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punctuation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-07-20 06:59

2012-10-22 Mon

#1274. hedera, or ivy-leaf [punctuation]

 hedera, or ivy-leaf という図像を目にしたことがあるだろうか.これは,ほとんど廃用になったといってよい,かつての punctuation (句読点)である.ツタをかたどったもので,ivy-leaf あるいはラテン語で hedera と呼ばれる.
 Crystal (282) によれば,hedera の用途は以下の通りである.ギリシア・ローマの古典時代には,語と語を分かつために用いられた(関連して「分かち書き」については ##1112,1113,1114 を参照).古英語期には,テキストの主たる節の区切りや終了を示すのに用いられた.中世で句読点としての本来の機能が忘れ去られ,廃用となりつつあったが,印刷術の発明以降に装飾の目的でいくらか復活した.様々な意匠がほどこされて装飾的に利用されてきた歴史は,こちらのフォントのページから推し量ることができそうだ.
 もう少し調べてみると,Parkes に hedera に関する記述があった.

. . . the hedera (or ivy-leaf symbol) became a printers' ornament. The hedera is probably the oldest punctuation mark in the West, appearing in inscriptions of the second century B.C. Its decorative potential was already being exploited in some of the earliest surviving codices, but it still appeared at the beginnings and ends of sections of texts in manuscripts produced in the seventh and eighth centuries. In the twelfth century there is evidence to suggest that its function as a mark of punctuation was no longer understood, but it was cast in type in the sixteenth century, and appears in printed books, sometimes in circumstances which stimulate speculation that its original function had been rediscovered. In the mid sixteenth century a number of printers in France and England employed the hedera in places where others had employed the paraph: at the beginning of the first line of the title-page, at the beginning of the first line of a colophon, and even at the beginning of a chapter heading. In A deuout treatyse called the tree and twelve frutes of the holy goost (London, Robert Copland, 1534) the hedera alternates with the pointing hand to separate different injunctions to the reader. However, it was most frequently employed as an ornament, usually on title-pages. On the title-page of John Longland's earlier sermon, A sermond spoken before the King . . . (London, [Thomas Petyt], 1536), it appears in a row of cast pieces, including a pointing hand and fleur-de-lis, employed as ornament. (61)


 また,Parkes (181) によれば,あるテキスト単位の区切りを示すという本来の機能の応用として,古英語期の写本 MS Bodley 819 では,主題と注解を分けるのに用いられている例があるという.これを書写しようとした12世紀の写字生は,その意味を理解できずにいくつかの hedera を punctus versus で置きかえてしまっているというから,もとより hedera の機能性は乏しかったのかもしれない.
 現在では句読点としては "extinct" とされるが,装飾としては,上の引用で触れられているような状況でいまだに稀に見られる.
 American Speech 第1巻の巻頭を飾る McKnight の論文を読もうとしたときに,以下のように hedera の使用例を発見したので,参考までに.

hedera in use

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
 ・ Parkes, M. B. Pause and Effect: An Introduction to the History of Punctuation in the West. U of California P, 1993.
 ・ McKnight, George H. "Conservatism in American Speech." American Speech 1 (1925): 1--17.

Referrer (Inside): [2015-10-26-1]

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2012-08-06 Mon

#1197. 英語の送り仮名 [grammatology][japanese][hiragana][katakana][kanji][writing][punctuation]

 日本語の漢字表記には,送り仮名という慣習がある.送り仮名の重要な役割の1つは,原則として直前の漢字が訓読みであることを示すことである.もう1つの重要な役割は,用言の場合に,活用形を示すことである.例えば「語る」の送り仮名「る」は,この漢字が音読みで「ご」ではなく訓読みで「かた」と読まれるべきこと,およびこの動詞が終止・連用形として機能していることを明示している.1つ目の役割は用言以外にも認められ,とりわけ肝要である.「二」であれば「に」と読むが,「二つ」であれば「ふたつ」と読む必要がある.送り仮名は,音訓の問題 ([2012-03-04-1])や分かち書きの問題 ([2012-05-13-1], [2012-05-14-1]) とも関わっており,特異な書記慣習といってよいだろう.
 しかし,特異とはいっても,古今東西に唯一の慣習ではない.例えば,シュメール人 (Sumerian) によって紀元前4千年紀の終わりに発明されたとされるメソポタミアの楔形文字 (cuneiform) を紀元前2400年頃に継承したアッカド人 (Akkadian) は,シュメール語に基づく表意文字に,アッカド語の屈折語尾に対応する「送り仮名」を送り,アッカド語として読み下していた.この「送り仮名」は phonetic complement と呼ばれている.紀元前1600年までには,アッカド語を記した楔形文字の一種がヒッタイト語 (Hittite) へも継承され,そこでも似たような phonetic complement が付された (Fortson 160) .
 とはいっても,"phonetic complement" あるいは「送り仮名」は,やはり珍しい.そもそも音訓の区別がごく周辺的にしか存在しない英語にあっては([2012-03-04-1]の記事「#1042. 英語におけるの音読みと訓読み」を参照),送り仮名に相当するものなどあるわけがないと思われるが,実は,さらに周辺的なところに類似した現象が見られるのである.一種の略記として広く行なわれている 1st, 2nd, 3rd などの例だ.「二」であれば「に」と読んでください,「二つ」であれば「ふたつ」と読んでください,という日本語の慣習と同じように,1 であれば "one" と読んでください,1st であれば "first" と読んでください,という慣習である.同じ「二」なり 1 なりという(表意)文字を用いているが,送り仮名の「つ」や st の有無によって,発音が予想もつかないほどに大きく異なる.st, nd, rd は,それぞれ,直前の表意文字を「訓読み」してくださいというマーカーとして機能している.
 時々,1st, 2nd, 3rd と「送り仮名」部分が上付きで書かれるのを見ることがある.これは,ちょうど漢文で送り仮名をカタカナで小書きするのに似ていておもしろい.メインは表意文字であり,送り仮名はあくまでサブであるという点が共通している.また,この観点から "(phonetic) complement" という用語の意味を考えると味わい深い.OALD8 によると,complement とは "a thing that adds new qualities to sth in a way that improves it or makes it more attractive" である.送り仮名は,チビだが良い奴ということだろうか.
 だが,日本語の漢字書きで話題になる送り仮名の揺れの問題(「行なう」あるいは「行う」?)は,さすがに英語にはなさそうだ.1t とか 1rst は見たことがない.

