という“実学” (下永 裕基)
・ 大学で英語を学ぶということ (高山 真梨子)
・ 国際社会における英語史教育の必要性 (田本 真喜子)
・ 現代英語に重きをおいた英語史教育 (寺澤 盾)
・ 中学校・高等学校における英語史教育 (鴇崎 孝太郎)
・ 広い視野を教えてくれた英語史 (長瀬 浩平)
・ 故きを温ねて,文法のうつろいやすさを知る (中山 匡美)
・ 英語史教育における日英対照言語史の視点 (堀田 隆一)
・ 卓越は線の細部から (安原 章)
この Asterisk の特集は,2019年9月22日に開かれた,駒場英語史研究会シンポジウム「これからの英語史教育を考える――英語史をトリビアに終わらせないために」(コーディネーター:古田直肇氏氏)の成果を部分的に取り込んだものとなっている.私自身が同シンポジウムで「英語史教育における日英対照言語史の視点」と題する発表を行なっているので,参考までにこちらにその時のハンドアウトを公開しておこう.
以上の文献を参考に「英語史の知見を活かした英語教育」について考えてもらえれば幸いである.また,関連して「英語史を教える・学ぶ意義」について,次の記事も参照.
・ 「#4021. なぜ英語史を学ぶか --- 私的回答」 ([2020-04-30-1])
・ 「#3641. 英語史のすゝめ (1) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-16-1])
・ 「#3642. 英語史のすゝめ (2) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-17-1])
・ 「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1])
・ 「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1])
・ 「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1])
・ 「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1])
・ 「#2984. なぜ英語史を学ぶか (5)」 ([2017-06-28-1])
・ 「#4019. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!」 ([2020-04-28-1])
・ 「#2470. 2015年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2016-01-31-1])
・ 「#3566. 2018年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2019-01-31-1])
・ 「#3922. 2019年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2020-01-22-1])
・ 「#4045. 英語に関する素朴な疑問を1385件集めました」 ([2020-05-24-1])
・ 「#4073. 地獄の英語史からホテルの英語史へ」 ([2020-06-21-1])
・ 家入葉子(編)『これからの英語教育――英語史研究との対話――』 (Can Knowing the History of English Help in the Teaching of English?). Studies in the History of English Language 5. 大阪洋書,2016年.
・ Heyes, Mary and Allison Burkette, eds. Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Oxford: OUP, 2017.
・ 片見 彰夫・川端 朋広・山本 史歩子(編)『英語教師のための英語史』 開拓社,2018年.
・「特集 英語史教育を考える――なぜ・どのように英語史を教えるのか」 Asterisk 第28巻,2020年.66--180頁.
・ 堀田 隆一 「英語史教育における日英対照言語史の視点」(ハンドアウト) 駒場英語史研究会シンポジウム「これからの英語史教育を考える――英語史をトリビアに終わらせないために」 於東京大学駒場キャンパス,2019年9月22日.
標記の分野に関心をもつ学生が身近に増えてきたので,本記事で取っ掛かりの書誌を提供したい.英単語の意味変化や意味論について卒論・修論研究を行なおうと思うのであれば,まず語の意味変化の具体例と,そのパターンを知る必要がある.つまり「通時的な意味変化」を押さえる必要がある.その上で,そもそも意味とは何か,意味とは言語学的にどう扱えばいいのか,という一般的な問いへ進むとよいだろう.後者は「共時的な意味論」の学習である.
通常は英単語の意味に関して「共時的な関心から通時的な関心へ」と進むのが(もし進むのであれば)オーソドックスな順路かと思われるが,身近なゼミ学生には通時的・歴史的な関心が先行している人もいるので,むしろ「通時的な関心からな共時的関心へ」と書誌を並べておきたい.
[ 通時的な関心のために --- 英単語の意味変化についてのお薦め書誌 ]
・ 寺澤 盾 『英単語の世界 --- 多義語と意味変化から見る』 中央公論新社〈中公新書〉,2016年.
・ 堀田 隆一 「第8章 意味変化・語用論の変化」『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 服部 義弘・児馬 修(編).朝倉書店,2018年.151--69頁.(手前味噌ですが.cf. 「#3283. 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]が出版されました」 ([2018-04-23-1]))
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.
・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.(これを手元においておくと便利.cf. 「#4243. 英単語の意味変化の辞典 --- NTC's Dictionary of Changes in Meanings」 ([2020-12-08-1]))
・ Stern, Gustaf. Meaning and Change of Meaning. Bloomington: Indiana UP, 1931.
・ Waldron, R. A. Sense and Sense Development. New York: OUP, 1967.
・ Williams, Joseph M. Origins of the English Language: A Social and Linguistic History. New York: Free P, 1975. (本書の p. 191以降がよく書けた意味変化論となっている)
[ 共時的な関心のために --- 意味とは何かを学ぶためのお薦め書誌 ]
・ イレーヌ・タンバ 著,大島 弘子 訳 『[新版]意味論』 白水社〈文庫クセジュ〉,2013年.
・ 中野 弘三(編)『意味論』 朝倉書店,2012年.
・ ピエール・ギロー 著,佐藤 信夫 訳 『意味論』 白水社〈文庫クセジュ〉,1990年.
・ Hofmann, Th. R. Realms of Meaning. Harlow: Longman, 1993.
・ Ogden, C. K. and I. A. Richards. The Meaning of Meaning. 1923. San Diego, New York, and London: Harcourt Brace Jovanovich, 1989.
・ Saeed, John I. Semantics. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009.
・ Ullmann, Stephen. The Principles of Semantics. 2nd ed. Glasgow: Jackson, 1957.
私自身の関心の偏りから,上記は認知言語学的な意味論というよりも主として伝統的な意味論に関する書誌となっている(あしからず).意味論について広く体系的に学びたい方は,ぜひ山中他(編)の研究社英語学文献解題第7巻『意味論』を参照されたい.
・ 山中 桂一,原口 庄輔,今西 典子 (編) 『意味論』 研究社英語学文献解題 第7巻.研究社.2005年.
あまり知られていないと思われる NTC's Dictionary of Changes in Meanings を紹介します.英単語の意味変化に特化した辞典です.これを手元に置いておくと便利なことが多いです.単語ごとにその意味変化を調べようと思えば,まずは OED に当たるのが普通です.しかし,OED はあまりに情報量が多すぎて,ちょっと調べたい場合には適さないことも多いですね.鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん,ということになりかねません.そんなときに手近に置いておくと便利な辞典の1つが,この Room (編)の辞書です.意味変化に焦点を絞って編まれています.ありがたや.
