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ame_bre - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-12 07:24

2010-06-20 Sun

#419. A Mid-Atlantic variety of English [variety][ame_bre][elf][rhotic]

 他の様々な英語変種が伸張しているとはいえ,英語の二大変種としてアメリカ英語 ( AmE ) とイギリス英語 ( BrE ) があり,いまだ世界の英語使用や英語教育に大きな影響力を及ぼしていることは周知のとおりである.ところが,英米が取り囲んでいる大西洋の真ん中に「間大西洋変種の英語」 ( a Mid-Atlantic variety of English ) というものがある.
 大西洋の真ん中に浮かぶ小島で話されている英語というわけではない.AmE とも BrE ともつかない英米の中間的な英語という意味で,言葉遊びを混じえた表現である.ヨーロッパの英語非母語話者によって用いられることが多く,その特徴は発音によく反映されている.例えば,Mid-Atlantic variety では語尾の r が,AmE ほど rhotic でなく BrE ほど non-rhotic でもない弱い /r/ で実現されるという.同様に,lastpast などの母音が,AmE 的な /æ/ と BrE 的な /ɑ:/ との間で交替すると言われる ( see [2010-03-08-1] ).
 Mid-Atlantic variety の発生にはいくつかの背景が関わっている.従来ヨーロッパでは,英語を学習したり使用したりする際に AmE か BrE のどちらかを意識的に選ぶということが行われてきた.しかし,lingua franca としての英語 ( ELF ) の役割が重要性を帯びてくると,ある特定の変種を絶対とする感覚は薄れてくる.AmE か BrE のどちらかにこだわるという態度が古いものとなってくると,明確にどちらともつかない Mid-Atlantic variety が生じてくるのは自然の成り行きだろう.
 また,政治的な要因もあるだろう.EU など複数の公用語を設けている国際機関では,実質上の共通語として英語がもっとも幅を利かせていることは疑いようがないが,その上でピンポイントに BrE か AmE を選んでしまうと,言語的にイギリスかアメリカを優遇する形になり,それが政治的な優遇に結びつくという懸念があるようである.
 ヨーロッパ人ではなくとも,英米変種の中間的な発音や表現を用いたり,交替させたりすることは頻繁に起こりうるのではないか.私自身,AmE を中心に英語を学習してきた経緯があるが,イギリスに留学するに及んで BrE にも慣れ親しんだ.結果として,英米ちゃんぽんの Mid-Atlantic Japanese variety なる何ともいえない英語変種を話していることに自分で気づくときがある.書き言葉でこそ英米変種のどちらかに統一するのがよいだろうという感覚は根強く残っているが,話し言葉ではしつこくどちらかを追求することはあまりない.区別を知っているに越したことはないが,実際的な使用ではこだわる必要がないのではないか.一英語学習者として Mid-Atlantic (Japanese?) variety の今後の発展に期待したい.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 233.

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2010-06-07 Mon

#406. Labov の New York City /r/ [sociolinguistics][phonetics][language_change][ame_bre][rhotic]

