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etymology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-06-06 08:58

2020-01-03 Fri

#3903. ゲルマン名の atheling, edelweiss, Heidi, Alice [anglo-saxon][oe][onomastics][personal_name][etymology][german][patronymy]

 昨日の記事「#3902. 純アングロサクソン名の Edward, Edgar, Edmond, Edwin」 ([2020-01-02-1]) に引き続き,人名の話題.以下,主として梅田 (13) より.
 標題の単語や人名はいずれも語源素として「高貴な」を意味する WGmc *aþilja にさかのぼる.その古英語の反映形 æþel(e) (高貴な)は重要な語であり,これに父称 (patronymy) を作る接尾辞 -ing を付した æþeling は,現在でも atheling (王子,貴族)として残っている.
 æþel は,アングロサクソン王朝の諸王の名前にも多く確認される.「#2547. 歴代イングランド君主と統治年代の一覧」 ([2016-04-17-1]) を一瞥するだけでも,Ethelwulf, Ethelbald, Ethelbert, Ethelred, Athelstan などの名前が挙がる.しかし,昨日の記事でも述べたように,ノルマン征服後,これらの名前は衰退していき,現代では見る影もない.
 ところで,ドイツ語で「高貴な」に対応する語は edel であり,「貴族」は Adel である.edelweiss (エーデルワイス)は「高貴なる白」を意味するアルプスの植物だ.形容詞に名詞化語尾をつけた形態が Adelheid であり,古高地ドイツ語の Adalheidis にさかのぼる.これは女性名ともなり,その省略された愛称形が Heidi となる.アニメの名作『アルプスの少女ハイジ』で,厳しい執事のロッテンマイヤーさんは,ハイジのことを省略せずにアーデルハイドと呼んでいる.なお,オーストラリアの South Australia 州の州都 Adelaide は,このドイツ語名がフランス語経由で英語に取り込まれたものである.
 一方,Adalheidis は,フランス語に取り込まれるに及び,短縮・変形したバージョンも現われた.AlalizA(a)liz である.これが中英語に借用されて Alyse や,近現代の Alice となった.もう1つの女性名 Alison は,フランス語で Alice に指小辞が付されたものである.
 「王子」「エーデルワイス」「ハイジ」「アリス」が関係者だったというのは,なかなかおもしろい.

 ・ 梅田 修 『英語の語源事典』 大修館書店,1990年.

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2020-01-02 Thu

#3902. 純アングロサクソン名の Edward, Edgar, Edmond, Edwin [anglo-saxon][oe][onomastics][personal_name][etymology][norman_conquest]

 「#2364. ノルマン征服後の英語人名のフランス語かぶれ」 ([2015-10-17-1]) でみたように,古英語期,すなわち1066年のノルマン征服より前の時代には当たり前のようにイングランドで用いられていたアングロサクソン人名の多くが,征服後に一気に衰退した.標題の名前は,生き残った純正アングロサクソン男性名の代表例である(「#2547. 歴代イングランド君主と統治年代の一覧」 ([2016-04-17-1]) よりアングロサクソン諸王の名前を確認されたい).
 いずれも複合語であり,第1要素に Ed- がみえる.これは古英語の名詞 ēad (riches, prosperity, good, fortune, happiness) を反映したものである(すでに廃語).「裕福」という縁起のよい意味だから人名には多用された.Edwardēad + weard (guardian) ということで「富を守る者」が原義である.Edgarēad + gār (spear) ということで「富裕な槍持ち」といったところか.Edmond/Edmundēad + mund (protection) ということで「富貴の守り手」ほどの意となる(この第2要素は Raymond, Richmond にもみられる).Edwineēad + wine (friend) ということで「富の友」である(この第2要素は Baldwin にもみられる).
 なお Edith は女性名となるが,第1要素はやはり ēad である.これに gūþ (war) が複合(および少し変形)した,勇ましい名前ということになる.
 現代に生き残るこのような純アングロサクソン名(残念ながら多くはない)を利用して,古英語の単語や語源について学ぶのもおもしろい.

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2019-12-30 Mon

#3899. ラテン語 domus (家)の語根ネットワーク [word_family][etymology][latin][loan_word]

 昨日の記事「#3898. danger, dangerous の意味変化」 ([2019-12-29-1]) で触れたように,danger, dangerous の語源素はラテン語の domus (家,ドーム)である.ラテン語ではきわめて基本的な語であるから,そこから派生した語は多く,英語にも様々な経路で借用されてきた.以下に関連語を一覧してみよう.昨日みたように,「家」「家の主人」「支配者」「支配(力)」「危険」など各種の意味が発展してきた様子が伝わるのではないか.

condominium, dame, Dan, danger, demesne, Dom, domain, dome, domestic, domicile, dominant, dominate, domination, domineering, dominical, dominion, domino, dona, duenna, dungeon, madam, madame, mademoiselle, Madonna, majordomo, predominate


 「危険」と関連して「損害」の意味を含む damage, damn, condemn なども,domus と間接的に関わる.これらの語は,直接的にはラテン語の別の語根 damnum "loss, injury" に起源をもち,その後期ラテン語形である damniārium を経由して発展してきたと考えられるが,そこには後者の語形と *dominiāriu(m) "dominion" との混同も関与していたようだ.
 ラテン語からさらにさかのぼれば,印欧祖語 *dem(ə)- "house, household" にたどりつく.ここから古英語経由で timber (建築用木材),古ノルド語経由で toft (家屋敷),ギリシア語経由で despot (専制君主)なども英語語彙に加わっている.

