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borrowing - hellog〜英語史ブログ

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2015-10-13 Tue

#2360. 20世紀のフランス借用語 [french][loan_word][borrowing][statistics][norman_french][creole][oed]

 英語のフランス語との付き合いは古英語最末期より途切れることなく続いている.フランス語彙借用のピークは「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1]) や「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]) で見たように1251--1375年だが,その後も,規模こそ縮小しながらも,借用は連綿と続いてきている.中英語以降の各時代のフランス語彙の借用については,「#1210. 中英語のフランス借用語の一覧」 ([2012-08-19-1]),「#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"」 ([2013-03-08-1]),「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」 ([2010-12-12-1]), 「#678. 汎ヨーロッパ的な18世紀のフランス借用語」 ([2011-03-06-1]) を参照されたい.
 今回は,現代英語におけるフランス借用語の話題を取り上げたい.Schultz は,OED Online を利用して,1900年以降に英語に入ってきたフランス語彙を調査した.Schultz がフランス借用語として取り出し,認定したのは,1677語である.Schultz の論文では,それらを14個の意味分野(とさらなる下位区分)ごとに整理し,サンプル語を列挙しているが,ここでは12分野それぞれに属する語の数と割合のみを示そう (Shultz 4--6) .

 (1) Anthropology (11 borrowings, i.e. 0.7%)
 (2) Metapsychics and parapsychology (11 borrowings, i.e. 0.7%)
 (3) Archaeology (30 borrowings, i.e. 1.8%)
 (4) Miscellaneous (46 borrowings, i.e. 2.7%)
 (5) Technology (62 borrowings, i.e. 3.7%)
 (6) La Francophonie (63 borrowings, i.e. 3.8%)
 (7) Fashion and lifestyle (77 borrowings, i.e. 4.6%)
 (8) Entertainment and leisure activities (86 borrowings, i.e. 5.1%)
 (9) Mathematics and the humanities (92 borrowings, i.e. 5.5%)
 (10) People and everyday life (154 borrowings, i.e. 9.2%)
 (11) Civilization and politics (156 borrowings, i.e. 9.3%)
 (12) Gastronomy (179 borrowings, i.e. 10.7%)
 (13) Fine arts and crafts (260 borrowings, i.e. 15.5%)
 (14) The natural sciences (450 borrowings, i.e. 26.8%)

 20世紀のフランス借用語の特徴は何だろうか.1つは,Schultz が "the vocabulary recently adopted from French is characterized by its great variety, ranging from words related to everyday matters to highly specific terms in technology and science" (8) とまとめているように,意味分野の幅広さが挙げられる.食,芸術,自然科学が相対的に強いが,全体としてはマルチジャンルといってよい.ただし,マルチジャンルであることは中英語期のフランス借用語の特徴にも当てはまることから,これは英語史におけるフランス語彙借用に汎時的にみられる特徴といってもよいかもしれない.
 注目すべきは,借用語のソースとして,標準フランス語のみならず,フランス語の諸変種やクレオール語なども含まれていることだ.カリブ諸島,カナダ,ルイジアナ,アフリカなどのフランス語変種からの借用語が少なくない.中英語期にも,中央フランス語のみならず,とりわけ初期にノルマン・フランス語 (norman_french) からも語彙が流入していたが,近代以降「フランス語」の指す範囲が拡がるとともに,借用元変種も多様化してきたということだろう.
 現代世界の借用元言語としての英語を考えてみても,従来はイギリス標準英語やアメリカ標準英語がほぼ唯一の借用元変種だったかもしれないが,現在ではピジン語やクレオール語も含めた各種の英語変種が借用元変種となっている事実がある.それと同じことが,フランス語についても言えるということなのではないか.

 ・ Schultz, Julia. "Twentieth-Century Borrowings from french into English --- An Overview." English Today 28.2 (2012): 3--9.

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2015-10-12 Mon

#2359. 英語が非民主的な言語と呼ばれる理由 (3) [history][loan_word][lexicology][borrowing][linguistic_imperialism][language_myth][purism]

 標題と関連して,「#134. 英語が民主的な言語と呼ばれる理由」 ([2009-09-08-1]),「#1366. 英語が非民主的な言語と呼ばれる理由」 ([2013-01-22-1]),「#1845. 英語が非民主的な言語と呼ばれる理由 (2)」 ([2014-05-16-1]) で様々な見解を紹介してきた.今回は,主として英語が歴史的に他言語から多くの語彙を借用してきた事実に照らして,英語の民主性・非民主性について考えてみたい.
 英語が多くの言語からおびただしい語彙を借用してきたことは,言語的純粋主義 (purism) の立場からの批判が皆無ではないにせよ,普通は好意的に語られる.英語の語彙借用好きは,ほとんどすべての英語史記述でも強調される特徴であり,これを指して "cosmopolitan vocabulary" などと持ち上げられることが多い.続けて,英語,そして英語国民は,柔軟にして鷹揚,外に対して開かれており,多様性を重んじる伝統を有すると解釈されることが多い.歴史的に英語国では言語を統制するアカデミーが設立されにくかったこともこの肯定的な議論に一役買っているだろう.また,もう1つの国際語であるフランス語が上記の点で英語と反対の特徴を示すことからも,相対的に英語の「民主性」が浮き彫りになる.
 しかし,英語の民主性に関する肯定的なイメージはそれ自体が作られたイメージであり,語彙借用のある側面を反映していないという.Bailey (91) によれば,植民地帝国主義時代の英国人は,その人種的優越感ゆえに,諸言語からの語彙をやみくもに受け入れたわけではなく,むしろすでに他のヨーロッパ人が受け入れていた語彙についてのみ自らの言語へ受け入れることを許したという.これが事実だとすれば,英語(国民)はむしろ非民主的であると言えるかもしれない.

Far from its conventional image as a language congenial to borrowing from remote languages, English displays a tendency to accept exotic loanwords mainly when they have first been adopted by other European languages or when presented with marginal social practices or trivial objects. Anglophones who have ventured abroad have done so confident of the superiority of their culture and persuaded of their capacity for adaptation, usually without accepting the obligations of adapting. Extensive linguistic borrowing and language mixing arise only when there is some degree of equality between or among languages (and their speakers) in a multilingual setting. For the English abroad, this sense of equality was rare. Whether it is a language more "friendly to change than other languages" has hardly been questioned; those who embrace the language are convinced that English is a capacious, cosmopolitan language superior to all others.


 Bailey によれば,「開かれた民主的な英語」のイメージは,それ自体が植民地主義の産物であり,植民地主義時代の語彙借用の事実に反するということになる.
 ただし,Bailey の植民地主義と語彙借用の議論は,主として近代以降の歴史に関する議論であり,英語が同じくらい頻繁に語彙借用を行ってきたそれ以前の時代の議論には直接触れていないことに注意すべきだろう.中英語以前は,英語はラテン語やフランス語から多くの語彙を借り入れなければならない,社会的に下位の言語だったのであり,民主的も非民主的も論ずるまでもない言語だったのだから.

 ・ Bailey, R. Images of English. Ann Arbor: U of Michigan P, 1991.

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2015-10-10 Sat

#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 [oed][statistics][lexicology][loan_word][borrowing][latin][greek][french][italian][spanish][portuguese][romancisation]

 標題に関する,OED2 の CD-ROM 版を用いた本格的な量的研究を発見した.Culpeper and Clapham によるもので,調査方法を見るかぎり,語源欄検索の機能を駆使し,なるべく雑音の混じらないように腐心したようだ.OED などを利用した量的研究の例は少なくないが,方法論の厳密さに鑑みて,従来の調査よりも信頼のおける結果として受け入れてよいのではないかと考える.もっとも,筆者たち自身が OED を用いて語彙統計を得ることの意義や陥穽について慎重に論じており,結果もそれに応じて慎重に解釈しなければいけないことを力説している.したがって,以下の記述も,その但し書きを十分に意識しつつ解釈されたい.
 Culpeper and Clapham の扱った古典語およびロマンス諸語とは,具体的にはラテン語,ギリシア語,フランス語,イタリア語,スペイン語,ポルトガル語を中心とする言語である.数値としてある程度の大きさになるのは,最初の4言語ほどである.筆者たちは,OED 掲載の2,314,82の見出し語から,これらの言語を直近の源とする借用語を77,335語取り出した.これを時代別,言語別に整理し,タイプ数というよりも,主として当該時代に初出する全語彙におけるそれらの借用語の割合を重視して,各種の語彙統計値を算出した.
 一つひとつの数値が示唆的であり,それぞれ吟味・解釈していくのもおもしろいのだが,ここでは Culpeper and Clapham (215) が論文の最後で要約している主たる発見7点を引用しよう.

   (1) Latin and French have had a profound effect on the English lexicon, and Latin has had a much greater effect than French.
   (2) Italian, Spanish, and Portuguese are of relatively minor importance, although Italian experienced a small boost in the 18th century.
   (3) The general trend is one of decline in borrowing from Classical and Romance languages. In the 17th century, 39.3% of recorded vocabulary came from Classical and Romance languages, whereas today the figure is 15%.
   (4) Latin borrowing peaked in 1600--1675, and Latin contributed approximately 7000 words to the English lexicon during the 16th century.
   (5) Greek, coming after Latin and French in terms of overall quantity, peaked in the 19th century.
   (6) French borrowing peaked in 1251--1375, fell below the level of Latin borrowing around 1525, and thereafter declined except for a small upturn in the 18th century. French contributed over 11000 words to the English lexicon during the Middle English period.
   (7) Today, borrowing from Latin may have a slight lead on borrowing from French.


