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preposition - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-04-22 09:31

2017-03-21 Tue

#2885. なぜ「前置詞+関係代名詞 that」がダメなのか (1) [relative_pronoun][preposition][pied-piping][word_order][syntax][sobokunagimon]

 3月13日付の掲示板で,標題の質問を受けた.掲示板では,この統語上の問題は,見栄えとしては同じ「前置詞+接続詞 that」が,in that . . .except that . . . などを除いて広くはみられないことと関連しているのだろうか,という趣旨のコメントも付されていた.「前置詞+関係代名詞 that」と「前置詞+接続詞 that」は,見栄えこそ同じではあるが,統語構造がまったく異なるので,当面はまったく別の現象ととらえるべきだろうと考えている.「前置詞+接続詞 that」については,「#2314. 従属接続詞を作る虚辞としての that」 ([2015-08-28-1]) を参照されたい.
 さて,本題の「前置詞+関係代名詞 that」(いわゆる pied-piping 「先導」と呼ばれる統語現象)が許容されない件については,英語史的にはどのように考えればよいのだろうか.
 事例としては,実は,古英語からある.しかし,稀だったことは確かであり,一般的には忌避されてきた構文であるといってよい.それが,後の歴史のなかで完全に立ち消えになり,現代英語での不使用につながっている.
 Mustanoja (196--97) は,中英語期の関係代名詞 thatwhich の使い分けについて論じている箇所で,後者の使用について次のような特徴を指摘している.

Which, on the other hand, is preferred in connection with prepositions (this folk of which I telle you soo, RRose 743), and also when the antecedent is a clause or a whole sentence.


 その理由として注で次のようにも述べている.

Evidently because of the somewhat clumsy arrangement of the preposition in that-clauses. Prepositions occurring in connection with that are placed immediately before the verb (þet ilke uniseli gile þet ich of seide, Ancr. 30; the place that I of spake, Ch. PF 296), particularly in early ME. Less frequently in early ME, but commonly in late ME, the preposition is placed at the end of the clause (preciouse stanes þat he myght by a kingdom with, RRolle EWr. 112).


 ここから,「前置詞+関係代名詞 that」の構造が,関係代名詞 that が定着してきた初期中英語期にはすでに避けられていたらしいことが示唆されるが,なぜそうなのかという問題は残る.関係詞の絡む従節構造に限らず,通常の主節構造においても,かつては前置詞が必ずしも目的語の前に置かれるとは限らなかったことを考えると,前置詞と関係詞の問題というよりは,より一般的に前置詞の位置に関する問題としてとらえる必要があるのかもしれない.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2016-10-10 Mon

#2723. 前置詞 on における n の脱落 [preposition][vowel][article][phonetics][productivity]

 中英語では,もともと強勢をもたない前置詞 on がさらに弱化して語尾の n を落とし,oa として現われる例が少なくない.これは,an/a, mine/my, none/no という機能語のほか,内容語でも maiden/maid, lenten/Lent, open/ope, even/eve (see 「#2708. morn, morning, morrow, tomorrow」 ([2016-09-25-1])) などにみられる変異とも同列に扱うことができそうだ.機能語のペアについては,後続語の語頭が子音で始まれば n が残り,母音や h で始まれば n が脱落する傾向のあったことが知られているが,on の場合にも中英語でおそらく似たような分布があったのではないかと踏んでいる.だが,前置詞 on について他例と異なるのは,現代標準英語では通例 n を保持した完全形しか認められていないということである.
 on から n を脱落させた形態は,Swift からの Why did you not set out a Monday? の例のように近代英語にも見られ,長らく一般的だったようだ.in についても,16--17世紀に特に定冠詞の前での i' が頻用され,i'th' のように現われたが,その後は北部方言や詩における用例を除いて衰退した.n 脱落形が存続せず n が一律に「復活」したのは,Jespersen (32) によれば,"due to analogy assisted by the spelling and school-teaching" とのことである.私もこの説明は正しいだろうと思っている.
 標準英語には oa の形態は伝えられなかったと述べたが,実は接頭辞としては多くの形容詞,副詞,前置詞などに痕跡をとどめている.abed, aboard, about, above, afoot, again, ajar, alive, amid, apace, around, ashore, asleep, away, awry など多数挙げられるほか,a- 接頭辞は現代でも生産性を有しており,かなり自由に新語を形成することができる (see 「#2706. 接辞の生産性」 ([2016-09-23-1])) .
 また,twice a day などの a は共時的には不定冠詞の1つの用法ととらえられているが,歴史的にはまさに on から n が脱落した形態である.
 なお,o'clocko'on ではなく of の縮約形である.a cuppa tea (< a cup of tea) も参照.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Sounds and Spellings. 1954. London: Routledge, 2007.

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2016-10-02 Sun

#2715. thanks to [preposition][word_formation]

 現代英語の「?のおかげで;?の結果,ために」を表わす thanks to . . . という表現の歴史的発達や共時的意味について質問を受け,少々調べ始めてみた.調査の途中だが,まず現代英語の用法について考えてみたい.いくつか,例文を挙げよう.

 ・ Thanks to you, I was saved from drowning.
 ・ Thanks to Ulysses' wisdom, the Greek army was able to conquer Troy.
 ・ The plane was delayed two hours, thanks to bad weather.
 ・ It was all a great success --- thanks to a lot of hard work.
 ・ I was late to the dinner, thanks to a New York cabbie who couldn't speak English.
 ・ The railway system is in chaos, thanks to the government's incompetence.

 統語的には文頭や文末に来るのが普通で,特に文末の場合には後から添えるかのように用いられることが多いようだ.
 この thanks to は,Quirk et al. (§9.10) によれば,2語からなる複合前置詞である.第2要素に to が続く複合前置詞の1つとしてリストアップされており,ほかには according to, as to, close to, contrary to , due to, near(er) (to), next to, on to, owing to, preliminary to, preparatory to, previous, prior to, pursuant to, up to などが挙げられる.複合前置詞であるというとらえ方は,話者が共時的にこの表現を名詞 thanks と前置詞 to とに分析して理解しているわけではないことを含意するが,thanks の「感謝;おかげ」,また皮肉としての「?のせい」の意味がまったく関与していないと言い切ることも難しい.その証拠として,「?の助けによらず」ほどの意味で用いられる no thanks to . . . の表現がある.ここでは,名詞や間投詞としての thanks vs no thanks という構図が先にあり,その対立が to を付した各々の複合前置詞にも及んでいると考えられる.no thanks to の例文もいくつか挙げよう.助けてくれるはずだった人が助けてくれなかったことを皮肉るのに用いられることが多いようだ.

 ・ We managed to get it finished in the end --- no thanks to him.
 ・ It was no thanks to you that we managed to win the game.
 ・ At long last we made it, no thanks to you.
 ・ The vote passed, no thanks to the mayor.

