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conversion - hellog〜英語史ブログ

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2012-01-12 Thu

#990. 副詞としての very の起源と発達 (1) [etymology][semantic_change][conversion][adverb][adjective][flat_adverb][intensifier][metanalysis]

 [2012-01-04-1]の記事「#982. アメリカ英語の口語に頻出する flat adverb」で,本来,形容詞である goodreal が,主として米口語で副詞として用いられるようになってきていることに触れた.形容詞から副詞へ品詞転換 (conversion) した最も有名な例としては,強意語 very を挙げないわけにいかない.
 very は,現代英語で最頻の強意語といってよいだろう.Frequency Sorter によれば,BNC における very の総合頻度は86位である.しかし,この語が強意の副詞として本格的に用いられ出したのは15世紀以降であり,中英語へ遡れば主たる用法は「真の,まことの,本当の」を意味する形容詞だった.それもそのはずで,この語は古フランス語の同義の形容詞 ve(r)rai を借用したものだからである(現代フランス語では vrai).英語での初例は,c1275.この語義は,in very truth, Very God of very God などの慣用句中に残っている.14世紀末には,定冠詞や所有格代名詞を伴って「まさにその,全くの」を意味する強意語としても用いられ始め,この用法は現代英語の the very hat she wanted to get, at the very bottom of the lake, do one's very best などにみられる.
 一方,早くも14世紀前半には,上記の形容詞に対応する副詞として「真に,本当に」の語義で very の使用が確認されている.なぜ形容詞から副詞への転換が生じたかという問題を解く鍵は,that is a verrai gentil man (Gower CA iv 2275), he was a verray parfit gentil knyght (Ch. CT A Prol. 72), this benigne verray feithful mayde (Ch. CT E Cl. 343) などの例に見いだすことができる.ここでの very の用法は,続く形容詞と同格の形容詞である.しかし,意味的にも統語的にも,第2の形容詞を強調する副詞と解釈できないこともない.つまり,異分析 (metanalysis) が生じたと疑われる.このような句が慣習的に行なわれるようになると,修飾されるべき名詞がない統語環境ですら very が形容詞に先行し,完全な副詞として機能するに至ったのではないか.また,verray penitentverray repentaunt などのように,very が,名詞的に機能しているとも解釈しうる形容詞を修飾するような例も,この品詞転換の流れを後押ししたと考えられる.そして,15世紀には強意の副詞として普通になり,16世紀後半までにはそれまで典型的な強意の副詞であった full, right, much を追い落とすかのように頻度が高まった.
 以上,Mustanoja, pp. 326--27 を参考に記述した.1つの説得力のある議論といえるだろう.中英語で用いられた他の多くの強意副詞も,その前後のページで細かく記述されているので参考までに.
 考えてみれば,[2012-01-04-1]でみた現代米口語の副詞的 real もかつての ve(r)rai と同様,フランス借用語であり,かつ「真の,まことの,本当の」を意味する形容詞である.a real good soundtrack などの表現をみるとき,上述の Mustanoja の very に関する議論がそのまま当てはまるようにも思える.歴史が繰り返されているかのようだ.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2011-11-08 Tue

#925. conversion の方向は共時的に同定できるか? [conversion][word_formation][diatone][semantic_change][affix]

 [2009-11-03-1]の記事「#190. 品詞転換」ほか conversion の諸記事では,conversion を主として歴史的過程として解釈してきたが,共時的な語彙間の関係として解釈することもできる.ただし,その場合にも conversion の方向は意識されているように思われる.conversion を zero-derivation と考えると,その出発点を基体 (base) ,到着点を派生形 (derivative) と呼び分けることができるが,形態的には同一である base と derivative を共時的に区別する手がかりはどこにあるのだろうか.大石 (167--73) および Lieber (49--50) を参照し,主要な方法について要約しよう.