 この7点だけをとっても,従来の研究では曖昧だった調査結果が,今回は数値として具体化されており,わかりやすい.(1) は,フランス語とラテン語で,どちらが量的に多くの借用語彙を英語にもたらしてきたかという問いに端的に答えるものであり,ラテン語の貢献のほうが「ずっと大きい」ことを明示している.(7) によれば,そのラテン語の優位は,若干の差ながらも,現代英語についても言えるようだ.関連して,(6) から,最大の貢献言語がフランス語からラテン語へ切り替わったのが16世紀前半であることが判明するし,(4) から,ラテン語のピークは16世紀というよりも17世紀であることがわかる.
 (3) では,近代以降,新語における借用語の比率が下がってきていることが示されているが,これは「#879. Algeo の新語ソース調査から示唆される通時的傾向」([2011-09-23-1]) でみたことと符合する.(2) と (5) では,ラテン語とフランス語以外の諸言語からの影響は,全体として僅少か,あるいは特定の時代にやや顕著となったことがある程度であることもわかる.
 英語史における借用語彙統計については,cat:lexicology statistics loan_word の各記事を参照されたい.本記事と関連して,特に「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1]) を参照.

 ・ Culpeper Jonathan and Phoebe Clapham. "The Borrowing of Classical and Romance Words into English: A Study Based on the Electronic Oxford English Dictionary." International Journal of Corpus Linguistics 1.2 (1996): 199--218.

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2015-10-08 Thu

#2355. フランス語の語彙以外への影響 --- 句,綴字,派生形態論,強勢 [french][contact][borrowing][derivation][stress][hybrid][rsr]

 英語史では,フランス語は語彙の領域には多大な影響を及ぼしたが,それ以外では見るものが少ないと言われることがある.しかし,「#2351. フランス語からの句動詞の借用」 ([2015-10-04-1]) で見たように句の単位でも少なからぬ影響を及ぼしてきたし,綴字の領域にも大きな衝撃を与えてきた.
 とはいえ,文法や音韻については,フランス語がたいした影響を与えて来なかったことは事実だろう.以下にリンクを張った記事で触れてきたように,影響が考えられ得る項目もいくつか指摘されているが,強い証拠のないものが多い.一方,ノルマン征服以後,フランス語は英語の社会的な地位をおとしめることにより,結果として下位言語としての英語の文法変化を促進させたという意味で,間接的な影響を及ぼしたと言うことはできるだろう.

 ・ 「#204. 非人称構文」 ([2009-11-17-1])
 ・ 「#1171. フランス語との言語接触と屈折の衰退」 ([2012-07-11-1])
 ・ 「#1208. フランス語の英文法への影響を評価する」 ([2012-08-17-1])
 ・ 「#1222. フランス語が英語の音素に与えた小さな影響」 ([2012-08-31-1])
 ・ 「#1815. 不定代名詞 one の用法はフランス語の影響か?」 ([2014-04-16-1])
 ・ 「#1884. フランス語は中英語の文法性消失に関与したか」 ([2014-06-24-1])
 ・ 「#1924. フランス語は中英語の文法性消失に関与したか (2)」 ([2014-08-03-1])
 ・ 「#2047. ノルマン征服の英語史上の意義」 ([2014-12-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])

 さて,連日,参照・引用している Denison and Hogg (17) は,フランス語の語彙以外への影響という問題に関して,全体的には僅少であることを前提としながらも,派生形態論と強勢の領域においては見るものがあると指摘する.

. . . we should . . . look at French influence outside the borrowing of vocabulary. It is best to start by saying that French influence is largely absent from inflectional morphology. The only possibilities concern the eventual domination of the plural inflection -s at the expense of -en (hence shoes rather than shoon) and the rise of the personal pronoun one. Although there are parallels in French, it is virtually certain that the English developments are entirely independent.
   The strongest influence of French can be best seen in two other areas, apparently unrelated but in fact closely connected to each other. These are: (i) derivational morphology; (ii) stress.


 フランス語の派生形態論への影響を確認するには,「#96. 英語とフランス語の素材を活かした 混種語 ( hybrid )」 ([2009-08-01-1]) に挙げたような混種語 (hybrid) の例を見れば十分だろう.強勢については,「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や rsr (= Romance Stress Rule) に関する各記事を参照されたい.派生形態論と強勢という2つの領域が "closely connected" であるというのは,現代英語の語形成規則と強勢規則の適用が,語根がゲルマン系かロマンス系かによって層別されている事実を指すものと理解できる.
 まとめると,フランス語の語彙以外への影響として,ある程度注目すべきものといえば,句,綴字,派生形態論,強勢といったところだろうか.

 ・ Denison, David and Richard Hogg. "Overview." Chapter 1 of A History of the English Language. Ed. Richard Hogg and David Denison. Cambridge: CUP, 2006. 1--42.

Referrer (Inside): [2015-10-09-1]

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2015-10-04 Sun

#2351. フランス語からの句動詞の借用 [french][loan_translation][borrowing][contact][phrasal_verb][phraseology]

 中英語期におけるフランス語彙借用については,本ブログでも「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]),「#1210. 中英語のフランス借用語の一覧」 ([2012-08-19-1]) ほか french loan_word の各記事で様々に扱ってきた.しかし,フランス語からの句動詞 (phrasal_verb) の借用,より正確には翻訳借用 (loan_translation or calque) についてはあまり取り上げてこなかったので,ここで話題にしたい.
 フランス語の句動詞をはじめとする複数語からなる各種表現が,少なからず英語に翻訳借用されてきたことについては,種々の先行研究でも触れられてきた.例えば,Iglesias-Rábade の参照した F. H. Sykes (French Elements in Middle English. Oxford: 1899.) や A. A. Prins (French Influence in English Phrasing. Leiden: 1952.) によれば,623ほどの句がフランス語由来と推定できるとしている (ex. take lond (< OF prendre terre (disembark))) .しかし,実証的な研究は少なく,本当にフランス語の表現のなぞりなのかどうか,実は英語における自然な発達としてとらえることも可能ではないか,など議論が絶えない.
 そこで,Iglesias-Rábade は nime(n)/take(n) を用いた句動詞表現に的を絞り,この動詞が "light verb" あるいは "operator" として作用し,その後に動詞派生名詞あるいは前置詞+動詞派生名詞を伴う構文を MED より拾い出したうえで,当時のフランス語に対応表現があるかどうかを確認する実証的な研究をおこなった.研究対象となる2つの構文を厳密に定義すると,以下の通りである.

 (1) Verbal phrases made of a 'light' V(erb) + deverbal noun: e.g. take(n) ende, take(n) dai, nime(n) air
 (2) The 'light' verb nime(n)/take(n) + a 'prepositional' deverbal: e.g. take(n) in gree, take(n) to herte, take(n) in cure

 (1) の型については,306の句が収集され,そのうち49個がフランス語からの意味借用であり,156個がフランス語に似た表現がみつかるというものであるという (Iglesias-Rábade 96) .(1) の型については,型自体は古英語からあるものの,フランス語の多くの句によって英語での種類や使用が増したとはいえるだろうとしている (99) .

. . . this syntactic pattern acquired great popularity in lME with extensive use and a varied typology. I do not claim that this construction is a French imprint, because it occurred in OE, but in my opinion French contributed decisively to the use of this type of structure consisting of a light verb translated from French + a deverbal element which bears the action and the lexical meaning and which usually kept the French form and content.


 (2) の型については,Iglesias-Rábade (99) は,型自体も一部の句を除けば一般的に古英語に遡るとは言いにくく,概ねフランス語(あるいはラテン語)の翻訳借用と考えるのが妥当だとしている.

This pattern, too, dates from OE, though it was restricted to the verb niman + an object preceded by on, e.g. on gemynd niman ('to bear in mind'). However, this construction came to be much more frequent in lME, particularly with sequences which had no prototype in OE, and, more intriguingly, most of them were a calque in both form and content from French and/or Latin.


 興味深いのは,いずれの型についても,句の初出が14世紀後半から15世紀にかけてピークを迎えるということだ.単体のフランス借用語も数的なピークが14世紀後半に来たことを考えると,その少し後を句の借用のピークが追いかけてきたように見える.実際,句に含まれる名詞は借用語であることが多い.Iglesias-Rábade (104) は,より一般化して "It seems plausible that the introduction of foreign single words precedes the incorporation of foreign phrases, turns of speech, proverbial sayings and idioms." ととらえている.
 これらの句が英語に入ってきた経路について,Iglesias-Rábade は,英仏語の2言語使用者が日常の話し言葉においてもたらしたというよりは,翻訳文書において初出することが多いことから,主として書き言葉経由で流入したと考えている (100).結論として,p. 104 では次のように述べられている.

