hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     前ページ 1 2 3 4 5 次ページ / page 3 (5)

ame_bre - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2017-04-21 Fri

#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」 [notice][link][ame_bre][history][calendar][z][rensai][sobokunagimon]

 4月20日付で,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第4回の記事「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」が公開されました.
 今回は,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の6.1節「なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?」および6.2節「アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?」で扱った英語の英米差について,具体的な単語のペア autumn vs fall を取り上げて,歴史的に深く解説しました.言語を単線的思考ではなく複線的思考で見直そう,というのが主旨です.
 英語の英米差は,英語史のなかでもとりわけ人気のある話題なので,本ブログでも ame_bre の多く取り上げてきました.今回の連載記事で取り上げた内容やツールに関わる本ブログ内記事としては,以下をご参照ください.

 ・ 「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」 ([2010-03-08-1])
 ・ 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])
 ・ 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1])
 ・ 「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1])
 ・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
 ・ 「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1])
 ・ 「#965. z の文字の発音 (2)」 ([2011-12-18-1])
 ・ 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1])

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2016-08-20 Sat

#2672. イギリス英語は発音に,アメリカ英語は文法に社会言語学的な価値を置く? [ame_bre][sociolinguistics][prescriptivism][prescriptive_grammar]

 アメリカ英語母語話者はイギリス英語母語話者よりも規範的な文法や語法を重視する傾向が強いといわれる.アメリカ英語に蔓延する規範主義的な性格は,「#897. Web3 の出版から50年」 ([2011-10-11-1]) や「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1]) でも述べたように,伝統といえるものである.これには様々な歴史的理由があると思われるが,古典的英語史書の著者 Algeo and Pyles (209--10) が,英米を対比しながら社会言語学な価値の在処という観点から1つの見解を示している.

Perhaps because pronunciation is less important in America than it is in Britain as a mark of social status, American attitudes toward language put somewhat greater stress on grammatical "correctness," based on such matters as the supposed "proper" position of only and other shibboleths.


 Algeo and Pyles は何気なくこの見解を述べたのかもしれないが,この発言の背後には「いずれの共同体においても何らかの社会言語学的な区別はあるものだ」という前提があるように思われる.イギリスには主として階級を標示するものとしての発音の差異があり,アメリカには主として教養や道徳の有無を標示するものとしての文法の差異があるのだ,と.社会言語学的な区別の種類と手段こそ両国のあいだで異なるが,いずれにせよ存在はする,という主張だ.
 議論のためにこの見解を受け入れるとしても,なぜその手段がイギリスでは発音であり,アメリカでは文法であるのかという問題は残る.これは英語歴史社会言語学の興味深いトピックになりそうだが,ここでは歴史を離れて通言語的な観点から示唆に富む見解を1つ提示してみよう.それは,「#1503. 統語,語彙,発音の社会言語学的役割」 ([2013-06-08-1]) で紹介した Hudson の遠大な仮説に関係する.
 Hudson (45) は,文法,語彙,発音の典型的な社会言語学的役割に,それぞれ「団結を表わす」「相違を表わす」「アイデンティティを表わす」機能があるのではないかと考えている.もしこの仮説を信じるならば,発音の差異が重要な社会的意味をもつイギリスでは,話者が自らの属する階級を標示することを重視する傾向があるということが示唆され,一方,文法の差異が意味をもつアメリカでは,話者が社会的結束の標示を重視する傾向があるということが示唆される.単純化して解釈すれば,イギリスでは所属する階級への帰属意識が重視され,アメリカでは国家への帰順が重視される,ということになろうか.
 もちろん Hudson の仮説は純然たる仮説であり,このように議論を進めることは短絡的だろう.しかし,speculation としては実におもしろい.

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
 ・ Hudson, R. A. Sociolinguistics. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1996.

Referrer (Inside): [2022-03-03-1] [2018-11-09-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2016-08-16 Tue

#2668. 現代世界の英語変種を理解するための英語方言史と英語比較社会言語学 [dialectology][dialect][world_englishes][variety][aave][ame_bre][language_change]

 現在,世界中に様々な英語変種 (world_englishes) が分布している.各々の言語特徴は独特であり,互いの異なり方も多種多様で,「英語」として一括りにしようとしても難しいほどだ.標準的なイギリス英語とアメリカ英語どうしを比べても,言語項によってその違いが何によるものなのかを同定するのは,たやすくない(「#627. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論」 ([2011-01-14-1]),「#628. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論 (2)」 ([2011-01-15-1]) を参照).
 Tagliamonte は,世界の英語変種間の関係をつなぎ合わせるミッシング・リンクは,イギリス諸島の周辺部の諸変種とその歴史にあると主張し,序章 (p. 3) で次のように述べている.

It is fascinating to consider why the many varieties of English around the world are so different. Part of the answer to this question is their varying local circumstances, the other languages that they have come into contact with and the unique cultures and ecologies in which they subsequently evolved. However, another is the historically embedded explanation that comes from tracing their roots back to their origins in the British Isles. Indeed, leading scholars have argued that the study of British dialects is critical to disentangling the history and development of varieties of English everywhere in the world . . . .


 Tagliamonte が言わんとしていることは,例えば次のようなことだろう.イギリスの主流派変種とアメリカの主流派変種を並べて互いの言語的差異を取り出し,それを各変種の歴史の知識により説明しようとしても,すべてを説明しきれるわけではない.しかし,視点を変えてイギリスあるいはアメリカの非主流派変種もいくつか含めて横並びに整理し,その歴史の知識とともに言語的異同を取れば,互いの変種を結びつけるミッシング・リンクが補われる可能性がある.例えば,現在のロンドンの英語をいくら探しても見つからないヒントが,スコットランドの英語とその歴史を視野に入れれば見つかることもあるのではないか.
 Tagliamonte が上で述べているのは,この希望である.この希望をもって,方言の歴史を比較しあう方法論として "comparative sociolinguistics" を提案しているのだ.この「比較社会言語学」に,元祖の比較言語学 (comparative_linguistics) のもつ学術的厳密さを求めることはほぼ不可能といってよいが,1つの野心的な提案として歓迎したい.英語の英米差のような主要な話題ばかりでなく,ピジン英語,クレオール英語,AAVE など世界中の変種の問題にも明るい光を投げかけてくれるだろう.
 本書の最後で,Tagliamonte (213) は英語方言史を称揚し,その明るい未来を謳い上げている.

Dialects are a tremendous resource for understanding the grammatical mechanisms of linguistic change. Dialects are also the storehouse of the heart and soul of culture, history and identity. Delving deep into the nuts and bolts of language, deeper than words and phrases and expressions, down into the grammar, we discover a treasure trove. Beneath the anecdotes and nonce tales are hidden patterns and constraints that are a system unto themselves, reflecting the legacy of regional factions, social groups and human relationships. As language evolves through history, its inner mechanisms are evolving, but not in the same way in every place nor at the same rate in all circumstances --- it will always mirror its own ecology.


 ・ Tagliamonte, Sali A. Roots of English: Exploring the History of Dialects. Cambridge: CUP, 2013.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-12-29 Tue

#2437. 3文字規則に屈したイギリス英語の <axe> [spelling][orthography][ame_bre][three-letter_rule]

 現代英語の綴字に関する「#2235. 3文字規則」 ([2015-06-10-1]) の記事で,斧を意味する語の綴字 <ax> あるいは <axe> に触れた.英英辞書を引くと,Longman Advanced American Dictionary, 2nd ed. などのアメリカ系では見出しに "ax, axe" の順序で挙げられており,Longman Dictionary of Contemporary English, 5th ed. などのイギリス系では "axe (also ax American English)" の順序で挙げられている.このように現在では綴字の英米差をなすペアといってよいが,19世紀後半には,イギリス英語でも2文字の <ax> のほうが推奨されていたようである.Horobin (167) がこの点に言及している.

The various factors involved in the adoption of a particular spelling as the OED headword is apparent from a comparison of the treatment of axe in the first and second editions. The first edition (published in 1885) employed the spelling ax for its headword, noting that this spelling is 'better on every ground, of etymology, phonology, and analogy, than axe, which has of late become prevalent'. But, despite its continued support for the spelling ax, the second edition of 1989 adopted axe for its headword, noting that, despite its many advantages, ax had by this time fallen out of use entirely.