先日,院生からのインプットで passion という語の起源について関心をもちました.その意味は,「情熱」はもちろん「(キリスト教徒の)受難」もありますし「受動」 (cf. passive) もあります.互いにどう関係するのでしょうか.もともとの語源はラテン語 patī (to suffer) です.堪え忍ぶからこそ「受難」なのであり,受難を堪え忍ばせるだけの「情熱」ともなるわけです.「受動,受け身」の語義も納得できるでしょう.宗教的な強い感情を表わすのに相応しい語源ですね.
しかし,その強い情熱的感情を表わした語が,常用されるうちに「強意逓減の法則」により,単なる「あこがれ」へと弱まっていきます.現在では He has a passion for golf. のように薄められた意味で用いられるようになっています.
では,上記の意味変化の辞書で passion (200--01) に当たってみましょう.以下のようにありました.
passion (strong feeling, especially of sexual love; outbreak of anger)
The earliest 'passion' was recorded in English in the twelfth century, and was the suffering of pain, and in particular the sufferings of Christ (as which today it is usually spelt with a capital letter). This is therefore the meaning in the Bible in Acts 1:3, where the word was retained from Wyclif's translation of 1382 down to later versions of the sixteenth and seventeenth centuries (in the Authorized Version of 1611: 'To whom also he shewed himself alive after his passion'). In the fourteenth century, the sense expanded from physical suffering to mental, and entered the emotional fields of strongly experienced hope, fear, love, hate, joy, ambition, desire, grief and much else that can be keenly felt. In the sixteenth century, there was a kind of polarization of meaning into 'angry outburst' on the one hand, and 'amorous feeling' on the other, with the latter sense of 'passion' acquiring a more specifically sexual connotation in the seventeenth century Finally, and also in the seventeenth century, 'passion' gained its inevitably weakened sense (after so much strength) as merely 'great liking for' (as a 'passion' for riding or growing azaleas).
「強意逓減の法則」を体現している好例といってよさそうです.
・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.
作ろうと思いながら,なかなか作れずにいた「英語史のための音声学・音韻論の入門書」をお届けします.個人的な英語史観に基づく見解ですが,英語史を理解するためには音声学,音韻論,音の変化に関する基本的な知識が欠かせません.英語史のおもしろさを堪能するには,言語音に対する理解が是非とも必要です.英語史の魅力の半分は音にあると言ってしまってよいでしょう.
なかなか難しいのは音声学・音韻論というのは,高度に専門的な分野だということです.英語学の学生は典型的には文系肌の人間だと思いますが,音声学・音韻論という分野には理系的な要素が多分に含まれています.苦手意識があるのも無理からぬことかもしれません.なので,むしろ英語史に関心をもった方は,その関心をベースとして,必要とされるだけの音声学・音韻論の知識を学ぶところから始めるのがよいと思います.先に音声学を学び,次に音韻論へ進むのが正攻法です.
まずは,英語史への関心を前提とした,和書・洋書を含めた音声学・音韻論の書誌を以下に示します.英語と日本語の音声・音韻を比較するという学び方を基本にするとよいと思います(なので日本語音声学の本も混じっています).独断と偏見ですが,お薦めに ◎,○を付しました.本によっては,必ずしも最新版ではないかもしれません.取り急ぎの書籍案内ということであしからず.
・ 川上 秦 『日本語音声概説』 おうふう,1977年.
・ 川越 いつえ 『英語の音声を科学する』 大修館,2007年.
・ 窪園 晴夫 『音声学・音韻論』 くろしお出版,1989年.
○ 窪園 晴夫・溝越 彰 『英語の発音と英詩の韻律』(英語学入門講座第7巻).英潮社,1991年.
・ 桑原 輝男・高橋 幸雄・小野塚 裕視・溝越 彰・大石 強 『音韻論』 現代の英文法第3巻 研究社,1985年.
・ 小泉 保 『改訂 音声学入門』 大学書林,2003年.
・ 斉藤 純男 『日本語音声学入門』改訂版 三省堂,2013年.
◎ 菅原 真理子(編)『音韻論』 朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.
・ 竹林 滋 『英語音声学』 研究社,1996年.
◎ 竹林 滋・斎藤 弘子 『英語音声学入門』 大修館,2008年.
◎ 服部 義弘(編) 『音声学』 朝倉日英対照言語学シリーズ 2 朝倉書店,2012年.
○ 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』 朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.
・ 原口 庄輔 『音韻論』 現代の英語学シリーズ第3巻 開拓社,1994年.
・ 枡矢 好弘 『英語音声学』 こびあん書房,1976年.
・ 松坂 ヒロシ 『英語音声学入門』 英語・英米文学入門シリーズ 研究社,1986.
・ Abercrombie, David. Elements of General Phonetics. Edinburgh: Edinburgh UP, 1967.
・ Carr, Philip and Jean-Pierre Montreuil. Phonology. 2nd ed. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2013.
○ Cruttenden, Alan. Gimson's Pronunciation of English. 8th ed. Abingdon: Routledge, 2014.
・ Davenport, Mike and S. J. Hannahs. Introducing English Phonetics and Phonology. 3rd ed. Oxon: Routledge, 2010.
・ Hayes, Bruce. Introducing Phonology. West Sussex: Wiley-Blackwell, 2009.
・ International Phonetic Association. Handobook of the International Phonetic Association: A Guide to the Use of the Internatonal Phoneti Alphabet. Cambridge: Cambridge UP, 1999.
○ Jones, Daniel. Cambridge English Pronouncing Dictionary. 18th ed. Ed. Peter Roach, Jane Setter and John Esling. Cambridge: Cambridge UP, 2011.
・ Ladefoged, P. A Course in Phonetics. 3rd ed Orlando: Harcourt Brace, 1993.
・ Laver, John Principles of Phonetics. Cambridge: Cambridge UP, 1994.
・ Roach, Peter. English Phonetics and Phonology: A Practical Course. 4th ed. Cambridge: Cambridge UP, 2009.
○ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
昨日の記事「#4076. Dictionary of Old English と Dictionary of Old English Corpus」 ([2020-06-24-1]) に引き続き,英語史研究にはなくてはならないツールについて.中英語研究といえば,何をおいても MED を挙げなければならない (Kurath, Hans, Sherman M. Kuhn, John Reidy, and Robert E. Lewis. Middle English Dictionary. Ann Arbor: U of Michigan P, 1952--2001. Available online at http://quod.lib.umich.edu/m/med/) .昨日の DOE と DOEC の関係と同様に,MED にも関連する MEC というコーパスがあり,こちらもたいへん有用である (MEC = McSparran, Frances, ed. Middle English Compendium. Ann Arbor: U of Michigan P, 2006. Available online at http://quod.lib.umich.edu/m/mec/) .