 文末で文修飾的に用いられることが多いということから考えると,この A, (no) thanks to B というパターンは,A, for which I should say (no) thanks to B あるいは A, for which (no) thanks should be given to B とパラフレーズできそうである.もちろん,これは歴史的に後者が統語的につづまって前者へ発達したということを意味するわけではない.歴史的にいかに発達したかは,別途,調べる必要がある.OED によると,初例として1631年の文例が挙げられており,それほど古いものではないことがわかる.接続法を用いた thanks be given to . . . なる,主節から独立した用法などから発展した可能性があるのではないかと睨んでいる.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2016-09-19 Mon

#2702. Jane does nothing but watch TV.watch は原形不定詞か? [infinitive][preposition][conjunction][contamination][syntax]

 9月13日付けで掲示板に標題の質問が寄せられた,Jane does nothing but watch TV.He does something more than just put things together. のような文に現われる2つ目の動詞 watchput は原形を取っているが,これは原形不定詞と考えるべきなのか,という疑問である.
 現代英語では,原形不定詞 (bare infinitive) は大きく分けて4種類の環境で現われる.1つは,使役動詞や知覚動詞などの目的語に後続するもので,They made her pay for the damage. や The crow saw Gray score two magnificent goals. の類いである.今ひとつは,疑似分裂構文やそれに準ずる構文において What the plan does is ensure a fair pension for all. や Turn off the tap was all I did. などの文に見られる.さらに,I had said he would come down and come down he did. のような繰り返し文などにも見られる.最後に,除外を表わす前置詞 (but, except) に後続する形で She did everything but make her bed. のように用いられる (Quirk et al. §15.15; Biber et al. §11.2.2.3) .
 標題の質問に関連するのは,この最後の用法のことである.but, except は前置詞兼接続詞として他にも特殊な振る舞いを示し,どのように分析すべきかは重要な問題だが,当面,共時的には原形不定詞が後続しうる特殊な前置詞として理解しておきたい.もう1つの (more) than を用いた例文についても,意味こそ「除外」ではないが,but, except と平行的にとらえ,原形不定詞が後続する前置詞に近いものと考えておく(I would rather [sooner] die than disgrace myself. のような文も参照).さらに,関連して I intend to build the boat as well as plan it. なども合わせて考慮したい.
 だが but, except については,一方で通常の前置詞のように振る舞うこともでき,例えば He does everything in the house but [except] putting the children to bed. のように後ろに動名詞を従えることもできる.あまつさえ,to 不定詞を従える場合もあり,Nothing remains but to die. や I have no choice [alternative] but to agree. などもあるので,ややこしい.
 これらの語句に関する振る舞いの特殊性や不安定性は,but, except が前置詞的にも接続詞にも用いられることと関連するに違いない.歴史的にはどのような経緯でこのような構造が生じてきたのか詳しく調べていないが,構文上の contamination が生じているのではないかと想像される.「#737. 構文の contamination」 ([2011-05-04-1]) に挙げた (4) の例なども参照.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

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2016-02-11 Thu

#2481. Help yourself to some cake. における前置詞 to [preposition][syntax][dative][cognitive_linguistics][sobokunagimon]

 石崎陽一先生のアーリーバードの収穫で,2月7日付けの記事として「help oneself to という表現における to について」という問題が扱われている.用いられる前置詞がなぜ to なのか,という問いは確かに素朴な疑問である.石崎先生の回答が的を射ており,よくまとまっているので,直接ご覧いただければ疑問は氷塊するが,ちょっとした付け足しとして言語学的,英語史的な側面からコメントしてみようと思う.
 現代英語の help は日本語の「助ける」にぴったり対応するように感じられ,人を表わす直接目的語が続くのが自然という感覚がある.しかし,この目的語は古英語では対格(直接目的語)ではなく与格(間接目的語)や属格を取ったことから,原義としては「(人)に手を貸す」「(人)のために便宜を計る」「(人)の役に立つ」ほどだったと思われる.中英語までに与格は対格に形態的に融合してしまったために,現在,格の区別はほとんど感じられないが,help を用いる各種の語法や構文には,与格の風味が残っているように感じられる.上記のように中心的な意味は「(人)の役に立つ」という一般的なものであるから,具体的な通常の文脈では,何の役に立つのか,いかなる便宜なのか,どのように助けるのかについて補足情報が必要である.そこで,しばしば「help + 目的語」の後には種々の副詞句,前置詞句,不定詞句が続き,「?できるように人に手を貸してあげる」ほどを意味することになる.help him out (of the trouble), help her with her homework, help them across the street, help us (to) carry the luggage (see 「#971. 「help + 原形不定詞」の起源」 ([2011-12-24-1]),「#972. 「help + 原形不定詞」の使役的意味」 ([2011-12-25-1])) など.ここでは help の目的語たる人が,意味上,続く付加部と結びつけられる動作に対する動作主となっており,構文全体として「人が?することを手助けしてあげる」と統語意味的に再分析することが可能となる.換言すれば,help him outhe (be) out を手伝うのであり,help her with her homeworkshe (do) her homework を手伝うのであり,help them across the streetthey (go) across the street を手伝うということになる.つまり,help の後には,Jespersen のいうネクサス関係 (nexus) が典型的に続く.このように考えると,飲食物の関わる Help yourself to some cake. などでは,you (come up) to some case を手伝う(この場合「自助」)ということになり,結果として「自由にお召し上がりください」の意味となることが分かるだろう.
 OEDhelp ... to ... の構文の歴史を探ると,前置詞 to の目的語は,必ずしも飲食物に限らなかったようようである.中英語後期の Wycliffe がこの用法の初例として挙げられており,初期の例では to の目的語としては飲食物以外の物もあるし場所などもある.むしろ飲食物を目的語に取る用法は,近代英語期に,より一般的な上記の用法から発達したもののようだ(OED では飲食物の初例は1688年).
 おもしろいのは,おそらく問題の飲食物での用法が十分に定着したからだろう,19世紀初頭に,飲食物を help の目的語に取り,人を to の目的語に取る,いわば help some cake to yourself 風の逆転語順が現われることである.

1805 Emily Clark Banks of Douro II. 191 A goose..which [she] carved and helped to every person that chose to have any of it.


 これは,統語論や認知意味論でしばしば取り上げられる John loaded hay onto the truck. vs John loaded the truck with hay. にみられる目的語と前置詞句の交替現象を思い起こさせる(cf. 日本語の「ペンキを壁に塗る」と「ペンキで壁を塗る」).なお,統語的な transposition については「#1775. rob A of B」 ([2014-03-07-1]) も参照されたい.
 この後,19世紀前半に動名詞形 helping が「盛りつけ;一杯」の意味の名詞として独り立ちしていくことにも触れておこう (cf. a second helping (2杯目,お代わり)).また,直接の関係はないが,Thomas Carlyle (1795--1881) の造語 self-help (自助,自立)が現われたのもたまたま同時期の1831年である.Samuel Smiles (1812--1904) の名著 Self-Help (1859) は,我が国では中村正直 (1832--98) が『西国立志編』 (1871) として翻訳し,明治期に啓蒙書としてベストセラーとなったが,考えてみれば「自立」の基本は「独りで食っていけること」である.help ... to ... の用法が飲食物に特化したのもうなずけるような気が・・・.

