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literature - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-06-25 07:36

2011-02-26 Sat

#670. 中英語ロマンスにおける formula の割合 [literature][romance][statistics][formula]

 中世ロマンスの言語上の大きな特徴の1つに,formula の多用がある.stock phrase とも言われ「決まり文句,常套句」を指す.formula の定義には,表現の幅を限定したきわめて狭いものから,語彙や統語のレベルでの型に適合していればよいとする広いものまであるが,多くの formula 研究は Milman Parry の次の定義から出発している.

A formula is "a group of words which is regularly employed under the same metrical conditions to express a given essential idea." (qtd in Wittig, p. 15 as from "Studies in the Epic Technique of Oral Verse-Making. I: Homer and Homeric Style." Harvard Studies in Classical Philology 41 (1930). page 80.)


 formula の具体例を挙げればきりがないが,"'Dame,' he said", "that hendi knight", "feyre and free" などの短いものから,"He was a bolde man and a stowt", "And he were neuer so blythe of mode", "For to make the lady glade / That was bothe gentyll and small" などの長いものまで様々である.Wittig によれば,中英語の韻文ロマンス25作品から Parry の条件を厳密に満たす formula を含む行を抜き出したところ,以下のような結果が得られた.

POEMLENGTHVERSE TYPEFORMULA RATE
Lai le freine340 linescouplet10%
Sir Landeval500couplet11
Sir Launfal1044tail-rhyme16
King Horn1644couplet18
Sir Degare1076couplet21
Havelok2822couplet21
Sir Isumbras804tail-rhyme22
Sir Amadace864tail-rhyme22
Sir Perceval2288tail-rhyme22
Horn Child1138tail-rhyme24
Roswall and Lillian885couplet25
Ocatvian (southern)1962tail-rhyme25
Sir Triamour1719tail-rhyme25
Earl of Toulous1224tail-rhyme26
Ywain and Gawayn4032couplet27
Sir Eglamour1377tail-rhyme29
Squyr of Lowe Degre1131couplet30
Lebeaus Desconus2131tail-rhyme30
Sir Torrent2669tail-rhyme31
Bevis of Hampton4332couplet34
Eger and Grime1474couplet35
Sir Degrevant1920tail-rhyme38
Octavian (northern)1731tail-rhyme39
Floris and Blancheflur1083couplet41
Emare1030tail-rhyme42


 平均をとると,各テキストを構成する行数の26.56%が formula を含んでいることになる.couplet では平均が24.82%,tail-rhyme では27.93%だが,大差はない.また,テキストの長さと formula 行の割合には強い相関はない.Wittig の研究では,Arthur,Troy,Alexander ものなどの "cycle" は含まれていない.参照テキストを限定し,定義を厳密にし,あくまで低めに抑えられた数え上げなので,定義を緩くすれば相当に数値が上がるはずだという.
 ロマンスのテキストの約1/4が formula から成っているとすると,聴衆にとって次にどのような文言が現われるかは予測可能ということになる.また,ロマンスは物語としての筋もおよそ決まっているので,聴衆にとって「新情報」を得る機会は非常に少ないと考えられる.では,そのようなロマンスが中世に大流行したのはなぜか.聴衆はロマンスに何を期待していたのだろうか.

 ・ Wittig, Susan. Stylistic and Narrative Structures in the Middle English Romances. Austin and London: U of Texas P, 1978.

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2011-02-15 Tue

#659. 中英語 Romaunce の意味変化とジャンルとしての発展 [literature][romance][semantic_change]