 ・ Fortson IV, Benjamin W. Indo-European Language and Culture: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 2004.

Referrer (Inside): [2015-09-24-1]

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2012-05-15 Tue

#1114. 草仮名の連綿と墨継ぎ [punctuation][grammatology][japanese][hiragana][katakana][writing][manuscript][syntagma_marking]

 [2012-05-13-1], [2012-05-14-1]の記事で,分かち書きについて考えた.英語など,アルファベットのみを利用する言語だけでなく,日本語でも仮名やローマ字のみで表記する場合には,句読法 (punctuation) の一種として分かち書きするのが普通である.これは,表音文字による表記の特徴から必然的に生じる要求だろう.おもしろいことに,日本語において漢字をもとに仮名が発達していた時代にも,分かち書きに緩やかに相当するものがあった.
 例えば,天平宝字6年(762年)ごろの正倉院仮名文書の甲文書では,先駆的な真仮名の使用例が見られる(佐藤,pp. 54--55).そこでは,墨継ぎ,改行,箇条書き形式,字間の区切りなど,仮名文を読みやすくする工夫が多く含まれているという.一方,真仮名(漢字)を草書化した草仮名の最初期の例は9世紀後半より見られるようになる.当初は字間の区切りの傾向が見られたが,時代と共に語句のまとまりを意識した「連綿」と呼ばれる続け書きへと移行していった.これは,統語的な単位を意識した書き方であり,syntagma marking を標示する手段だったと考えてよい.また,仮名文とはいっても,平仮名のみで書かれたものはほとんどなく,少数の漢字を交ぜて書くのが現実であり,現在と同じように読みにくさを回避する策が練られていたことにも注意したい.
 連綿と関連して発達したもう1つの syntagma marker に「墨継ぎ」がある.佐藤 (59) を参照しよう.

墨継ぎでは、筆のつけはじめは墨が濃く、次第に枯れて細く薄くなり、また墨をつけて書くと濃いところと薄いところが生じる。その濃淡の配置は大体において文節あるいは文に対応しているのである。連綿もあるまとまりをつけるものであるが、やはり、語あるいは文節に対応していることが多い。これらはある種の分かち書きの機能を果たしていると考えられる。


 ところで,字と字をつなげて書く習慣や連綿は,もっぱら平仮名書きに見られることに注目したい.一方で,片仮名と続け書きとは,現在でも相性が悪い.これは,片仮名が基本的には漢字とともに用いられる環境から発達してきたからである.片仮名は,発生当初から,現在のような漢字仮名交じり文として用いられており,昨日の記事[2012-05-14-1]で説明したように,字種の配列パターンにより文節区切りが容易に推知できた.したがって,syntagma marking のために連綿という手段に訴える必要が特になかったものと考えられる(佐藤, pp. 60--61).

 ・ 佐藤 武義 編著 『概説 日本語の歴史』 朝倉書店,1995年.

Referrer (Inside): [2014-07-13-1]

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2012-05-14 Mon

#1113. 分かち書き (2) [punctuation][grammatology][japanese][kanji][hiragana][writing][syntagma_marking]

 昨日の記事[2012-05-13-1]に引き続き,分かち書きの話し.日本語の通常の書き表わし方である漢字仮名交じり文では,普通,分かち書きは行なわない.昨日,べた書きは世界の文字をもつ言語のなかでは非常に稀だと述べたが,これは,漢字仮名交じり文について,分かち書きしない積極的な理由があるというよりは,分かち書きする必要がないという消極的な理由があるからである.
 1つは,漢字仮名交じり文を構成する要素の1つである漢字は,本質的に表音文字ではなく表語文字である.仮名から視覚的に明確に区別される漢字1字あるいは連続した漢字列は,概ね語という統語単位を表わす.昨日述べた通り,語単位での区別は,書き言葉において是非とも確保したい syntagma marking であるが,漢字(列)は,その字形が仮名と明確に異なるという事実によって,すでに語単位での区別を可能にしている.あえて分かち書きという手段に訴える必要がないのである.漢字の表語効果は,表音文字である仮名と交じって書かれることによって一層ひきたてられているといえる.
 もう1つは,日本語の統語的特徴として「自立語+付属語」が文節という単位を形成しているということがある(橋本文法に基づく文節という統語単位は,理論的な問題を含んでいるとはいえ,学校文法に取り入れられて広く知られており,日本語母語話者の直感に合うものである).そして,次の点が重要なのだが,自立語は概ね漢字(列)で表記され,付属語は概ね仮名で表記されるのが普通である.通常,文は複数の文節からなっているので,日本語の文を表記すれば,たいてい「漢字列+仮名列+漢字列+仮名列+漢字列+仮名列+漢字列+仮名列……。」となる.漢字仮名交じり文においては,仮名と漢字の字形が明確に異なっているという特徴を利用して,文節という統語的な区切りが瞬時に判別できるようになっているのだ.漢字仮名交じり文のこの特徴は,より親切に読み手に統語的区切りを示すために分かち書きする可能性を拒むものではないが,スペースを無駄遣いしてまで分かち書きすることを強制しない.
 日本語の漢字仮名交じり文とべた書きとの間に,密接な関係のあることがわかるだろう.このことは,漢字使用の慣習が変化すれば,べた書きか分かち書きかという選択の問題が生じうることを含意する.戦後,漢字仮名交じり文において漢字使用が減り,仮名で書き表わされる割合が増えてきている.特に自立語に漢字が用いられる割合が少なくなれば,上述のような文節の区切りが自明でなくなり,べた書きのままでは syntagma marking 機能が確保されない状態に陥るかもしれない.そうなれば,分かち書き化の議論が生じる可能性も否定できない.例えば,29年ぶりに見直された2010年11月30日告示の改訂常用漢字表にしたがえば,「文書が改竄され捏造された」ではなく「文書が改ざんされねつ造された」と表記することが推奨される.しかし,後者は実に読みにくい.読点を入れ「文書が改ざんされ,ねつ造された」としたり,傍点を振るなどすれば読みやすくなるが,別の方法として「文書が 改ざんされ ねつ造された」と分かち書きする案もありうる.いずれにせよ,日本語の書き言葉は,syntagma marking を句読点に頼らざるを得ない状況へと徐々に移行しているようである.分かち書きは,純粋に文字論や表記体系の問題であるばかりではなく,読み書き能力や教育の問題とも関与しているのである.
 なお,日本語表記に分かち書きが体系的に導入されたのは室町時代末のキリシタンのローマ字文献においてだが,後代には伝わらなかった.仮名の分かち書きの議論が盛んになったのは,明治期からである.現代では,かな文字文,ローマ字文において,それぞれ文節単位,語単位での分かち書きが提案されているが,正書法としては確立しているとはいえない.日本語の表記体系は,今なお,揺れ動いている.

