語 (word) をいかに定義するかという問題は,言語学の最大の難問の1つといってよい.語は,いまだに明確な定義を与えられていない.形態素 (morpheme) についても事情は同じである.関連する議論は,以下の記事でも触れてきたので参照されたい.
・ #886. 形態素にまつわる通時的な問題: [2011-09-30-1]
・ #700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体: [2011-03-28-1]
・ #554. cranberry morpheme: [2010-11-02-1]
さて,一般的な感覚で語を話題にする場合には,次の2つの条件を与えておけば語の定義として十分だろうと思われる (Carstairs-McCarthy 5) .
(a) 予測不可能な (unpredictable) 意味を有し,辞書に列挙される必要があること
(b) 句や文を形成するための構成要素 (building-block) であること
しかし,この2つの条件を満たしていれば語と呼んでよいかというと,厳密には漏れがある.
dioecious を例にとろう.日常的な感覚ではこれはれっきとした語である.まず,The plant is dioecious. あるいは a dioecious plant などと使え,句や文を構成する要素であるから,(b) の条件は満たしている.また,ほとんどの読者がこの語の意味(生物学の専門用語で「雌雄異体の」の意味)を知らなかったと思われるが,そのことは意味が予測不可能であるという (a) の条件を満たしていることを表わしている.しかし,いったんこの語を知ってしまえば,dioeciously や dioeciousness という派生形の意味は予測可能だろう.ここで (a) の条件が満たされなくなるわけだが,dioeciously や dioeciousness も diocious と同じ資格で語としてみなすのが通常の感覚だろう.たとえ辞書には列挙されないとしても,である.
別の例として,keep tabs on は「?に気をつける」という idiom を取りあげよう.この表現は,通常の感覚では3つの語から構成されていると捉えられ,論理的には語そのものではなく語より大きい単位とみなされている.つまり,(b) の条件を満たしていないことが前提となっているが,idiom の常として意味は予測不可能であり,(a) の条件は満たしている.idiom よりも大きな文に相当する単位でありながら,その意味が予測不可能なことわざ (proverb) も同様である.
上の2つの例は,問題の表現が (a), (b) の条件 をともに満たしていて初めて語とみなせるのか,どちらかを満たしていればよいのか,あるいは条件の設定そのものに難があるのか,という疑問を抱かせる.Carstairs-McCarthy は,(a) を満たしている単位を lexical item,(b) を満たしている単位を専門的な意味での word として用い,区別の必要を主張している (12--13) .
以上,語の定義の難しさを垣間見る記事の第1弾.
・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.
昨日の記事「#900. 借用の定義」 ([2011-10-14-1]) に引き続き,今回は借用の分類の話題を.Haugen の提案している借用の分類では,importation と substitution の区別がとりわけ重要である.分類を概観する前に,用語を導入しておこう.
・ model: 借用元の形式
・ loan: 借用により自言語に定着した形式
・ importation: model と十分に類似した形式を自言語へ取り込むこと
・ substitution: model に対応する自言語の形式を代用すること
Haugen (214--15) は借用語を大きく3種類に分類している.
(1) LOANWORDS show morphemic importation without substitution. Any morphemic importation can be further classified according to the degree of its phonemic substitution: none, partial, or complete.
(2) LOANBLENDS show morphemic substitution as well as importation. All substitution involves a certain degree of analysis by the speaker of the model that he is imitating; only such 'hybrids' as involve a discoverable foreign model are included here.
(3) LOANSHIFTS show morphemic substitution without importation. These include what are usually called 'loan translations' and 'semantic loans'; the term 'shift' is suggested because they appear in the borrowing language only as functional shifts of native morphemes.
具体例で補足すると,(1) の(狭い意味での) loanword の典型例として,英語の America が日本語へそのまま借用された「アメリカ」がある.この際に生じたのは,形態的な importation であり,かつ音韻的にもほぼそのまま model が受け継がれている (imported) .一方,形態的に importation ではあるが,音韻的に完全に日本語化した (substituted) と考えられる「ラブ」 (love) がある.「ラヴ」として借用されたのであれば,音韻上,部分的に日本語化したと表現できるだろう.
(2) の loanblend の例としては,複合語の借用の場合などで,形態的な importation と substitution が同時に見られる「赤ワイン」 (red wine) のような例が挙げられる.しばしば,hybrid として言及されるが,過程としての hybrid と結果としての hybrid は,本来区別すべきものである(昨日の記事[2011-10-14-1]の最終段落を参照).混合がその中で生じている形態の単位によって,blended stem, blended derivative, blended compound が区別される.
(3) の loanshift には,loan_translation (翻訳借用; calque とも)呼ばれているもの,そして semantic loan (意味借用)と呼ばれているものが含まれる.前者では自言語の語彙目録に新たな morph が登録されることになるが,後者に至っては同形態がすでに存在するので,他言語からの影響を示すものは意味のみであるという点が特異である.ただし,既存の morph と意味の関連が希薄な場合には,語彙目録に異なる morph として立項されるかもしれない.意味の近似により既存の morph に従属する場合には loan synonym,意味の隔たりにより別の morph として立項される場合には loan homonym と呼ばれる.loan translation が複合語を超えてイディオムなどの連語という単位へ及ぶと,syntactic substitution と呼べることになるだろう (ex. make believe < F fair croire ) .
借用の方法が importation か substitution か,借用の単位が morphology か phonology かによって (1), (2), (3) の区分と,さらなる下位区分が得られることになる.ここで注意したいのは,どの種の借用でも semantics のレベルでは必ず importation が生じていることである.「意味借用」などの術語に惑わされてはならないのは,いずれにせよ,意味は必ず借用されるということである.
Haugen は,さらに細かい下位区分と多くの術語を導入しながら,借用を論題通りに "analysis" してゆく.借用という問題の奥深さが感じられる好論である.
・ Haugen, Einar. "The Analysis of Linguistic Borrowing." Language 26 (1950): 210--31.
言語項目の借用 (borrowing) については,語の借用を中心に様々な話題を扱ってきた.英語史においても,語の借用史は広く関心をもたれるテーマであり,それ自体が大きな主題だ.借用語に関する話題は,時代ごとあるいはソース言語ごとに語を列挙して,形態的・意味的な特徴を具体的に指摘したりすることが多いが,借用という現象について理論的に扱っている研究はあまりない.そこで,借用の理論化を試みている Haugen の論文を紹介したい.
Haugen (210--11) は,borrowing を "Sprachmischung" (= language mixture) あるいは "hybrid" と呼ばれる過程とは区別すべきだと説く.Sprachmischung はカクテルシェーカーで2言語の混合物を作るような過程を想像させるが,実際には2言語使用者であっても同時に2つの言語から自由に言語要素を引き出すということはしない.両者の間でめまぐるしく交替することはあっても,一時に話しているのはどちらか一方である.したがって,Sprachmischung は borrowing と同一視することはできないと同時に,それ自体が普通には観察されない言語現象である.また,"hybrid language" とは,あたかも "pure language" が存在するかのような前提を含意するが,"pure language" なるものは存在しない.
このように,Sprachmischung や hybrid との区別を明確にした上で,Haugen (212) は borrowing を次のように記述し,定義づけた.