 イギリス英語において慣用として <axe> が通用されるようになったので,OED としてもそちらを採用するという記述だが,なぜ <axe> が通用されるようになったのかという問題については触れられていない.ここで,3文字規則がその答えの少なくとも一部であろうということは主張できそうである.イギリス英語において <ax> が潰えた今となっては,明らかな例外は ox のみとなる.
 なお,OED Online によれば,語源欄の記述が2版から少々変更されており,"The spelling ax is better on every ground, of etymology, phonology, and analogy, than axe, which became prevalent during the 19th century; but it is now disused in Britain." となっていることを付け加えておこう.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.

Referrer (Inside): [2017-10-07-1] [2017-09-21-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-11-10 Tue

#2388. 世界の主要な英語変種の音韻的分類 [world_englishes][model_of_englishes][ame_bre][ame][bre][irish_english][australian_english][new_zealand_english][scots_english][map]

 世界の主要な英語変種を分類する試みは,主として社会言語学的な視点から様々になされてきた.本ブログでも,model_of_englishes の記事で取り上げてきた通りである.言語学的な観点からの分類としては,Trudgill and Hannah による音韻に基づくものが知られている.概論的にいえば,大きく 'English' type と 'American' type に2分する方法であり,直感的で素人にも理解しやすい.この常識的に見える分類が,結論としては,専門的な見地からも支持されるということである.この 'American' type と 'English' type の2分法は,より積極的に歴史的な視点を取れば,大雑把にいってイングランド内の 'northern' type と 'southern' type の2分法に相当することに注意したい.
 Trudgill and Hannah (10) は,音韻論的に注目すべき鍵として以下の10点を挙げて,英語諸変種を図式化した.

Key
1. /ɑː/ rather than /æ/ in path etc.
2. absence of non-prevocalic /r/
3. close vowels for /æ/ and /ɛ/, monophthongization of /ai/ and /ɑu/
4. front [aː] for /ɑː/ in part etc.
5. absence of contrast of /ɒ/ and /ɔː/ as in cot and caught
6. /æ/ rather than /ɑː/ in can't etc.
7. absence of contrast of /ɒ/ and /ɑː/ as in bother and father
8. consistent voicing of intervocalic /t/
9. unrounded [ɑ] in pot
10. syllabic /r/ in bird
11. absence of contrast of /ʊ/ and /uː/ as in pull and pool

10  9   8   7   6   5        6   7   8   9   11         10         11  5   1   2

|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   |          |          |   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   | Northern |          |   |   |   |
|   |   |   |   |   | Canada |   |   |   |   | Ireland  | Scotland |   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   `----------+----------'   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |              |              |   |   |
|   |   |   |   |   `--------+---+---+---+--------------+--------------'   |   |
|   |   |   |   |            |   |   |   |              |                  |   |
|   |   |   |   |            |   |   |   `----------,   |                  |   |
|   |   |   |   |            |   |   |              |   |                  |   |
|   |   |   |   |            |   |   |              |   |                  |   |
|   |   |   |   |            |   |   |              |   |                  |   |
|   |   |   |   |            |   |   |              |   |                  |   |
|   |   |   |   |   USA      |   |   |   ,----------+---+------------------'   |
|   |   |   |   |            |   |   |   | Republic |   |                      |
|   |   |   |   `------------'   |   |   |   of     |   |   ,------------------'
|   |   |   |                    |   |   | Ireland  |   |   |
|   |   |   `--------------------'   |   |          |   |   |  England  ,--------------------------------- 3
|   |   |                            |   |          |   |   |           | 
|   |   |                            |   |          |   |   |  Wales    |         ,----------------------- 4
|   |   |                            |   |          |   |   |           | South   | Australia   New
|   |   `----------------------------'   |          |   |   |           | Africa  |             Zealand
|   |                                    |          |   |   |           |         `----------------------- 4
|   |                                    |          |   |   |           |
|   `------------------------------------+----------'   |   |           `--------------------------------- 3
|                                        |              |   |
`----------------------------------------+--------------'   `--------------------------------------------- 2
                                         |
                                         `---------------------------------------------------------------- 1

 この図の説明として,Trudgill and Hannah (10) を引こう.

We have attempted to portray the relationships between the pronunciations of the major non-Caribbean varieties in [this] Figure 1.1. This diagram is somewhat arbitrary and slightly misleading (there are, for example, accents of USEng which are close to RP than to mid-western US English), but it does show the two main types of pronunciation: an 'English' type (EngEng, WEng, SAfEng, AusEng, NZEng) and an 'American' type (USEng, CanEng), with IrEng falling somewhere between the two and ScotEng being somewhat by itself.


 最後に触れられているように,Irish English が2大区分にまたがること,古い歴史をもつ Scots English が独自路線を行っていることは興味深い.

 ・ Trudgill, Peter and Jean Hannah. International English: A Guide to the Varieties of Standard English. 5th ed. London: Hodder Education, 2008.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-07-15 Wed

#2270. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (3) [history][ame][bre][ame_bre][geography][map][demography][rhotic]

 「#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1)」 ([2015-07-06-1]),「#2262. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (2)」 ([2015-07-07-1]) に引き続いての話題.[2015-07-07-1]では,Fisher を参照した Gramley による具体的な数字も示しながら,初期移民の人口統計を簡単に確認したが,この Fisher 自身は David Hackett Fischer による Albion's Seed (1989年) に拠っているようだ.さらに,この D. H. Fischer という学者は,アメリカ英語史研究者の先達である Hans Kurath, George Philip Krapp, Allen Walker Read, Albert Marckwardt, Raven McDavid, Cleanth Brooks 等に依拠しつつ,具体的な人口統計の数字を提示しながら,イギリス英語とアメリカ英語の連続性を主張しているのである.
 Fischer の記述を信頼して Fisher がまとめた(←名前の綴りが似ていて混乱するので注意!)初期移民史について,以下に引用しよう (Fisher 60) .初期植民地への移民の95%以上がイギリスからであり,それは4波にわかれて行われたという.

1. 20,000 Puritans largely from East Anglia to to New England, 1629--41, to escape the tyranny of the crown and the established church that led to the Puritan revolution;
2. 40,000 Cavaliers and their servants largely from the southwestern counties of England to the Chesapeake Bay area and Virginia, 1642--75, to escape the Long Parliament and Puritan rule;
3. 23,000 Quakers from the North Midlands and many like-minded evangelicals from Wales, Germany, Holland, and France, to the Delaware Valley and Pennsylvania, 1675--1725, to escape the Act of Uniformity in England and the Thirty Years War in Europe;
4. 275,000 from the North Border regions of England, Scotland, and Ulster to the backcountry of New England, western Pennsylvania, and the Appalachians, 1717--75, to escape the endemic conflict and poverty of the Border regions, and especially the 1706--7 Act of Union between England and Scotland, which brought about the "pacification" of the border, transforming it from a combative society in need of many warriors to a commercial and industrial society in need of no warriors, with the consequent large-scale displacement of the rural population.


 Fischer は伝統的なアメリカへの初期移民史の記述を人口統計によって補強したということだが,これは英語変種の連続性を考える上では非常に重要な情報である.
 イギリス変種からアメリカ変種への連続性を論じる際に必ず話題になるのは,non-prevocalic /r/ である.この話題については「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]) と「#453. アメリカ英語の諸方言における r」 ([2010-07-24-1]) で合わせて導入し,「#1267. アメリカ英語に "colonial lag" はあるか (2)」 ([2012-10-15-1]) で問題の複雑さに言及したとおりだが,Fisher (75--77) も慎重な立場からこの問題に対している.確かに,250年ほど前に non-prevocalic /r/ の消失がロンドン近辺で始まったということと,アメリカへの移民が17世紀前半に始まったということは,アナクロな関係ではあるのだ.それでも,歴史言語学的な連続性に関する軽々な主張は慎むべきであるものの,一方で英語史研究において連続性の可能性に注意を払っておくことは常に必要だとも感じている.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Fisher, J. H. "British and American, Continuity and Divergence." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. English in North America. Ed. J. Algeo. Cambridge: CUP, 2001. 59--85.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-07-13 Mon

#2268. 「なまり」の異なり方に関する共時的な類型論 [pronunciation][phonetics][phonology][phoneme][variation][ame_bre][rhotic][phonotactics][rp][merger]

 変種間の発音の異なりは,日本語で「なまり」,英語で "accents" と呼ばれる.2つの変種の発音を比較すると,異なり方にも様々な種類があることがわかる.例えば,「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1]) でみたように,イギリス英語とアメリカ英語の発音を比べるとき,bathclass の母音が英米間で変異するというときの異なり方と,starfour において語末の <r> が発音されるか否かという異なり方とは互いに異質のもののように感じられる.変種間には様々なタイプの発音の差異がありうると考えられ,その異なり方に関する共時的な類型論というものを考えることができそうである.
 Trubetzkoy は1931年という早い段階で "différences dialectales phonologiques, phonétiques et étymologiques" という3つの異なり方を提案している.Wells (73--80) はこの Trubetzkoy の分類に立脚し,さらに1つを加えて,4タイプからなる類型論を示した.Wells の用語でいうと,"systemic differences", "realizational differences", "lexical-incidental differences", そして "phonotactic (structural) differences" の4つである.順序は変わるが,以下に例とともに説明を加えよう.

