本日より,慶應義塾大学通信教育課程の夏期スクーリング科目「英語史」が開講します.土曜日までの6日間にわたる集中講義です.
本日の初回講義では,本ブログの記事を組み合わせながら英語史の世界への導入を図ります.履修生の皆さんは,いつでもこちらの記事に戻ってきてください.
1. イントロ
1.1. 不定冠詞 a と an について: 「#831. Why "an apple"?」 ([2011-08-06-1]),heldio 「#1. なぜ A pen なのに AN apple なの?」
1.2. 「英語史」講義担当者の紹介: note 「堀田隆一のプロフィール」,heldio 「#1171. 自己紹介 --- 英語史研究者の堀田隆一です」,「#2. 自己紹介」 ([2009-05-01-2])
2. 英語史の世界へようこそ
2.1. 英語史の魅力4点: 「#4546. 新学期の始まりに,英語史の学び方」 ([2021-10-07-1])
(1) 英語の見方が180度変わる
(2) 英語と歴史(社会科)がミックスした不思議な感覚の科目
(3) 素朴な疑問こそがおもしろい
(4) 現代英語に戻ってくる英語史
2.2. 「#4361. 英語史は「英語の歴史」というよりも「英語と歴史」」 ([2021-04-05-1]): 魅力 (2) に通じます
2.3. 「なぜ英語史を学ぶのか」の記事セット: 様々な角度から「なぜ学ぶのか」を検討してみました(cf. heldio 「#444. 英語史を学ぶとこんなに良いことがある!」や heldio 「#112. 英語史って何のため?」でも取り上げています)
3. 英語に関する素朴な疑問
3.1. 「#1093. 英語に関する素朴な疑問を募集」 ([2012-04-24-1]): 魅力 (3) に通じます
3.2. 3166件の素朴な疑問
3.3. これまで hellog で取り上げてきた素朴な疑問集
3.4. 知識共有サービス「Mond」で英語・言語に関する素朴な疑問に回答しています
4. 英語史を日常の風景に
4.1. 「#5097. hellog の読み方(2023年度版)」 ([2023-04-11-1]): 2009年5月1日より毎日更新している英語史のブログです.この hellog の効果的な使い方の tips をどうぞ.合わせて「#5362. 2023年によく読まれた hellog 記事は?」 ([2024-01-01-1]) もご覧ください.
4.2. 音声コンテンツ一覧 (heldio & hellog-radio): hellog の音声版というべき Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) .2021年6月2日より毎朝6時に1本10分ほどで英語史の話題をお届けしています.日々の英語史の学びのためにフォローしてください.英語史の話題が日常になります.「#5093. heldio の聴き方(2023年度版)」 ([2023-04-07-1]),「#5098. 英語史を学び始めようと思っている方へ hellog と heldio のお薦め回一覧(2023年度版)」 ([2023-04-12-1]),「#5554. リスナー投票による heldio 2024年第2四半期のランキング」 ([2024-07-11-1]) も参照.
4.3. 「#5091. khelf の沿革,活動実績,ミッションステートメント」 ([2023-04-05-1]): khelf HP,公式 X アカウント @khelf_keio,公式 Instagram アカウント @khelf_keio より情報を発信しています.
4.4. 「#5496. 『英語史新聞』第9号が発行されました」 ([2024-05-14-1]): 世界初の英語史を主題とする新聞の第9号です.
4.5. khelf イベント「英語史コンテンツ50+」が始まっており,まだ続いています: 今年4月10日より休日を除く毎日,英語史を専攻するゼミ生・院生から手軽に読める「英語史コンテンツ」がウェブ上にアップされてきます.上記だけでは足りないという方は,過年度の同企画もどうぞ.
4.6. もう1つの khelf イベント「#5568. 9月8日(日)「英語史ライヴ2024」を開催します」 ([2024-07-25-1]) もご参照ください.
4.7. 「いのほた言語学チャンネル」(旧「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」): 2022年2月26日より同専攻の井上逸兵先生(英語学・言語学)と一緒に週2回(水)と(日)の午後6時に動画を公開しています
5. 講義の進め方
5.1. 講義スライド,テキスト,リアクションペーパー提出課題,試験,評価について
5.2. 指定テキストは拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年).本書のコンパニオン・サイトもあります.
5.3. 英語史の読書案内:「#5462. 英語史概説書等の書誌(2024年度版)」 ([2024-04-10-1]),「#4557. 「英語史への招待:入門書10選」」 ([2021-10-18-1]),heldio 「対談 英語史の入門書」
5.4. 過年度の「英語史」履修生の言葉: 「#5393. 2023年度,1年間の「英語史」の講義を終えて」 ([2024-02-01-1]),heldio 「#974. 1年間の「英語史」の講義を終えて --- 2023年度版」
6. 履修生よりライヴで寄せられた英語の素朴な疑問に即興で答える「千本ノック」
以上,スクーリングの1週間,そしてその後も,知的興奮に満ちた英語史ライフをお楽しみください! 関連して「#5463. 2024年度の「英語史」講義が始まります --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目」 ([2024-04-11-1]) もどうぞ.
なぜ英語史を学ぶのか.迷ったら,まず「#444. 英語史を学ぶとこんなに良いことがある!」を.
1週間後の8月24日(土)17:30--19:00に朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第5回となる「英語,ラテン語と出会う」を開講します.
前回,7月27日の第4回では「現代の英語に残る古英語の痕跡」と題して,古英語の語彙,語形成,ケルト語からの僅少な影響に注目しました.そこでは古英語が純度の高いゲルマン系の語彙を保っており,造語能力も豊かであったことを解説しました.
しかし,古英語にも諸言語からの借用語は確かにありました.少数のケルト借用語の存在についてはすでに触れましたが,その他にもラテン語語や古ノルド語からの借用語が各々数百語(以上)の規模で古英語に入ってきていたのです.数百語ほどの数では語彙全体のなかではさほど目立たないのも確かですが,その後の豊富な語彙借用の歴史を念頭におけば,古英語期が英語史上重要な位置づけにあることが理解できるでしょう.
今回の講座では,古英語期(あるいはそれ以前の時代)におけるラテン語の語彙的影響に注目します.また,ラテン語の影響が語彙的・言語的なレベルにとどまらず文化的な次元にまで及んだことにも触れます.
本シリーズ講座は各回の独立性が高いので,第5回からの途中参加などでもまったく問題なく受講できます.新宿教室での対面参加のほかオンライン参加も可能ですし,その後1週間の「見逃し配信」もご利用できます.奮ってご参加ください.
なお,本シリーズ講座は「語源辞典でたどる英語史」と題しているとおり,とりわけ『英語語源辞典』(研究社)を頻繁に参照します.同辞典をお持ちの方は,講座に持参されると,より楽しく受講できるかと思います(もちろん手元になくとも問題ありません).