To conclude, I believe that English had borrowed from French an important bulk of phrases and turns of speech which today are considered to be part of daily speech. In my opinion phrasal structures of this type must have been rather artificial and removed from everyday speech when they first appeared in late ME works. I base this conclusion on the fact that such phrases were not common in a contemporary specimen of colloquial speech, the Towneley Plays . . . . I thus suggest that most of them made their way into English via literature and the translation process, rather than through the natural process of social bilingual speech. It is worth noting that most ME literature is based on French patterns or French matter. Most of this phrasal borrowing was the natural product of translation and composition.


 Iglesias-Rábade の議論を受け入れて,これらのフランス語の句が書き言葉を経由した借用だったとして,次の疑問は,それが後に話し言葉へ浸透していったのは,いかなる事情があってのことだろうか.
 関連して,「#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2)」 ([2015-10-02-1]) と,そこに張ったリンク先の記事も参照.

 ・ Iglesias-Rábade, Luis. "French Phrasal Power in Late Middle English." Multilingualism in Later Medieval Britain. Ed. D. A. Trotter. Cambridge: D. S. Brewer, 2000. 93--130.

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2015-10-02 Fri

#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2) [reestablishment_of_english][language_shift][french][loan_word][borrowing][bilingualism][borrowing][lexicology][statistics][contact]

 標記の問題については,以下の一連の記事などで取り上げてきた.

 ・ 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])
 ・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1])
 ・ 「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1])
 ・ 「#1540. 中英語期における言語交替」 ([2013-07-15-1])
 ・ 「#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点」 ([2013-10-21-1])
 ・ 「#2069. 言語への忠誠,言語交替,借用方法」 ([2014-12-26-1])

 この問題に関連して,Rothwell の論文を読んだ.Rothwell (50) によると,中英語のあいだに公的な記録の言語が,ラテン語からフランス語へ,フランス語から英語へ目まぐるしく切り替わった言語交替 (language_shift) という社会言語学的な視点を考慮しなければならないという.

If the English language appears to embark on a far more extensive campaign of lexical borrowing from the later fourteenth century, this is because French had become the second official language of record in England, alongside and often in replacement of Latin. This means in effect that from the thirteenth century onwards French is called upon to cover a much wider range of registers than in the earlier period, when it was used in the main for works of entertainment or edification. This change in the role of French took place at a time when English was debarred from use as a language of record, so that when English in its turn began to take on that role in the later fourteenth century, it was only to be expected that it would retain much of the necessary vocabulary used by its predecessor --- French. . . . For successive generations of countless English scribes and officials the administrative vocabulary of French had been an integral part of their daily life and work; it would be unrealistic to expect them to jettison it and re-create an entirely new Germanic set of terms when English came in to take over the role hitherto played by French.


 13--14世紀にかけて,フランス語が法律関係を始めとする公的な言語としての役割を強めていくことは,「#2330. 13--14世紀イングランドの法律まわりの使用言語」 ([2015-09-13-1]) でみた.このようにイングランドにおいてフランス語で公的な記録が取られる慣習が数世代にわたって確立していたところに,14世紀後半,英語が復権してきたのである.書き言葉上のバイリンガルだったとはいえ,多くの写字生にとって,当初この言語交替には戸惑いがあったろう.特に政治や法律に関わる用語の多くは,これまでフランス単語でまかなってきており,対応する英語本来語は欠けていた.このような状況下で,写字生が書き言葉を英語へとシフトする際に,書き慣れたフランス語の用語を多用したことは自然だった.
 後期中英語における各言語の社会言語学的な位置づけと,言語間の語彙借用の様相は,このように密接に結びついている.関連する最近の話題として,「#2345. 古英語の diglossia と中英語の triglossia」 ([2015-09-28-1]) も参照.

 ・ Rothwell, W. "Stratford atte Bowe and Paris." Modern Language Review 80 (1985): 39--54.

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2015-10-02 Fri

#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2) [reestablishment_of_english][language_shift][french][loan_word][borrowing][bilingualism][borrowing][lexicology][statistics][contact]

 標記の問題については,以下の一連の記事などで取り上げてきた.

 ・ 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])
 ・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1])
 ・ 「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1])
 ・ 「#1540. 中英語期における言語交替」 ([2013-07-15-1])
 ・ 「#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点」 ([2013-10-21-1])
 ・ 「#2069. 言語への忠誠,言語交替,借用方法」 ([2014-12-26-1])

 この問題に関連して,Rothwell の論文を読んだ.Rothwell (50) によると,中英語のあいだに公的な記録の言語が,ラテン語からフランス語へ,フランス語から英語へ目まぐるしく切り替わった言語交替 (language_shift) という社会言語学的な視点を考慮しなければならないという.

If the English language appears to embark on a far more extensive campaign of lexical borrowing from the later fourteenth century, this is because French had become the second official language of record in England, alongside and often in replacement of Latin. This means in effect that from the thirteenth century onwards French is called upon to cover a much wider range of registers than in the earlier period, when it was used in the main for works of entertainment or edification. This change in the role of French took place at a time when English was debarred from use as a language of record, so that when English in its turn began to take on that role in the later fourteenth century, it was only to be expected that it would retain much of the necessary vocabulary used by its predecessor --- French. . . . For successive generations of countless English scribes and officials the administrative vocabulary of French had been an integral part of their daily life and work; it would be unrealistic to expect them to jettison it and re-create an entirely new Germanic set of terms when English came in to take over the role hitherto played by French.


 13--14世紀にかけて,フランス語が法律関係を始めとする公的な言語としての役割を強めていくことは,「#2330. 13--14世紀イングランドの法律まわりの使用言語」 ([2015-09-13-1]) でみた.このようにイングランドにおいてフランス語で公的な記録が取られる慣習が数世代にわたって確立していたところに,14世紀後半,英語が復権してきたのである.書き言葉上のバイリンガルだったとはいえ,多くの写字生にとって,当初この言語交替には戸惑いがあったろう.特に政治や法律に関わる用語の多くは,これまでフランス単語でまかなってきており,対応する英語本来語は欠けていた.このような状況下で,写字生が書き言葉を英語へとシフトする際に,書き慣れたフランス語の用語を多用したことは自然だった.
 後期中英語における各言語の社会言語学的な位置づけと,言語間の語彙借用の様相は,このように密接に結びついている.関連する最近の話題として,「#2345. 古英語の diglossia と中英語の triglossia」 ([2015-09-28-1]) も参照.

 ・ Rothwell, W. "Stratford atte Bowe and Paris." Modern Language Review 80 (1985): 39--54.

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2015-10-01 Thu

#2348. 英語史における code-switching 研究 [code-switching][me][emode][bilingualism][contact][latin][french][literature][borrowing][genre][historical_pragmatics][discourse_analysis]

 本ブログでは code-switching (CS) に関していくつかの記事を書いてきた.とりわけ英語史の視点からは,「#1470. macaronic lyric」 ([2013-05-06-1]),「#1625. 中英語期の書き言葉における code-switching」 ([2013-10-08-1]),「#1941. macaronic code-switching としての語源的綴字?」 ([2014-08-20-1]),「#2271. 後期中英語の macaronic な会計文書」 ([2015-07-16-1]) で論じてきた.現代語の CS に関わる研究の発展に後押しされる形で,また歴史語用論 (historical_pragmatics) の流行にも支えられる形で,歴史的資料における CS の研究も少しずつ伸びてきているようであり,英語史においてもいくつか論文集が出されるようになった.
 しかし,歴史英語における CS の実態は,まだまだ解明されていないことが多い.そもそも,CS が観察される歴史テキストはどの程度残っているのだろうか.Schendl は,中英語から初期近代英語にかけて,複数言語が混在するテキストは決して少なくないと述べている.

There is a considerable number of mixed-language texts from the ME and the EModE periods, many of which show CS in mid-sentence. The phenomenon occurs across genres and text types, both literary and non-literary, verse and prose; and the languages involved mirror the above-mentioned multilingual situation. In most cases Latin as the 'High' language is one of the languages, with one or both of the vernaculars English and French as the second partner, though switching between the two vernaculars is also attested. (79)

CS in written texts was clearly not an exception but a widespread specific mode of discourse over much of the attested history of English. It occurs across domains, genres and text types --- business, religious, legal and scientific texts, as well as literary ones. (92)


 ジャンルを問わず,様々なテキストに CS が見られるようだ.文学テキストとしては,具体的には "(i) sermons; (ii) other religious prose texts; (iii) letters; (iv) business accounts; (v) legal texts; (vi) medical texts" が挙げられており,非文学テキストとしては "(i) mixed or 'macaronic' poems; (ii) longer verse pieces; (iii) drama; (iv) various prose texts" などがあるとされる (Schendl 80) .
 英語史あるいは歴史言語学において CS (を含むテキスト)を研究する意義は少なくとも3点ある.1つは,過去の2言語使用と言語接触の状況の解明に資する点だ.2つめは,CS と借用の境目を巡る問題に関係する.語彙借用の多い英語の歴史にとって,借用の過程を明らかにすることは,理論的にも実際的にも極めて重要である (see 「#1661. 借用と code-switching の狭間」 ([2013-11-13-1]),「#1985. 借用と接触による干渉の狭間」 ([2014-10-03-1]),「#1988. 借用語研究の to-do list (2)」 ([2014-10-06-1]),「#2009. 言語学における接触干渉2言語使用借用」 ([2014-10-27-1])) .3つめに,共時的な CS 研究に通時的な次元を与えることにより,理論を深化させることである.