(1) realizational differences. 2変種間で,共有する音素の音声的実現が異なるという場合.goat, nose などの発音において,RP (Received Pronunciation) では [əʊ] のところが,イングランド南東方言では [ʌʊ] と実現されたり,スコットランド方言では [oː] と実現されるなどの違いが,これに相当する.子音の例としては,RP の強勢音節の最初に現われる /p, t, k/ が [ph, th, kh] と帯気音として実現されるのに対して,スコットランド方言では [p, t, k] と無気音で実現されるなどが挙げられる.また,/l/ が RP では環境によっては dark l となるのに対し,アイルランド方言では常に clear l であるなどの違いもある.[r] の実現形の変異もよく知られている.

(2) phonotactic (structural) differences. ある音素が生じたり生じなかったりする音環境が異なるという場合.non-prevocalic /r/ の実現の有無が,この典型例の1つである.GA (General American) ではこの環境で /r/ が実現されるが,対応する RP では無音となる (cf. rhotic) .音声的実現よりも一歩抽象的なレベルにおける音素配列に関わる異なり方といえる.

(3) systemic differences. 音素体系が異なっているがゆえに,個々の音素の対応が食い違うような場合.RP でも GA でも /u/ と /uː/ は異なる2つの音素であるが,スコットランド方言では両者はの区別はなく /u/ という音素1つに統合されている.母音に関するもう1つの例を挙げれば,stockstalk とは RP では音素レベルで区別されるが,アメリカ英語やカナダ英語の方言のなかには音素として融合しているものもある (cf. 「#484. 最新のアメリカ英語の母音融合を反映した MWALED の発音表記」 ([2010-08-24-1]),「#2242. カナダ英語の音韻的特徴」 ([2015-06-17-1])) .子音でいえば,loch の語末子音について,RP では [k] と発音するが,スコットランド方言では [x] と発音する.これは,後者の変種では /k/ とは区別される音素として /x/ が存在するからである.

(4) lexical-incidental differences. 音素体系や音声的実現の方法それ自体は変異しないが,特定の語や形態素において,異なる音素・音形が選ばれる場合がある.変種間で異なる傾向があるという場合もあれば,話者個人によって異なるという場合もある.例えば,either の第1音節の母音音素は,変種によって,あるいは個人によって /iː/ か /aɪ/ として発音される.その変種や個人は,両方の母音音素を体系としてもっているが,either という語に対してそのいずれがを適用するかという選択が異なっているの.つまり,音韻レベル,音声レベルの違いではなく,語彙レベルの違いといってよいだろう.
 一般に,発音の規範にかかわる世間の言説で問題となるのは,このレベルでの違いである.例えば,accomplish という語の第2音節の強勢母音は strut の母音であるべきか,lot の母音であるべきか,Nazi の第2子音は /z/ か /ʦ/ 等々.

 ・ Wells, J. C. Accents of English. Vol. 1. An Introduction. Cambridge: CUP, 1982.

Referrer (Inside): [2019-02-07-1] [2015-07-26-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-07-07 Tue

#2262. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (2) [history][ame][bre][ame_bre][geography][map][demography]

 昨日の記事「#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1)」 ([2015-07-06-1]) に引き続いての話題.「#1301. Gramley の英語史概説書のコンパニオンサイト」 ([2012-11-18-1]) と「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1]) で紹介した Gramley の英語史書は,地図や図表が多く,学習や参照に便利である.イギリスからアメリカへの初期の移民のパターンについても,"Major sources and goals of immigration" (248) と題する有用なアメリカ東海岸の地図が掲載されている.Gramley の地図では,ブリテン諸島からの移民のルートのほか,ドイツ,カリブ諸島,ドイツからの移民の流入の経路なども示されている.

Map of Major Sources and Goals of Immigration from Britain to America (Gramley 248)

 いずれの移民もアメリカ英語の方言形成に何らかの貢献をしていると考えられるが,昨日の記事 ([2015-07-06-1]) および「#1700. イギリス発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-22-1]) を参照してわかるとおり,ブリテン諸島からの移民がとりわけ重要な役割を果たしたことはいうまでもない.ブリテン諸島からの移民について,人口統計を含めた要約的な文章が Gramley (246) にあるので,引用しよう.

The English language which the settlers carried along with them was, of course, that of England. The colonists surely brought various regional forms, but it is generally accepted that the largest number of those who arrived came from southern England. Baugh (1957) concludes --- on the limited evidence of 1281 settlers in New England and 637 in Virginia for whom records exist for the time before 1700 --- that New England was predominantly settled from the southeastern and southern counties of England (about 60%) as was Virginia (over 50%). Fisher's figures indicate that 20,000 Puritans came between 1629 and 1641, the largest part from Essex, Suffolk, Cambridgeshire, and East Anglia with fewer than 10% from London, and that 40,000 "Cavaliers" fled especially from London and Bristol during the Civil War and went to the Chesapeake area and Virginia (Fisher 2001: 60). The Middle Colonies of Pennsylvania, new Jersey, and Delaware probably had a much larger proportion from northern England, including 23,000 Quakers and Evangelicals from England, Wales, Germany, Holland, and France. Over 250,000 from northern England, the Scottish Lowlands, and especially Ulster settled in the back country . . . . In each of the areas settled the nature of the language was set by speech patterns established by the first several generations.


 アメリカの New England や南部への移民には,イングランド南部の出身者が多く関与し,アメリカの中部諸州そしてさらに奥地へは,イングランド北部,ウェールズ,スコットランド,アイルランドからの移民が多かったことが改めて確認できるだろう.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Baugh, A. C. A History of the English Language. 2nd ed. New York: Appleton-Century-Crofts, 1957.
 ・ Fisher, J. H. "British and American, Continuity and Divergence." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. English in North America. Ed. J. Algeo. Cambridge: CUP, 2001. 59--85.

Referrer (Inside): [2015-07-15-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-07-06 Mon

#2261. イギリスからアメリカへの移民の出身地 (1) [history][ame][bre][ame_bre][rhotic][geography][map][demography]

 標題は「#1701. アメリカへの移民の出身地」 ([2013-12-23-1]) で取り上げた話題だが,今回は地図を示しつつ解説する.
 アメリカ英語の方言形成過程を理解するには,17世紀に始まるイギリス諸島からの初期の移民と,その後のアメリカ内での移住の歴史が大きく関わってくる.イギリス人によるアメリカへの植民は,1607年の Jamestown の建設に始まるが,この植民に携わったのは主としてイングランド南部出身者だった.最初の入植者として彼らの言語的な役割は大きく,イングランド南部方言が Jamestown にもたらされ,後にアメリカ南部に拡がる契機が作られた.
 1620年に Plymouth にたどり着いた "Pilgrim fathers" にも,イングランド南部(および東部)出身者が多かった.彼らは,先の入植者と同様に,およそイングランド南部の方言特徴を携えて新大陸に渡ったのであり,New England を中心とした北東部海岸地域にその方言特徴を定着させた.
 一方,1680年代からはイングランド中部・北部やウェールズからのクエーカー教徒 (Quakers) が大挙して Pennsylvania へ入植した.Pennsylvania などの中部へは,さらに18世紀の半ばにスコットランド系アイルランド人 (Scots-Irish) が数多く流入し,後の西部開拓の原動力となった.また,19世紀半ばにも多くのアイルランド人が押し寄せた.中部諸州に入り,西部へと展開したこれらイングランド南部以外の地域からやってきた移民たちは,いわば非標準的といえるイギリス諸方言を携えて新大陸にやってきたのだが,この諸方言こそが,後のアメリカにおける主たる方言となる中部方言 (Midland dialect) の種だったのである.
 イギリス諸島からの移民の出身地と方言を念頭に,上記をまとめると次のようになる.標準的なイングランド南部方言を携えたイングランド南部出身者は,その標準変種をアメリカの New England や南部諸州へと伝えた.一方,非標準的なイングランド中部・北部,ウェールズ,スコットランド,アイルランドの諸方源を携えた地方出身者は,その非標準変種をアメリカの Pennsylvania や中部諸州,そして西部へと広く伝えた.大雑把に図式化すると,以下の地図の通りである.