MED は1952年に最初の小冊が出版され,1991年に最後の小冊が出版されて完成した.その後,2000年にオンライン版の Middle English Compendium に組み込まれ,使い勝手が大幅に向上した.細かな検索ができることはもちろん,hyperbibliography の充実振りが嬉しい.56,000件ほどの見出し語を誇る中英語最大の辞書であることはいうにおよばず,中英語研究史上の最大の成果物といえる.2018年にはほぼ20年振りの改訂版が公開され,現在も中英語研究の第一線を走っている.
MED には,使用に当たって知っておくべきいくつかの特徴がある.Durkin (1150--52) に拠って指摘しておこう.まず,MED は,語義に多くの注意を払う辞書だということだ.OED ではある語の語形を大きな基準として記述を仕分けているが,MED のエントリーの最大の構成原理は語義である.ある意味では語形の違いなどは方言差と割り切って,LALME や LAEME に委ねているといった風である.しかし,この語義優先という特徴により,語学的な研究のみならず,文化的,歴史的な研究にも資するツールとなっているという側面がある.
語義の重視と関連して,MED は該当語の固有名詞としての使用にも意を払っている.たいてい最後の語義として言及されるが,これは固有名詞研究や歴史研究に有用である.多言語テキストに記されている英語の地名なども拾い上げられており,他言語文献や言語接触の研究にも資する情報である.
MED で惜しむらく点は,語源記述が少ないことだ.直前の古英語形や借用語であればソース言語での形態などを挙げているにとどまり,深みがない.
最後に指摘しておくべきは,例文に付されている年代について,(1) 写本(証拠)そのものの年代と,(2) テキストが作成されたとおぼしき年代とが,分けて記されている点である(後者はカッコでくくられている).両年代を念頭におけば,例えば異写本間での語形の比較に際して貴重な判断材料となるだろう.この重要な情報は,diplomatic な読みを追求する文献学的な関心に答えてくれる可能性を秘めている.
関連して「#4016. 中英語研究のための基本的なオンライン・リソース」 ([2020-04-25-1]) も参照.
・ Durkin, Philip. "Resources: Lexicographic Resources." Chapter 73 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1149--63.
標題の辞書は,目下進行中の古英語辞書編纂プロジェクトの所産である(cf. 「#3006. 古英語の辞書」 ([2017-07-20-1])).進行中なので未完成ということになるが,現在 The Dictionary of Old English (DOE) のサイト より,Dictionary of Old English: A to I online, ed. Angus Cameron, Ashley Crandell Amos, Antonette diPaolo Healey et al. (Toronto: Dictionary of Old English Project, 2018). の項目をオンラインで閲覧・参照できる(限定利用できる無料版あり).
この DOE と連動する形で古英語コーパス (DOEC) の編纂も同時に進行しており,Dictionary of Old English Web Corpus よりオンラインでアクセスできるようになっている(限定利用できる無料版あり).現存する古英語の文献資料は語数にして約300万語とされ,網羅的な目録を編纂し,網羅的な検索ツールを作ることは可能な範囲である.DOEC は,そのような目的の下,DOE 編纂プロジェクトの一環として,まず高頻度語を収録したマイクロフィッシュ版が1980年と1985年に公開された.その後,1997年にオンライン版が公開される一方,2005年には A--F までの項目を収録した CD-ROM 版も世に出た.その後も現在に至るまで,編纂者たちの地道な努力によって公開項目が増してきている.
DOE の各語のエントリーでは,文証されるスペリング,語義や用例,(翻訳テキストの場合)対応するラテン単語などの情報が得られ,OED への参照を含めた参考資料へのアクセスも提供されている.
この世に完璧なツールはないように,DOE(C) にも使用に際して注意すべき点はある.古英語テキストに複数のバージョンがある場合,文献学的には各々の単語の variants の情報が得られることが望ましいが,DOE(C) ではテキストによってその収録幅に揺れがある.また,語としての variants はおよそ拾い上げられているとしても,統語的,形態的,音韻的な意義をもつ variants にはさほど意が払われていない.さらに,書記上の省略が暗黙のうちに展開されているという点にも注意が必要である.語源情報が与えられていない点も,辞書として残念ではある.
それでも,古英語研究における DOE の重要性と期待の大きさは計りしれない.OED にも古英語単語は収録されているが,あくまで部分的であり,1150年を超えて生き延びた古英語単語に限定されている.編纂プロジェクトのインスピレーション自体は,OED の初版が完成されつつあった100年ほど前の Craigie のアイディアに由来するというから,実に息の長いプロジェクトなのである.応援していきましょう.
DOEC については,CoRD (Corpus Resource Database) よりこちらの情報もどうぞ.
・ Lowe, Kathryn A. "Resources: Early Textual Resources." Chapter 71 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1119--31.
・ Traxel, Oliver M. "Resources: Electronic/Online Resources." Chapter 72 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1131--48.
・ Durkin, Philip. "Resources: Lexicographic Resources." Chapter 73 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1149--63.
遅ればせながら国内の大学も新年度の授業が始まりつつある頃かと思います.新年度に英語史を学び始める人も多いはずですので,英語史概説書を中心に英語史・英語学の基本文献(2020年度版)を掲げておきます.英語史の初学者に特にお薦めの図書に◎を,初学者を卒業した段階のお薦めの図書に○を付してあります.目下の状況で手に入りにくい図書も多いかもしれませんが,今期はこの書誌一覧を手元に置いてもらえればと思います.このほか各図書の巻末やウェブサイトに掲載されている参考文献表も参照してください.印刷用のPDFも作ったので,こちらから自由にどうぞ.
[英語史概説書(日本語)]
◎ 家入 葉子 『ベーシック英語史』 ひつじ書房,2007年.
・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.
◎ 唐澤 一友 『多民族の国イギリス---4つの切り口から英国史を知る』 春風社,2008年.
◎ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 春風社,2011年.
・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.
◎ 寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年.
・ 中尾 俊夫,寺島 廸子 『図説英語史入門』 大修館書店,1988年.
・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.
◎ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.
○ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.
・ 柳 朋宏 『英語の歴史をたどる旅』 中部大学ブックシリーズ Acta 30,風媒社,2019年.