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2012-05-13 Sun

#1112. 分かち書き (1) [punctuation][grammatology][alphabet][japanese][kanji][hiragana][writing][syntagma_marking]

 分かち書きとは,読みやすさを考慮して,その言語の特定の統語形態的な単位(典型的には語や文節)で区切り,空白を置きながら書くことである.「分け書き」「分別書き」「付け離し」とも呼ばれ,世界のほとんどすべての言語の正書法に採用されている.対する「べた書き」は日本語や韓国語に見られ,日本語母語話者には当然のように思われているが,世界ではきわめて稀である.
 では,日本語ではなぜ分かち書きをしないのだろうか.そして,例えば,英語ではなぜ分かち書きをするのだろうか.それは,表記に用いる文字の種類および性質の違いによる([2010-06-23-1]の記事「#422. 文字の種類」を参照).日本語では,表音文字(音節文字)である仮名と表語文字である漢字とを混在させた漢字仮名交じり文が普通に用いられるのに対して,英語は原則としてアルファベットという表音文字(音素文字)のみで表記される.この違いが決定的である.
 説明を続ける前に,書き言葉の性質を確認しておこう.書き言葉の本質的な役割は話し言葉を写し取ることだが,写し取る過程で,話し言葉においては強勢,抑揚,休止などによって標示されていたような多くの言語機能が捨象される.話し言葉におけるこのような言語機能は,メッセージの受け手にとって,理解を助けてくれる大きなキューである.聞こえている音声の羅列に,形態的,統語的,意味的な秩序をもたらしてくれるキューである.別の言い方をすれば,話し言葉には,文の構造の理解にヒントを与えてくれる,様々な syntagma marker ([2011-12-29-1], [2011-12-30-1]) が含まれている.書き言葉は,話し言葉とは異なるメディアであり,寸分違わず写し取ることは不可能なので,話し言葉のもっている機能の多くを捨象せざるを得ない.どこまで再現し,どこから捨象するのかという程度は文字体系によって異なるが,最低限,特定の統語的単位の区切りは示すのが望ましい.それは,多くの場合,語という単位であり,ときには文節のような単位であることもあるが,いずれにせよ文字をもつほとんどの言語で,ある統語的単位の区切りが syntagma marking されている.
 さて,表音文字のみで表記される英語を考えてみよう.語の区切りがなく,アルファベットがひたすら続いていたら,さぞかし読みにくいだろう.書き手は頭の中にある統語構造を連続的に書き取っていけばよいだけなので楽だろうが,読み手は連続した文字列を自力で統語的単位に分解してゆく必要があるだろう.読み手を考慮すれば,特定の統語的単位(典型的には語)ごとに区切りをつけながら書いてゆくのが理に適っている.その方法はいくつか考えられる.各語を枠でくくるという方法もあるだろうし,(中世の英語写本にも実際に見られるように)語と語の間に縦線を入れるという方法もあるだろう.しかし,なんといっても簡便なのは,空白で区切ることである.これは話し言葉の休止にも相似し,直感的でもある.したがって,表音文字のみで表記される書き言葉では,分かち書きは syntagma marking を確保する最も普通のやり方なのである.
 同じことは,日本語の仮名書きについても言える.漢字を用いず,平仮名か片仮名のいずれかだけで書かれる文章を考えてみよう.小学校一年生の入学当初,国語の教科書の文章は平仮名書きである.ちょうど娘がその時期なので光村図書の教科書「こくご 一上」の最初のページを開いてみると次のようにある.

はる

はるの はな
さいた
あさの ひかり
きらきら

おはよう
おはよう
みんな ともだち
いちねんせい


 一種の詩だからということもあるが,空白と改行を組み合わせた,文節区切りの分かち書きが実践されている(初期の国定教科書では語単位の分かち書きだったが,以後,現在の検定教科書に至るまで文節主義が採用されている).これがなければ「はるのはなさいたあさのひかりきらきらおはようおはようみんなともだちいちねんせい」となり,ひどく読みにくい.そういえば,娘が初めて覚え立ての平仮名で文を書いたときに,分かち書きも句読点もなしに(すなわち読み手への考慮なしに),ひたすら頭の中にある話し言葉を平仮名に連続的に書き取っていたことを思い出す.ピリオド,カンマ,句点,読点などの句読法 (punctuation) の役割も,分かち書きと同じように,syntagma marking を確保することであることがわかる.
 日本語を音素文字であるローマ字で書く場合も,仮名の場合と同様である.海外から日本に電子メールを送るとき,PCが日本語対応でない場合にローマ字書きせざるを得ない状況は今でもある.その際には,語単位あるいは文節単位で日本語を区切りながら書かないと,読み手にとって相当に負担がかかる.いずれの単位で区切るかは方針の問題であり,日本語の正書法としては確立していない.
 それでは,日本語を書き表わす通常のやり方である漢字仮名交じり文では,どのように状況が異なるのか.明日の記事で.