 ・ Schendl, Herbert. "Linguistic Aspects of Code-Switching in Medieval English Texts." Multilingualism in Later Medieval Britain. Ed. D. A. Trotter. Cambridge: D. S. Brewer, 2000. 77--92.

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2015-09-12 Sat

#2329. 中英語の借用元言語 [borrowing][loan_word][me][lexicology][contact][latin][french][greek][italian][spanish][portuguese][welsh][cornish][dutch][german][bilingualism]

 中英語の語彙借用といえば,まずフランス語が思い浮かび (「#1210. 中英語のフランス借用語の一覧」 ([2012-08-19-1])),次にラテン語が挙がる (「#120. 意外と多かった中英語期のラテン借用語」 ([2009-08-25-1]), 「#1211. 中英語のラテン借用語の一覧」 ([2012-08-20-1])) .その次に低地ゲルマン語,古ノルド語などの言語名が挙げられるが,フランス語,ラテン語の陰でそれほど著しくは感じられない.
 しかし,実際のところ,中英語は上記以外の多くの言語とも接触していた.確かにその他の言語からの借用語の数は多くはなかったし,ほとんどが直接ではなく,主としてフランス語を経由して間接的に入ってきた借用語である.しかし,多言語使用 (multilingualism) という用語を広い意味で取れば,中英語イングランド社会は確かに多言語使用社会だったといえるのである.中英語における借用元言語を一覧すると,次のようになる (Crespo (28) の表を再掲) .

LANGUAGESDirect IntroductionIndirect Introduction
Latin--- 
French--- 
Scandinavian--- 
Low German--- 
High German--- 
Italian through French
Spanish through French
Irish--- 
Scottish Gaelic--- 
Welsh--- 
Cornish--- 
Other Celtic languages in Europe through French
Portuguese through French
Arabic through French and Spanish
Persian through French, Greek and Latin
Turkish through French
Hebrew through French and Latin
Greek through French by way of Latin


 「#392. antidisestablishmentarianism にみる英語のロマンス語化」 ([2010-05-24-1]) で引用した通り,"French acted as the Trojan horse of Latinity in English" という謂いは事実だが,フランス語は中英語期には,ラテン語のみならず,もっとずっと多くの言語からの借用の「窓口」として機能してきたのである.
 関連して,「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]),「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1]),「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1]) も参照.

 ・ Crespo, Begoña. "Historical Background of Multilingualism and Its Impact." Multilingualism in Later Medieval Britain. Ed. D. A. Trotter. Cambridge: D. S. Brewer, 2000. 23--35.

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2015-04-20 Mon

#2184. 英単語とフランス単語の相違 (2) [french][norman_french][loan_word][borrowing][lexicology][norman_conquest][false_friend]

 昨日の記事「#2183. 英単語とフランス単語の相違 (1)」 ([2015-04-19-1]) に引き続いての話題.昨日は,英仏語の対応語の形や意味のズレの謎を解くべく,(1) 語彙の借用過程 (borrowing) に起こりがちな現象に注目した.今回は,(2) フランス語彙の借用の時期とその後の言語変化,(3) 借用の対象となったフランス語の方言という2つの視点を導入する.
 まずは (2) について.英語とフランス語の対応語を比較するときに抱く違和感の最大の原因は,時間差である.私たちが比較しているのは,通常,現代英語と現代フランス語の対応語である.しかし,フランス単語が英語へ借用されたのは,大多数が中英語期においてである (cf. 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])) .つまり,6--8世紀ほど前のフランス語彙が6--8世紀ほど前の英語に流れ込んだ.昨日の記事でみたように,当時の借用過程においてすら model となるフランス単語と loan となる英単語のあいだに多少のギャップの生じるのが普通だったのであるから,ましてや当時より数世紀を経た現代において両言語の対応語どうしが形や意味においてピタッと一致しないのは驚くことではない.この6--8世紀のあいだに,その語の形や意味は,フランス語側でも英語側でも独自に変化している可能性が高い.
 例えば,英語 doubt はフランス語 douter に対応するが,綴字は異なる.英単語の綴字に <b> が挿入されているのは英語における革新であり,この綴字習慣はフランス語では定着しなかった (cf. 「#1187. etymological respelling の具体例」 ([2012-07-27-1])) .またフランス語 journée は「1日」の意味だが,対応する英語の journey は「旅行」である.英語でも中英語期には「1日」の語義があったが,後に「1日の移動距離」を経て「旅行」の語義が発展し,もともとの語義は廃れた.数世紀の時間があれば,ちょっとしたズレが生じるのはもちろんのこと,初見ではいかに対応するのかと疑わざるを得ないほど,互いにかけ離れた語へと発展する可能性がある.
 次に,(3) 借用の対象となったフランス語の方言,という視点も非常に重要である.数十年前ではなく数世紀前に入ったという時代のギャップもさることながら,フランス語借用の源が必ずしもフランス語の中央方言(標準フランス語)ではないという事実がある.私たちが学習する現代フランス語は中世のフランス語の中央方言に由来しているが,とりわけ初期中英語期に英語が借用したフランス語彙の多くは実はフランス北西部に行われていたノルマン・フレンチ (norman_french) である (cf. 「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1])) .要するに,当時の「訛った」フランス単語が英単語として借用されて現在に至っているのであり,それと現代標準フランス語とを比較したときに,ズレが感じられるのは当然である.現代のフランス語母語話者の視点から現代英語の対応語を眺めると,「なぜ英語は大昔の,しかも訛ったフランス単語を用いているのだろうか」と首をかしげたくなる状況がある.具体的な事例については,「#76. Norman French vs Central French」 ([2009-07-13-1]),「#95. まだある! Norman French と Central French の二重語」 ([2009-07-31-1]),「#388. もっとある! Norman French と Central French の二重語」 ([2010-05-20-1]) などを参照されたい.
 以上,2回にわたって英単語とフランス単語の相違の原因について解説してきた.両者のギャップは,(1) 借用過程そのものに起因するものもあれば,(2) 借用の生じた時代が数世紀も前のことであり,その後の両言語の歴史的発展の結果としてとらえられる場合もあるし,(3) 借用当時の借用ソースがフランス語の非標準方言だったという事実によるものもある.現代英単語と現代フランス単語とを平面的に眺めているだけでは見えてこない立体的な奥行を,英語史を通じて感じてもらいたい.

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2015-04-19 Sun

#2183. 英単語とフランス単語の相違 (1) [french][loan_word][borrowing][lexicology][norman_conquest][false_friend]

 英語史概説の授業などで,現代英語の語彙にいかに多くのフランス単語が含まれているかを話題にすると,初めて聞く学生は一様に驚く.大雑把にいって英語語彙の約1/3がフランス語あるいはその親言語であるラテン語からの借用語である.関連するいくつかの統計については,「#110. 現代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-15-1]) および,「#1645. 現代日本語の語種分布」 ([2013-10-28-1]) の冒頭に張ったリンクを参照されたい.
 この事実を初めて聞くと,英語とフランス語に共通する語彙が数多く見られるのは,英単語がフランス語に大量に入り込んだからだと想像する学生が多いようだ.現在の英語の相対的な優位性,また日本語にも多くの英語語彙が流入している事実を考えれば,フランス語が多数の英単語を借用しているはずだという見方が生じるのも無理はない.
 しかし,英語史を参照すれば実際には逆であることがわかる.歴史的に英語がフランス単語を大量に借用してきたゆえに,結果として両言語に共通の語彙が多く見られるのである.端的にいえば,1066年のノルマン征服 (norman_conquest) により,イングランドの威信ある言語が英語からフランス語へ移った後に,高位のフランス語から低位の英語へと語彙が大量に流れ込んだということである.(英語がフランス語に与えた影響という逆方向の事例は,歴史的には相対的に稀である.「#1026. 18世紀,英語からフランス語へ入った借用語」 ([2012-02-17-1]),「#1012. 古代における英語からフランス語への影響」 ([2012-02-03-1]) を参照.)
 現代フランス語を少しでもかじったことのある者であれば,英仏語で共通する語は確かに多いけれど,形や意味が互いにずれているという例が少なくないことに気づくだろう.対応する語彙はあるのだが,厳密に「同じ」であるわけではない.これにより,false_friend (Fr. "faux amis") の問題が生じることになる (cf. 「#390. Cosmopolitan Vocabulary は Asset か? (2)」 ([2010-05-22-1])) .フランス語側の model と英語側の loan との間に,形や意味のずれが生じてしまうのは,いったいなぜだろうか(model と loan という用語については,「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) を参照).
 この問いに答えるには,(1) 語彙の借用過程 (borrowing) に起こりがちな現象,(2) フランス語彙の借用の時期とその後の言語変化,(3) 借用の対象となったフランス語の方言,という3点について理解しておく必要がある.今回は,(1) に注目しよう.語彙の借用過程に起こりがちな現象とは,借用元言語における語の形や意味が,多少なりとも歪められて借用先言語へコピーされるのが普通であることだ.まず形に注目すれば,借用語は,もとの発音や綴字を,多かれ少なかれ借用先言語の体系に適合させて流入するのが通常である.例えば,フランス語の円心前舌高母音 /y/ や硬口蓋鼻音 /ɲ/ は,必ずしもそのままの形で英語に取り入れられたのではなく,多くの場合それぞれ /ɪʊ/, /nj/ として取り込まれた (cf. 「#1222. フランス語が英語の音素に与えた小さな影響」 ([2012-08-31-1]),「#1727. /ju:/ の起源」 ([2014-01-18-1])) .微妙な差異ではあるが,語の借用において model がそのまま綺麗にコピーされるわけではないことを示している.英語の /ʃəːt/ (shirt) が日本語の /shatsu/ (シャツ)として取り込まれる例など,話し言葉から入ったとおぼしきケースでは,このようなズレが生じるのは極めて普通である.
 次に意味に注目しても,model と loan の間にはしばしばギャップが観察される.とりわけ借用においては model の語義の一部のみが採用されることが多く,意味の範囲としては model > loan の関係が成り立つことが多い.有名な動物と肉の例を挙げると,英語 beef は古フランス語 boef, buefから借用した語である.model には牛と牛肉の両方の語義が含まれるが,loan には牛肉の語義しか含まれない.ここではフランス単語が,意味を縮小した形で英語へ借用されている(ただし,「#331. 動物とその肉を表す英単語」 ([2010-03-24-1]),「#332. 「動物とその肉を表す英単語」の神話」 ([2010-03-25-1]) も参照).同様に,英語 room は「ルーム」として部屋の語義において日本語に入っているが,余地の語義は「ルーム」にはない.
 上で挙げてきた諸例では,英単語とフランス単語の間の差異はあったとしても比較的小さいものだった.しかし,フランス語学習において出会う単語の英仏語間のズレと違和感は,しばしばもっと大きい.この謎を探るには,(2) と (3) の視点が是非とも必要である.これについては,明日の記事で.