・ 渡部 昇一 『英語の歴史』 大修館,1983年.
[英語史関連のウェブサイト]
・ 家入 葉子 「英語史全般(基本文献等)」 https://iyeiri.com/569 .(より抜かれた基本文献のリスト)
・ 堀田 隆一 「hellog?英語史ブログ」 2009年5月1日?,http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/ .
・ 堀田 隆一 「連載 現代英語を英語史の視点から考える」 2017年1月?12月,http://www.kenkyusha.co.jp/uploads/history_of_english/series.html .
・ 三浦 あゆみ 「A Gateway to Studying HEL: Textbooks(日本語編)」 http://www013.upp.so-net.ne.jp/HEL/textbooks.html .(充実した英語史の文献リスト)
[英語史概説書(英語)]
・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
◎ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
・ Blake, N. F. A History of the English Language. Basingstoke: Macmillan, 1996.
○ Bradley, Henry. The Making of English. London: Macmillan, 1955.
○ Bragg, Melvyn. The Adventure of English. New York: Arcade, 2003.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.
・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
○ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
○ Gooden, Philip. The Story of English: How the English Language Conquered the World. London: Quercus, 2009.
・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
◎ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.
・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: U of Chicago, 1982.
○ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
・ McCrum, Robert, William Cran, and Robert MacNeil. The Story of English. 3rd rev. ed. London: Penguin, 2003.
・ Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
○ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
[英語史・英語学の参考図書]
・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
・ 大泉 昭夫(編) 『英語史・歴史英語学:文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ 小野 茂(他) 『英語史』(太田朗, 加藤泰彦編 『英語学大系』 8--11巻) 大修館書店,1972--85年.
・ 佐々木 達,木原 研三(編) 『英語学人名辞典』,研究社,1995年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語史・歴史英語学 --- 文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 寺澤 芳雄,川崎 潔 (編) 『英語史総合年表?英語史・英語学史・英米文学史・外面史?』 研究社,1993年.
・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
・ The Cambridge History of the English Language. Vols. 1--7. Ed. Richard M. Hogg. 1992--2001.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003. 3rd ed. 2019.
・ English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012.
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
・ The Oxford English Dictionary. 2nd ed. CD-ROM. Oxford: Oxford University Press, 1992. Version 3.1. 2004. (Also available online as Oxford English Dictionary Online at http://www.oed.com/ .)
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
標記について,Smith (47--48) の参考文献表よりいくつか抜き出し,整理し,リンクを張ってみた(現時点で生きたリンクであることを確認済み).本ブログでは,その他各種のオンライン・リソースも紹介してきたが,まとめきれないので link を参照.とりわけ Chaucer 関連のリンクは「#290. Chaucer に関する Web resources」 ([2010-02-11-1]) をどうぞ.
いよいよ2019年も終わりですが,この時期は卒論を始めとする学位論文の提出期限の前後の時期でもあります.切羽詰まっている学生もいることと思いますが,論文の書式については時間を割いて揃えましょう.
英語学術論文の書式には様々な種類がありますが,本ブログの主題である英語史や,その隣接分野である文学などでよく用いられるものに Modern Language Association (MLA) による MLA Style があります.MLA Style にも版があり,現行版は2016年に改訂された第8版です.本ブログでも,各記事での引用や参考文献などは,原則として MLA Style に準拠しています(ただし,古い版に基づいており現行版とは多少異なっているのであしからず.本ブログ全体の参考文献リストもご参照ください).
MLA Style は正式には1冊の本として出版されていますが,オンラインのリソースも多々あるので,以下に参照に便利なリンクを張っておきます.
・ The MLA Style Center の参考文献表についてのクイック・ガイド
・ MLA Formatting and Style Guide --- Purdue Writing Lab
・ The Complete Guide to MLA & Citations
・ MLA Format: Everything You Need to Know Here
学術研究において参考文献リストの整理は重要です.本音として「面倒くさい」のも事実なのですが,実はそのような面倒くささを軽減してくれるのが書式でありマニュアルです.つまり,学術研究上の文房具の1つです.英語論文を執筆する(予定の)学生は,MLA Style でなくとも,いずれかの書式をしっかり身につけておきましょう.
大学の英語史ゼミでは,今期も数名でミニ調査を行なう「グループ研究」を開始しています.5つのグループ研究テーマを設けていますが,各研究の取っ掛かりとして,いくつかの参考資料や文献を提示します.今後も随時ここに書誌を加えていこうかと思っていますので,ゼミ学生はたまに覗いてください.ミニ書誌ではありますが,せっかくなのでブログ上でオープンにしておきます.強調しておきますが,あくまで「取っ掛かり」のための書誌です.ここから研究を育てていってください.
0. 全般
年度初めで英語史を学び始める人もいると思うので,英語史概説書を中心に,英語史・英語学の基本文献(2019年度版)を掲げたい.英語史の初学者に特にお薦めの図書に◎を,次にお薦めの図書に○を付してある.このほかに,各図書の巻末やウェブサイトに掲載されている参考文献表も要参照.印刷配布用のPDFも作ったので,こちらからどうぞ.
[英語史概説書(日本語)]
◎ 家入 葉子 『ベーシック英語史』 ひつじ書房,2007年.
・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.
○ 唐澤 一友 『多民族の国イギリス---4つの切り口から英国史を知る』 春風社,2008年.
○ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 春風社,2011年.
◎ 寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年.
・ 中尾 俊夫,寺島 廸子 『図説英語史入門』 大修館書店,1988年.
・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.
・ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.
・ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.
○ 柳 朋宏 『英語の歴史をたどる旅』 中部大学ブックシリーズ Acta 30,風媒社,2019年.
・ 渡部 昇一 『英語の歴史』 大修館,1983年.
[英語史概説書(英語)]
・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
◎ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
・ Blake, N. F. A History of the English Language. Basingstoke: Macmillan, 1996.
○ Bradley, Henry. The Making of English. London: Macmillan, 1955.
○ Bragg, Melvyn. The Adventure of English. New York: Arcade, 2003.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.
・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
○ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
・ Göorlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
○ Gooden, Philip. The Story of English: How the English Language Conquered the World. London: Quercus, 2009.
◎ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.
・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: U of Chicago, 1982.
◎ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
・ McCrum, Robert, William Cran, and Robert MacNeil. The Story of English. 3rd rev. ed. London: Penguin, 2003.
・ Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
○ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
[英語史・英語学の参考図書]
・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
・ 大泉 昭夫(編) 『英語史・歴史英語学:文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ 小野 茂(他) 『英語史』(太田朗, 加藤泰彦編 『英語学大系』 8--11巻) 大修館書店,1972--85年.