 car, hear などにみられる語尾の <r> が発音されるか ( rhotic ),発音されないか ( non-rhotic ) は,一般に英語の英米差と結びつけられることが多い.しかし,一般に non-rhotic とみなされるイギリス英語でも,ロンドンを中心とする南東部以外の方言では広く /r/ が聞かれるし,一般に rhotic とみなされるアメリカ英語でも,New England や Southern の方言では /r/ が発音されない.したがって,一般に言われている /r/ の英米差は,あくまでイギリス英語とアメリカ英語の標準的な変種を比べての話である.
 New York City ( NYC ) も,20世紀前半にはアメリカ英語らしからぬ non-rhotic な地域であった.これは当時の諸記録や映画からも明らかである.しかし,以降,現在に至るまで,アメリカ英語の大半に歩調を合わせるかのごとく NYC でも /r/ が発音されるようになってきている.ここ数十年の間に一つの言語変化が起こってきたということになるが,この変化に注目し,社会言語学の先駆的な調査・研究を行ったのが University of Pennsylvania の William Labov だった.彼の研究は後の社会言語学のめざましい発展に貢献し,その独創的な手法は今なお人々の興味を引いてやまない.
 20世紀後半の言語学者は NYC の人々が /r/ を発音したりしなかったりする事実には気づいていたが,その使い分けや分布はランダムであり,個々人の好みの問題にすぎないと考えていた.しかし,Labov はその分布はランダムではなく何らかの根拠があるはずだと考えた.そこで,社会階級によって分布が異なるのではないかという仮説を立て,それを検証すべく次のような調査を計画した.階級レベルの高い人々ほど /r/ を発音する傾向があり,低い人ほど /r/ を発音しない傾向があると仮定し,NYC にある客層の異なる三つの百貨店で販売員の発音を調査することにしたのである.というのは,別の研究で,販売員は主な客層の話し方に合わせて話す傾向があるとされていたので,販売員の発音は対応する客層の発音を代表しているはずだと考えたからである.
 Labov は,高階級の Saks Fifth Avenue,中階級の Macy's,低階級の Klein's という百貨店をターゲットにした.いずれの百貨店も,一階は客で込み合っており商品も多く陳列されている庶民的なフロアだが,最上階は客が少なく商品もまばらで高級感のあるフロアとなっている.Labov はまず一階の販売員に,四階に売られていることがあらかじめわかっている商品を挙げて,○○の売場はどこですかと尋ねた.販売員の fourth floor という返答により,二つの /r/ の有無を確かめることができるというわけだ.さらに,Labov はその返答が聞こえなかったように装い,もう一度,今度はより意識された丁寧な発音をその販売員から引き出した.次に4階に上がり,ここは何階かと販売員に尋ねることで,再び /r/ の有無のデータを引き出した.このようにして多くのデータを集め,様々なパラメータで分析したところ,当初の予想通りの結果となった.
 三つの百貨店を全体的に比べると,高階級の Saks で rhotic の率がもっとも高く,低階級の Klein's でもっとも低かった.また,各百貨店についてデータを見ると,一階よりも上層階での発音ほど /r/ を多く含んでいることがわかった.また Klein's については,聞き返した二度目の発音のほうが一度目よりも多く /r/ を含んでいることがわかった.結果として,NYC の話者は階級が高いほど,また意識して発音するほど rhotic であることが判明した.こうして,社会的な要因で rhotic か non-rhotic かが無意識のうちに使い分けられているということが明らかになったのである.
 この調査の詳細は Labov の著書に詳しいが,上の要約は Aitchison (42--45) に拠った.

 ・ Labov, William. Sociolinguistic Patterns. Philadelphia: U of Pennsylvania P, 1972.
 ・ Aitchison, Jean. Language Change: Progress or Decay. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2001.

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2010-04-21 Wed

#359. American English or British English? の解答 [ame_bre][quiz][hel_education][americanism]

 今回は,[2010-04-19-1]の英米差クイズの正解を公表する.こちらのPDFからどうぞ.
 クイズは,英米差の目安である.英米差と一口にいっても,どちらかの変種でしか使われない表現というのは少ない.多くの場合,相対的な頻度として英米間に差があると考えるのが妥当だろう.近年のアメリカ語法 ( Americanism ) がイギリス英語(のみならず世界中の英語)に与えている影響の大きさを考えると,英米差は日々小さくなっているのであり,特に語彙対照リストなどは今後あまり意味をなさなくなってくるのかもしれない.この点について,"Americanism" ではなく "Americanization" を語るほうが適切だとする Svartvik and Leech の主張を引用しよう.

The notion of 'Americanism' itself is a moving target, and it is no longer practical to try to list Americanisms as in a glossary. Perhaps, indeed, the concept of 'Americanism' has had its day, and is giving way to the concept of 'Americanization' --- the ongoing and often unnoticed influence of the New World on the Old. (159)


 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.

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2010-04-19 Mon

#357. American English or British English? [ame_bre][quiz][hel_education]

 英語の英米差についてのクイズを作ってみた.語彙,文法,語法,意味,発音の英米差を問う全65問の問題用紙はこちらのPDFでどうぞ.以下はその中からサンプルとして抜粋した13問.

 各問に挙げられている表現のペアは,一方が AmE (American English) に,他方が BrE (British English) に結びつけられることの多い対応表現である.各ペアについて,典型的に AmE の表現として知られているものにチェックを入れなさい.