(1) We shall assume it as axiomatic that EVERY SPEAKER ATTEMPTS TO REPRODUCE PREVIOUSLY LEARNED LINGUISTIC PATTERNS in an effort to cope with new linguistic situations. (2) AMONG THE NEW PATTERNS WHICH HE MAY LEARN ARE THOSE OF A LANGUAGE DIFFERENT FROM HIS OWN, and these too he may attempt to reproduce. (3) If he reproduces the new linguistic patterns, NOT IN THE CONTEXT OF THE LANGUAGE IN WHICH HE LEARNED THEM, but in the context of another, he may be said to have 'borrowed' them from one language into another. The heart of our definition of borrowing is then THE ATTEMPTED REPRODUCTION IN ONE LANGUAGE OF PATTERNS PREVIOUSLY FOUND IN ANOTHER. . . The term reproduction does not imply that a mechanical imitation has taken place; on the contrary, the nature of the reproduction may differ very widely from the original . . . .
借用の議論においてもう1つ重要な点は,借用は過程であり結果ではないということである.例えば,借用語は借用という歴史的過程の結果として共時的に観察される言語項目である.ある語が借用され,その借用語に基づいて新たな語形成が行なわれ,2次的に新語が作られた場合,この新語は共時的にはあたかも借用語のように見えるが,借用の過程を経たわけではないことに注意したい.借用が過程であるという点については,Haugen (213) も特に注意を喚起している.
Borrowing as here defined is strictly a process and not a state, yet most of the terms used in discussing it are ordinarily descriptive of its results rather than of the process itself. . . . We are here concerned with the fact that the classifications of borrowed patterns implied in such terms as 'loanword', 'hybrid', 'loan translation', or 'semantic loan' are not organically related to the borrowing process itself. They are merely tags which various writers have applied to the observed results of borrowing.
・ Haugen, Einar. "The Analysis of Linguistic Borrowing." Language 26 (1950): 210--31.
[2011-10-01-1]の記事「#887. acronym の分類」に引き続き,上位概念である shortening の分類を紹介したい.Heller and Macris は,厳格な術語群を導入して,shortening の類型の構築を試みた.下の表は,Haller and Macris (207) をほぼ忠実に再現したものである.
1. Type of shortening
A. Acronym (initial): ad
B. Mesonym (medial): Liza
C. Ouronym (tail): Beth
D. Acromesonym (initial + medial): T.V.
E. Acrouronym (initial + tail = blend): brunch
F. Mesouronym (medial + tail): Lizabeth
2. Medium shortened
A. Phonology: ad, Liza, Beth
B. Orthography: Dr.
3. Hierarchy affected
A. Monolectic (one word): ad
B. Polylectic (more than one word, i.e., a phrase): brunch
Haller and Macris は,Baum の acronym の分類に現われる 1st order, 2nd order などの区分は論理的でないとして,上の表の "1. Type of shortening" と "3. Hierarchy affected" の2つの観点を用いて様々な shortening の方法を整理した.1 の基準は,短化する前の元の形態 (etymon) からどの部分を残しているかという基準である.前,中,後とその組み合わせによる6つの論理的なクラスが設けられている.3 では,etymon が1語か,複数語からなる句かを区別する.この2つの基準によって,例えば brunch は "a polylectic acrouronym" であると分類される.
しかし,とりわけ重要なのは,"2. Medium shortened" によって,従来は体系的に扱われてこなかった音韻上の短化と書記上の短化の区別が明示されたことである.両種類の短化は,etymon からの「引き算である」 (subtractive) という点で共通しているが,書記上の短化には特有の「置き換える」 (replacive) タイプがあることを指摘した点は注目に値する (203--04) .例えば,£ は pound の書記上の短化とみなすことができそうだが,前者は後者の書記上のどの部分も反映していないので,置換というほうが適切である.この考え方でゆけば,Xmas (= Christmas) のような例は,"acroreplacive" とでも呼べることになる (204) .
この3つの基準によって,既存の shortening の大多数を記述することができる.この基準では記述できない複雑な例もあるだろうが,基本を押さえていれば応用は難しくない.
・ Heller, L. G. and James Macris. "A Typology of Shortening Devices." American Speech 43 (1968): 201--08.
[2011-09-29-1]の記事「#885. Algeo の新語ソースの分類 (3)」の分類表を眺めていると,いろいろと気づくことが多い.その1つに,ITEM_NO で 21--25, 27, 28 の語に共通して付与されている acronym (頭字語)という語形成の呼称に関する問題がある.
通常,acronym は radar (= radio detection and ranging) のようにそれ自身が1語として発音されるものを指し,アルファベットとして1文字ずつ読まれる FBI の類の initialism (頭文字語)とは区別される.Web3 と CALD3 の定義を見てみよう.
Web3: a word formed from the initial letter or letters of each of the successive parts or major parts of a compound term (as anzac, radar, snafu)
CALD3: an abbreviation consisting of the first letters of each word in the name of something, pronounced as a word
acronym は,上記のように initialism と区別された上で,さらに下位区分される.Algeo の分類表にある "1st order" や "2nd order" というものがそれである.この分類は Baum (49) に拠っているようなので,そちらを参照してみると次のように説明されていた.
・ acronym of the 1st order (or a pure acronym): "formed only from the first letter of each major unit in a phrase" (ex. asdic for Anti-Submarine Detection Investigation Committee)
・ acronym of the 2nd order: "two initial letters of the first unit" (ex. radar for radio detection and ranging, loran for long range navigation)
・ acronym of the 3rd order: "Lewis Carroll's portmanteau word" (ex. motel from motor and hotel)
・ acronym of the 4th order: "a blend formed from the initial syllables of two or more words" (ex. minicam for miniature camera, amtrac for amphibious tractor)
・ acronym of the 5th order: "other coinages [that approach] agglutinative extremes, introducing medial as well as initial and final letters" or "a code designation very much like the truncated blends used in cablegrams" (ex. TRANSPHIBLANT for Transports, Amphibious Force, Atlantic Fleet)
5th order ともなると,acronym と呼んでしかるべきかどうか,おぼつかなくなってくる.the 3rd order の blend ですら,acronym の一種ととらえるのは妥当かどうかおぼつかないが,etyma となる最初の語の頭字を取っている点で,少なくとも半分は acronym 的だったのだなと新たな視点を得られる.
最初,このような acronym の下位区分は分類のための分類ではないかと疑っていたが,acronym, blend, clipping, initialism などの関係を明らかにするのに有益だということがわかった.また,Baum が半世紀も前に早々と指摘していた通り,"Perhaps now that the acronym has been institutionalized, some kind of order will be re-established in discussions of this subject" (50) .
acronym という用語は1943年に初出しており,その年代は acronym による造語力が爆発的に増大し始めた時期(出現した時期ではない)とおよそ一致するに違いない.整理の必要があるほどに acronym が増えてきたということだろう.
・ Baum, S. V. "The Acronym, Pure and Impure." American Speech 37 (1962): 48--50.
現代の言語学で形態素 (morpheme) は基本的な言語単位の1つとして広く認められているが,研究者によってその定義は異なっており,確かな共通の基盤が存在しないことは驚くべきことである.Bolinger が指摘しているように,"it [the morpheme] represents at present a curious survival of the confusion of contemporary and historical analysis" (18) .この問題については, [2010-11-02-1]の記事「cranberry morpheme」や[2011-03-28-1]の記事「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」でも触れた.
最も早くからは Bloomfield の定義が知られている."a linguistic form which bears no partial phonetic-semantic resemblance to any other form" (Section 10.2) .しかし,おそらく最も広く受け入れられている定義は,Hockett や Nida による "the smallest meaningful element" とするものだろう.