・ 佐々木 達,木原 研三(編) 『英語学人名辞典』,研究社,1995年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語史・歴史英語学 --- 文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 寺澤 芳雄,川崎 潔 (編) 『英語史総合年表?英語史・英語学史・英米文学史・外面史?』 研究社,1993年.
・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
・ The Cambridge History of the English Language. Vols. 1--7. Ed. Richard M. Hogg. 1992--2001.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012.
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
・ The Oxford English Dictionary. 2nd ed. CD-ROM. Oxford: Oxford University Press, 1992. Version 3.1. 2004. (Also available online as Oxford English Dictionary Online at http://www.oed.com/ .)
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
[英語史関連のウェブサイト]
・ 家入 葉子 「英語史関係(基本文献など)」 http://www.iyeiri.sakura.ne.jp/students/English.htm .(より抜かれた基本文献のリスト)
・ 堀田 隆一 「hellog?英語史ブログ」 http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/.特に「参考文献リスト」 (http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/references.html) を参照.
・ 三浦 あゆみ 「A Gateway to Studying HEL: Textbooks(日本語編)」 http://www013.upp.so-net.ne.jp/HEL/textbooks.html .(充実した英語史の文献リスト)
古英語を学習・研究する上で有用な辞書をいくつか紹介する.
(1) Bosworth, Joseph. A Compendious Anglo-Saxon and English Dictionary. London: J. R. Smith, 1848.
(2) Bosworth, Joseph and Thomas N. Toller. Anglo-Saxon Dictionary. Oxford: OUP, 1973. 1898. (Online version available at http://lexicon.ff.cuni.cz/texts/oe_bosworthtoller_about.html.)
(3) Hall, John R. C. A Concise Anglo-Saxon Dictionary. Rev. ed. by Herbert T. Merritt. Toronto: U of Toronto P, 1996. 1896. (Online version available at http://lexicon.ff.cuni.cz/texts/oe_clarkhall_about.html.)
(4) Healey, Antonette diPaolo, Ashley C. Amos and Angus Cameron, eds. The Dictionary of Old English in Electronic Form A--G. Toronto: Dictionary of Old English Project, Centre for Medieval Studies, U of Toronto, 2008. (see The Dictionary of Old English (DOE) and Dictionary of Old English Corpus (DOEC).)
(5) Sweet, Henry. The Student's Dictionary of Anglo-Saxon. Cambridge: CUP, 1976. 1896.
おのおのタイトルからも想像されるとおり,詳しさや編纂方針はまちまちである.入門用の Sweet に始まり,簡略辞書の Hall から,専門的な Bosworth and Toller を経て,最新の Healey et al. による電子版 DOE に至る.DOE を除いて,古英語辞書の定番がおよそ19世紀末の産物であることは注目に値する.この時期に,様々なレベルの古英語辞書が,独自の規範・記述意識をもって編纂され,出版されたのである.
現代風の書き言葉の標準が明確に定まっていない古英語の辞書編纂では,見出し語をどのような綴字で立てるかが悩ましい問題となる.使用者は,たいてい適切な綴字を見出せないか,あるいは異綴りの間をたらい回しにされるかである.大雑把にいえば,入門的な Sweet の立てる見出しの綴字は "critical" で規範主義的であり,最も専門的な DOE は "diplomatic" で記述主義的である.その間に,緩やかに "critical" な Hall と緩やかに "diplomatic" な Bosworth and Toller が位置づけられる.
合わせて古英語語彙の学習には,以下の2点を挙げておこう.
・ Barney, Stephen A. Word-Hoard: An Introduction to Old English Vocabulary. 2nd ed. New Haven: Yale UP, 1985.
・ Holthausen, Ferdinand. Altenglisches etymologisches Wōrterbuch. Heidelberg: Carl Winter Universitätsverlag, 1963.
Holthausen の辞書は,古英語語源辞書として専門的かつ特異な地位を占めているが,語源から語彙を学ぼうとする際には役立つ.Barney は,同じ趣旨で,かつ読んで楽しめる古英語単語リストである.
昨日の記事「#2608. 19世紀以降の分野としての英語史の発展段階」 ([2016-06-17-1]) で取り上げたように,英語史記述の伝統は19世紀に始まる.通史はおよそヴィクトリア朝に著わされるようになり,1つの分野としての体裁を帯びてきた.Cable (11) によると,ヴィクトリア朝を中心とする時代に出版された初期の英語史書(部分的なものも含む)の主たるものとして,次のものが挙げられる.
・ Bosworth, J. The Origin of the Germanic ans Scandinavian Languages and Nations. 2nd ed. London: Longman, Rees, Orme, Brown, and Green. 1848 [1836].
・ Latham, R. G. The English Language. 5th ed. London: Taylor, Walton, and Maberly. 1862 [1841].
・ Marsh, G. P. Lectures on the English Language. Rev. ed. New York: Scribner's, 1885 [1862].
・ Mätzner, E. Englische Grammatik. 3 vols. 3rd ed. Berlin: Weidmann, 1880--85 [1860--65].
・ Koch, K. F. Historische Grammatik der englischen Sprache. 4 vols. Weimar: H. Böhlau, 1863--69.
・ Lounsbury, T. R. A History of the English language. 2nd ed. New York: Holt, 1894 [1879].
・ Emerson, O. F. The History of the English Language. New York: Macmillan, 1894.
・ Bradley, H. The Making of English. Rev. ed. Ed. B. Evans and S. Potter. New York: Walker, 1967 [1904].
・ Jespersen, O. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. London: Harcourt, 1982 [1905].
・ Wyld, H. C. The Historical Study of the Mother Tongue. London: Murray, 1906.
・ Jespersen, O. A Modern English Grammar on Historical Principles. 7 vols. London: Allen & Unwin, 1909
・ Smith, L. P. The English Language. London: Williams and Norgate, 1912.
・ Wyld, H. C. A Short History of English. 3rd ed. London: Murray, 1927 [1914].
・ Baugh, A. C. A History of the English Language. 2nd ed. New York: Appleton-Century Crofts, 1957 [1935]. (Co-authored with Thomas Cable (1978--2002). 3rd--5th eds. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.)