Map of Major Sources and Goals of Immigration from Britain to America

 このようなアメリカ英語形成期 (1607--1790) における初期移民の効果は,現代アメリカ英語の non-prevocalic /r/ の分布によく反映されていると言われる.「#453. アメリカ英語の諸方言における r」 ([2010-07-24-1]) の地図に示した通り,大雑把にいってアメリカ中部・西部の広い地域では car, four などの語末の /r/ は発音される,すなわち rhotic である.これは,「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1]) で見たように,現代のイングランド周辺地域の方言が non-rhotic であることに対応する.一方,アメリカの New England と南部諸州では,およそ non-rhotic である.これは,イングランドの中心部がおよそ rhotic であることと符合する.[2010-07-24-1]で触れたとおり,この分布は偶然ということではなく,歴史的な連続性を疑うべきだろう.
 移民先の方言の形成や分布を論じるにあたっては,移民の出身地と携えてきた方言に注目することが肝要である.関連して,以下の記事も参照.

 ・ 「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1])
 ・ 「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1])
 ・ 「#1700. イギリス発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-22-1])
 ・ 「#1702. カリブ海地域への移民の出身地」 ([2013-12-24-1])
 ・ 「#1711. カリブ海地域の英語の拡散」 ([2014-01-02-1])

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-05-22 Fri

#2216. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 実践編 ――」 [link][corpus][bnc][coca][ame_bre][sociolinguistics][language_change][gender_difference][link]

 一ヶ月前の「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1]) に引き続き,5月20日付で「実践編」が公開されました.研究社WEBマガジン Lingua リンガより,こちらをご覧ください.  *
 今回は,複数のコーパスを用いることの利点やおもしろさを押し出しました.また,英語の英米差という一見すると静的な話題にも,動的あるいは通時的に迫ることにより,新たな見方が得られる点も強調しました.
 記事のなかでも触れましたが,実際には今回の「実践編」で述べた結論に至るには,もっと詳しく調査しなければなりません.しかし,コーパスを用いて,例えばこのような言語変化の徴候をとらえることができるかもしれないという可能性を感じ取ってもらえれば,という気持ちで執筆しました.基礎編,実践編で私の執筆担当は完結ですが,来月以降も引き続き研究社WEBマガジン Lingua リンガの記事にご注目ください.バックナンバーも非常に有用です.以下,改めて研究社WEBマガジン Lingua リンガの各記事へのリンク(最新版)を張っておきます.

 1. なぜコーパスか? (赤須 薫)
 2. 英語コーパス体験ツアー ― BNCweb を検索してみる ―(前編) (石井 康毅)
 3. 英語コーパス体験ツアー ― BNCweb を検索してみる ―(後編) (石井 康毅)
 4. Google をコーパスに見立てる (仁科 恭徳)
 5. 言語統計の基礎(前編) ― 頻度差の検定 ― (小林 雄一郎 )
 6. 言語統計の基礎(後編) ― 共起尺度 ― (小林 雄一郎)
 7. コーパスを活用した古くて新しい学問領域:フレイジオロジー ― 理論編 ― (井上 亜依)
 8. コーパスを活用した古くて新しい学問領域:フレイジオロジー ― 実践編 ― (井上 亜依)
 9. 学習者コーパスとは何か? (鎌倉 義士)
 10. 学習者コーパスで何ができるのか? (鎌倉 義士)
 11. パラレルコーパスの可能性 (仁科 恭徳)
 12. 日本語コーパスに見られる慣用句の用法 (石田 プリシラ)
 13. 日本語コーパスに見られる慣用句の変化可能性 (石田 プリシラ)
 14. COCA を使ったコロケーションの検索 (内田 諭)
 15. COCA を使った類義語の検証 (内田 諭)
 16. コーパスで話し言葉を探る ― 基礎編 ― (青木 理香)
 17. コーパスで話し言葉を探る ― 実践編 ― (青木 理香)
 18. 学習者の話し言葉コーパスを使った語用論分析 (1)談話標識 well, I mean, kind of, like の使い方 (三浦 愛香)
 19. 学習者の話し言葉コーパスを使った語用論分析 (2)買い物での要求の表現 (三浦 愛香)
 20. 認知言語学を用いてコーパスから意味を探る― 入門編 ― (大谷 直輝)
 21. 認知言語学を用いてコーパスから意味を探る― 前置詞・句動詞編 ― (大谷 直輝)
 22. コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ―― (堀田 隆一)
 23. コーパスで探る英語の英米差 ―― 実践編 ―― (堀田 隆一)

 なお,今回の実践編で注目した gorgeous に関しては,本ブログでも以下の記事で扱ってきましたのでご参照ください.
 
 ・ 「#476. That's gorgeous!」 ([2010-08-16-1])
 ・ 「#477. That's gorgeous! (2)」 ([2010-08-17-1])
 ・ 「#607. Google Books Ngram Viewer」 ([2010-12-25-1])

 また,英語(言語)の男女差についても gender_difference の各記事で扱ってきました.特に言語の男女差とコーパス利用を絡めた記事として,「#913. BNC による語彙の男女差の調査」 ([2011-10-27-1]) をご覧ください.

Referrer (Inside): [2019-05-21-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-04-22 Wed

#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」 [link][corpus][brown][ame_bre]

 4月20日付けで,研究社WEBマガジン Lingua リンガリレー連載 実践で学ぶコーパス活用術に,私の執筆した「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」の記事が掲載されました.今日は,このリレー連載と私の記事について紹介します.  *
 連載「実践で学ぶコーパス活用術」はコーパス利用初心者向けのオムニバス記事で,毎月様々な言語学研究者が登場し,易しくかつ実践的にコーパス活用の方法を解説してゆくシリーズです.すでに20の記事が掲載されており,コーパスの基本から始まり,各種のコーパスの紹介,利用のコツ,事例研究,言語統計入門に至るまで,コーパスに関連する様々な視点が丁寧に解説されています.以下に,各記事へのリンクを張っておきます.

 1. なぜコーパスか? (赤須 薫)
 2. 英語コーパス体験ツアー ― BNCweb を検索してみる ―(前編) (石井 康毅)
 3. 英語コーパス体験ツアー ― BNCweb を検索してみる ―(後編) (石井 康毅)
 4. Google をコーパスに見立てる (仁科 恭徳)
 5. 言語統計の基礎(前編) ― 頻度差の検定 ― (小林 雄一郎 )
 6. 言語統計の基礎(後編) ― 共起尺度 ― (小林 雄一郎)
 7. コーパスを活用した古くて新しい学問領域:フレイジオロジー ― 理論編 ― (井上 亜依)
 8. コーパスを活用した古くて新しい学問領域:フレイジオロジー ― 実践編 ― (井上 亜依)
 9. 学習者コーパスとは何か? (鎌倉 義士)
 10. 学習者コーパスで何ができるのか? (鎌倉 義士)
 11. パラレルコーパスの可能性 (仁科 恭徳)
 12. 日本語コーパスに見られる慣用句の用法 (石田 プリシラ)
 13. 日本語コーパスに見られる慣用句の変化可能性 (石田 プリシラ)
 14. COCA を使ったコロケーションの検索 (内田 諭)
 15. COCA を使った類義語の検証 (内田 諭)
 16. コーパスで話し言葉を探る ― 基礎編 ― (青木 理香)
 17. コーパスで話し言葉を探る ― 実践編 ― (青木 理香)
 18. 学習者の話し言葉コーパスを使った語用論分析 (1)談話標識 well, I mean, kind of, like の使い方 (三浦 愛香)
 19. 学習者の話し言葉コーパスを使った語用論分析 (2)買い物での要求の表現 (三浦 愛香)
 20. 認知言語学を用いてコーパスから意味を探る― 入門編 ― (大谷 直輝)(←2015/05/18(Mon)にリンクを追加)
 21. 認知言語学を用いてコーパスから意味を探る― 前置詞・句動詞編 ― (大谷 直輝)(←2015/05/18(Mon)にリンクを追加)
 22. コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ―― (堀田 隆一)
 23. コーパスで探る英語の英米差 ―― 実践編 ―― (堀田 隆一)(←2015/05/21(Thu)にリンクを追加)

 今回私の書いた記事は,コーパスを用いて英語の英米差について考えようという趣旨で,みかけは現代イギリス英語と現代アメリカ英語の共時的比較ですが,2変種を比較対照するに当たっては歴史的な背景や通時的な視点も欠かせないということを強調しています.今回は「基礎編」と銘打って,英語の英米差を論じるに当たっての準備事項を説明し,英米差の調査に利用できるコーパスを紹介しています.
 以下,今回のリレー連載の記事と合わせて読むと有用と思われる本ブログ内の記事にリンクを張ります.ほかにもコーパス利用については corpus の記事,英語の英米差については ame_bre の記事もご参照ください.