・ 秋 : □ autumnfall
・ ボンネット : □ bonnethood
・ トラック : □ lorrytruck
・ 店 : □ shopstore
・ 歩道 : □ pavementsidewalk
・ □ I demanded that he not leave. □ I demanded that he should not leave.
・ □ They pay them pretty good. □ They pay them pretty well.
learn の過去・過去分詞形 : □ learnedlearnt
pants : □ 「ズボン」 □ 「下着」
ask : □ /ɑ:sk/ □ /æsk/
suggest : □ /səgˈdʒɛst/ □ /səˈdʒɛst/
what : □ /wɒt/ □ /ʍɑ:t/
・ □ <traveler> □ <traveller>

 正解は近いうちに掲載の予定.

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2010-03-18 Thu

#325. mandative subjunctiveshould [ame_bre][subjunctive][mandative_subjunctive]

 現代英語において,特定の動詞や形容詞と関連づけられた that 節内の動詞が接続法 ( subjunctive mood ) の屈折形態をとるという文法がある.学校文法で一般に仮定法現在 ( subjunctive present ) と呼ばれている現象である.特に,このような that 節内に現れるケースを mandative subjunctive と呼ぶ.
 この話題については[2009-08-17-1]で軽く触れた.またその使用頻度の英米差については[2010-03-08-1], [2010-03-05-1]で触れた.かいつまんでいえば,AmE ではいまなお接続法が一般的だが,BrE では代わりに should を用いることが多い.しかし,AmE の影響で BrE でも接続法の使用が増えてきている.
 学校文法では,AmE 型の mandative subjunctive は BrE 型の should の省略であると説明されることがある.

 AmE: I advised that John read more books.
 BrE: I advised that John should read more books.


 共時的には省略であるとする記述も可能なのかもしれないが,歴史的にはこの記述は不適当である.歴史的には,現代の AmE 型の subjunctive のほうが古い.古英語以来 Shakespeare の時代でも,mandative subjunctive は広く使われていた.この Shakespeare 時代の用法がそのままアメリカに渡り,AmE では現在まで変わらずに受け継がれているのである.一方,BrE では Shakespeare より後の時代に mandative subjunctive の用法が廃れ,当該の動詞形が不定詞形と再解釈されたうえで,直前に法助動詞 should が挿入されたのである.
 したがって,歴史的にみれば,AmE 型の mandative subjunctive の使用は should の省略などではまったくない.むしろ正反対で,BrE 型の should こそが後付の挿入なのである.[2010-03-08-1]でも触れたが,この例は AmE が保守的で BrE が革新的であるという,一見すると意外な例の一つである.
 こうした歴史的経緯を踏まえると,現在 BrE でも mandative subjunctive が復活しつつあるという状況が俄然おもしろく見えてくるだろう.

 ・ 児馬 修 『ファンダメンタル英語史』 ひつじ書房,1996年.60--65頁.

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2010-03-08 Mon

#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か [ame_bre]

 英語の英米差については,これまでもいくつかの記事で取り上げてきた ( see ame_bre ).広く信じられている「神話」によれば,アメリカ英語 ( AmE ) が革新的で,イギリス英語 ( BrE ) が保守的ということになっている.国民性についてのステレオタイプに基づく神話といっていいだろう.英語史ではよく取り上げられることであるが,実際には,AmE に古い語法が残っていたり,BrE に革新的な語法が見られることも少なくない.そもそも英語史の舞台の大半はイギリスであり,AmE の誕生につながる近代英語期まで,英語という言語はまさにそのイギリスで数々の言語変化を経てきたのである.歴史的にみて BrE が絶対的に保守的であるということはできない.
 生きた言語である以上,AmE も BrE もある意味では革新的であり,ある意味では保守的である.今回は,AmE と BrE の標準的な変種がそれぞれどのような古い語法を保ち続けているかについて代表的なものを列挙する.以下,典拠は Algeo .