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
この夏休み,定期的に知識共有サービス Mond に寄せられてきた英語関連の素朴な疑問 (sobokunagimon) に回答しています.直近5件ほどの回答を,新しい順に並べます.
(1) なぜ be 動詞に属する動詞は be しかないのに,そんなに大仰な名前が付いているのでしょうか?
(2) 形容詞の屈折に -er という優等比較の屈折形態があるのに対して,劣等比較の屈折形態がないのはなぜですか?
(3) 関係詞は2文を1文にまとめる役割があると言われますが,2文にするか1文にするかで意味合いは異なるのでしょうか?
(4) 英語の "subjunctive mood" について,英語史的な知見をいろいろと知りたいと思っておりまして,質問させていただきます.
(5) 「be + 過去分詞」の過去分詞は 動詞なんですか, 形容詞なんですか?
それぞれ難問ですね.答えそのものというよりも,答え方に注目していただけますと幸いです.他にも様々な答え方がありますし,むしろここから議論が始まるものだと思っています.
これらの質問は一見素朴に見えて,実は英語の歴史や言語学の深い洞察を必要とするお題ばかりです.英語学習者の皆さんが日頃感じている疑問が,実は言語学的に非常に興味深い問題であることも少なくありません.このような Mond への質問をお待ちしています!
先日『子供の科学』9月号が発売されました.小学校3年生から中学生を読者層とする科学雑誌です.こちらの44頁にて,小学校5年生より寄せられてきた標題の素朴な疑問に回答しています.一言回答としては「古今東西,言語にはさまざまな語順があります」となります.
この質問については様々な媒体で取り上げてきましたが,今回は雑誌上で小学生に対して回答・解説するという初めての機会だったので,その点で頭を悩ませました.限られた紙幅で,何をどこまで伝えられるのか.易しく,かつ本質を突くような回答を探ってみましたが,はたして成功しているでしょうか.どのように読んでもらえているのか,気になるところです.
上記回答では英語が古くは現代の語順とは異なる語順をもっていた点にもちらと触れましたが,深掘りはできませんでした.この点に関心のある方は,ぜひ YouTube 「いのほた言語学チャンネル」より「英語の語順は大昔は SOV だったのになぜ SVO に変わったかいろいろ考えてみた.祝!!30回!」をご覧ください.
その他,本ブログでも語順 (word_order) 関連の話題はたびたび取り上げてきています.
[ 英語史における語順の変化・変異とその原因 ]
・ 「#3127. 印欧祖語から現代英語への基本語順の推移」 ([2017-11-18-1])
・ 「#132. 古英語から中英語への語順の発達過程」 ([2009-09-06-1])
・ 「#4597. 古英語の6つの異なる語順:SVO, SOV, OSV, OVS, VSO, VOS」 ([2021-11-27-1])
・ 「#4385. 英語が昔から SV の語順だったと思っていませんか?」 ([2021-04-29-1])
・ 「#2975. 屈折の衰退と語順の固定化の協力関係」 ([2017-06-19-1])
・ 「#4793. 多くの方に視聴していただいています!井上・堀田の YouTube 第30弾「英語の語順は大昔は SOV だったのになぜ SVO に変わったかいろいろ考えてみた」」 ([2022-06-11-1])
[ 基本語順の類型論 ]
・ 「#137. 世界の言語の基本語順」 ([2009-09-11-1])
・ 「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1])
・ 「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1])
・ 「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1])
・ 「#3129. 基本語順の類型論 (4)」 ([2017-11-20-1])
・ 「#4316. 日本語型 SOV 言語は形態的格標示をもち,英語型 SVO 言語はもたない」 ([2021-02-19-1])
・ 「#3734. 島嶼ケルト語の VSO 語順の起源」 ([2019-07-18-1])
さらに,過去に書いてきた連載記事等も多々ありますので,リンクを張っておきます.
・ 英語史連載企画(研究社)「現代英語を英語史の視点から考える」の第11回と第12回
- 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら)
- 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら)
・ 知識共有サービス「Mond」での回答:「日本語ならSOV型,英語ならSVO型,アラビア語ならVSO型,など言語によって語順が異なりますが,これはどのような原因から生じる違いなのでしょうか?」
・ 「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1])
・ 「#4583. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第9回「なぜ英語の語順は SVO なの?」」 ([2021-11-13-1])
・ 「#4527. 英語の語順の歴史が概観できる論考を紹介」 ([2021-09-18-1])
語順問題について改めて考えてみていただければ.
(以下,後記:2024/08/22(Thu))
・ 堀田 隆一 「なぜ,日本語と英語では語順が違うのですか? --- 古今東西,言語にはさまざまな語順があります」『子供の科学』2024年9月号,誠文堂新光社,2024年8月10日.44頁.
ここ1週間ほどで,知識共有サービス Mond に寄せられてきた英語関連の素朴な疑問 (sobokunagimon) に5件ほど回答しました.新しい順に並べてみます.
(1) OK'd や OD'd という表現を見かけました.このアポストロフィはなぜついているのでしょうか?
(2) 英語の助動詞 can, shall, may, will などの過去形 could, should, might, would と,一般動詞の過去形語尾 -ed とは関係があるのでしょうか?
(3) take care of や listen to などの「群動詞」は受動態などにおいて1つの動詞であるかのように振る舞います.このように本来は統語上ひとまとまりではないものが群動詞的な性質を帯びた経緯について教えてください.
(4) なぜ cut は cut-cut-cut と変化しないのでしょうか? また,read は read-read-read と同様ですが,こちらはなぜ発音だけ変化するのでしょうか?
(5) コーラ,ノートのように日本語には「長音」がありますが,なぜ日本語に転写するときにこのように新しい記号を作る必要があったのでしょうか?
形態論,統語論,正書法に関する質問が寄せられてきました.いずれも一言では答えられないような問いではありますが,なるべく英語史・英語学の観点そのものを知ってもらればという思いで回答しています.ですので,答えそれ自体だけではなく,議論の展開にも注目していただければ.
Mond への鋭い質問をお待ちしています!
古英語の語彙は相当程度にピュアなゲルマン系の語彙といってよく,借用語は限られている.しかも,その限られた借用語の大部分がラテン語 (latin) からのものである.ほかには古ノルド語 (old_norse),ケルト語 (celtic),ゲルマン諸語 (germanic), フランス語 (french) からの借用語もないではないが,あくまで影は薄い.
これらの言語から古英語への借用語は,むしろ例外的だからこそ気になるのだろう.数が少ないので,古英語を読んでいるときに出くわすとやけに目立つのである.英語史研究でもかえってよく注目されている.Hogg は,古英語期の語彙と語彙借用について次のように評している.