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2019-12-29 Sun

#3898. danger, dangerous の意味変化 [semantic_change][french][loan_word][loan_translation][etymology]

 英単語 danger (危険)は,古仏語で「支配(力)」を意味した dangier, dongier を借用したものだが,これ自体は同義の俗ラテン語 *dominiāriu(m) にさかのぼるとされる.さらには同義のラテン語の dominium に,そして dominus (主人,神)にまでさかのぼる.もう一歩さかのぼると,語源素は domus (家,ドーム)という基本語である.全体としていえば,「家の主人」→「支配(力)」→「危険」のように意味変化を遂げてきたことになる.
 英語での danger の初出は,初期中英語期,1200年頃の修道女マニュアル Ancrene Riwle であり,そこでは「支配(力),傲慢」の意味で用いられている.古いイディオム to be in danger of は「?の支配下で」を意味した(cf. 古仏語の estre en dangier "to be in the power, at the mercy, of someone").一方,現代風の「危険」という発展的語義が確認されるのは,後期中英語期,1378年頃の Piers Plowman からである.
 形容詞 dangerous のたどった経緯も,名詞 danger とほぼパラレルである.英語での初出はやはり Ancrene Riwle であり,支配者にありがちな性格として「扱いにくい,傲慢な」を意味した.それが,中英語末期にかけて現代的な「危険な」の意味を発達させている.名詞にせよ形容詞にせよ,古仏語から英語に借用された当初は「支配(力)」を意味していたものが,中英語期の間にいかにして「危険」の意味を発展させたのだろうか.
 シップリー (198--99) によれば dangerous の語源と意味変化の経緯は次の通りである.

 タンジュローズ (Dangerose) という名の魅力的な貴婦人が,かつてパリ北西郊外の都市アニエールの領主ダマーズ (Damase) にしつこく言い寄られて不倫を犯した.二人はル・マン (Mans) のティグ (Thigh) という名の第37代大司教の破門にもかかわらず同棲した.ある日,この領主が川を渡っていると,激しい嵐が起こった.稲妻に打たれ,水に飲まれ半焼死・半溺死の状態で地獄に落ちた.ダンジュローズは嘆き悲しんで大司教の足元に身を投げて許しを請い,その後,厳しい隠遁生活をおくった.しかし,彼女の話は広く伝わってしまった.それでフランス人は危機に瀕すると,"Ceci sent la Dangerose." (ダンジュローズのようだ)と言った.フランス語 dangereux, dangereuse (危険な)が派生したとされる.
 この訓戒話は,danger (危険)の一般的に認められている語源説と比べると信憑性に欠ける.danger は,dominion (支配権)と同語源で,ラテン語 dominium (支配,所有)から,後期ラテン語 dominarium (支配,権力),古フランス語 dongier (権力,支配)を経て中英語に借入された.in danger of と言えば,当時の意味は「権力や支配権の思いのままにされる」であった.そうすれば今日の「危険」の意味は,領主に対して領民がいかに恐れを抱いていたかを示している.権力者はまさに被支配者に「危険」をもたらすものだった.


 引用の第1段落は,シップリーの好みそうな民間語源 (folk_etymology) 的な逸話として横においておくとして,第2段落で述べられている意味の展開が実に興味深い.権力者の「支配(力)」は,すなわち庶民にとっての「危険」であるということだ.権力のある支配者は得てして「気位が高い」し「扱いにくい」ものである.度が過ぎれば,下で仕える者にとって「危険な」存在となるだろう.この語の意味変化は,いつの世でも支配・権力とは危険なものだということを思い起こさせてくれる.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

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2019-11-10 Sun

#3849. 「綴字語源学」 [etymology][lexicology][spelling][spelling_pronunciation_gap][writing][grammatology][orthography][standardisation][terminology]

 語源学 (etymology) が単語の語源を扱う分野であることは自明だが,その守備範囲を厳密に定めることは意外と難しい.『新英語学辞典』の etymology の項を覗いてみよう.

etymology 〔言〕(語源(学)) 語源とは,本来,語の形式〔語形・発音〕と意味の変化の歴史を可能な限りさかのぼることによって得られる文献上または文献以前の最古の語形・意味,すなわち語の「真の意味」 (etymon) を指すが,最近では etymon と同時に,語の意味・用法の発達の歴史,いわゆる語誌を含めて語源と考えることが多い.このように語の起源および派生関係を明らかにすることを目的とする語源学は,語の形態と意味を対象とする点において語彙論 (lexicology) の一部をなすが,また etymon を明らかにする過程において,特定言語の歴史的な研究 (historical linguistics) や比較言語学 (comparative linguistics) の方法と成果を用い,ときに民族学や歴史・考古学の成果をも援用する.従って語源学は,単語を中心とした言語発達史,言語文化史ということもできよう.