Cable (11) によれば,現在の英語史記述の伝統に連なる最初期のとりわけ重要な著作は Latham と Lounsbury である.ことに後者は1879年に出版されてから,その後の Smith (1912) に至るまでの類書のモデルとなったといってよい.ただし注意すべきは,Lounsbury では,英語史記述の開始がいまだ現在でいうところの中英語期に設定されており,"Old English" あるいは "Anglo-Saxon" はむしろ大陸のゲルマン語の歴史の一部をなすと考えられていた点である.しかし,15年後の Emerson (1894) は,"Old English" を英語史記述の一部として位置づける姿勢を示している.
20世紀が進んでくると,上に挙げたもののほかにも多数の英語史書と呼ぶべき著作が出版されたし,21世紀に入ってもその勢いは衰えていないどころか,ますます活発化している.このことは,英語史という分野が展望の明るい活気のある学問領域であることを示すものである.Cable (15) 曰く,
A casual observer might imagine that 200 years of modern scholarship on 1,300 years of the recorded language would have covered the story adequately and that only incremental revisions remain. Yet the subject continues to expand in fructifying ways, and interacting developments contribute to the vitality of the field: the recognition that cultural biases often narrowed the scope of earlier inquiry; the incorporation of global varieties of English; the continuing changes in the language from year to year; and the use of computer technology in reinterpreting aspects of the English language from its origins to the present.
英語史はおおいに学習し,研究する価値のある分野である.関連して,以下の記事も参照.「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1]),「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1]),「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1]),「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1]).
・ Cable, Thomas. "History of the History of the English Language: How Has the Subject Been Studied." Chapter 2 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 11--17.
この新年度には,初期中英語の討論詩 The Owl and the Nightingale を読み始める予定である.それに当たって,簡単な書誌を載せておきたい.研究書や論文を細かく含めるとおびただしい量になるので,ここでは主立ったものに限る.今後,必要に応じて追加していきたい.
[ Editions ]
・ Atkins, J. W. H., ed. The Owl and the Nightingale. New York: Russel & Russel, 1971. 1922.
・ Cartlidge, Neil, ed. The Owl and the Nightingale. Exeter: U of Exeter P, 2001.
・ Grattan, J. H. G. and G. F. H. Sykes, eds. The Owl and the Nightingale. Vol. 119 of EETS es. London: OUP, 1935.
・ Stanley, Eric Gerald, ed. The Owl and the Nightingale. Manchester: Manchester UP, 1972.
・ Treharne, Elaine, ed. Old and Middle English c. 890--c. 1450: An Anthology. 3rd ed. Malden, Mass.: Wiley-Blackwell, 2010.
[ Editions for Part of the Text ]
・ Bennett, J. A. W. and G. V. Smithers, eds. Early Middle English Verse and Prose. 2nd ed. Oxford: OUP, 1968.
・ Burrow, J. A. and Thorlac Turville-Petre, eds. A Book of Middle English. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell, 2005.
・ Dickins, Bruce and R. M. Wilson, eds. Early Middle English Texts. London: Bowes, 1951.
[ Facsimile ]
・ Ker, N. R. The Owl and the Nightingale: Facsimile of the Jesus and Cotton Manuscripts. EETS os 251. London: 1963.
[ Studies ]
・ Cartlidge, Neil. "The Date of The Owl and the Nightingale." Medium Ævum 65 (1996): 230--47.
・ Fletcher, A. "Debate Poetry." Readings in Medieval Literature. Ed. D. Johnson and E. Treharne. Oxford: 2005. 241--56.
・ Hume, Kathryn. The Owl and the Nightingale: The Poem and Its Critics. Toronto, 1975.
・ Palmer, R. Barton. "The Narrator in The Owl and the Nightingale: A reader in the Text." Chaucer Review 22 (1988): 305--21.
・ Pearsal, Derek. Old English and Middle English Poetry. London: 1977. 91--4.
・ Reed, Thomas L. Middle English Debate Poetry and the Aesthetics of Irresolution. Columbia: 1990.
・ Salter, Elizabeth. English and International: Studies in the Literature, Art and patronage of Medieval England. Cambridge: 1988. Chapter 2.
・ Wilson, R. M. Early Middle English Literature. London: 1951. Chapter VII.
[ Online Resources ]
・ CMEPV: The Owl and the Nightingale (MS Cotton):
・ CMEPV: The Owl and the Nightingale (MS Jes. Col. 29)
・ CMEPV: MED Descriptions of CMEPV
・ LAEME: London, British Library, Cotton Caligula A ix, The Owl and the Nightingale, language 1
・ LAEME: London, British Library, Cotton Caligula A ix, The Owl and the Nightingale, language 2
・ LAEME: Oxford, Jesus College 29, part II, English on fols. 144r-195r; 198r-200v
「#2286. 古英語の hundseofontig (seventy), hundeahtatig (eighty), etc.」 ([2015-07-31-1]) で,70から120までの10の倍数表現について,古英語では hund- (hundred) を接頭辞風に付加するということを見た.背景には,本来のゲルマン語の伝統的な12進法と,キリスト教とともにもたらされたと考えられる10進法との衝突という事情があったのではないかとされるが,いかなる衝突があり,その衝突がゲルマン諸語の数詞体系にどのような結果を及ぼしたのかについて,具体的なところがわからない.
もう少し詳しく調査してみようと立ち上がりかけたところで,この問題についてかなりの先行研究,あるいは少なくとも何らかの言及があることを知った.印欧語あるいはゲルマン語の比較言語学の立場からの論考が多いようだ.以下は主として Hogg and Fulk (189) に挙げられている文献だが,何点か他書からのものも含めてある.
・ Bosworth, Joseph, T. Northcote Toller and Alistair Campbell, eds. An Anglo-Saxon Dictionary. Vol. 2: Supplement by T. N. Toller; Vol. 3: Enlarged Addenda and Corrigenda by A. Campbell to the Supplement by T. N. Toller. Oxford: OUP, 1882--98, 1908--21, 1972. (sv hund-)
・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.
・ Lühr, R. "Die Dekaden '70--120' im Germanischen." Münchener Studien zur Sprachwissenschaft 36 (1977). 59--71.
・ Mengden, F. von. "How Myths Persist: Jacob Grimm, the Long Hundred and Duodecimal Counting." Englische Sprachwissenschaft und Mediävistik: Standpunkte, Perspectiven, neue Wege. Ed. G. Knappe. Frankfurt am Main: Peter Lang, 2005. 201--21.
・ Mengden, F. von. "The Peculiarities of the Old English Numeral System." Medieval English and Its Heritage: Structure, Meaning and Mechanisms of Change. Ed. N. Ritt, H. Schendl, C. Dalton-Puffer, and D. Kastovsky. Frankfurt am Main: Peter Lang, 2006. 125--45.
