明けましておめでとうございます.本年は皆さんにとって良い年になることを切に祈っています.何が起こっても学びが止まらないよう,英語史ブログとしては本年も話題を提供し続けていきます.引き続き,よろしくお願い申し上げます.
この1年間でどのような記事がよく読まれてきたか,ざっと調べてみました.12月30日付のアクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事をご覧ください(参考までに昨年版の「#3901. 2019年によく読まれた記事」 ([2020-01-01-1]) もどうぞ).とりわけ昨年中に執筆した本ブログの記事のなかでよく読まれたものを,以下に一覧しておきます.
・ 「#4044. なぜ活字体とブロック体の小文字 <a> の字形は違うのですか?」 ([2020-05-23-1]) (2335)
・ 「#4069. なぜ live の発音は動詞では「リヴ」,形容詞だと「ライヴ」なのですか?」 ([2020-06-17-1]) (1930)
・ 「#4017. なぜ前置詞の後では人称代名詞は目的格を取るのですか?」 ([2020-04-26-1]) (1779)
・ 「#3925. 電子メールの返信で用いる引用の ">" は,実は中世の句読記号」 ([2020-01-25-1]) (1383)
・ 「#4052. 「今日の素朴な疑問」コーナーを設けました」 ([2020-05-31-1]) (1071)
・ 「#4019. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!」 ([2020-04-28-1]) (927)
・ 「#3941. なぜ hour, honour, honest, heir では h が発音されないのですか?」 ([2020-02-10-1]) (888)
・ 「#4050. 言語における記述主義と規範主義」 ([2020-05-29-1]) (835)
・ 「#3976. 英語史における黒死病の意義」 ([2020-03-16-1]) (796)
・ 「#4035. stay at home か stay home か --- 英語史の観点から」 ([2020-05-14-1]) (757)
・ 「#4039. 言語における性とはフェチである」 ([2020-05-18-1]) (754)
・ 「#4045. 英語に関する素朴な疑問を1385件集めました」 ([2020-05-24-1]) (752)
・ 「#4047. 「英語の英米差」のまとめ --- hellog 記事リンク集」 ([2020-05-26-1]) (689)
・ 「#4024. なぜ Japanese や Chinese などは単複同形なのですか? (1)」 ([2020-05-03-1]) (683)
・ 「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1]) (672)
・ 「#4071. 意外や意外 able と -able は別語源」 ([2020-06-19-1]) (589)
・ 「#4026. なぜ Japanese や Chinese などは単複同形なのですか? (3)」 ([2020-05-05-1]) (556)
・ 「#4060. なぜ「精神」を意味する spirit が「蒸留酒」をも意味するのか?」 ([2020-06-08-1]) (539)
・ 「#3969. ラテン語,古ノルド語,ケルト語,フランス語が英語に及ぼした影響を比較する」 ([2020-03-09-1]) (537)
・ 「#4036. stay at home か stay home か --- コーパス調査」 ([2020-05-15-1]) (531)
・ 「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) (497)
・ 「#3979. 古英語期に文証される古ノルド語からの借用語のサンプル」 ([2020-03-19-1]) (480)
・ 「#3948. 『英語教育』の連載第12回「なぜアメリカ英語はイギリス英語と異なっているのか」」 ([2020-02-17-1]) (460)
・ 「#3982. 古ノルド語借用語の音韻的特徴」 ([2020-03-22-1]) (458)
・ 「#3940. 形容詞を作る接尾辞 -al と -ar」 ([2020-02-09-1]) (417)
・ 「#3999. want の英語史 --- 語源と意味変化」 ([2020-04-08-1]) (414)
ほかに,昨年は6月辺りから新しい試みとして hellog ラジオ版 を始めました.コロナ禍でありとあらゆるものがオンラインとなり,皆PCやスマホとにらめっこの時間が増えたこともあり,眼の負担軽減のためにも,新種の刺激のためにも,「耳から入る」英語史ブログにチャレンジしてみました.素朴な疑問への回答を中心とした,なるべくハードルの低い内容を取りそろえてきました.今年も,ラジオ版においても本編においても,英語に関する素朴な疑問を多く取り上げていく予定です.関連して,参考までに英語に関する素朴な疑問の一覧もどうぞ.
今年も多かれ少なかれオンラインでの学びが続くことと思いますが,英語史を学ぶための hellog の活用法として「#4019. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!」 ([2020-04-28-1]) の記事も是非ご一読ください.
「#4254. 講座「英語の歴史と語源」の第8回「ジョン失地王とマグナカルタ」のご案内」 ([2020-12-19-1]) でお知らせしたように,12月26日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・8 ジョン失地王とマグナカルタ」と題して話しました.ゆっくりと続けているシリーズですが,毎回,参加者の皆さんから熱心な質問やコメントをいただきながら,楽しく進めています.ありがとうございます.
今回は英語史としてもイングランド史としても地味な13世紀に注目してみました.歴代イングランド王のなかで最も不人気なジョン王と,ジョンが諸侯らに呑まされたマグナカルタを軸に,続くヘンリー3世までの時代背景を概観した上で,当時の英語を位置づけてみようと試みました.そして最後には,同世紀の初期と後期を代表する中英語の原文を堪能しました.難しかったでしょうか,どうだったでしょうか.私自身も,資料を作成しながら,地味な13世紀も見方を変えてみれば英語史的に非常におもしろい時代となることを確認できました.
講座で用いたスライドをこちらに公開しておきます.以下にスライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・8 「ジョン失地王とマグナカルタ」
2. 第8回 ジョン失地王とマグナカルタ
3. 目次
4. 1. ジョン失地王
5. 関連略年表
6. 2. マグナカルタ
7. マグナカルタの当時および後世の評価
8. Carta or Charter
9. Magna or Great
10. ヘンリー3世
11. 3. 国家と言語の方向づけの13世紀
12. 4. 13世紀の英語
13. The Owl and the Nightingale 『梟とナイチンゲール』の冒頭12行
14. "The Proclamation of Henry III" 「ヘンリー3世の宣言書」
15. まとめ
16. 参考文献
次回のシリーズ第9回は2021年3月20日(土)の15:30?18:45を予定しています.話題は,不運にもタイムリーとなってしまった「百年戦争と黒死病」です.戦争や疫病が,いかにして言語の運命を変えるか,じっくり議論していきたいと思います.詳細はこちらからどうぞ.
大学で運営している私の「英語史ゼミ」のホームページ が立ち上がりました.毎年度この時期は,慶應義塾大学文学部英米文学専攻の学部2年生が,翌3年次より所属することになる専門ゼミを選択し,志望する時期にあたるので,当該ゼミとしても広報を始めた次第です.これまでは紙のフライヤーなどを作っていたのですが,今回はご時世によりオンライン仕様に切り替え,現役ゼミ生に HP を立ち上げてもらいました.こちらからどうぞ.