. . . there are words of non-native origin in Old English, the vast majority of which are from Latin. It has been estimated only about 3 per cent of Old English vocabulary is taken from non-native sources and it is clear that the strong preference in Old English was to use its native resources in order to create new vocabulary. In this respect, therefore, and as elsewhere, Old English is typically Germanic. (102--03)
. . . there was in Old English only a very limited use of words taken from other language, i.e. borrowed or loan words, and those words were primarily from Latin. Apart from Latin, Old English borrowed words from the Scandinavian languages after the Viking invasions, from the celtic languages mostly at a very early date, and there was also a scattering of forms from the other Germanic languages. At the very end of the period we begin to see the first loan words from Norman French. (109)
古英語期の各言語からの語彙借用については,以下の記事を参照.
・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
・ 「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1])
・ 「#1619. なぜ deus が借用されず God が保たれたのか」 ([2013-10-02-1])
・ 「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1])
・ 「#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語」 ([2016-05-18-1])
・ 「#3787. 650年辺りを境とする,その前後のラテン借用語の特質」 ([2019-09-09-1])
・ 「#3788. 古英語期以前のラテン借用語の意外な日常性」 ([2019-09-10-1])
・ 「#3789. 古英語語彙におけるラテン借用語比率は1.75%」 ([2019-09-11-1])
・ 「#3790. 650年以前のラテン借用語の一覧」 ([2019-09-12-1])
・ 「#3829. 650年以後のラテン借用語の一覧」 ([2019-10-21-1])
・ 「#3830. 古英語のラテン借用語は現代まで地続きか否か」 ([2019-10-22-1])
・ 「#1216. 古英語期のケルト借用語」 ([2012-08-25-1])
・ 「#3821. Old Saxon からの借用語」 ([2019-10-13-1])
・ 「#302. 古英語のフランス借用語」 ([2010-02-23-1])
・ Hogg, Richard. An Introduction to Old English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.
今年度,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.4,5,6月と3回の春期クールを終え,この7月からは夏期クールが始まります.
第4回は来週末の7月27日(土)の夕方 17:30--19:00 に開講されます.お申し込み窓口が開いておりますので,ぜひこちらより詳細をご確認ください.講座形式はいわゆるハイブリッド形式で,新宿教室での対面受講,あるいはリアルタイム・オンラインでの受講が可能です.また申込みされた方は,「見逃し配信」として,その後1週間,講座を視聴できます.ご都合の良い方法でご参加ください.以下の通り,本シリーズは全12回を予定していますが,各回,各クールの独立性は高いので,夏期クールより初めての受講であっても,まったく問題ありません.
1. 英語語源辞典を楽しむ(2024年4月27日)
2. 英語語彙の歴史を概観する(2024年5月18日)
3. 英単語と「グリムの法則」(2024年6月8日)
4. 現代の英語に残る古英語の痕跡(2024年7月27日)
5. 英語,ラテン語と出会う(2024年8月24日)
6. 英語,ヴァイキングの言語と交わる(2024年9月28日)
7. 英語,フランス語に侵される(日付未定)
8. 英語,オランダ語と交流する(日付未定)
9. 英語,ラテン・ギリシア語に憧れる(日付未定)
10. 英語,世界の諸言語と接触する(日付未定)
11. 英語史からみる現代の新語(日付未定)
12. 勘違いから生まれた英単語(日付未定)
7月以降の夏期クールも毎月1回,指定の土曜日の夕方 17:30--19:00 に開講する予定です.春期クールから続いているシリーズではありますが,各クール,各回とも独立性の高い講座ですので,夏期クールより初めてのご参加であっても,まったく問題ありません.
春期クール3回の広い意味での「イントロ」を終え,夏期クールはいよいよ英語語彙史の具体的な記述が始まります.第4回は「現代の英語に残る古英語の痕跡」と題して,英語史の幕開きとなる古英語 (Old English) の時代に注目します.古英語とは紀元449--1100頃の英語を指しますが,語彙においても,そして発音,文字,文法においても,現代英語とは驚くほど異なる言語でした.現代の観点からみると,例えば古英語の語彙は,その多くの割合が現代まで生き延びずに,死語となっています.古英語と現代英語の語彙は,内容も規模も大きく異なるのです.
確かに語彙の断続性は著しいのですが,語彙の継続性にも注目したいところです.第4回講座の目標は,古英語と現代英語の語彙が間違いなくつながっているという事実を確認することです.
第4回のお知らせと概要は,先日 Voicy heldio でもお話ししました.「#1140. 7月27日(土),朝カルのシリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」が開講されます」をお聴きください.
シリーズでは『英語語源辞典』(研究社)を頻繁に参照します.同辞典をお持ちの方は,講座に持参されると,より楽しく受講できるかと思います(もちろん手元になくとも問題ありません).
本シリーズに関する hellog の過去記事へリンクを張っておきますので,ご参照ください.
・ 「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1])
・ 「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1])
・ 「#5486. 5月18日(土)の朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」のご案内」 ([2024-05-04-1])
・ 「#5511. 6月8日(土)の朝カル新シリーズ講座第3回「英単語と「グリムの法則」」のご案内」 ([2024-05-29-1])
・ 「#5528. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の春期3回が終了しました」 ([2024-06-15-1])
春期クールは,私の歴代朝カル講座のなかで最も多くの方々に受講していただきました.第4回から始まる夏期クールも,多くの方々のご参加をお待ちしております!
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
「#5546. heldio 2024年第2四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 7月9日までオープン」 ([2024-07-03-1]) でご案内したとおり,「hel活」 (helkatsu) の一環として,今年第2四半期における Voicy heldio のベスト配信回を決めるリスナー投票(1人10票まで)を実施しました.29名よりご投票いただきました.ご協力ありがとうございました.
投票結果をまとめましたので,本記事にて報告いたします.上位10位までの計14回分を掲載しています.詳しくは Slido での投票結果をご覧ください.