 (1) 意味を参照する方法.名詞と動詞の用法をもつ net を例に取ると,名詞としての「網」を基準とすると,動詞形は "put into a net" として容易に定義できるが,その逆は簡単ではない.名詞としての net がより一般的な意味をもっているということであり,こちらを基準と考えるべき共時的な根拠を提供している.反対に,動詞から名詞への転換を表わす(通時的に確認されている)例としては,washthrow がある.それぞれの名詞の意味は,対応する動詞を X とすると "an instance of X-ing" として定義されるのが普通であり,逆にこの典型に適合していれば動詞から名詞への転換である可能性が高い.
 (2) 接辞(特に接尾辞)を参照する方法.問題の語形に,特定の品詞と典型的に結びつけられる接辞がすでに付加されている場合には,その品詞としての用法が基準であると考えられる.例えば,commission は典型的な名詞接尾辞をもっているので,名詞用法が基準で,動詞用法が派生であると想定される.
 (3) 純粋な conversion ではないが,強勢の交替を伴う名前動後 (diatone の語では,原則として基体は動詞であると考えられる.Sherman (53) が述べている通り,第1音節に強勢をもつのが普通である名詞が基体である場合には,動詞化したときに強勢の交替が生じる確率は低い ("the creation of stress alternation is more likely to occur as stress-retraction in an oxytonic pair than to occur as stress-advancement in a paroxytonic pair") .関連して,abstráct (抽出する)→ ábstract (抜粋)→ ábstract (抜粋する)のように2段階の conversion ([2011-07-30-1]の記事「#824. smoke --- 2重の品詞転換」を参照)を経た語に注意.
 (4) 固有名詞が基体となっている場合には,比較的,区別がつきやすい.boycott (ボイコットする), lynch (リンチを加える), meander (曲がりくねる), shanghai (意識を失わせて船に連れ込んで水夫にする), japan (漆を塗る)など.
 (5) 閉じた語類と開いた語類が conversion の関係にある場合,前者から後者への方向の転換である可能性が高い.But me no buts. (しかし,しかしと言うな)など.
 (6) 動詞から作られた派生名詞以外では,名詞は項をとることができないという性質に基づく方法.the robber of the bank は可能だが,*the thief of the bank は不可能である.これは,thief が派生名詞でなく本来の名詞だからであると考えられる.この性質を利用すると,his release by the governmentthe government's release of the prisoners では release は項をとっているので派生名詞だと判断される.
 (7) conversion にかかわるゼロ接辞は,理論上クラスII接辞であると議論することができるため,クラスI接辞が付加できるかどうかで基体の区別が可能である.figure は形容詞接尾辞 -al を付加して figural が派生されるので,本来的には名詞であると考えられる.picture は,動詞接尾辞 -ize を付加して picturize が派生されるので,本来的には動詞であると考えられる,等々.

 ・ Lieber, Rochelle. Introducing Morphology. Cambridge: CUP, 2010.
 ・ 大石 強 『形態論』 開拓社,1988年.

Referrer (Inside): [2012-04-23-1]

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2011-10-10 Mon

#896. Kodak の由来 [etymology][root_creation][conversion][unidirectionality]

 [2011-10-02-1]の記事「#888. 語根創成について一考」で触れた Kodak について.アメリカの写真機メーカー,コダック社の製品(主にカメラやフィルム)につけられた商標で,コダック社の創業者 George Eastman (1854--1932) の造語とされる.語根創成の典型例として挙げられることが多い.
 商標としての初出は OED によると1888年で,一般名詞として「コダック(で撮影された)写真」の語義では1895年が初出.それ以前に,1891年には早くも品詞転換 (conversion) を経て,動詞としての「コダックで撮影する」も出現している.派生語 Kodaker, Kodakist, Kodakry も立て続けに現われ,当時のコダックの人気振りが偲ばれる.素人でも簡単に撮影できるのが売りで,そのことは当時の宣伝文句 "You press the button, we do the rest" からもよく表わされている.アメリカ英語では「シャッターチャンス」の意味で Kodak moment なる言い方も存在する.
 Kodak という語の発明については詳しい経緯が書き残されている.ひ孫引きとなるが,Mencken に拠っている Strang (24) から引用する.