HP で "khelf" と銘打っているのは "Keio History of the English Language Forum" の頭字語 (acronym) です.このフォーラムは,正確にいえば私の学部の英語史ゼミのみならず,大学院の英語史ゼミも含み(←むしろ重要な貢献者),さらにその他少数の学生や関係者を含む「内輪」のグループです.内輪ではありますが,本ブログと並行して,英語史の学習・研究・教育に関する情報発信の場となることを期待しつつ,この機会にパブリック化する次第です.
この小さなフォーラムの内部では,年がら年中,英語史に関する何らかの話題が飛び交っています.最近盛り上がっているものの1つが「ちぐはぐチャンネル」です.学部生によって端緒が開かれ,院生によって整備されてきた「チャンネル」(共有している電子掲示板のスレッドのことをこう呼んでいます)です.具体的には「英語の○○と△△って,ちぐはぐじゃない?」という英語(史)に関する一発ネタを誰かがツイート風にコメントし,他の誰かが気の赴くままにコメントバックしたり,しなかったり,というだけの活動です.しかし,侮るなかれ,キレのある秀逸な「ちぐはぐ」投稿は,すでにレポートや卒論のテーマへと発展し得るポテンシャルを示しつつあります.上の HP のメニューより「掲示板」を選ぶと,そこから「ちぐはぐチャンネル」のサンプル投稿へのリンクにたどりつけます.具体例をいくつか示してみると,こんな感じです.
・ four (4), fourteen(14), forty(40) .forty だけ 'u' を綴らない.ちぐはぐ?
・ 中高で現在完了と ago は共起できないと教えられるのに,助動詞+have p.p. は ago と共起できるのはちぐはぐ?
・ 同じ「世界中」を意味するのに,語順を入れ替えた2つのバージョンともに可能.all over the world と all the world over.ちょっとした統語的ちぐはぐと考えられる?
・ 身近な家族を表す英単語で,父は father,母は mother,兄弟は brother と -ther で終わっているのに,姉妹は sister .語源はまだ調べていませんが,ちぐはぐ?
・ Turkey (トルコ)と turkey(七面鳥).語頭の大文字・小文字で意味がちぐはぐ.
と,こんな軽いノリですが,いかがでしょうか.
ゼミ選定でアレコレ悩んでいる英米文学専攻の2年生も多いと思いますが,ぜひ新設 HP の情報を参考にしてもらえればと思います.
「#4170. 講座「英語の歴史と語源」の第7回「ノルマン征服とノルマン王朝」のご案内」 ([2020-09-26-1]) でお知らせしたように,10月3日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・7 ノルマン征服とノルマン王朝」と題する講演を行ないました.久し振りのシリーズ再開でしたが,ご出席の皆さんとは質疑応答の時間ももつことができました.ありがとうございます.
ノルマン征服 (norman_conquest) については,これまでもその英語史上の意義について「#2047. ノルマン征服の英語史上の意義」 ([2014-12-04-1]),「#3107. 「ノルマン征服と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-29-1]) 等で論じてきましたが,今回の講座では,ノルマン征服という大事件のみならず,ノルマン王朝イングランド (1066--1154) という88年間の時間幅をもった時代とその王室エピソードに焦点を当て,そこから英語史を考え直すということを試してみました.いかがだったでしょうか.講座で用いたスライドをこちらに公開しておきます.以下にスライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・7 「ノルマン征服とノルマン王朝」
2. 第7回 ノルマン征服とノルマン王朝
3. 目次
4. 1. ノルマン征服,ten sixty-six
5. ノルマン人とノルマンディの起源
6. エマ=「ノルマンの宝石」
7. 1066年
9. ノルマン王家の仲違いとその後への影響
10. ウィリアム2世「赤顔王」(在位1087--1100)
11. ヘンリー1世「碩学王」(在位1100--1135)
12. 皇妃マティルダ(生没年1102--1167)
13. スティーヴン(在位1135--1154)
14. ヘンリー2世(在位1154--1181)
15. 3. 英語への社会的影響
16. ノルマン人の流入とイングランドの言語状況
17. 4. 英語への言語的影響
18. 語彙への影響
19. 綴字への影響
20. ノルマン・フランス語と中央フランス語
21. ノルマン征服がなかったら,英語は・・・?
22. まとめ
23. 補遺: 「ウィリアムの文書」 (William’s writ)
24. 参考文献
次回は12月26日(土)の15:30?18:45を予定しています.話題は,今回のノルマン王朝に続くプランタジネット王朝の前期に注目した「ジョン失地王とマグナカルタ」についてです.いかにして英語がフランス語の「くびき」から解放されていくことになるかを考えます.詳細はこちらからどうぞ.
10月3日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・7 ノルマン征服とノルマン王朝」と題する講演を行ないます.趣旨は以下の通りです.
1066年のノルマン征服はイギリス史上最大の事件といわれますが,英語史の観点からも,その後の英語がたどってゆく進路を大きく方向づけた点できわめて重大な出来事でした.以後,英語はノルマン王朝の公用語であるフランス語との接触を強め,主に語彙,語法,綴字の領域で大きな言語的影響を被ることになりました.また,当時英語が一時的にフランス語のくびきの下で社会的権威を奪われ,標準形をも失ったという事実は,近代以降の英語の世界的な発展を思うとき,実に意味深長です.本講座で,ノルマン征服の英語史上の意義を改めて考えてみましょう.
ノルマン征服とは? ノルマン人とは何者? 彼らは何語を話していたのか? イングランドや英語とはどのような関係があるのか? 現代の英語にいかなる影響を及ぼしたのか? 英国史のみならず英語史においても計り知れないインパクトをもつ1066年の事件とその余波に迫ります.
本シリーズもしばらく中断を余儀なくされていましたが,久し振りの再開となります.関心のある方は是非お申し込みください.よろしくどうぞ.
一昨日,昨日の記事 ([2020-06-24-1], [2020-06-25-1]) で,古英語には DOE という辞書が,中英語には MED という辞書が揃っていることをみたが,(初期)近代英語期の辞書はないのだろうか.
初期近代英語辞書は古くより望まれていたが,現状としてはない.Shakespeare の辞書や The King James Bible のコンコーダンスはあるが,同時代を広く扱う辞書は存在していないのである.
しかし,そのような辞書の代わりとなるようなデータベースは存在する.標題の LEME (= Lexicons of Early Modern English) である.これは初期近代英語期に文証される語を辞書編纂用に収集したリストというよりも,当時書かれた1400冊ほどの辞書や語彙集をそのままデータベース化したものである.現代英語の語彙に対応させると6万を超える語彙項目を数えるという.先行の Early Modern English Dictionaries Database (EMEDD) を受けて発展してきたプロジェクトで,およそ1480--1755年の間に書かれた辞書類の印刷本や写本が収集されてきた.公式サイトの案内によると「辞書類」とは "monolingual, bilingual, and polyglot dictionaries, lexical encyclopedias, hard-word glossaries, spelling lists, and lexically-valuable treatises" とのことである.このデータベース全体を一種の複合辞書とみなすことはできるが,現代人が現代の辞書編纂技術をもって当時の語を記述したという意味での「辞書」ではなく,あくまで同時代の人々の語感が込められた(ある意味で新歴史主義的な)「辞書」ということになろう.