[ AmE のほうが保守的である点 ]

(1) more, mother などの /r/ .BrE では発音しない方向へ変化し,現在にいたっている.
(2) path, calf, class などの /æ/ .BrE では /ɑ:/ へと変化し,現在にいたっている.
(3) secretary /ˈsekrəˌteri/ などで最後から二番目の音節に第2アクセントをもつ.BrE では,通常 /ˈsekrətri/ と母音が消失し,3音節語になる.
(4) Chaucer も愛用した I guessI think の意味で頻用する.BrE では guess はもっぱら「言い当てる」の意.
(5) get の過去分詞としての gotten の使用.BrE では got のみ.ちなみに AmE でも got を使わないわけではないが,gotten とは意味が異なる.例えば,I've got a cold = I have a cold だが,I've gotten a cold = I've caught a cold .( see also [2010-03-05-1] )
(6) They insisted that he leave. などにおける仮定法の使用.BrE では should を用いるのが通例.( see also [2010-03-05-1], [2009-08-17-1] )

[ BrE のほうが保守的である点 ]

(1) atomAdam など母音間の /t/ と /d/ を明確に区別する.AmE では弾音化 ( flap ) して両語が同じ発音になる.
(2) callousAlice などが韻を踏まない(最終音節が異なる発音を保っている).AmE では,最終音節の母音が曖昧母音 /ə/ へ融合するため,韻を踏む.
(3) father /ˈfɑ:ðə/ と fodder /ˈfɒdə/ などで強勢音節の母音が異なる.AmE では /ɑ:/ へ融合.
(4) I reckonI think の意味で使用する.AmE では,reckon は通常「計算する,見積もる」の意.
(5) fortnight 「二週間」, corn 「穀物」などの使用と意味.AmE では通常,前者は使わず,後者は「トウモロコシ」の意に限定.
(6) Have you the time? など一般動詞としての have を助動詞のように前置する文法.AmE では Do you have the time?

 いずれの変種にも革新性と保守性は備わっており,どちらがより革新的なのか保守的なのかは判然としないというのが事実だろう.一方で,Algeo の次の見解にも留意しておきたい.

Perhaps Americans do innovate more; after all, there are four to five times as many English speakers in the United States as in the United Kingdom. So one might expect, on the basis of population size alone, four to five times as much innovation in American English. Moreover, Americans have been disproportionately active in certain technological fields, such as computer systems, that are hotbeds of lexical innovation. (182)


 ・ Algeo, John. "America is Ruining the English Language." Language Myths. Ed. Laurie Bauer and Peter Trudgill. London: Penguin, 1998. 176--82.

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2010-03-05 Fri

#312. 文法の英米差 [ame_bre][grammar]

 綴字の英米差([2009-12-27-1][2009-12-23-1]),発音の英米差([2009-11-24-1])に続き,今回は文法の英米差について主要なものを10点挙げる.

(1) gotten (AmE) / got (BrE)

 AmE: She's gotten into trouble in school.
 BrE: She's got into trouble in school.

(2) from ... through ... (AmE) / from ... to ... (BrE).AmE で through を使うと8月を含む意味になる.BrE ではこの慣用がないため,to だけでは8月を含むのか否かが不明.BrE で「含める」読みにするには,明示的に inclusive を使うことが多い.

 AmE: The tour lasted from May through August.
 AmE and BrE: The tour lasted from May to August.
 BrE: The tour lasted from May to August inclusive.

(3) 集合名詞の数の一致.AmE では形態が単数である限り単数扱いだが,BrE では形態が単数でも意味が複数であれば後者を重視して複数扱い.team, audience, board, committee, government, the public など.

 AmE: The Government has been considering further tax cuts.
 BrE: The Government have been considering further tax cuts.

(4) insist, recommend, suggest などが従える従属節における仮定法 (AmE) と should (BrE) の使用.ただし,BrE でも AmE の影響で仮定法の使用が普通になってきている.(see [2009-08-17-1])

 AmE: They insist that she accept the offer. (also increasing in BrE)
 BrE: They insist that she should accept the offer. (getting unacceptable in AmE)
 BrE (colloquial): They insist that she accepts the offer. (not accepted in AmE)

(5) AmE で副詞の代用としての形容詞.good, slow, awful, sure など.

 AmE: They pay them pretty good. (non-standard in BrE)
 BrE: They pay them pretty well.

(6) AmE で like の接続詞としての使用.BrE では as if が普通.

