様々な言語における標準化の歴史を題材とした本が出版されました.
・ 高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著)『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年.
私も編著者の1人として関わった本です.5年近くの時間をかけて育んできた研究会での発表や議論がもととなった出版企画が,このような形で結実しました.とりわけ「対照言語史」という視点は「海外の言語学の動向を模倣したものではなく,われわれが独自に提唱するもの」 (p. 4) として強調しておきたいと思います.例えば英語と日本語を比べるような「対照言語学」 (contrastive_linguistics) ではなく,英語「史」と日本語「史」を比べてみる「対照言語史」 (contrastive_language_history) という新視点です.
この本の特徴を3点に絞って述べると,次のようになります.
(1) 社会歴史言語学上の古くて新しい重要問題の1つ「言語の標準化」 (standardisation) に焦点を当てている
(2) 日中英独仏の5言語の標準化の過程を記述・説明するにとどまらず,「対照言語史」の視点を押し出してなるべく言語間の比較対照を心がけた
(3) 本書の元となった研究会での生き生きとした議論の臨場感を再現すべく,対話的脚注という斬新なレイアウトを導入した
目次は以下の通りです.
まえがき
第1部 「対照言語史」:導入と総論
第1章 導入:標準語の形成史を対照するということ(高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一)
第2章 日中英独仏 --- 各言語史の概略(田中 牧郎・彭 国躍・堀田 隆一・高田 博行・西山 教行)
第2部 言語史における標準化の事例とその対照
第3章 ボトムアップの標準化(渋谷 勝己)
第4章 スタンダードと東京山の手(野村 剛史)
第5章 書きことばの変遷と言文一致(田中 牧郎)
第6章 英語史における「標準化サイクル」(堀田 隆一)
第7章 英語標準化の諸相 --- 20世紀以降を中心に(寺澤 盾)
第8章 フランス語の標準語とその変容 --- 世界に拡がるフランス語(西山 教行)
第9章 近世におけるドイツ語文章語 --- 言語の統一性と柔軟さ(高田 博行・佐藤 恵)
第10章 中国語標準化の実態と政策の史話 --- システム最適化の時代要請(彭 国躍)
第11章 漢文とヨーロッパ語のはざまで(田中 克彦)
あとがき
hellog でも言語の標準化の話題は繰り返し取り上げてきました.英語の標準化の歴史は確かに独特なところもありますが,一方で今回の「対照言語史」的な議論を通じて,他言語と比較できる点,比較するとおもしろい点に多く気づくことができました.
「対照言語史」というキーワードは,2019年3月28日に開催された研究会にて公式に初めてお披露目しました(「#3614. 第3回 HiSoPra* 研究会のお知らせ」 ([2019-03-20-1]) を参照).その後,「#4674. 「初期近代英語期における語彙拡充の試み」」 ([2022-02-12-1]) で報告したように,今年の1月22日,ひと・ことばフォーラムのシンポジウム「言語史と言語的コンプレックス --- 「対照言語史」の視点から」にて,今回の編者3人でお話しする機会をいただきました.今後も本書出版の機会をとらえ,対照言語史の話題でお話しする機会をいただく予定です.
hellog 読者の皆様も,ぜひ対照言語史という新しいアプローチに注目していたければと思います.
・ 高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著)『言語の標準化を考える 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年.
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