To the history of kodak may be added the following extract from a letter from its inventor, George Eastman (1854--1932) to John M. Manly Dec. 15, 1906: 'It was a purely arbitrary combination of letters, not derived in whole or in part from any existing word, arrived at after considerable search for a word that would answer all requirements for a trade-mark name. The principal of these were that it must be short, incapable of being mis-spelled so as to destroy its identity, must have a vigorous and distinctive personality, and must meet the requirements of the various foreign trade-mark laws, the English being the one most difficult to satisfy owing to the very narrow interpretation that was being given to their law at that time.' I take this from George Eastman, by Carl W. Ackerman; New York, 1930, p. 76n. Ackerman himself says: 'Eastman was determined that this product should have a name that could not be mis-spelled or mispronounced, or infringed or copied by anyone. He wanted a strong word that could be registered as a trade-mark, something that every one would remember and associate only with the product which he proposed to manufacture. K attracted him. It was the first letter of his mother's family name. It was "firm and unyielding." It was unlike any other letter and easily pronounced, Two k's appealed to him more than one, and by a process of association and elimination he originated kodak and gave a new name to a new commercial product. The trade-mark was registered in the United States Sept. 4, 1888.'


 Eastman 自身の説明として,コダック社のHPにも次のような記述を見つけることができた.

I devised the name myself. The letter 'K' had been a favorite with me -- it seems a strong, incisive sort of letter. It became a question of trying out a great number of combinations of letters that made words starting and ending with 'K.' The word 'Kodak' is the result.


 音素配列 (phonotactics) と音の与える印象を徹底的に考え抜いた上での稀な語根創成といえるだろう.
 Strang (24--25) によると,初期の例からは「写真」や「フィルム」という普通名詞としての Kodak の使用が示唆されるが,商標から完全に普通名詞化したと考えられる hoover (掃除機)などとは異なり,普通名詞化の度合いは低いのではないかという.商標として始まった後,間もなく普通名詞化しかけたが,再び商標としてのみ使われることになった,という曲折を想定することができる.意味や用法の変化が必ずしも一方向ではないことを示唆する例と考えられるかもしれない.

 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.

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2011-07-30 Sat

#824. smoke --- 2重の品詞転換 [conversion][metonymy][semantic_change][pronunciation]

 名詞 smoke には主要な語義として「煙」と「喫煙」の2つがある.The air was thick with cigarette smoke. では前者の語義が,Are you coming outside for a smoke? では後者の語義が用いられている.両語義は密接であり,その関係は換喩 (metonymy) によって容易に説明できる.したがって,これは単純に名詞 smoke の意味の拡大の例だと片付けてしまいがちである.
 ところが,Bradley は,これは歴史的には2重の品詞転換 (conversion) の例であると断言している.なるほどと納得させられる議論だ.

Occasionally it happens that a noun in this way gives rise to a verb, which in its turn gives rise to another noun, all three words being exactly alike in sound and spelling. Thus, in the following examples: (1) 'The smoke of a pipe,' (2) 'To smoke a pipe,' (3) 'To have a smoke,' the noun of (1) is not, strictly speaking, the same word as the noun of (3). It is true that in cases like this our dictionaries usually treat the secondary noun as merely a special sense of the primary noun; and, indeed, very often, this treatment is unavoidable, because the difference of meaning between the two is so slight that in some contexts it disappears altogether. Still, it ought not to be forgotten that from the historical point of view the two nouns are really distinct: if English had retained its original grammatical system this would probably have been shown by a difference of termination, gender, or declension. (93--94)