形態素の同定の悩みは,典型的に,接辞と語幹の区別に関する問題に現われる.例えば,disease は語源知識を頼りにすると dis- + ease と形態素分析されるかもしれない.原義は「安らかにあらず」で,「病気」との意味的距離は近い.語源を教えられればこの形態素分析は正当化されるように思われるが,「語源を教えられれば」という条件を,本来,共時的であるはずの形態素分析に加えてよいものだろうか,という問題が持ち上がる(関連して[2011-09-10-1]の記事「#866. 話者の意識に通時的な次元はあるか?」を参照).大多数の英語話者にとって disease はより小さい単位へと分析される必要の感じられない1つの形態単位かつ意味単位であり,平均的話者の共時的な言語感覚を記述することが形態理論の目指すところであるとするのであれば,この語は1形態素から成ると結論せざるを得ないだろう.
一方で,dishonesty や disinterest については,dis- が否定の接頭辞であり,語幹から区別し得るという感覚は,少なくとも disease に比べれば強いかもしれない.この場合には,dis- は形態素として切り出すことができるということになるだろうか.
同じような問題は,無数の例に観察される.motorcycle は2形態素から成ると認識されるだろうが,bicycle はどうか( cycle 部分の母音の違いにも注意).recall, reclaim, return には,re- の接頭辞としてのおよそ一様な意味「再び;戻って」を感じることができるかもしれないが,語源的に同一の接頭辞をもつ repertory, religion, recipe には,それはおそらく感じられないだろう.話者の語源的な知識や語に対する感覚によって,この辺りの判断は揺れるのだろうが,いずれにしても共時的な re- と通時的な re- とを区別する必要はあるのではないだろうか.しかし,通常,両方の re- は一緒くたに扱われ,形態素に共時的次元と通時的次元が奇妙に混在する結果となっている.そして,この種の取り扱いの難しい「形態素ぽいもの」を指すのに,連結形 (combining form) という別の術語が用意されることにもなっている ([2010-10-31-1]) .
Bolinger は,共時的な次元での形態素を "formative" ,通時的な次元での形態素を "component" と呼び分けて,従来の混乱を避けるべきだとしている(なお,cran- のような cranberry morpheme は,"residue" としてさらに区別すべきとしている).無論,両者の区別の曖昧性は,術語の問題である以前に,本質的な問題であることは上に述べた通りではある.しかし,少なくとも術語の区別をつけておけば,常に共時態と通時態の問題に注意を喚起してくれるものとして役に立つだろう.
この区別を考慮すると,例えば once の語末の ce は,共時的には何の意味もなさないので formative とは呼べないが,通時的にはかつての属格語尾を体現しており component とは呼べることになる(once や twice の語形成については ##81,84 の記事を参照).
結論としては,Bolinger にとって,共時的な意味での morpheme (= formative) の基準は,"Potentiality for new combination" (21) にあるということのようだ.少なくとも意味に依拠しない分,扱いやすいのかもしれないが,potentiality をいかに測るかという別の問題はあるだろう.
・ Bolinger, Dwight L. "On Defining the Morpheme." Word 4 (1948): 18--23.
・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.
昨日と一昨日の記事 (##883,884) で取りあげてきた,Algeo による word-making の詳細分類の続編.Algeo の論文の補遺 (129--31) には,彼が9個の基準 (CR1--CR9) により設けた37クラス (CLASS) と,各クラスおよびその下位クラスを代表する63語 (NEW_ITEM) が表の形で示されている.今日は,その表に MAJOR_CLASS なる大分類 (root creation, conversion, clipping, composite, blending, borrowing) の情報を加えたものを掲載する.word-making の分類の際のお供に.
9個の基準分類については,改めて以下に要約しておく.
CR1: Does the new item have an etymon?
CR2: Does the new item have a borrowed etymon?
CR3: Does the new item combine two or more etyma?
CR4: Does the new item shorten an etymon?
CR5: Does the new item have an etymon that lacks a formal exponent in the item?
CR6: Does the new item have a phonological motivation?
CR7: Do the etyma include more than one base? (More precisely: If there is only one etymon, does it consist of more than one base; or if there are several etyma, do at least two contain bases?)
CR8: Does the new item derive from written rather than spoken etyma?
CR9: Does the new item add new morphs to the language?
ITEM NO. | NEW_ITEM | CR1 | CR2 | CR3 | CR4 | CR5 | CR6 | CR7 | CR8 | CR9 | ETYMA | TRADITIONAL_CLASS | CLASS | MAJOR_CLASS |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | googol | - | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 0 | 0 | + | --- | arbitrary coinage | 1 | root creation |
2 | miaow | - | 0 | 0 | 0 | 0 | + | 0 | 0 | + | --- | onomatopoeia | 2 | root creation |
3 | fun (adj) | + | - | - | - | - | - | - | - | - | fun (n) | functional shift | 3 | conversion |
4 | watt | + | - | - | - | - | - | - | - | - | (James) Watt | commonization | 3 | conversion |
5 | grudge | + | - | - | - | - | + | - | - | + | grutch | analogical reformation | 4 | conversion |
6 | splosh | + | - | - | - | - | + | - | - | + | splash | analogical reformation | 4 | conversion |
7 | cónstrùct | + | - | - | - | - | + | - | - | + | constrúct | analogical reformation | 4 | conversion |
8 | mho | + | - | - | - | - | + | - | + | + | ohm | reverse form | 5 | conversion |
9 | bassackwards | + | - | - | - | - | + | + | - | + | assbackwards | spoonerism | 6 | conversion |
10 | cab | + | - | - | + | - | - | - | - | + | cabriolet | back clipping (stump word) | 7 | clipping |
11 | 'fessor | + | - | - | + | - | - | - | - | + | professor | aphaeresis | 7 | clipping |
12 | curtsy | + | - | - | + | - | - | - | - | + | courtesy | syncope | 7 | clipping |
13 | flu | + | - | - | + | - | - | - | - | + | influenza | front & back clipping | 7 | clipping |
14 | H | + | - | - | + | - | - | - | + | + | horse, heroin | initialism | 8 | clipping |
15 | prof | + | - | - | + | - | - | - | + | + | professor | front clipping | 8 | clipping |
16 | Dr. | + | - | - | + | - | - | - | + | - | Doctor | abbreviation | 9 | clipping |
17 | jet | + | - | - | + | - | - | + | - | - | jet-propelled airplane | clipped compound | 10 | clipping |
18 | show biz | + | - | - | + | - | - | + | - | + | show business | clipped compound | 11 | clipping |
19 | sitch com | + | - | - | + | - | - | + | - | + | situation comedy | clipped compound | 11 | clipping |
20 | CO | + | - | - | + | - | - | + | + | + | commanding officer | initialism | 12 | clipping |
21 | scuba | + | - | - | + | - | - | + | + | + | self contained underwater breathing apparatus | acronym, 1st order | 12 | clipping |
22 | radar | + | - | - | + | - | - | + | + | + | radio detecting and ranging | acronym, 2nd order | 12 | clipping |
23 | Inbex | + | - | - | + | - | - | + | + | + | Industrialized Building Exposition | acronym, 2nd order | 12 | clipping |
24 | Nabisco | + | - | - | + | - | - | + | + | + | National Biscuit Company | acronym, 2nd order | 12 | clipping |
25 | bit | + | - | - | + | - | - | + | + | + | binary digit | blend (acronym, 3rd order; acrouronym) | 12 | clipping |
26 | Amerindian | + | - | - | + | - | - | + | + | + | American Indian | blend | 12 | clipping |