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2015-04-01 Wed

#2165. 20世紀後半の借用語ソース [loan_word][statistics][lexicology][french][japanese][borrowing]

 現代英語の新語の導入においては,複合 (compounding) や派生 (derivation) が主たる方法となってきており,借用 (borrowing) の貢献度は相対的に低い.ここ1世紀ほどの推移をみても,借用の割合は全体的に目減りしている (cf. 「#873. 現代英語の新語における複合と派生のバランス」 ([2011-09-17-1]) や「#874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布」 ([2011-09-18-1]),「#875. Bauer による現代英語の新語のソースのまとめ」 ([2011-09-19-1]),「#878. Algeo と Bauer の新語ソース調査の比較」([2011-09-22-1]),「#879. Algeo の新語ソース調査から示唆される通時的傾向」([2011-09-23-1])) .
 だが,相対的に減ってきているとはいえ,語彙借用は現代英語でも続いている.#874Algeo の詳細な区分のなかでも示されているように,ソース言語は相変わらず多様である.「#45. 英語語彙にまつわる数値」 ([2009-06-12-1]),「#126. 7言語による英語への影響の比較」 ([2009-08-31-1]),「#142. 英語に借用された日本語の分布」 ([2009-09-16-1]) では,現代英語への語彙提供者として案外日本語が有力であることに触れたが,日本語なども含めたソース言語別のより詳しい割合が知りたいところだ.
 Algeo (78) は,Garland Cannon (Historical Change and English Word-Formation. New York: Peter Lang, 1987. pp. 69--97) の調査に基づいて,20世紀後半に入ってきた借用語彙のソース言語別割合を提示している.具体的には,およそ1963--88年の間に英語に入ってきた借用語を記録する4つの辞書を調査対象とし,ソース言語別に借用語を数え上げ,それぞれの割合を出した.その4つの辞書とは,(1) The Barnhart Dictionary of New English since 1963 (1973), (2) The Second Barnhart Dictionary of New English (1980), (3) Webster's Third (1961), (4) The Barnhart Dictionary Companion Index (1987) である.それぞれから407語, 332語, 523語, 166語を集めた1428語の小さい語彙集合ではあるが,それに基づいて以下の調査結果が得られた.

 (1) BDNE(2) BENE2(3) 81W3(4) BDCRank
French31.4%17.521.212.01
Spanish6.610.86.112.72
Russian3.45.42.124.13
Japanese7.99.36.39.04
African6.17.26.73.05
Italian4.74.510.72.46
German5.95.44.85.47
Greek6.94.88.01.28
Latin5.25.19.4 9
Yiddish5.72.75.03.610
Arabic2.03.91.76.011
Chinese1.74.23.66.012
Portuguese1.02.71.01.813
Hindi2.20.90.22.414
Hebrew0.71.50.41.215
Sanskrit1.71.20.8 16
Persian0.21.2 1.817
Afrikaans0.51.50.4 18
Dutch0.20.3 1.819
Indonesian0.20.30.81.220
Malayo-Polynesian 2.10.2 21
Norwegian0.2 1.50.622
Swedish1.00.31.0 23
Korean 0.60.80.624
Vietnamese1.00.30.6 25
Amerindian 1.20.6 26
Bengali0.50.90.2 27
Danish0.5 1.0 28
Eskimo0.50.30.20.629


 表に記されていない30--56位の言語群は合わせても全体として1%にも満たないが,念のために次のような言語である.Amharic, Annamese, Basque, Bhutanese, Catalan, Czech, Hawaiian, Hungarian, Irish, Khmer, Mongolian, Papuan, Pashto, Pidgin English, Pilipino, Polish, Provençal, Punjabi, Samoan, Scots (Gaelic), Serbo-Croatian, Tahitian, Thai (and Lao), Turkish, Urdu, Welsh, West Indian.
 BDC でロシア語が妙に高い割合を示しているが,これは編集上の偏りに起因する可能性がある.偏りの可能性を差し引いて考えると,ロシア語は順位としてはアラビア語と中国語の間の12位前後に付くと思われる.
 15位までの言語についてグラフ化したのが,下図である.

Source Languages of New Loanwords from 1963 to 1988


 このグラフは,「#874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布」 ([2011-09-18-1]) でみた Bauer の調査に基づくグラフの場合とソース言語の設定の仕方が異なるので,比較しにくいところがあるが,フランス語,ギリシア語,ラテン語,ドイツ語などが上位で健闘している様子はいずれのグラフからも見て取ることができる.スペイン語やイタリア語などのロマンス諸語も堅調といってよい.そのなかで,非印欧語として筆頭に立っているのが日本語である.アフリカ諸語,アラビア語,中国語も続いており,英語の cosmopolitan vocabulary 振りは現代においても健在といえるだろう.

 ・ Algeo, John. "Vocabulary." The Cambridge History of the English Language. Vol. 4. Cambridge: CUP, 1998. 57--91.

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2015-03-16 Mon

#2149. 意味借用 [borrowing][loan_word][loan_translation][semantic_change][lexicology][old_norse][semantic_borrowing][christianity]

 本ブログのいくつかの記事で 意味借用semantic_borrowing, あるいは "semantic loan" という用語を使ってきたが,とりたてて話題にしたことはなかったので,今回いくつか例を挙げておきたい.意味借用はときに翻訳借用 (loan_translation) と混同して用いられることがあるが,2つは異なる過程である.翻訳借用においては新たな語彙項目が生み出されるが,意味借用においては既存の語彙項目に新たな語義が追加されるか,それが古い語義を置き換えるかするのみで,新たな語彙項目は生み出されない.ただし,いずれも借用元言語の形態は反映されないという点で共通点がある.「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) で説明した Haugen の用語に従えば,いずれも importation ではなく substitution の例ということになる.
 英語史における意味借用の典型例の1つに,dream がある.古英語 drēam は "joy, music" (喜び,音楽)の意で用いられたが,対応する古ノルド語の draumr が "vision" (夢)の意をもっていたことにより,その影響で中英語までに「夢」の語義を獲得した.もともとのゲルマン語の段階での原義「(叫び声などによる)惑わし」からの意味発展により「(歓楽による)叫び声,騒ぎ;歓楽;喜び」の系列と「幻影;夢」の系列とが共存していたと考えられるが,後者は古英語へは伝わらなかったようだ.だが実際には,古英語期にも,古ノルド語の影響の強い東中部や北部では「夢」の語義も行われていた形跡がある.
 ほかによく知られているものとして,bloom がある.古英語 blōma は "ingot of iron" (塊鉄)を意味したが,古ノルド語 blóm "flower, blossom" (花)の影響で,中英語までに新しい語義を獲得した(ただし,これには異説もある).dwell に相当する古英語単語 dwellan, dwelian は "to lead astray" (迷わせる)で用いられたが,古ノルド語 dvelja (ぐずぐずする;とどまる)より発展的な語義「住む」を借用したとされる.また,「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1]) で触れたように,bread は古英語では brēad "morsel of food" ほどの意味だったが,古ノルド語 brauð "bread" より「パン」の語義を借りてきたようだ (Old Northumbrian に「パン」としての用例がみられる).
 古ノルド語からの意味借用の例をいくつか挙げたが,ラテン語からの例としてラテン語 rēs が「集会;こと,もの」の語義をもっていたことから,本来「集会」のみを意味した古英語 þing が「こと,もの」の意味を得たとされる.同様に,古英語の Dryhten "lord" に "the Lord" の語義が追加されたのも,対応するラテン語の dominus の影響だろう(関連して「#1619. なぜ deus が借用されず God が保たれたのか」 ([2013-10-02-1]) を参照).古英語における本来語のキリスト教用語には,対応するラテン語の影響で新たに意味を獲得したものが多い (ex. wītega "prophet", þrōþung "suffering", getimbran "edify", cniht "pupil" 等々 (cf. Strang 368--69) .
 ほかには,「新しいもの」の意味でフランス語から英語に入ってきたnovel が,その後スペイン語及びイタリア語の対応語から「物語;小説」の意味を取り入れた例などがある.
 英語が意味を貸し出した側となっている例もある.フランス語の realizer (はっきり理解する)と introduir(紹介する)のそれぞれの語義は,英語の対応語からの借用である.また,アメリカで話されるポルトガル語の engenho は「技術」を意味したが,英語 engine から「機関車」の意味を借用した.さらに,日本語「触れる」「払う」はそれぞれ物理的な意味のほかに「(問題などに)言及する」「(注意・敬意などを)払う」の意味をもつが,これは対応する touch, pay が両義をもつことからの影響とされる.