 英語史における品詞転換については[2009-11-03-1]ほか conversion の各記事で扱ってきたが,その起源は古英語後期に始まった屈折語尾や派生語尾の水平化現象に遡る.古英語には名詞語尾や動詞語尾などカテゴリーごとに異なる語尾を付与する形態論があったが,語尾の水平化によりカテゴリー間の形態的区別が失われると,同一形態がカテゴリーをまたいで自由に往来できる素地が整った.Bradley は,smoke の名詞としての両語義は,その往来により生まれたものだとしている.興味深いのは,引用の最後にあるように,古英語の形態論が健在であると仮定すれば,「煙」と「喫煙」は異なる形態論的特徴(形態そのもの,性,屈折タイプなど)をもつ異なる名詞として存在していただろうということである.
 smoke についてはあくまで仮定の話しだが,実際に古英語の形態論的特徴を保ったまま現代に生きている例がある.例えば,bath は,(1) 'take a bath,' (2) 'bathe in the sea,' (3) 'take a bathe in the sea' のように発展してきており,(1) と (3) は smoke の場合と違い,異なる形態を示している.これは,古英語で <th> に相当する語幹末の音素が,音声環境に応じて無声音 [θ] か有声音 [ð] として現われる音素だったことに由来する差異で,[2011-03-30-1]の記事「-ths の発音」で触れたように breathe, clothe にも共通する.
 このように bathbathe による明らかな例を示されると,smoke の例を2重の品詞転換と考える議論が説得力をもつように思われる.

 ・ Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

Referrer (Inside): [2012-04-23-1] [2011-11-08-1]

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2011-07-08 Fri

#802. 名前動後の起源 (4) [stress][diatone][germanic][conversion][drift][systemic_regulation]

 [2009-11-01-1], [2009-11-02-1], [2011-07-07-1]の記事で「名前動後」の起源を扱ってきた.昨日の記事[2011-07-07-1]では,「名前」の部分はゲルマン語に内在する語頭強勢の傾向で説明されるが,「動後」を支持する動機づけがいまだ不明であるとして文章を閉じた.
 しかし,そこにはごく自然な動機づけがあるように思われる.名詞と動詞の発音上の区別化である.名前動後をなす diatones のペアは[2009-11-01-1]の記事で列挙したとおりに多数あるが,いずれも綴字上は区別がつけられないものの,発音上は明確に区別される.品詞転換 (conversion; see [2009-11-03-1]) を得意とする英語のことであるから,たとえ同形で発音上の区別がつかなくとも統語的に混乱をきたすことはないだろうが,それでも強勢の位置で品詞の区別がつけられるならば,それに越したことはないということではないだろうか.
 [2011-02-11-1]の記事「屈折の衰退=語根の焦点化」で述べた通り,英語には屈折語尾の摩耗という drift によって発生した語根主義とでもいうべき特徴がある.語根主義が conversion という語形成の過程を促進してきたことは確かだが,それは品詞の区別を積極的になくすことを指向しているものではない.複雑な語形成過程を経ずに品詞を転換させるという利便性に光を当てるものであり,品詞の区別を曖昧にすることをとりわけ推進しているわけではないだろう.品詞の区別を保ったまま,かつ最小限の語形成過程で(例えば)名詞から動詞を派生できる妙法があれば,それに越したことはない.そして,この両方の要求に応える妙法として,名前動後という強勢の配分が編み出されたのではないか.名詞でも動詞でも語根は同一だが,強勢を移動させて区別を保つ --- これを妙法と呼ばずして何と呼ぼうか.conversion を促進するゲルマン的な drift に静かに逆らう小さな機能主義的 (functionalist) な潮流 --- 現代英語の名前動後の現象をこのように捉えることができるかもしれない.