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2016-01-23 Sat

#2462. an angel of a girl (2) [metaphor][rhetoric][word_order][syntax][preposition][reanalysis][syntax]

 昨日に続いて標題の表現について,Quirk et al. (1284--85) にこの構文が詳説されている.以下に再現しよう.

   A special case of prepositional apposition is offered by singular count nouns where the of-phrase is subjective . . ., eg:

      the fool of a policeman
      an angel of a girl
      this jewel of an island

This structure consisting of determiner + noun (N2) + of + indefinite article + noun (N1) is not a regular prepositional postmodification, since N1 is notionally the head, as can be seen in the paraphrases:

      The policeman is a fool. [note the AmE informal variant some fool policeman]
      The girl is an angel.
      This island is a jewel.

The whole part N2 + of + a corresponds to an adjective:

      the foolish policeman
      an angelic girl
      this jewel-like island

The natural segmentation is reflected in variant spellings, as in the familiar AmE expression a hell of a guy (nonstandard spelling: a helluva guy).
   In this construction, the determiner of N1 must be the indefinite article, but there is no such constraint on the determiner of N2:

      ''a''    ─┐             ┌   ''a policeman''
      ''the''    │ ''fool of'' │  *''the policeman''
      ''this''   │             └  *''policeman''
      ''that'' ─┘

Also, N2 must be singular:

   ?*those fools of policemen

The possessive determiner actually notionally determines N1, not N2:

   her brute of a brother ['Her brother was a brute..']

Both N2 and N1 can be premodified:

   a little mothy wisp of a man
   this gigantic earthquake of a piece of music
   a dreadful ragbag of a British musical
   this crescent-shaped jewel of a South Sea island


 最後の this crescent-shaped jewel of a South Sea island のように,N1 と N2 の両方が前置修飾されているような例では,この名詞句全体における中心がどこなのかが曖昧である.はたして統語的な主要部と意味的な重心は一致しているのか否か.統語と意味の対応関係を巡る共時理論的な問題は残るにせよ,通時的にみれば,片方の足は元来の構造の上に立ち,もう片方は新しい構造の上に立っているかのようであり,その立場を活かした修辞的表現となっているのがおもしろい.
 生成文法としては分析が難しく,認知言語学や修辞学としてはこの上ない興味深い構文である.ここに通時的観点をどのように食い込ませていくか,調査しがいのあるトピックのように思われる.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2016-01-22 Fri

#2461. an angel of a girl (1) [metaphor][rhetoric][word_order][syntax][preposition][reanalysis][syntax]

 前置詞 of の用法の1つとして,標題のような例がある.an angel of a girl は意味的に "a girl like an angel" とパラフレーズされ,直喩に相当する表現となる.なぜこのような意味が生じるのだろうか.
 ここでの of の用法は広い意味で「同格」 (apposition) といってよい.OED によると,of の語義23に "Between two nouns which are in virtual apposition" とあり,その語義の下に細分化された23bにおいてこの用法が扱われている.

b. In the form of, in the guise of.

The leading noun is the latter, to which the preceding noun with of stands as a qualification, equivalent to an adjective; thus 'that fool of a man' = that foolish man, that man who deserves to be called 'fool'; 'that beast of a place' = that beastly place.

Quot. ?c1200 is placed here by Middle Eng. Dict.; however the of-phrase seems to complement the verb and its object . . . rather than the preceding noun only as in later examples.

[?c1200 Ormulum (Burchfield transcript) l. 11695 Þeȝȝ hallȝhenn cristess flæsh off bræd & cristess blod teȝȝ hallȝenn. Off win.
a1375 William of Palerne (1867) 226 (MED), So fair a siȝt of seg ne sawe he neuer are.
. . . .
1992 Vanity Fair (N.Y.) Feb. 144/3 The Schramsberg offers a whirlwind of a mousse, tasting of lemon and yeast.


 MED から取られている例があるので,MEDof (prep.) を参照してみると,同様に "quasi-appositional relationship" 表わす用法として語義19b(b)に "in the form of (sth. or sb.)" とみえる.解釈の分かれる例文もありそうだが,15世紀半ばからの "a faire body of a woman" という明らかな該当例をみると,遅くとも後期中英語には同用法が発達していたことは確かである.
 "a faire body of a woman" は元来「ある女性の(姿をした)美しき体」であり,主要部は of の前位置に立つ body のはずだった.ところが,使われ続けるうちに,body of a の塊が全体として後続の名詞 woman を修飾するように感じられるようになってきたのだろう.標題の an angel of a girl でいえば,これは元来「少女の(姿をした)天使」を意味する表現だったと思われるが,angel of a の塊が全体として形容詞 angelic ほどの機能を獲得して,後続の girl にかかっていくものとして統語的に再分析 (reanalysis) された.
 一般的にいえば,a [X] of a [Y] の構造において,本来的には [X] が主要部だったが,再分析を経て [Y] が主要部となり,"a [X]-like Y" ほどを意味するようになったものと理解できる.この本来的な構造は,OED では以下のように語義23aにおいて扱われており,現在までに廃義となっている.

a. In the person of; in respect of being; to be; for. Obs.

The leading noun is the former, of the qualification of which the phrase introduced by of constitutes a limitation; thus 'he was the greatest traveller of a prince', i.e. the greatest traveller in the person of a prince, or so far as princes are concerned. The sense often merges with that of the partitive genitive. . . . .

c1275 (?a1200) Laȝamon Brut (Calig.) (1963) 3434 Þe hǣhste eorles..curen heom enne king of ane cnihte þe wes kene.
c1300 (?a1200) Laȝamon Brut (Otho) 4980 Hadden hii anne heuedling of on heȝe ibore man.
a1470 Malory Morte Darthur (Winch. Coll.) 119 He was a ryght good knyght of a yonge man.
1697 K. Chetwood Life Virgil in Dryden tr. Virgil Wks. sig. *4v, Cæsar..the greatest Traveller, of a Prince, that had ever been.
1748 Ld. Chesterfield Let. 20 Dec. (1932) (modernized text) IV. 1278 Allowed to be the best scholar of a gentleman in England.


 しかし,再分析前の23aと後の23bの用法を,文脈から明確に区別することは難しいように思われる.修辞的な観点からみれば,この統語的な両義性こそが新たな認識を生み出しているようにも思われる.結果として,同時に形容詞修飾風でもあり直喩でもあり隠喩でもある不思議な表現が,ここに生まれている.便宜的に an angelic girl とはパラフレーズできるものの,an angel of a girl の与える修辞的効果は大きく異なる.
 類似した統語的再分析の例,主要部の切り替わりの例については,「#2333. a lot of」 ([2015-09-16-1]) と「#2343. 19世紀における a lot of の爆発」 ([2015-09-26-1]) を参照.