27 | bus ad | + | - | - | + | - | - | + | + | + | business administration | clipped compound (acronym, 4th order) | 12 | clipping |
28 | sit com | + | - | - | + | - | - | + | + | + | situation comedy | clipped compound (acronym, 4th order) | 12 | clipping |
29 | vroom | + | - | - | + | - | + | - | - | + | boom | onomatopoeia & phonestheme | 13 | clipping |
30 | morphonemics | + | - | - | + | - | + | + | - | + | morphophonemics | haplology | 14 | clipping |
31 | riddle | + | - | - | + | + | + | - | - | + | riddles & -s | back formation | 15 | clipping |
32 | burger | + | - | - | + | + | + | + | - | + | hamburger & ham | back formation | 16 | clipping |
33 | slowly | + | - | + | - | - | - | - | - | - | slow & -ly | suffixation | 17 | composite |
34 | unloose | + | - | + | - | - | - | - | - | - | un- & loose | prefixation | 17 | composite |
35 | funhouse | + | - | + | - | - | - | + | - | - | fun & house | compound | 18 | composite |
36 | abso-damn-lutely | + | - | + | - | - | - | + | - | - | absolutely & damn | sandwich term | 18 | composite |
37 | dice | + | - | + | - | - | + | - | - | + | die & -s | metanalysis | 19 | composite |
38 | ofay | + | - | + | - | - | + | - | - | + | foe & ay | Pig Latin | 19 | composite |
39 | hotshot | + | - | + | - | - | + | + | - | - | hot & shot | rime compound | 20 | composite |
40 | tiptop | + | - | + | - | - | + | + | - | - | tip & top | ablaut compound | 20 | composite |
41 | funny farm | + | - | + | - | - | + | + | - | - | funny & farm | alliterative compound | 20 | composite |
42 | bye bye | + | - | + | - | - | + | + | - | - | bye & bye | reduplication | 20 | composite |
43 | goodschmood | + | - | + | - | - | + | + | - | + | good & schm- & good | reduplication with onset substitution | 21 | composite |
44 | trouble and strife ("wife") | + | - | + | - | + | + | + | - | - | trouble & and & strife & wife | riming slang | 22 | composite |
45 | buxom ("busty") | + | - | + | - | + | + | + | - | - | buxom & bosom | clang association | 22 | composite |
46 | hanky | + | - | + | + | - | - | - | - | + | handkerchief & -y | clipping & suffix | 23 | blending |
47 | happenstance | + | - | + | + | - | - | + | - | - | happening & circumstance | blend | 24 | blending |
48 | smog | + | - | + | + | - | - | + | - | + | smoke & fog | blend | 25 | blending |
49 | scrunch | + | - | + | + | - | - | + | - | + | scram/screw/scrimp & bunch/crunch/hunch | phonesthemes | 25 | blending |
50 | bridegroom | + | - | + | + | - | + | + | - | - | bridegoom & groom | folk etymology | 26 | blending |
51 | guesstimate | + | - | + | + | - | + | + | - | + | guess & estimate | blend | 27 | blending |
52 | meld | + | - | + | + | - | + | + | - | + | melt & weld | blend | 27 | blending |
53 | prepocerous | + | - | + | + | - | + | + | - | + | preposterous & rhinoceros | forced rime | 27 | blending |
54 | sayonada | + | + | - | - | - | - | - | - | + | sayonara | popular adoption | 28 | borrowing |
55 | sayonara | + | + | - | - | - | - | - | + | + | sayonara | learned adoption | 29 | borrowing |
56 | disc | + | + | - | + | - | - | - | + | + | discus | adaptation | 30 | borrowing |
57 | foot ("metrical unit") | + | + | + | - | + | - | - | - | - | foot & pēs | calque | 31 | borrowing |
58 | superman | + | + | + | - | + | - | + | - | - | super & man & &Uum;bermensch | loan translation | 32 | borrowing |
59 | foe paw | + | + | + | - | + | + | + | - | - | foe & paw & faux pas | folk etymology | 33 | borrowing |
60 | fox pass | + | + | + | - | + | + | + | + | - | fox & pass & faux pas | folk etymology | 34 | borrowing |
61 | coffee klatch | + | + | + | + | - | - | + | - | + | coffee & Kaffee Klatsch | loanblend | 35 | borrowing |
62 | chaise lounge | + | + | + | + | - | + | + | + | + | chaise longue & lounge | loanblend & folk etymology | 36 | borrowing |
63 | tamale | + | + | + | + | + | + | - | - | + | tamal-es & -s | metanalysis | 37 | borrowing |
昨日の記事「#883. Algeo の新語ソースの分類 (1)」 ([2011-09-27-1]) の続編.Algeo による word-making の9個の基準は,以下の問いで表わされる.
(1) Does the new item have an etymon?
既存の語から作られているかどうか.ほとんどの新語について答えは Yes だが,そうでない稀なケースでは語根創成 (root creation) が行なわれていると考えられる.例えば,10の100乗の数を表わす googol は,子供による語根創成とされる.
(2) Does the new item have a borrowed etymon?
この基準は,(1) が Yes の場合に,その既存の語が自言語(化された)のものであるか,他言語から借用されたものであるか (borrowing) を区別する.例えば,influenza は借用語だが,flu は influenza が自言語化した後にそれに基づいて作られた語と考えられるので,この基準の問いの答えは No となる.
(3) Does the new item combine two or more etyma?
(4) Does the new item shorten an etymon?
この2つの基準を掛け合わせると,以下の4種類の区別が得られる.
1 etymon | 2+ etyma | |
---|---|---|
unshortened | fun (conversion) | funhouse (composite) |
shortened | cab (clipping) | smog (blending) |
本ブログの各所で register (言語使用域)という用語を使ってきた.これは便利ではあるが,実際には複雑な概念である.以下,『新英語学辞典』の "register" の項目を参照して執筆する.
register は言語の変種の1タイプである.地域方言や階級方言などの言語変種は,原則として話者に備わっているもので,話者が意図的に使い分けることをしない恒久的なタイプの変種 (user variety) であるのに対して,register は話者が場面によって使い分ける一時的なタイプの変種 (use variety) である.[2009-12-10-1]の記事「英語変種のモデル」の variety classes に対応させれば,(1), (2) は user variety ,(3), (4), (5) は use variety (register) といえるだろう.register はあくまで一時的な変種ではあるが,言語の変異性を考える上で,重要な概念である.
Halliday の言語学 (Hallidayan linguistics) によれば,register は以下のように下位区分される.
(1) field of discourse (談話の場).場には,大きく分けて言語の認知使用 (cognitive use) にかかわるものと,交感的使用 (phatic use) にかかわるものがある.後者は話し手と聞き手の心理的なつながりを構築するための言語使用で,儀礼的常套句や挨拶がその典型例である ( phatic function については[2010-10-02-1]の記事「言語の機能と言語の変化」を参照).場が言語使用に影響を与えるのは,主に内容語や各種の文法項目である.日常的口語,公式なアナウンス,講義,怪談の語り,科学論文,法律文書,小説,電子メールなどでは,それぞれに特有の表現や文法項目がある.ジャンルや主題といった概念に近い.