1. 「#1124. 「はじめての古英語」第9弾 with 小河舜さん&まさにゃん&村岡宗一郎さん」 (48%)
2. 「#1066. ノルマン征服 --- Ten Sixty-Six」 (34%)
3. 「#1064. eavesdrop 「盗み聞きする」」 (31%)
3. 「#1115. 言語にはムダが多すぎる --- 言語の余剰性」 (31%)
5. 「#1039. 英語発音は日本語よりも「口の可動域」が広い! 矢冨弘先生のブログ記事より」 (28%)
5. 「#1096. あなたの推し前置詞を教えてください with 小河舜さん&まさにゃん」 (28%)
5. 「#1125. 「はじめての古英語」第9弾のアフタートーク」 (28%)
8. 「#1043. ある用途のために発達してきたものを別の用途のために用いる「外適応」」 (24%)
8. 「#1126. 世にも奇妙な「過去現在動詞」」 (24%)
10. 「#1057. 「はじめての古英語」生放送 with 小河舜さん&まさにゃん --- Bede を読む (2)」 (21%)
10. 「#1085. hamburger の形態論」 (21%)
10. 「#1088. 企業の対外的なメッセージについて語る --- 北澤茉奈さんとの対談 (1)」 (21%)
10. 「#1104. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 山本忠行先生とのアフリカの英語をめぐる対談 (2)」 (21%)
10. 「#1109. 『法と言語』第9章 --- 五所万実さんの「商標言語学」」 (21%)
第1位には,「はじめての古英語」シリーズより「#1124. 「はじめての古英語」第9弾 with 小河舜さん&まさにゃん&村岡宗一郎さん」が選ばれました! 過去2回のリスナー投票に引き続き3連覇です.本シリーズを人気シリーズに押し上げてくださったリスナーの方々に感謝致します.普段は小河舜先生(上智大学)および「まさにゃん」こと森田真登先生(武蔵野学院大学)とのトリオでお送りしている古英語入門シリーズですが,今回は村岡宗一郎先生(日本大学)にもご同席いただき,いつもよりさらに賑やかな回となりました.小河さんによる Beowulf からの渾身の選文も効いていたと思います.なお,そのアフタートークも第5位に付けているので,合わせて多くのリスナーの方々に楽しんで聴いていただいたものと受け取っております.
第2位の「#1066. ノルマン征服 --- Ten Sixty-Six」も嬉しい入賞です.配信回番号を歴史年号に見立てた初めての回でしたが,これ自体は実はリスナーさんのアイディアでした.おかげさまです.
第3位には,「英語の語源が身につくラジオ」としては正当なトピックである「#1064. eavesdrop 「盗み聞きする」」と,言語の本質に迫った「#1115. 言語にはムダが多すぎる --- 言語の余剰性」が得票率タイで入賞しています.後者はコメント欄も非常に盛り上がりました(ぜひ覗いてみてください).
第5位タイの3回のうち2回は「はじめての古英語」シリーズのメンバーによる雑談回です.もう1回は矢冨弘先生(熊本学園大学)のコンテンツにあやかった「#1039. 英語発音は日本語よりも「口の可動域」が広い! 矢冨弘先生のブログ記事より」でした.
第8位以下の詳細は省略しますが,今年の heldio の大テーマである言語変化 (language_change) に関連する回や,ゲスト対談回も上位に入りました.
ぜひ今回のランキング結果全体を眺めていただき,まだお聴きでない回がありましたら,ぜひ聴取いただければと思います.以上,投票結果の報告でした.
同僚の井上逸兵さんと YouTube 「いのほた言語学チャンネル」を運営しています.毎週水・日の18:00に最新回を公開し続けて,そろそろ250回に届きそうです.
日曜日にアップされた最新回は「#247. 堀田が1年間推してきた,日本語だが内容的には英語語源辞典の世界ベスト・寺澤芳雄編集主幹『英語語源辞典』(研究社)」です.1年にわたり推し活を展開してきた日本の誇るべき辞典を改めて紹介したいと思います.ちょうど先月,その新装版が刊行されたばかりというタイミングでもあります.
動画内でお話ししている通り,『英語語源辞典』,あるいは KDEE (= The Kenkyusha Dictionary of English Etymology) は,研究社最後の活版印刷による辞典であり,日本の英語系出版史上の金字塔ともいうべき存在です.同社のご協力により,昨年の夏,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,同辞典の編集・印刷に携わった方々にインタビューさせていただきました.今回の YouTube 動画で触れた内容の深掘りとなっていますので,ぜひ合わせてお聴きいただければ.
・ 「#828. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (1)」
・ 「#834. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (2)」
・ 「#842. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (3)」
関連して,2023年8月1日に「研究社note」上に「『英語語源辞典』と活版印刷裏話」と題する社内の方による記事も公開されていますので,そちらもお読みください.
同辞典については,hellog や heldio で関連するコンテンツを多く公開してきました.そのリンク集として,以下の2点を紹介しておきましょう.
・ 「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1])
・ 「#5522. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年6月9日版」 ([2024-06-09-1])
YouTube 動画内で井上さんが発した,語源は「教室から酒場まで」使えるネタですね,というくだりは素敵なキャッチフレーズとなっていますね.使っていきたいと思います.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
上記の通り,本ブログの音声版・姉妹版ともいえる毎朝配信の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より,今年第2四半期にお届けしてきた配信回のなかからベスト10を決めるリスナー投票イベントを開催中です.投票会場は7月9日(火)23:59 までオープンしていますので,この機会に聴き逃した過去配信回などを聴取いただき,マイベストの10件をじっくり選んでいただければと思います.
各配信回へのアクセスは,音声コンテンツ一覧よりどうぞ.4月1日配信の「#1036. 月刊『ふらんす』で英語史の連載を始めています」 から6月30日配信の「#1127. 助動詞の英語史アレコレ」までの91回分が投票の対象となります.
今回のリスナー投票企画は,前々回の「2023年 heldio の推し配信回」および前回の「2024年第2四半期のベスト回」に続いての企画です.前回の結果は「#5466. リスナー投票による heldio 2024年第1四半期のランキング」でご報告していますので,ぜひご覧いただければ.
皆さん,今回も奮ってご投票ください.一昨日には投票を呼びかける「#1129. heldio 2024年第2四半期のベスト回を決めるリスナー投票(1人10票,7月9日まで投票受付)」を配信しました.なお,この配信回で事情を話していますが,#1113 は欠番回(幻の配信回!)となっています.
Baugh and Cable の英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で「超」精読する Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) のシリーズ企画を進めています.このシリーズは普段は有料配信なのですが,この名著を広めていきたいという思いもあり,たまにテキストを公開しながら無料配信も行なっています.これまでのシリーズ配信回のバックナンバーは「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) でご確認ください.
目下,第3章をおおよそ読了するところまで来ています.第3章の最後を飾るのが第52節 "Old English Literature" (pp. 65--68) です.古英語文学に関する重要な3ページ超の節で,短時間で超精読するにはなかなか手強い節です.これを私1人で解説するには荷が重いということで,本日6月12日(水)の夕方5時半頃より,強力な助っ人をお招きして,60分弱の対談精読実況生中継として2人でお届けする予定です(それでも終わらなければ,プレミアム限定配信 helwa で引き続き生配信することも十分にあり得ます).聴取はこちらからどうぞ.
今回は公開配信ということで,テキストも以下に掲載し公開しておきます(が,シリーズ継続のために,ぜひ本書を入手していただければ). *
52. Old English Literature. The language of a past time is know by the quality of its literature. Charters and records yield their secrets the philologist and contribute their quota of words and inflections to our dictionaries and grammars. But it is in literature that a language displays its full power, its ability to convey in vivid and memorable form the thoughts and emotions of a people. The literature of the Anglo-Saxons is fortunately one of the richest and most significant of any preserved among the early Germanic peoples. Because it is the language mobilized, the language in action, we must say a word about it.