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2015-10-19 Mon

#2366. なぜ英語人名の順序は「名+姓」なのか [onomastics][personal_name][word_order][syntax][metonymy][genitive][preposition][sobokunagimon]

 標題は「姓+名」の語順を当然視している日本語母語話者にとって,しごく素朴な疑問である.日本語では「鈴木一郎」,英語では John Smith となるのはなぜだろうか.
 端的にいえば,両言語における修飾語句と被修飾語句の語順配列の差異が,その理由である.最も単純な「形容詞+名詞」という語順に関しては日英語で共通しているが,修飾する部分が句や節など長いものになると,日本語では「修飾語句+被修飾語句」となるのに対して,英語では前置詞句や関係詞句の例を思い浮かべればわかるように「被修飾語句+修飾語句」の語順となる.「鈴木家の一郎」は日本語では「鈴木(の)一郎」と約められるが,「スミス家のジョン」を英語で約めようとすると John (of) Smith となる.だが,「の」であれば,*Smith's John のように所有格(古くは属格)を用いれば,日本語風に「修飾語句+被修飾語句」とする手段もあったのではないかという疑問が生じる.なぜ,この手段は避けられたのだろうか.
 昨日の記事「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1]) でみたように,姓 (surname) を採用するようになった理由の1つは,名 (first name) のみでは人物を特定できない可能性が高まったからである.政府当局としては税金管理のうえでも人民統治のためにも人物の特定は重要だし,ローカルなレベルでもどこの John なのかを区別する必要はあったろう.そこで,メトニミーの原理で地名や職業名などを適当な識別詞として用いて,「○○のジョン」などと呼ぶようになった.この際の英語での語順は,特に地名などを用いる場合には,X's John ではなく John of X が普通だった.通常 England's king とは言わず the king of England と言う通りである.原型たる「鈴木の一郎」から助詞「の」が省略されて「鈴木一郎」となったと想定されるのと同様に,原型たる John of Smith から前置詞 of が省略されて John Smith となったと考えることができる.(関連して,屈折属格と迂言属格の通時的分布については,「#1214. 属格名詞の位置の固定化の歴史」 ([2012-08-23-1]),「#1215. 属格名詞の衰退と of 迂言形の発達」 ([2012-08-24-1]) を参照.)
 原型にあったと想定される前置詞が脱落したという説を支持する根拠としては,of ではないとしても,Uppiby (up in the village), Atwell, Bysouth, atten Oak などの前置詞込みの姓が早い時期から観察されることが挙げられる.「#2364. ノルマン征服後の英語人名のフランス語かぶれ」 ([2015-10-17-1]) に照らしても,イングランドにおけるフランス語の姓 de Lacy などの例はきわめて普通であった.このパターンによる姓が納税者たる土地所有階級の人名に多かったことは多言を要しないだろう.しかし,後の時代に,これらの前置詞はおよそ消失していくことになる.
 英語の外を見渡すと,フランス語の de や,対応するドイツ語 von, オランダ語 van などは,しばしば人名に残っている.問題の「つなぎ」の前置詞の振る舞いは,言語ごとに異なるようだ.

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2015-09-05 Sat

#2322. I have no money with me.me [reflexive_pronoun][personal_pronoun][preposition]

 現代英語において,主語と同一の指示対象を指す代名詞は,通常の単純形の代名詞ではなく -self を伴う再帰代名詞の形態をとらなければならないというのが規則である.しかし,ときに単純代名詞と再帰代名詞の選択が任意という場合がある.位置を表わす前置詞の目的語として用いられるケースで,Quirk et al. (359) によれば,次のような例が挙げられる.

 ・ She's building a wall of Russian BÒOKS about her(self).
 ・ Holding her new yellow bathrobe around her(self) with both arms, she walked up to him.
 ・ Mason stepped back, gently closed the door behind him(self), and walked down the corridor.
 ・ They left the apartment, pulling the spring lock shut behind them(selves).

 さらに,主語と同一指示対象でありながら,単純形が任意どころか義務という場合すらある.やはり前置詞の目的語として用いられる場合で,標題の文に代表される.Quirk et al. (360) では,次のような例文が挙げられている.

 ・ He looked about him.
 ・ She pushed the cart in front of her.
 ・ She liked having her grandchildren around her.
 ・ They carried some food with them.
 ・ Have you any money on you?
 ・ We have the whole day before us.
 ・ She had her fiancé beside her.

 歴史的にみれば,これらの単純形も機能的には歴とした再帰代名詞である.歴史的背景を略述すれば,初期近代英語までは,動きや静止を表わす自動詞 (ex. fare, go, run; rest, sit, stay) や感情を表わす他動詞 (ex. doubt, dread, fear, repent) は,単純形の再帰代名詞を伴うのが普通だった.しかし,17世紀にはこの語法は衰退し,単純形の再帰代名詞は廃用となっていった(中尾・児馬,p. 36).関連して,「#578. go him」 ([2010-11-26-1]),「#1392. 与格の再帰代名詞」 ([2013-02-17-1]),「#2185. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退」 ([2015-04-21-1]) も参照.
 このように単純形が衰退するなかで,唯一取り残されて生き延びたのが,上掲の事例である.生き残った理由としては,問題の代名詞に強調や対比の意味がこめられておらず,形態的にも短いものが好まれたということが考えられる.これらの例文において強調されているのは,むしろ前置詞のほうだろう.このことは,"Pat felt a sinking sensation inside (her)." のように,問題の代名詞が省略される場合すらあることからも推測される.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
 ・ 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.

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2015-07-14 Tue

#2269. 受動態の動作主に用いられた byof の競合 [preposition][passive][grammaticalisation][hc]

 標記の問題について直接,間接に「#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞」 ([2012-12-20-1]),「#1350. 受動態の動作主に用いられる of」 ([2013-01-06-1]),「#1351. 受動態の動作主に用いられた throughat」 ([2013-01-07-1]) で取り上げてきた.後期中英語から初期近代英語にかけての時期の byof の競合について,Peitsara の論文を読んだので,その結論部 (398) を引用しておきたい.

   I hope to have shown, firstly, that the by-agent prevailed in English in the 15th century, i.e. two centuries earlier than suggested so far. . . . The necessary consequence of the first conclusion is that agentive by can hardly have been rare before 1400.
   Secondly, it appears that there has not been a development from a general agentive of into a general agentive by in Middle English, but the two variants have existed side by side (possibly together with some others excluded from this study) fro some time. They were, however, not in free variation in the 15th and 16th centuries but had become specialized, partly according to the type of text and partly according to the semantic fields of the participles in the passive clause. This specialization was more complicated than, and partly different from, that described by some scholars, and it apparently involved foreign influence.
   Thirdly, the Middle English period was particularly favourable for the gradual grammaticalization of by in agentive function because of the heavier functional load of the preposition of and the lack of special grammaticalization for by.


 この論文は1992年のものであり,2015年の現在からすると最新というわけではないのだが,当時のハイテクツールといってよい Helsinki Corpus を利用した事例研究として,注目すべきものではある.先行研究を批判的に評価し,新しいツールに依拠しながら,by が15世紀までに受動態の動作主を表わす前置詞として一般化しつつあった(そして含意としては後に文法化した)こと,一方で of は同じ頃,同様の用法を有しながらも複数の要因によって使い分けられるマイナーな代替物として機能していたことを明らかにした.
 引用の第2段落の最後の文にあるように,Peitsara は英語での前置詞の選択がラテン語やフランス語の語法に影響を受けた可能性にも言い及んでいる.ラテン語 deof に,フランス語 parby に相当し,それぞれの関与が考えられそうだが,実際には Peitsara はこの方向での突っ込んだ調査はしていないし,特別な意見を述べているわけではない.今後の研究が期待されるところだ.同様に,前置詞の選択が,動詞(過去分詞)の意味にも依存しているらしいと述べているが,これについても今後の調査が待たれる.