 [2010-11-06-1]の記事で romance という語の語源と romance という文学ジャンルの発生との関係を見た.ジャンルとしての romance は12世紀後半のフランスに始まり,英文学では13世紀終わりになってようやく現われた.フランスでもイギリスでも romans あるいは romaunce は,ジャンルとして成長するにつれ,多義的になっていった.逆にいえば語義の発展の仕方を見ることで,ジャンルとしてどのように発展していったかも分かるということである.
 まずフランスではどのように捉えられたか.[2010-11-06-1]の記事で見たとおり,romans は文字通りには「ロマンス語」を原義とした.具体的にはラテン語に対する土着語 ( vernacular language ) としての古フランス語 ( Old French ) を指す.フランスの書き手たちは,Statius の Thebaid, Virgil の Aeneid, Benoît de Sainte-Maure のトロイ陥落,Wace のブリテン史など,主にラテン語で伝えられた古代の物語 ( romans d'antiquité ) を,ラテン語を解さない人々にも理解できるように romans (土着のフランス語)で書き直した.ここから,romans は「フランス語で書かれた物語」を意味するようになった.この初期の romans の書き手たちは,後にジャンルとしてのロマンスと結びつけられる種々の特徴を特に意図していたわけではなかったが,情事,登場人物の心理,奇妙で不思議な出来事といった主題に光を当てる独創性を示していたのは確かである.romans の語義がある特徴をもった物語の主題を指すようになるのは12世紀の終わり,ロマンスのジャンルを明確に切り開いた Chrétien de Troyes 辺りからと考えられる.口承法と詩形の観点からも,歌われる chançon ではなく語られる物語として,武勲詩の節 laisse ではなく8音節詩行 ( octosyllabic ) として,romans は独自性を帯びてくるようになる.こうして,フランス語の romans は,「フランス語」,「フランス語で書かれた物語」,「内容的にある特徴をもった物語」,「形式的にある特徴をもった物語」へと意味を発展させ,文学ジャンルを表わす一般呼称として徐々に定着していった.
 意味変化の用語で整理すると,「言語」から「その言語で書かれたもの」への換喩 ( metonymy ) と,「その言語で書かれたもの」から「内容的にある特徴をもった物語」への意味の特殊化 ( specialisation ) が生じていることになる.
 次に,イギリスにおける romaunce の語義の発展はどうだったろうか.フランスの romans 作品は,Anglo-Norman という媒体を通じて早くからイギリスにもたらされていたが,英語という媒体に乗せられるのは13世紀も終わり頃のことである.ほぼすべてがフランス語からの翻訳であったので,英語 romaunce は当初は「フランス語で書かれた物語」を広く指す意味として出発した.しかし,時間をおかずに,媒体言語ではなく主題に注目する新たな語義も派生した.媒体言語が英語であっても,ある人物に焦点を当てた物語は広く romaunce と呼ばれるようになった.ある人物の人生が描かれる際に,しばしば幻想的な脚色や色事が付加されたが,説教文学はその点を取り上げて romaunce を世俗的なものとして非難した.興味深いことに,説教文学が自らを romaunce と対立させたその観点こそが romaunce という文学を後に特徴づけることになったのである.中世(そして現代)におけるロマンス文学の世俗的な人気を考えると,皮肉なことである.こうして,英語の romaunce は「フランス語で書かれた物語」,「ある人物に焦点を当てた物語」,「内容的にある特徴をもった物語」へと語義を発展させていった.ここでも,意味の特殊化 ( specialisation ) が生じている.

・ Strohm, Paul. "The Origin and Meaning of Middle English Romaunce." Genre 10.1 (1977): 1--28.

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2010-11-06 Sat

#558. Romance [literature][romance][etymology]

 日本語で「ロマンス」といって一般的に想起されるのは恋愛物語だろう.文学のジャンルとしてのロマンスは,中世以来様々な発展を遂げながら現代にまで強い影響力を及ぼしている.一方で,比較言語学の分野で「ロマンス」といえば,インドヨーロッパ語族のイタリック語派の主要な諸言語を含むロマンス語派のことを指す.具体的には,ラテン語とそこから派生したフランス語,スペイン語,ポルトガル語,イタリア語,プロバンス語,レト=ロマンシュ語,ルーマニア語,カタルニア語などの総称である.では,「ロマンス」のこの2つの語義は関連しているのだろうか.
 答えは Yes .深く関連している.英語 romance は古フランス語 romanz からの借用語で,後者は俗ラテン語 *Rōmānicē 「ロマンス語で」,さらにラテン語 Rōmānicus 「ローマの」に遡るとされる.古フランス語では,この語はラテン語に対してラテン語から発達した土着語であるフランス語を指す表現として用いられた.この土着のフランス語 ( = Romance ) で書かれた土着の文学は騎士道,恋愛,冒険,空想,超自然を主題とした緩やかなまとまりを示しており,新しい文学ジャンルを発達させることになった.こうして「ロマンス」は,ラテン語から派生した土着語を指すとともに,同時にそれで書かれた中世の独特な文学を指すことになった.
 文学ジャンルとしてのロマンスは12世紀半ばにフランスで生まれたが,英語に入ってきたのは1世紀以上も遅れてのことである.この遅れは,ノルマン征服によってイングランドにおける英語の社会的地位が下落し,書き言葉としての英語が再び復活するまでにしばらく時間がかかったことによる.イングランドでは英語より先にラテン語,フランス語,アングロ・ノルマン語によるロマンス作品が生まれており,後にこれら先発の作品を翻訳するという形で英語のロマンスが登場してきた.こうして13世紀後半から15世紀にかけて英語のロマンス作品が広く著わされることとなったが,ロマンスの流行は近代に入って衰退する.しかし,ロマンスはジャンルとして廃れることはなく脈々と現在にまで受け継がれている.18世紀にはゴシック・ロマンスという形で復活を果たしたし,20世紀以降の J. R. R. Tolkien, C. S. Lewis, J. K. Rowling などの作品に代表されるファンタジーの要素はロマンスの型を現在に伝えている.
 ロマンスの定義は難しい.慣用的な表現形式や騎士道,冒険,空想といった主題の点で共通要素をもった作品の集合体とみることはできるが,その具体的な現われは国・地域や時代とともに実に多岐にわたる.この多様性,柔軟性,個別性こそがロマンス人気の息の長さを説明しているように思われる.Chism (57) が,ロマンスの特性についての Cooper の言及を紹介している.

Helen Cooper suggests that romance is best conceived as a family, branching and evolving in different directions, rather than as manifestations or "clones of a single Platonic idea," and this family metaphor is useful because it stresses the genre's existence in time.


 ロマンスは,ジャンルとして常に進化し枝葉を展開してきたからこそ,時代を超えて読者を惹きつけるのだろう.

 ・ Chism, Christine. "Romance." Chapter 4 of The Cambridge Companion to Medieval English Literature 1100-1500. Ed. Larry Scanlon. Cambridge: CUP, 2009. 57--69.

Referrer (Inside): [2011-04-27-1] [2011-02-15-1]

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2010-10-21 Thu

#542. 文学,言語学,文献学 [philology][pragmatics][linguistics][literature]

 文学 ( literature ) と言語学 ( linguistics ) のあいだの距離が開いてきたということは,すでに言われるようになって久しい.また,文献学 ( philology ) が20世紀後半より衰退してきていることも,随所で聞かれる.この2点は,広く世界的にも英語の領域に限っても等しく認められるのではないか.もちろん両者は互いに深く関係している.
 Fitzmaurice (267--70) がこの状況を簡潔に記しているので,まとめておきたい.

(1) 20世紀後半より,言語学は文学テクストを不自然な言葉として避けるようになった.
(2) 一方で文学は理論的な方法論を追究し,言葉そのものへの関心からは離れる傾向にあった.例えば現在の英文学の主流に新歴史主義 ( new historicism ) があるが,その基礎は英語史の知見にあるというよりは人類学の発展にある.
(3) 言語学は,逸話よりも数値を重視する方向で進んできた.
(4) 一方で文学は,数値よりも逸話を重視する方向で進んできた.

 このように文学と言語学が両極化の道を歩んできたことは,当然その間に位置づけられる文献学の衰退にもつながってくる.文学と言語学の方法論をバランスよく取り入れた文献学的な研究というものが一つの目指すべき理想なのだろうが,それが難しくなってきている.もっとも,この10年くらいは上記の認識が各所で危惧をもって表明されるようになり,文学と言語学を近づけ,文献学に新たな息を吹き込むような新たな試みが出始めてきている.近年の歴史語用論 ( historical pragmatics ) の盛り上がりも,その新たな試みの一つの現われと考えられるだろう.

 ・ Fitzmaurice, James. "Historical Linguistics, Literary Interpretation, and the Romances of Margaret Cavendish." Methods in Historical Pragmatics. Ed. Susan Fitzmaurice and Irma Taavitsainen. Berlin: Mouton de Gruyter, 2007. 267--84.

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