 ・ 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1])
 ・ 「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1])
 ・ 「#1743. ICE Frequency Comparer」 ([2014-02-03-1])

 ・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
 ・ 「#607. Google Books Ngram Viewer」 ([2010-12-25-1])
 ・ 「#517. ICE 提供の7種類の地域変種コーパス」 ([2010-09-26-1])

 ・ 「#1278. BNC を中心とするコーパス研究関連のリンク集」 ([2012-10-26-1])
 ・ 「#307. コーパス利用の注意点」 ([2010-02-28-1])
 ・ 「#367. コーパス利用の注意点 (2)」 ([2010-04-29-1])
 ・ 「#368. コーパスは研究の可能性を広げた」 ([2010-04-30-1])

 ・ 「#240. 綴字の英米差は大きいか小さいか?」 ([2009-12-23-1])
 ・ 「#244. 綴字の英米差のリスト」 ([2009-12-27-1])
 ・ 「#312. 文法の英米差」 ([2010-03-05-1])
 ・ 「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」 ([2010-03-08-1])
 ・ 「#357. American English or British English?」 ([2010-04-19-1])
 ・ 「#627. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論」 ([2011-01-14-1])
 ・ 「#628. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論 (2)」 ([2011-01-15-1])
 ・ 「#677. 現代英語における法助動詞の衰退」 ([2011-03-05-1])
 ・ 「#880. いかにもイギリス英語,いかにもアメリカ英語の単語」 ([2011-09-24-1])
 ・ 「#1010. 英語の英米差について Martinet からの一言」 ([2012-02-01-1])
 ・ 「#1221. 季節語の歴史」 ([2012-08-30-1])
 ・ 「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1])
 ・ 「#1331. 語彙の英米差を整理するための術語」 ([2012-12-18-1])
 ・ 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])

 今回のリレー連載記事は「基礎編」でしたが,来月号は「実践編」を掲載する予定です.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-01-19 Mon

#2093. <gauge> vs <gage> [spelling][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][eebo][clmet][emode][lmode][coha][ame_bre][spelling_pronunciation]

 「#2088. gauge の綴字と発音」 ([2015-01-14-1]) を受けて,<gauge> vs <gage> の異綴字の分布について歴史的に調べてみる.まずは,初期近代英語の揺れの状況を,EEBO (Early English Books Online) に基づいたテキスト・データベースにより見てみよう

Period (subcorpus size)<gage> etc.<gauge> etc.
1451--1500 (244,602 words)0 wpm (0 times)0 wpm (0 times)
1501--1550 (328,7691 words)3.35 (11)0.00 (0)
1551--1600 (13,166,673 words)6.84 (90)0.076 (1)
1601--1650 (48,784,537 words)3.01 (147)0.35 (17)
1651--1700 (83,777,910 words)0.060 (5)0.19 (5)
1701--1750 (90,945 words)0.00 (0)0.00 (0)


 17世紀に <gauge> 系が少々生起するくらいで,初期近代英語の基本綴字は <gage> とみてよいだろう.次に,18世紀以後の後期近代英語に関しては,CLMET3.0 を利用して検索した.

Period (subcorpus size)<gage> etc.<gauge> etc.
1710--1780 (10,480,431 words)51
1780--1850 (11,285,587)1920
1850--1920 (12,620,207)249


 おそらく1800年くらいを境に,それまで非主流派だった <gauge> が <gage> に肉薄し始め,19世紀中には追い抜いていったという流れが想定される.現代英語では BNCweb で調べる限り <gauge> が圧倒しているから,20世紀中もこの流れが推し進められたものと考えられそうだ.
 一方,<gage> の使用も多いといわれるアメリカ英語について COHA で調べてみると,実際のところ現代的には <gauge> のほうが圧倒的に優勢であるし,歴史的にも <gauge> が20世紀を通じて堅調に割合を伸ばしてきたことがわかる.あくまで,現代アメリカ英語では <gage> 「も」使われることがあるというのが実態のようだ.この事実は,「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1]) により "(?-i)\bgau?g(e|es|ed|ings?)\b" として検索をかけて得られる以下の表からも示唆される.いずれの変種でも <gauge> 系は見られるものの,<gage> 系についてはイギリス英語ではゼロ,アメリカ英語では部分的に使用されるという違いがある.

IDWORD19611991--92ca 2006
Brown (AmE)LOB (BrE)Frown (AmE)FLOB (BrE)AmE06 (AmE)BE06 (BrE)
1gage401010
2gages200010
3gaging1010000
4gauge16151061621
5gauged252110
6gauges011012
7gauging011000


 「#2088. gauge の綴字と発音」 ([2015-01-14-1]) で触れたアメリカ英語での <gage> 綴字の歴史的連続性の問題については,まだ明らかにするところまで行っていないが,<gage> が少々使用されている背景は気になるところだ.アメリカ英語に多いとされる綴字発音 (spelling_pronunciation) の効果なのだろうか.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2014-05-26 Mon

#1855. アメリカ英語で先に進んでいた3単現の -th → -s [colonial_lag][ame_bre][verb][conjugation][bible][shakespeare][suffix][inflection][3sp][schedule_of_language_change][lexical_diffusion][speed_of_change]

 動詞の3複現語尾について「#1413. 初期近代英語の3複現の -s」 ([2013-03-10-1]),「#1423. 初期近代英語の3複現の -s (2)」 ([2013-03-20-1]),「#1576. 初期近代英語の3複現の -s (3)」 ([2013-08-20-1]),「#1687. 初期近代英語の3複現の -s (4)」 ([2013-12-09-1]),「#1850. AAVE における動詞現在形の -s」 ([2014-05-21-1]) で扱ってきたが,3単現語尾の歴史についてはあまり取り上げてこなかった.予想されるように,3単現語尾のほうが研究も進んでおり,とりわけイングランドの北部を除く方言で古英語以来 -th を示したものが,初期近代英語期に -s を取るようになった経緯については,数多くの論著が出されている.
 初期近代英語の状況を説明するのにしばしば引き合いに出されるのは,1611年の The Authorised Version (The King James Version [KJV])では伝統的な -th が完璧に保たれているが,同時代の Shakespeare では -th と -s が混在しているということだ.このことは,17世紀までに口語ではすでに -th → -s への変化が相当程度進んでいたが,保守的な聖書の書き言葉にはそれが一切反映されなかったものと解釈されている.
 さて,ちょうど同じ時代に英語が新大陸へ移植され始めていた.では,その時すでに始まっていた -th → -s の変化のその後のスケジュールは,イギリス英語とアメリカ英語とで異なった点はあったのだろうか.Kytö は,16--17世紀のイギリス英語コーパスと,17世紀のアメリカ英語コーパスを用いて,この問いへの答えを求めた.様々な言語学的・社会言語学的なパラメータを設定して比較しているが,全体的には1つの傾向が確認された.17世紀中の状況をみる限り,-s への変化はアメリカ英語のほうがイギリス英語よりも迅速に進んでいたのである.Kytö (120) による頻度表を示そう.

British EnglishAmerican English
 -S-THTotal -S-THTotal
1500--157015 (3%)446461-   
1570--1640101 (18%)4595601620--1670339 (51%)322661
1640--1710445 (76%)1405851670--1720642 (82%)138780


 この結果を受けて,Kytö (132) は,3単現の -th → -s の変化に関する限り,アメリカ英語に colonial_lag はみられないと結論づけている.

Contrary to what has usually been attributed to the phenomenon of colonial lag, the subsequent rate of change was more rapid in the colonies. By and large, the colonists' writings seem to reflect the spoken language of the period more faithfully than do the writings of their contemporaries in Britain. In this respect, speaker innovation, rather than conservative tendencies, guided the development.