Referrer (Inside): [2011-07-20-1] [2011-07-09-1]

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2011-02-11 Fri

#655. 屈折の衰退=語根の焦点化 [conversion][drift][germanic][inflection]

 近代英語以来の語形成の特徴として品詞転換 ( conversion ) が盛んであるということがある.品詞転換については[2009-11-03-1], [2009-11-01-1]の記事などで述べたが,これが形態的に可能となったのは,後期古英語から初期中英語にかけて起こった語尾の水平化とそれに続く消失ゆえである.古英語では,名詞や動詞は主に統語意味的な機能に応じて区別される特定の屈折語尾をとったが,屈折語尾の音声上の摩耗が進むにつれ,語類の区別がつけられなくなった.屈折語尾の衰退は,程度の差はあれ,第1音節にアクセントをおく特徴をもつゲルマン諸語に共通の現象である ( see [2009-10-26-1] (4) ) .
 英語における品詞転換の発生は,上記のようにゲルマン諸語に共通する屈折語尾の衰退,いわゆる漂流 ( drift ) の延長線上にあるとして説明されることが多い.これは音韻形態的な説明といえるだろう.もう1つの説明としては,[2010-01-16-1]の記事で触れたように,語順規則の確立と関連づけるものがある.中英語以降,語順がおよそ定まったことにより,例えば動詞と名詞の区別は形態によらずとも語順によってつけることができるようになった.このことが品詞転換の発生に好意的に作用したとする説明がある.これは,統語的な説明といえる.
 あまり指摘されたことはないように思われるが,もう1つ,意味的な説明があり得る.説明の出発点は,再びゲルマン諸語に共通する先述の drift である.ゲルマン諸語における drift の重要性は屈折の衰退にあると解釈されることが多いが,その裏返しとして同じくらい重要なのは,語彙的意味を担う語根に焦点が当てられることになったという点である.これによって,例えば love は,文中での統語的役割は何か,語類は何かであるかなどの可変の情報を標示する負担から解放され,「愛」という語彙的意味を標示することに集中することができるようになった.love という形態は「愛」という根源的主題を表わすのに特化した形態であり,それが文中で名詞として「愛」として用いられるのか,動詞として「愛する」として用いられているのかは,副次的な問題でしかない.いずれの品詞かは統語が決定してくれる.屈折の衰退という音韻形態的な過程には,語根の焦点化という意味論的な含蓄が付随していたということは注目に値するだろう.

Le développement grammatical du germanique est donc commandé par deux grands faits: l'intensité initiale a donné aux radicaux une importance nouvelle, la dégradation des finales a tendu à ruiner la flexion, et l'a en effet ruinée dans des langues comme l'anglais et le danois. (Meillet 100)

 したがって,ゲルマン語の文法の発達は2つの重要な事実に支配されている.1つは語頭の強勢が語根に新たな重要性を与えたということであり,もう1つは語尾の衰退が屈折を崩壊させがちであり,実際に英語やデンマーク語などの言語では崩壊させてしまったということである.


 ・ Meillet, A. Caracteres generaux des langues germaniques. 2nd ed. Paris: Hachette, 1922.

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2010-07-09 Fri

#438. 形容詞の比較級から動詞への転換 [conversion][suppletion][comparison][-ate]