 ・ Peitsara, Kirsti. "On the Development of the by-Agent in English." History of Englishes: New Methods and Interpretations in Historical Linguistics. Ed. Matti Rissanen, Ossi Ihalainen, Terttu Nevalainen, and Irma Taavitsainen. Berlin: Mouton de Gruyter, 1992. 379--99.

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2015-04-08 Wed

#2172. 古英語の副詞節を導く接続詞 [oe][conjunction][preposition][syntax][case]

 Mitchell and Robinson (83--86) より.副詞節を導く接続詞を列挙する.Non-prepositional conjunctions と Prepositional conjunctions に分けられる.まずは前者から.

[ Non-prepositional conjunctions ]

ǣr"before"
būtan"but, except that, unless"
gif"if"
hwonne"when"
nefne, nemne"unless"
"now that"
"until"
sam . . . sam"whether . . . or"
siþþan"after, since"
swā þæt"so that"
swelce"such as"
þā"when"
þā hwīle þe"as long as, while"
þanon"whence"
þǣr"where"
þæs"after"
þæt"that, so that"
þēah"although"
þenden"while''
þider"whither"
þonne"whenever, when, then"
þȳlǣs (þe)"lest"


 次に Prepositional conjunctions の一覧.これらは,前置詞の後に þæt の適切な格形が続いて(さらに不変化の subordinating particle þe あるいは不変化の þæt が続くこともある),句全体で接続詞として機能するものである.for を例にとれば,for þǣm, for þam, for þan, for þon, for þy, for þi, for þæm þe, forþan þæt など,諸形が用いられる.

[Prepositional conjunctions]

æfter + dat., inst.Adv. and conj. "after".
ǣr + dat., inst.Adv. and conj. "before".
betweox + dat., inst.Conj. "while".
for + dat., inst.Adv. "therefore" and Conj. "because, for". For alone as a conj. is late.
mid + dat., inst.Conj. "while, when".
+ acc.Conj. "up to, until, as far as" defining the temporal or local limit. It appears as oþþe, oþþæt, and oð ðone fyrst ðe "up to the time at which".
+ dat., inst.Conj. "to this end, that" introducing clauses of purpose with subj. and of result with ind.
+ gen.Conj. "to the extent that, so that".
wiþ + dat., inst.Conj. lit. "against this, that". It can be translated "so that", "provided that", or "on condition that".


 関連して,後続古英語の前置詞について「#30. 古英語の前置詞と格」 ([2009-05-28-1]) を参照.

 ・ Mitchell, Bruce and Fred C. Robinson. A Guide to Old English. 8th ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.

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2014-12-19 Fri

#2062. bytwyste ??勌?? [preposition][pearl][blend][contamination]

 between の異形態の歴史について,「#1389. between の語源」 ([2013-02-14-1]),「#1393. between の歴史的異形態の豊富さ」([2013-02-18-1]),「#1394. between の異形態の分布の通時的変化」 ([2013-02-19-1]),「#1399. 初期中英語における between の異形態の分布」 ([2013-02-24-1]),「#1554. against の -st 語尾」 ([2013-07-29-1]),「#1807. ARCHER で betweenbetwixt」 ([2014-04-08-1]) などで取り上げてきた.現代英語の betwixt に連なる諸形態を含め,数多くの異形態が古英語以来おこなわれてきた.主要な異形態はおよそ辞書やコーパスから収集してきたつもりだったが,漏れがあった.MEDbitwix(e (prep.) に,異形態として挙げられている -twist だ.OED でも,中英語の異形態としての bytwyste が触れられている.しかし,MED にも OED にも異形態としての言及があるだけで,用例のなかには該当する形態が現われず,確認が取れていなかった.14世紀後半の作とされる Pearl を読んでいたところ,たまたま bytwyste に出くわしたので,メモしておきたい.脚韻位置に現われるので,ababababbcbc の脚韻スキームからなる12行の節 (ll. 457--468) をまるごと引用しよう.

'Of courtaysye, as saytz Saynt Poule,
Al arn we membrez of Jesu Kryst:
As heued and arme and legg and naule
Temen to hys body ful trwe and tryste,
Ryȝt so is vch a Krysten sawle
A longande lym to þe Mayster of myste.
Þenne loke: what hate oþer any gawle
Is tached oþer tyȝed þy lymmez bytwyste?
Þy heued hatz nauþer greme ne gryste
On arme oþer fynger þaȝ þou ber byȝe.
So fare we alle wyth luf and lyste
To kyng and quene by cortaysye.'


 他にもざっと探したが -twist 系の異形態は見つかっていないので,Pearl からのこの例が今のところ唯一例である.この形態の起源については, bitweies のような s で終わる形態に t が添加されたもの (paragoge) とも考えられるし,bitwixte のような /kst/ をもつ形態から /k/ が消失したものとも考えられる.あるいは,その両系列が融合した混成 (blending, contamination) の可能性も疑われる.表面的には非語源的な <t> の語末添加と見えるが,単なる音韻変化の問題なのか,混成や類推などという形態論的な側面も関与しているのか,議論の余地があるだろう.

 ・ Andrew, Malcolm and Ronald Waldron, eds. The Poems of the Pearl Manuscript. 3rd ed. Exeter: U of Exeter P, 2002.

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2014-03-07 Fri

#1775. rob A of B [preposition][syntax][word_order]

 剥奪の of と呼ばれる,前置詞 of の用法がある.標記の構文は「AからBを奪う」という意になるが,日本語を母語とする英語学習者の感覚としては,むしろ「BからAを奪う」なのではないかと感じられ,どうにも座りが悪い.現代英語において極めて頻度の高い前置詞 of は,分離の前置詞 off と同根であり,歴史的には前者が弱形,後者が強形であるという差にすぎない.つまり,of にせよ off にせよ,歴史的な語義は分離・剥奪なのだから,標記の構文は take A from B ほどの意味として解釈できるのであれば自然だろう.ところが,実際の意味は,あたかも take B from A の如くである.
 1年ほど前のことになるが,石崎陽一先生に,この構文に関する質問をいただいた.日本のいくつかの英文法書で,この構文について,A と B が入れ替わる transposition という現象が起きたという転置説が唱えられているという.上述のように,確かに of の前後の名詞句が転置しているように思われるので,この説明は直感的に受け入れられそうには思われる.しかし,少し調べてみると,転置説も簡単に受け入れるわけにはいかないようだ.そのときにまとめた石崎先生への返答を本ブログで繰り返すにすぎないのだが,以下にその文章を掲載する.