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2012-04-28 Sat

#1097. quotation marks [punctuation][ame_bre][writing][manuscript][printing]

 英語の引用符は,quotation marks, inverted commas, quotes, speech marks などと様々に呼ばれるが,その典型的な機能の1つは直接話法における発話部分の標示である.‘abc’ のような single quotation marks と,“abc” のような double quotation marks の2種類がある.印刷上(ディスプレイ上),開きと閉じの引用符の形態は異なるが,手書きやタイピングではそれぞれ 'abc' や "abc" などと同じ形態になる.
 一般に,アメリカ式では double quotations が普通であり,イギリス式では single quotations が普通であるとされ,引用符の中に含める引用符ではその分布が逆になるというように,英米差が認められるとされる.概ねこの傾向は認められるが,実際には印刷所によりばらつきはあるようだ.
 先日,ある授業で quotation marks の使用の英米差について触れたところ,なぜこの英米差が生じたかという質問があった.英米はしばしば互いに逆のことをするのでその1例だろうと軽く思っていたくらいで,歴史的に問うことを忘れており,盲点を突かれた感じだった.そこで,調べてみた.規範的な使用法の記述は,Quirk et al. (Section III. 21) や Fowler'sThe Chicago Manual of Style など,多くの参考図書で確認できるが,歴史的な発展の経緯については触れているものが少ない.その中で,McArthur (838) が手がかりを与えてくれた.

QUOTATION MARKS [1880s]. . . . Double marks are traditionally associated with American printing practice (as in the Chicago style) and single marks with British practice (as in the Oxford and Cambridge styles), but there is much variation in practice; double marks are more often found in British texts before the 1950s, and are usual in handwriting. Quotation marks are a relatively recent invention and were not common before the 19c. . . . Single quotation marks are tidier, less obtrusive, and less space-consuming than double marks, and for this reason are increasingly preferred in Britain and elsewhere in printing styles, especially in newspapers.


 また,Crystal (283) は,quotation marks について,中世からの発展の経路を略述している.

Derive from the use of a special sign (the diple) in the margin of manuscripts to draw attention to part of the text (such as a biblical quotation); printers represented the marks by raised and inverted commas, and eventually placed them within the line; came to indicate quotations and passages of direct speech (hence the alternative names); choice of single vs double quotes is variable; latter are more common in handwritten and typed material, and in US printing . . . .


 ここまで調べてわかったことは,quotation marks は,中世の写本で注を挿入するなどの種々の用途に用いられた "diple" と呼ばれる特殊記号から発達したものであり,どうやら近現代にかけて double quotation marks として固まりつつあったようだ.それは,手書きやタイピングで受け継がれ,主としてアメリカ式として定着した.一方,1950年代よりイギリスでは印刷上の都合で簡略版ともいえる single quotation が好まれるようになり,概ね定着した.
 diple から quotation marks への発展の経路を詳しく知りたいところだが,それには中世から近代の写本や手書き資料に当たる必要があるだろう.
 英語の punctuation (句読法)の歴史については,[2010-11-23-1]の記事「#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど」を参照.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

Referrer (Inside): [2017-06-13-1]

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2011-10-08 Sat

#894. shortening の分類 (2) [word_formation][graphemics][punctuation][spelling_pronunciation][shortening]

 昨日の記事「#893. shortening の分類 (1)」 ([2011-10-07-1]) に引き続いての話題.Heller and Macris は,音韻上の短化と書記上の短化の相互関係について論じている.例えば,absent without official leaveAWOL /ˈeɪwɑl/ へと短化する過程には,音韻・書記の観点から次の4段階が認められる.

 1. 書記上の短化( A.W.O.L; 発音は absent without official leave のまま)
 2. 音韻上の短化(アルファベット読みで /ˈeɪ ˈdʌbljuː ˈoʊ ˈɛl/ )
 3. 書記上の短化(ピリオドが落ち,AWOL へ)
 4. 音韻上の短化(語として /ˈeɪwɑl/ )

 音韻と書記はこのように循環的に作用し,短化が進んで行くものと考えられる.ただし,この4段階の過程は必ずしも順調に推移するとは限らない.互いの短化が反映されなかったり,過程が途中で止まるということもあり得る.Heller and Macris は,shortening の音韻と書記に関するこの問題を考慮に入れながら,昨日紹介した類型に加えて,もう1つ別次元の類型を提示している (208) .音韻上の短化が,書記上にどのように反映されているか,いないかという基準である.

 A. No mark: he is (for /hiz/)
 B. Abbreviation points (for orthographical shortenings only): C.O.D. (when still read cash on delivery)
 C. Apostrophes (usually the orthographical marks reflecting the earlier phonological shortenings): o'clock

 昨日と今日の記事で概説してきたような詳細で精密な shortening の分類は,ともすれば分類のための分類と取り違えられる恐れがあるが,共時的な形態分析のみならず通時的な英語の研究にとっても重要である.次の点を指摘しておきたい.

 (1) 論理的な分類は,分析に明確な基準を与え,観察を研ぎ澄ませてくれると同時に見落としを防いでくれる役割をもつ.
 (2) 論理的な基準に則れば,共時的変異と通時的変化のタイプが言語によって異なっているのか,共通の傾向があるのかを確かめることができる.
 (3) 英語などの個別言語に限定しても,統一基準によって,shortening の質と量が通時的にどう変化してきたのかを明らかにすることができる.その変化は音韻変化や書記変化とどのように連動しているのか,あるいは連動していないのか,という問題にも迫ることができる.