 過去に書いた colonial_lag の各記事でも論じたように,言語項目によってアメリカ英語がイギリス英語よりも進んでいることもあれば遅れていることもある.いずれの変種もある意味では保守的であり,ある意味では革新的である.その点で Kytö の結論は驚くべきものではないが,イギリス本国において口語上すでに始まっていた言語変化が,アメリカへ渡った後にどのように進行したかを示唆する1つの事例として意義がある.

 ・ Kytö, Merja. "Third-Person Present Singular Verb Inflection in Early British and American English." Language Variation and Change 5 (1993): 113--39.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2014-02-14 Fri

#1754. queue [bre][ame_bre][etymology][semantic_change][french][loan_word]

 イギリス人の習性として,何事にも列を作るということがしばしば言われる.例えば,NTC's Dictionary of Changes in Meanings によると,George Mikes は How to Be an Alien (1946) のなかで,"Queueing is the national pastime of an otherwise dispassionate race. The English are rather shy about it, and deny that they adore it" と評している.
 イギリス人のこの習性を反映し,いかにもイギリス英語的と言うべき語が上にも出た「行列(を作る)」を意味する queue である.アメリカ英語ではこの意味では line を用いるのが普通である.先日,オーストラリアに出かけていたが,そこでは予想通りイギリス的な queue が用いられている.queue がイギリス英語的であることを具体的に確認すべく,「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1]) や「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1]) に,^queu(e[sd]?|ing)$ と入れて検索してみると,統計的に検定するまでもなく,明らかに分布はイギリス英語への偏りを示す.AmE-BrE 2006 Frequency Comparer による検索結果を以下に掲げておこう.

IDWORDFREQTEXTSRANK
AME_2006BRE_2006AME_2006BRE_2006AME_2006BRE_2006
1queue219212263485149
2queued0101039987
3queues090908971
4queuing090908972


 一見するところ,イギリス英語的な queue のほうが古くて由緒正しい「行列」であり,line はアメリカ英語での散文的な革新ではないかと疑われるかもしれない.しかし,事実は逆である.line は古英語より「ひも」の意味で文証される古い語で,ゲルマン祖語 *līnjōn に遡る.一方,これと同根のラテン語 līnea から発展した古フランス語 ligne が中英語に入り,両者が line として合流した.line の「列」の意味は a1500 に発生しており,当然ながら近代英語期のイギリスでは普通に用いられていた.この使用が,そのままアメリカ英語に持ち越されたことになる.
 ところが,その後,イギリス側で革新が生じた.1837年の Carlyle, French Revolution を初例として,queue なる語が「列」の語義を line から奪い取っていったのである.この queue は中英語末期に「一列の踊り子たち」ほどの意味で初出しており,古フランス語 co(u)e からの借用語である.これ自体はラテン語 cauda (tail) に遡る.したがって,英語でも当初の意味は「獣の尾」であり,caudal (尾の), cue (突き棒;弁髪)も同根である.英語では,18世紀に「弁髪」の語義がはやった後,19世紀にフランス語を再び参照して「列」の語義を獲得した.だが,Carlyle を含めた英語の初期の用例ではフランス(語)的な文脈で現れることが多く,英語の語彙に同化するにはしばらく時間がかかったようである.この経緯を考えると,19世紀当時,列を作るのはむしろフランスの特徴だったということになりそうだ.
 「イギリス人=列を愛する人」というステレオタイプを体現する語としての queue の定着は,案外と新しいものだったことになる.今では,Are you in the queue?, How long were you in the queue? などは,イギリス生活において必須の日常表現といっていいだろう.
 イギリス英語とアメリカ英語の保守と革新という問題については,「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」 ([2010-03-08-1]),「#627. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論」 ([2011-01-14-1]),「#628. 2変種間の通時比較によって得られる言語的差異の類型論 (2)」 ([2011-01-15-1]),「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1]) ほか colonial_lag の各記事を参照.また,関連して「#880. いかにもイギリス英語,いかにもアメリカ英語の単語」 ([2011-09-24-1]) も参照.

 ・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.

Referrer (Inside): [2019-05-05-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2014-01-30 Thu

#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer [corpus][ame_bre][web_service][cgi][frequency][representativeness]

 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1]) で,2006年前後の書き言葉テキストを編纂した英米各変種コーパスを紹介し,それに基づいた頻度比較ツールを作成・公開した.そのツールを作成しながら気づいたのだが,同じ方法で編纂され,規模も同じく100万語程度の the Brown family of corpora (「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1]))と連携させれば,直近50年間ほどの通時的な英米間頻度比較が容易に可能となる.
 そこで,前の記事で紹介した Professor Paul Baker - Linguistics and English Language at Lancaster University による AmE06 と BrE06 に加えて,書き言葉アメリカ英語を代表する Brown (1961), Frown (1992),書き言葉イギリス英語を代表する LOB (1961), FLOB (1991) より語形頻度表を抽出し,合わせてデータベース化した.利用の仕方は,AmE-BrE 2006 Frequency Comparer とほぼ同じなので,そちらの取説 ([2014-01-21-1]) を参照されたい.ただし,出力される表では,問題の語形が出現するテキストの数や頻度順位は省いており,純粋に約100万語当たりの頻度を表示するにとどめているので,AmE06 と BE06 について前者の情報が必要な場合には,AmE-BrE 2006 Frequency Comparer をどうぞ.

    
Sort: by Brown freq by LOB freq by Frown freq by FLOB freq by AmE06 freq by BE06 freq alphabetically nothing (non-regex mode only)

 例えば,^movies?$ と入力してみると,伝統的にアメリカ英語的とされてきたこの語の分布が,過去50年ほどの間に,イギリス英語にも浸透してきている様子がわかる.
 英米差の通時的な変化を調査したいのであれば,単語だけではなく語句も受けつけ,かつ規模も巨大な「#607. Google Books Ngram Viewer」 ([2010-12-25-1]) のほうが簡便だろう.しかし,今回のツールは,the Brown family of corpora をベースにしているがゆえに,(1) 均衡かつ比較可能であり,(2) 「素性」がわかっている(再現可能性が確保されている)という利点があることは指摘しておきたい.望ましいのは,小型できめ細かなコーパスと,大型で傾向を大づかみにするコーパスとを上手に連携させることだろう.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2014-01-21 Tue

#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer [corpus][ame_bre][web_service][cgi][frequency][spelling]

 先日,Professor Paul Baker - Linguistics and English Language at Lancaster University というページを教えてもらった.Baker 氏の編纂した現代英語・米語コーパス BE06 と AmE06 の情報と,そこから抽出した単語リストが得られる.当該のコーパス自体は,ユーザIDを請求すれば,ランカスター大学の CQP (Corpus Query Processor) system よりアクセスできる.
 BE06 と AmE06 は,2006年前後に出版されたイギリス変種とアメリカ変種の書き言葉均衡コーパスである.編纂方式や構成は「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1]) で紹介した The Brown family に準じており,500テキスト×2000語の計100万語ほどの規模だ.
 さて,上のページからダウンロードできる BE06 Wordlist in WordSmith 5 formatAmE06 Wordlist in WordSmith 5 format より(見出し語ではなく)語形による頻度表を抽出し,それぞれをデータベース化して,英米変種の語の頻度を比較してくれる AmE-BrE Frequency 2006 Comparer なるツールを作成してみた.