私自身は LEME をまったく使いこなせていないが,様々な検索が可能なようで,一度じっくりと勉強したいと思っている.辞書編纂はいくぶんなりとも意識的な語彙の選択・使用を前提としているという点で,そうではない一般のコーパスにみられる語彙の選択・使用と比較してみるとおもしろいかもしれない.例えば,初期近代英語期に特徴的な語源的綴字 (etymological_respelling) の使用を調査するとき,辞書に示される綴字は LEME で,一般の綴字は EEBO corpus などで調べて比較してみるという研究が考えられる.
初期近代英語期の辞書事情は,それ自体が英語史上の1つの研究テーマとなりうる懐の深さがある.本ブログでも,以下を始めとして多くの記事で取り上げてきた.そこで触れてきた辞書も,およそ LEME に含まれているようだ.
・ 「#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1)」 ([2010-12-21-1])
・ 「#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2)」 ([2010-12-22-1])
・ 「#1609. Cawdrey の辞書をデータベース化」 ([2013-09-22-1])
・ 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])
・ 「#610. 脱難語辞書の18世紀」 ([2010-12-28-1])
・ 「#1995. Mulcaster の語彙リスト "generall table" における語源的綴字」 ([2014-10-13-1])
・ 「#3224. Thomas Harman, A Caveat or Warening for Common Cursetors (1567)」 ([2018-02-23-1])
・ 「#3544. 英語辞書史の略年表」 ([2019-01-09-1])
昨日の記事「#4076. Dictionary of Old English と Dictionary of Old English Corpus」 ([2020-06-24-1]) に引き続き,英語史研究にはなくてはならないツールについて.中英語研究といえば,何をおいても MED を挙げなければならない (Kurath, Hans, Sherman M. Kuhn, John Reidy, and Robert E. Lewis. Middle English Dictionary. Ann Arbor: U of Michigan P, 1952--2001. Available online at http://quod.lib.umich.edu/m/med/) .昨日の DOE と DOEC の関係と同様に,MED にも関連する MEC というコーパスがあり,こちらもたいへん有用である (MEC = McSparran, Frances, ed. Middle English Compendium. Ann Arbor: U of Michigan P, 2006. Available online at http://quod.lib.umich.edu/m/mec/) .
MED は1952年に最初の小冊が出版され,1991年に最後の小冊が出版されて完成した.その後,2000年にオンライン版の Middle English Compendium に組み込まれ,使い勝手が大幅に向上した.細かな検索ができることはもちろん,hyperbibliography の充実振りが嬉しい.56,000件ほどの見出し語を誇る中英語最大の辞書であることはいうにおよばず,中英語研究史上の最大の成果物といえる.2018年にはほぼ20年振りの改訂版が公開され,現在も中英語研究の第一線を走っている.
MED には,使用に当たって知っておくべきいくつかの特徴がある.Durkin (1150--52) に拠って指摘しておこう.まず,MED は,語義に多くの注意を払う辞書だということだ.OED ではある語の語形を大きな基準として記述を仕分けているが,MED のエントリーの最大の構成原理は語義である.ある意味では語形の違いなどは方言差と割り切って,LALME や LAEME に委ねているといった風である.しかし,この語義優先という特徴により,語学的な研究のみならず,文化的,歴史的な研究にも資するツールとなっているという側面がある.
語義の重視と関連して,MED は該当語の固有名詞としての使用にも意を払っている.たいてい最後の語義として言及されるが,これは固有名詞研究や歴史研究に有用である.多言語テキストに記されている英語の地名なども拾い上げられており,他言語文献や言語接触の研究にも資する情報である.
MED で惜しむらく点は,語源記述が少ないことだ.直前の古英語形や借用語であればソース言語での形態などを挙げているにとどまり,深みがない.
最後に指摘しておくべきは,例文に付されている年代について,(1) 写本(証拠)そのものの年代と,(2) テキストが作成されたとおぼしき年代とが,分けて記されている点である(後者はカッコでくくられている).両年代を念頭におけば,例えば異写本間での語形の比較に際して貴重な判断材料となるだろう.この重要な情報は,diplomatic な読みを追求する文献学的な関心に答えてくれる可能性を秘めている.
関連して「#4016. 中英語研究のための基本的なオンライン・リソース」 ([2020-04-25-1]) も参照.
・ Durkin, Philip. "Resources: Lexicographic Resources." Chapter 73 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1149--63.
標題の辞書は,目下進行中の古英語辞書編纂プロジェクトの所産である(cf. 「#3006. 古英語の辞書」 ([2017-07-20-1])).進行中なので未完成ということになるが,現在 The Dictionary of Old English (DOE) のサイト より,Dictionary of Old English: A to I online, ed. Angus Cameron, Ashley Crandell Amos, Antonette diPaolo Healey et al. (Toronto: Dictionary of Old English Project, 2018). の項目をオンラインで閲覧・参照できる(限定利用できる無料版あり).
この DOE と連動する形で古英語コーパス (DOEC) の編纂も同時に進行しており,Dictionary of Old English Web Corpus よりオンラインでアクセスできるようになっている(限定利用できる無料版あり).現存する古英語の文献資料は語数にして約300万語とされ,網羅的な目録を編纂し,網羅的な検索ツールを作ることは可能な範囲である.DOEC は,そのような目的の下,DOE 編纂プロジェクトの一環として,まず高頻度語を収録したマイクロフィッシュ版が1980年と1985年に公開された.その後,1997年にオンライン版が公開される一方,2005年には A--F までの項目を収録した CD-ROM 版も世に出た.その後も現在に至るまで,編纂者たちの地道な努力によって公開項目が増してきている.
DOE の各語のエントリーでは,文証されるスペリング,語義や用例,(翻訳テキストの場合)対応するラテン単語などの情報が得られ,OED への参照を含めた参考資料へのアクセスも提供されている.
この世に完璧なツールはないように,DOE(C) にも使用に際して注意すべき点はある.古英語テキストに複数のバージョンがある場合,文献学的には各々の単語の variants の情報が得られることが望ましいが,DOE(C) ではテキストによってその収録幅に揺れがある.また,語としての variants はおよそ拾い上げられているとしても,統語的,形態的,音韻的な意義をもつ variants にはさほど意が払われていない.さらに,書記上の省略が暗黙のうちに展開されているという点にも注意が必要である.語源情報が与えられていない点も,辞書として残念ではある.