 ・ Heller, L. G. and James Macris. "A Typology of Shortening Devices." American Speech 43 (1968): 201--08.

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2011-09-14 Wed

#870. diacritical mark [punctuation][alphabet][grammatology][ipa][netspeak][diacritical_mark]

 書き言葉にローマ字を用いる諸言語のなかでも,英語の句読法の大きな特徴は,diacritical mark(発音区別符(号), 分音符号)をほとんど使用しないことである.よく知られているところでは,ドイツ語のウムラウト記号 (ex. ö, ü) ,フランス語のアクサン記号やセディーユ (ex. é, à, î, ç) ,スペイン語のティルダ (ñ),そして国際音標文字 (International Phonetic Alphabet; [2011-07-28-1]の記事「IPA の略史」を参照) があるが,英語には文字の周囲を飾る(ごちゃごちゃさせる)符号はほとんどない.これにより,英語はペンで書くにもキーボードでタイプするにも面倒がない.(自作の hel typist は,IPA に用いられるような diacritical mark をタイプする際の煩わしさを減じるためのツールである.)
 diacritical mark あるいは diacritic という術語は「分離的な,区別する」を意味する διακριτικóς に由来する.術語としての定義は,"[i]n alphabetic writing, a symbol that attaches to a letter so as to alter its value or provide some other information" (McArthur) である.
 現代英語では diacritical mark はほとんど使用されないと述べたが,かつては様々なものが存在したし,現代まで生きながらえたものも,わずかながら存在する.apostrophe, diaeresis, supraliteral dot の3つである.apostrophe ( ' )は,[2010-11-30-1]の記事「apostrophe」で触れたように,3種類の機能を担っている.isi's では発音の違いに関与していることに注意されたい.diaeresis ( ¨ ) は,ほとんど廃用となっているが,naïve, coöperate, zoölogy などの古風な綴字に見られ,連続する母音字が別々の母音として読まれることを示す.
 supraliteral dot ( ˙ ) は ij の上の点である.この点は文字の一部として組み込まれているので diacritical mark として意識されることはないだろうし,そのように呼ぶことが適切かどうかという問題もあるが,起源としては確かに別の文字と「区別する」符号だった.本来は i にも,そこから派生した j にも supraliteral dot は付されていなかったが,minim と呼ばれる縦棒1本きりで構成される文字は周囲の文字の縦棒のなかに埋没されやすかったので,点を付けることで独立した文字であることを明示したのである(関連して,[2009-07-27-1]の記事「なぜ一人称単数代名詞 I は大文字で書くか」を参照).ラテン語においても i の supraliteral dot は12世紀の新機軸であり,決してローマ字発生の当時から付されていたわけではない.ローマ字の i と対照的に,ギリシア文字の ι (iota) は点なしの原形をとどめていることに注意.なお,ij の文字としての分化は15世紀スペイン語における革新で,後に諸言語にも広がったものである(関連して,uv の文字の分化については[2010-05-05-1], [2010-05-06-1]の記事を参照).
 そのほか借用語の caféSchprachgefühl などにおいて,借用元言語の diacritical mark が保持されている例はあるが,これは英語の文字体系に同化しているとはみなせないだろう.
 [2011-09-04-1]の記事「現代英語の変化と変異の一覧」で挙げたが,現代英語の書き言葉の傾向として,句読点の使用が控えめになってきているという流れがある.diaeresis の不使用はもとより,apostrophe の省略も手書きでは頻繁であり,Netspeak などでも普通になってきている.当面,正書法としては保持されてゆくと思われるが,規範意識が変化してゆけば,それすらも確実ではないかもしれない.supraliteral dot に関しては,手書きでは脱落が日常茶飯事だが(特に筆記体を書いていると点を打ち忘れたり,別の文字の上に点を打ってしまうなどが多い),タイプでは点が最初から埋め込まれており脱落の可能性がないので,他の diacritical mark とは一線を画し,堅持されてゆくだろう.
 本記事の話題については,Potter (38fn) に以下のような記述があったので参考にした.

The apostrophe (now much diminished in use), the diaeresis (now obsolescent) and the supraliteral dot (over i and j) are, most fortunately, our only diacritics. The latter is a nuisance. How many writers place their dots precisely where they should be placed? In writing Greek you dot no iotas. No Latin manuscripts have supraliteral dots before the twelfth century when, for the first time, they were used to distinguish i more clearly since it was liable, especially in cursive script, to be taken as one of the strokes of an adjacent letter. An undotted j had begun as a mere final tailed i in Classical Latin in numerals like vıȷ and in words like fılıȷ 'of the son'. The letters i and j were first taken as two separate symbols in fifteenth-century Spanish. They did not become separate letters in English until the seventeeth [sic] century.


 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ Potter, Simon. Changing English. London: Deutsch, 1969.

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2011-07-14 Thu

#808. smileys or emoticons [netspeak][writing][punctuation]

 電子メールにおいて日本語の顔文字は (^_^)V や (>_<) などの直立体のものが多いが,対応する英語の smiley あるいは emoticon は左回りに90度傾けたものが普通である.Crystal (132) より,ジョークも含めて例を列挙しよう.広く一般的に用いられているのは,せいぜい最初の2つくらいである.