・ Mengden, F. von. 2010. Cardinal Numbers: Old English from a Cross-Linguistic Perspective. Berlin: De Gruyter Mouton. (see pp. 87--94.)
・ Nielsen, H. F. "The Old English and Germanic Decades." Nordic Conference for English Studies 4. Ed. G. Caie. 2 vols. Copenhagen: Department of English, University of Copenhagen, I, 1990. 105--17.
・ Voyles, Joseph B. Early Germanic Grammar: Pre-, Proto-, and Post-Germanic Languages. Bingley: Emerald, 2008. (see pp. 245--47.)
Nielsen の論文は,研究史をよくまとめているようであり,印欧語比較言語学の大家 Szemerényi が Studies in the Indo-European Systems of Numerals (1960) で唱えた純粋に音韻論的な説明を擁護しているという.
すぐに入手できる文献が少なかったので,今回は書誌を挙げるにとどめておきたい.
新年度なので,授業で英語史の概説書などを紹介する機会があるが,英語史の定番・名著といえば Baugh and Cable である(ほかには「#1445. 英語史概説書の書誌」 ([2013-04-11-1]) も参照).「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) で2013年に出版された第6版の目次を紹介した.では,第6版は先行する第5版からどのように変化したのだろうか.両版を比較した和田によると,次のような異同が認められるという.
(1) 新たに第12章として,21世紀に向けた英語やその他の国際的な言語に関する章が付け加えられ,様々な言語的アプローチや言語における相対的な複雑性といった観点を含んだ議論がなされている.(2) 音韻変化について,新しいアプローチが加えられ,第3章の古英語,第7章の中英語の各章で紹介されている.(3) ルネサンス期の英語について,コーパス言語学的なアプローチが加えられている.(4) accent と register に関するセクションが加えられている.(5) アフリカ系黒人英語の観点から creolists と neo-Anglicists に関する最新の議論が加えられている.(6) 書誌情報の更新がなされている.
さらに和田によると,中世英語の記述に的を絞ると,§38にて古英語期を中心としたその前後の時代に起こった音韻変化の解説が従来よりも詳しく書かれており,グリムの法則以後の主要な音韻変化の理解が縦につながるような工夫がなされているという.中英語を扱う第7章の冒頭セクション(§§111--12)でも,前の版にはみられなかった中英語の音韻変化が具体的に解説されており,音韻分野での最新の研究成果が反映されたものと考えられる.
21世紀の英語,あるいは英語の未来を扱うような章節の追加は,近年出された英語史概説書に共通する特徴である.社会的な視点が豊富に取り入れられているのも最近の傾向だろう.だが,コーパス言語学の知見については,もっと取り入れられてもよいのではないかと思う.それくらいにコーパスを用いた研究の進展は著しい.Baugh and Cable の書誌情報は相変わらず豊富で,貴重である.
英語史を志す大学生の皆さんには,早い段階での通読をお勧めします.
ほかに英語史概説書の目次シリーズより,以下の記事も参照.
・ 「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1])
・ 「#2038. Fennell の英語史概説書の目次」 ([2014-11-25-1])
・ 「#2050. Knowles の英語史概説書の目次」 ([2014-12-07-1])
・ 和田 忍 「新刊紹介 Albert C. BAUGH & Thomas CABLE, A History of the English Language, Sixth edition, Upper Saddle River, NJ, Pearson, 2013, 446+xviii p., $174.07」『西洋中世研究』第5号,2013年,159頁.
標題については,「#466. 語源学は技芸か科学か」 ([2010-08-06-1]) や「#727. 語源学の自律性」 ([2011-04-24-1]) で論じてきた話題だが,言語科学における語源学の位置づけというのは実に特異で,私の頭の中でも整理できていない.通時的な音韻論,形態論,意味論,語彙論でもあり,一方で文献学でもあり,はたまた言語外の社会を参照する必要がある点で社会史や文化史の領域にも属する.ある語の語史をひもとくために様々な知識を総合し,書き上げた作品が,1つの辞書項目ということになる.語源調査は,1つの学問領域を構成するというよりは,マルチタレントを要求する技芸である,という見解が現れるのももっともである.
昨日の記事「#1790. フランスでも16世紀に頂点を迎えた語源かぶれの綴字」 ([2014-03-22-1]) で引用したブリュッケルの『語源学』を読んで,上の印象を新たにした.ブリュッケルも,以前の語源学に関する記事で言及したブランショや Malkiel とともに,語源学の自律性について肯定的に論じようと腐心しているのだが,読めば読むほど科学というよりは技芸に近いという印象が増してくる.ブリュッケル (34--35) は,語源学者のもつべき資質を挙げている.
語源学者の仕事に先行する諸条件は彼の仕事や彼の探求の対象に対する言語学者としての一連の準備または素質のなかにある.つぎの諸点を考慮に入れればよい.文学語にも,また諸方言にも富んだ,できるかぎり広範囲にわたる資料;関係する領域における音声進化についての的確な知識;語の規定と語が包含する言語外の現実との間の諸関係を明らかにすることを可能にするレアリア realia 〔文物風土.ある言語社会の制度,習慣,歴史,動植物などに関する事実,またはそれらの知識を示す.言語を言語外の事実との関連で取り扱う,本来外国語教育の用語で,最初ドイツ語の Realien――実体,事実――から借用された〕についての幅広い経験;社会文化的,社会言語学的部門がなおざりにされてはならないということ;最小限の創意と,時には想像力がなければ,語源学者は自分を認めさせることがむずかしくなるであろうということ.
さらに,p. 44 でこうも述べている.
語の起源や意味作用を把握するために,具体的な事物,品物,仕事の道具,農業生活,田園生活などを理解し,植物相,動物相,風土,地形を考慮することの必要性を強調する人々は多い.FEW の著者である,W・フォン・ヴァルトブルクは事物に関する正確な知識を語源学的研究の絶対的条件であると考える.
これは,博物学者の資質といったほうがよい項目の羅列である.芸人の天分の領域にも近い.
ブリュッケルの『語源学』には特に新しい視点は見られなかったが,4章にはいくつかのフランス語語源辞典の解題が付けられており便利である.以下に書誌を示しておく.
・ Diez, Friedrich Christian. Etymologisches Wörterbuch der romanischen Sprachen. Adolph Marcus, 1853.