(2) mode of discourse (談話の媒体).大きく話しことば(音声言語)と書きことば(文字言語)に分かれる.両者は言語使用においてしばしば対置されるが,実際には両者の関係は入り組んでいる.この問題については,[2011-05-15-1]の記事「話し言葉と書き言葉」や[2009-12-13-1]の記事「話しことばと書きことばの対立は絶対的か?」を参照.
(3) style (tenor) of discourse (談話のスタイル).話し手と聞き手の関係に応じた形式張りの度合いに対応し,形式度の高いものから順に frozen, formal, consultative (unmarked), casual, intimate などと,明確には区分できない連続体を形成する.
register は一応このように分解して考えることができるが,3つの下位区分はいずれも連続体であり,その相互関係も依存している面と独立している面があり,複雑である.register は1970年代以降に広まった用語と概念であり,主題としては比較的新しい.学者間で関連する術語に差異が見られるなどの問題があるのも歴史の浅さゆえだろう.
・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.
昨日の記事「機能主義的な言語変化観への批判」([2011-08-10-1]) で触れた,機能負担量 (functional load or functional yield) について.機能負担量とはある音韻特徴がもつ弁別機能の高さのことで,多くの弁別に役立っているほど機能負担量が高いとみなされる.
例えば,英語では音素 /p/ と /b/ の対立は,非常に多くの語の弁別に用いられる.別の言い方をすれば,多くの最小対 (minimal pair) を産する (ex. pay--bay, rip--rib ) .したがって,/p/ と /b/ の対立の機能負担量は大きい.しかし,/ʃ/ と /ʒ/ の対立は,mesher--measure などの最小対を生み出してはいるが,それほど多くの語の弁別には役立っていない.同様に,/θ/ と /ð/ の対立も,thigh--thy などの最小対を説明するが,機能負担量は小さいと考えられる.
機能負担量という概念は,上記のような個別音素の対立ばかりではなく,より抽象的な弁別特徴の有無の対立についても考えることができる.例えば,英語において声の有無 (voicing) という対立は,すべての破裂音と /h/ 以外の摩擦音について見られる対立であり,頻繁に使い回されているので,その機能負担量は大きい.
では,機能負担量と言語変化がどのように結び着くというのだろうか.機能主義的な考え方によると,多くの語の弁別に貢献している声の有無のような機能負担量の大きい対立が,もし解消されてしまうとすると,体系に及ぼす影響が大きい.したがって,機能負担量の大きい対立は変化しにくい,という議論が成り立つ.反対に,機能負担量の小さい対立は,他の要因によって変化を迫られれば,それほどの抵抗を示さない.この論でゆくと,/θ/ と /ð/ の対立は,機能負担量が小さいため,ややもすれば失われないとも限らない不安定な対立ではあるが,一方でより抽象的な次元で声の有無という盤石な,機能負担量の大きい対立によって支えられているために,それほど容易には解消されないということになろうか.機能主義論者の主張する,言語体系に内在するとされる「対称性 (symmetry) の指向」とも密接に関わることが分かるだろう.
体系的な対立を守るために,あるいは対立の解消を避けるために変化が抑制されるという「予防」の考え方は,すぐれて機能主義的な視点である.しかし,話者(集団)は体系の崩壊を避ける「予防」についてどのように意識しうるのか.話者(集団)は日常の言語行動で無意識に「予防」行為を行なっていると考えるべきなのか.これは,[2011-03-13-1]の記事「なぜ言語変化には drift があるのか (1)」で見たものと同類の議論である.
・ Schendl, Herbert. Historical Linguistics. Oxford: OUP, 2001.
[2011-08-02-1]の記事「she の語源説」の (3) で,"sandhi-theory" に言及した.sandhi (サンディー)とはサンスクリット語 (Sanskrit) に由来する文法用語で,我が国では連声(れんじょう)と訳されることもある.原語では,「(彼は)まとめる,つなげる」を表わす saṃ-dadhāti の名詞形で「連結」を意味する.ある語の語末と後続する語の語頭のあいだに見られる音便 (euphony) を指し,その現われは言語によって様々だが,多くは母音や子音の同化 (assimilation) を含む.
Sanskrit には sandhi が音韻形態規則として深く埋め込まれており,その音形が文字にも反映されるので非常に重要な音韻過程である.語と語のあいだ,あるいは複合語の構成要素のあいだに見られる連声は外連声 (external sandhi) と呼ばれ,語中の語幹と派生接辞・屈折接辞のあいだに見られる連声は内連声 (internal sandhi) と呼ばれる.
英語に見られる(外)連声の例としては以下のようなものがある.
・ did you が [did juː] ではなく [diʤuː] となる子音の同化.
・ far 単独では [fɑː] のように non-rhotic だが,far away では [ˈfɑːrəˈweɪ] のように rhotic になる linking r の現象.
・ 不定冠詞 a が母音(ときに無強勢の h )で始まる語の前に置かれる場合に an となる現象 (see [2010-07-30-1], [2010-08-01-1]) .上記の2例と異なり,sandhi の有無を示す異形態が正書法上も区別されている点で,英語では珍しい例である.
「連声」の概念は,「音便」という術語において日本語にも応用されており,アンオン(安穏)がアンノンに,オンヨウジ(陰陽師)がオンミョウジに,セツイン(雪隠)がセッチン,サンイ(三位)がサンミになるように,ン,チ,ツ音にア行・ワ行・ヤ行音が後続する環境で主として漢語の内部に生じる例が多数ある.12世紀を中心とする院政期までには特に仏典の読誦で頻発していたようだが,あくまで中世の現象であり,現在までに生産性を失って語彙的に固定化している.
フランス語の vous aimez [vuzeme] や est-il [ɛtil] などに見られるリエゾン (liaison) も sandhi の一種だが,英語や日本語のそれよりも体系的である.
・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.
楽音と同様に,言語音にも快音と不快音がある.euphony 「快音調」と cacophony 「不快音調」の区別は,単音についても言えるし,音連続についても言える.一般には (1) 調音位置の非常に異なる音が連続する,(2) 子音群が連続する,(3) 同一音が近接して連続する,などの場合に cacophonous とみなされることが多いが,快不快はあくまで主観的な基準であり,言語や文化によってとらえ方は異なる.英語においては,柔らかい,流れるような,融合的な音が euphonious とみなされることが多く,具体的には長母音,半母音 /j, w/ ,鼻音や流音 /l, m, n, r/ が快音調の代表である.
聴いて快適であるのと発音しやすいのとは別のことではあるが,関連はしている.特に後者は英語の形態論や統語論に少なからぬ影響を与えている.潜在的な異形が存在する場合に,cacophony を回避し euphony を得るという目的で,ある形態が選択されているように見える例がある.*a apple ではなく an apple, *Amn't I ではなく Aren't I, *tobaccoist ではなく tobacconist ( n の挿入については[2011-07-03-1]の記事「nightingale」を参照), *for conscience's sake ではなく for conscience' sake, *inpossible ではなく impossible などである.最後の例のような同化 (assimilation) も euphony の一種といえるだろう.
このように,euphony が異形の選択に影響力をもっているように見える例はいくつもあるが,決定的な力をもっているかと言えばそうではないだろう.その言語の音素配列,語法の慣習,類推作用などがより強い影響力を有していることが多く,euphony は,[2011-04-09-1]の記事「独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞 (2)」で触れた eurhythmy と同様に,常に効いてはいるが相対的に弱い力として考えられる.