 AmE: It seems like we've made another mistake. (non-standard in BrE)
 BrE: It seems as if we've made another mistake.

(7) AmE のいくつかの変種で明示的な二人称複数代名詞 you all, y'all, yous(e) の頻用.

 AmE: I'll see y'all later. (South)
 AmE: How much did yous want? (Northeast, esp. New York City)
 AmE: We'll see you guys Sunday, okay? (informal)

(8) 現在完了と過去.AmE ではしばしば過去形が代用される.

 AmE: Dolly just finished her homework.
 BrE: Dolly has just finished her homework.

(9) AmE で out の前置詞としての使用.BrE では out of を用いる.

 AmE: I always look out the window.
 BrE: I always look out of the window.

(10) AmE で用いられる動詞の過去形の異形.BrE では括弧内の形態しかとらないが,AmE の口語では両方とりうる.

 dove ( dived ), fit ( fitted ), pled ( pleaded ), rung ( rang ), sung ( sang ), sunk ( sank ), snuck ( sneaked ), swum ( swam )

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 166--69.

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2010-02-26 Fri

#305. -ise か -ize [spelling][ame_bre][bnc][corpus][suffix][z]

 私は,普段,英語を書くときにはイギリス綴りを用いている.英国留学中,指導教官に -ize / -ization の語を -ise / -isation に訂正されてから意識しだした習慣である.そのきっかけとなったこのペアは,一般には,アメリカ英語ではもっぱら -ize を用い,イギリス英語では -ise も用いられるとされる.
 イギリス英語での揺れの理由としては,アメリカ英語の影響や,接尾辞の語源としてギリシャ語の -izein に遡るために -ize がふさわしいと感じられることなどが挙げられるだろう.単語によって揺れ幅は異なるようだが,実際のところ,イギリス英語での -ise と -ize のあいだの揺れはどの程度あるのだろうか.
 この問題について,Tieken-Boon van Ostade (38) に BNC ( The British National Corpus ) を用いたミニ検査が示されていた.generalise, characterise, criticise, recognise, realise の5語で -ise と -ize の比率を調べたというものである.このミニ検査に触発されて,もう少し網羅的に揺れを調べてみようと思い立ち,BNC-XML で計399個の -ise / -ize に揺れのみられる動詞についてそれぞれの頻度を出してみた.以下は,-ise / -ize を合わせて頻度がトップ20の動詞である.ちなみに,399個の動詞についての全データはこちら

item-ise rate (freq)-ize rate (freq)-ise + -ize
recognise61.1% (9143)38.9% (5812)14955
realise63.2% (9442)36.8% (5492)14934
organise62.3% (5540)37.7% (3359)8899
emphasise60.0% (2998)40.0% (1998)4996
criticise54.9% (2054)45.1% (1688)3742
characterise52.2% (1398)47.8% (1278)2676
summarise61.4% (1164)38.6% (731)1895
specialise70.7% (1163)29.3% (481)1644
apologise68.8% (1084)31.2% (492)1576
advertise99.5% (1542)0.5% (7)1549
authorise64.5% (987)35.5% (543)1530
minimise65.4% (984)34.6% (521)1505
surprise99.9% (1345)0.1% (1)1346
supervise99.8% (1303)0.2% (3)1306
utilise68.9% (798)31.1% (360)1158
maximise63.2% (719)36.8% (418)1137
symbolise49.2% (324)50.8% (334)658
mobilise45.5% (286)54.5% (342)628
stabilise53.5% (334)46.5% (290)624
publicise69.4% (419)30.6% (185)604


 この表で advertise, surprise, supervise の3語については -ise が規則だとみなしてよいだろうが,それ以外は全体的に -ise がやや優勢なくらいで,イギリス英語でも -ize は十分に一般的であることがわかる.399語の平均を取ると,-ise の比率は51.6%となり,-ize とほぼ拮抗していることがわかる.詳しく調べれば個々の動詞の慣用というのがあるのかもしれないが,イギリス英語の綴り手としては,ひとまず「-ise に統一」と考えておくのも手かもしれない.

 ・ Tieken-Boon van Ostade, Ingrid. An Introduction to Late Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2009.