 OED や手近な資料で調べた限り,歴史的に transposition の事実を突き止めることはできませんでした.
 まず,transposition という現象が起こったということが実証できるかどうか,rob を例にとって検討してみます.rob him of money という構文は,transposition が起こった結果であると主張するためには,

  (1) 対応する rob money of him が歴史的にあったこと,
  (2) rob money of him のタイプが時間的に先であること

の2点を示す必要があると考えます.
 (1) の点ですが,OED で確認する限り,確かに rob money of him の構文は歴史的には存在しました.前置詞は from が多いようですが,of もあります (OED rob, v. 5) .MED でも同様に確認されます.
 (2) の点ですが,rob him of moneyrob money of him は初出はそれぞれ a1325,c1330(?a1300) です.この程度の違いでは,どちらが時間的に先立っていたかを明言することはできないように思われます.なお,deprive については,前者タイプが c1350,後者タイプが c1400 (?c1380) ですので,額面通りに信じるとすれば,deprive him of money が先立っていることになります.
 いずれの動詞についても英語で確認される最初期から両構文が並存していたと考えてよさそうですので,transposition の事実は,現在得られる最良の証拠に依拠するかぎり,歴史的には確認できないことになります.
 以上より,transposition の仮説自体を却下することはできない(歴史的により早い例が今後発見されれば,(2) を再考する動機づけにはなります)ものの,transposition が起こったと積極的に主張することはできないように思われます.
 もう一言加えますと,robdeprive は借用語なので古英語の用法まで遡ることはできませんが,bereave については本来語ですので遡ることができます.bereave him of money などの構文で,古英語では of money の部分は属格で表わされていました.それが,中英語以降に of 迂言形で置換されたというのが英語史での定説です(Mustanoja 88).bereave money from (out of) him の構文 (of のみを使う構文はないようです)は14世紀に初めて確認されますが,この動詞の場合には,明らかに bereave him of money のタイプが時間的に先立っています.bereave と,robdeprive をどこまで平行的に考えてよいのかという問題はありますが,もしそのように考えることが妥当だとすれば,これは (2) の主張に対する積極的な反証となります.
 これらの証拠を提供してくれている OED 自身が,of, prep. 5a(b) で,いわゆる剥奪の of の用法を "by a kind of transposition" として言及しているのが気になります.腑に落ちないところですね.
 他の剥奪の動詞も体系的に調べなければ最終的な結論を出すことはできませんが,現段階では,歴史的な観点からは,transposition という説明には賛成できません.


 上の議論を振り返ってみると,結論としては transposition があったともなかったとも明言しておらず,奥歯にものが挟まったような感じである.もっと調べてみる必要がある.
 なお,rob (奪う)と同じ構文を取る動詞としては,clear (片づける),cure (治療する),deprive (奪う),empty (空にする),relieve (取り除いてやる),rid (取り除く),strip (はぎとる)などがある.これらを合わせて考慮すべきだろう.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2014-01-03 Fri

#1712. as regards [preposition][conjunction][impersonal_verb][corpus][clmet]

 標題の熟語は,形式張った文体で「?に関しては,?について(いうと)」の意味で用いられる.典型的には "As regards the result, you need not worry so much." のように新しい主題を導くのに用いられる.機能的には前置詞といってよいだろう.
 この複合前置詞は,歴史的には「#1201. 後期中英語から初期近代英語にかけての前置詞の爆発」 ([2012-08-10-1]) で示唆したように,近代英語で発達してきた.だが,細かくいえば as regards は初期近代英語ではなく後期近代英語での発達と考えられる.OED の regard, v. によると,語義 8b にこの用法が記述されており,初例としては1797年の "A distinction is made, as regards moral rectitude, in the minds of many individuals." という例文が挙げられている.

b. as regards, as regarded (now rare), †as regarding: with respect or reference to


 一方,同じ動詞の現在分詞から発展した regarding, prep. も同様に用いられるが,こちらの初例としては1779年から " The servant was called, and examined regarding the import of the answer he had brought from Madame la Comtesse." の例文が挙げられている.ただし,名詞句に後続する regarding については17世紀より例があり,これが現在分詞なのか前置詞なのかを決定することは難しい.
 初出年代の細かな問題はあるにせよ,as regardsregarding も後期近代英語期になって根付いた動詞由来の前置詞であると解釈することに大きな異論はないだろう.OED に記載のある †as regarding も含めて,動詞 regard から派生した前置詞の複数の異形が18世紀後半辺りに活躍しだしたと考えられる.
 それを確かめるべく,「#1637. CLMET3.0 で betweenbetwixt の分布を調査」 ([2013-10-20-1]) で紹介した The Corpus of Late Modern English Texts, version 3.0 (CLMET3.0) により,as regards を検索してみた(as regarding は2例ほどヒット).70年間ごとに区切った頻度をまとめると以下のようになった.

DecadeFrequencyCorpus size
1710--17805 (5)10,480,431 words
1780--185070 (18)11,285,587
1850--1920347 (6)12,620,207


 OED が示唆するよりも少し早く,18世紀半ばからの例が確認される.しかし,例文を眺めてみると,おもしろいことに第1期からの例はいずれも so [as] far as regards . . . という形で現れている(上の表でかっこ内に示した頻度は,(in) so [as] far as regards . . . の形で現れる内数)."so far as regards the present subject", "as far as regards your knowledge", "so far as regards our present purpose" の如くである.第2期にも同種の例が多いことを考えると,as regardsas far as regards の省略形として発展・定着してきたとも考えられるかもしれない.
 なお,現在 as regards は複合前置詞としてとらえられており,統語的に分析する意味はないだろうが,歴史的な関心からあえて統語的に分析すれば,as は従属接続詞であり,主語を取らない非人称構文を導いているということになる.regards に後続する名詞句はあくまで動詞の目的語と分析される.

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2013-12-13 Fri

#1691. than の代用としての as [conjunction][comparison][preposition]

 than は形容詞や副詞の比較級の後に用いられるのが通常である.一方,原級は as [so] . . . as ののように,as をもって比較対象を示す.しかし,比較級と as がタッグを組む構造がある.規範文法に照らせば誤用となるが,歴史的に文証されるし,現在でも各方言で見られる.OED の as, adv. and conj. の B. 5 では,次のようにある.

5. After the comparative degree: than. Now Eng. regional (Yorks.), Sc. regional, Irish English (north.) and U.S. regional.
   [Compare German besser als better than, classical Latin tam...quam as..as, plus quam more than.]


 例文も,c1300年の初例から,現代英語に至るまで15例が取り上げられている.MEDas (conj.) の語義 3(b) のもとに,3つの例文が挙げられている.いくつかランダムに挙げよう.

 ・ c1300 St. Edward Elder (Laud) l. 38 in C. Horstmann Early S.-Eng. Legendary (1887) 48 (MED), Fellere þing nis non ase wumman ȝware heo wole to vuele wende.
 ・ ?a1425(1373) * Lelamour Macer (Sln 5) 67b: Also this erbe haviþ mo vertues as endyue haþe.
 ・ (1460) Paston 3.241: I hadde never more neede for to have help of my goode, as I have at this tyme.
 ・ a1475(?a1430) Lydg. Pilgr.(Vit C.13) 2914: Hys lordshepe was nat mor at al, As ben thys lordys temporal.
 ・ ?a1600 Marriage Wit & Wisdom (1846) iii. 27, I had rather haue your rome as your componie.
 ・ 1893 H. A. Shands Some Peculiarities of Speech in Mississippi 17 Illiterate whites..say: 'This is better as that', 'I'd rather have this as that', etc.