Generally speaking, this literature is of two sorts. Some of it was undoubtedly brought to England by the Germanic conquerors from their continental homes and preserved for a time in oral tradition. All of it owes its preservation, however, and not a little its inspiration to the reintroduction of Christianity into the southern part of the island at the end of the sixth century, an event whose significance for the English language will be discussed in the next chapter. Two streams thus mingle in Old English literature, the pagan and the Christian, and they are never quite distinct. The poetry of pagan origin is constantly overlaid with Christian sentiment, while even those poems that treat of purely Christian themes contain every now and again traces of an earlier philosophy not wholly forgotten. We can indicate only in the briefest way the scope and content of this literature, and we shall begin with that which embodies the native traditions of the people.
The greatest single work of Old English literature is Beowulf. It is a poem of some 3,000 lines belonging to the type known as the folk epic, that is to say, a poem which, whatever it may owe to the individual poet who gave it final form, embodies material long current among the people. It is a narrative of heroic adventure relating how a young warrior, Beowulf, fought the monster Grendel, which was ravaging the land of King Hrothgar, slew it and its mother, and years later met his death while ridding his own country of an equally destructive foe, a fire-breathing dragon. The theme seems somewhat fanciful to a modern reader, but the character of the hero, the social conditions pictured, and the portrayal of the motives and ideals that animated people in early Germanic times make the poem one of the most vivid records we have of life in the heroic age. It is not an easy life. It is a life that calls for physical endurance, unflinching courage, and a fine sense of duty, loyalty, and honor. A stirring expression of the heroic ideal is in the words that Beowulf addresses to Hrothgar before going to his dangerous encounter with Grendel's mother: "Sorrow not... . Better is it for every man that he avenge his friend than that he mourn greatly. Each of us must abide the end of this world's life; let him who may, work mighty deeds ere he die, for afterwards, when he lies lifeless, that is best for the warrior."
Outside of Beowulf, Old English poetry of the native tradition is represented by a number of shorter pieces. Anglo-Saxon poets sang of the things that entered most deeply into their experience---of war and of exile, of the sea with its hardships and its fascination, of ruined cities, and of minstrel life. One of the earliest products of Germanic tradition is a short poem called Widsith in which a scop or minstrel pretends to give an account of his wanderings and of the many famous kings and princes before whom he has exercised his craft. Deor, another poem about a minstrel, is the lament of a scop who for years has been in the service of his lord and now finds himself thrust out by a younger man. But he is no whiner. Life is like that. Age will be displaced by youth. He has his day. Peace, my heart! Deor is one of the most human of Old English poems. The Wanderer is a tragedy in the medieval sense, the story of a man who once enjoyed a high place and has fallen upon evil times. His lord is dead and he has become a wanderer in strange courts, without friends. Where are the snows of yesteryear? The Seafarer is a monologue in which the speaker alternately describes the perils and hardships of the sea and the eager desire to dare again its dangers. In The Ruin, the poet reflects on a ruined city, once prosperous and imposing with its towers and halls, its stone courts and baths, now but the tragic shadow of what it once was. Two great war poems, the Battle of Brunanburh and the Battle of Maldon, celebrate with patriotic fervor stirring encounters of the English, equally heroic in victory and defeat. In its shorter poems, no less than in Beowulf, Old English literature reveals at wide intervals of time the outlook and temper of the Germanic mind.
More than half of Anglo-Saxon poetry is concerned with Christian subjects. Translations and paraphrases of books of the Old and New Testament, legends of saints, and devotional and didactic pieces constitute the bulk of this verse. The most important of this poetry had its origin in Northumbria and Mercia in the seventh and eighth centuries. The earliest English poet whose name we know was Cædmon, a lay brother in the monastery at Whitby. The story of how the gift of song came to him in a dream and how he subsequently turned various parts of the Scriptures into beautiful English verse comes to us in the pages of Bede. Although we do not have his poems on Genesis, Exodus, Daniel, and the like, the poems on these subjects that we do have were most likely inspired by his example. About 800, and Anglian poet named Cynewulf wrote at least four poems on religious subjects, into which he ingeniously wove his name by means of runes. Two of these, Juliana and Elene, tell well-known legends of saints. A third, Christ, deals with Advent, the Ascension, and the Last Judgment. The fourth, The Fates of the Apostles, touches briefly on where and how the various apostles died. There are other religious poems besides those mentioned, such as the Andreas, two poems on the life of St. Guthlac, a portion of a fine poem on the story of Judith in the Apocrypha; The Phoenix, in which the bird is taken as a symbol of the Christian life; and Christ and Satan, which treats the expulsion of Satan from Paradise together with the Harrowing of Hell and Satan's tempting of Christ. All of these poems have their counterparts in other literatures of the Middle Ages. They show England in its cultural contact with Rome and being drawn into the general current of ideas on the continent, no longer simply Germanic, but cosmopolitan.
In the development of literature, prose generally comes late. Verse is more effective for oral delivery and more easily retained in the memory. It is therefore a rather remarkable fact, and one well worthy of note, that English possessed a considerable body of prose literature in the ninth century, at a time when most other modern languages in Europe had scarcely developed a literature in verse. This unusual accomplishment was due to the inspiration of one man, the Anglo-Saxon king who is justly called Alfred the Great (871--99). Alfred's greatness rests not only on his capacity as a military leader and statesman but also on his realization that greatness in a nation is no simply physical thing. When he came to the throne he found that the learning which in the eight century, in the days of Bede and Alcuin, had placed England in the forefront of Europe, had greatly decayed. In an effort to restore England to something like its former state, he undertook to provide for his people certain books in English, books that he deemed most essential to their welfare. With this object in view, he undertook in mature life to learn Latin and either translated these books himself or caused others to translate them for him. First as a guide for the clergy he translated the Pastoral Care of Pope Gregory, and then, in order that the people might know something of their own past, inspired and may well have arranged for a translation of Bede's Ecclesiastical History of the English People. A history of the rest of the world also seemed desirable and was not so easily to be had. But in the fifth century when so many calamities were befalling the Roman Empire and those misfortunes were being attributed to the abandonment of the pagan deities in favor of Christianity, a Spanish priest named Orosius had undertaken to refute this idea. His method was to trace the rise of other empires to positions of great power and their subsequent collapse, a collapse in which obviously Christianity had had no part. The result was a book which, when its polemical aim had ceased to have any significance, was still widely read as a compendium of historical knowledge. This Alfred translated with omissions and some additions of his own. A fourth book that he turned into English was The Consolation of Philosophy b Boethius, one of the most famous books of the Middle Ages. Alfred also caused a record to be compiled of the important events of English history, past and present, and this, as continued for more than two centuries after his death, is the well-known Anglo-Saxon Chronicle. King Alfred was the founder of English prose, but there were others who carried on the tradition. Among these is Ælfric, the author of two books of homilies and numerous other works, and Wulfstan, whose Sermon to the English is an impassioned plea for moral and political reform.