Basic smileys
:-)pleasure, humour, etc.
:-(sadness, dissatisfaction, etc.
;-)winking (in any of its meanings)
;-( or :~-(crying
%-( or %-)confused
:-o or 8-oshocked, amazed
:-] or :-[sarcastic
Joke smileys
[:-)User is wearing a Walkman
8-)User is wearing sunglasses
8:-)User is wearing sunglasses on head
:-{)User has a moustache.
:*)User is drunk
:-[User is a vampire
:-EUser is a bucktoothed vampire
:-FUser is a bucktoothed vampire with one tooth missing
:-~)User has a cold
:-@User is screaming
-:-)User is a punk
-:-(Real punks don't smile
+-:-)User holds a Christian religious office
o:-)User is an angel at heart


 90度傾いているのは,キータイプ数を省略できるからだろう.日本風の直立体では顔を描くのに (^^) など最低4文字は必要だが,smiley では :-) など3文字程度ですませられることが多い.
 話し言葉では,話者の微妙な心的態度は身振り,表情,声音または抑揚を含めた超分節的な要素で容易に表わしうるが,書き言葉で同様の心的態度を表現するには別の工夫が要る.大文字使用,空白取り,アステリスクによる強調など句読法 (punctuation) の工夫が多いが,上記のような smiley も効果的である.ここには,話し言葉のもつ伝達能力の一端を書き言葉に持ち込もうとする書き手の表現欲求が感じられる.
 smiley や emoticon のより包括的なリストはネット上を探すといろいろと見つかるが,例えば以下のページを参照.

 - Recommended Emoticons for Email Communication For AIM, AOL, MSN, Yahoo and Others
 - List of Emoticons and Smileys

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

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2010-12-22 Wed

#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2) [lexicography][dictionary][punctuation][inkhorn_term][cawdrey]

 昨日の記事[2010-12-21-1]に引き続き,Robert Cawdrey (1537/38--1604) の A Table Alphabeticall (1604) の話題.この史上初の一般向け英英辞書には,当時の英語やそれが社会のなかに置かれていた状況を示唆する様々な情報の断片が含まれている.A Table Alphabeticall にまつわるエトセトラとでもいうべき雑多な話題を以下に記そう.

 (1) [2010-12-04-1]の記事で引用したように,タイトルページには,この辞書が一般庶民のために難しい日常語を易しい英語で解説することを旨としていることが明言されている.しかし,その下に続く1節も,本辞書の出版意図を探る上で重要なので,初版から引用しよう.

Whereby they may the more easilie and better vnderstand many hard English wordes, which they shall heare or read in Scriptures, Sermons, or elswhere, and also be made able to vse the same aptly themselues.


 ここでは,Cawdrey が辞書編纂者である以前に村の聖職者であったこと,しかも頑固な Puritan として教会当局に目をつけられて裁判沙汰にもなっていたことが関係している.聖書などにも含まれる難語をいかにして一般聴衆によく理解させるかに腐心していた説教師 Cawdrey の一面が垣間見られる.実際に,宗教関係の用語の多くが見出し語として採用されている ( Simpson 15 ) .

 (2) Siemens の分析によると,定義部の文体に,見出し語の品詞ごとに一定の構造が認められる.これは辞書史を論じる上でも重要な視点である.Siemens の論文は Siemens: Lexicographical Method in Cawdrey で閲覧可能.

 (3) 辞書内で使われている綴字には緩やかな標準化の方向が感じられるが ( see [2010-12-04-1] ) ,句読法 ( punctuation ) にはそれが感じられない.例えば,定義を終えるのにピリオドの場合もあれば,セミコロンの場合もあり,何もない場合も多い ( Simpson 22 ) .

 (4) 語源情報が貧弱.同時代の辞書でも語源情報は同じように貧弱であり,その時代としては無理もない.見出し語は無印であればラテン語借用語であることが前提とされ,フランス語やギリシア語の場合には省略記号が付される.このように提供側言語が示されるのみで,それ以上の語源情報は与えられていない.

 (5) Cawdrey 自身,ynckhorne termes を序文 "To the Reader" で攻撃している(赤字は転記者).

SVch as by their place and calling, (but especially Preachers) as haue occasion to speak publiquely before the ignorant people, are to bee admonished, that they neuer affect any strange ynckhorne termes, but labour to speake so as is commonly receiued, and so as the most ignorant may well vnderstand them: . . . .


 (6) 当然ながら見出し語はアルファベット順に並んでいるが,驚くことに当時の読者にとってはこれは自明のことではなかったようだ.というのは,Cawdrey は序文 "To the Reader" で辞書の引き方の指示を次のようにしているからである.

If thou be desirous (general Reader) rightly and readily to vnderstand, and to profit by this Table, and such like, then thou must learne the Alphabet, to wit, the order of the Letters as they stand, perfecty without booke, and where euery Letter standeth: as (b) neere the beginning, (n) about the middest, and (t) toward the end. Nowe if the word, which thou art desirous to finde, begin with (a) then looke in the beginning of this Table, but if with (v) looke towards the end. Againe, if thy word beginne with (ca) looke in the beginning of the letter (c) but if with (cu) then looke toward the end of that letter. And so of all the rest. &c.


 (7) 初版では2543語が見出しに採用されたが,続く1609, 1613, 1617年の版ではそれぞれ3009, 3086, 3264語へと増補された(2版以降に Cawdrey 自身が関わった形跡がないことから,初版直後に亡くなったのではないかと推測されている).John Bullokar の An English Expositor: Teaching the Interpretation of the hardest words used in our language (1616) が現われてからは,A Table Alphabeticall の人気は一気に衰えたようである ( Simpson 29 ) .

 (8) 初版に基づいてHTML化された電子版,本辞書の解説,参考文献が A Table Alphabeticall of Hard Usual English Words (R. Cawdrey, 1604) で入手可能である.

 ・ Simpson, John. The First English Dictionary, 1604: Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall. Oxford: Bodleian Library, 2007.
 ・ Bately, Janet. "Cawdrey, Robert (b. 1537/8?, d. in or after 1604)." Oxford Dictionary of National Biography. Online ed. Ed. Lawrence Goldman. Oxford: OUP. Accessed on 19 Dec. 2010.