 英語の品詞転換 ( see [2009-11-03-1] ) には,様々な方向があり得る.動詞→名詞,形容詞→名詞,名詞→動詞,形容詞→動詞,名詞→形容詞の例が比較的多い.形容詞→動詞の例では,「〜にする」あるいは「〜になる」の意へと転換した calm, dirty, humble; dry, empty, narrow などが挙げられる.広い意味では,ラテン語動詞の過去分詞形 -atus に由来する -ate をもつ多くの借用語動詞も,形容詞→動詞の転換の例と考えることができるだろう ( ex. assassinate, fascinate, separate ) .
 先日,授業で英文テキストを読解中に,学生が形容詞の比較級として用いられている lower を動詞として読み違えるという状況が生じた.そこで気づいたのだが,比較級の形態から動詞へ転換するという例は非常に珍しいのではないか.「低くする」という動詞へ転換させるのであれば,比較級ではなく原級のままの low ではいけないのだろうか.実のところ,OED によると動詞のとしての low は現在では廃用だが,1200年頃に現れ,18世紀まで使われていた.一方で,動詞としての lower は「下ろす」の意味で17世紀に初めて現れている.
 形容詞の比較級から動詞に転換した他の例を探そうとしたら,better を思いついた.こちらは古英語から使われている.worse も古英語から動詞として使われていたが,19世紀に廃用となっている(動詞派生語尾がついているので転換ではないが,13世紀に初出の worsen も比較されよう).どうも補充法 ( suppletion ) による「不規則比較級」が怪しいぞと目をつけて OED をさらに引いてゆくと,less も現在は廃用だが13〜17世紀まで動詞として用いられていたとわかったし,more も14〜15世紀に使用例があった.
 補充法による比較級は,対応する原級との形態的な結びつきが弱いので,いずれも別個の語として語彙のなかに登録されている,つまり語彙化されていると考えられる.例えば bettergood からの派生という形態過程によって生じたものではなく,good と独立した語彙として登録されているからこそ,動詞への転換が起こりうるのではないか.逆にいえば,補充法によらない一般の形容詞の -er をもつ比較級形態は,原級形態と強く結びついているので,転換を起こしにくいということなのではないか.だが,この仮説を採ると lower がその例外となってしまう.
 しかし,考えてみると形容詞 lower は単なる low の比較級ではないことに気づいた.lower は「より低い」という( than が後続できる)文字通りの意味の他に「(分類上)下位の」「劣った」という比喩的に発展した意味をもっている.後者の意味での初出は1590年で,その頃から lowerlow とは別個の語として語彙化したと考えることができるのではないか.lowlower は形態こそ -er の有無により密接に結びついているが,意味の上では少し「距離が開いた」と考えられる.これは,転換による動詞 lower が17世紀に現れ始めたことと時間的にも符合するように思える.

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2010-05-26 Wed

#394. to pluto は2006年の Word of the Year [conversion][ads][woy]

 [2010-01-15-1]の記事で掲載したが,昨日の記事[2010-05-25-1]関連スライドで取りあげた to pluto 「降格させる」は American Dialect Society により2006年の英語流行語大賞に選ばれた有名な動詞である.
 2006年8月の国際天文学連合 ( IAU ) の総会で惑星の定義をめぐり議論が白熱したことは記憶に新しい.その議決で冥王星 ( Pluto ) は惑星ではなく準惑星 ( dwarf planet ) として再定義されることになり,いわば「降格」することになった.冥王星は太陽系第9番目の惑星として世界に広く親しまれていただけに,IAU の議決は世界にショックを与えるとともに,冥王星を降格と結びつける社会的なジョークが生まれた.その一つが,動詞 to pluto である.ADS によれば,この動詞は次のように定義される.

To pluto is to demote or devalue someone or something, as happened to the former planet Pluto when the General Assembly of the International Astronomical Union decided Pluto no longer met its definition of a planet.


 以下に,例文を三つほど.

 ・ Pluto got plutoed, but it still won WOTY [Word of the Year].
 ・ He was plutoed like an old pair of shoes.
 ・ A recent Andy Borowitz humor column . . . reports that the Bush presidency has been plutoed: An international group of scientists who demoted the planet Pluto to dwarf status three months ago met in Oslo, Norway today and reclassified the Bush White House as a dwarf Presidency. . . . with the President's approval rating in a free fall, it became clear even before the scientists convened that some sort of reclassification along the lines of the Pluto demotion was in order.


 固有名詞 Pluto を小文字化し動詞化するという芸当ができるのも,英語に conversion という語形成の手段が与えられているからである.日本語では,元読売巨人軍投手にちなんだ「江川る」(強引に物事を進める)などが to pluto の転用に近いと思われれるが,英語は何しろ「る」も何もつけずにそのまま品詞転換してしまい,-ed まで付加されてしまうのだからものすごい.conversion については [2009-11-03-1] を参照.
 to pluto の詳細は,2007年1月5日付の ADS オンライン記事PDFのプレスリリースを参照されたい.