・ Meyer-Lübke, Wilheml, ed. Romanisches etymologisches Wörterbuch. C. Winter's Universitätsbuchhandlung, 1911. (= REW)
・ Wartburg, Walther von. Französisches etymologisches Wörterbuch. Mohr, 1950. (= FEW)
・ Baldinger, Kurt, Jean-Denis Gendron, Georges Straka, and Martina Fietz-Beck. Dictionnaire étymologique de l'ancien francais. Max Niemeyer: Presses de l'Université Laval, 1971--. (= DEAF)
・ Bloch, Oscar and W. von Wartburg. Dictionnaire étymologique de la langue française. Presses universitaires de France, 1932.
・ Dauzat, Albert, Jean Dubois, and Henri Mitterand. Nouveau dictionnaire étymologique et historique. 2nd ed. Larousse, 1964. (= DDM)
・ Picoche, Jacqueline. Nouveau dictionnaire étymologique du français. Hachette-Tchou, 1971.
・ Trésor de la langue française. Ed. Centre national de la recherche scientifique. Institut nationale de la langue Française. Nancy Gallimard, 1986. (= TLF)
・ シャルル・ブリュッケル 著,内海 利朗 訳 『語源学』 白水社〈文庫クセジュ〉,1997年.
「#1445. 英語史概説書の書誌」 ([2013-04-11-1]) と同様の趣旨で,(英語)社会言語学の概説的な参考図書のリストを作成した.
近年,(英語)社会言語学の発展は著しく,扱う範囲が広大になってきているが,以下では(英語)社会言語学に関する概説的な図書とレファレンスのお薦めリストを掲げる(◎○は特にお薦めのもの).このほかにも,各図書の巻末に掲載されている参考文献リストや,オンラインでは O'Grady et al. の言語学入門書のコンパニオンサイトに置かれているPDFの参考文献リストも要参照.また,本ブログでも社会言語学の話題を多く扱っているので,とりわけ sociolinguistics の各記事を参照されたい.
以下と同じ内容の印刷配布用のPDFはこちらからどうぞ.
[概説書(日本語)]
○ 東 照二 『社会言語学入門 改訂版』,研究社,2009年.
○ 鈴木 孝夫 『ことばと文化』 岩波書店〈岩波新書〉,1973年.
・ 田中 克彦 『ことばと国家』 岩波書店〈岩波新書〉,1981年.
○ 田中 春美,田中 幸子(編著) 『社会言語学への招待』 ミネルヴァ書房,1996年.
・ 津田 葵 「社会言語学」『英語学大系第6巻 英語学の関連分野』(柴谷 方良, 大津 由紀雄, 津田 葵),大修館書店, 1989年,365--495頁.
・ 日比谷 潤子(編著) 『はじめて学ぶ社会言語学』 ミネルヴァ書房,2011年.
・ ルイ=ジャン・カルヴェ(著),萩尾 生(訳) 『社会言語学』 白水社,2002年.
[概説書(英語)]
・ Fasold, Ralph. The Sociolinguistics of Language. Oxford: Blackwell, 1990.
・ Holmes, Janet. An Introduction to Sociolinguistics. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
◎ Hudson, R. A. Sociolinguistics. 2nd ed. Cambridge: Cambridge University Press, 1996.
・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: Oxford University Press, 2000.
○ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.
○ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.
[(英語)社会言語学の参考図書]
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
○ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
○ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
○ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
◎ Trudgill, Peter. A Glossary of Sociolinguistics. Oxford: Oxford University Press, 2003.
年度の初めに,英語史概説書や参考図書など英語史・英語学を学習・研究する上で知っておきたい図書等を書誌としてまとめておく.近年,この分野の出版物は日本語でも英語でも数が多く,レベルも入門から専門までと幅広いので,選定するのが難しいのだが,以下は現時点での一応の厳選リストである.
独断と偏見ではあるが,最重要として◎を,重要として○を付した.このほかに,各図書の巻末やウェブサイトに掲載されている参考文献表も要参照.印刷配布用のPDFも作ったので,こちらからどうぞ.
[英語史概説書(日本語)]
・ 家入 葉子 『ベーシック英語史』 ひつじ書房,2007年.
・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.
○ 唐澤 一友 『多民族の国イギリス---4つの切り口から英国史を知る』 春風社,2008年.
◎ 寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年.
・ 中尾 俊夫,寺島 廸子 『図説英語史入門』 大修館書店,1988年.
・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.
○ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.
・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.
○ 渡部 昇一 『英語の歴史』 大修館,1983年.
[英語史概説書(英語)]
◎ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
○ Bradley, Henry. The Making of English. London: Macmillan, 1955.
・ Bragg, Melvyn. The Adventure of English. New York: Arcade, 2003.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: Oxford University Press, 2006.
○ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
○ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: University of Chicago, 1982.
・ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
・ McCrum, Robert, William Cran, and Robert MacNeil. The Story of English. 3rd rev. ed. London: Penguin, 2003.
・ Smith, Jeremy J. Essentials of Early English. London: Routledge, 1999.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
[英語史・英語学の参考図書]
・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
・ 大泉 昭夫(編) 『英語史 ・歴史英語学:文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
○ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
◎ 小野 茂(他) 『英語史』(太田朗, 加藤泰彦編 『英語学大系』 8--11巻) 大修館書店,1972--85年.
・ 佐々木 達,木原 研三(編) 『英語学人名辞典』,研究社,1995年.
◎ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語史 ・歴史英語学 --- 文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 寺澤 芳雄,川崎 潔 (編) 『英語史総合年表?英語史 ・英語学史 ・英米文学史 ・外面史?』 研究社,1993年.
○ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
○ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
○ The Cambridge History of the English Language. Vols. 1--7. Ed. Richard M. Hogg. 1992--2001.
◎ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
○ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
◎ The Oxford English Dictionary. 2nd ed. CD-ROM. Oxford: Oxford University Press, 1992. Version 3.1. 2004. (Also available online as Oxford English Dictionary Online at http://www.oed.com/ .)
○ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
[英語史関連のウェブサイト]
・ 家入 葉子 「英語学関係(基本文献など)」 http://homepage3.nifty.com/iyeiri/students/English.htm .(より抜かれた基本文献のリスト)
・ 堀田 隆一 「hellog?英語史ブログ」 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~rhotta .本授業の履修者は必見.特に「参考文献リスト」 (http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~rhotta/course/2009a/hellog/references.html) を参照.
・ 三浦 あゆみ 「A Gateway to Studying HEL: Textbooks(日本語編)」 http://www013.upp.so-net.ne.jp/HEL/textbooks.html .(充実した英語史の文献リスト)
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