So large and varied a body of literature, in verse and prose, gives ample testimony to the universal competence, at times to the power of beauty, of the Old English language.
終わり方も実に味わい深いですね.さて,次回からは第4章 "Foreign Influences on Old English" へと進みます.
(以下,後記:2024/06/16(Sun)
上記の生放送は2時間かけて配信されました.アーカイヴでは2回に分けてお届けしました(2回目はプレミアム限定配信となります).
(1) 「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (52) Old English Literature --- 和田忍さんとの実況中継(前半)」
(2) 「【英語史の輪 #146】 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (52) Old English Literature --- 和田忍さんとの実況中継(後半)」
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)の推し活を始めて11ヶ月ほどが経ちました.KDEE (= The Kenkyusha Dictionary of English Etymology) と略称される本辞典は日本の英語史研究の宝といってよい頼もしい存在です.本ブログでも kdee のタグのついた記事にて様々に取り上げてきました.
KDEE 推しにとって,とても嬉しいお知らせがあります.来たる6月19日に新装版が刊行されることになっているのです.研究社のサイトよりこちらのページをご覧ください.本体価格10,000円(+税)で現行版よりも値上がりしていますが,諸般の事情によるものと漏れ聞いています.それでも,この辞典がさらに普及していくために,今回の新装版刊行はおおいに歓迎すべき出来事だと思います.まだお持ちでない方は,ぜひ現行版あるいは新装版で入手され,英語史や英語語彙の学びに最大限に活用していただければ.
さて,前回の私の『英語語源辞典』推し活報告は,3ヶ月ほど前のことでした(cf. 「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1])).この3ヶ月の間にも推し活を続けてきましたので,前回の続きとして時系列で報告したいと思います.
・ 2024年3月15日 helwa のオンラインオフ会にて「『英語語源辞典』を漫然と読む/飲む」企画の第2回が開催される.
・ 2024年4月27日 朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の開講がスタートする.1年かけて全12回の講座を毎月指定土曜日に開催予定.初回は「英語語源辞典を楽しむ」.本シリーズ講座では KDEE 以外の英語語源辞典も参照するがメインは KDEE.なお,2018年にも『英語語源辞典』に注目しつつ朝カルで英語語源講座を開いたことがある(cf. 「#3381. 講座「歴史から学ぶ英単語の語源」」 ([2018-07-30-1])).
・ 2024年5月14日 heldio/helwa リスナーの lacolaco さんによる note 上の「英語語源辞典通読ノート」にて,A の項目が踏破された旨が報告される.偉業.
・ 2024年5月18日 朝カルのシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第2回「英語語彙の歴史を概観する」が開講される.
・ 2024年6月6日 heldio にて「#1101. 『英語語源辞典』凡例読みシリーズ with 藤原郁弥さん&青木輝さん」が配信される.
・ 2024年6月8日 朝カルのシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第3回「英単語と「グリムの法則」」が開講される.
皆さんも,どのような形であれ,ぜひ KDEE 推し活にご参加いただければ!
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
「#5461. この4月,皆さんの「hel活」がスゴいことになっています」 ([2024-04-09-1]) や「#5484. heldio/helwa リスナーの皆さんの「hel活」をご紹介」 ([2024-05-02-1]) などでご紹介した活動的なhel活実践者の1人 lacolaco さんが,note 上で「英語語源辞典通読ノート」という企画を展開されています.『英語語源辞典』(研究社,1997年)を通読しようという遠大なプロジェクトで,目下Aの項を終えてBの項へと足を踏み入れています.特におもしろい語源の単語がピックアップされており,とても勉強になります.
lacolaco さんは,プログラマーを本業としており,Spotify/Apple Podcast/YouTube にて「リファラジ --- リファクタリングとして生きるラジオ」をお相手の方とともに定期的に配信されています.私自身は言語処理のために少々プログラムを書く程度のアマチュアプログラマーにすぎませんが,「リファクタリング」は興味をそそられる主題です.
リファラジ最新回は6月4日配信の「#25 GoF③ Singleton パターンには2つの価値が混ざっている」です.プログラムのデザインパターンとしての「Singleton」が話題となっていますが,配信の9:00辺りで,そもそも singleton という英単語は何を意味するのか,とりわけ -ton の部分は何なのかという問いが発せられています.
『英語語源辞典』には見出しが立っていなかったので,他の辞典等に当たってみました.ここでは OED より singleton NOUN2 の項目をみてみましょう.
1. Cards. In whist or bridge: The only card of a suit in a hand. Also attributive.
1876 If..the lead is a singleton..it may be right to put on the ace. (A. Campbell-Walker, Correct Card Gloss. p. vi)
初出は1876年で,トランプの「1枚札」が原義となっています.その後「ひとりもの」「1個のもの」「単集合(1つの構成要素しかもたない集合)」などの語義が現われています.語源欄には次のようにあります.
single adj. + -ton (in surnames with that ending). Compare simpleton n.
問題の語尾の -ton については,OED は,姓にみられる接尾辞 -ton だろうと見ているようです.ここで simpleton を参照せよとあります.確かに single と simple は究極的には同語根に遡るラテン借用語ですし,関連はありそうです.simpleton の語源欄をみてみましょう.
Probably < simple adj. + -ton (in surnames with that ending), probably originally as a (humorous) surname for a generic character (compare quot. 1639 and note at sense 1).
地名に付される接尾辞 -ton の転用という趣旨のようです.この -ton は,古英語 tūn (囲われた土地)に由来し,現代の town に連なります (exx. Hampton, Newton, Padington, Princeton, Wellington) .ちなみに,地名に由来する姓は一般にみられるものです.
この simpleton の初例は1639年となっており,まぬけな人物をからかって呼ぶニックネームとして使われています.
1. An unintelligent, ignorant, or gullible person; a fool.
In quot. 1639 as a humorous surname for a character who gathers medicinal herbs and is also characterized as stupid, and so with punning reference to simple n. B.II.4a.
1639 Now Good-man Simpleton... I see you are troubled with the Simples, you had not need to goe a simpling every yeare as you doe, God knowes you have so little wit already. (J. Taylor, Divers Crabtree Lectures 10)
以上をまとめれば,simpleton という造語は単純まぬけの「単山さん」といったノリでしょうか.言葉遊びともいうべきこの語形成が,後に simple と同根関連語の single にも類推的に適用され,singleton という語ができあがったと想像されます.
地名と関連して town, -ton については「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1]),「#1395. up and down」 ([2013-02-20-1]),「#5304. 地名 Grimston は古ノルド語と古英語の混成語ではない!?」 ([2023-11-04-1]) を参照.
なお,やはりhel活実践者であるり~みんさんも,リファラジからの singlton 語源問題について,こちらの note コメントで反応されています.