 なお,than の代用としての as については,細江 (447) が次のように述べている.

 これは今日においてはまず廃語ではあるが,近世初期にはなお多く用いられたもので,その後の書中にも散見する。
 たとえば,
 Darkness itself is no more opposite to light as their actions were diametrical to their words.---James Howell.
 I rather like him as otherwise.---Scott.


 ラテン語,ドイツ語でも原級の場合と比較級の場合とでは同じ接続詞を用いるし,フランス語 que もそうだ.このように他言語と比べると,むしろ英語が asthan を区別するほうが説明を要するのではないかとすら思えてくる.比較級の asthan に比べれば歴史的にも周辺的ではあったろうが,中英語から近代英語にかけての分布は調べてみる価値がありそうだ.
 asthan の語源については,それぞれ「#693. as, so, also」 ([2011-03-21-1]) 及び「#1038. thenthan」 ([2012-02-29-1]) を参照.また,比較の前置詞 to については,「#1180. ロマンス系比較級と共起する比較基準の前置詞 to」 ([2012-07-20-1]) を参照.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

Referrer (Inside): [2019-05-08-1]

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2013-10-20 Sun

#1637. CLMET3.0 で betweenbetwixt の分布を調査 [corpus][lmode][preposition][clmet]

 今年3月に Leuven 大学の Hendrik De Smet により The Corpus of Late Modern English Texts, version 3.0 (CLMET3.0) が公開された.編者にメールで使用許可をもらえば無償でダウンロードし利用できる.1710--1920年のイギリス英語コーパスで,約3,400万語からなるジャンルを整理したバランスコーパスである(先行版 CLMETEV の1500万語から大幅に拡大).プレーンテキストとタグ付きテキストで配布されており,70年間で分けた3つの時代区分ごとにヒット数を数える Perl スクリプトが付属しており,とりあえず使うのに便利である.コーパスの構成は以下の通り.

Sub-periodNumber of authorsNumber of textsNumber of words
1710--1780518810,480,431
1780--1850709911,285,587
1850--19209114612,620,207
TOTAL21233334,386,225

Genre1710--17801780--18501850--1920
Narrative fiction4,642,670 words4,830,7186,311,301
Narrative non-fiction1,863,8551,940,245958,410
Drama407,885347,493607,401
Letters1,016,745714,343479,724
Treatise1,114,5211,692,9921,782,124
Other1,434,7551,759,7962,481,247


 現在関心をもっている betweenbetwixt の揺れについて,後期近代英語でそれぞれがどのような分布を示すか,CLMET3.0 で軽く調査してみた.付属の検索ツールで検索した結果は,以下の通り.

Sub-periodbetweenbetwixt
1710--17804,869 words (464.58 wpm)657 (62.69 wpm)
1780--18505,457 (483.54 wpm)109 (9.66 wpm)
1850--19207,672 (607.91 wpm)51 (4.04 wpm)


 18世紀中は,between (88.11%) と並んで betwixt (11.89%) が,まだある程度の比率で使われていた.しかし,19世紀以降に激減し,現代英語における影の薄い変異形となったことがわかる.
 なお,De Smet は同じサイトで The Corpus of English Novels (CEN) も公開している.こちらは1882--1922年という1世代の間に書かれた英米の小説を集めたもので,短期間の言語変化調査や作家間の語法比較を念頭に置いたコーパスだという.全体で2,600万語からなる(内訳はソースHTMLを参照).こちらで調べると,between が9,905例 (98.86%),betwixt が114例 (1.14%) であり,確かに後者はすでに影が薄い.

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2013-10-05 Sat

#1622. eLALME [me_dialect][lalme][preposition][map][web_service]

 昨日の記事「#1621. The Middle English Grammar Corpus (MEG-C)」 ([2013-10-04-1]) で触れたが,後期中英語の方言地図 LALME の改訂・電子版 eLALME が,今年,Edinburgh 大学よりオンラインで公開された.書籍版 LALME にあった誤りが訂正されるなど,改訂版といってよく,機能の豊富さや検索の便などで,今後は電子版が主として利用されてゆくことになると思われる.
 書籍版に対して種々の拡張がなされているが,Item Number などの対応番号が異なっているものもあるので注意を要する.例えば,between の異形の分布について,書籍版では Dot Maps 703--06, 1118--19 に6種類の分布図が掲載されているが,電子版では Item Number 89 のもとに16種類の分布図が掲載されている.実際,Dot Map の数は電子版になって1/3以上増えた.
 また,ユーザー定義の方言地図が描けるというのが目を見張る.「#1394. between の異形態の分布の通時的変化」 ([2013-02-19-1]) や昨日の記事 ([2013-10-04-1]) でも話題にした between の歴史的異形に関して,語末の子音群に x を含むタイプが後期中英語でどのように分布していたかを知りたい場合を想定しよう."User-defined Maps" の機能から,"Select one or more items" で "89 BETWEEN pr [North & Ireland]" を選んだ上で,"Select one or more forms" で x を含む形態のすべてにチェックを入れる.それから "Make map" をクリックすれば,以下のような Dot Map が得られるという仕組みである.既製の Dot Map よりも,条件を細かくチューニングできる.

Map of x-Type of BETWEEN by eLALME

 書籍版の Item Map に相当するものは,ウェブ上での地図製作技術の限界から,電子版では得られない.しかし,代替手段として,ユーザー定義地図のドットをクリックすることにより,その地点における言語項目の異綴字をポップアップさせることができる.これは既製の Dot Map では不可能なので,ユーザー定義地図の利用価値は高い.
 昨日紹介した LALME 系コーパス The Middle English Grammar Corpus (MEG-C) と合わせて,中英語方言研究もついに本格的にデジタル時代へ突入したといえるのではないか.
 なお,方言地図作成といえば自作の「#846. HelMapperUK --- hellog 仕様の英国地図作成 CGI」 ([2011-08-21-1]) もどうぞ.