それでも,古英語研究における DOE の重要性と期待の大きさは計りしれない.OED にも古英語単語は収録されているが,あくまで部分的であり,1150年を超えて生き延びた古英語単語に限定されている.編纂プロジェクトのインスピレーション自体は,OED の初版が完成されつつあった100年ほど前の Craigie のアイディアに由来するというから,実に息の長いプロジェクトなのである.応援していきましょう.
DOEC については,CoRD (Corpus Resource Database) よりこちらの情報もどうぞ.
・ Lowe, Kathryn A. "Resources: Early Textual Resources." Chapter 71 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1119--31.
・ Traxel, Oliver M. "Resources: Electronic/Online Resources." Chapter 72 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1131--48.
・ Durkin, Philip. "Resources: Lexicographic Resources." Chapter 73 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1149--63.
先日,Merriam-Webster のサイトで "A Word on 'Descriptive' and 'Prescriptive' Defining" と題する記事を読んだ.言語に関する記述主義 (descriptivism) と規範主義 (prescriptivism) の定義が,対比的に分かりやすく示されていた.日本語にせよ英語にせよ,このように的確に要点を押さえ,易しく,レトリカルな言葉使いを心がけたいものだと思わせる,すぐれた定義だと思う.原文に少しだけ手を加え,かつ対比点を目立たせると,次の通りである.
・ Descriptivism reflects how words are actually used.
・ Prescriptivism dictates how words ought to be used.
大学生などに言語学や英語学の分野を導入する際に,いつも難しく感じるのだが,その難しさは,まさにこの記述主義と規範主義の区別をいかに伝えるかという点に存する.何年間も英文法を学んできて,国語でも現代文や古文の文法を学んできた学生(のみならず一般の人々)にとって,言語を規範主義の視点からみるということは自然であり,慣れ親しんでもいる.もっといえば,入試の英語でも資格試験の英語でも,言葉使いには,数学の答えと同様に,明確な正誤があるのだと信じ込んでいる.ある文法なり発音なりに出会うと,どうしてもそれが正しいか誤りかという目線で見てしまうのだ.このように規範主義的な見方にどっぷり浸かってしまっているために,それが邪魔となって,記述主義の視点から言葉をみるという,現代言語学が原則として採っている立場をすんなりと理解することが難しいのかもしれない.現代言語学は規範主義ではなく記述主義の立場に立っている.まずは,これをしっかり理解することが重要である.
一方,近年の英語史のように,歴史社会言語学的な発想を積極的に取り込む言語学の分野においては,言葉に対する規範主義の発達や意義そのものを考察対象にするという傾向も目立ってきている.いわば規範主義そのものを記述していこうという試みだ.また,記述主義と規範主義とは実は連続体であり,程度の問題にすぎないという洞察も出されるようになってきた.
記述主義と規範主義を巡る問題は,以下の記事でも考えてきた.以下の各々,あるいはこちらの記事セット経由で,改めて考察してもらいたい.
・ 「#747. 記述と規範」 ([2011-05-14-1])
・ 「#1684. 規範文法と記述文法」 ([2013-12-06-1])
・ 「#1929. 言語学の立場から規範主義的言語観をどう見るべきか」 ([2014-08-08-1])
・ 「#2630. 規範主義を英語史(記述)に統合することについて」 ([2016-07-09-1])
・ 「#2631. Curzan 曰く「言語は川であり,規範主義は堤防である」」 ([2016-07-10-1])
・ 「#3047. 言語学者と規範主義者の対話が必要」 ([2017-08-30-1])
・ 「#3323. 「ことばの規範意識は,変動相場制です」」 ([2018-06-02-1])
何年も英語史のレポートや卒論を見てきましたが,英語の英米差に関する話題は常に人気のあるテーマです.英語史の授業でも,英米差の話題となると学生の反応が明らかに異なります.多くの英語学習者にとって,英語の英米差はそれくらい身近で興味を引かれるトピックなのだろうと思います.
本ブログでも英語の英米差に注目した多数の記事を書いてきました.以下にサブテーマごとに記事をグループ化し整理しましたので,順に読んでいけば英語の英米差を巡る様々な視点を体系的に学習することができます.そこから,ぜひ英語の英米差についての新しい問題を提起し,調査していってもらえればと思います.なお筆者一押しの記事は,英語史連載企画の一環として執筆した「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」です.
その他,アメリカ英語やイギリス英語の個別の話題について,ame や bre の多くの記事もご参照ください.
[まず英語の英米差クイズで腕試し]
・ 「#357. American English or British English?」
・ 「#359. American English or British English? の解答」
[英語の英米差の概論]
・ 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」
・ 「#3948. 『英語教育』の連載第12回「なぜアメリカ英語はイギリス英語と異なっているのか」」
・ 「#3472. 慶友会講演 (1) --- 「歴史上の大事件と英語」」
[発音の英米差]
・ 「#211. spelling pronunciation」
・ 「#406. Labov の New York City /r/」
・ 「#419. A Mid-Atlantic variety of English」
・ 「#945. either の2つの発音」
・ 「#964. z の文字の発音 (1)」
・ 「#965. z の文字の発音 (2)」
・ 「#3573. accomplish と one の強勢母音の変異」
[スペリング・表記の英米差]
・ 「#240. 綴字の英米差は大きいか小さいか?」
・ 「#244. 綴字の英米差のリスト」
・ 「#305. -ise か -ize か」
・ 「#1097. quotation marks」
・ 「#2093. <gauge> vs <gage>」
・ 「#2437. 3文字規則に屈したイギリス英語の <axe>」
・ 「#3182. ARCHER で colour と color の通時的英米差を調査」
・ 「#3247. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第5回「color か colour か? --- アメリカのスペリング」」
・ 「#3934. イギリスの er とアメリカの uh」
[文法の英米差]
・ 「#312. 文法の英米差」
・ 「#325. mandative subjunctive と should」
・ 「#3351. アメリカ英語での "mandative subjunctive" の使用は "colonial lag" ではなく「復活」か?」
[語彙・語法の英米差]
・ 「#510. アメリカ英語における whilst の消失」
・ 「#880. いかにもイギリス英語,いかにもアメリカ英語の単語」
・ 「#1754. queue」
・ 「#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」」
・ 「#2925. autumn vs fall, zed vs zee」
・ 「#3448. autumn vs fall --- Johnson と Pickering より」
・ 「#982. アメリカ英語の口語に頻出する flat adverb」
・ 「#1346. 付加疑問はどのくらいよく使われるか?」
・ 「#4036. stay at home か stay home か --- コーパス調査」
[英語の英米差の類型]
・ 「#627. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論」
・ 「#628. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論 (2)」
・ 「#1331. 語彙の英米差を整理するための術語」
・ 「#2268. 「なまり」の異なり方に関する共時的な類型論」
[英語の英米差に関する歴史的背景]
・ 「#3087. Noah Webster」
・ 「#468. アメリカ語を作ろうとした Webster」
・ 「#3086. アメリカの独立とアメリカ英語への思い」
・ 「#851. イギリス英語に対するアメリカ英語の影響は第2次世界大戦から」
・ 「#1855. アメリカ英語で先に進んでいた3単現の -th → -s」
・ 「#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1)」
・ 「#2262. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (2)」
・ 「#2270. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (3)」
・ 「#3089. 「アメリカ独立戦争と英語」のまとめスライド」
・ 「#3953. アメリカ英語の non-rhotic 変種の起源を巡る問題」
[英語の英米差を巡る社会言語学とイデオロギー問題]
・ 「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」
・ 「#1266. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (1)」
・ 「#1267. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (2)」
・ 「#1268. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (3)」
・ 「#1304. アメリカ英語の「保守性」」
・ 「#1318. 言語において保守的とは何か?」
・ 「#2926. アメリカとアメリカ英語の「保守性」」
・ 「#3201. アメリカ英語の「保守性」について --- Algeo and Pyles の見解」
・ 「#2672. イギリス英語は発音に,アメリカ英語は文法に社会言語学的な価値を置く?」
・ 「#3280. アメリカにおける民族・言語的不寛容さの歴史的背景」
・ 「#1010. 英語の英米差について Martinet からの一言」
[英語の英米差を調査するためのツールやその他の情報]
・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」
・ 「#607. Google Books Ngram Viewer」
・ 「#1305. 統語タグのついた Google Books Ngram Corpus」
・ 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」
・ 「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」
・ 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」
・ 「#2216. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 実践編 ――」」
・ 「#1321. BNC Frequency Extractor」
・ 「#1322. ANC Frequency Extractor」
・ 「#773. PPCMBE と COHA の比較」
[英語の英米差を超えた諸変種間の比較]
・ 「#2388. 世界の主要な英語変種の音韻的分類」
・ 「#2668. 現代世界の英語変種を理解するための英語方言史と英語比較社会言語学」
・ 「#1743. ICE Frequency Comparer」
国内の大学では新年度の授業が始まったか,始まりつつあり,5月はオンライン授業たけなわの月となるところが多いのではないでしょうか.私の所属する慶應義塾大学も明後日に学期がオープンします.英語史関連の授業も始まります.