ここ数日間で,知識共有サービス Mond に寄せられてきた英語関連の素朴な疑問 (sobokunagimon) に5件ほど回答しました.新しい順に並べ,リンクを共有します.
(1) どうして英語には冠詞がいるのでしょうか? なくても意味が通じるような気がします.冠詞がないと困るケースはあるのでしょうか? または,冠詞は言語史上淘汰されていったりするケースはないのでしょうか?
(2) どうして英語は "a" だけでもいろいろな発音があるのでしょうか? 単語ごとにちがったり,単語のどの位置あるかによってちがったり 何か理由などはあるのでしょうか?
(3) 不定詞の意味上の主語について質問です.
a. I want him to win the game.
b. It's easy for me to solve the problem.
c. It's kind of you to give me a call.
この3つの英文のように,なぜ前置詞がつかなかったり,for や of のような前置詞がついたりするんですか? 受験生のときに統一してくれっと何度も思いました.
(4) 小学2年の娘が poor をポールと発音していました.これはプアって読むんだよ,と言うと po って並んでるのはポだからプって読むのはおかしい!と納得してくれません.語源から納得のできる説明ってできるのでしょうか?
(5) 英語に取り入れられた日本語の語末の "e" についてお聞きしたいです.酒 sake セイクではなくサキ,カラオケ karaoke キャラオウクではなくキャリオキ,空手 karate キャレイトではなくキャラァアティみたいな発音になります.一般的な英語の発音ルールではないと思うのですが,これらの語末が /iː/ っぽくなるのはなぜでしょうか?
とりわけ (1) の冠詞の疑問については,こちらの X ポストで注目され,インプレッションが2.5万を超えています.
それにしても,なぜ「素朴な疑問」というのはこれほど魅力的で,答えるのが難しいのでしょうか! 思いも寄らない角度からボールが飛んできて,常識を揺さぶられます.Mond へ,あっと驚く質問をお寄せください.
毎週水・日の午後6時に,同僚の井上逸兵先生とともに「いのほた言語学チャンネル」をお届けしています.水曜日の回は「言語学バル」と題し,ゲストをお迎えしてビールを飲みながら,肩の凝らない動画を配信しています.
目下「言語学バル」では,先週から始まって4週間にわたり,同僚の英文学者井出新(いであらた)先生をゲストとしてお招きし,3人でトークを繰り広げています.井出先生のご専門は,Christopher Marlowe (1564--1603) や William Shakespeare (1564--1616) を中心とする初期近代の劇作家とその周辺です.
先週の第1回動画は「シェイクスピア・近代演劇の第一人者・井出新さん(慶應義塾大学)が語るシェイクスピア時代の言語と社会」(上記の左側の動画)という導入の回でした.昨日公開された第2回動画は「中世も近代演劇も四体液説を知らねばわからない!?」(右側の動画)です.3人とも調子が出てきました.来週以降の続編もお楽しみに.
さて,我々3人の所属する慶應義塾大学文学部英米文学専攻では「慶大文英米文学専攻公式チャンネル」という YouTube チャンネルが開設されています.必ずしもタイミングを狙ったわけではないのですが,最近そちらの公式チャンネル内で始まった「英米カフェ」シリーズの第1回にも井出先生がご登場しています.「井出新(英文学)×原田範行(英文学)×井上逸兵(英語学)」も合わせて視聴いただければ.
井出先生と関連して,以下の各種メディアのコンテンツもご参照ください.
・ hellog 「#5507. YouTube 「英米カフェ」第1回 「井出新(英文学)×原田範行(英文学)×井上逸兵(英語学)」」 ([2024-05-25-1])
・ hellog 「#5357. 井出新先生との対談 --- 新著『シェイクスピア それが問題だ!』(大修館,2023年)をめぐって」 ([2023-12-27-1])
・ heldio 「#934. 『シェイクスピア,それが問題だ!』(大修館,2023年) --- 著者の井出新先生との対談」
・ いのほた言語学チャンネル 「#195. 井出新さん『シェイクスピア,それが問題だ! --- シェイクスピアを楽しみ尽くすための百問百答』(大修館書店)のご紹介」
新年度より,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.
これまでに第1回「語源辞典でたどる英語史」を4月27日(土)に,第2回「英語語彙の歴史を概観する」を5月8日(土)に開講しましたが,それぞれ驚くほど多くの方にご参加いただき盛会となりました.ご関心をお寄せいただき,たいへん嬉しく思います.
第3回「英単語と「グリムの法則」」は来週末,6月8日(土)の 17:30--1900 に開講されます.シリーズを通じて,対面・オンラインによるハイブリッド形式での開講となり,講義後の1週間の「見逃し配信」サービスもご利用可能です.シリーズ講座ではありますが,各回はおおむね独立していますし,「復習」が必要な部分は補いますので,シリーズ途中からの参加でも問題ありません.ご関心のある方は,こちらよりお申し込みください.
2回かけてのイントロを終え,次回第3回は,いよいよ英語語彙史の各論に入っていきます.今回のキーワードはグリムの法則 (grimms_law) です.この著名な音規則 (sound law) を理解することで,英語語彙史のある魅力的な側面に気づく機会が増すでしょう.グリムの法則の英語語彙史上の意義は,思いのほか長大で深遠です.英語語彙学習に役立つことはもちろん,印欧語族の他言語の語彙への関心も湧いてくるだろうと思います.『英語語源辞典』(研究社,1997年)をはじめとする語源辞典や,一般の英語辞典も含め,その使い方や読み方が確実に変わってくるはずです.
講座ではグリムの法則の関わる多くの語源辞典で引き,記述を読み解きながら,実践的に同法則の理解を深めていく予定です.どんな単語が取り上げられるかを予想しつつ講座に臨んでいただけますと,ますます楽しくなるはずです.『英語語源辞典』をお持ちの方は,巻末の「語源学解説」の 3.4.1. Grimm の法則,および 3.4.2. Verner の法則 を読んで予習しておくことをお薦めします.
参考までに,本シリーズに関する hellog の過去記事へのリンクを以下に張っておきます.第3回講座も,多くの皆さんのご参加をお待ちしております.
・ 「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1])
・ 「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1])
・ 「#5486. 5月18日(土)の朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」のご案内」 ([2024-05-04-1])
(以下,後記:2024/05/30(Thu))
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
Sweet's Anglo-Saxon Primer (20--21) より古英語の数詞 (numeral) を挙げる.基数詞 (cardinal numbers) と序数詞 (ordinal numbers) の各々を列挙する.