 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.

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2015-02-08 Sun

#2113. 文法借用の証明 [methodology][borrowing][contact]

 言語間の借用といえばまず最初に語彙項目が思い浮かぶが,文法項目の借用も知られていないわけではない.文法借用が比較的まれであることは,「#902. 借用されやすい言語項目」 ([2011-10-16-1]),「#1780. 言語接触と借用の尺度」 ([2014-03-12-1]),「#2011. Moravcsik による借用の制約」 ([2014-10-29-1]) の記事や,「#2067. Weinreich による言語干渉の決定要因」 ([2014-12-24-1]) にリンクを張った他のいくつかの記事でも取り上げてきた通りだが,古今東西の言語を見渡せば文法借用の言及もいろいろと見つかる.英語史に限っても,文法借用の可能性が示唆される事例ということでいえば,ケルト語,ラテン語,古ノルド語,フランス語などから様々な候補が挙げられてきた.
 しかし,文法項目の借用は語彙項目の借用よりも同定しにくい.その理由の1つは文法項目が抽象的だからだ.語彙項目のような具体的なものであれば一方の言語から他方の言語へ移ったということが確認しやすいが,言語構造に埋め込まれた抽象的な文法項目の場合には,直接移ったのかどうか確認しにくい.理由の2つ目は,語彙項目が数万という規模で存在するのに対して,文法範疇は通言語的にも種類が比較的少なく,無関係の2つの言語に同じ文法範疇が独立して発生するということもあり得るため,借用の可能性があったとしても慎重に論じざるを得ないことだ.
 Thomason (93--94) の説明を要約すると,文法借用あるいは構造的干渉 (structural interference) を証明するには,次の5点を示すことが必要である.

(1) evidence of interference elsewhere in the language's structure
(2) to identify a source language, or at least its relative language(s)
(3) to find shared structural features in the proposed source and receiving language
(4) to show that the shared features were not present in the receiving language before it came into close contact with the source language
(5) to show that the shared features were present in the source language before it came into close contact with the receiving language.


 この5つの条件を満たす証拠が得られれば,A言語からB言語へ文法項目が借用されたことを説得力をもって言い切ることができるということだが,とりわけ歴史的な過程としての文法借用を問題にしている場合には,そのような証拠を揃えられる見込みは限りなくゼロに近い.というのは,証拠を揃える以前に,過去の2言語の共時的な記述と両言語をとりまく社会言語学的な状況の記述が詳細になされていなければならないからだ.
 それでも,上記の5点のすべてを完全にとはいわずともある程度は満たす稀なケースはある.ただし,そのような場合にも,念のために,当該の文法項目が言語干渉の結果としてではなく,言語内的に独立して発生した可能性も考慮する必要がある.それら種々の要因を秤にかけた上で,文法借用を説明の一部とみなすのが,慎重にして穏当な立場だろう.文法借用は魅力的な話題だが,一方で慎重を要する問題である.

 ・ Thomason, Sarah Grey. Language Contact. Edinburgh: Edinburgh UP, 2001.

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2015-01-05 Mon

#2079. fusion と mixture [contact][borrowing][loan_word][loan_translation][bilingualism][substratum_theory][typology][register][lexical_stratification]

 「#2061. 発話における干渉と言語における干渉」 ([2014-12-18-1]) で念を押したように,語の借用 (borrowing) は過程であり,借用語 (loanword) は結果である.Weinreich は明示的にこの区別をつける論者は少なかったと述べているが,Roberts という研究者がより早くこの区別について論じている.Roberts (31--32) は,言語接触の過程を "fusion" と呼び,結果としての状態を "mixture" と呼び分けた.また,Roberts は "fusion" と "mixture" をそれぞれ細分化するとともに,そのような過程や結果の前段階にある2言語使用状況のタイプを2つに分け,全体として言語接触の類型論というべきものを提起している.以下,Roberts (32) の図式を再現しよう.

Roberts' Typography of Bilingualism and Contact


 だが,正直いうと論文を読みながら非常に理解しにくい図式だと感じた.多くの用語が立ち並んでいるが,それぞれの歴史的な事例とそれらの間の相互の関係がとらえにくいのだ.BILINGUALISM → FUSION → MIXTURE という時間的な相の提示と後者2過程の峻別は評価できるとしても,それ以外については用語が先走っている印象であり,内容どうしの関係が不明瞭だ.Roberts (31--32) にそのまま語ってもらおう.

   When a bilingual situation ends, the surviving language (that is, the language whose grammar prevails) is colored in greater or less degree by the perishing language (that is, the language whose grammar succumbs). The extent of this coloring depends upon the relationship of the two languages during the antecedent bilingualism. Subordinative bilingualism results in admixture; a portion of the weaker language is added to the stronger, which still retains both its grammatical and its lexical integrity. Co-ordinative bilingualism results in intermixture; virtually the entire vocabulary of the weaker language is swallowed up by the stronger, which thereby loses its lexical, though not its grammatical, integrity.
   The words admixture and intermixture, as here used, denote accomplished situations, the results of processes. To designate the generative processes, the terms affusion and interfusion, corresponding respectively to admixture and intermixture, are proposed. Affusion has three modalities: infusion, suffusion, and superfusion. Interfusion has three stages or temporalities: diffusion, circumfusion, and retrofusion.


 Affusion から見ていくと,Infusion は通常の語の借用に相当する.Suffusion は,基層言語影響説 (substratum_theory) の唱える基層言語からの言語的影響に相当する.Superfusion は翻訳借用 (loan_translation) に相当する.importation と substitution という対立軸と,意識的な干渉と無意識的な干渉という対立軸がごたまぜになったような分類だ.
 次に Interfusion に目を向けると,Diffusion は本来語彙と借用語彙が使用域に関して分化する過程を指している.英語語彙における語種別の三層構造などの生成にみられる過程を想像すればよいだろう.その Interfusion の段階からさらに進むと,Circumfusion の段階となる.ここでは例えば内容語はすべてフランス・ラテン借用語であっても,それらを取り巻く機能語は本来語となるような状況が生み出される.次に,Retrofusion はソース言語からの一種の「復讐」の過程であり,フランス語の語法の影響を受けて house beautiful, knights templars, sufficient likelihood, nocturnal darkness などの表現を生み出す過程に相当する.
 Roberts は2言語使用 (bilingualism) の基礎理論を打ち立てようという目的でこの論文を書いたようだが,残念ながらうまくいっているようには思えない.より説得力のある言語接触の類型論としては,「#1780. 言語接触と借用の尺度」 ([2014-03-12-1]) と「#1781. 言語接触の類型論」 ([2014-03-13-1]) で紹介した Thomason and Kaufman によるモデルが近年ではよく知られている.
 借用に関する過程と結果の区別については「#900. 借用の定義」 ([2011-10-14-1]),「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]),「#904. 借用語を共時的に同定することはできるか」 ([2011-10-18-1]),「#1988. 借用語研究の to-do list (2)」 ([2014-10-06-1]),「#2009. 言語学における接触干渉2言語使用借用」 ([2014-10-27-1]) も参照.また,関連して「#2067. Weinreich による言語干渉の決定要因」 ([2014-12-24-1]) の記事とそこに張ったリンクも参照されたい.

 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.
 ・ Roberts, Murat H. "The Problem of the Hybrid Language". Journal of English and Germanic Philology 38 (1939): 23--41.

