hellog〜英語史ブログ

#4506. World Englishes の全体的傾向3点[world_englishes][variety][medium][register]

2021-08-28

 Mair (116) によると,世界英語 (world_englishes) の研究者たちがおよそ合意している主たるトレンドが3つあるという.

1. Accent divides, whereas grammar unites (with the lexicon being somewhere in between)
2. There is divergence in speech, but convergence in writing.
3. Variation is suppressed in public and formal discourse, but pervasive in informal settings.


 このように言われると,直感的にいずれもその通りなのだろうと思われ,驚きはしない.ただ,ここで指摘されている世界英語の傾向は,世界英語コーパスなどによる客観的で実証的な研究によっておよそ裏付けられるという点が重要である.大雑把にいえば,話し言葉に典型的なインフォーマルな英語使用においては,諸変種間で大きな違いがみられるが,書き言葉に典型的なフォーマルな英語使用では,標準への指向がみられるということだ.
 この3点は,一見およそ似たようなことを述べているようにも思われるかもしれない.確かに互いに重なる部分があるのも事実である.しかし,各々は原則として異なる軸足に立った傾向の指摘となっていることに注意したい.1点目は,発音か文法か(語彙か)という言語部門に関するパラメータに基づいている.2点目は話し言葉か書き言葉かという媒体の問題に関係する.3点目は,社会語用論的なセッティング,端的にいえばフォーマルかインフォーマルかという言語使用の背景に注目している.
 話し言葉といえば,たいていインフォーマルであり,当然ながら発音の差異に関心が向くだろう.しかし,フォーマルな話し言葉の使用は学術講演や政治演説などで普通に観察されるし,そこでは発音と比べれば相対的に目立たないだけで当然ながら文法や語彙も関与しているのである.また,書き言葉といえばフォーマルとなることが多いが,チャットや会話のスクリプトのように必ずしもそうではない書き言葉の使用はいくらでもあるし,発音の変異を反映する非標準的なスペリング使用もみられる.
 3つのパラメータは,互いに重なるが原理的には独立したものとして理解しておくのが適切である.この点については「#230. 話しことばと書きことばの対立は絶対的か?」 ([2009-12-13-1]),「#2301. 話し言葉と書き言葉をつなぐスペクトル」 ([2015-08-15-1]),「#839. register」 ([2011-08-14-1]) などを参照されたい.

 ・ Mair, Christian. "World Englishes and Corpora." Chapter 6 of The Oxford Handbook of World Englishes. Ed. by Markku Filppula, Juhani Klemola, and Devyani Sharma. New York: OUP, 2017. 103--22.

Referrer (Inside): [2021-10-19-1] [2021-08-29-1]

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