では,cacophony は常に嫌われ者かといえば,R. Browning や Hopkins のような詩人にとってはむしろ武器であった.彼らは cacophony を積極的に利用することで,新鮮な音連続を作り出し,詩的効果を狙ったのである.
の記事で,willy-nilly の語形成を説明するのに,前接的(語) (enclitic) と後接的(語) (proclitic) という術語を導入した.今回は,これについてもう少し解説する.
接語 (clitic) とは,本来は語(自由形態素)だが,隣接する語に依存して強勢を失い,しばしば音の脱落を伴う,語と接辞の中間的な形式を指す.もとはギリシア語文法の用語だが,他言語の比較される形態を指し示すのにも用いられる.前接語は直前の語に寄生する種類の接語であり,以下のように現代英語の口語表現では頻繁にみられる.
I'm, you're, it's, she'll, we've, they'd, don't, wanna, He is a tough'un., That's more'n I know.
上記のように,人称代名詞の関わる例が多く,名詞に前接語が付加される例は少ない.ただし,My mother's late. や Peter'd been there. などの例がみられる.
一方,後接語は直後の語に寄生する種類の接語で,現代英語の例は比較的少ないが,以下のような表現にみられる.
How d'ye do? ([2011-06-17-1]), 'Tis fine today., Go an' see it.
最初の2例がやや古風な表現であることから推測されるかもしれないが,歴史的には後接の過程は少なくなかった.例えば,歴史的過程の結果としての前接語には,o'clock ( < "of the clock" ), alive ( < "on live" ), そして willy-nilly の記事 で紹介した nill や nam などがある.
[2011-04-21-1]の記事「thumb の綴りと発音 (2) 」で,thumb の <b> がかつて発音された可能性があることを話題にした.<b> の綴字を示す初期中英語期の最も早い記録として,地名 Thomley を表わす Tvmbeleia が文証されているが,ここで <b> が挿入されていることを説明するのにわたり音 (glide) という用語を導入した.わたり(音)とは「音声器官がある音の調音から他の音の調音へと移行する際に必然的にとる運動,およびそれによって生じる音をいう」(『新英語学辞典』, p. 496 ).
/m/ に /l/ が続く環境では,/m/ の出わたり (off-glide) と /l/ の入りわたり (on-glide) に生理的必然として有声両唇破裂音の /b/ が発せられる.Tvmbeleia の場合には,<e> の母音が間に介在しているが,弱音節における曖昧母音なので,調音の効果としては無音に等しいと考えられる.重要な類例として,thimble 「指ぬき」がある.この語は,古英語では þȳmel ( þūma "thumb" + -el "small" ) という形態だったが,15世紀にわたり音の /b/ が挿入されて現在の形態をとるようになった.このような例は,bramble, mumble, nimble, shamble など少なくなく,/r/ の直前でも number などの例がある.þūma 単独では,/b/ がわたり音として挿入される可能性はないが,Tvmbeleia などの例が単独形に影響を与えたと考えることはできそうだ.
わたり音による音の挿入は,音の添加 (addition) のメカニズムの1つである.音が挿入される位置という観点から添加を区分すると,3種類に分けられる.
(1) 語頭音添加 (prosthesis) :英語史からの例は多くないが,OE cwȳsann > ME queisen > ModE squeeze における /s/ の添加がある.フランス借用語では非語源的な語頭の e の例が多く見られる (ex. especial, escalade ) .
(2) 語中音添加 (epenthesis) :典型例は,上記の thimble その他における /b/ の挿入である.OE ǣmettig > ME empty などもある.
(3) 語尾音添加 (paragoge) :語末の /n/ や /s/ の後に /t/ や /d/ が挿入される例が多い.[2010-09-17-1]の記事「Dracula に現れる whilst」で触れたような against, amidst, amongst, betwixt, whilst や,その他 ancient, tyrant, parchment, sound などの例がある.
ついでに関連用語を導入すると,添加された音は,余剰的 (excrescent) ,寄生的 (parasitic) ,あるいは非有機的 (inorganic) といわれる.また,添加の反対は脱落 (elision) である.
・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.
semantic prosody は,コーパス言語学の進展により20余年前にその現象が気付かれたばかりの比較的新しい研究である.現代英語について共時的な観点からしても研究が進んでいないのだから,通時的な側面の研究はいまだ皆無といってよさそうだ.[2011-03-12-1], [2011-03-03-1]の記事で軽く言及したように,通時的なディメンションはあるはずで,意味変化の研究と関連して,今後おもしろい分野になってくるかもしれないと考えている.
これまで数点の関連論文に目を通したが,通時的な言及はほとんどない.唯一,[2011-03-03-1]で関連文献として挙げた Louw が,semantic prosody と irony の関係を論じながら,通時的な関連に言及している.
Prosodies, therefore, are reflections of either pejorative or ameliorative changes that have run their course sufficiently to allow irony to be instantiable against them through the deliberate creation of an exception to the trend. (169)
ある表現が irony と認められるためには,元の表現が一定の semantic prosody をもっており,聞き手もそれを知っていることが前提となる.皮肉を発する話し手は,その表現とは通常共起しない表現を意図的に組み合わせることによって,聞き手の予想を裏切ることを目指す.皮肉を通じさせるためには,是非とも聞き手が問題の semantic prosody を(無意識であれ)知っている必要がある.その知識は,他の一般的な言語能力 (linguistic competence) と同様に,個人が明示的にアクセスすることができない種類の知識だが,個人が言語習得の過程で獲得するものには違いない.では,獲得に際してのインプットは何かというと,コーパスから引き出されると初めて可視化される類の共起表現とその頻度だろう.その共起表現と頻度は,その言語共同体で歴史的に育まれてきたものの現在の現われである.semantic prosody の通時的なディメンションは確かに存在する.
ある semantic prosody が歴史のどの段階で生じたかを知ることは,なかなかに難しい.semantic prosody には負の含蓄の例が多いことから,問いの多くは「ある語句が軽蔑的な (derogatory) 含蓄を帯び始めたのはいつか」というようなものになるだろう.文脈を丹念に調べて,1例ずつ derogatory か否かを判定してゆくという地道で困難な作業が必要となるだろうが,それ以前にどの表現が semantic prosody の候補になりうるかという問題を解決しなければならない.なぜならば,semantic prosody はその性質からして話者の内省や直感ではアクセスできないものだからである ([2011-03-20-1]) .この点に関して,Louw の警鐘は痛烈だ.
A common problem is what might be called 'twenty-twenty hindsight': the tendency to claim that one 'felt' the presence of a form which was inaccessible to one's intuition until it was revealed through research. The only cure for twenty-twenty hindsight lies in constant exposure, of the most humbling kind, to real examples. (173)
内省でアクセスできない問題を研究テーマとするというのは,方法論上の矛盾である.通時的側面を論じる以前に,現代英語の共時的側面ですら semantic prosody はいまだよく理解されていないのである.
semantic prosody とは何かという定義の問題については,[2011-03-02-1]で1つの定義を紹介したが,捉えにくい概念なので客観的な記述は難しい.むしろ直感に訴えかける説明だと妙によく理解できるのである.例えば,Louw の次の定義などは,もっともよく直感にフィットするのである.
[a] consistent aura of meaning with which a form is imbued by its collocates (157)
・ Louw, Bill. "Irony in the Text or Insincerity in the Writer? The Diagnostic Potential of Semantic Prosodies." Text and Technology: In Honour of John Sinclair. Ed. M. Baker, G. Francis, and E. Tognini-Bonelli. Amsterdam: John Benjamins, 1993. 157--76.