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2010-12-01 Wed

#583. ドイツ語式の名詞語頭の大文字使用は英語にもあった [punctuation][prescriptive_grammar][academy][swift][hart][capitalisation]

 現代ドイツ語では文頭や固有名詞のみならず名詞全般を大文字で始める習慣がある.英語に慣れているとドイツ語の大文字使用がうるさく感じられ,ドイツ語に慣れていると英語の小文字使用が気になってくる.どのような場合に大文字あるいは小文字を使用するかという問題は広い意味で punctuation に関する話題といってよいが,名詞の大文字使用 ( capitalisation ) は17,18世紀には英語でも広く行なわれていた.これを最初に勧めたのは16世紀の文法家 John Hart である.Walker (21) が以下のように述べている.

The use of a capital letter at the beginning of important nouns, as recommended by John Hart in 1569, increased during the seventeenth century, but gradually decreased during the eighteenth century, though Murray's Grammar was still using this in describing the 'Colon' and 'Semicolon' in 1834.


 16〜18世紀に英語でこの慣習が発達した背景には,大陸の言語での同様の慣習があった.一方で,18世紀に徐々に衰退していったのは,この大文字使用の慣習に一貫性のないことを規範文法家たちが嫌ったためであるという.というのは,この慣習がすべての名詞を大文字にするのではなく「重要な」一般名詞を大文字にするというルースな慣習だったからである.18世紀の「理性の時代」 ( the Age of Reason ) に生きた文法家には受け入れがたい慣習だったのだろう.
 大文字使用の最盛期は1700年前後だったが,この時代を代表するのは Gulliver's Travels の著者にして,英語を統制するアカデミーの設立を訴えた Jonathan Swift (1667--1745) である ( see [2009-09-08-1], [2009-09-15-1] ) .Swift の文章では名詞の大文字の慣習が完全に守られている.例えば,Swift の有名なアカデミー設立の嘆願書 A Proposal for Correcting, Improving and Ascertaining the English Tongue (1712) では,名詞はすべて大文字で書かれている.

 ・ Walker, Julian. Evolving English Explored. London: The British Library, 2010.
 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 67

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2010-11-30 Tue

#582. apostrophe [punctuation][plural]

 [2010-11-23-1]の記事で概説したように,現代的な punctuation の使用の歴史は古くない.「'」で表わされる記号 apostrophe の歴史も比較的新しい.この記号は16世紀にフランス語から借用され,17世紀に広まった.以来,apostrophe には3つの用法が発展してきた.

 (1) 文字・数字の省略: cannotcan't, governmentgov't, I amI'm, neverne'er, 1999'99
 (2) 所有格: boy's, boys', Jusus'
 (3) 文字や数字の複数形: two l's, three 7's, four MP's

 元来は (2) と (3) の用法も,(1) の文字の省略の用法に起源をもつとされる.所有格語尾や複数形語尾の -s は中英語の -es (さらには古英語 -es や -as)に由来し,<e> で表わされる母音を伴っていた.この e を省略した表記として用いられたのが -'s だった.したがって,この省略表記は所有格にも複数形にも同様に適用され得たが,複数形では (3) に挙げた特殊な場合を除いては徐々に使用されなくなった.所有格でも,やがて e の省略という本来の役割から独立し,歴史的に e を欠いていた men's などにも付加され,現在の純粋に所有格を表わす用法へと発展していった.現在の apostrophe の規範は18世紀になってようやく確立したもので,それ以前はいまだ体系的に用いられていなかった.いや,それ以降も現在に至るまで,合理的な規範は完全には確立していないといってよく,英語使用者のあいだに混乱が続いている.
 例えば[2009-11-11-1]の記事でみたように itsit's に見られる apostrophe の使用に関する混乱は日常茶飯事である.its, hers, ours, yours, theirs など代名詞の所有格や所有代名詞では apostrophe をつけないという特例があるし,one's のような不定代名詞の場合はやはり apostrophe をつけるというさらなる特例もある.銀行や店の屋号などでは Harrods, Lloyds には apostrophe を付加しないが,Macy's には付加するといった混乱振りである.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 203

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2010-11-23 Tue

#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど [emode][punctuation][printing]

 昨日の記事[2010-11-22-1]に引き続き,punctuation 「句読法」について.punctuation の歴史は書き言葉の歴史と同じだけ長いと考えられるが,本記事では現代英語の punctuation の直接の起源と考えられる近代英語期まで遡る程度で満足することにしたい.
 現在英語で用いられている主要な punctuation が徐々に出現し,現代的な慣用が発達してきた最初期と考えられるのは15,16世紀のことである.それ以前の中世でも写本の読み書きが行なわれており,punctuation 自体は様々な形で活用されていた.むしろ,印刷でなくすべて手書きであるために現代とは異なる数々の特殊な punctuation が存在していた.実に現代にまでに失われた句読記号は30を超えると言われる ( Crystal, p. 282 ) .
 しかし,現代的な punctuation の発達には印刷術の発明を待たなければならなかった.1475年,Caxton により英語印刷が始まると ( see [2009-12-24-1] ) ,綴字や punctuation が次第に固定化の動きを示すようになる(逆の議論については[2010-02-18-1]の記事を参照).この時期に period, colon, semicolon などの慣用が広まっていった. しかし,固定化の動きといっても中世の多様性に比べればという程度であり,決して体系的ではなかった.また,何よりも punctuation の基本的な発想はいまだ prosodic あるいは oratory だった.17世紀以前の punctuation は,いまだに主として韻律,雄弁,修辞に動機づけられており,効果的な音読を可能にするための便法という色彩が強かったのである(昨日の記事[2010-11-22-1]で述べた機能 (2) に相当).
 ところが,17世紀に入ると punctuation は prosodic な発想から現代風の grammatical な発想へと変容する(昨日の記事の機能 (1) に相当).これには,劇作家・文法家 Ben Jonson (1572--1637) の功績が大きい.17世紀以降,exclamation mark, quotation marks, dash, apostrophe などの新句読記号も続出し,18世紀末までには英語の punctuation は現在の組織に達した.18,19世紀には punctuation を多用する heavy style が一般的だったが,現在ではあまり punctuation を用いない light style が主流である.電子メール文化などを背景に,現在も新たな punctuation の体系が生まれつつある.現代的な英語の punctuation の歴史はたかだか500年.今後も新たな句読法が育ってゆくことになるだろう.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2010-11-22 Mon