本ブログもそろそろ12年目に突入しますが,英語史を中心としつつ英語学,日本語学,言語学,歴史学,英文学など関連諸分野についても少しずつ記事を書きためてきたので,英語史周りのウェブ資料としてはそれなりの量になってきました.私自身は個人的に一日に何度も hellog 内検索を行ないますし(たいてい書いた内容を自分でも忘れているか,書いたこと自体も忘れていることが多い),公にも大学の講義・演習や大学外の講座などで hellog 記事を参照するなど日常的に利用してきました.実際 hellog 資料だけで授業1コマを運営することもしばしばです.「この記事とあの記事を読んで考えておいてください」といえば予習にも復習にもなり便利です.そこで改めて考えてみたら,hellog は昨今のにわかトレンドともいうべきオンライン授業と非常に相性がよいのではないかと思いついた次第です.
このコロナ禍のなか,世のため人のために何かできることはないかと数週間を過ごしてきましたが,たいしたこともできそうにないと分かったので,本分に専念します.そこで,年度初めでもありますし,まずは英語史を専攻する一研究者として,同分野の知識と魅力を伝える一教育者として,英語史(および英語)を学び始める(そして学び続ける)方々に,これまで以上に意識的に関連情報を届けようと決めました.
英語史学習のための hellog の活用法をブレストしてみました.英語史を教える方々にも参考になれば幸いです.
(1) 英語に関する素朴な疑問への回答を始め,とにかくおもしろいネタを読みたいという場合は,英語に関する素朴な疑問集やアクセス・ランキングのトップ500記事を読んでください.英語史への入り口として.
(2) カテゴリー検索により,あるテーマに基づいた「記事セット」をまとめて表示させて,ひたすら読むのもよいと思います.各記事には内容の分類を示すカテゴリー(タグ)が付されています.およそ英語のキーワードかキーフレーズとなっており,トップページの右欄の少し下にアルファベット順で全記事からのカテゴリー一覧があります.適当なものをクリックすると,そのカテゴリーのテーマについての記事群が現われます.あるいはトップページ上部の検索欄に "cat:indo-european" などとしても可ですし,カテゴリーは角カッコでくくる慣習なので "[indo-european]" としても似たような検索結果が返ってきます.
(3) 過去の講座等で用いたオンラインのスライド資料を,記事のなかからそのまま提供していることも多いので,cat:slide より一覧をご覧ください.スライド自体の解説はありませんが,ざっと眺めるだけでも学習になると思います.(←解説の音声ファイルを付ければ,まさにオンライン授業ぽくなるので検討中)
(4) カテゴリーとは別に,あるテーマに基づいた「記事セット」の記事番号一式がカンマ区切りで提供されていれば,それをトップページ上部の検索欄にそのまま入れるだけで,その順序で記事が表示されます.私が授業でよく行なうのは,例えば「英語語彙の世界性」 (cosmopolitan_vocabulary) という話題について講義しようとする場合,"##151,756,201,152,153,390,3308" という構成で記事(とそこに含まれる視覚資料)を順に示して解説していくというやり方があります(先頭の "##" は任意).ほかには「母語と母国語の違い」というテーマならば "##1926,1537,2603" であるとか,「人工言語の問題」であれば "##962,959,961" などもおもしろいと思います.
個々のブログ記事はあくまで単発の読み切り仕様ですので,それをいくつか組み合わせただけでは必ずしもきれいなストーリーにはなりません.しかし,提示する順番を工夫したり,「つなぎ」の解説がほんの少しでも与えられれば,それなりに滑らかなストーリーとなり得ます.いずれこの種のテーマ別の「記事セット」をいろいろと作ってみたいと思っています.(←音声や文章で「つなぎ」の解説資料をつければ,やはりそのままオンライン授業仕様になりそうです)
(5) 見映えとして視覚資料が欲しい場合には,地図 (map) や言語系統図 (family_tree) や年表 (timeline) などがお薦めです.漫然と眺めるだけでも,ある程度は学べます.画像集もどうぞ.
(6) 厳密には hellog 内の記事ではないのですが,企画としては hellog が大本となっていたので,こちらもお薦めしておきます.2017年1月から12月にかけて連載した12本のオンライン記事「現代英語を英語史の視点から考える」です.わりと力を込めて執筆しましたし,分量もあります.英語史の見方を学ぶのに使えると思います.
(7) オンライン学習といっても,すぐに限界がきます.やはり本を読んでください.昨日の記事「#4018. 英語史概説書等の書誌(2020年度版)」 ([2020-04-27-1]) で推薦図書を挙げています.
以上,思いつくままに hellog 活用法をブレストしてみました.私自身がオンライン授業を行なう立場にありますので,これからも活用法を模索していくつもりです.