形態論では,「語」 ( word ) 以下の形態的単位に様々な用語が与えられている.このブログでも語源の形態などを多く扱っているので,一度よく使う用語をまとめておきたい.以下,主に大石 (pp. 7, 11--12) を引用・参照する.
「語」 ( word ) .語とは何かという問題は形態論の古典的難問であり,いまだに解決していない.以下の用語の定義はすべて「語」の定義に依存しているので,これは本質的な問題なのだが,今回は次の緩やかな定義で済ませておきたい.「語とは文中のいろいろな場所に生じることができる自由形で,他の自由形によっては中断不可能な (uninterruptable) 単位」である.
「形態素」 ( morpheme ) .文法形式の最小単位.しばしば「有意味な」最小単位と定義されるが,必ずしも有意味でない場合もある ([2010-11-02-1]) .語として独立して用いられる形態素は「自由形態素」 ( free morpheme ) ,語として独立して用いられない形態素は「拘束形態素」 ( bound morpheme ) と呼ばれる.
「接辞」 ( affix ) .「語から自由形を除いた拘束形として認定できる」単位.機能の観点から「屈折接辞」 ( inflectional affix ) と「派生接辞」 ( derivational affix ) が区別され,位置の観点から「接頭辞」 ( prefix ) と「接尾辞」 ( suffix ) が区別される.
「語根」 ( root ) .「語からすべての屈折形態素 ( inflectional morpheme ) と派生形態素 ( derivational morpheme ) を取り除いたあとに残る要素」.singers では sing が語根となる.複合語では各自由形態素が語根とされ,例えば wheelchair は wheel と chair がそれぞれ語根となる.しかし,拘束形態素でありながら語根とみなされる「連結形」 ( combining form ) という要素もある ([2010-10-31-1]) .
「語幹」 ( stem ) .「語から屈折接辞を取り除いたあとに残る要素」.singers では singer が,wheelchair では wheelchair が語幹となる.
「複合語」 ( compound ) .2つ以上の語根からなる語.
「基体」 ( base ) .「どのような接辞であれ,接辞付加を受ける形式」.語根や語幹とは異なる相対的な単位.基体 sing に派生接辞 -er が付加すると singer となり,新しい基体 singer に屈折接辞 -s が付加すると singers となる,など.
上の定義には互いに依存する循環的なものもあるし,漏れもある.形態論は形と意味の接点であり簡単にはいかないが,とりあえずの定義ということで.
・ 大石 強 『形態論』 開拓社,1988年.
・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.
semantic prosody は,近年のコーパス言語学の興隆によって生み出された概念であり,研究課題としても注目されるようになってきた.同じくコーパス言語学によって注目を集めるようになった collocation とも深く関連している.Louw (57) によれば,semantic prosody の定義は "a form of meaning which is established through the proximity of a consistent series of collocates" である.もう少し分かりやすい定義として Crystal からも引用しよう.
A term sometimes used in corpus-based lexicology to describe a word which typically co-occurs with other words that belong to a particular semantic set. For example, utterly co-occurs regularly with words of negative evaluation (e.g. utterly appalling). (428)
例として utterly appalling が挙げられているように,utterly という強意の副詞は常に,否定的な性質を表わす語を強調する.他に,happen や set in という(句)動詞も不快な出来事を表わす名詞と共起することが多い.semantic prosody とは,共起によって強く顕現するこのような「意味上の音色」のことを指し,その主たる機能は話者の態度や評価を表わすことである.多くは否定的な評価に関するものであり,肯定的な評価の例は少ない(後者の例としては,否定的な強意副詞 utterly に対して肯定的な強意副詞 perfectly が挙げられよう).semantic prosody が collocation と強く結びつていることは,McEnery et al. (83) の挙げている personal price の例から明らかである.personal も price も単独ではその評価は中立的だが,共起すると通常否定的な意味上の音色を伴う.
特定の共起によって特定の semantic prosody が生じ,それが十分に定着してくると,その共起を故意に逸脱させることによって皮肉,偽善,ユーモアなどの特殊な効果を表わすことができるようにもなる.例えば,Cobuild written corpus に次のような例文がある.
Their relationship in fact was so complete that they were utterly content in each other's company.
semantic prosody に関して避けることのできない議論は,語と語の共起によってなぜ特定の音色(主に否定的な音色)が顕現するのか,あるいは歴史的に獲得されてきたのか,という問題である.utterly はなぜ否定的な音色を帯びるのか.この問いに対して,否定的な語と共起することが多かったから utterly 自体も否定の音色を帯びるようになったという答えがあるかもしれない.しかし,そもそも否定的な語と共起することが多かったのはなぜなのか.それは utterly 自体が本来的に否定的な音色を帯びていたからではないか.まさに鶏が先か卵が先かの問題に陥ってしまう.このような場合の常として,(1) 本来的に否定的な性質と (2) 特定の否定的な語との頻繁な共起,という2つの要因が相互に作用した結果だろうという説明がもっとも穏健かもしれない.しかし,比較的最近,接尾辞 -ish の否定的な含意の獲得について歴史的な研究を行なった私にとっては,この問題は悩ましい問題である.McEnery et al. (84) もこの問題に触れている.
It might be argued that the negative (or less frequently positive) prosody that belongs to an item is the result of the interplay between the item and its typical collocates. On the one hand, the item does not appear to have an affective meaning until it is in the context of its typical collocates. On the other hand, if a word has typical collocates with an affective meaning, it may take on that affective meaning even when used with atypical collocates. As the Chinese saying goes, 'he who stays near vermilion gets stained red, and he who stays near ink gets stained black' --- one takes on the colour of one's company --- the consequence of a word frequently keeping 'bad company' is that the use of the word alone may become enough to indicate something unfavourable . . . .
・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.
・ Louw, B. 2000. "Contextual Prosodic Theory: Bringing Semantic Prosodies to Life." Words in Context: A Tribute to John Sinclair on his Retirement. Eds. C. Heffer, H. Sauntson and G. Fox. Birmingham: U of Birmingham, 2000.
・ McEnery, Tony, Richard Xiao, and Yukio Tono. Corpus-Based Language Studies: An Advanced Resource Book. London: Routledge, 2006.
blend 「混成語」は blending 「混成」という語形成によって作られる語である.最も有名な混成語の1つは brunch だろう.breakfast + lunch をつづめたもので,2語を1語に圧縮したものである.複数のものを1つの入れ物に詰め込むイメージで,かばん語 ( portmanteau word ) と呼ばれることも多い( portmanteau は OADL8 によると "consisting of a number of different items that are combined into a single thing" ).
portmanteau word という表現は,Lewis Carroll 著 Through the Looking-Glass (1872) の6章で Alice と Humpty Dumpty が交わしている会話から生まれた表現である.Alice は,鏡の国の不思議な詩 "JABBERWOCKY" の最初の1節を Humpty Dumpty に示した.
'Twas brillig, and the slithy toves
Did gyre and gimble in the wabe:
All mimsy were the borogoves,
And the mome raths outgrabe.
これに対して Humpty Dumpty が一語一語解説してゆくのだが,1行目の slithy について次のように述べている.
'Well, "slithy" means "lithe and slimy." "Lithe" is the same as "active." You see it's like a portmanteau --- there are two meanings packed up into one word.'