Cardinal | Ordinal | |
1(st) | ān | forma |
2(nd) | twā | ōþer |
3(rd) | þrēo | þridda |
4(th) | fēower | fēorþa |
5(th) | fīf | fīfta |
6(th) | siex | siexta |
7(th) | seofon | seofoþa |
8(th) | eahta | eahtoþa |
9(th) | nigon | nigoþa |
10(th) | tīen | tēoþa |
11(th) | en(d)leofon | en(d)leofta |
12(th) | twelf | twelfta |
13(th) | þrēo-tīene | þrēo-tēoþa |
... | ... | ... |
19(th) | nigon-tīene | nigon-tēoþa |
20(th) | twen-tiġ | twentigoþa |
30(th) | þrī-tiġ | þrītigoþa |
40(th) | fēower-tiġ | fēowertigoþa |
50(th) | fīf-tiġ | fīftigoþa |
60(th) | siex-tiġ | siextigoþa |
70 | hund・seofon-tiġ | |
80 | hund・eahta-tiġ | |
90 | hund・nigon-tiġ | |
100 | hund, hundred, hund・tēon-tiġ | |
110 | hund・endleofon-tiġ | |
120 | hund・twelf-tiġ | |
1000 | þūsend |
一昨日の5月12日,khelf(慶應英語史フォーラム)発行の『英語史新聞』第9号がウェブ上で公開されました.こちらよりPDFで自由に閲覧・ダウンロードできます.
khelf では,2022年4月1日の創刊号の発行以来,おおよそ3ヶ月に1度のペースで最新号を発行してきました.今年度で3年目に入りますが,編集委員会一同,順調に号を重ねてくることができました.継続的にお読みいただき応援いただいている皆さんのおかげです.ありがとうございます.
第9号の記事のラインナップは以下の通りです.
・ 息づかいの風景(第1面)
・ 天候の it ってなんだ?(第1面)
・ nearer は「より近くに」!? ~analysis と analogy から考える,言語変化の担い手~(第2面)
・ 英語史ラウンジ by khelf 「第3回 小河舜先生(Part 2)」(第3面)
・ 英語史コンテンツ50+ -2024- が始まっています! ~過去の人気コンテンツ紹介~(第4面)
今号の執筆陣は,学部4年生から大学院博士課程の学生まで,さらに通信教育課程の卒業生も含めて,皆で協力して作りました.ですので,いずれも目玉記事です.一文字一文字に注意を払いつつ丁寧に作りましたので,ぜひ時間をかけてゆっくりとご堪能いただければ幸いです.
もし学校の授業などの公的な機会(あるいは,その他の準ずる機会)にお使いの場合には,ぜひこちらのフォームを通じてご一報くださいますと khelf の活動実績の把握につながるほか,『英語史新聞』編集委員の励みともなります.ご協力のほどよろしくお願いいたします.ご入力いただいた学校名・個人名などの情報につきましては,khelf の実績把握の目的のみに限り,記入者の許可なく一般に公開するなどの行為は一切行なわない旨,ここに明記いたします.フォームへの入力を通じ,khelf による「英語史をお茶の間に」の英語史活動(hel活)への賛同をいただけますと幸いです.
最後に『英語史新聞』のバックナンバー(号外を含む)も紹介しておきます.こちらも合わせてご一読ください(khelf HP のこちらのページにもバックナンバー一覧があります).
・ 『英語史新聞』第1号(創刊号)(2022年4月1日)
・ 『英語史新聞』号外第1号(2022年4月10日)
・ 『英語史新聞』第2号(2022年7月11日)
・ 『英語史新聞』号外第2号(2022年7月18日)
・ 『英語史新聞』第3号(2022年10月3日)
・ 『英語史新聞』第4号(2023年1月11日)
・ 『英語史新聞』第5号(2023年4月10日)
・ 『英語史新聞』第6号(2023年8月14日)
・ 『英語史新聞』第7号(2023年10月30日)
・ 『英語史新聞』第8号(2023年3月4日)
(以下,後記:2024/05/16(Thu))-->
新年度より,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.
第1回「語源辞典でたどる英語史」は,4月27日(土)の 17:30--19:00 に開講され,おかげさまで盛況のうちに終了しました.こちらの回については,本ブログでも「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1]) および「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1]) で事前・事後に取り上げました.
第2回「英語語彙の歴史を概観する」は2週間後の5月18日(土)の 17:30--1900 に開講される予定です.対面・オンラインによるハイブリッド開講で,「見逃し配信」サービスもご利用可能です.第1回を逃した方も問題なくご参加いただけます.ご関心のある方は,ぜひこちらよりお申し込みください.
第2回は,シリーズ全体のイントロとして,1500年以上にわたる英語語彙史を俯瞰してみます.今後のシリーズ展開に向けて,英語の語彙の変遷について大きな見通しを得ることが目標です.英語語彙史を概観していく過程で,英語史の各時代からいくつかのキーワードをピックアップして『英語語源辞典』(研究社,1997年)をはじめとする各種の英語語源辞典を参照します.同辞典をお持ちの方は,ぜひお手元にご用意しつつ,講座にご参加ください.どんな単語が取り上げられるかを予想しながら講座に臨んでいただければ.
(以下,後記:2024/05/14(Tue))
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
先日公開された「いのほた言語学チャンネル」(旧「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」)の最新回は,「綴字と発音の乖離」 (spelling_pronunciation_gap) をめぐる素朴な疑問を取り上げています.「#227. Who の発音はなぜへんなのか? --- 点々と h とアクセント記号は同じ役割?」です.
この話題を取り上げるきっかけとなったのは,2ヶ月ほど前に khelf(慶應英語史フォーラム)より発行された『英語史新聞』第8号の第4面内で示した「変なアルファベット表」です.
「変なアルファベット表」の作成企画については,「#5434. 「変なアルファベット表」完成」 ([2024-03-13-1]) で取りまとめた通りですが,そのなかで <w> で始まる単語として注目されたのが who でした.なぜこの綴字で /huː/ と読むのでしょうか.語頭の子音字連続で /h/ に対応するのも妙ですし,母音字の /uː/ の対応も気になります.
動画では問題の表面をなでるほどで説明が終わってしまいましたが,関連する論点や問題はたくさんあります.以下に関連する議論へのリンクを張っておきますので,ご関心のある方はぜひ理解を深めてみてください.
[ hellog ]
・ 「#1783. whole の <w>」 ([2014-03-15-1])
・ 「#1795. 方言に生き残る wh の発音」 ([2014-03-27-1])
・ 「#2423. digraph の問題 (1)」 ([2015-12-15-1])
・ 「#2424. digraph の問題 (2)」 ([2015-12-16-1])
・ 「#3630. なぜ who はこの綴字でこの発音なのか?」 ([2019-04-05-1])
・ 「#3938. 語頭における母音の前の h ばかりが問題視され,子音の前の h は問題にもされなかった」 ([2020-02-07-1])
[ heldio ]
・ heldio 「#75. what は「ワット」か「ホワット」か?」
・ heldio 「#253. なぜ who はこの綴字で「フー」と読むのか?」
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