#574. punctuation の4つの機能 [punctuation]

 現代英語の書き言葉では punctuation 「句読法」の果たす役割は非常に大きい.period, comma, colon, semicolon, hyphen, apostrophe, question mark, exclamation mark, quotation marks をはじめ,asterisk, italics, bold type, capitalisation, indentation なども広く punctuation の構成要素と考えてよい.MLA Handbook for Writers of Research PapersThe Chicago Manual of Style などでは句読法の規範が細かく示されており,実際に物書きは句読法にたいそうこだわるのが通例である.そこまで厳しくせずとも,一般の書き手や読み手も,句読法が書きやすさや読みやすさに関係することを知っており,それなりの役割を果たしていることを認識している.
 Crystal (278) によれば,punctuation には少なくとも4つの機能がある.

 (1) grammatical: "to enable stretches of written language to be read coherently, by displaying their grammatical structure"
 (2) prosodic: "representing the intonation and emphasis of spoken language"
 (3) semantic/rhetorical: "highlight semantic units or contrasts present in the text but not directly related to its grammatical structure"
 (4) semantic/graphic: "add a semantic dimension, unique to the graphic medium, which it would be difficult or impossible to read aloud"

 punctuation といってすぐに思いつくのは,(1) の grammatical な用途だろう.文という統語的な単位を区切るのに period を用いる,等位関係を示したり語句を列挙するのに comma を用いる,語と語を区別するのに space を用いるなどが punctuation の典型的な用法だろう.
 (2) の prosodic な機能とは,question mark で上昇調を示すであるとか,exclamation mark で語気を表現するなどである.
 (3) の semantic/rhetorical は広い意味で文体的な機能と考えてもよいかもしれない.semicolon で節を列挙することによって演説調を表現したり,韻文で行分割や stanza 形式の表示法を利用するなどがこれに当たる.
 (4) は話し言葉に対応するものがないが意味に貢献する機能で,「いわゆる」を表わす scare quotes や,強調を示すために *VERY IMPORTANT* などとアステリスクで挟んだり大文字化する技法などが例となる.
 電子メール文化が徐々に熟してきて punctuation にも様々な新しい慣用が出現しつつある.言語の変化は,言語を構成する主要な components ( see [2010-05-09-1] ) のみならず,punctuation のような周辺的な component でも確実に生じている.では,過去にはどうだったか.もちろん,英語史においても punctuation は常に変化してきた.その概要は明日の記事で.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2009-11-11 Wed

#198. its の起源 [spelling][personal_pronoun][punctuation][gender][genitive]

 昨日の記事[2009-11-10-1]で,人称代名詞 its の用法について触れた.そこに挙げた Shakespeare (First Folio ed.) からの引用では,its ではなく it's という綴字が用いられていることに気づいただろうか.First Folio 版を全体としてみると,apostrophe ありの it's が9例,なしの its が1例,確認される.当時は it's のほうが頻度が高かったことになる.
 apostrophe の有無は別として,そもそも its が所有代名詞として使われるようになったこと自体が,比較的あたらしい.its の初例は16世紀末であり,それ以前の古英語・中英語の時期は,his が用いられていた.この his は,[2009-09-29-1],[2009-10-25-1]でみたように,由緒正しい三人称単数中性の形態であり,三人称単数男性 his の転用というわけではない.同様に,歴史的には him は三人称単数男性の与格形であるとともに三人称単数中性の与格形でもあった.
 だが,中英語期に,文法性 ( grammatical gender ) が廃れて自然性 ( natural gender ) が名詞・代名詞のカテゴリーとして確立してくると,男性(人)と中性(非人)のものとで同じ代名詞の形態が共有されていることに違和感が生じてくる.実際に,Chaucer の代名詞体系 [2009-10-25-1] では,古英語で中性与格形だった him は姿を消している.そして,近代英語期にずれこみはしたが,違和感解消の圧力は,中性属格形だった his にも及んだ.中性の his を置き換えたのは,it という主格形に名詞の所有格語尾として定着していた -s を付けようという単純な発想に基づいて作られた its だった.
 中性としての himhis の消失・置換のほかにも,人と非人の区別を明確にしようという圧力は,先行詞に応じて関係代名詞 whowhich を使い分けるようになった過程にもみられる.これも,近代英語期に生じた過程である.
 以上の背景で its は16世紀末に現れ,17世紀中にはほぼ確立した.しかし,初期の綴字である it's も19世紀初まで散発的にみられたし,誤用として現在にまで根強く残っている.it isit has の省略形としての it's と,代名詞の所有格の its は,発音が同じこともあり,現在でも英語母語話者にとって最もよく間違えられる綴字の一つである.このよくある間違いについてはこちらの記事も要参照.

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2009-07-27 Mon

#91. なぜ一人称単数代名詞 I は大文字で書くか [palaeography][spelling][flash][punctuation][capitalisation]

 先日,前期の最終授業時に,話しの種にと思い紹介した内容.そのときに使用したスライドを本ブログに掲載してほしいと要望があったので,Flash 化した「Why Capital "I" ?」を載せてみた.下のスクリーンで映らない,あるいは PDF で見たいという方は,こちら.



 本当は,写本から字体をいろいろ挙げ,実例で確認するといいのだろうが,省略.

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