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2009-12-27 Sun

#244. 綴字の英米差のリスト [ame_bre][spelling]

 [2009-12-23-1]で綴字の英米差に触れたが,今回はもっと豊富に例を挙げ,後に再利用が可能となるようにリストの形でまとめておきたい.以下の対照表は,Davies (84--90) が The Shorter Oxford English DictionaryThe American Heritage Dictionary of the English Language のそれぞれから,英米での典型的な綴りをえり抜いたものである.語尾に+マークのあるものは,他方の綴字も比較的低い頻度ではあるが用いられうることを示す.

USUK
abridgmentabridgement
accoutermentaccoutrement
acknowledgmentacknowledgement
adapter +adaptor
agingageing
aluminumaluminium
amebaamoeba +
analyzeanalyse
anestheticanaesthetic
apologize +apologise
appallappal
appetizer +appetiser
arborarbour
ardorardour
armorarmour
armorerarmourer
armoryarmoury
artifactartefact
authorize +authorise
behaviorbehaviour
behoovebehove
calipercalliper
calisthenicscallisthenics
canceledcancelled +
candorcandour
capitalize +capitalise
catalogcatalogue
centercentre
chamomilecamomile
check (bank)cheque
checkerboardchequer-board
chilichilli
civilization +civilisation
civilize +civilise
clamorclamour
clangorclangour
clarinetistclarinettist
colorcolour
counselorcounsellor
cozycosy
curb (on a street)kerb
czartsar
defensedefence
demeanordemeanour
dependent (noun)dependant
dialingdialling
diarrheadiarrhoea
diskdisc
distilldistil
dolordolour
draftdraught
economize +economise
enamorenamour
endeavorendeavour
enrollenrol
enthrallenthral
equalize +equalise
favorfavour
favoritefavourite
favoritismfavouritism
fervorfervour
fiberfibre
flavorflavour
fulfillfulfil
furorfurore
gagegauge +
gemologygemmology
graygrey +
harborharbour
harmonize +harmonise
honorhonour
honorablehonourable
humorhumour
initialize +initialise
inquiry +enquiry
installmentinstalment
instillinstil
jailjail/gaol
jewelerjeweller
jewelryjewellery
judgmentjudgement
laborlabour
licenselicence
literlitre
maneuvermanoeuvre
marvelousmarvellous
memorize +memorise
misdemeanormisdemeanour
mobilize +mobilise
moldmould
moldingmoulding
mommum
mustachemoustache
naughtnought
neighborneighbour
neighborhoodneighbourhood
normalize +normalise
odorodour
organize +organise
pajamaspyjamas
paralyzeparalyse
parlorparlour
pasteurize +pasteurise
peddler +pedlar
percentper cent
persnicketypernickety
plowplough
polarize +polarise +
practice (verb)practise
pretensepretence
programprogramme
pulverize +pulverise
rancorrancour
realize +realise
recognize +recognise
rigorrigour
rumorrumour
savorsavour
savorysavoury
skepticsceptic
skillfulskilful
specterspectre
spilledspilt
splendorsplendour
story (of a building)storey
succorsuccour
sulfursulphur
symbolize +symbolise
sympathize +sympathise
theatertheatre +
tiretyre
travelertraveller
tumortumour
utilize +utilise
valorvalour
vaporvapour
vaporize +vaporise
vigorvigour
vise (tool)vice
willfulwilful
worshiperworshipper


 ・Davies, Christopher. Divided by a Common Language: A Guide to British and American English. Mayflower, 1997. Boston: Houghton Mifflin, 2007.

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2009-12-23 Wed

#240. 綴字の英米差は大きいか小さいか? [ame_bre][spelling][webster][l]

 英語の英米差,とくに綴字の英米差は,授業で自由レポートなどを課すと人気のある話題である.以下のような対照表が示されることが多い.