遅ればせながら国内の大学も新年度の授業が始まりつつある頃かと思います.新年度に英語史を学び始める人も多いはずですので,英語史概説書を中心に英語史・英語学の基本文献(2020年度版)を掲げておきます.英語史の初学者に特にお薦めの図書に◎を,初学者を卒業した段階のお薦めの図書に○を付してあります.目下の状況で手に入りにくい図書も多いかもしれませんが,今期はこの書誌一覧を手元に置いてもらえればと思います.このほか各図書の巻末やウェブサイトに掲載されている参考文献表も参照してください.印刷用のPDFも作ったので,こちらから自由にどうぞ.
[英語史概説書(日本語)]
◎ 家入 葉子 『ベーシック英語史』 ひつじ書房,2007年.
・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.
◎ 唐澤 一友 『多民族の国イギリス---4つの切り口から英国史を知る』 春風社,2008年.
◎ 唐澤 一友 『英語のルーツ』 春風社,2011年.
・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.
◎ 寺澤 盾 『英語の歴史』 中央公論新社〈中公新書〉,2008年.
・ 中尾 俊夫,寺島 廸子 『図説英語史入門』 大修館書店,1988年.
・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.
◎ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.
○ 堀田 隆一 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.
・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.
・ 柳 朋宏 『英語の歴史をたどる旅』 中部大学ブックシリーズ Acta 30,風媒社,2019年.
・ 渡部 昇一 『英語の歴史』 大修館,1983年.
[英語史関連のウェブサイト]
・ 家入 葉子 「英語史全般(基本文献等)」 https://iyeiri.com/569 .(より抜かれた基本文献のリスト)
・ 堀田 隆一 「hellog?英語史ブログ」 2009年5月1日?,http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/ .
・ 堀田 隆一 「連載 現代英語を英語史の視点から考える」 2017年1月?12月,http://www.kenkyusha.co.jp/uploads/history_of_english/series.html .
・ 三浦 あゆみ 「A Gateway to Studying HEL: Textbooks(日本語編)」 http://www013.upp.so-net.ne.jp/HEL/textbooks.html .(充実した英語史の文献リスト)
[英語史概説書(英語)]
・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
◎ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
・ Blake, N. F. A History of the English Language. Basingstoke: Macmillan, 1996.
○ Bradley, Henry. The Making of English. London: Macmillan, 1955.
○ Bragg, Melvyn. The Adventure of English. New York: Arcade, 2003.
・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.
・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.
○ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.
・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
○ Gooden, Philip. The Story of English: How the English Language Conquered the World. London: Quercus, 2009.
・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
◎ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.
・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: U of Chicago, 1982.
○ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
・ McCrum, Robert, William Cran, and Robert MacNeil. The Story of English. 3rd rev. ed. London: Penguin, 2003.
・ Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996.
・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
○ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
[英語史・英語学の参考図書]
・ 荒木 一雄,安井 稔(編) 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
・ 大泉 昭夫(編) 『英語史・歴史英語学:文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
・ 小野 茂(他) 『英語史』(太田朗, 加藤泰彦編 『英語学大系』 8--11巻) 大修館書店,1972--85年.
・ 佐々木 達,木原 研三(編) 『英語学人名辞典』,研究社,1995年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語史・歴史英語学 --- 文献解題書誌と文献目録書誌』 研究社,1997年.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
・ 寺澤 芳雄,川崎 潔 (編) 『英語史総合年表?英語史・英語学史・英米文学史・外面史?』 研究社,1993年.
・ 松浪 有,池上 嘉彦,今井 邦彦(編) 『大修館英語学事典』 大修館書店,1983年.
・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.
・ The Cambridge History of the English Language. Vols. 1--7. Ed. Richard M. Hogg. 1992--2001.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: Cambridge University Press, 1995. 2nd ed. 2003. 3rd ed. 2019.
・ English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012.
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: Oxford University Press, 1992.
・ The Oxford English Dictionary. 2nd ed. CD-ROM. Oxford: Oxford University Press, 1992. Version 3.1. 2004. (Also available online as Oxford English Dictionary Online at http://www.oed.com/ .)
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
標記について,Smith (47--48) の参考文献表よりいくつか抜き出し,整理し,リンクを張ってみた(現時点で生きたリンクであることを確認済み).本ブログでは,その他各種のオンライン・リソースも紹介してきたが,まとめきれないので link を参照.とりわけ Chaucer 関連のリンクは「#290. Chaucer に関する Web resources」 ([2010-02-11-1]) をどうぞ.
コロナ禍の影響で,今期,多くの大学の授業の基調はオンライン授業(遠隔授業)となる見込みです.私の所属する慶應義塾大学も例外ではなく,今年度の私の英語史その他の講義もオンラインとなります.にわかにオンライン授業が活気づいてきたこの機会に,英単語を英語史や語源の観点から学べる「まさにゃんチャンネル」の YouTube 動画を紹介したいと思います.本ブログの趣旨とも合致する学習動画です.
高校生をターゲットにした語源から英単語を学ぶ楽しさを伝える一連の動画で,単語も話題も構成も実によく練られています.その弁舌からは,講師の英語史への熱い想いも伝わってきます.高校生の皆さんも,そうでない皆さんも,これをきっかけに英語史や語源の話題に関心をもってもらえればと思います.
動画の作者に,今回のシリーズ企画「語源で学ぶ英単語」を担当することになった経緯をうかがうことができました.
YouTube の予備校「ただよび」・河合塾英語講師の森田鉄也先生が YouTube 上で開催された英語講師オーディションに応募し,決勝戦に進出.おしくも優勝は逃したものの,動画内容を評価していただき今回このシリーズ企画を担当させてもらう運びとなりました.またこの動画のメインターゲットは大学受験を目指して英単語を覚えようとしている高校生です.ただ,同時に英語好きの大学生や大人にも楽しんでもらえる動画になるように意識して作りました.
上で触れられている英語講師オーディションの決勝戦の様子はこちらです.そして「語源で学ぶ英単語」のシリーズそのものはこちら(全7回を連続で再生)からどうぞ.各回の動画へのリンクは以下の通りです.
・ 第1回「英語の始まり」
・ 第2回「グリムの法則で繋がる英単語」
・ 第3回「古英語由来の接頭辞/動詞の語法」
・ 第4回「同語源の意外な単語」
・ 第5回「ヴァイキングの襲来と古ノルド語」
・ 第6回「ヴァイキングが英文法に与えた影響」
・ 最終回「なぜ英語には類義語が多いのか」
作者の森田真登さんは,慶應義塾大学文学研究科英米文学専攻博士課程に在籍し,英語史を専攻しています.つまり身内ということなのでした.よろしくどうぞ.
「#3977. 講座「英語の歴史と語源」の第6回「ヴァイキングの侵攻」のご案内」 ([2020-03-17-1]) でお知らせしたように,3月21日(土)の15:15?18:30に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・6 ヴァイキングの侵攻」と題する講演を行ないました.新型コロナウィルス禍のなかで何かと心配しましたが,お集まりの方々からは時間を超過するほどたくさんの質問をいただきました.ありがとうございました.