同様に3行目の mimsy についても,"flimsy and miserable" の portmanteau word として説明を加えている.
より術語らしい響きをもつ blending という呼称については,OED によると初例は Henry Sweet 著 "New English Grammar" (1892) に見いだされる.
Grammatical and logical anomalies often arise through the blending of two different constructions.
通常 blending とは2語を基にした意識的な造語過程を指すが,2語の意味の同時想起によって生じる無意識の混乱に基づいた needcessity ( need + necessity ) のような例も含みうる.ただし,後者は contamination 「混同」として区別されることもある.
blending は語形成の一種として広く知られているためにその陰であまり知られていないが,文法的な「混成」の現象もある."Why did you do that?" と "What did you do that for?" が混成して "Why did you do that for?" なる表現が表出したり,"different from" と "other than" から新しく "different than" が生じたりする例である.日本語の「火蓋を切る」と「幕を切って落とす」が混成して「火蓋を切って落とす」となるのも同様の例である.
授業で Chaucer の "The Physician's Tale" を読んでいて,ll. 187--88 で現代英語にも見られる譲歩表現に出会った(引用は The Riverside Chaucer より).
She nys his doghter nat, what so he seye.
Wherfore to yow, my lord the juge, I preye,
悪徳裁判官 Apius に乗せられた町の悪漢 Claudius が,騎士 Virginius からその娘 Virginia を奪い取るために法廷ででっち上げの訴えを起こしている箇所である.「Virginius が何と言おうと,Virginia は奴の娘ではない」という行である.what so he seye は現代英語でいう whatsoever he may say に相当し,譲歩を表わす副詞節である.譲歩の文なので,Chaucer では seye と接続法の活用形 ( subjunctive form ) が用いられている.
ここで現代英語の what(so)ever についても言及したところ,現代英文法ではなぜこれを「複合関係代名詞」 ( compound relative pronoun ) と呼ぶのかという質問があった.これの何がどう関係代名詞なのかという問題である.何か別のよい用語はないものかという疑問だが,これを考えるに当たっては,まず現代英文法の「関係詞」 ( relative ) の分類から議論を始めなければならない.これ自体に様々な議論があり得るが,今回は『現代英文法辞典』 "relative" に示される分類に従い,「複合関係代名詞」という呼称の問題を考えてみたい.
最も典型的な関係詞として想起されるのは who, which, that; whose; when, where 辺りだろう.関係代名詞 ( relative pronoun ) に絞れば,who, which 辺りがプロトタイプということになるだろう.いずれの関係代名詞も先行詞 ( antecedent ) を取り,先行詞を含めた全体が名詞句として機能する ( ex. a gentleman who speaks the truth, a grammatical problem which we cannot solve easily ) .つまり,典型的な関係代名詞は「先行詞の明示的な存在」と「全体が名詞句として機能する」の2点を前提としていると考えられる.
しかし,『現代英文法辞典』の分類を参照する限り,この2点は関係代名詞の必要条件ではない.一般に関係詞には,先行詞を明示的に取るものと取らないものとがある.前者を単一関係詞 ( simple relative ) ,後者を複合関係詞 ( compound relative ) と呼び分けている.複合関係詞は先行詞を明示的に取らないだけで,関係詞中に先行詞を埋め込んでいると理解すべきもので,what や what(so)ever がその代表例となる.(注意すべきは,ここで形態的に複合語となっている what(so)ever のことを what などに対して「複合」関係詞と呼ぶわけではない.しかし,このように形態的な複合性を指して「複合」関係詞と呼ぶケースもあり,混乱のもととなっている.)
関係代名詞に話しを絞ると,複合関係代名詞のなかでも一定の先行詞をもたない what のタイプは自由関係代名詞 ( free relative pronoun ) ,指示対象が不定のときに使用される what(so)ever のタイプは不定関係代名詞 ( indefinite relative pronoun ) として分類される.さらに後者は,名詞節として機能する典型的な用法と,譲歩の副詞節として機能する周辺的な用法に分けられる.ここにいたってようやく what(so)ever he may say の説明にたどりついた.この what(so)ever は,正確にいえば「(複合)不定関係代名詞の譲歩節を導く用法」ということになろう.
先にも述べたとおり,この用法の what(so)ever は,先行詞を明示的に取らないし,全体が名詞句として機能していないし,典型的な関係代名詞の振る舞いからは遠く隔たっている.その意味で複合関係代名詞という呼称が適切でないという意見には半分は同意する.しかし,この what(so)ever を典型的な関係代名詞と関連付け,その周辺的な用法として分類すること自体は,それなりに妥当なのではないだろうか.より適切な用語を提案するには広く関係詞の分類の問題に首を突っ込まなければならず,本記事では扱いきれないが,大きな問題につながり得る興味深い話題だろう.
・ 荒木 一雄,安井 稔 編 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
形態素 ( morpheme ) の定義は一筋縄ではいかない.形態素はしばしば「意味を有する最小の言語単位」とされるが,下で述べるように必ずしも明確な意味を有していない場合もある.
blackberry, blueberry, strawberry を考えよう.3語に現われる berry は明らかに形態素とみなすことができる.しかも,単独でも用いられる自由形態素 ( free morpheme ) である.「漿果」という意味も3語に共通している.では,berry の前に来る要素はどうだろうか.black, blue, straw ともに独り立ちできる自由形態素だが,これらの要素は複合語全体の意味に貢献しているだろうか.確かに blackberry は黒いし,blueberry は青いので,意味的な貢献が認められるが,straw 「わら」が strawberry 「イチゴ」の意味にどのように貢献しているかは定かではない.形態素を有意味の単位と仮定するのであれば,straw の形態素としての地位は危うくなる.
straw の場合は単独で「わら」の意味をもつ語となれるので,形態素としての地位は危ぶまれこそすれ,すぐに蹴落とされることはないだろう.だが,cranberry や huckleberry はどうだろうか.cran や huckle は単独で語となりえない(なりえたとしても著しく稀な語としてのみ)ばかりか,部品としても他の語に現われることはない.当然ながら意味も明確ではなく,有意味な単位としては不適格である.だが,無意味だという理由で cran や huckle を形態素とみなさないとすると,それはそれで問題である.というのは,その場合 cranberry や huckleberry の全体を有意味な1つの形態素とみなすことになるが,明らかに複合語の意味に貢献している berry を切り出せないことになるからである.
この矛盾を解消するには,形態素と意味との連結を絶対的なものではなく緩やかなものにとどめておくのがよい.cran が何を意味するのかは不明だが,black や blue と同様に有意味「らしく」は見える.その程度で形態素の地位を認めてやればいいのではないか.部品としてただ1つの語にしか現われない cran のような形態素は cranberry morpheme と呼ばれている ( Carstairs-McCarthy, pp. 19--20 ) .
[2010-10-17-1]の記事で,bikini をもじったことば遊びで monokini と trikini という語があることに触れた.ことば遊びとして異分析で切り出された形態素 -kini は当初は bikini にしか現われない cranberry morpheme だったわけだが,「布,ピース;水着」ほどの意味を獲得して他の語の部品として機能するようになった.他にも bankini 「背中の開いたワンピース水着」, camikini 「キャミソール・トップのビキニ」, tankini 「タンクトップ風水着」, zerokini 「素っ裸」などがあり,ことばの戯れとはいえ "cranberry" がとれて一人前の "morpheme" となったとみなしてよいかもしれない.
・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.
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