    
Sort: by AmE freq by BrE freq alphabetically nothing (non-regex mode only)


 入力するのは原則としてPerl5相当の正規表現だが,カンマ,タブ,改行などで区切った(非正規表現の)単語リストも受け付ける.1つの語形のみを入力したい場合には ^ と $ で挟んで ^loves$ のようにするか,あるいは "nothing (non-regex mode only)" のラジオボックスをオンにする.
 出力形式は,デフォルトではアメリカ英語コーパスにおける頻度の高い順でソートされるようになっている ("by AmE freq") が,イギリス英語コーパスの頻度順 ("by BrE freq"),語形のアルファベット順 ("alphabetically") も可能.単語リストで入力した場合に,入力したそのままの順序で出力したいときには,"nothing (non-regex mode only)" をオンにする.
 いずれも100万語規模の(今となっては)小さめのコーパスなので,語形によっては十分な頻度が得られないこともあるが,簡便に英米差をチェックしたいときには便利だろう.出力結果の WORD, AME_2006, BRE_2006 の3列を切り出して,最後の行にコーパスサイズとして "total\t1000000\t1000000" と補ったうえで,Log-Likelihood Tester, Ver. 1 に放り込めば,英米差を統計的に検定することができる.
 例として,「#244. 綴字の英米差のリスト」 ([2009-12-27-1]) のうち,とりわけよく知られている類の米英綴字のペアを抜き出したリストを挙げよう.以下をコピーして,上のテキストボックスに放り込み,"nothing (non-regex mode only)" を選択して実行すると,数値として米英差が実感できる.

acknowledgment, acknowledgement, aging, ageing, aluminum, aluminium, analyze, analyse, apologize, apologise, armor, armour, behavior, behaviour, center, centre, civilization, civilisation, color, colour, defense, defence, disk, disc, endeavor, endeavour, favor, favour, favorite, favourite, fiber, fibre, flavor, flavour, fulfill, fulfil, gray, grey, harbor, harbour, honor, honour, humor, humour, inquiry, enquiry, judgment, judgement, labor, labour, license, licence, liter, litre, marvelous, marvellous, mold, mould, mom, mum, neighbor, neighbour, neighborhood, neighbourhood, odor, odour, organize, organise, pajamas, pyjamas, parlor, parlour, program, programme, realize, realise, recognize, recognise, skeptic, sceptic, specter, spectre, sulfur, sulphur, theater, theatre, traveler, traveller, tumor, tumour


 これまでは,語彙や綴字に関する英米差のコーパスによる比較は,「#708. Frequency Sorter CGI」 ([2011-04-05-1]) を用いたり,「BNC Frequency Extractor」 ([2012-12-08-1]) と「#1322. ANC Frequency Extractor」 ([2012-12-09-1]) を組み合わせたり,the Brown Family corpora を併用するなど,各変種コーパスの個別比較により対処してきたが,今回のツールにより多少便利な環境ができた.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-01-02 Wed

#1346. 付加疑問はどのくらいよく使われるか? [interrogative][tag_question][ame_bre][corpus][frequency][statistics]

 現代英語の会話では,付加疑問がよく使われる.だが,具体的にどのくらいよく使われるのだろうか.そもそも一般的に疑問文はどのくらいの頻度で生起するのか.そのなかで,付加疑問はどれくらいの割合を占めるのか.このような疑問を抱いたら,まず当たるべきは Biber et al. の LGSWE である.
 最初の問題については,p. 211 に解答が与えられている.疑問符の数による粗い調査だが,CONV(ERSATION) では40語に1つ疑問符が含まれているという.会話コーパスでは,転写上,疑問符が控えめに反映されている可能性が高く,実際には数値以上の頻度で疑問文が生起しているはずである.テキストタイプでいえば,次に大きく差を開けられて FICT(ION) が続き,NEWS と ACAD(EMIC) では疑問文の頻度は限りなく低い.
 次に,各サブコーパスにおいて,疑問文全体における付加疑問の生起する割合はどのくらいか.p. 212 に掲載されている統計結果を以下のようにまとめた.各列を縦に足すと100%となる表である.

(* = 5%; ~ = less than 2.5%)CONVFICTNEWSACAD
independent clausewh-question******************************
yes/no-question************************
alternative question~~~~
declarative question***~~
fragmentswh-question******
other********
tagpositive*~~~
negative*****~~


 CONV において付加疑問の生起比率が高いことは当然のように予測されたが,同サブコーパスの疑問表現全体のなかで25%を占めるということは発見だった.そのなかでも,肯定の is it? よりも否定の isn't it? のタイプのほうがずっと多い.また,FICT が CONV におよそ準ずる分布を示すのは,フィクション内の会話部分の貢献だろう.一方,NEWS と ACAD で付加疑問の比率が低いのは,この表現と対話との結びつきを強く示唆するものである.また,この2つのサブコーパスでは,完全な独立節での疑問文,特に wh-question が相対的に多いのが注意を引く.
 付加疑問の生起比率に関心をもったのは,実は,Schmitt and Marsden (192) に次のような記述を見つけたからだった.

Tag questions (i.e., regular questioning expressions tagged onto a sentence) exist in both American and British English, with British speakers perhaps using them more than Americans: "That's not very nice, is it?" Peremptory and aggressive tags tend to be used more in British English than in American English: "Well, I don't know, do I?" (192)


 残念ながら,Biber et al. では付加疑問の頻度の英米差を確かめることはできない.別途,英米のコーパスで調べる必要があるだろう.

 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-12-30 Sun

#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙) [ame_bre][pronunciation][stress][-ate]

 英語の英米差については ame_bre ほか,多くの記事で触れてきた.文法と綴字については「#312. 文法の英米差」 ([2010-03-05-1]) と「#244. 綴字の英米差のリスト」 ([2009-12-27-1]) で少しくまとめたが,今回は主として発音と語彙における変異について,Schmitt and Marsden (185--92) に従って一覧したい.言うまでもなく,英米差というときには,標準アメリカ英語と標準イギリス英語の変異を念頭に置いている.

1. Pronunciation

 ・ Words spelled with the vowel a: /æ/ for AmE and /ɑː/ for BrE as in bath, class, last, mask, past, rather.
 ・ Words spelled with -er: /əː/ for AmE and /ɑː/ for BrE as in clerk, Derby (see 「#211. spelling pronunciation」 ([2009-11-24-1]))
 ・ Words ending with -ile: /(ə)l/ for AmE and /aɪl/ for BrE as in agile, docile, fertile, missile
 ・ Words spelled alike but typically pronounced differently (z については「#964. z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1]) および「#965. z の文字の発音 (2)」 ([2011-12-18-1]) を参照)
WordAmEBrE
asthma/ˈæzma//ˈæsma/
clique/klɪk//kliːk/
vase/veɪs//vɑːz/
schedule/ˈskɛʤəl//ˈʃɛdjuːl/
leisure/ˈliːʒəː//ˈlɛʒəː/
lieutenant/luːˈtɛnənt//lɛfˈtɛnənt/
z (the letter)/ziː//zɛd/
tomato/tʌˈmeɪtəʊ//tʌˈmɑːtəʊ/


2. Word Stress

 ・ Words derived from French (garage については「#1318. 言語において保守的とは何か?」 ([2012-12-05-1]) を参照)
AmEBrE
balLETBALlet
blaSÉBLAse
bufFETBUFfet
garAGEGARage
perFUMEPERfume
debuTANTEDEButante
vaLETVAlet

 ・ Three- and four-syllable words
AmEBrE
comPOSiteCOMposite
subALternSUBaltern
arIStocratARistocrat
priMARilyPRImarily

 ・ Words ending in -ary, -ery, -ory and -mony
WordAmEBrE
military/ˈmɪləˌtɛri//ˈmɪlɪtri/
arbitrary/ˈərbəˌtrɛri//ˈɑːbɪtri/
cemetery/ˈsɛməˌtɛri//ˈsɛmətri/
monastery/ˈmɒnəsˌtɛri//ˈmɒnəstri/
mandatory/ˈmændəˌtɔri//ˈmændətri/
category/ˈkætəˌgɔri//ˈkætəgri/
testimony/ˈtɛstəˌməʊni//ˈtɛstəməni/
matrimony/ˈmætrəˌməʊni//ˈmætrɪməni/

 ・ Days of the week
WordAmEBrE
Sunday/ˈsʌndɛɪ//ˈsʌndi/
Monday/ˈmʌndɛɪ//ˈmʌndi/
Tuesday/ˈˈtuːzdɛɪ//ˈtjuːzdi/
Thursday/ˈθəːzdɛɪ//ˈθəːzdi/
Friday/ˈfraɪdɛɪ//ˈfraɪdi/
Saturday/ˈsætəːdɛɪ//ˈsætəːdi/

 ・ Place-names
NameAmEBrE
Lancaster/ˈlæŋˌkæstər//ˈlæŋkəstə/
Rochester/ˈrɒʧɛstər//ˈrɒʧəstə/
Worcester/ˈwʊəsɛstər//ˈwʊstə/
Nottingham/ˈnɒtɪŋˌhæm//ˈnɒtɪŋəm/
Birmingham/ˈbəːmɪŋˌhæm//ˈbəːmɪŋəm/

 ・ Verbs ending in -ate (「#1242. -ate 動詞の強勢移行」 ([2012-09-20-1]) を参照)
AmEBrE
DICtatedicTATE
FIXatefixATE
ROtateroTATE
VIbratevibRATE