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2010-01-16 Sat

#264. Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo. [conversion][compound][syntax][word_play]

 標題の文は文法的である.Steven Pinker のベストセラー The Language Instinct で有名になった文で,著書によると Pinker の学生 Annie Senghas が作り出したものだという (208).
 詳しい文法解説は,Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo - Wikipedia にあるので省略するが,数語を補って (The) Buffalo buffalo (that) Baffalo buffalo (often) buffalo (in turn) buffalo (other) Buffalo buffalo. と考えれば理解できるだろう.以下の点がポイントである.

 ・buffalo 「バッファロー,アメリカ野牛」の複数形は,規則的な buffaloes に加えて,単複同形の buffalo もありうる
 ・Buffalo は「(ニューヨークの市)バッファロー」の意で,形容詞的に用いられている
 ・to buffalo は「脅す,威圧する,混乱させる」の意の動詞としても用いられている
 ・一カ所で関係代名詞が省略されている

 現代英語でこのような芸当が可能なのは,(1) conversion品詞転換」が著しく自由であること,(2) 語順や関係詞省略などの統語的な規則が明確に存在すること,による.Pinker の著書では特に (2) の側面に光を当てた解説となっているが,(1) の conversion の果たしている役割も甚大である.このケースでは本来は名詞である buffalo / Buffalo が,形容詞(的用法)としても動詞としても使われうるという点が重要である.名詞と動詞のあいだの conversion については[2009-11-03-1]で軽く言及したが,名詞から形容詞(的用法)への conversion はよりいっそう自由度が高い.
 名詞から形容詞(的用法)への conversion は,およそ名詞の限定的用法 ( attributive use ) と呼ばれるものに相当する.名詞の限定的用法とは Christmas tree, silk hat, Tokyo branch などの第一要素の名詞の果たす役割を指し,Bradley が指摘するとおり "a new part of speech, halfway between the substantive and the adjective" (45) とでもいうべきものである.Bradley はこの用法を "One highly important feature of English grammar which has been developed since Old English days" (45) と評価しており,Buffalo buffalo という表現がこの歴史の現代への反映だと知るとき,Buffalo 文の言葉遊びの味わいはひとしおである.

 ・Pinker, Steven. The Language Instinct: How the Mind Creates Language. New York: W. Morrow, 1994. New York : HarperPerennial, 1995.
 ・Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

Referrer (Inside): [2011-02-11-1] [2010-01-17-1]

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2009-11-03 Tue

#190. 品詞転換 [conversion][shakespeare][word_formation]

 今日は[2009-11-01-1]で軽く触れた品詞転換 ( conversion ) についてもう少し詳しく説明する.
 品詞転換は「接辞を付加せずに,ある項目を新しい語類に加えること,ないし転じること」と定義づけられる.別の呼び方としては,機能転換 ( functional conversion ),機能交替 ( functional shift ),ゼロ派生 ( zero derivation ) がある.品詞転換は主に近代英語期に大増殖し,以来,英語の語形成と意味拡張に大きな影響を及ぼしてきた.現代英語の主たる特徴の一つといってよい.
 現代英語に慣れた母語話者や学習者は,I'm in love with youI love you がほぼ言い換え可能であることを知っているが,love という同じ形態でありながら場合によって名詞にも動詞にもなるということは,驚くべきことである.日本語では名詞ならば「愛」と,動詞ならば「愛する」と,確かに同一の語幹を用いてはいるが,動詞には動詞語尾「する」が付加されており,すぐに品詞を判別できる.多くの言語では,このように動詞であれば特定の語尾がつくなど,何らかの機能標示があるものだが,英語にはそれがない.言語としては非常に希有の現象といってよい.
 英語もかつては機能標示があった.love でみると,古英語では名詞は lufu, 動詞は lufian という別々の形態だった.語源はやはり同一で,語幹こそ共通しているが,-u 語尾は典型的な女性強変化名詞の単数主格を標示しているし,-ian 語尾は典型的な弱変化動詞の不定詞を標示している.もちろん,名詞も動詞もそれぞれ複雑な屈折形を取り得て,偶然に形態が一致することはあり得るが,原則として形態を見れば名詞が動詞かはたちどころに判別できた.(例えば,lufa は名詞としては複数主格形などとなりうるし,動詞としては二人称単数命令形ともなり得た.)
 ところが,後期古英語から初期中英語にかけて起こった語尾の水平化とそれに続く消失により,名詞も動詞も love という形態に落ち着いてしまったのである.これにより,中英語以降,必然的に品詞転換が活性化した.この手段をとりわけ意図的に活用したのは,近代英語期の劇作家たちだった.以下に Shakespeare からの例を挙げてみる.イタリック体の語に注目.