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2014-12-26 Fri

#2069. 言語への忠誠,言語交替,借用方法 [loan_translation][purism][borrowing][contact][language_shift][loan_word]

 他言語から語を借用する場合,形態をおよそそのまま借り入れる importation と,自言語へ翻訳して借り入れる substitution が区別される.一般に前者は借用語 (loanword) と呼ばれ,後者は翻訳借用(語) (loan_translation) と呼ばれる.細かい分類や用語は Haugen に依拠して書いた記事「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) に譲るが,この2種類の借用方法が記号論的に大いに相違していることは明らかである.
 2つの借用方法を区別した上で問題となるのは,個別言語の語彙借用の個々の事例において,いずれの方法で借用するかを決定しているのはいかなる要因かということだ.言語によって,あるいは時代によって,いずれかが好まれるというのは英語史,日本語史,他の言語の歴史でも確認されており,個々の傾向があることは否定できない.だが,同言語の同時代の個々の借用の事例をみると,あるものについては importation だが,別のものについては substitution であるといったケースがある.これらについては個別に言語内的・外的な要因を探り,それぞれの要因の効き具合を確かめる必要があるのだろうが,実際上は確認しがたく,表面的には借用方法の選択はランダムであるかのようにみえる.また,importation と substitution を語のなかで半々に採用した「赤ワイン」のような loanblend の事例も見られ,借用方法の決定を巡る議論はさらに複雑になる.この辺りの問題については,「#902. 借用されやすい言語項目」 ([2011-10-16-1]),「#903. 借用の多い言語と少ない言語」 ([2011-10-17-1]),「#1619. なぜ deus が借用されず God が保たれたのか」 ([2013-10-02-1]),「#1778. 借用語研究の to-do list」 ([2014-03-10-1]),「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1]),「#2064. 言語と文化の借用尺度 (1)」 ([2014-12-21-1]) でも部分的に触れてきた通りだ.
 importation ではなく substitution を選択する言語外的な要因として真っ先に思い浮かぶのは,受け入れ言語の話者(集団)が抱いているかもしれない母語への忠誠心や言語的純粋主義だろう (cf. 「#2068. 言語への忠誠」 ([2014-12-25-1])) .自言語への愛着が強ければ強いほど,他言語からの自言語への目に見える影響は排除したいと思うのが普通だろう.それを押してでも語彙を借用するということになれば,そのまま借用ではなく翻訳借用がより好まれるのも自然である.一方,そのような忠誠心が希薄であれば,そのまま借用への抵抗感も薄いだろう.
 他に考えられるパラメータとしては,借用の背景にある言語接触が安定した2言語使用状況なのか,あるいは話者の言語交替を伴うものなのかという区別がある.前者では substitution が多く,後者では importation が多いという仮説だ.Weinreich (109) は ". . . language shifts are characterized by word transfers, while loan translations are the typical mark of stable bilingualism without a shift" という可能性に言及している.
 この点で,「#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点」 ([2013-10-21-1]) で示した観点を振り返ると興味深い.古英語のラテン語借用では substitution も多かったが,中英語のフランス語借用と初期近代英語のラテン語借用では importation が多かった.そして,後者の2つの語彙借用の波は,ある種の「安定的な2言語使用状況」が崩れ,ある種の「言語交替」が起こり始めたちょうどそのタイミングで観察されるのである.上の仮説では「安定的な2言語使用状況」と「言語交替」は対置されているものの,実際には連続体であり,明確な境を設けることは難しいという問題はある.しかし,この仮説のもつ含蓄は大きい.借用方法という記号論的・言語学的な問題と,言語への忠誠や言語交替のような社会言語学的な問題とをリンクさせる可能性があるからだ.今後もこの問題には関心を寄せていきたい.

 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.

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2014-12-24 Wed

#2067. Weinreich による言語干渉の決定要因 [contact][borrowing][loan_word][causation]

 言語干渉の要因や尺度について,これまで以下の記事で様々に考えてきた.

 ・ 「#430. 言語変化を阻害する要因」 ([2010-07-01-1])
 ・ 「#902. 借用されやすい言語項目」 ([2011-10-16-1])
 ・ 「#903. 借用の多い言語と少ない言語」 ([2011-10-17-1])
 ・ 「#934. 借用の多い言語と少ない言語 (2)」 ([2011-11-17-1])
 ・ 「#1779. 言語接触の程度と種類を予測する指標」 ([2014-03-11-1])
 ・ 「#1780. 言語接触と借用の尺度」 ([2014-03-12-1])
 ・ 「#1781. 言語接触の類型論」 ([2014-03-13-1])
 ・ 「#1989. 機能的な観点からみる借用の尺度」 ([2014-10-07-1])
 ・ 「#2011. Moravcsik による借用の制約」 ([2014-10-29-1])
 ・ 「#2064. 言語と文化の借用尺度 (1)」 ([2014-12-21-1])
 ・ 「#2065. 言語と文化の借用尺度 (2)」 ([2014-12-22-1])

 今回は,言語干渉を促進する・阻害する構造的・非構造的要因を一覧にしてまとめた Weinreich (64--65) による表を掲げよう.PDF版はこちら.これを眺めながら,言語変化一般と同様に言語干渉による変化も,言語内的・外的の両要因によって条件付けられている可能性が常にあることを再認識したい.関連して「#1986. 言語変化の multiple causation あるいは "synergy"」 ([2014-10-04-1]) 及び multiple causation の各記事も参照されたい.

FORM OF INTERFERENCEEXAMPLESTRUCTURALNON-STRUCTURAL
STIMULIRESISTANCE FACTORSSTIMULIRESISTANCE FACTORS
All interference Any points of difference between two systemsStability of systems; requirements of intelligibilitySocial value of source (model, primary) language; bilingual interlocutors; affective speech; individual propensity for speech mixture; etc.Social value of recipient language; intolerance of interference; puristic attitudes toward recipient (secondary) language; loyalty to mother-tongue; unilingual interlocutors; etc.
Phonic     
   Under-differentiation of phonemes/d/ and /t/ not differentiatedAbsence of corresponding distinctions in primary languageFunctional yield of the distinction---Loyalty to secondary language
   Over-differentiation of phonemes[k] and [kh] treated as separate phonemesPresence of distinction (only) in primary language---------
   Reinterpretation of relevant featuresVoiceless /p/ treated as phonemically tense and only concomitantly voicelessDifferent phonemic systemsExistence of appropriate holes in the pattern------
   Phone substitution[r] for [R] where there is only one trill phonemeDifferent pronunciations equivalent phonemesDanger of confusion with another phonemeSocial value of primary languageLoyalty to secondary language
   Integration of loanwordsEnglish /rajs/ into Hawaiian /lɑiki/Difference in phonemic systems; homogeneous but different type of word structure in recipient languagePotential homonymy (?)Intolerance of recognizable loanwords; unilingualism of speakerSocial value of source language
Grammatical     
   Transfer of morphemesSlovak-German in Pressburg-u; Yiddish-English job-shmobCongruent systems, much common vocabulary, relatively unbound morphemes, greater phonemic bulkNon-congruent systems; complicated functions of morphemesAffectiveness of categoriesLoyalty to recipient language
   Transfer of grammatical relationsGerman-English I come soon homeDifferent relation patternsConflict with existing relationsAffectiveness of categoriesLoyalty to recipient language
   Change in function of "indigenous" morpheme or categoryGerman-English how long are you here?Greater explicitness of model (usually)------Loyalty to recipient language
   Abandonment of obligatory categoriesLoss of old French tense system in CreoleVery different grammatical systems---Makeshift languageLoyalty to recipient language
   Integration of loanwordsEnglish change into Amer. Portuguese chinjarHomogeneous word structure in recipient language---Intolerance of recognizable loanwords; unilingualism of speakerSocial value of source language
Lexical     
   Lexical interference as such---Structural weak points in recipient vocabulary, need to match differentiations in source languageExistence of adequate vocabularyLexical inadequacy in face of innovations; oblivion of infrequent words, need for synonyms, prestige of source language, stylistic effect of mixtureLoyalty to recipient language
   Outright transfer of words (rather than semantic extension)German Telephon rather than FernsprecherCongenial form of word; possibility of polysemy (?)Potential homonymy (?); uncongenial word formBilingualism of interlocutorsLoyalty to recipient language
   Phonic adjustment of cognatesSpanish /euˈropa/ into /juˈropa/ on English modelEconomy of a single form------Loyalty to recipient language
   Specialized retention of an "indigenous" word after borrowing of an equivalentFrench chose, retained and distinguished from causeNo confusion in semantemesElimination of superfluous terms------


 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.

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2014-12-22 Mon

#2065. 言語と文化の借用尺度 (2) [contact][borrowing][loan_word][anthropology][sociolinguistics][speed_of_change][exaptation]

 昨日の記事「#2064. 言語と文化の借用尺度 (1)」 ([2014-12-21-1]) に続き,言語項と文化項の借用にみられる共通点について.言語も文化の一部とすれば,借用に際しても両者の間に共通点があることは不思議ではないかもしれない.ただし,あまりこのような視点からの比較はされてこなかったと思われるので,この件についての言及をみつけると,なるほどと感心してしまう.
 昨日と同様に,Weinreich は Linton (Linton, Ralph, ed. Acculturation in Seven American Indian Tribes. New York, 1940) に依拠しながら,さらなる共通点を2つほど指摘している.1つは,既存の語の同義語が他言語から借用される場合に関わる.すでに自言語に存在する語の同義語が他言語から借用される場合には,(1) 両語の意味に混同が生じる,(2) 借用語が本来語を置き換える,(2) 両方の語が意味を違えながら共存する,のいずれかが生じるとされる.(3) は道具などの文化的な項目の借用についても言えることではないか.Weinreich (55fn) 曰く,

Similarly in culture contact. "The substitution of a new culture element," Linton writes . . ., "by no means always results in the complete elimination of the old one. There are many cases of partial . . . replacement. . . . Stone knives may continue to be used for ritual purposes long after the metal ones have superseded them elsewhere."