アメリカ英語イギリス英語
color, humorcolour, humour
center, litercentre, litre
defense, offensedefence, offence
traveler, traveledtraveller, travelled
ameba, anestheticamoeba, anaesthetic


 そして,辞書編纂者 Noah Webster (1758-1843) を引き合いに出してアメリカ英語の綴字改革の話をするのが,この話題の定番である.
 もちろん上の表は綴字の英米差の一部を示したに過ぎないとはいうものの,比較的短い表の形でまとめられるということは,そもそも差が少ないことの証拠である.むしろ,地理的にもおおいに離れており,枝分かれして400年近くもの歳月が流れているにもかかわらず,これだけしか差がないということは驚きである.
 英米差はとかく強調されがちだが,実際には差は僅少であるという見方は,[2009-12-21-1]で触れた Krapp に顕著である.Krapp はアメリカ英語の歴史をイギリス英語の歴史から独立させて記述することをよしとしない態度を一貫してとっている.綴字の差についても「みんな騒ぎすぎだ」という意見のようである.

On the whole, Americans, like the British, have been conservative in their treatment of spelling, and the notion that American spelling is radical and revolutionary seems indeed to be mainly a survival from eighteenth and early nineteenth century political feeling. (Vol. 1, 328)


 ・Krapp, George Philip. English Language in America. 2 vols. New York: Century, 1925.

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2009-11-24 Tue

#211. spelling pronunciation [spelling_pronunciation][ame_bre]

 spelling pronunciation綴り字発音」については本ブログでも何度か触れてきた.
 綴り字発音は「綴字に合わせて,歴史的,伝統的,標準的な様式とは異なる様式でなされる発音」として定義される.現代英語で often の発音に起きている変化が代表的な例である.この語は従来 [ˈɔ:fn] と発音されてきたが,近年では [ˈɔ:ftən] と <t> を発音する方向へ変化しつつある.「書かれているのだから読もう」という素直な発想に基づく発音変化である.
 他には,accomplish がある.これは従来 [əˈkʌmplɪʃ] と発音されてきたが,近年の米語では [əˈkɑ:mplɪʃ] と発音されるようになってきている.<om, on> という綴字における母音は,somecompany にみられるように,歴史的には [ʌ] と発音されてきたが,stopTom などの [ɑ:] の発音からの類推で,このように変化してきている.
 上記のように,綴り字発音には二つの種類が区別される.種類ごとにいくつかの例を挙げよう.

(1) 黙字 ( mute letter ) が発音されるようになるタイプ.often の新発音の例.

単語従来の発音綴り字発音
clothes[ˈkləʊz][ˈkləʊðz]
forehead[ˈfɒrɪd][ˈfɔ:hɛd]
often[ˈɔ:fn][ˈɔ:ftən]
suggest[səˈdʒɛst][səgˈdʒɛst]
towards[ˈtɔ:dz][təˈwɔ:dz]


(2) 類似した綴字をもつ他の語からの類推 ( analogy ) によって発音が変化するタイプ.accomplish の新発音の例.

単語従来の発音綴り字発音
assume[əˈʃu:m][əˈsju:m]
ate[ˈɛt][ˈeɪt]
clerk[ˈklɑ:k][ˈclə:rk]
constable[ˈkʌnstəbl][ˈkɑ:nstəbl]
nephew[ˈnevju:][ˈnefju:]


 上に挙げた表は,従来の発音から綴り字発音へと発音が変化しつつあるという通時的な過程を示唆しているが,一方で地域変種間の差異を示唆しているという側面もある.従来の発音がイギリス発音で,綴り字発音がアメリカ発音であることが多い.Mencken は,綴字と発音の差を縮める方向に作用する綴り字発音の合理性を指摘し,イギリス英語に勝るアメリカ英語の特質として力説している ( 483--88 ).イギリス英語とアメリカ英語のこの対比は,特に地名によく現れている.両国に同じ綴字の地名がある場合,イギリス英語では歴史と伝統によってはぐくまれた不規則な発音が,アメリカ語ではストレートな綴り字発音が行われることが多い.

単語イギリス発音アメリカ発音
Derby[ˈdɑ:bi][ˈdə:rbi]
Eltham[ˈɛltəm][ˈɛlθəm]
Greenwich[ˈgrɪnɪdʒ][ˈgri:nwɪtʃ]
Thames[ˈtɛmz][ˈθeɪmz]


 とはいえ,近年ではイギリス英語もアメリカ英語の影響を受けることが多くなってきており,全体として綴り字発音の傾向は続くことが予想される.

 ・Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.

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