 ・ Miscellaneous word-stress differences (「#321. controversy over controversy」 ([2010-03-14-1]) を参照)
WordAmEBrE
advertisement/ˈædvəːˌtaɪzmənt//ædˈvəːtəzmənt/
controversy/ˈkɒntrəˌvəːsi//kɒnˈtrɒvəsi/
corollary/ˈkʊrəˌlɛri//kɒˈrɒləri/
inquiry/ˈɪnkwəri//ɪnˈkwaɪri/
laboratory/ˈlæbrəˌtʊəri//ləˈbɒrətri/


3. Vocabulary (「#1331. 語彙の英米差を整理するための術語」 ([2012-12-18-1]) を参照)

 ・ synonymic variables
AmEBrE
railroadrailway
engineerdriver
conductorguard
baggageluggage
trucklorry
hood (car)bonnet
trunk (car)boot
fender (car)bumper
gasolinepetrol
subwayunderground
counterclockwiseanticlockwise
thumbtackdrawing pin
flashlighttorch
elevatorlift
apartmentflat
mailpost
vacationholiday
garbage candustbin
barpub
druggistchemist
French frieschips
potato chipscrisps
cookiebiscuit
trailercaravan
round-trip ticketreturn ticket
one-way ticketsingle ticket

 ・ lexical classes of variables
AmEBrE
underwearpants
pantstrousers
vestwaistcoat
diapernappy
first floorground floor
second floorfirst floor
sidewalkpavement
pavementroad


4. Idioms

AmEBrE
a home away from homea home from home
leave well enough aloneleave well alone
sweep under the rugsweep under the carpet


5. Grammar

 ・ Prepositions
AmEBrE
on a streetin a street
fill out a formfill in a form
check out somethingchuck up on something
on the weekendat the weekend
of two mindsin two minds
to all tastesfor all tastes

 ・ Definite article
AmEBrE
in the hospitalin hospital
in the futurein future
go to the universitygo to university


 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-12-18 Tue

#1331. 語彙の英米差を整理するための術語 [terminology][ame_bre][lexicology][lexeme]

 語彙の英米差には,様々な種類ものがある(例は,[2010-04-19-1]の記事「#357. American English or British English?」を参照).種々の語彙の英米差を区別,整理,言及するのに,一群の術語を導入すると便利だと考えた.以下で説明しよう.
 英語には英米の変種が区別されると言われる.各変種をそれぞれ "the British variety of English", "the American variety of English" と呼ぶことにしよう(この短縮形が,それぞれ "British English" であり "American English" である).この2つの変種の間には多くの "lexical variation" (語彙的変異)が観察される.その変異の例の一つひとつを "a (lexical) variable" ((語彙的)変項)と呼ぶことにする.例えば,"a rest of time" (休暇)を意味するのに,典型的にイギリス英語では holiday を用いるが,アメリカ英語では vacation を用いる.このとき,この意味に関する英米変種間の variable は, "the British variant" (イギリス英語版の異形) holiday と,"the American variant" (アメリカ英語版の異形) vacation の2つの異形のあいだの揺れとして記述できる.これを次の1のような記法で表わすことにしよう.

1. ("a time of rest"): BrE holiday ~ AmE vacation


 語彙的変項には別種のものもある.pants という語は,イギリス英語では "underpants" (下着)を意味するが,アメリカ英語では "trousers" (ズボン)を意味する.これは次の2のように記述できる.

2. (pants): BrE "underpants" ~ AmE "trousers"


 いずれの場合も変項は ( ) で囲むこととし,斜体の文字列は "signifiant" を,引用符でくくった文字列は "signifié" を表わすものとする.あるいは,別の用語を導入すれば,斜体の文字列は "lexeme" (語彙素)を,引用符でくくった文字列は "sememe" (意義素)を表わすものとする.
 語彙的変異のなかでも,1のタイプの変項は,同じ sememe に対して異なる lexeme が各変種で対応するので,"a synonymic variable" と呼ぶことができる.一方,2のタイプの変項は,同じ lexeme に対して異なる sememe が各変種で対応するので,"a homonymic variable" と呼ぶことができる.
 ほかにも,undergroundsubway の関係のように,英米変種間でともに "synonymic variables" でもあり "homonymic variables" でもあるような語群があるが,このような語群は "a lexical class (field) of variables" を構成していると表現できるだろう.first floor, second floor, third floor 等々も,階数に関する "a lexical class of variables" と呼んでよい.
 以上のように,"variation", "a (lexical) variable", "a variant", "a lexeme", "a sememe", "a synonymic variable", "a homonymic variable", "a lexical class of variables" という用語を導入することで,語彙の英米差の複雑な状況を整理することに役立つのではないか.なお,ここでの lexeme や sememe という術語の用法は,形態論や意味論で用いられる際の定義と厳密には異なっている可能性があるが,前者が問題の variant における signifiant を,後者が signifié を指すものとして前もって了解しておけば,対応語句として便利に使えるだろう.あえて "word" (語)という術語を用いず,"lexeme" などを持ち出したのは,必要であれば,「#22. イディオムと英語史」 ([2009-05-20-1]) で触れたようにイディオムのような単位にも対応させられるからである.

Referrer (Inside): [2015-04-22-1] [2012-12-30-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-12-05 Wed

#1318. 言語において保守的とは何か? [ame_bre][colonial_lag][pronunciation][rsr][gsr][prescriptive_grammar]

 言語における保守 (conservative) と革新 (innovative) については,本ブログでも主として英語の英米差を扱った記事 (ame_bre) ,とりわけ最近の「#1304. アメリカ英語の「保守性」」 ([2012-11-21-1]) や colonial_lag に関する記事で触れてきた.ほかに,本ブログ内を「保守 革新」で検索すると,いくつかの記事が挙がる.これらの記事を執筆しながら,言語の保守性とは一体何なのだろうかと考えてきた次第である.
 例として,garage の発音の英米差を考えてみよう.LPD によると,この語の発音の強勢位置は,アメリカ英語では専ら第2音節,イギリス英語では94%が第1音節に置かれる.

Pronunciation of

 この分布について,どちらがより保守的でどちらがより革新的といえるだろうか.1つの見方(おそらく通常の見方)によれば,この語はフランス語 garer "shelter" に基づく派生語であり,フランス語的な第2音節への強勢が基本にあると考えられるので,その位置を保っているアメリカ英語発音こそが保守的であると議論できるかもしれない (cf. Romance Stress Rule) .しかし,別の見方によれば,強勢が第1音節に落ちるのは発音が英語化(ゲルマン語化)している証拠であり,イギリス英語発音こそが英語の伝統的な強勢位置の傾向を体現しているといえ,結果として保守的である,とも議論できるかもしれない (cf. Germanic Stress Rule) .
 また別の見方によれば,より一般的に言語的な規範を遵守する傾向が強い場合に,保守的と表現されることもある.アメリカ英語は相対的に規範遵守の態度が強いと言われるが(例えば,[2011-10-11-1]の記事「#897. Web3 の出版から50年」を参照),その意味では保守的ともいえるのである.たとえ,規範の内容やでき方そのものは,歴史的に革新的だったとしてもである.
 上に述べた3種類の保守性は,それぞれある意味では保守的ではあるが,互いにどこかずれている.この見かけの矛盾を解く鍵は,「基準点」の定め方にある.「保守」を「旧来の風習・伝統を重んじ,それを保存しようとすること」(『広辞苑第6版』)と理解する場合,基準点である「旧来の風習・伝統」が何を指すか明確にしなければ,保守そのものの指示内容も曖昧になる.基準点とは,ある時点において規範として守られている,あるいは少なくとも広く行なわれている語法を指し,その語法がその前段階の語法を引き継いだものであるのか,そこから変化したものであるのかは問わない.
 基準点をフランス語的発音に置けば,garage の第2音節に強勢を置くアメリカ英語発音は保守的とみなせるが,基準点をゲルマン祖語に置けば,第1音節に強勢を置くイギリス英語発音は保守的である.また,言語規範は成立過程がどのようなものであれ,ある程度定着すれば基準点として機能しうるので,以後それを遵守する風潮が続けば,それはすべて保守的といえる.つまり,基準点をどこに置くかによって,保守の指示内容も大きく異なってくるのである.だが,基準点をどこに置くのが正しいかを判断する客観的な指標はない.
 このように,保守(そしてその反意語である革新)とは相対的な用語にすぎない.言語において保守性を論じる場合には,少なくとも何を基準点として論じているのかを明示しなければ無意味だろう.

 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow