hellog〜英語史ブログ

#2671. 現代英語方言における flat adverb の使用[adverb][flat_adverb][dialect][pidgin][creole][estuary_english][ame]

2016-08-19

 現代英語における形容詞と同形の flat_adverb (単純副詞)の使用について,「#982. アメリカ英語の口語に頻出する flat adverb」 ([2012-01-04-1]),「#983. flat adverb の種類」 ([2012-01-05-1]),「#993. flat adverb についてあれこれ」 ([2012-01-15-1]),「#996. flat adverb のきびきびした性格」 ([2012-01-18-1]),「#997. real bad と「すごいヤバい」」 ([2012-01-19-1]) などで触れてきたが,主としてアメリカ英語の口語・俗語で力強い表現として用いられる傾向があると述べた.
 標準英語では flat adverb はそれほど目立たないとされるが,標準英語の外に目をやれば,その使用は20世紀後半においても広く報告されている (Tagliamonte 73--74) .しばしば「非標準的」「口語的」「教養のない」「大衆的」などのレーベルが貼られるが,一方で韻律の都合で「詩的」にも使用される.さらにピジン語,クレオール語,アメリカ南部英語(特に Appalachian and Ozark English)でも聞かれるし,Tristan da Cunha や Channel Islands の英語など世界の諸変種で確認されている.イギリス国内でも,以下に見るように諸方言でごく普通に使用されているし,Estuary English でも典型的に聞かれる.つまり,世界の多くの英語変種で flat adverb は通用されているのだ.このすべてが1つの歴史的起源に遡るとは言い切れないが,歴史的な flat adverb の継続として説明されるケースは少なくないだろうと思われる.
 Tagliamonte は,"Roots Archive" と呼ばれるイギリス諸島の方言による会話コーパスにより,Cumnock (south-west Scotland), Cullybackey (Northern Ireland), Maryport (Cumbria) の3方言での flat adverb の使用率を調査した.flat adverb の生起頻度と,対応する -ly 副詞の生起頻度とを合わせて100%(全761例)としたときの前者の比率は,Cumnock で49%,Cullybackey で47%,Maryport で18%だった (Tagliamonte 77) .方言によって flat adverb の使用率にバラツキはあるし,好まれる副詞自体も異なるようだが,いずれにおいても決して頻度が低くないこと,また flat adverb は具体的で非比喩的な意味で用いられることが多いことが分かったという(最後の点については「#1174. 現代英語の単純副詞と -ly 副詞のペア」 ([2012-07-14-1]) を参照).このように非標準変種に目をやれば,flat adverb は現在も健在といってよさそうだ.
 flat adverb の歴史については,上にリンクを張った記事のほか,「#984. flat adverb はラテン系の形容詞が道を開いたか?」 ([2012-01-06-1]),「#998. 中英語の flat adverb と -ly adverb」 ([2012-01-20-1]),「#1172. 初期近代英語期のラテン系単純副詞」 ([2012-07-12-1]),「#1190. 初期近代英語における副詞の発達」 ([2012-07-30-1]) なども参照.

 ・ Tagliamonte, Sali A. Roots of English: Exploring the History of Dialects. Cambridge: CUP, 2013.

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