 既存の項が役割を特化させるなどしながらあくまで生き残るという過程は,文法化研究などで注目されている exaptation の例にも比較される (cf. 「#1586. 再分析の下位区分」 ([2013-08-30-1])) .
 言語項と文化項の借用にみられる2つ目の共通点は,借用を促進する要因と阻害する要因に関するものである.言語の借用尺度の決定に関与する要因は,構造的(言語内的)なものと非構造的(言語外的)なものに2分される.前者は言語体系への統合の度合いに関わり,後者は例えば2言語使用者の習慣,発話の状況,言語接触の社会文化的環境などを含む(「#1779. 言語接触の程度と種類を予測する指標」 ([2014-03-11-1]) も参照).Weinreich (66--67fn)は,文化人類学者の洞察に触れながら,文化項の借用にも同様に構造的・非構造的な要因が認められるとしている.

Distinctions parallel to those between stimuli and resistance, structural and non-structural factors, occur implicitly in studies of acculturation, too. Thus, Redfield, Linton, and Herskovits . . . distinguish culture traits "presented" (=stimuli) from those "selected" in acculturation situations, and stress the "significance of understanding the resistance to traits as well as the acceptance of them." They also name "congruity of existing culture-patterns" as a reason for a selection of traits; this corresponds to structural stimuli in language contact. When Linton observes . . . that "new things are borrowed on the basis of their utility, compatibility with preëxisting culture patterns, and prestige associations," his three factors are equivalent, roughly, to structural stimuli of interference, structural resistance, and nonstructural stimuli, respectively. Kroeber . . . devotes a special discussion to resistance against diffusion. Resistance to cultural borrowing is also the subject of a separate article by Devereux and Loeb . . ., who distinguish between "resistance to the cultural item"---corresponding roughly to structural resistance in language contact---and "resistance to the lender." These authors also discuss resistance ON THE PART OF the "lender," e.g. the attempts of the Dutch to prevent Malayans, by law, from learning the Dutch language. No equivalent lender's resistance seems to operate in language contact, unless the inconspicuousness of a strongly varying, phonemically slight morpheme with complicated grammatical functions be considered as a point of resistance to transfer within the source language . . . .


 このような文化と言語における借用の比較は,言語学と文化人類学との学際的な研究課題,人類言語学の研究テーマになるだろう.

 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.

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2014-12-21 Sun

#2064. 言語と文化の借用尺度 (1) [contact][borrowing][loan_word][anthropology][sociolinguistics][loan_translation]

 言語項の借用尺度 (scale of adoptability) について,「#902. 借用されやすい言語項目」 ([2011-10-16-1]),「#903. 借用の多い言語と少ない言語」 ([2011-10-17-1]),「#934. 借用の多い言語と少ない言語 (2)」 ([2011-11-17-1]),「#1779. 言語接触の程度と種類を予測する指標」 ([2014-03-11-1]),「#1780. 言語接触と借用の尺度」 ([2014-03-12-1]),「#1989. 機能的な観点からみる借用の尺度」 ([2014-10-07-1]),「#2011. Moravcsik による借用の制約」 ([2014-10-29-1]) などで取り上げてきた.理論的には,語彙でいえば機能語よりも内容語が,抽象的な意味をもつ語よりは具体的な意味をもつ語のほうが言語間での借用が容易である.このことは確かに直感にも合うし,ある程度は実証されてもいる.
 Whitney, Haugen, Moravcsik, Thomason and Kaufman などと同じ借用への関心から Weinreich (35) も言語項の借用尺度について考究しているが,向き合い方はやや慎重である.

It may be possible to range the morpheme classes of a language in a continuous series from the most structurally and syntagmatically integrated inflectional ending, through such "grammatical words" as prepositions, articles, or auxiliary verbs, to full-fledged words like nouns, verbs, and adjectives, and on to independent adverbs and completely unintegrated interjections. Then this hypothesis might be set up: The fuller the integration of the morpheme, the less likelihood of its transfer. A scale of this type was envisaged by Whitney in 1881 . . . and by many linguistics since. Haugen . . . discusses it as the "scale of adoptability," without, perhaps, sufficiently emphasizing its still hypothetical nature as far as bilinguals' speech is concerned. It should be clear how much painstaking observation and analysis is necessary before this hypothesis can be put to the test.


 しかし,Weinreich がこの問題に関して面目躍如たる貢献をしているのは,言語項の借用と文化項の借用 (acculturation) の間の類似性を指摘していることだ.上の引用と同ページの脚注に,次のようにある.

Students of acculturation face a similar problem---almost equally unexplored---of rating culture elements according to their transferability. "It seems," says Linton in a tentative remark . . ., "that, other things [e.g. prestige associations] being equal, certain sorts of culture elements are more easily transferable than others. Tangible objects such as tools, utensils, or ornaments are taken over with great ease, in fact they are usually the first things transferred in contact situations. . . . The transfer of elements which lack the concreteness and ready observability of objects is the most difficult of all. . . . In general, the more abstract the element, the more difficult the transfer."


 言語項にせよ文化項にせよ,その具体性と借用可能性が関連していそうだというところまでは察しがついた.次なる問題は,このことと借用の方式(importation か substitution かという問題)との間にも何らかの相関関係がありうるだろうかということだ.例えば,具体的な言語項や文化項は,受け入れる際に「翻訳」せずにモデルのまま取り入れる傾向 (importation) があったり,逆に抽象的なものは「翻訳」して取り込む傾向 (substitution or loan_translation) があったりするだろうか.あるいは,むしろ逆の傾向を示すものだろうか,等々.
 借用における importation と substitution については,「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]),「#903. 借用の多い言語と少ない言語」 ([2011-10-17-1]),「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」 ([2012-03-29-1]),「#1619. なぜ deus が借用されず God が保たれたのか」 ([2013-10-02-1]),「#1778. 借用語研究の to-do list」 ([2014-03-10-1]),「#1895. 古英語のラテン借用語の綴字と借用の類型論」 ([2014-07-05-1]) などで扱ってきたが,言語の問題にとどまらず,より大きな文化の問題にもなりうるということかもしれない.

 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.

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2014-12-18 Thu

#2061. 発話における干渉と言語における干渉 [contact][borrowing][bilingualism][loan_word][lexical_diffusion][terminology][language_change]

 語の借用 (borrowing) と借用語 (loanword) とは異なる.前者は過程であり,後者は結果である.両者を区別する必要について,「#900. 借用の定義」 ([2011-10-14-1]),「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]),「#904. 借用語を共時的に同定することはできるか」 ([2011-10-18-1]),「#1988. 借用語研究の to-do list (2)」 ([2014-10-06-1]),「#2009. 言語学における接触干渉2言語使用借用」 ([2014-10-27-1]) で扱ってきた通りである.
 言語接触の分野で早くからこの区別をつけることを主張していた論者の1人に,Weinreich (11) がいる.

In speech, interference is like sand carried by a stream; in language, it is the sedimented sand deposited on the bottom of a lake. The two phases of interference should be distinguished. In speech, it occurs anew in the utterances of the bilingual speaker as a result of his personal knowledge of the other tongue. In language, we find interference phenomena which, having frequently occurred in the speech of bilinguals, have become habitualized and established. Their use is no longer dependent on bilingualism. When a speaker of language X uses a form of foreign origin not as an on-the-spot borrowing from language Y, but because he has heard it used by others in X-utterances, then this borrowed element can be considered, from the descriptive viewpoint, to have become a part of LANGUAGE X.


 過程としての借用と結果としての借用語は言語干渉 (interference) の2つの異なる局面である.前者は parole に,後者は langue に属すると言い換えてもよいかもしれない.続けて Weinreich は同ページの脚注で,上の区別の重要性を認識している先行研究は少ないとしながら,以下の研究に触れている.

The only one to have drawn the theoretical distinction seems to be Roberts (450, 31f.), who arbitrarily calls the generative process "fusion" and the accomplished result "mixture." In anthropology, Linton (312, 474) distinguishes in the introduction of a new culture element "(1) its initial acceptance by innovators, (2) its dissemination to other members of the society, and (3) the modifications by which it is finally adjusted to the preexisting culture matrix."


 特に人類学者 Linton からの引用部分に注目したい.(言語項を含むと考えられる)文化的要素の導入には3段階が区別されるという指摘があるが,これは「#1466. Smith による言語変化の3段階と3機構」 ([2013-05-02-1]) でみた (1) potential for change, (3) diffusion, (2) implementation に緩やかに対応しているように思われる.借用は,借用語の受容,拡大,定着という段階を経ながら進行していくという見方だ.言語項の借用については,このような複層的で動的なとらえ方が必要である."dissemination" や "diffusion" のステージと関連して,語彙拡散 (lexical_diffusion) の各記事,とりわけ「#855. lexical diffusioncritical mass」 ([2011-08-30-1]) を参照.

 ・ Weinreich, Uriel. Languages in Contact: Findings and Problems. New York: Publications of the Linguistic Circle of New York, 1953. The Hague: Mouton, 1968.

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