 ・Season your admiration for a while. . .
 ・It out-herods Herod . . .
 ・Grace me no grace, nor uncle me no uncle. . .
 ・Julius Caesar, / Who at Phillipi the good Brutus ghosted. . .
 ・Destruction straight shall dog them at the heels. . .
 ・I am proverbed with a grandsire phrase. . .

 英語のもつこの自由さには圧倒される.

 ・松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦 編 『大修館英語学辞典』 大修館,1983年.

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2009-11-01 Sun

#188. 名前動後の起源 [stress][diatone][oe][conversion][prosody]

 受験英語業界で「名前動後」と呼ばれる現象がある.現代英語では,綴りは同じだが品詞の異なる語が存在する.特に名詞と動詞のペアの場合,名詞ではアクセントが前の音節に,動詞ではアクセントが後ろの音節に落ちることがあり,こうしたペアを「名前動後」と呼んでいる.英語では「名前動後」に相当する便利な名称はなく,次のように説明的になってしまう.

diatonic homograph pairs that exhibit the alternating stress pattern between noun (paroxytonic) and verb (oxytonic)


 例を挙げるとキリがない.

absent, accent, addict, annex, combat, combine, concert, contract, contrast, convert, discard, discount, discourse, dismount, export, finance, implant, import, intercept, interchange, misprint, object, overturn, permit, protest, reject, research, retract, transplant, transport, etc.


 英語は,初期中英語期に起こった屈折語尾の消失により,容易に品詞転換 ( conversion ) の可能な言語となった.これは言語としては希有の現象であり,特に近代英語期以降,語を派生させるのにフル活用されてきた.名詞と動詞で綴りが同じであることはこれで分かるとしても,両者のあいだでアクセントの位置に区別がつけられたのはどうしてだろうか.
 その淵源は古英語,いやそれ以前にある.
 昨日の記事[2009-10-31-1]で見たように,古英語の単語では原則として第1音節にアクセントが落ちたが,接頭辞による派生語では,その接頭辞が強形として使われているか弱形として使われているかによって,アクセントの位置が変わった.接頭辞が強形として用いられている場合にはその接頭辞にアクセントが落ち,弱形として用いられている場合には語幹の第1音節にアクセントが落ちたのである.興味深いのは,派生名詞の接頭辞には強形が,派生動詞の接頭辞には弱形が,体系的に付加されている点である.以下,対応する派生名詞と派生動詞のペアを,アクセントの位置に注目して比べてみよう.

名詞動詞
ˈǣwielm "fountain"aˈweallan "to well up"
ˈæfþunca "source of offence"ofˈþyncan "to displease"
ˈætspyrning "offence"otˈspurnan "to stumble"
ˈandsaca "apostate"onˈsacan "to deny"
ˈbīgenga "inhabitant"beˈgān "to occupy"
ˈorþanc "mind"aˈþencan "to devise"
ˈwiþersaca "adversary"wiþˈsacan "to refuse"


 「名前動後」のモデルの起源は,すでに古英語に存在したのである.

 ・Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959. 30--31.

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