講座で用いたスライド資料をこちらに置いておきます.以下にスライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・6 「ヴァイキングの侵攻」
2. 第6回 ヴァイキングの侵攻
3. 目次
4. 1. ヴァイキング時代
5. Viking の語源説
6. ヴァイキングのブリテン島襲来
7. 2. 英語と古ノルド語の関係
8. 3. 古ノルド語から借用された英単語
9. 古ノルド借用語の日常性
10. 古ノルド借用語の音韻的特徴
11. いくつかの日常的な古ノルド借用語について
12. イングランドの地名の古ノルド語要素
13. 英語人名の古ノルド語要素
14. 古ノルド語からの意味借用
15. 4. 古ノルド語の語彙以外への影響
16. なぜ英語の語順は「主語+動詞+目的語」なのか?
17. 5. 言語接触の濃密さ
18. 言語接触の種々のモデル
19. まとめ
20. 参考文献
次回は4月18日(土)の15:30?18:45を予定しています(新型コロナウィルスの影響がますます心配ですが).「ノルマン征服とノルマン王朝」と題して,かの1066年の事件の英語史上の意義を考えます.詳細はこちらよりどうぞ.
「#1253. 古ノルド語の影響があり得る言語項目」 ([2012-10-01-1]) で挙げたリストに,Dance (1735) を参照し,いくつか項目を追加しておきたい.いずれも実証が待たれる仮説というレベルである.
(1) the marked increase in productivity of the derivational verbal affixes -n- (as in harden, deepen) and -l- (e.g. crackle, sparkle)
(2) the rise of the "phrasal verb" (verb plus adverb/preposition) at the expense of the verbal prefix, most persuasively the development of up in an aspectual (completive) function
(3) certain aspects of v2 syntax (including the development of 'CP-v2' syntax in northern Middle English)
(4) the general shift to VO order
上記 (1) については,「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1]) で関連する話題に触れているので,そちらも参照.
(2) については,関連して「#2396. フランス語からの句の借用に対する慎重論」 ([2015-11-18-1]) を参照.
(3), (4) は統語現象だが,とりわけ (4) は大きな仮説である.これについては拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)の第5章第4節でも論じている.さらに以下の記事やリンク先の話題も合わせてどうぞ.
・ 「#1170. 古ノルド語との言語接触と屈折の衰退」 ([2012-07-10-1])
・ 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら)
・ 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら)
・ 「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1])
最後にリストに加えるのを忘れていたもう1つの項目があった.
(5) the spread of the s-plural
これは,私自身が詳細に論じている説である.詳しくは Hotta をご覧ください.
・ Dance, Richard. "English in Contact: Norse." Chapter 110 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1724--37.
・ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.
・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.
標題と関連して,Durkin (191--92) が挙げている古ノルド語借用語の例を挙げる.左列が古英語の同根語,中列が古ノルド語の同根語(かつ現代英語に受け継がれた語),右列が参考までに古アイスランド語での語形である.とりわけ左列と中列の音韻形態を比較してもらいたい.
OE | Scandinavian | Cf. Old Icelandic |
---|---|---|
sċyrta (> shirt) | skirt | skyrta |
sċ(e)aða, sċ(e)aðian | scathe | skaði, skaða 'it hurts' |
sċiell, sċell (> shell) | (northern) skell 'shell' | skel |
ċietel, ċetel (> ME chetel) | kettle | ketill |
ċiriċe (> church) | (northern) kirk | kirkja |
ċist, ċest (> chest) | (northern) kist | kista |
ċeorl (> churl) | (northern) carl | karl |
hlenċe | link | hlekkr |
ġietan | get | geta |
ġiefan | give | geva (OSw. giva) |
ġift | gift | gipt (OSw. gipt, gift) |
ġeard (> yard) | (northern) garth | garðr |
ġearwe | gear | gervi |
bǣtan | bait 'to bait' | beita |
hāl (> whole) | hail 'healthy' | heill |
lāc | northern laik 'game' | leikr |
rǣran (> rear) | raise | reisa |
swān | swain | sveinn |
nā (> no) | nay | nei |
blāc | bleak | bleikr |
wāc | weak | veikr |
þēah | though | þó |
lēas | loose | louss, lauss |
ǣġ (> ME ei) | egg | egg |
sweoster, swuster | sister | systir |
fram, from (> from) | fro | frá |
今週末の3月21日(土)の15:15?18:30に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・6 ヴァイキングの侵攻」と題する講演を行ないます.趣旨は以下の通りです.
8世紀後半,アングロサクソン人はヴァイキングの襲撃を受けました.現在の北欧諸語の祖先である古ノルド語を母語としていたヴァイキングは,その後イングランド東北部に定住しましたが,その地で古ノルド語と英語は激しく接触することになりました.こうして古ノルド語の影響下で揉まれた英語は語彙や文法において大きく変質し,その痕跡は現代英語にも深く刻まれています.ヴァイキングがいなかったら,現在の英語の姿はないのです.今回は,ヴァイキングの活動と古ノルド語について概観しつつ,言語接触一般の議論を経た上で,英語にみられる古ノルド語の語彙的な遺産に注目します.
ヴァイキングや古ノルド語 (old_norse) について,本ブログでも関連する話題を多く扱ってきました.以下,主要な記事にリンクを張っておきます.