 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

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2013-10-04 Fri

#1621. The Middle English Grammar Corpus (MEG-C) [corpus][preposition][me_dialect]

 ノルウェーの Stavanger 大学で,Merja Stenroos 氏が中心となって The Middle English Scribal Texts Programme (MEST) が進行中である.Glasgow 大学と Helsinki 大学の協力のもとに,中英語のテキストのコーパス化が進んでいる.このプログラムは具体的には2つのプロジェクトからなり,1つは1998年に Glasgow 大学が立ち上げた Middle English Grammar Project の延長線上にある The Middle English Grammar Corpus (MEG-C) の編纂で,もう1つは2012年に開始された Language and Geography in Middle English Local Documents (MELD) である.
 今回は,前者のプロジェクト MEG-C について紹介したい.このコーパスは,後期中英語の方言地図 LALME のソースとなったテキストを電子化するという目的で編纂されている.姉妹版である初期中英語の方言地図 LAEME が最初からコーパス付きでオンライン公開されたのと対照的に,LALME では,編纂された時代が時代だけに,方言地図が紙媒体で公表されたにすぎなかった.2013年に LALME が改訂・電子化され eLALME としてアクセスできるようになったが,方言地図作成のもととなった資料自体は電子化されていなかった.現在,そのコーパスファイル群がMEG-C files から自由にダウンロードできるようになっている.
 MEG-C は,実際には LALME の参照した1350--1500年のソーステキストのみならず,より早い時期のテキストをも含むコーパスとして成長している.長いテキストについては3000語のサンプルを取って収容しているが,現行の2011.1版では,目標とするテキストの半分ほどがカバーされているという.写本やファクシミリから転写しているというから,LAEME のコーパスに勝るとも劣らぬ大変な労力である.ありがたく利用させていただきたい.
 早速,MEG-C にちょっとした検索をかけてみた.「#1394. between の異形態の分布の通時的変化」 ([2013-02-19-1]) で見た between の歴史的異形の分布のなかで,とりわけ語尾において x をもつ betwix(t) タイプが,後期中英語でどれくらい使用されていたかに関心があった.そこで検索してみると,104例が -x で終わるタイプ,14例が -xe で終わるタイプ,2例が -xt で終わるタイプという結果が出た.この頻度の傾向は,Helsinki Corpus による M3--M4期からの証拠とほぼ符合する.互いのコーパスの信頼度を測ることができたといえるだろう.
 中英語の方言研究も,ますますツールが充実してきた感がある.

 ・ Stenroos, Merja, Martti Mäkinen, Simon Horobin, and Jeremy Smith. The Middle English Grammar Corpus, version 2011. 1. U of Stavanger, 2011. Online at http://www.uis.no/research/culture/the_middle_english_grammar_project/. Accessed : 4 October 2013.

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2013-08-18 Sun

#1574. amongst の -st 語尾 [preposition][phonetics][euphony][analogy][suffix][morpheme]

 -st の語尾音添加 (paragoge) については,昨日の記事「#1573. amidst の -st 語尾」 ([2013-08-17-1]) を含め,##508,509,510,739,1389,1393,1394,1399,1554,1555,1573 の各記事で扱ってきた.その流れで,今日は amongst について.
 OED によると,語尾音添加形は15世紀に起こっており,挙げられている例としては amongest の綴字で16世紀初頭の "1509 Bp. J. Fisher Wks. (1876) 296 Yf ony faccyons or bendes were made secretely amongest her hede Officers." が最も古い.直接のモデルとなったと考えられる amonges のような形態はすでに中英語で広く用いられていた(MEDamong(es (prep.) を参照).apheresis (語頭音消失)を経た 'mongst も16世紀半ばから現われている.
 小西 (69) によれば,amongamongst のあいだに意味の違いはなく,使用頻度は10対1である.ただし,イギリス英語ではアメリカ英語よりも amongst の使用頻度が高い.母音の前では好音調 (euphony) から amongst が用いられる傾向があるという指摘もあるが,BNC を用いた調査ではそのような結果は出なかったとしている.この指摘が示唆的なのは,「#1554. against の -st 語尾」 ([2013-07-29-1]) で触れたように,-st 語尾の添加は後続する定冠詞の語頭子音との結合に起因するという説との関連においてである.もし amongst + 母音の傾向があるとすれば,逆方向ではあるが同じ euphony で説明されることになる.
 さて,本ブログではこれまで -st の語尾音添加について against, amidst, amongst, betwixt, unbeknownst, whilst の6語についてみてきた.OED や語源辞典で得た初出時期の情報を一覧してみよう.

againstc1300
betwixtc1300
whilsta1400
amongstC15
amidstC15
unbeknownst1854


 unbeknownst は別として,初例が14--15世紀に集まっている.集まっているとみるか散らばっているとみるかは観点一つだが,後期中英語以降 -st 語群の緩やかな連合が発達してきたように思われる.生産性はきわめて低いながらも,形態素 -st を見出しとして立てるのは行き過ぎだろうか.

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.

Referrer (Inside): [2013-08-19-1]

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2013-08-17 Sat

#1573. amidst の -st 語尾 [preposition][genitive][phonetics][analogy]

 「#1554. against の -st 語尾」 ([2013-07-29-1]) や「#1555. unbeknownst」 ([2013-07-30-1]) などの記事に引き続き,-st 添加の話題.
 amidst は,古英語 on middan に由来する中英語 amid に副詞的属格語尾 -es を付加して amiddes を作り,そこにさらに -t を付加した語形成である.amid の初例は ?a1200 の Layamon であり,amiddes は14世紀前半に初出している.中英語からの例は,MEDamid(de, amiddes (adv. & prep.) を参照.
 -t を添加した amidst 系列については,OED の例文つき初出は "1565 T. Stapleton tr. Bede Hist. Church Eng. 66 Warme with a softe fyre burning amidest therof." であるが,amidest の綴字は15世紀から現われているようだ.その apheresis (語頭音消失)の結果と考えられる myddest が,名詞としてではあるがやはり15世紀に文証されており,amidst と相互に影響し合っていた可能性がある.興味深いのは,OED "midst, n., prep., and adv. の語義 C1 によると,14世紀に m が挿入された綴字ではあるが,mydmeste という形態が文証されることである.

 1. In the middle place. Obs.
  Only in first, last, and midst and similar phrases recalling Milton's use (quot. 1667).

[c1384 Bible (Wycliffite, E.V.) (Douce 369(2)) (1850) Matt. Prol. 1 In the whiche gospel it is profitable to men desyrynge God, so to knowe the first, the mydmeste, other the last.]
1667 Milton Paradise Lost v. 165 On Earth joyn all yee Creatures to extoll Him first, him last, him midst, and without end.


 first, last, and midst という句が示すとおり,最上級の -st との連想(そして Coda での押韻)が作用していることがわかる.
 -st の語尾音添加 (paragoge) を受けた against, amidst, amongst, betwixt, whilst などのあいだには,意味的に「間」や最上級と連想されうる要素が共有されているようにも思われるし,機能語としての役割も共通している.初出の時期も,-(e)s 系列も含めて,およそ中英語から近代英語にかけての時期にパラパラと現われている.微弱ながらも,何らかの類推 (analogy) が作用していそうである.
 なお,現代英語における amidamidst の使い分けについて,小西 (70) より記そう.両者ともに文語的だが,専門データベースによると前者のほうが12倍以上の頻度を示す.しかし,amidst はイギリス英語で好まれるという特徴がある.また,OED によると,"There is a tendency to use amidst more distributively than amid, e.g. of things scattered about, or a thing moving, in the midst of others." とある通り,amidst は個別的な意味が強いというが,これが事実だとすれば -st の音韻的な重さと意味上の強調とのあいだに何らかの関係を疑うことができるかもしれない.
 -st 語尾音添加については,ほかにも[2013-07-29-1]の記事の末尾につけたリンク先の諸記事を参照.

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.

Referrer (Inside): [2013-08-18-1]

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