 上記によると,語源学とは語の起源と発達を明らかにする分野ということになるが,そもそも語とは形式と意味の関連づけ(シニフィアンとシニフィエの結合)によって成り立っているものであるから,結局その関連づけの起源と発達を追究することが語源学の目的ということになる.ここで語の「形式」というのは,主として発音のことが念頭に置かれているようだが,当然ながら歴史時代にあっては,文字で表記された綴字もここに含まれるだろう.しかし,上の引用では語の綴字(の起源と発達)について明示的には触れられておらず,あたかも語源学の埒外であるかのように誤解されかねない.語の綴字も語源学の重要な研究対象であることを明示的に主張するために,「綴字語源学」,"etymology of spelling", "orthographic etymology" のような用語があってもよい.
 もちろん多くの英語語源辞典や OED において,綴字語源学的な記述が与えられていることは確かである.しかし,英単語の綴字の起源と発達を記述することに特化した語源辞典はない.英語綴字語源学は非常に豊かで,独立し得る分野と思われるのだが.
 (英語)語源学全般について,以下の記事も参照.

 ・ 「#466. 語源学は技芸か科学か」 ([2010-08-06-1])
 ・ 「#727. 語源学の自律性」 ([2011-04-24-1])
 ・ 「#1791. 語源学は技芸が科学か (2)」 ([2014-03-23-1])
 ・ 「#598. 英語語源学の略史 (1)」 ([2010-12-16-1])
 ・ 「#599. 英語語源学の略史 (2)」 ([2010-12-17-1])
 ・ 「#636. 語源学の開拓者としての OED」 ([2011-01-23-1])
 ・ 「#1765. 日本で充実している英語語源学と Klein の英語語源辞典」 ([2014-02-25-1])

 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.

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2019-11-08 Fri

#3847. etymon [terminology][etymology][borrowing][lexicology][word_formation][morphology]

 単語の語源に関する話題で用いられる標題の術語は,少し分かりにくいところがある.定義を求めて OED をはじめ各種の辞書に当たってみたが,最も有用なのは『ジーニアス英和大辞典』なのではないか.以下のようにある.

1 (派生語のもとである)語の原形,(派生語[複合語]の)形成要素.
2 (ある単語の)原形《現代英語の two に対する古英語の twā》.
3 外来語の原語.


 特に定まった訳語もなく「エティモン」(複数形は etyma 「エティマ」)と呼ぶほかないが,試みに訳を当てるなら「語源素」ほどだろうか.
 『ジーニアス英和大辞典』で3つの語義が挙げられているとおり,etymon は「語源」の複数の側面に光を当てており,それゆえに少々分かりにくくなっているが,実はとても便利な用語である.「○○という単語の語源は何?」という日常的な質問に対する様々な答え(方)に対応しているからだ.
 たとえば「poorly という単語の語源は何?」という質問について考えよう.これに対する1つの答え(方)は「中英語の poureliche に遡る」というものだ.現代よりも前の時代から祖先形が確認されれば,それを持ち出して,poorly の語源だといえばよい.poureliche は,"the Middle English etymon of poorly" ということになる.これは先の語義2に対応する.
 もう1つの答え(方)は,poorly は形容詞 poor と副詞形成接尾辞 -ly からなっていると説明するやり方である.これは一見すると語源の説明というよりは語形成の説明のように思われる.それでも語源に関する一般的な質問において求められている情報にはちがいない.実際,中英語の poureliche は当時の形容詞 poure と副詞形成接尾辞 -liche を組み合わせて造語したものであるから,これは厳密な意味においても語源の説明になっているのである.この場合,poor/poure と -ly/-liche は,各々が etymon ということになる(つまり "the two etyma of poorly").これは先の語義1に対応する.
 最後に,poorly の1つ目の etymon である poor/poure に注目して質問に答えると,「この単語はフランス語 povre を借用したもの」ということになる.借用語の場合には,借用元言語とその言語での形態(「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) の用語に従えば "model")を示すのが典型的な答え方である.ここで説明しているのは "the French etymon of poor" ということになる.これは先の語義3に対応する.
 もちろん,フランス語 povre は,これ自体がさらに古い語源をもっており,ラテン語 pauper や,さらに印欧祖語 *pau- にまで遡る.これらの各々も,語義2の意味での etymon という言い方ができる.さらに,2つ目の etymon である接尾辞 -ly/-liche のほうに注目するならば,それはそれとしてゲルマン祖語に遡る豊かな歴史と etymon をもっている.究極の etymon に至るまで etymon の連鎖が続くというわけだ.
 etymon はこのように様々な単位を指して用いられるので少々分かりにくく,それゆえ訳語も定まらないのかもしれない.しかし,「○○という単語の語源は何?」という問いに対してどのように答えたとしても,その答えはたいてい etymon/etyma の指摘となっているはずである.このように etymon をとらえると,むしろ分かりやすくなるのではないか.

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