・ 「#59. 英語史における古ノルド語の意義を教わった!」 ([2009-06-26-1])
・ 「#111. 英語史における古ノルド語と古フランス語の影響を比較する」 ([2009-08-16-1])
・ 「#169. get と give はなぜ /g/ 音をもっているのか」 ([2009-10-13-1])
・ 「#170. guest と host」 ([2009-10-14-1])
・ 「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1])
・ 「#818. イングランドに残る古ノルド語地名」 ([2011-07-24-1])
・ 「#827. she の語源説」 ([2011-08-02-1])
・ 「#881. 古ノルド語要素を南下させた人々」 ([2011-09-25-1])
・ 「#931. 古英語と古ノルド語の屈折語尾の差異」 ([2011-11-14-1])
・ 「#1146. インドヨーロッパ語族の系統図(Fortson版)」 ([2012-06-16-1])
・ 「#1167. 言語接触は平時ではなく戦時にこそ激しい」 ([2012-07-07-1])
・ 「#1170. 古ノルド語との言語接触と屈折の衰退」 ([2012-07-10-1])
・ 「#1179. 古ノルド語との接触と「弱い絆」」 ([2012-07-19-1])
・ 「#1182. 古ノルド語との言語接触はたいした事件ではない?」 ([2012-07-22-1])
・ 「#1183. 古ノルド語の影響の正当な評価を目指して」 ([2012-07-23-1])
・ 「#1253. 古ノルド語の影響があり得る言語項目」 ([2012-10-01-1])
・ 「#1611. 入り江から内海,そして大海原へ」 ([2013-09-24-1])
・ 「#1937. 連結形 -son による父称は古ノルド語由来」 ([2014-08-16-1])
・ 「#1938. 連結形 -by による地名形成は古ノルド語のものか?」 ([2014-08-17-1])
・ 「#2354. 古ノルド語の影響は地理的,フランス語の影響は文体的」 ([2015-10-07-1])
・ 「#2591. 古ノルド語はいつまでイングランドで使われていたか」 ([2016-05-31-1])
・ 「#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性」 ([2016-07-04-1])
・ 「#2692. 古ノルド語借用語に関する Gersum Project」 ([2016-09-09-1])
・ 「#2693. 古ノルド語借用語の統計」 ([2016-09-10-1])
・ 「#2869. 古ノルド語からの借用は古英語期であっても,その文証は中英語期」 ([2017-03-05-1])
・ 「#2889. ヴァイキングの移動の原動力」 ([2017-03-25-1])
・ 「#3001. なぜ古英語は古ノルド語に置換されなかったのか?」 ([2017-07-15-1])
・ 「#3263. なぜ古ノルド語からの借用語の多くが中英語期に初出するのか?」 ([2018-04-03-1])
・ 「#3969. ラテン語,古ノルド語,ケルト語,フランス語が英語に及ぼした影響を比較する」 ([2020-03-09-1])
・ 「#3972. 古英語と古ノルド語の接触の結果は koineisation か?」 ([2020-03-12-1])
・ 「#3606. 講座「北欧ヴァイキングと英語」」 ([2019-03-12-1])
新型コロナウィルス (COVID-19) が世界中で大流行しています.一刻も早く事態が終息することを願っています.英語史ブログ運営者としては,この時節に及んで中世ヨーロッパにもたらされた災禍である黒死病 (black_death) に触れないわけにはいきません.あえてこの話題を取り上げる次第です.
とはいえ,新しいことは何もありません.本ブログでは,英語史における黒死病の意義についてすでに多くの記事で検討してきました.以下にリンクを張りましたので,ぜひ関連する記事をご一読ください.とりわけお薦めは「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1]) です.これは,2017年9月2日に朝日カルチャーセンター新宿教室で開いた「講座 歴史の動きと英語の変化」の第3回として「黒死病と英語」の題目の下で話した内容にもとづいています.エッセンスのみを記載していますが,ポイントは押さえているはずです.
・ 「#119. 英語を世界語にしたのはクマネズミか!?」 ([2009-08-24-1])
・ 「#139. 黒死病と英語復権の関係について再々考」 ([2009-09-13-1])
・ 「#144. 隔離は40日」 ([2009-09-18-1])
・ 「#1206. 中世イングランドにおける英語による教育の始まり」 ([2012-08-15-1])
・ 「#2990. Black Death」 ([2017-07-04-1])
・ 「#3053. 黒死病により農奴制から自由農民制へ」 ([2017-09-05-1])
・ 「#3054. 黒死病による社会の流動化と諸方言の水平化」 ([2017-09-06-1])
・ 「#3055. 黒死病による聖職者の大量死」 ([2017-09-07-1])
・ 「#3056. 黒死病による人口減少と技術革新」 ([2017-09-08-1])
・ 「#3057. "The Pardoner's Tale" にみる黒死病」 ([2017-09-09-1])
・ 「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1])
・ 「#3061. 誤用と正用という観念の発現について」 ([2017-09-13-1])
・ 「#3062. 1665年のペストに関する Samuel Pepys の記録」 ([2017-09-14-1])
・ 「#3065. 都市化,疫病,言語交替」 ([2017-09-17-1])
・ 「#3196. 中英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-26-1])
・ 「#3212. 黒死病,死の舞踏,memento mori」 ([2018-02-11-1])
・ 「#3780. Foley による「標準英語の発展」の記述」 ([2019-09-02-1])
1348年に初めてイギリスに飛び火した黒死病は,1066年のノルマン征服により下落していた英語の地位を回復するのにあずかって大きかったとするのが英語史の通説です.逆にいえば,もし黒死病が起こらなかったらば,英語は近代の入り口までにイングランドの国語としての地位を回復できなかった,あるいは回復したとしてももっと遅かっただろうという結論になります.さらに想像力をたくましくすれば,後の英語の世界的展開もなかった,あるいは遅れた,あるいは異なる形をとっていた,ということにもなり得ます.そうであれば,読者の皆さんも英語など学んでいなかったかもしれませんし,この英語史ブログも存在しなかったかもしれません.
上記の通説は英語史の一面を正しくとらえた説であると私も考えています.一方で黒死病の流行は世界史上著名な事件としてあまりによく知られているだけに,その効果や意義が過大評価されやすいという側面もあるのではないかと(自戒を込めて)考えています.英語復権 (reestablishment_of_english) の歩みは,ノルマン征服直後より始まっており,その後ゆっくりとではあるものの着実に進んでいたというのが歴史的事実です.黒死病はそのような従来の緩慢な傾向に,14世紀半ばというタイミングで拍車をかけたということでしょう.黒死病は英語の復権に一役買ったとはいえ,あくまで多数の要因の1つだったという解釈が妥当でしょう.
では,その他の多数の要因とは何でしょうか.これについては,英語の復権に関する reestablishment_of_english の記事群を読んでいただければと思います.そのなかでとりわけ重要な記事にのみ,以下にリンクを張っておきます.
・ 「#131. 英語の復権」 ([2009-09-05-1])
・ 「#138. 黒死病と英語復権の関係について再考」 ([2009-09-12-1])
・ 「#139. 黒死病と英語復権の関係について再々考」 ([2009-09-13-1])
・ 「#706. 14世紀,英語の復権は徐ろに」 ([2011-04-03-1])
・ 「#1207. 英語の書き言葉の復権」 ([2012-08-16-1])
・ 「#1821. フランス語の復権と英語の復権」 ([2014-04-22-1])
・ 「#2334. 英語の復権と議会の発展」 ([2015-09-17-1])
・ 「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1])
・ 「#3894. 「英語復権にプラス・マイナスに貢献した要因」の議論がおもしろかった」 ([2019-12-25-1])
数学に関する年表・図鑑・事典が一緒になったような,それでいて読み物として飽きない『ビジュアル数学全史』を通読した.2009年の原著 The Math Book の邦訳である.250の話題の各々について写真や図形が添えられており,雑学ネタにも事欠かない.ゾクゾクさせる数の魅力にはまってしまった.この本の公式HPはこちら.
原著で読んでいたら数学用語にも強くなっていたかもしれないと思ったが,250のキーワードについては英語版の目次から簡単に拾える.ということで,以下に日英両言語版の目次をまとめてみた.ただ挙げるのでは芸がないので,本ブログの過去の記事と引っかけられそうなキーワードについては,リンクを張っておいた.数学(を含む自然科学)に関連する言語学・英語学・英語史の話題については,たまに取り上げてきたので.
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